とある裁判の取材にて 「被告 本籍 ○○県○○市○○町○丁目○番○号 住居 ○○県○○市○○区○○町○丁目○番○号 職業無職(拘留中) 裏野利明 平成○○年○月○日生まれ 公訴事実。 被告人は、令和○年○月○○日午前11時半頃、○○市○○区○○町○丁目○番○号の被害者自宅敷地内において、 被害者である虹野亜紀代 (6歳)をバールのようなもので殴打し全治2か月の頭蓋骨骨折の重傷を負わせ、 同時にペットの実装石を殺害した。 また、意識を失った虹野亜紀代が所持していた財布及び交通系ICカード(現金114円及びチャージ金額514円)を窃取し、 その上で虹野亜紀代の来ていた衣服を破り不同意性交に及ぼうとしたものである。 罪名及び罰条 強盗致傷 刑法第240条 不同意性交等未遂 刑法第180条 器物損壊 刑法第261条」 淡々とした検察官の口調とは真逆の酷い事件内容に、聞いているだけで気が滅入りそうになる。 何の罪もない幼い少女がいきなり男に襲われ凶器で殴られ大怪我を負わされた上、 レイプまでされそうになったなど、いくら何でもあんまりだろう。 被害者が本格的な性的暴行を受ける前に、たまたま通りかかった警察官に現行犯逮捕されたことだけが唯一の救いか。 とある出版社で実装石関連雑誌の編集に携わっている私は、記事のネタにならないかと安易な考えで取材に来たことを早くも後悔していた。 裁判官の両隣に座る裁判員達の表情を見やると、怒りで顔を赤くしている人、逆に嫌悪感で願を青くしている人、 眉をひそめながらもメモを取っている人と反応は様々だ。 「被告人に尋ねます。今検察官が読んだ公訴事実について、間違いはありませんか?」 検察官と同様、淡々とした裁判長の問いに、被告人はふてくされたように、でも最後のほうは尻すぼみになりながら答えた。 「……違います。俺は糞蟲をぶち殺してやっただけです。強盗やレイプなんてしてない……」 思わず眉間に皺が寄る。 現行犯で捕まったくせにこの男は何を言っているのだろう? 顔を赤くしていた裁判員が唸り声を上げたようだが、咎める者はいなかった。 「弁護人の意見は如何ですか?」 「……被告人は犯行時、被害者を実装石と誤認していたものと思われます。 それはつい先ほどの被告人の陳述からも明らかです。 よって、本件は強盗致傷、不同意性交未遂ではなく、あくまで過失致傷であると考えます」 ……いや、人間の幼女と実装石を誤認などするか? たしかに急に道路に飛び出してきた実装石を子供と誤認して……などという交通事故は何度か聞いたことはあるが……。 私の疑問を余所に、裁判は滞りなく進んでいく。 「検察官、冒頭陳述をお願いします」 「被告人裏野利明は、○○県で生まれ、○○大学を中退。現在は無職で実家暮らしです。 被害者の虹野亜紀代ちゃんは、令和○年○月○○日、自宅の庭で被告人に襲われました。 その日の11時半頃、被告人は公園に住む野良実装複数を撲殺した帰り道、虹野さん宅前を通りかかったところ、 虹野亜紀代ちゃんがベットの実装石とボールで遊んでいるところを目撃し、犯行に及びました。 まず亜紀代ちゃんの頭部を所持していたバールで殴り付けました。 亜紀代ちゃんが倒れた後、ペットの実装石に対して執拗に殴る蹴るといった危害を加えてこれを殺害。 その後、被告人は亜紀代ちゃんが首から下げていたポーチを奪い取り、被っていた頭巾や衣服、下着を破り捨て、 性的暴行に及ぼうとしました。 その際に、ペットの実装石の叫び声を聞きつけた亜紀代ちゃんの母親、明子さんに発見されました。 また、付近をパトロール中だった警察官が現場に駆け付け、被告人を現行犯逮捕しました」 ……聞けば聞くほどひどい事件だ。 顔を青くしていた裁判員が気分悪そうにしていたが、裁判長は淡々と裁判を進めた。 「弁護人、冒頭陳述をどうぞ」 「……事件当日の被告人の行動については概ね認めますが、2点異議があります。 1点目は、被告人は亜紀代ちゃんを実装石と誤認していたという点。 