平和を守っていいですか? あんなこと、しなきゃ良かった! 元飼い実装のミドリは、本気で後悔していた。 彼女にフラれて落ち込んでいるご主人を励まそうと、一晩中裸踊りをやった。 散らかっている部屋を片付けようとして、大事なガンプラ(プ●バンで瞬殺した超レア品の積み)を ボッコボコに踏み潰した。 料理が得意だった彼女に変わって、臭いが三日間も部屋にこもり続けた毒物を生み出してしまった。 そしてトドメが、 「ワタシがゴシュジンをこの! 豊満極まる! 熟れた肉体でぇ! 御慰めして早漏デスン!!」 と叫びながら、寝ているご主人にファイヤーオン。 その三十秒後、ミドリは寒くなり始めた夜空に大きく羽ばたいた。 先程、ようやく起き上がれるくらいに回復したばかりなのだが。 「まったくもう、あんな摂取した栄養が全部乳だけに回ったようなノ〜タリン娘より、ゴシュジンを想う このワタシの方が最高絶頂アフンアフンなのは、二十億三千万人の国民全員が同意するくらいの けって〜い♪ 事項なのに、この展開は絶対におかしいデスン!」 はたから聞くと、あまりお近づきにはなりたくないような独り言(※ただし実装語)を呟きながら、 住処を失ったミドリは、夜の住宅街を当て所なく彷徨う。 それにしても、最近は本当に寒くなったものだ。 実装服を奪われなかったのだけが、不幸中の幸いだったと言うべきか。 「ゴシュジンは着衣えっちが大好物だったデスン。 あの乳オバケに毎回エロい服着せてダイザーインしてたのを、押入れの中から見てたデス。 たとえ縛られて猿ぐつわをされていても、見たいものは見たい×3 これ朝飯前の当たり前デスン。 だからワタシも、一張羅で合身GOしたのにこの扱い……理不尽過ぎるデス」 クソ長ったらしい独り言を呟いても、寒さに耐えられるわけではない。 いよいよ洒落にならない冷え込みとなり、ミドリは今夜の寝床を探す必要性に迫られた。 「ムムム、そうだ、そういえば。 ゴシュジンとの散歩の途中、いつも通りがかる空地にオンボロ車があった筈デス。 その中なら、外にいるよりゃあ少しはマシってなもんだろデス!」 そう思い立ったら話が早い。 ミドリは、腕組みをしながら下半身の動きだけで疾走し始めた。 「おお、十傑集走りは本当に早いデス! これ考えた人は大天才デス! 時速五百キロくらい出てるデス!」 時速五キロくらいの超高速でボテボテと全力疾走しながら約ニ十分。 これまで歩いて来た路と正反対の方向に移動したミドリは、おかげさんで身体がホッカホカになれた。 目的の空地に辿り着いたミドリは、例のオンボロ車なるものの前に立つ。 車種はよくわからないが、ヘッドライトが内蔵式の、所謂“リトラクダブルヘッドライト”というタイプだ。 現在ではもう採用されていないため、それだけでも相当な年代物だと判断出来るが、そんなことミドリ に分かろう筈がない。 かろうじてボディカラーは白だったらしきことはわかるが、もうところどころ錆付きまくっており、ドアも 半開きでタイヤもなく、ボンネットもうっすら口が開いている。 このオンボロ車……乗り捨てられた廃車は、ミドリには何時からあるのかわからない。 ただご主人の話によると、彼がまだ子供だった時からずっと放置されているのだという。 「こんなところにこんなデカいゴミを捨てっぱなしにするなんて、とんでもないニンゲンもいたもんデス」 しかし、こんなものでも中に入れば雨風は凌げそうだ。 ミドリは僅かに開いた助手席側のドアを無理矢理開けると、わがままボディを強引にねじ込んだ。 「あでで、お、お腹少し引っ掻いたけど、なんとか入れたデス! おお、思ってたよりは寒くないデス! これなら充分デス!」 