「テチュ?テチャ!」 毎度思うが粗悪な業者の最低値実装石通販は凄まじい。 なんとダンボールの中にそのまま眠った仔実装が緩衝材も無しにぶち込まれている。 一応光が入らなければ目が覚めないような細工を実装側に施しているようではあるが、なんともまあ、なんとも。 丸まって乙女チックなポーズらしき姿勢で固まっていたその不細工で惨めな姿の小人は、目覚めるなりゆっくりと目を擦って、 光に眩しがりながらも目にした俺の姿に興奮しているようだった。 「テッチュン♪テッチュン♪」 見苦しく手足をバタバタイゴイゴさせて喉からモニャモニャした奇妙な歌を熱唱する。 なんて無様なヲドリとオンチなお歌。 ご主人様か奴隷か知らんがこっちを、人間という存在を「楽しませてやっている」的なドヤ顔を少ない表情筋を歪めて自信たっぷりに浮かべて、誇らしげにしている。 歌詞はわかる。 大体伝わる。 従順な個体ならワガママしないテチ~とかで、糞蟲なんならワタシを崇めるテチ~みたいなもの。 リンガルを使っていた時期はそういったものの例外探しに熱中していたが、そんなもんがほぼほぼいない事を知った今となっては……。 「テッチュン⭐︎」 決めポーズも大体が変形お愛想だ。 片手でパンツを見せる形でキメているあたりこいつは色ボケの傾向があるらしい。よくいる個体だ。 まあ、総排泄腔を見せる形でラストをキメる、所謂トキメキ⭐︎アヌス型を知ると嫌悪感もあまりしない。 「テチ?テェェン!」 ペタペタと水槽の壁面に顔面をペタペタやってペチペチと叩く。水槽がご不満な辺り、密なふれあいを求めているらしい。 ヲドリに夢中しすぎて俺が適当につまみあげて水槽の中へと導いた事にも気づいていなかったのだから、よっぽど熱心に歌いヲドっていたんだろう。 頭が悪いのだ。 俺の無感動な様子にも気づいたのか、いかにも「ねえ!触れ合って!可愛い実装石はここだよ!」的な鳴き声を上げている。 従順な個体でも糞蟲でも同じ。構ってちゃんの実装石が行うワンパターン。 …… 哀れな仔実装がこの家にやってきてかれこれ三十日目。 脱臭器のファンが低く唸る音だけが部屋の静寂をわずかに汚していた。 仔実装はもう踊っていなかった。 最初は必死だった。何度でも「テッチュン! テチャ! テチャア!」と甲高い声を張り上げ、渾身の実装ダンスを披露していた。 それももはや行う気がなくなったらしい。 ご主人様である男はといえば、仔実装を見たかと思えばすぐに視線を外して生活に戻る、という動きを繰り返した。 仔実装が見ているのを確認した上で無視して、踊り出せばこれ見よがしに家を空ける。 寝ぼけ眼になる夕暮れ、うとうとして意識を失いかけた仔実装が眠るか眠らないかの間にのみエサを水槽へ突っ込む。 『わざとお前を無視してるよ』そう伝えるような具合で、飼い主の男はみっちりと仔実装を責め苛んだ。 仔実装は今、壁面に顔を押しつけ、緑と赤の濁ったオッドアイをぎらぎらさせながら寝転がっている。 ただ、力なく指のない先がミトン状になった円筒の手でアクリル製の薄板をペチペチ叩き続ける。 虚無と頽廃の香りが漂う。 かつての興奮しすぎて尻からドロドロの排泄物を垂れ流しながら「見てよ」とばかりに踊り狂っていた姿はどこへやら。 ぷるぷる、と小刻みな震えの中で、時々壁面に額をぶつけては「テチュ……?」と弱々しく鳴くだけ。 与えられた実装フードはいつも半分以上残している。 味が気に入らないのか、それとも別の理由かで少しかじっては投げての繰り返し。 水もあまり飲まない。食べる気にも、飲む気にもならない。 三十日目の夜。 仔実装は水槽の隅で丸くなっていた。 かつて意識的に眠る際に取っていた「かわいい乙女チックなポーズ」らしきものは崩れ、ただの見苦しい肉の塊のような姿勢で縮こまっている。 緑の服は糞で汚れ、数日前まで何日も続けていたダンスで振り乱し過ぎた髪は絡まり、流し過ぎた汗に含まれていた脂でべっとりと肌へ張りついている。 呼吸は浅く、時々ピクッと全身が痙攣する。 そのうち、ゆっくりと顔を上げた。 濁った瞳にはっきりと「怒り」が灯っていた。 「……テチャ」声は掠れて憎しみを孕んでいる。 「テチャ……テチャ……テチャアアアアアアアアアアッ!!」ぺちんっ 突然に火が付いたかのように動き出して、水槽の壁に全身を叩きつけるように四つん這いで激突した。 指のない冗談みたいな実装お手々で壁を殴り、頭を打ちつけ、尻から勢いよく汚物を噴射しながら、 「もういい加減見てよ!はやく構ってよ!ほら、かわいい実装チャンがこんなに怒ってるんだよ!!」 仔実装はそんな類の事をきっと叫んでいた。 