2点目は、1点目を踏まえ、被告人に強盗致傷及び性的暴行を行う意図は無かったという点です」 傍聴席がわずかにざわつく。 そんな滅茶苦茶な理屈がまかり通ると思っているのか、この弁護士は? メモを取っていた裁判員が目を丸くしていた。 他の裁判員も同様だ。 多分私も似たような表情をしていたことだろう 裁判員達や傍聴席の驚き、あるいは呆れを余所に、裁判は進んでゆく。 「検察官は証拠について説明して下さい」 「1番目の証拠は、被告人が犯行に使用したバールです。 2番目の証拠は、被告人が犯行時に使用していたボディカメラです。 3番目の証拠は、ボディカメラに保存されていた犯行時の映像です。 4番目の証拠は、被告人が犯行時に着用していた下着です。 5番目の証拠は、被告人の精神鑑定書です。 これらの証拠に加えて、被害者の母明子さんの証人尋問、被告人を現行犯逮捕した警察官の証人尋問によって、 被告人の強盗致傷、不同意性交未遂、器物損壊を証明します」 被害者本人は証人として出廷しないこととなっている。 被害者の精神の平穏を著しく害する恐れがあるから、というのがその理由だ。 「では、弁護人の立証について、説明して下さい」 「弁護人は、ボディカメラに保存されていた犯行時の映像によって被告人が被害者を実装石と誤認していたことを明らかにします。 さらに被告人質問によって、被告人にはそもそも強盗致傷、不同意性交といった犯行の意図が無かったことを明らかにします」 ……本当に何を言っているのだろうか、この弁護士は。 犯行の意図が無かった? 現行犯で逮捕されておいて? 証拠として映像も残っているし証人もいるのに? 全く訳が分からなかった。 私が困惑している間にも、証拠調べが進められてゆく。 「被告人が使用していた凶器のバールです。 こちらには、被告人の指紋、被害者の血液、 そしてペットの実装石の血液及び肉片等が付着しております」 検察官が提示したバールには、ところどころ血痕が見てとれた。 「次に、被告人が犯行時に使用していたボディカメラと、カメラ内に保存されていた犯行当日の映像です」 プロジェクターに動画が映し出される。 公園と思しき場所の少し奥まった場所に、横倒しになったダンボールが幾つか並んでいる。 「糞蟲ちゃ〜ん、出ておいで〜!出てこないとお家ごと叩き潰しちまうぞ〜!!」 被告人の楽し気な声と共にバールが振るわれ、ダンボールハウスがどんどんひしゃげていく。 『デギャァァァァァァッッ!!』 叫び声と共に、恐怖に耐えかねたのか、別のダンボールから野良実装の一家が飛び出してきた。 親と思われる実装石は腕に何匹か仔実装を抱えている。 抱えきれなかった仔実装が、テェェェンッ、テェェェンッと泣き声を上げながら後に続く。 だが、 「逃げられるわけねえだろうが!」 被告人にあっさり追い付かれて叩き潰され全滅し、地面の染みと化した。 「……裁判長、当該映像はいたずらに被告人への心証を悪化させるだけのものです。 被告人の犯行部分に限って映すことを求めます」 「裁判長。当該映像は被告人が犯行に至るまでの過程を示す重要な証拠です。 このまま確認いただくよう求めます」 弁護士が意見を述べるが、検察官が間を置かずに反論する。 「検察官の主張を認めます。続けて下さい」 結局、裁判長の指示どおり映像が再生され、私達は望んでもいない実装石のスナッフムービーの視聴を強いられる羽目になった。 被告人は最初に叩いていたダンボールハウスにバールをドスドスと突き立て始める。 「いつまでも隠れてるんじゃねぇ!大人しく出てこないとぶっ殺すぞ!」 くぐもった悲鳴が聞こえ、テェェェンッ、テェェェンッと泣きながら二匹の仔実装が出てくるが、 『ヂッ!?』 『チュべッ!?』 被告人はバールを振るってあっさりと仔実装を叩き潰した。 既に原型を保っていないダンボールハウスからは、大量の血が流れ出ている。 あれでは中にいた野良実装達は生きてはいないだろう。 被告人はダンボールハウスを踏み潰すと、まだ中で野良実装が息を潜めているであろう別のダンボールハウスに足を向けた。 