車内は荒れ果ててはいるものの、外から持ち込まれたゴミなどが押し込まれているようなことはなく、 一応シートはそのまま使用出来そうだ。 少々埃っぽくかび臭いにおいも気にはなるが、贅沢は言っていられない。 ミドリは後部座席に移動して丸くなると、かろうじて弾力が残っているシートに身を任せ、眠りに就く ことにした。 (さぁて、明日はどうやってゴシュジンの部屋に侵入してやろうデスデス…… 高貴なワタシを追い出したその罪、家宅侵入でじっくり思い知らせてやろうデスgfff....) そんなことを考えているうちに、ミドリは徐々に深い眠りに落ちて行った。 ——どれほどの時間が経っただろう。 空き地から数百メートルほど離れた大通りで、突如、大きな爆発音が鳴り響いた。 何台もの車が爆発し、建物は崩れ、そこら中に火の手が上がっている。 深夜に巻き起こった突然のトラブルに、人々は驚き、叫び、懸命に避難を開始した。 なんと突然、町の中に巨大な物体が出現したのだ。 それは無数の脚を生やした全長三十メートルはあるだろうバケモノで、今まで何処に居たのか、急に 街中に現れたのだ。 口から吐き出す炎は、周囲のものを焼き尽くしていく。 このままでは、街が危ない! その時、夜空から光の球が降り注ぎ、空き地の廃車に吸い込まれた。 途端に、エンジンがかかる。 激しいエキゾーストを響かせ、失った筈のタイヤを唸らせ、リトラクダブルライトが展開、点灯する。 動かない筈のオンボロ廃車は、猛ダッシュで空き地を飛び出すと、燃え盛る街に向かって走り出した。 「デ? デ? デ? な、何事デス?!」 激しい振動で目を覚ましたミドリは、乗っている車が高速で走り出している事に気付き、唖然とした。 「ど、ど、ど、どうなっているデス?! なんでオンボロ車が——」 『チェィンジ!!』 何処かで、誰かが叫んだ。 と同時に、オンボロ車は宙高く飛翔し、なんと変型し始めた。 車内が急に大きく動き出す。 座席は折れ曲がり、接近し、空間を圧迫していく。 「ぐぇ?! グゲゲ、ぐ、ぐるじ……デ……!!」 倒れて来た運転席のシートと、折り畳まれた後部座席シートに挟まれたミドリは、足元が開いて 冷たい空気が入り込んで来るのを感じた。 だがそれは、ほんの一瞬のことだった。 頭が圧迫され、骨が軋む。 眼球が飛び出し、口が勝手に開いていく。 腕があらぬ方向にねじ曲がり、脚が伸ばされ、ブチブチと千切れ始める。 破れ始める実装服、何処かに引っ掛かり、引き千切られていく髪。 全身を襲う激痛! 迫り来る死の恐怖! オンボロ車は、まるで全体を雑巾絞りでもしたかのように、どんどん形を変えて行く。 そして、それに翻弄されるミドリには、もう脱出の術は残されていない。 「な……何が起き……せ、説明……デ」 グィィン……ガシャン! 「——チベッ」 車内に突然湧いて出た巨大な機械に挟み込まれ、ミドリの身体は、一瞬でスルメのようにぺしゃんこ になった。 緑色と赤色の混じった体液が飛び散り、狭いにも程がある車内を惨たらしく染めて行く。 そんな事はつゆ知らず…… 『トォっ!! ブレイブカイザー!!』 勇ましい声を上げ、オンボロ車——否、今や人型の巨大ロボットの姿となったそれは、巨大なバケモノ の前に勇ましく立ち塞がった。 ビシッ! と人差し指が唸る。 『宇宙犯罪組織デギャルダーの悪党め! これ以上の悪事は、銀河警察のブレイブカイザーが許さん!』 勇者は、そう叫ぶと大きくジャンプして巨大なバケモノに飛び掛かって行く。 凄まじい戦闘の火蓋が、今切って落とされたのだ! 宇宙犯罪組織の魔の手から地球を、そして宇宙を護るため、今日も闘うブレイブカイザー!! 来週も、世界平和だ! 銀河の勇者ブレイブカイザー 第一話 完
