タイトル:【な無】 野良実装石駆除業務 (カミサマ続編)
ファイル:こちら市民相談室 その1.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:228 レス数:1
初投稿日時:2006/11/25-11:48:17修正日時:2006/11/25-11:48:17
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こちら市民相談室 その1
(「カミサマ」続編)




「さて、青芝公園の実装石を駆除しなくてはならなくなったのだが…。
 使える人間は俺を入れて3人か。はぁ…。」
俊之は2人の部下の前で、ため息をついた。

「市議会に愛護派が多くなったせいで、予算が大きく削られましたからねぇ。」
 でも、3人残っただけでもたいした物じゃないですか?」
と、俊之の部下の一人、林田。

「そうそう、金額を見たときには、電話番しか置けねぇって思いましたもん。
 あれ、どうやったんです?」
と、もう一人の部下、斉藤。


「それは、俺の友人を実装石公園の管理人に推薦したからだよ。
 この部署がかろうじて潰れなかったのは、
 愛護団体と取引して得た金のおかげというのは皮肉だよな。
 …いや、潰れた方が良かったかもしれん。
 3人の人員で、期限は1日。
 どう考えても、駆除しきれないよなぁ。また、苦情が来るだろうな。」

「で、苦情が多くなると、せっかく存続したここが潰れると。
 この市では、駆除が法的に認められている組織はここだけになりましたからね。
 あとは、愛護団体の思うがままか。」

「愛護の連中って、地域を荒廃させるつもりなんスか?」

「愛護派は現実が見えていないだけさ。
 連中の思う実装石は、飼い実装だ。
 薄汚れた野良実装ではない。
 野良実装の起こす害を理解していないし、
 市民の苦情の矢おもてに立たされる我々の事も分かっていない。」

「僕らは、批難を浴びるのは仕事だから仕方ないとは言え、
 仕事を遂行できる人員が足りないのが痛い。
 金か。金が無いのがまずい。」

「日本人は愛とか平和とかの言葉に弱いですから。
 『可哀想な実装ちゃん』のための募金には喜んで参加するが、
 実装石駆除の予算は出し渋るんスよ。」

「今さら嘆いても仕方ない。
 3人でどうにか公園の野良実装を完全駆除する方法を考えろ。」

3人は同時にため息をついた。



ここは、市役所の一室。
入り口には市民課分室のプレートがあった。

もともと、市民課分室は市民の苦情を受け付ける『市民相談室』という名前が付いた
部署であったのだが、この町に棲み着く野良実装の数が増えてくると、
市民の苦情は実装石がらみの物ばかりになった。

実装石の起こす問題に対応する部署、
その部署はいつしか『実装班』と呼ばれていた。



実装班は最初はうまく機能していた。
公園の野良実装石の駆除も、保健所、そして市民ボランティアと協力して行われた。

それがおかしくなったのは、市長が代わってからであった。

市議会が愛護寄りの意見で占められるようになった。
実装石の駆除には複雑怪奇な書類の手続きが必要になった。
市民オンブズマンに愛護団体が食い込んできた。
保健所の役目は持ち込まれた飼い実装石の焼却処分に限定された。
駆除に参加するボランティアには、審査と登録が必要になった。
公園を駆除のために完全封鎖できるのは1日、しかも勤務時間内に定められた。

以上の状況になってからの実装駆除は、不完全にしか行われなくなり、
住民は、公園を汚染し尽くした野良実装が新しい環境を求めて去ってゆくまで
我慢するしかなくなっていた。



「3人で駆除…。
 さすがに足の遅い実装石とは言え、3人で追い込むのは大変だな。
 それに、茂みの奥に隠れた仔実装を時間内に見つけるのは、大変そうだ。

「主任。駆除日の前に、罠を仕掛けておくとか出来ませんかね?」

「下準備はおおっぴらには出来ない。
 どこに愛護団体の監視員がいるか分かったものではないぞ。」

「人間の監視員に見つからなければいいんですよね…。
 それなら、こういうのはどうです?」

3人は林田の案を採って、ちょっとした罠を公園に仕掛ける事にした。


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「罠は、あれか。
 仕掛けるときに愛護団体の連中には見つかっていないだろうな。」

「昨日の深夜に仕掛けるように非番の多田にたのんどいたんスよ。
 多田は愛護団体が来る前に実装班から異動したから、マークされていないはず。」

俊之達は、公園に隣接して建っているアパートの階段から、公園の様子をうかがっている。
実装班の3人は、階段の踊り場に横に並んで、双眼鏡で見ていた。



「あんなに汚物まみれの環境なのに平和そうに暮らしてんなー。」

「糞のニオイは、野良実装自身は嗅ぎなれているから気にならないでしょう。
 一般の人間は公園に入らなくなりましたけどね。」

公園が野良実装によって汚染されると、人間が公園にやってこなくなる。
そして、公園内で得られる餌の量が減る。

すると、実装石は餌を求めて公園の外へ出てくる事になる。
実装服に染み付いた汚物と共に。

その段階になると、野良実装の苦情が格段に増えるのである。



「愛護派も根性無いッスね。
 愛しの実装ちゃんに、きちんと餌をあげ続けていれば
 あの汚物も公園から出なくなるだろうに。」

「いや、無理だな。
 実装石は餌があればあるだけ増える。
 いずれは飢えて、公園の外に出てくるだろうよ。」

「主任。向こうで罠に掛かりそうッス。」

「そうか。どこだ?」

男達が双眼鏡で覗いた先では、蛆実装を抱えた仔実装が水場に向かって歩いていた。



(蛆ちゃん。お水を飲みに行くテチ)
(レフー!)