『デシャァァァァァァッッ!』 叫び声と共に、手に釘のようなものを持った野良実装が飛び出してくる。 それと同時に、ダンボールハウスの裏手から仔実装が四匹ばかり出てきて、テッチテッチと野良実装とは反対方向に駆けてゆく。 おそらく、母実装が身を挺して妨害している間に、仔実装だけでも逃がそうという腹積もりなのだろう。 『デベァッ!?』 美しい親仔愛と自己犠牲の発露は、母実装がバールの一撃であっさり無力化されたことで無に帰した。 逃げた仔実装達はあっさりと捕獲され、倒れ伏した母実装の目の前に転がされる。 『痛い!いたいテヂィィィーッ!たすけテチュベッ!?』 『ママ、ママァァァァァァチュボアァァッッ!?』 『た、た、たすけチュバッ、?』 『テ、テチュ〜チュブァッ!?』 リンガルで翻訳され、機械音声として出力された仔実装達の悲鳴が法廷に響き渡る。 仔実装達は一匹ずつ、母実装の目の前で踏み潰されていった。 最後の仔実装は媚びようとしたのだろうか? 頬に手を当てて小首を傾げていたようにも見えたが、被告人に踏み潰されて染みになってしまったのではもう分からない。 その後も被告人は野良実装の巣を襲い、野良実装を無惨に殺しては楽し気に笑っていた。 映像だけでも見ていて辛いのに、人語に訳され音声にされると精神的にかなりきつい。 たとえ臭くて汚らしい害獣扱いの野良実装であっても、高い知能を持ち、家族愛を持った生物であることが分かってしまうから。 しばらくして満足したのか、野良実装の惨殺死体をそのままに、被告人は公園を出て歩いて行く。 おそらくは自宅に帰るのだろう。 住宅街を歩いていると思しき風景がしばらく続くと、楽し気な幼い女の子の声と、 実装石 のものらしきデスデスという鳴き声が聞こえてきた。 「糞蟲如きが楽しそうにしてんじゃねえよ……!」 吐き捨てるように言う被告人の言葉。 ここまで被告人が実装石を憎悪する理由は一体何なのだろうか? ボディカメラの映像に、被害者の亜紀代ちゃんと飼い実装がボール遊びをしている様子が映し出された。 亜紀代ちゃんも飼い実装も、共に笑顔でボールを転がし合って遊んでいる。 亜紀代ちゃんは緑のフードを被り、これまた緑色のワンピースに身を包んでいる。 お揃いの恰好をしていることからも、飼い実装とは非常に仲が良いことが伺えた。 門扉を開いて被告人が庭に侵入すると、亜紀代ちゃんは不思議そうに被告人を見上げた。 そんな亜紀代ちゃんの頭に、被告人は無造作にバールを叩きつける。 亜紀代ちゃんの額が割れ、血が飛び散った。 そのまま悲鳴も上げずに、亜紀代ちゃんはぱたりと倒れる。 頭部から大量に出血し、ぐったりしてぴくりとも動かない。 『デッ!?デギャァァァッ!?ご主人サマァァァッ!?』 泣き叫ぶ飼い実装に、被告人は思い切り蹴りを叩きこんだ。 『デブァッッ!?』 「うるせんだよ糞蟲が!そこで大人しく見てろ!」 そういって亜紀代ちゃんの元へと向かおうとする被告人だったが、飼い実装がその足に組み付いて離そうとしない。 『や、止めるデス……!ご、ご主人サマにひどいことしないでデスゥ……!』 内臓が破裂したのだろう。 口から血反吐を吐きつつも、飼い実装は亜紀代ちゃんを守ろうとしていた。 「糞蟲風情が……!邪魔なんだよ!」 被告人は何度も何度も飼い実装を踏みつける。 片腕が取れ、足が千切れ、胴体を半ば潰されてもなお、飼い実装は逃げようとしない。 「いい加減うぜぇんだよ!」 『デゲァバッ……!?』 遂には被告人にバールで頭を叩き割られて、飼い実装は死んだ。 死してなお、飼い実装の残った腕は被告人のズボンの裾を掴もうとしているように、私には見えた。 「余計な手間をかけさせやがって……!」 そう言いながらも被告人は倒れ伏した亜紀代ちゃんに近寄る。 血塗れになった頭巾を剥ぎ取り、投げ捨てる。 来ていたワンピースに手をかけ、強引に破ってゆく。 ボディカメラのマイクには被告人の興奮した荒い息遣いと布が裂ける音だけが響く。 