タイトル:【愛】 あの日の丁寧なお辞儀の意味を僕たちはまだ知らない
ファイル:あの日の丁寧なお辞儀の意味を僕たちはまだ知らない.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:145 レス数:1
初投稿日時:2026/06/20-04:45:23修正日時:2026/06/20-04:45:23
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時代はまだ平成初期の田舎のとある小学校
1学年あたりの生徒の数は少なく小学4年生の僕らは学年10人と特に少ない
そこへ『総合的な学習の時間』の先駆けとしてその緑色の奇妙な生物は学校にやってきた
「ハイ皆さん静かにしてくださいねーこの仔が今日からクラスの一員になる実装石です」
先生は笑顔でケージを僕らに見せる
ケージの中ではテチュテチュ鳴いてお辞儀している僕の握りこぶしほどのサイズの生物がいた
僕らクラスの全員が当然その姿を知っている…というより知らない人を探す方が難しい
通学の際に最低1匹は見かけるし公園に行けばもっと沢山うじゃうじゃいる
先生の説明によるとこの学校では命の尊さを学ぶためにこの学習があるそうだ
これから3年間育てあげる命の授業
昔は豚などを飼っていたそうだけどいつの頃か実装石になったらしい
正直野良の姿が思い浮かぶ僕らは内心では「えええ~~~っ」と心は一つだった
そんな事とはつゆ知らずケージの中の実装石はこれからの生活に想い馳せているようだ


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「テチューン!テチューン!」と小さな手を振って愛嬌を振りまく実装石
特別実験室という所で生まれたこの仔は汚くて臭い野良のとは違って小奇麗な物だった
みんな恐る恐るおっかなびっくり触ってみたり会話を試みる
どうやらだいぶ賢い仔らしくこちらの言ってる事は分かるらしい
「でもグリグリが何言ってるか俺達には分かんねーんだよな」
緑の服を着てるからと随分安直な名前に決まったクラスの実装石
そうこうしていると「テチュ!テチュ!」とグリグリは必死に何か伝えようとし始めた
短い手をばたつかせるその様子に女子たちは少しづつ笑顔になった
「もしかしてお腹が空いているんじゃないかな?」
そう声に出せば頭をぶんぶん上下に振って意思表示するグリグリ
餌として支給されたフードを二粒手に乗せて目の前まで持っていくと
グリグリは丁寧にお辞儀をしてから食べ始めた


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食事の後しばらくしたらグリグリがケージの中のミニハウスに閉じこもってしまった
毎日定期的に行われるこれはいわゆるウンチタイムというやつだ
ミニハウスの中には実装石用のオマルが取り付けられてあって
グリグリはそこで隠れて用を足すようにしつけられている
そこに出したモノはケージの外からでも清掃が可能な構造になっていて
定期的に出したモノを清掃するのはクラス全員での持ち回りでやることに決まった
今日は僕の番なのだが……「うっ!」と声に出してしまう
一体この小さな体のどこにこれだけのウンチを出すことが可能なのか世界の七不思議だ
実際本当に世界の偉い人たちが質量保存の法則の実験をしているが結論は出てないらしい
僕は備え付けのヘラでそっとプラスチックの容器へと移し水洗トイレへと流しに走る
野良の糞害は田舎のこの町でも深刻な問題として大人たちは怒っている
だけどオマルできちんと用を足したグリグリはミニハウスから出てくるとペコリと頭を下げてくる
言葉は分からなくても申し訳なさそうな顔を浮かべるグリグリを見たら「まぁいいか」と思えた


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そんなグリグリとの生活が始まってからクラスの毎日は驚くほど慌ただしく充実していった
朝教室のドアを開けるとグリグリはケージの中で「テチュ!」と嬉しそうに飛び跳ねる
その姿を見て最初に抱いていた嫌悪感はいつの間にか心の隅へと消え去っていった
国語の時間にはみんなが教科書を読む声を小さな首を傾げながら熱心に聞き入っている
図工の時間に余った色画用紙を小さく切って「これあげるよ」と女子が手渡すと
それを胸に抱きしめて本当に嬉しそうに何度も何度もお辞儀を繰り返す
言葉は通じなくても僕らは心で繋がっている
5年生になる頃にはグリグリの体は僕らの膝の高さにまで丸々と大きく育った
実験室生まれの綺麗な緑色の服は女子たちが家庭科の時間に繕っていつも清潔に保たれ
体育の時間にはケージから出て校庭の隅で僕らがサッカーをするのを応援してくれる
ボールが転がっていくと短い手足で一生懸命に追いかけ僕らの元へ転がしてくれた
「デス!デス!」と誇らしげに胸を張るその姿はもう害獣としての実装石ではなく
クラスの11人目の大切な僕らの友達だった……この幸せな日々がずっと続くのだと信じていた