「テェッ!?」
仔実装はいきなり転倒した。

(歩いていたら、急にアンヨが痛くなったテチ。)
仔実装が後ろを見ると、緑の小さな靴が脱げて転がっていた。

(おクツが脱げたテチ。きっと何かにつまずいたテチ。)
仔実装は靴を取りに行こうと立ち上がろうとして、…また転んだ。

何かおかしい。
仔実装は自分の足を見た。

(テチャ! アンヨが短くなっているテチィ!)
仔実装の片足の先が無くなっていた。

(嘘テチィ! これは気のせいテチィ!)
仔実装は現実を否定して逃避しようとしたが、脱げた靴を見てしまった。

「テギャァァァァ!!!」

緑の靴の中には、足の肉が詰まっていた。



「わはは。あの仔実装。ようやく気づきやがった。」
「事実が飲み込めるまで、痛みを忘れるなんて器用ッスね。」
泣き叫ぶ仔実装の様子を見て笑う林田と斉藤。

実装班が仕掛けたのは細い針金。
3cm程度の高さを横断するように張ってあった。

針金の罠は、水場や、段ボールハウスの前など実装石が通りそうな所に
無数に仕掛けてある。

実装石に見破られない程の細さで、しかも、数が多いとなると、
回収し損ねて公園に残る事もあるだろうが、
靴を履いた人間は傷を受けないし、いずれは錆びて無くなるから問題はない。

「罠の回収の問題はいいとして、次は罠の効果の問題か。
 この程度の傷で十分なのか?
 足の先の切断なぞ、実装石にとってはたいしたケガではないぞ。」

「主任。
 それは、明衛門さんが管理する公園の実装石の事を言っているのですか。
 ここでは問題ありませんよ。ほら。」
林田はビニール袋に詰められた実装石を見せた。

「デェー デェー」
実装石はすでに虫の息で、目の焦点は合っていなかった。
髪、服、手、足を奪い取られ、体も半分ほどに押しつぶされていた。

「この通り、ここの実装石には、強い再生力は認められません。
 足の先を少し切るケガ程度でも、しばらくは治らないでしょう。」

「どれ、見せてくれ。」
俊之は林田から実装石入りの袋を受け取った。

「どうやら、再生力の強い実装石はあの公園の周辺だけで認められるようです。
 僕が思うに、あの公園が再生のエネルギーの発生源で、
 そこから離れると実装石の再生は並程度になるって事じゃないですかね。」

「…そうだな。強い再生は認められないな。」

実際には、俊之の手に渡った実装石の急激な再生は始まっていたが、
俊之が林田の言葉に同意すると、実装石の再生は止まった。


(傷が治りだしたと思ったら、急に止まったデス!?
 ニ、ニンゲンさん助けて欲しいデス!
 ニンゲンさんの言う事は何でも聞くデス!
 だから助けて欲しいデス!)

ビニール袋の実装石はデスデス騒ぎ出した。

「うるさいな。アパートの住人が出てくるだろうに。
 えーと。
 『ワタシを助けろデス。ワタシの言う事を聞けバカニンゲン。』
 主任、コイツ糞蟲ですぜ。」
斉藤は実装リンガルの表示を読み上げた。

「黙らせろ。処分は任せる。」
「了解ッス。」
グシャ。
斉藤は俊之から実装石の入った袋を受け取るとすぐに、踏みつぶした。

「言っておくが、ゴミはちゃんと持ち帰るように。
 ここの住人の方に迷惑をかけるなよ。」

「し、しまった。軽くひねっておくだけにするんだった。
 うわー。袋から体液と糞があふれそうだぁ。」
斉藤は袋を持ったまま、情けない声をあげた。



俊之は双眼鏡での監視に戻る。
公園では、痛みに泣き叫ぶ仔実装を蛆実装が心配して見ている所だった。

「ここでは傷が普段通りにしか再生しないのは分かった。
 さて、次の段階はうまくいくかどうか。」

「大丈夫でしょう。
 野良の実装石なら、動けない仔実装がいれば必ず食いますよ。」

「そりゃ、食うだろうが、
 はたして、個体数が激減するまで共食が続くだろうか。」

「まぁ、見ていてください。」



(どうしたのデス?)
(あ、おばちゃん。おねぇちゃんがケガをしたレフ。)
仔実装の泣き声に成体実装がやって来た。
この成体実装は、仔実装の家の隣に住む実装石であった。

(心配しなくていいデス。
 ワタシがアナタ達のママの所に連れて行くデス。)
(おばちゃん、ありがとうテチィ。)
成体実装は仔実装を抱きかかえようとした。



「お、仔実装をつかんだ。」
「さぁ、食え。お前の目の前の物は餌だ。頭からがぶりと行け。」



(………。)
(おばちゃん、どうしたのテチ?)