被告人が亜紀代ちゃんのパンツに手をかけ、これも引き千切ろうとしたところで、女性の悲鳴が響き渡った。 「あ、亜紀代!?いやああああああああああああっ!!」 被告人が悲鳴の聞こえる方へ振り向くと、そこには顔面蒼白となった亜紀代ちゃんのお母さんがいた。 「動くな、警察だ!武器を捨てろ!」 そのすぐ後に制服を着た警察官が現れる。 「あ、えっ・・・?」 被告人の間抜けな声がマイクに入ると同時に映像が激しく揺れ動き、途絶えた。 警察官に組み伏せられた際の衝撃で、録画が止まったのだろう。 ……野良実装のスナッフムービーに加えて幼女に対する性的暴行未遂の映像まで見せられたおかげで、 ものすごく気分が悪かった。 おそらく他の傍聴人や裁判員も同じ気持ちだっただろう。 証人尋問は翌日に持ち越された。 証人尋問:被害者の母親 型通りのやり取りの後、亜紀代ちゃんの母親、虹野明子さんへの証人尋問が始まった。 まずは検察官からの尋問からだ。 被害者の当日の恰好、所持していた凶器、亜紀代ちゃんが被害にあっていた状態につい て、検察官が明子さんに質問する。 明子さんの証言は、昨日見せられた映像とほぼ一致していた。 検察官は尋問内容に合わせてバールやボディカメラといった証拠を提示する。 その中でも、亜紀代ちゃんへの暴行時に射精した精液が付着した被告人の下着が提示された際は、生理的嫌悪感を抑えるのに多大な苦労を要した。 不可解だったのは、弁護人からの質問だった。 「被告人の様子ですが、虹野さんから見て如何でしたか?」 「……一目見て、異状でした」 「異状とは?どのような状態だったか具体的に教えていただけますか?」 「目が血走っていて、すごく興奮していたようでした……」 「被告人は勃起していましたか?」 「……いえ、それは、わかりません……」 「つまり被告人が性的興奮を覚えていたか、亜紀代ちゃんが性的暴行を受けていたかどうかは分からない、そういうことでよろしいですね?」 「異議あり。弁護人の主張は誘導尋問に該当します」 「検察官の意義を認めます。弁護人は質問内容に注意して下さい」 弁護士はあっさりと引き下がった。 やる気があるのかないのかよく分からない弁護士だな……。 証人尋問:被告人を現行犯逮捕した警察官 検察官の尋問に、まだ若く実直そうな男性警察官がよどみなく答える。 「事件当日のあなたの行動について教えて下さい」 「はい、事件当日ですが、私は交番で勤務しておりました。 公園近くに住んでいる住民の方から、公園で虐待派が暴れているので何とかしてほしい、 との相談を受けて公園へと向かいました。 公園に到着した時点では既に人影は無く、念のため公園の奥まった場所、野良実装が巣を設けていそうなところを確認したところ、 野良実装の死骸が多数転がっている状態でした。 虐待派はすでに引き上げた後だと判断した私は、血痕を辿って虐待派を追うことにしました。 その最中、女性の叫び声が聞こえたので現場に急行したところ、血の付いたバールを所持して、 服が破けた状態の女の子に覆いかぶさっていた被告人を発見したので、暴行、傷害の現行犯として逮捕しました」 検察官からの質問は警察官の証言の細部を補足するものに終始していた。 また、警察官の答えはいずれも映像と矛盾のないものだった。 「弁護人、どうぞ」 「逮捕時の被告人はどのような状態でしたか?」 「……目が血走っており、ひどく興奮した様子でしたが、特に反撃されることもなく、簡単に確保できました。 正直なところ、手にしていたバールで殴り掛かられることを覚悟 していたため、拍子抜けしました」 「ほかに何か、被告人の行動におかしな点はありませんでしたか?」 「……取り押さえた際は、ひどく動揺した状態でした。俺は悪くない、俺は糞蟲を殺しただけだ、 と何度も言っていたのを覚えています」 「逮捕の際ですが、被告人が勃起していたかどうかは覚えていますか?」 「……いえ、そうした点については記憶にありません」 「分かりました。質問を終わります」 ……何だろう、この弁護士はやけに妙な点にこだわるな……。 