皿に残ったフードを掻き散らし、トイレにある自分の排泄物を掴んで壁に塗りたくる。 自分が汚れてもお構いなしで必死で、必死で、怒りをアピールする。思いつく限りの良くない事を繰り返して、騒ぐ。 水槽のうすいアクリル壁一つを隔てて見えるご主人様はいつものように自分なんていないかのよう。 「なんで、なんでわざとらしく無視するの、かわいい実装チャンがこんなに怒ってるのに!?」 緑と赤の目が血走り、口角から白い泡を吹きながら、 「テチャアアアアアア!! テチャアアアアアアアアアアアア!!」 仔実装は人生最大級の甲高い金切り声を上げ続ける。 ご主人様はそれを聞いて一瞬動きを止めかけて、すぐに実装石が居ないかのように振舞ういつもの行為をする。 白々しく意地悪な行為。ぺちんっぺちんっというアクリルに肉をぶつけるマヌケなが水槽を揺らし続ける。 だが、こんな最大限の怒りの表現も、傍から見れば滑稽な道化じみたものだ。 なにせ、数度の癇癪を一通りすればすぐ真顔になってご主人様の方向へチラチラと様子を伺っているのだから。 音が止んで水槽の中が静かになった。仔実装は疲れ果てたらしい。 尻から漏らし続けた汚物の山の上で大の字になって倒れて動かなくなっている。 結局、やっぱりご主人様はまともな反応なんかしない。 水槽を自分が望む形では見てくれない。 「……テチアアアア」 惨めったらしい弱気な鳴き声で、仔実装は嗚咽する。 仔実装は知らない。 ご主人様は、水槽内に仕掛けた監視カメラで仔実装の様子を監視し、楽しんでいることを。 ご主人様は知っている。 ありとあらゆる実装石が本能の奥底から最も深く恐れるのは人間に嫌われる事でも、虐待を受ける事でもないと。 「無視」「無関心」「無感動」「敬遠」 実装石というかまってちゃんな動物モドキが秘める恐れとは、人間から無視される事。 前者二つの完全な無視以上に後者の二つを恐れるのだと。 ……それこそが、実装石という生き物を根底から壊す猛毒。 仔実装は沈むほどの猛毒の毒沼に沈められ、溺れかけていた。 ……水槽の右上、監視カメラの赤いランプがただ一点冷たく瞬いていた。 ご主人様はスマホ越しに監視画面を眺めながら缶ビールをちびりとやる。 実装の苦しみは、面白い。 汚物の上でオッドアイを充血でほとんど黒っぽくして、口をぱくぱくと半開きにしながら涎と嘔吐物を思い出したように吐く姿。 汚物が口から糸を引いて垂れ、時々「テッ……テチッ……」と乾いた息が漏れるだけ。 多くの実装石がこうなるのを見て来た。 この姿へと、追い込まれるのを。 虚無的で生命らしさのないその姿にこそ真実味をご主人様は覚えていた。 その上で、顔は何かを欲しがるような、絶対的に何かを求めているような、そういうたぐいのどろどろとしたものが覗いている。 異様に感情表現が活発な実装石という存在の、本当の姿を見るようで、これが大好きだった。 ただ、虚ろな瞳で天井を見つめ、ごくごく小さな声で、 「テチ、テチ、テチ」と、繰り返している。 命の危機もなければ虐待の恐れもない環境。 さみしければ仔でも成して蛆でも産めばよかろうに。 絶望しているなら自死でも選べばよかろうに。 意図して無視される、という環境から「もしかすればニンゲンサンが見てくれるかも」という期待が消えず残る 諦めた上で行う選択肢への優先順位が抜けて落ちていく。 意図して無視しているのだから完全にいないとは思われていないんだ、だから、と考えて動き続ける。 楽しそうに踊って歌ったり、悲しそうにしたり、怒ったり ニンゲンサン見て見てここに実装石がいるよ、そんな主張の繰り返しにのみ占有される行動原理。 本来、実装石とは頑丈な存在だ。 痛みにも飢えにも耐えられて、あらゆる負傷に骨折どころか内蔵の欠損さえも自然に治るほど治癒力が高い。 しかし、殴られても蹴られても、糞を食わされても、盛大に泣いて転げまわって、オロロンオロロンと哀しみを主張する。 どうせ治る傷なんか、その時その時は痛くとも大した苦痛でもないと本当は知っているだろうに。 そんなものお前らにとってすぐ直る程度のものでしかないだろうに。 まるで与えられた役柄を全うする役者のように、大多数の実装石は少しでもいじめられればすぐに苦しいワタシをどこまでも顔やしぐさに浮かべる。 そんな実装石たちの姿を何度も見続けてご主人様は思った。 例えば、加虐されるたぐいの虐待なんかを受ける時、実装石の心の深いところは笑って「デッスン♪」と跳ね回っているんじゃあないか、と。 