  がぶり



「おー! 行ったー!」
「よし、次は蛆を食えッス!」



(レフー!?  おばちゃん、何でおねぇちゃんを食べるレフ!
 レェェー!? 何で蛆ちゃんも食べるレフ!?
 やめてレフー! やめてレフー! やめ… レビャ!!!!!)



「よっしゃ! 完食!」
成体実装の共食いに、林田は拳を上げて喜んだ。
その時にはすでに、公園のあちこちで共食いが始まっていた。

そら、食え。
やれ、食え。

林田と斉藤は公園の様子を見て声援を送っていたが、
俊之は黙って考えごとをしていた。

「なぁ、林田。やっぱり共食いが群れ全体に及ぶとは考えにくいのだが。」

「いや、波及すると思いますよ。
 実装石にとって『同族の肉』は、人間が思う以上の御馳走です。
 何せ、市販品の実装フードにも実装石の肉が入っていますからね。
 しかも、この公園の野良実装は空腹。
 実装石の持つ欲求の中でも『食欲』は突出しています。
 最初に同族の肉の味を思い出させてやれば、
 後は、罠に掛かっていない実装石も襲って食うようになるでしょう。」

「仔実装や蛆実装などの弱い存在は確かに共食いで消えるだろう。
 罠に引っかかって無くても、楽に捕食できるからな。
 しかし、成体実装はどうなる。
 相手も成体実装だと、一方的に食う事なんてできまい。」

「1対1ならそうでしょうね。
 でも、実装石は普段から同族をリンチで殺す連中です。
 成体実装のうち、傷を負った奴から集中攻撃を受けて食われてゆくでしょう。」

「ふーん。そんなものか。
 どうだ、斉藤。状況はどうなっている?」

「いい感じッスね。成体実装も順調に減っている様ですよ。」

「あとは、共食いから逃げ出した実装石が、公園から出なければ良いんだがな。
 公園から出られてしまうと、俺達実装班は法的に手が出せなくなる。」

「食欲に脳を支配されている間は逃げないでしょう。
 自分が食われる側になるなんて考え無いでしょうから。
 でも、実装石が公園の外に逃げ出しても、問題ありません。
 たまたまそこを実装石が嫌いな市民が通りますので。」

「何故、死ぬかは聞かない事にしよう。
 で、『たまたまそこを通る市民』は何人くらいだ?
 誰かに差し入れを持って行かせよう。」



(逃げるテチ! ママが急に糞蟲になったテチ!)
自分の妹である親指実装を抱えて逃げる仔実装。

(妹ちゃんは私が守るテ…テチャァァ!!!)
仔実装は悲鳴を上げ、倒れこんだ。
見ると脇に抱え込んだ妹が、自分の脇腹を食いちぎっていた。

(い、妹ちゃんも糞蟲になったテチィ…
 みんな急に糞蟲になったテチ…
 嘘テチ… 嘘テチ… 信じられないテチ…)

仔実装が現実逃避をする間も、親指実装は仔実装を食い続ける。
やがて、仔実装の脇腹に穴が開いた。
親指実装は穴に頭を突っ込むと、今度は仔実装の内臓をすすり始めた。

(嘘テチ… 嘘テチ… これは夢に違いないテチ…
 夢から覚めるとまた、楽しい毎日が待っているテチ…
 こんな悪夢になんか負けないテチ…)

 テッテロケー… テッテ…、ロ…、ケ…

仔実装は楽しい歌を歌い始めたが、すぐに声が出なくなった。
親指実装はすでに上半身まで潜り込ませて仔実装の内臓を食い続けていた。
親指実装の歯が仔実装の呼吸器官にまで及んだのである。

(これは夢… これは夢… あ… ママが助けに来たテチ…)
仔実装は後から来た親実装に震える手をのばす。

(ここにも餌が落ちていたデス。)
親実装は『親指実装入りの仔実装』を即座に食った。



「うむ。
 共食いをする実装石が公園全体に見られるようになったな。
 これなら、明日までには大きく減っているだろう。
 よし、撤収しよう。」

公園での共食いは、実装班の3人が去った後も続いた。


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次の日。
公園の実装石を駆除する日がきた。

公園の入り口には俊之達、実装班の3人と、若い女が立っていた。

「はじめまして。私は監査員の一之瀬です。
 今日は、あなた達市役所職員の実装ちゃん保護活動を監視します。」

「保護? 駆除じゃないのか?」

「保護です。
 保護した実装ちゃんは保健所ではなく、
 里親を募集するまでの間、私達愛護団体の施設で飼育します。
 実装ちゃんの保護に当たっては、
 必要以上の苦痛を与える事は許しません。」

「なんだと! 環境を破壊する糞蟲どもを飼育なんて…」

「待て、林田。
 俺達ができるのは、公園から実装石を取り除くところまでだ。
 愛護団体の活動飼育の資金は市税と関係なく、我々は口を挟む事はできない。
 すでに条例でそう決まっている。」

「ぐ…。」

「ところで、必要以上の苦痛を与えないって何だ?
 駆除するなと言う事か?」

「駆除ではありません、保護と言いなさい。
 もちろん、公園の実装ちゃんの保護は行います。
 実装ちゃんの生活がここの住人達に理解されなかったのは残念です。
 でも、保護するときには、実装ちゃんに傷を与えないように。
 傷を与えたりしたら、愛護団体から市長に抗議文を送らせてもらいます。
 そして、保護した実装ちゃんは一人ずつケージに入れなさい。
 麻袋にぎゅうぎゅう詰めにするなんて、人権違反です。」

