性悪実翠石の妃翠ちゃん ⑨ お歌と踊り ----------------------------------------------------------------------- 『テッチ、テッチ!』 『よく出来ているデス!その調子なら、きっとご主人サマもお前を飼いにしてくれるデス!』 家事を一通り終えた実翠石の妃翠が何とはなしに庭を見やると、 庭飼いされている実装石のミドリが、自身の仔に対して歌と踊りを仕込んでいた。 先日、ミドリの仔は飼いじゃない、と主人から明言されたのだが、それでも諦められなかったらしい。 歌と踊りを披露して飼い実装として認められようと、無駄な努力をしているようだった。 野良実装が人間に飼われようと、そうしたアピールをする事はよくある話なのだが、 どうやらミドリ親仔もその例外ではなかったようだ。 妃翠はそんなミドリ親仔に冷たい眼差しを向ける。 ご主人さまに気に入ってもらいたければ、庭の雑草抜きでもすればいいのに。 ご主人さまはすごく優しい。 ちゃんとお仕事を出来ればしっかり褒めてくれるし、たとえ失敗しても、 ご主人さまのためにした事ならば、叱るどころか慰めてくれる。 お互いに想い合える、本当に素敵なご主人さまなのだ。 そんなご主人さまに、踊りとも言えない無様な動きと、 耳障りなだけの鳴き声だけで飼ってもらおうと思うなんて、思い上がるにも程がある。 妃翠は主人を馬鹿にされているような気がして、妙に腹立たしかった。 翌日。 主人がいつものように妃翠を伴ってミドリに餌をやりに行くと、ミドリがデスデス鳴いて主人の足に縋り付いた。 主人がリンガルを見ると、 『この仔のお歌と踊りを見てあげて欲しいデス!きっとご主人サマも気に入るデス!』 との事。ものは試しに見てやるか、と主人がミドリの仔に目線を向けると、 ミドリの仔は待ってましたとばかりに踊り、歌い始めた。 『だいすきだいすきご主人サマ!』 『ワタチといればいつもニコニコ!』 『おいしいご飯、あったかお風呂、ふかふかお布団、シアワセな飼いの生活!』 『ワタチのシアワセはご主人サマのシアワセなのテチュ〜ン♪』 あまりに自分勝手でお花畑な妄想全開の歌詞と、 短い手足を出鱈目に動かしているようにしか見えない不格好な踊りに、 思わず妃翠は吹き出してしまった。 主人は全く笑っていなかったが。 主人の冷ややかな反応に脂汗を浮かべるミドリを尻目に、 妃翠は主人の手を引き、上目遣いで頬を染める。 「ね、ご主人さま♥お踊りなら、わたしがベッドの上で、ご主人さまのためにた〜くさん踊ります、です♥」 主人は妃翠の頭を撫でると、二人で家の中へと戻って行く。 『ま、待ってデス!ご主人サマ、待ってデス!』 『も、もっとがんばるテチ!だからワタチのお歌と踊り、もっと見テチ!』 ミドリ親仔はしばらくの間、哀れっぽい泣き声を上げていたが、 ベッドの軋む音にかき消されて、主人の耳に届くことはなかった。