今、水槽の中で仔実装が迎えているような「まともな形で見向きもされない実装石」の姿を何度も見てきた彼は、その無気力で弛緩しつつも渇望している、複雑に矛盾した姿こそ実装石の本当の姿だと考えるようになっていた。 まるで遊ばれるのを待っている玩具や出来損ないのぬいぐるみのような、そんな力ない姿。 彼は実装石が人間に愛されたかった出来損ない玩具を祖先に持つとされる都市伝説を信奉していた。 でなければ、人間が意図的に無視をする、なんていう状況へここまでの弱さを発揮するはずがない。 あんな顔に、なるはずがない。 …… 三十一日目の朝。部屋はまだ暗い。 カーテンの隙間から差し込む街灯の光だけが、水槽の底に薄汚れた縞模様を描いている。 仔実装は動かないし動けない。 昨夜に吐いていた嘔吐物が頬に張りついたまま乾き、緑の髪と混じって固まっている。 呼吸はまだあって胸がほんのわずかにだが上下している。 「テチ」とすら鳴かない。 ただ、開いたままの乾きかけた瞳が天井を睨んでいた。 緑と赤のオッドアイは完全に濁りながら焦点を失ってまるで死んでいるかのようだ。 ご主人様は布団の中でスマホを開いた。 監視カメラの映像は変わらず、赤いランプだけが規則正しく点滅している。 仔実装が昨夜の汚物の山の上で横たわったままで微動だにしない。それを見て小さく笑った。 「そろそろかな」 彼は布団を蹴って立ち上がり、冷蔵庫から缶コーヒーを取り出して蓋も開けずに水槽の前に立った。 ぴくり、と仔実装の瞳がかすかに動いた。 ご主人様の到来に反応したのだ。 まだ完全に死んではいない仔実装は自分へのニンゲンサンの関心に対して反応を返そうとする。 しかしこれまでがこれまでだから、仔実装はもう何をすればいいのかわからない。 「……テ……」掠れた、乾いた、呼吸の音のような声。 ご主人様は缶コーヒーを開け、音を立てて一口飲むと、ゆっくりと水槽に顔を近づけた。 「おはよう」 ご主人様の挨拶。それを聴いた仔実装の瞳がぎょろりとご主人様に向けられる。 怒りも悲しみもない。ただ、深い、底なしの執着だけが潜む目だった。 言葉にすればきっと「媚び」だ。 何か、何か反応しなきゃ、と動こうとする仔実装。だが動けない。 先程までもう死ぬ準備をしていた身体はすぐに動かない。 今になってほしかった物が、自分に対するニンゲンサンの関心が与えられている状況に脳ミソが何を思っているかさえ不明瞭なくらいに、頭も回らない。 少しでも長く見てほしいという欲求をようやく知覚する。 仔実装に一種のやる気のようなものが湧き出る。 けど、 なんで? ただ、アクリル越しにご主人様は仔実装の顔をじっと見つめ返していた。 「……テ……」仔実装の口がかすかに動く。疑問を口に出そうとした。 次の瞬間に仔実装の体が小刻みに震えた。 最初は腕、胴体、首、そして顔全体に電流が通ったように痙攣し始める。 動かなくなった時、その瞳は完全に裏返り、 仔実装はもうただの肉塊になっていた。 ご主人様はしばらくそれを眺めてやがて小さくため息をついた。 「……何を言おうとしたのかはわからないけど、それが実装石ってものだよ」 僅かすぎる表情の変化を受け取って、彼はもう届かない返答をおくる。 そうして水槽の自動洗浄システムをオンにすると、大分ンクから大分の水が流れて実装石を洗い流した。 彼はスマホを手に取り、粗悪業者の通販サイトを開く。 手慣れた動作だった。 「たまんねえんだよな」と呟きながら、カートに新しい仔実装を放り込んだ。 中古コーナーの実装石の中でも安い個体。 【激安!訳あり仔実装石】 『甘やかしすぎてやや性格が破損気味ですが、元気です。トラブル防止のためプレイ用とさせていただきます。即購入歓迎』 流れ作業のように「購入する」をボタン押す。 送料込みでそれはたったの300円。 『あの表情』の値段にしては、安すぎると思った。 (終わり)

| 1 Re: Name:匿名石 2025/12/08-00:52:02 No:00009842[申告] |
| 某令和の超大作に影響を受けた感じ…
構ってもらえなくてパキンさせるには、上げてから落としたい所。 個体によっては餌を食べて寝て起きて、尻を弄り倒す虚無の一生を普通に過ごしそう。 |
| 2 Re: Name:匿名石 2025/12/08-22:59:28 No:00009843[申告] |
| ネグレクトを装ったナニか
実装石が本質的望むものは決して与えられる事のない心の砂漠 この状況を作り出している作為にすら一縷の望みを見出し深みに嵌まって様は虐待の1つの極北にも感じる この熟れた匙加減に至るに男はどれだけの実装の身体と精神をすり潰てきたのだろう |