「今はケージなど持って来ていない。一体に麻袋一袋ずつでどうだ。」

「仕方ありませんね。
 次からは、ちゃんと実装ちゃんの分だけケージを用意しなさい。
 …八時ですね。
 では、実装石の保護を始めなさい。」

「…行くぞ。」

女の言葉は腹立たしかったが、
実装班はマスクで口元を覆い、作業を始める事にした。



「くうう。なんなんスか。あの女。
 監視役なんスよね? それが、何で俺達に命令するんですか。」
公園の中に入って、監査員から離れてすぐに斉藤が言った。
よほど頭にきているらしい。

「条例で与えられた権限が大きいからな。事実上、上官みたいなもんだ。
 でも、まぁ、これでもマシな方だぞ。
 隣の市では実装石に人権が認められたばっかりに、
 一匹捕らえるごとに『あなたの権利は法によって保障されており…』とか
 やらなければならなくなったそうだ。」

「人権のある連中が、あたりに糞を撒き散らしているのかよ。
 人の権利を与える前に、人間のルールを守らせろってんだ。」

「それに、実装石一匹ごとにケージを用意しろだとさ。
 ここは、事前に数を減らせたから、たまたま大丈夫だったが、
 野良実装が何故駆除の対象になるのか分かっているのか?
 あの女。」

「愛護派は狂っている。」
「そうだ、狂っている。」
「そうだとも。」
実装班の3人の意見は一致した。



「…でもな、愛護派がいくら狂っていようが、
 我々は、市民の要望に応えなくてはならない。
 やりにくいだろうが、働こうか。」

「…了解。」
「…了解ッス。」

俊之の言葉に、部下の二人は敬礼で応えたのだった。


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「昨日の晩、公園の様子を見ていた多田の話では、
 ダンボールに閉じこもった実装石の家族以外は全滅した様です。」

公園の実装石は昨日起きた共食いで大きく数を減らし、
野外を歩く姿は全く見えなかった。
ここまで減ると、実装石を追い込む必要も無い。

実装班は手当たり次第にダンボールハウスを開けてまわる事にした。


「多田は一晩中公園を見ていたのか? 大変だったろうに。」
俊之は地面に伏せられたダンボールハウスの入り口を
ガムテープで開かないようにすると、屋根にカッターの刃を入れた。


野良実装石もそれなりの知能をもっている。
ダンボールハウスの入り口から中を覗いたり、手を突っ込んだりすると、
石を投げる、釘で突くなどの抵抗をされる事がある。
また、ダンボールを持ち上げたり、蹴り壊すような事をすると、
中の実装石の家族は、外に出たとたんに違う方向にばらばらに走り出し
かく乱しようとする場合がある。
それでは、いずれ全員を捕まえる事ができるとはいえ、手間がかかる。

そこで、入り口を塞ぎ、屋根を取り去るのである。

野良実装にとっては頑強な要塞であるはずのものが、
人間の前では簡単に壊され、自分を捕らえる檻に変えられる。
自分の心の拠り所にしていた物が壊されるのである。
ダンボールの中の実装石は驚きと絶望で動けなくなっていることが多く、
野良実装を無傷で捕獲するには良い方法であった。


「多田本人は共食いの様子を楽しんで見ていた様ですよ。
 また、呼んでくれと言っていました。」
隣のダンボールハウスを壊しながら、林田が答えた。

「そうか。
 実装班にいたときには、駆除業務を楽しそうにやっていたものな。
 お、ここはハズレか。」
俊之がダンボールハウスの屋根を開けると、中には成体実装の死体が転がっていた。
食われた腹からの失血のために死んだ個体の様である。