鑑定人尋問:被告人を精神鑑定した精神科医 ……何やらよく分からない専門用語が飛び交っていたが……。 とりあえず、被告人には精神疾患その他の異状は確認できない点、また責任能力についても問題ない事だけは分かった。 被告人質問 「では、被告人質問を行います。弁護人、どうぞ」 「弁護人からお聞きします、あなたは、今裁判を受けている強盗致傷、不同意性交未遂の犯人ですか?」 「……いいえ、違います」 弁護人の質問と、やはり不貞腐れた感のある被告人の回答に、私は驚きよりも呆れを覚えた。 「しかし、あなたは現行犯逮捕されています。あなたの行為が何かしらの犯罪に抵触したからではないのですか?」 「……俺はただ糞蟲をぶち殺してやっただけです。犯罪なんてしていない……」 ……いや、害獣だからって無闇に殺すのは動物愛護法だか鳥獣保護管理法だかに抵触するんじゃないかな? 「あなたの言う糞蟲とは何を指しているのですか?」 「……実装石のことです」 「何故実装石の事を糞蟲と言うのですか?」 「……あいつらはそういう性質だからだよ」 「……質問を変えます。実装石が糞蟲呼ばわりされる理由について教えて下さい」 「見りゃ分かるだろ。あいつらは臭くて汚くて五月蠅くて、その上性根が腐りきってるからだよ。 無様な下等生物のくせに人間様を見下して奴隷呼ばわりするわ、媚びて餌にありつこうとするわ碌なもんじゃない!」 何か突然スイッチがはいったように饒舌になった被告人に、私はひどく気味が悪いものを感じた。 「しかし、実装石の中にはペットとして飼われている個体も数多く存在しますよね?」 「だから何だよ。飼いだろうが野良だろうが糞蟲は糞蟲だろうが!糞蟲なんだからぶっ殺されて当然なんだよ!」 「……実装石はすべからく糞蟲である、と。だから帰り道でたまたま見かけた飼い実装でも殺して良いと考えていたわけですか?」 「ああ、そうさ。たとえ飼いでも糞蟲は糞蟲だ。むしろぶっ殺してやったことに感謝して欲しいくらいだね」 「……あなたが襲って殺そうとした飼い実装は何匹でしてたか?」 「……2匹だ」 「本当に2匹でしたか?間違いはありませんか?」 「……しつけえな。間違いなく2匹だったよ……」 「あなたは1匹目の実装石を殺した後に、ええと、2匹目の実装石のポーチを奪った後、 服を破いていましたが、これにはどんな意味があったのでしょうか?」 「糞蟲共は服や髪を奪われるとものすごいストレスを覚えるんだ。身体と違って2度と再生しないからな。 だから精神的に追い詰めてから殺してやろうと思ったんだよ」 「ポーチを奪ったのも似たような理由からでしょうか?」 「ああ、糞蟲共は自己顕示欲の塊だからな。他の糞蟲共に自慢できるアイテムには髪や服と同じくらい固執するんだ。 一目で飼いだと分かるような首輪やポーチなんかには特にな」 「ポーチはあくまでも実装石が保有しているものと認識していた、そういうことでよろしいでしょうか」 「……ああ」 「わかりました。弁護人からの質問を終わります」 「それでは、検察官、どうぞ」 「あなたは先ほどの弁護士からの質問において、たまたま見かけた飼い実装2匹を糞蟲だと思ったから殺害した、と回答していましたね?」 「……ああ」 「あなたは実装石の生態についてずいぶん詳しいようですね」 「……まあな」 「一般的な成体実装の身長がどれくらいの大きさは知っていますか?」 「だいたい40cmくらいだ」 「あなたが最初に殺害した実装石の大きさはどれぐらいでしたか? また鳴き声はどのようなものだったか覚えていますか?」 「大きさは40cmぐらいだった。デスデス耳障りな汚い声で鳴いていたよ」 「ではもう1匹の、あなたがポーチを奪い服を破っていた実装石の大きさはどれぐらいでしたか?」 6歳の女児の身長は、小さめの子ですら100cmを超えるはずだ。 成体でも40cm程度の実装石と間違えるなど、普通はありえないだろう。 「……分からない。覚えてない……」 「覚えていない?おかしな話ですね。