飼い実装テヴェールの穏やかな日々 その14 秋仔 ----------------------------------------------------------------------- 夏の暑さがいくらか和らぎを見せた頃。 飼い仔実装のテヴェールは、ママさんと飼い主の秋穂に連れられて、 セントバーナードのバルクホルンと共に近所の第三公園に遊びに来ていた。 秋穂と砂場で遊んだり、ブランコに乗せて貰ったりしていると、遠目に仔連れの野良実装が見えた。 産まれてからさほど月日が経っていないためだろうか、仔実装達の身体は10cm程度とあまり大きくはない。 体長が15cmほどに成長していたテヴェールより幾分小さいながらも、 仔実装達は母実装を手伝って木の実や落ち葉集めに精を出していた。 『テェェェ、小さいのにお手伝いしててえらいテチ・・・』 家族で助け合う様子に感銘を受けたためだろうか。 お家に帰ったテヴェールは、飼い主の少女やママさんにピョンピョン跳ねてアピールした。 『ワタチも大きくなったテチ!ご主人サマやママさんのお手伝いがしたいテチ!」 以前にも似たような事を言っていたわね、と思いながらも、ママさんはテヴェールに優しく告げた。 「まだテヴェールは小さいから、もう少し大きくなってからお願いするわね」 『はいテチ・・・』 素直に頷くもしょんぼりした様子のテヴェールに、バルクホルンがのっそり歩み寄りその頬をペロペロと舐めだした。 『くすぐったいテチィ!』 途端にテチャテチャと嬉しそうに鳴くテヴェールを、ママさんは苦笑交じりに、秋穂はニコニコと見つめていた。 野良実装が仔を産む季節は、主に春と秋に分かれるという。 いずれも過ごしやすく、餌の確保が比較的容易な季節だから、というのが一番の理由だが、 実はそれ以外にも様々な理由がある。 特に秋仔に関しては、いささか血生臭い理由があった。 『マ、ママ・・・!?なんで、なんでテチィ・・・!?』 腰を抜かした仔実装が、たっぷりと糞を漏らしながら母実装に問う。 当の母実装は、仔実装の姉妹だったもので口元を赤と緑に汚しながら、グチャグチャと肉の味を愉しんでいる。 『秋仔は冬篭りの準備が終わったら食べて栄養にするものなんデスゥ』 『ワ、ワタチタチみんないい仔だったテチ・・・!ママの言う事を聞いてたくさんお手伝いしたテチ・・・!』 『そうデス、皆いい仔だったデス。さあ、これがお前にできる最期のお手伝いデス』 そう言って母実装は仔実装を抱き上げた。 『テ、テチュ〜ヂッ!?』 仔実装は死の間際に本能的に媚びるが、母実装は意に介することなく、仔実装の頭を一息に噛み潰した。 少しばかり知恵の回る野良実装は、冬篭りの準備が終わっても、すぐには食べずに保存食として扱うという事もある。 『テェェンッ、テェェンッ・・・!』 ダンボールハウスの近くに掘られた糞穴の中で、何匹もの禿裸仔実装達が泣いていた。 命と同じくらい大事な髪と服を防寒の足しにと毟り取られ、 これからはこの糞穴の中で糞を食べて生きることを強いられるとなれば、泣きたくもなるだろう。 今までママや家族のためにと餌や落ち葉集めを頑張って来たのに、と仔実装達はとめどなく涙を流す。 これから先、この糞穴から仔実装達が出られる機会は唯一、食料として選ばれた時だけである。 無論、秋仔をただの労働力や食料としてではなく、愛する我が仔として産む野良実装も存在する。 ただの生きた道具として扱われて消費されるよりも、よほど幸せだと言えるだろう。 もっとも、そうした秋仔達の迎える結末が幸せなのかというと、それはまた別問題である。 『これが今日のご飯デス・ ・・』 『・・・ママ、これはご飯じゃないテチ。八女ちゃんと九女ちゃんテチ・・・』 母実装の言葉に、長女が異を唱える。 痩せこけて骨と皮だけになった野良実装一家が、巣の中で家族の死体を前に決断を迫られていた。 季節は冬真っ最中。 備蓄食料が底を尽き、餌を確保出来ない日々が何日も続く中で、家族の中でもっとも小さかった八女と九女が、 とうとう餓死してしまった。 秋仔として初めて産んだ仔達は皆賢く、進んで冬篭りの手伝いをしてくれるほど良い仔揃いだったのに。 これなら家族で冬を越せる、母実装はそう考えていたのだが・・・。 現実は、仔の多さに対して備蓄食料が足りなくなり、揃って餓死一歩手前まで追い詰められていた。 『そんなことは分かってるデス。それでも食べないと、みんな死んじゃうデス・・・』 母実装の言葉に、仔実装達はピクリと身体を震わせる。 栄養不足で思考力が低下しているからこそ、死への恐怖という本能を刺激されたのかもしれない。 これはご飯デス、と言いながらも、母実装は丁寧に死体から服を脱がす。 八女と九女が生きていた頃と同じように。 裸になった死体を母実装は噛み千切り、バラバラにして仔実装達に配る。 噛み千切りながら、母実装は涙を流し続けていた。 『さあ、食べるデス・・・』 テチュン、テチュンと力なく泣きながら、仔実装達はかつて家族だったものを口に含み、噛み、飲み下した。 母実装に苦言を呈した長女でさえ、同様だった。 愛情深い野良実装一家にとっては苦渋の選択だったが、これとて家族が全滅するのを数日先延ばしにすることしかできなかったが。 このように愛情深いが故の悲劇がある一方で、野良実装らしい末路を迎える一家も多い。 『ワタチは生き残るんテチャァッ!』 『お肉になるのはお前らテチィ!』 『高貴で美しいワタチのために死ねテッチャァァァッ!』 仔の数の多さから食料の備蓄が足りなくなり、餌の確保に出て行った母実装が帰らず早二日。 空腹に耐えかねた仔実装達は生存本能、あるいは糞蟲性に従い、 互いに殺し合い喰い合って、結局全滅してしまった。 餌取りに向かった母実装も人間に見つかって駆除されていた事から、 いずれにしろ仔実装達の餓死はほぼ確定していたようなものだったが。 仲良く揃って餓死するか、互いに殺し合って共倒れになるか、あまり大した違いはないのかもしれない。 こうして秋仔達は過酷な運命に翻弄されながら、まだ見ぬ春を待ち続けることとなる。 一体どれだけの数の秋仔が生き残り、春の恵みを謳歌出来るのかは、神のみぞ知るところである。 -- 高速メモ帳から送信

| 1 Re: Name:匿名石 2026/02/07-11:59:08 No:00009887[申告] |
| 野良秋仔に比べてテヴェールは幸せ者だなあ… |
| 2 Re: Name:匿名石 2026/02/09-00:04:24 No:00009888[申告] |
| 秋が夏と冬との只の小休止になってしまった昨今では益々秋仔は冬支度の労働力と滋養としての存在として重要なった感がある
同時に健やかに生活しているテヴェールは自分が野良実装と住む世界が根本から違う事をそこまで認識できていない気もする 飼い主は大変に善良な人ではあるけどそれ故に飼い実装における社会勉強不足の感じがどうしても否めない そこら辺の影響が今後あるやなしや箱庭の幸福を最期まで享受するかも関心どころです テヴェールは良識ある平凡な実装って感じだし非凡で聡明な実装が世界の理不尽に覚醒するとか今際の際で欺瞞気付き絶望死するドンキホーテ的な展開にはならないだろうけど今後どうなるかは気になる点だなって |