「よっ。」
俊之は、実装石の死体ごとダンボールを折り畳んだ。
『ぶちゅり』と音がして、ダンボールから体液があふれてくる。

野良実装石の死体はゴミ扱いである。
保護、いや駆除の対象には当たらない。

俊之は実装石の死体とダンボールを分別せず、手間を省いたのだった。
そもそも、実装石の糞で汚れたダンボールなどリサイクルには適さない。


『ピーッ』
聞こえてきたのは、笛の音。
見ると、監査員の女が近くに来ていた。

「やめなさい。
 実装ちゃんを保護するのに、家を壊す必要は無いでしょう。」

林田と斉藤は監査員の警告を無視して、ダンボールを折り畳んでいった。

「それには従えません。
 あなたは実装石を馬鹿にしている。
 野良実装でも、一度確認したダンボールに隠れるくらいの知恵はありますよ。」

「そうッス。
 実装石を保護するんでしょ?
 確認し忘れて、この公園に残されるほうが可哀想でしょうよ。」

女は男達の言葉に不満がある様子だったが、再び遠くに離れていった。

「気づいたか、あの女の声。
 あの女、マスクの下で鼻に栓をしているのだろうよ。」

「それに、すぐに逃げて行ったッス。
 野良実装を『実装ちゃん』とか口で言っていても、
 実装石の糞のニオイには耐えられないんスね。」

「監査員の事は、放っておけ。 …お、これは、当たりだ。」
俊之は、箱の中からぐったりした実装石をつかむとすぐに麻袋に突っ込んだ。

「デ!? デシャァァー!!!」
袋に入れられた実装石が自分の現状を確認するとようやく悲鳴を上げた。

『ピーッ』
遠くで、女が笛を鳴らす。今度は近寄ってこない。
かわりに遠くで何かわめいている。

「ちっ。鳴き声も駄目なのかよ。
 捕まった実装石が袋の中でおとなしくしている訳が無いだろうが。
 防音のケージや袋を用意しろって事か?」

『バスン』
「デッ!」

袋の中の実装石が静かになった。
見ると、林田が麻袋にスタンガンを当てていた。

「お、いいなそれ。」

「でも、このスタンガンはあと数回程度しか使えないんですよ。
 全部の実装石を気絶させられませんよ。」

「そうか。
 俺が持ってきた睡眠スプレーもそんなに使えないのだが…。」


「主任、先輩。
 要は袋の中で、悲鳴を上げさせなければいいんッスよね?」
そこに、斉藤が捕まえた成体実装石を抱えてきた。

「どうするんだ?」
「まぁ、見ていてくれッス。」

斉藤は拾った枝で実装石のパンツを脱がすと、股間をつついた。

「デップ〜ン!」
実装石は頬を赤らめ、気持ちの悪い声を上げる。

「それ、それ。」
「デデェ! デッスーン!」
斉藤がさらに枝でつつくと、実装石は身をよじって悶えた。

「ほらよ。後は自分でやれッス。」
「デスッ! …デッスーン! デッスーン!」
実装石に枝を渡すと、すぐさま自慰を始めた。

斉藤はその実装石を麻袋に入れた。
袋からは悲鳴ではなく、嬌声が聞こえるのみ。
麻袋に突っ込んでからも、自慰に興じているに違いなかった。


「上手だな、斉藤。」
「よく思いついたもんだ。」
俊之と林田は素直に感心したが、斉藤はなぜか焦っていた。

「そ、そんなに褒められるような事では…。
 け、決してジ、ジックスなんて知らないッス!」

「何、言ってるんだ?
 まぁいい。これからは、手分けしてやろう。
 俺と林田はダンボールの探索。
 そして、悲鳴を上げる実装石が見つかったら、斉藤が黙らせる。
 それで行こう。」

「了解。」
「了解ッス。」


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その後、監査員の横槍が時々入る事を除いて、駆除作業は順調に進んだ。

「よし、居た。」
俊之は、ダンボールの中から成体実装石を取り出した。

「………。」
その実装石は禿裸。黙ってうつむいていた。

「どうした? お前は捕まったのだぞ。
 他の連中のように命乞いをしたり、騒いだりしないのか?」

「デス…。」
俊之の言葉に一言返したのみ。
俊之が実装リンガルを見ると『もう、どうでもいいデス…』となっていた。

「何だ? 実装石らしくない奴だ。
 お前らは無駄に大きな希望を持って生きる連中じゃなかったのか?」

「………。」
禿裸の実装石は返事をしない。

希望を失った実装石。
このままだと、ストレスで偽石が崩壊し死に至るだろう。


愛護団体の施設に運ばれている途中でコイツに死なれたら、
捕獲時に虐待されたとか抗議が来るかもしれない。
ふと、俊之は思った。


「なぁ、ハゲの実装石よ。
 今回の駆除は保健所行きではなく、愛護団体の施設行きだ。
 もしかすると、そこで里親に出会って、飼い実装になれるかも知れないぞ。」

「………。」
禿裸の実装石はやはり無言。
しかし、俊之は実装石の目に光が戻った事を確認した。

悪いが、ここで死なれたら困る。
少なくとも、愛護団体に引き渡すまでは生きてもらわねばならない。
その程度の考えで発した俊之の言葉に、禿裸の実装石は希望を持ったのだった。

しかし、愛護団体にどの程度の力があるか分からないが、
わざわざ禿裸の実装石を飼いたいと思う愛護派や、一般人は見つけられないだろう。

飼いたいというのは虐待派くらいか。
いや、希望を無くした実装石を虐待しても面白くない。
虐待派なら自らの手で禿裸にできないと満足しないだろう。

すると、この禿裸に里親は来ない。
一生、施設で飼われるのがいいところだ。


これは、上げ落しになるのだろうな。
麻袋の中でおとなしくしている実装石を見て、俊之はそんな事を考えた。


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俊之が広場に戻ると、部下の2人が監査員の女となにやら言い争っていた。

「どうした?」

「あ、主任。
 この女が、俺達が虐待したと言うんですよ。」

「この実装ちゃんが、ビリッとした後、気を失ったと言っています。
 あなた達、何かしたでしょ!」
監査員の女が足元の実装石を指差して言った。
さすがに汚らしい野良実装に触れたくないらしい。

「林田、最初に黙らせたのはこいつか?」

「いえ、最初のやつはまだ気絶してますよ。
 コイツは、僕がスタンガンを持っているのを見て、
 自分がやられたと嘘を言っているのですよ。」

(デププ。
 ワタシがこのニンゲンに訴えれば、お前らは終わりデスゥ。)
実装石はすでに勝ち誇っており、男達を見下した笑いをした。

(ニンゲン。ワタシの言葉を聞くデス!
 コイツラはワタシの住んでいた豪華な城を壊したデス!
 ワタシのスシや、ステーキ食べ放題の生活を壊したデス!
 ワタシのたくさんの豪華な服を奪ったデス!
 お前はとっとと、コイツラに謝罪と賠償をさせろデス!
 そして、前の生活に戻せデス!)
実装石は監査員の女に向かって言った。