まずは精神的ダメージを与えるために服を破りポーチを奪ったんですよね? そうした手順はしっかり覚えているのに、実装石の大きさは覚えていないと?」 「……ああ、覚えていない……」 「本当は分かっていたんじゃありませんか? 40cm程度の実装石と、100cmを優に超える人間の少女を混同するなんてありえませんよ。 例え実装石とよく似た服を着ていたとしてもね」 検察官の言葉に、被告人は言葉を詰まらせた。 「あなたは人間の少女だと分かった上で襲い、自分の性的欲求を満たそうと考えたのではありませんか? 証拠品のあなたのパンツに付着していた精液は、その際に興奮して射精したものではないのですか?」 「異議あり。裁判長、検察官の質問は事実と推定を混同させている上に、裁判員に被告人に対する悪感情を植え付けかねません。 質問として不適当です」 「裁判長、本質問は犯行時の被告人の状況をより明らかにすることを目的とするものです」 「異議を却下します。質問を続けて下さい」 「質問を続けます。被告人は実装石を虐待する際に性的興奮を覚えますか?」 「……は?」 「過去、実装石を虐待している最中に、勃起や射精に至った経験はありますか?」 「あるわけないだろ!俺の事を変態だとでも言いたいのかよ!?」 「わかりました、実装石を虐待しても性的興奮を覚えることはないのですね」 「当たり前だ!ジックス野郎共と一緒にするんじゃねぇ!」 「では、証拠として押収されたあなたの下着、パンツですが、これには押収時点では乾ききっていない状態の精液が付着していました。 その理由について教えてください」 「……いや、分からない……」 「あなたが実装石だったと主張している少女、亜紀代ちゃんに暴行を加えようとしている最中に興奮して射精に至ったのではありませんか?」 「異議あり。裁判長、検察官の質問は推論の押し付けです。質問として不適当です」 「裁判長、本質問は犯行時の被告人の認識を明らかにすることを目的とするものです」 「異議を却下します。質問を続けて下さい」 「質問を続けます。弁護人からの質問の際、あなたは精神的ダメージを与えるためにまず髪や服を奪おうとした、 と回答していましたね?」 「……ああ」 「しかし、ボディカメラの映像からも分かる通り、あなたは服を破くだけで髪の毛には手を出していませんよね。何故ですか?」 「……服を破くのに手間取ったから……」 「実装石の服は成人男性なら容易に破ける程度の強度しかありませんよ。実装石の生態に詳しいあなたなら分かるでしょう? それに、被害者の髪色は黒です。実装石の亜麻色の髪と見間違えるとは考えられません」 「……あ、あいつは黒髪実装だったんだよ……!」 「黒髪実装?」 「そ、そうだよ!あいつは馬鹿で変態なクソ愛護派が糞蟲に生ませた黒髪実装だったんだ!」 傍聴席にいる何人から失笑、又は嘲笑が漏れる。 そんな戯言が通じると本当に思っているのだろうか? 「あなたの言う黒髪実装は、人間の幼稚園児並みに大きくなるものなのですか?」 「糞蟲共のでたらめな生態なら有り得るかもしれないだろ!?」 でたらめなのはお前の言い訳だろうが、と喉元まで出かかるがなんとか堪える。 「先ほどからのあなたの発言では、たびたび愛護派に対する非難が含まれていますね。何故ですか?」 「あんな糞蟲共を愛護するなんてそもそも頭おかしいだろ! こっちがわざわざ糞蟲共を駆除してやってるのに、可哀そうだのなんだの言って邪魔してきやがって! 糞蟲を愛護する奴らも糞蟲だ!」 「だから実装石と同じように甚振ってもいいと?」 「ああそうだよ!なんたって糞蟲なんだからな!糞蟲は駆除するべきだろうが!」 視界の端に弁護士が天を仰ぐ姿が映った。 あくまで被告人は被害者を実装石と誤認して襲ったのだと主張したかっただろうが、 先ほどの被告人の発言では、人間だと分かった上で実装石扱いして襲ったということになりかねない。 「別の質問に移ります。あなたは何故ボディカメラを着けて撮影をしていたのですか?」 