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残酷な現実は僕らの知らないところで動き出していたのだ
6年生の冬の季節…卒業式の足音が聞こえ始めたある日
先生がいつもとは違う重苦しい顔で教壇から僕ら10人とグリグリを見つめた
黒板に向き直った先生のチョークが硬い音を立てて大きく「返却」の2文字を刻みつける
「来週の金曜日にグリグリを生まれた特別実験室へ返します」
教室の空気が一瞬で凍りついた
「嫌だ!」「卒業してもみんなで飼おうよ!」10人が叫び一斉に先生に詰め寄った
3年間一緒に育ってきた友達と離れるなんて…
「グリグリは学校の備品として借りている実験動物です勝手に決める事は出来ません
 それに……役目を終えた個体は……」
先生はそれ以上言わなかったが僕らには分かった
実験室に戻された実装石が辿る哀しい運命……それは間接的な死を意味しているのだと
僕らが涙を流して争う姿をグリグリはケージの中から不安そうに見つめていた


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グリグリは自分が困らせていると思ったのか申し訳なさそうな顔をしてペコリとお辞儀をした
その健気さが僕らの胸をさらに締め付ける…子供の僕らはただ泣くしかなかった
グリグリは何度も何度もペコリと頭を下げていた
運命の金曜日校門の前には特別実験室からやってきた白衣を着た大人たちの黒い車
「3年間ご苦労様でした」と冷淡に言いながら大人たちはグリグリのケージを車へと運び込む
「グリグリ!」「行かないで!」僕ら10人は車の後を涙を流しながら必死に追いかけた
遠ざかっていく車の向こうでグリグリは僕らがいつも図工の時間にあげた色画用紙の切れ端を
大切そうに胸に抱きしめて見えなくなるまで何度も何度も頭を下げていた
言葉は分からなくても最高の「ありがとう」を僕らに伝えているのだと痛いほどに分かった
グリグリがいなくなった教室は広く冷たかった
一緒に卒業式を迎えることなく11人目の友達は去って行ってしまった
僕らはただ泣いて終わるわけにはいかない『グリグリがくれた命の時間を無駄にしない』
僕ら10人は誓い合い少しだけ大人びた表情で無事に小学校の卒業式を迎えた


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それから30年以上の歳月が流れ平成も終わった
僕は地元の役所に就職しあの頃の仲間たちもそれぞれ立派な大人になってこの町で生きている
財布の中には今でもあの頃の11人の集合写真を大切にしまっている
そして僕は公園の環境維持の担当部署で野良実装石の『駆除』を決定する立場になった
「来週中央公園の野良一斉駆除を行います」
部下への指示を出しながら僕の胸にはあの冬のグリグリの申し訳なさそうな丁寧なお辞儀と
色画用紙を抱きしめた最後の姿が鮮明に蘇る
命は平等ではないけど奪う命の裏側には誰かに愛された記憶があるかもしれない
僕は心の中で深く祈りながら駆除の承認印を書類へと静かに押し込んだ
あの日のグリグリが今の僕を見たら同族殺しと罵るのだろうか
まだ実装リンガルが発明される前の時代にグリグリは本当は何を思い生きていたのか
もしあの時代にリンガルがあったらグリグリとの関係はどう変わっていたのか
その答えを知ることはもう二度と無い……そう思っていたのだがーーー


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「は!?グリグリって生きてたの!?」と声を上げたのは僕を含むあの時のクラスメイト
久しぶりの同窓会で全員が揃った時そのうちの一人が驚きの真実を告げた
彼はグリグリがやって来た研究施設を運営する会社に転職し
奇跡的にその後のグリグリの研究データを知るに至ったと告げた
あの日研究室に戻されたグリグリはその高い従順性と知性から奇跡の個体として処分を逃れ
繁殖の母体に選ばれてそれはもう沢山の仔を産んだらしい
その仔たちは同じく命の授業として借り出されたり新しい実験で高い成果を出すなど大活躍
グリグリは母体実装石として手厚く保護されかなりの長寿生きて幸福のまま天寿を全うしたそうだ
研究記録には『知能が高く人間への擬態・返礼のポーズが極めて優秀な個体』とあり
当時の僕らとの記録からグリグリのデータを機器で解析した結果が
『コイツラ チョロイデス ウンチカタヅケサセテ マイニチ ウマイメシ クウノデス』
僕たちの3年間の涙と30年間のセンチメンタルをグリグリは空の上でバカ笑いしてることだろう
僕ら皆ただただ笑うしかなかった……明日から駆除が捗りそうだと気持ちが軽くなった

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1 Re: Name:匿名石 2026/06/20-15:22:14 No:00009989[申告]
ラストで笑った
たまにはこういう個体がいてもいい
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