「なんだ、糞蟲じゃないか。
 この公園では、野良実装が毎日スシやステーキが食えたと言うのか?」
「わはは、笑える要求ッスね。
 お前の豪華な城がダンボールなら、今すぐ戻してやりますぜ。」
林田と斉藤は、実装石の言葉を笑った。

「監査員。コイツの言葉を信じるんですか?」
俊之は監査員の女に聞いた。

「え、ええ。
 あなた達の様な虐待派よりも、実装ちゃんの言葉の方が信頼できますっ!」
実装班の態度に半ば自棄になっていたのだろう。
監査員の女はそう答えた。

「で、実装石の言葉通りに、こちらを訴えますか?
 この町は隣町とは違って、実装石に人権は認められていません。
 実装石の言葉を証言として用いるには、資格を問われます。」

「ええ、分かっています。」

自分の願望を口から垂れ流す実装石の言葉は、普通は証言として用いられない。

例外として認められる場合は、
飼い実装の前で主人が強盗に襲われて殺害されたときなどである。

証言者は人間を慕い、忠実な実装石。
それでも、主人のために他人を陥れる可能性があるとして、
その実装石の脳には電極が差し込まれ、
電流を計測するため偽石は取り出され、嘘の証言でないか確認される。
ここまでしないと実装石の言葉は信じられないのである。

証言者の実装石に生きて帰ってきた者は居ない。

糞蟲と、この女は分かっているのかね?
俊之は内心でほくそ笑んだ。

「ま、過去の判例から言うと、
 こちらが負けたところで、野良実装を元の場所に戻す。
 賠償といえばコンペイトウが数粒位なモンです。
 それでも、訴えるというのですね?」

「え、ええ。もちろん。」

「では、やってみて下さい。
 その糞蟲を、証言者として認められる程の
 超高級飼い実装レベルまで躾けて見せて下さい。」

「うう…。」
女はうめいた。

(デププ。これでワタシも飼い実装デスゥ♪
 あとは、このニンゲンを奴隷にして、豪勢な生活を送るデスゥ♪
 そして、ワタシの身を豪華な服で飾ったら、
 ワタシの魅力でもっと奴隷が増えるに違いないデスゥ♪)
野良実装石はすでに夢見ごこちであった。

これは糞蟲だ。
これを躾けるなんて無理だ。
実装班の人間だけではなく、監査員の女でさえそう思うに十分であった。


「おっと、その前に。」
俊之は実装石の髪の毛を一本抜き取った。

「あなたが、その実装石の代わりをつれてくるかも知れません。
 この髪の毛は、DNA鑑定用にこちらが保管しましょう。」
俊之は、女の逃げ道をさらに塞いだのであった。

金をかけてまで野良実装のDNA鑑定をするなど馬鹿な話はないが、
これを言うだけでも女への牽制になった。

「ははは。
 あなた程の愛護派なら、さぞかし立派な飼い実装になるのでしょうなぁ。」
「さぞかし素敵な『実装ちゃん』になるのでしょうねー?」
そして、林田と斉藤の追い討ち。


それが、いけなかった。


「きぃぃぃぃ!」
女が急に奇声を発し、俊之達はビクリとした。

「あなた達も、糞蟲を飼育すればいいのだわ!」

「えー!?」
「そんな無茶な!?」
「こ、この女自ら糞蟲と言ったぞ…。」
女の言葉に俊之達は驚いた。

「あなた達も、この公園の実装ちゃんを飼育しなさい。
 1週間後、実装ちゃんが元気であれば虐待は無かったと認めましょう。
 ま、虐待派のあなた達では、我慢できずに殺してしまうのでしょうね。」

「お、おい。俺達が虐待派で確定しているぞ。」
「何で、そんな事に…。」
「女のヒステリーは怖いッス。」

「どう、飼うの飼わないの!?
 飼わなければ、セクハラしたと私が訴えてやる!」
監査員の女はダンと、足を踏み鳴らした。



「セクハラか…。ここ最近に、我が市の職員が訴えられたんだったな。
 今の時期にまた騒がれるのはまずい。
 これは条件を飲まないと収まらないかもしれん。
 ううう。監査員が女一人というのはまずい状況だった。」

「主任、実は今、僕の家では、
 バカ実装コンテストに出す実装石を飼っていまして、
 新入りが元気に暮らせる環境ではないのです。」

「俺の家には実蒼石が居るから無理ッス!」

林田と斉藤は先に実装石の飼育を拒否した。

「すると、俺が飼育しないといけないのか…。
 くそう。糞蟲の飼育か…。
 1週間程度生かすのは楽勝だが、疲れるなぁ。」

実装班での相談が終わり、俊之は女に向かって言った。
「分かった、俺が飼おう。」



「さぁ、飼う実装ちゃんを選びなさい。」

何気なく、俊之は手に持った袋から実装石を取り出した。
それは、今にも死にそうな禿裸の実装石。

「しまった!」
俊之が手にした実装石は、さっきよりしおれていた。

「ぷっ。
 なあに? その死にそうな醜い実装石は。」
女は俊之の持った禿裸の実装石を見て笑った。

「…あの女、笑ったぞ。」
「禿裸を醜いだとさ。愛護派の言う事スか?」
林田と斉藤は、わざと女に聞こえるように言葉を交わした。

「コホン。
 あなた方はその実装石をきちんと飼うのですよ。」

「分かった、分かった。
 一週間ぐらい楽なもんだよ。
 そっちこそ、そいつをちゃんと躾けろよ。
 ほら、こっちの飼育の証拠として、これをやる。」
俊之は禿裸にかろうじて残っていた、短い髪の毛を抜いて渡した。