「……ぶち殺してやった時の様子を後で見返すためだよ」 「それだけですか?」 「は……?」 「あなたは以前にも実装石を虐待して、その様子をボディカメラで撮影し、その様子をネット上の掲示板にアップロードしていましたよね?」 「……それがなんだよ?」 「あなたは亜紀代ちゃんに性的暴行を働き、その動画を後日見返して楽しもうとしただけではなく、 児童ポルノとして売ろうと考えていたのではないですか?」 「な!?俺はそんなこと……!」 「そんなことは考えていないと?本当に?児童ポルノは金になりますからね。無職のあなたには良い小遣い稼ぎになるはずだ」 「裁判長、検察官の主張は憶測にすぎません。被告人が被害者の映像を児童ポルノとして扱おうした事実はありません。 このような検察の主張は悪質な印象操作です」 「異議を認めます。検察官は質問内容に注意して下さい」 「承知しました。では別の質問に移ります。 あなたは被害者からポーチを奪い取っていますが、その理由は何故でしょうか?」 「……さっきも言ったとおりだよ。糞蟲共は飼いだと分かるような物に固執するからだ」 「あなたの言う愛護派が、自身の飼っている実装石が迷子になった時に備えて、 連絡用その他のためにポーチの中に幾らか現金や電子マネー、連絡先を持たせていることは知っていますね?」 「ああ、愛護派は無駄に金を持っていることが多いからな。糞蟲ごときのために無駄金を使うなんてどうかしてるぜ」 実装石の事になると妙に得意げに話す被告人に、弁護士はがっくりと項垂れた。 被告人は自身の発言が、自身にかけられた強盗の嫌疑を補強するものだと最後まで気付かなかったようだ。 「質問を終わります」 弁護士とは対照的に、検察官は終始落ち着き払った姿勢を崩さなかった。 検察官論告、求刑 「検察官は、被告人が被害者を人間だと分かった上で襲い、不同意性交に及ぼうとしたことを十分に立証できたと考えます。 その理由を述べます。 1、被告人は実装石の生態について一定以上の知識を有していること。 2、このことから、被害者と実装石を誤認したという被告人の主張には信ぴょう性がないこと。 3、被告人は実装石のみならず、実装石の愛護派や飼い主といった人間にも強い憎悪を抱いていること。 4、このことから、被告人が被害者を襲う十分な動機があったこと。 5、被告人は被害者の所持していたポーチの中に現金等が入っていると考えた上で奪取に及んだこと。 以上の事から、被告人は故意に被害者を襲い、金品を奪い、かつ不同意性交に及ぼうとしていたものと考えられます。 次に、情状について述べます。 1、強盗致傷は、金品を奪うために暴力を用い、人に怪我を負わせる重大かつ悪質な犯罪です。 2、被害者の少女は、全治2か月の重傷を負い、また大事にしていたペットの実装石を殺されました。 3、被告人には、これまで前科はありません。 最後に求刑ですが、強盗致傷は無期拘禁又は6年以上の拘禁と定められています。 同様に、不同意性交未遂は無期拘禁又は6年以上の拘禁。 加えて、器物損壊は3年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金もしくは科料と定められています。 以上に加えて、被告人にこれまで前科が無い事を考慮し、 拘禁10年を求刑します」 弁護人弁論 「弁護人は、本件は過失傷害罪の適用が妥当であり、強盗致傷及び不同意性交未遂の適用は不適当であると考えています。 その理由は以下のとおりです。 1、被告人は、被害者の着ていた服装から、被害者を人間ではなく実装石だと認識していた可能性が否定できないこと。 2、過去、交通事故等において、実装石を人間の子供と誤認した事例が複数あること。 3、不同意性交未遂の証拠として提示された、被告人の精液が付着したパンツについて、 被告人がいつ射精に至ったかが明確にされておらず、証拠としての信頼性に疑問があること。 4、被害者の母親及び警察官の証言からは、犯行当時被告人が勃起していた等性的興奮状態であった事を客観的に立証できないこと。 