2月1×日　曇り
「デデ？デデデ！？」
紫の煙が水槽いっぱいに溜まり始めた頃に
やっと実装石は己の今いる現状がおかしくなっていることに気付く。

「デギャー！デギャー！・・・デッ！？デデ！？！？」
（何デス！この煙は！クソみたいに臭いデス！
　早く何とかしろデ・・・お・・・お腹が・・・
う・・・産まれそうデス・・・）

2月1×日　晴れ
早速塗ってみよう。

「デデ！？デギャー！！」
（デデ！？デギャー！オマエは上げ落しをする
ギャクタイハだったデスか！？
お腹の子供はやるからワタシを見逃させてやる
デスー！！）

無駄に暴れる実装石。
手足をちぎってもいいのだが、袖が汚れるので
『何言っているんだ？化粧に決まっているだろ？
それとも化粧を理解できないのか？』
「デデ？デスデスデッスン！」
（デデ？ばっバカにするなデス。
わかっていたに決まっていたデッスン！
早くワタシを美しくするデッス！）

・・・数分後。
「デプププ」
（さすがワタシ。舞妓風の化粧もバッチシデス。
　デププ。自分の美しさが恐ろしいデス）
隈取を舞妓と勘違いしてご満悦の実装石。
私も目の影響か、実装石の腹から出る紫の煙でご満悦。
双方幸せです。

口の中に広がる鉄っぽい味。
手塩にかけて育ててきたレチカの肉。あの仔の顔を見たらいてもたってもいられなくなった。
「美味しい…」
今までなんでこんなに美味しいものを食べずにいたんだろうか。
そんな思いが湧いてくる。だけど…
「お腹空いた」
周りを見るとご馳走がたっぷり。

「デス、デスデスデー」（この仔は賢い仔デス、飼って欲しいデス）

「レチャ？」
ママの顔がちかづいてきたレチ。
きっと可愛いワタシにキスするつもりレチ。
レププ…　後でステーキを要求するレチュよ

最近、公園で実装石に餌付けをする擁護派の中に奇妙な奴がいるという噂がある。
緑色の服で身を包んだ気合の入った擁護派のオバサンはたまに見かけるのだが、緑のスーツに身を包んだ奇妙な擁護派が出没するそうだ。
しかもその緑のスーツの目撃証言は人相が一致しなかったり、目撃者が顔の特徴を憶えていなかったりする事が多くいまいちはっきりとしない。ただ共通するのは『実装石の服のような緑のスーツ』と言う事だけだそうだ。
しかも、何故か虐待派による実装石駆除のボランティアで見かけたとか飼い実装を襲う虐待派を制止しただとか行動が一致しない証言が多い。
偶然、記者は実装石餌付けボランティアの人が撮影した写真を入手したのだが手だけしか写っていなかった。（写真参照）
同記者は餌を貰った実装石に取材を試みようとしたが実装石の判別ができなく実装石駆除ボランティアによる一斉駆除があったため取材を断念している。
（週間現在「コラム・実装石古今東西」より抜粋）

「レーレーレチチー♪レーレーレー♪」
レチカは可愛くなってご機嫌だ。家まであと少しだし、何事も無くてよかった…
…
（そういえば、この仔があんまり騒いだから昼ごはん食べた無かったなぁ。ちょっとお腹すいたかも）

「お嬢ちゃん、パクッといっちゃいなよ」
頭に直接響くような不気味な声。
振り向くと壁の影から誰かがこちらを覗いていた。

「レチャ？　アマアマなくなっちゃったレチ」
夢中で飴を舐めていたので時間がどれくらいたったのかも、自分が何をされていたのかも忘れている親指。
この仔はレチカ。私の飼い実装だ。
今日は金髪にしたいというので、愛護派オーナーの美容院に連れてきてあげたのだ。

「綺麗に染まりましたね〜。としさんありがとー」
「いやいや、実装石が美を求めるのは当然のことだからね。それよりあきちゃん大丈夫？たぶん噂だと思うけど気をつけてね」
「あー平気ですよー、へいきへいきー」
内心、来る時はビビってた。本当にあれが来るんじゃないかと

勢いよく落ちてくる仔実装。しかし成体であればチャッチできないこともない。
「さぁ、いま助けるデ」

鉄橋の上にたたずむ黒い影。
「ん、いたいた〜。お〜い実装ちゃ〜ん、金平糖！うちでは飼ってあげられないからセンベツにとっておいてね〜」
金平糖を袋から鷲掴み、ピッチングするババア。
距離はある。だから強く投げた。
金平糖は重力に引っ張られどんどん加速する。元の速度も速いのだが。
「ﾏﾏｰｰｰｰ!!」
親実装が仔実装に手をかけようとしたその時、
「デギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア！！！！！！」
金平糖が腹に直撃する親実装。ババアに悪意は無い。
（今度はいったいなんデ…　ス…）

「デジャァァァァ！！　お前は最後の仔デス！躾ければ賢い仔に戻ることが出来るデスーー！！」
どんどん加速して落ちてくる糞蟲。
「ﾃｪｪｪｪｪｪｪｪ!!ﾏﾏｧｧｧｧｰｰｰｰｰｰｰ!!」
糞蟲は改心したのかしなかったのか。とにかくニンゲンの恐ろしさだけは分かったはずだ。
「今助けてあげるデスーーーーーーーーーー！！」

「う〜ん、あたしゃ元々あの子達を飼ってあげるつもりだったんよねぇ…　親の方は賢そうだったから金平糖でもあげた方がよかったかねぇ？」
冷静になり、愛護派の自分に戻ったババアは引き返す

「ﾃﾞﾁﾞｬｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱｱ!!!!!!!」
何百回もリフティングされ、それでも死に切れない糞蟲。
（ﾃｪｪｪｪ…　何でﾜﾀﾁがこんな目に。痛いﾃﾁ、怖いﾃﾁ…）
フラフラと天を舞い落ちる糞蟲。
「がーっはっはっはっはっは！　そろそろ飽きてきたねぇ。そうだねぇ…　あと七回で殴るの止めてやるよ！」
運命のカウントダウン。ラッキーセブンかアンラッキーセブンか、糞蟲が墜落するまであと少し。

「デスゥ…　もう私の仔はあの仔しかいないデス…　でもあの仔は糞蟲デス…」
ここで助ければ糞蟲は数日で回復するだろう。しかし、糞蟲を助ければ自分が破滅する。
かといって、愛護派あふれる温室公園育ちの親実装は子供を見捨てる決心がつかない。
「ﾏﾏｧｰｰｰｰｰｰｰ!!もう悪いことしないﾃﾁｰ!反省してるﾃﾁー!!」

「シャアァァァァァァァ！フィニィィィーーッシュ！！」
ババアの姿は疾風と共に消えた。

　　　(ﾏﾀﾞﾂﾂﾞｸ)