「ふん。」
髪の毛を受け取った女は俊之達から顔をそむけると、
飼育する実装石を引きずって行った。

(デギャァ! 痛い、痛いデスー!!)
引きずられた野良実装は悲鳴を上げ続けた。

「あの女。指で野良実装の耳をつまんで引きずっているッス。」

「汚いのが嫌なんだろ。
 そんなんで、野良実装を飼おうってんだから笑うよな。
 で、そのハゲの様子はどうなんです?」

「大丈夫。気を失っているだけだ。
 しかし、コイツを俺自身が飼う事になるとは、世の中、分からんものだな。」
禿裸の実装石は俊之の腕の中でぐったりしていた。


「よし、監査員はご自身の都合と言うか、ヒステリーで先に帰ってしまわれたが、
 我々は捕獲した実装石を施設に送り届けて、さっさと終わらそう。」

「了解。」
「了解ッス。」


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(ここは、どこデス?)
俊之達によって連れて来られた禿裸の実装石は、明るい光を感じて目を覚ました。

(…? 体の傷が治っているデス。)
禿裸の実装石は、栄養剤で満たされた容器に寝かされていた。



ここは、市民課分室。
実装班の3人は野良実装石の駆除完了時に提出する書類を作っていた。

「斉藤〜。まだか〜?」

「後、少しッス。…出来た!」

「あとは、俺がまとめて、送信してやれば…。ほい、完了。」

「「やったー!」」

「面倒な仕事も終わったし、飲むか。」
俊之は部屋の隅にある冷蔵庫から缶ビールを取り出し、部下の2人に投げて渡した。
受け取った2人は缶を開けると即座に飲みだす。

「うはー! うめぇー!」

「こうして飲むのも久しぶりですね。」

「そうだなぁ。3人になってからは無かったなぁ。」

「1年前はこの部屋に20人も居たなんて信じられませんね。
 しかし、今日のあの女。面倒な事になりそうですかね?」

「場合によってはクレームが来て、一度この部署が無くなるかもしれない。
 しかし、愛護団体のやり方を見ると、遠からずこの部署が必要になるだろうね。
 それも、今度は大規模な人員で復活するだろうさ。」

「ははは、そりゃいいッスね。
 およ? 主任、ハゲが目を覚ましたッス。」



「やぁ、ハゲ。何の因果かお前をしばらく飼う事になった。」
「僕は林田でーす。ハゲ、こんちはー。」
「よっ! ハゲ。 斉藤でッス! よろしくッス!」

俊之達は目を覚ました禿裸の実装石に上機嫌であいさつをした。

俊之達は酔っていた。
いつの間にかビールの空き缶も増え、日本酒の瓶も混じっていた。

「よし、実装班の今後の活躍を祈って胴上げだ。」
「「やほーい!」」
男達によって禿裸の実装石は胴上げされた。

「デェー!? デェェー!?」

禿裸の実装石は何故自分が宙に舞っているのか分からなかったが、
人間達が自分のために何かしてくれる事が非常に嬉しかった。

そして、自分は人間に飼われるのだと聞いた。

飼い実装の暮らしは、禿裸の実装石も仲間の元飼い実装から聞いていた。
飼い実装のルールは守らなければならないが、
それさえ守れば夢のような暮らしが待っているのだと言う。

あきらめないで良かった。
自分を捕らえた人間の言うとおりだった。

親しい仲間達に禿裸にされた時には絶望したが、
これからは幸せな生活が待っている。
そう思っていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『ピロピロピロ…』
斉藤の胸ポケットから携帯電話の呼び出し音がした。

「あっ、しまった!」
斉藤はあわてて電話に出る。

「あああ、ごめん。
 仕事で遅くなっているんだって! 嘘じゃねーッス!
 酔って無い! 酒なんか飲んでねーッス!
 何だよ。 怒るなよー。 蒼子ー。」

「あらま、何だー?」
「女じゃないかー?」
電話の相手に必死に言い訳をする斉藤の姿を、
俊之と林田は面白半分に見ていた。

「…ふぅ。」
電話が終わったとき、斉藤の顔は心なしか青くなっていた。

「主任! 俺、今日はもう帰らせてもらいます!」
斉藤はピシッとした姿勢で俊之に頭を下げた。
今帰らなければ死ぬくらいの必死さ、いや、悲壮感が見て取れた。

「お、おう。 急いで帰れ。」

「修羅場みたいだな。
 これでも食って、酒のニオイをごまかせ。」
林田は引き出しの中からガムをつかみ、斉藤に向けて放り投げてやった。

「ありがとうッス、先輩! じゃ、闘ってきます!」
斉藤はカバンをつかむと、飛び出すように帰って行った。



「あいつ、同棲してたんだな。」

「しかし、あいつほどの男が恐れる彼女ってどんなんでしょ?」

俊之と林田は恐ろしいモンスターを想像して、ちょっと身震いした。
酔いもちょっと覚めた。

「俺達も帰るか。」

「そうですね。」


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「やあ、ハゲ。 ここがお前が暮らす部屋だよ。」
俊之は禿裸の実装石を連れて、自分の家に戻ってきた。

(何も無いところデス…。)
実装石が通されたのは、板張りの部屋。
実は壁面に引き出しなどがあるのだが、一見すると何も無い部屋であった。

(あの…。 トイレとか布団とかは無いのデス?)