5、被害者からポーチを奪った行為は、あくまで実装石に対する虐待行為の一環であり、 強盗の意思は無かったこと。 以上のことから、疑わしきは被告人の利益に、の原則に基づき、 被告人には過失傷害罪及び器物損壊罪の適用が妥当であるものと考えます」 被告人の最終陳述 裁判長が被告人に質問した。 「被告人は最後に何か言っておきたいことはありますか?」 「……俺は糞蟲をぶち殺してやろうと思っただけです。悪いことなんて何もしてない……」 「……被害者やそのご家族に何か言うことはありませんか?」 「なんで俺が愛護派如きに頭を下げなきゃならないんだよ!?」 はぁぁ、と誰かの重たい溜息が聞こえてくる。 溜息の主は弁護士だった。 ここで「被害者やそのご家族にお詫びしたい」とか「被害者には一生かけて償います」と言えれば、 少しくらいは量刑が軽くなったかもしれないのに。 結局、最後まで被告人の口から謝罪の言葉はなかった。 判決 判決は、検察官の主張のとおり拘禁刑10年となった。 理由を要約すると、 ・被告人の態度、証言等から、愛護派に対する憎悪及び積極的な加害の意図があることは明らかであること。 ・実装石と人間の少女を誤認した、などという被告人及び弁護人の主張は信用できないこと。 ・被告人の証言、犯行時の言動等から、被害者に対して故意かつ積極的に危害を加える意図があったことは明らかであること ・また、同様に被告人の証言や証拠等から、被告人には被害者に対する不同意性交の意図があったことは明らかであること。 ・被告人の態度に反省がほとんど見られないこと。 検察の主張どおりの判決が出た際、被告人は奇声を上げて暴れ始め、刑務官に取り押さえられながら連れて行かれた。 訳の分からない事を叫び散らして拘束される姿は、被告人が忌み嫌うはずの糞蟲を彷彿とさせた。 被告人は控訴するのだろうか? あの様子ならばきっとするだろうな。 あるいは本当に被害者の少女を実装石と誤認していたのかも。 いずれにしても、人様に迷惑をかける虐待派なんて連中はどうしようもない輩なのだから、 刑務所にぶち込んで社会から隔離しておくのが似合いなのかもしれない。 さて、一審とはいえ判決が出た。 問題は、この事件をどうやって読者受けのいい記事にするかだ。 無様な虐待派を嘲笑う方向性にするか。 それとも飼い主の少女を身を挺して守ろうとした飼い実装の美談として扱うべきか……。 うん、やはりここは後者だろうな。 読者層はいわゆる愛護派が多いし、このような美談は非常に読者受けがいいだろう。 予想通り、私の書いた美談めいた記事は大いに受けた。 スポンサーでもある実装関連企業からは内々にお褒めの言葉をいただいたし、ボーナスにもかなりの色が付いた。 世間での実装石の売り上げが伸びたかは分からないが、今まで売れ残ることが多かった成体実装がそれなりに買われるようにもなったそうな。 オフィスのデスクでメールに目を通しながら、次の記事のネタを練っていると、スマホの通信アプリに着信があった。 メッセージの送り主の名前に、思わず口元が綻ぶ。 実装石についてはこの際どうでもいいだろう。 今の私には、かわいい年下の彼氏君からのデートのお誘いのほうが、よっぽど重要だったから。

| 1 Re: Name:匿名石 2026/01/17-18:32:28 No:00009871[申告] |
| 裁判の傍聴をする人の中にはこの話の主人公のような物書きも多いのかも。それと被告弁護人のやる気があるのか無いのかわからないところにもおシゴト感が出ていて妙なリアリティがある。しかしこの被告人はもしも実装石が存在しなくてもいずれ何らかの凶悪事件を起こしていたことと思う。事件中の飼い実装の善良さと、飼い主に対する忠義立てがほんの少しの清涼剤か。
これもまた実装関連企業のメディア戦略。実装石に関わる者の幸も不幸も商売のきっかけ飯の種。しがない物書きにすぎない主人公は今日も今日とて実装関連企業の繁盛の片棒を担ぐ。乙です。素晴らしい! |