「ああ、すまん。」
俊之は壁面の引き出しの一つを開け、成体実装サイズの布団を取り出した。

「あとは、服だな…。とりあえず、これを着ていてくれ。
 今日はもう遅いので、お前の体のサイズに合う服は明日探そう。」

服が着せられ、禿裸の実装石はハゲ実装になった。

着せられたのは、滑らかな肌触りのシルク製の実装服。
実装石に物の値段は分からないが、少なくとも素晴らしいものだとは分かる。

ただ、この服はハゲ実装の体のサイズよりも大きかった。
袖や裾の部分が長くなっている。



(あの、トイレがないデス。)

「この部屋の好きなところですればいい。」

(デ!?  そんなはずはないデス。
 飼い実装はトイレで用を足すものだと教えられたデス。)

「野良実装を躾けようなんて思っちゃいないよ。
 しかも、お前は成体実装だ、躾けの効果は無いだろう。
 いいんだ、気にせずにそこらの床にしろ。
 この部屋は汚しても簡単に洗い流せるようになっている。」

(それは…、だめデス。
 素敵なお洋服やお布団が汚れてしまうデス。)

「気にするな。汚せばいい。
 野良実装のお前にちゃんとした振る舞いなど期待していない。」

(だめデス…。だめデス…。)
ハゲ実装はイヤイヤと首を振った。

「野良にしてはきれい好きだったのか?
 ならば、これに糞をするといい。」
俊之がトイレだと言って置いたのは、浅い皿。

(………。
 トイレって水が流れるものだって聞いたデス。)

「水が流れるトイレは、野良実装が使うには難しいだろう。
 まずは、この皿に糞をしてみろ。
 毎日、決まったところに糞ができるようになったとき、
 水洗トイレの使用を認めよう。」

(が、頑張るデス!)
水が流れるトイレが使わせてもらえないないのは残念だったが、
最初は簡単なところから始めてゆくのは正しい事だと思えた。


「次に、これは餌と水だ。好きなだけ食うといい。」
仕切りのある餌皿に実装フードと水が入れられ、床に置かれた。


「じゃ、おやすみ。」
(あ、待ってデス…。)
餌皿を置くと、俊之はドアから出て行った。

しばらくして、部屋の明かりが少し暗くなる。
眠るにはまぶしくないが、
部屋の中の物が見える程度の明るさはあった。


  まだ、聞きたい事があったのに。


ハゲ実装は、この家での飼い実装のルールを聞こうと思っていた。

公園にやって来た元飼い実装は言っていた。
人間の決めた『飼い実装のルール』を守らないと捨てられてしまうのだと。


  今日のニンゲンさんは様子がおかしかった。
  疲れていたのかな?
  飼い実装のルールは明日に聞こう。


ぐうう。

腹が鳴った。
ハゲ実装はしばらく何も食べていなかった。

皿に盛られた実装フードを食べてみた。

  おいしい…。
  野良の時に食べた、どんなものよりおいしい。

禿裸になっても、こんなにおいしいものが食べられる。
ハゲ実装は食べながら泣いた。

  おいしい…。
  ニンゲンさんと一緒に食べるともっとおいしいに違いない。

腹が一杯になると、今度は眠くなった。
ハゲ実装は布団に入る。

暖かい布団。
肌触りのよい服。
安心して眠れる場所。

どれも、野良生活では得られなかったものだった。

親も姉達もこんな生活を望んで生きていた。
その肉親達はもう居ない。
今は、自分だけが生きている。

  おかあさん。
  おねえさん。
  私だけ幸せになってごめんなさい。

自分の肉親だけではない。
公園のみんなが憧れていた飼い実装の生活。

ハゲ実装は今の自分の境遇を誇る気持ちになれなかった。
申し訳ない気持ちで一杯だった。

飼い主の人間に嫌われて捨てられるなんて事は許されない。
みんなの夢を壊す事なんてできない。

  頑張ろう。
  ニンゲンさんの言葉を良く聞いて、立派な飼い実装になろう。

そう決意して、ハゲ実装は眠りについた。






次の日の朝。
ハゲ実装は、布団の中に糞がある事に気づいた。

暖かい布団と、きれいな服。

それを汚したのが自分だった事を知ると、
ハゲ実装は泣いた。



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1 Re: Name:匿名石 2025/07/28-00:30:29 No:00009753[申告]
色んなスクを見てきたけど、こういうクズ人間達と依怙贔屓されてる実蒼石がいると実装石が可哀想過ぎて堪らんわ。
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