飼い実装テヴェールの穏やかな日々 その12 お歌と踊り ----------------------------------------------------------------------- とある平日の昼下り。 ママさんがぼんやりワイドショーを見ていると、画面がCMに切り替わり、 チアガール風の衣装に身を包んだ仔実装達がめいめい好き勝手に歌い踊る映像が映し出された。 テロップには、 【歌と踊りが大好きな実装石ちゃん達に、かわいいコスチュームをプレゼント!】 【仔実装ちゃんコスプレシリーズ:チアガールセット】 【これでお宅の仔実装ちゃんも可愛さ倍増デス!】 と書かれている。 ママさんはセントバーナードのバルクホルンとボール遊びに興じている飼い仔実装のテヴェールを見やった。 そういえば、テヴェールが歌ったり踊ったりしているところを見たことが無かったわね。 ふと気になったママさんは、テッチテッチとボールを追いかけ近くまでやって来たテヴェールに聞いてみた。 「テヴェールはあんまりお歌や踊りはしないわね?ひょっとしてあんまり好きじゃないとか?」 『テェェェェ、ママ(テヴェールの生みの親)からはニンゲンさんはワタチタチのお歌や踊りはあんまり好きじゃないって教わってましたテチ』 「そうなの?」 『はいテチ。うるさくして怒られるくらいならやらない方がいいって言われましたテチ』 そんなものなのかな、とママさんは思ったが、それ以上深くは追求しなかった。 テッチテッチとボールを抱えてバルクホルンの元へと戻るテヴェールを見て、ママさんは思った。 まあ、たしかに実装石が歌って踊っても、さっきのCMみたいに大してかわいくないもんね。 それなら静かなほうがいいか。 実装石がお歌や踊りを好む理由については諸説ある。 人間に構われたいという本能に起因しているという説。 実装石特有の愛情表現や求愛行動であるという説。 いわゆる媚び的な行動の発展形にすぎないという説。 知能の高さ故に歌や踊りといった文化的娯楽を好むという説。 はるか昔に歌や踊りを人間に褒められた事が偽石に記憶として刻まれているからという説。 変わり種としては、レミングの集団自殺のように、個体数が激増すると、 その調整のためにあえて人間に間引かれようと歌や踊りを激しく行うのではないかとする珍説まであった。 なお、いずれの説においても、実装石のお歌や踊りそのものについて、高い評価を与えているものは無い。 そして、その程度のお歌や踊りは、時として己の命を危険に晒すものであることを、実装石達はその生涯の最期に身を持って知る事になる。 不幸なことに、それを後世に伝える事が出来ない個体が殆どを占めるため、お歌や踊りに起因する悲劇は今後も尽きることはないだろう。 とある地元高校のサッカーチームが、試合後のグラウンドでバーベキューをしている時だった。 『ワタチタチにもステーキ食わせろテチィ!』 『何なら飼わせてやってもいいテチ!ワタチタチを飼える喜びに感謝するといいテチ!』 『気が利かないクソニンゲン共テチ!早くその肉をワタチタチに献上しろテチ!』 肉が焼ける美味そうな匂いにつられたのか、茂みから野良仔実装が三匹ばかり現れた。 リンガルアプリを起動させた高校生達が、糞蟲そのものと言っていい言動を確認して、ニヤリと笑みを浮かべる。 ちょっとした余興を思いついた高校生達は、使い終わって焦げ付いた鉄板の上に野良仔実装を乗せると、余していたコンロの上にセットした。 「お前ら、歌や踊りが好きなんだろ。ちょっとやってみろよ。出来が良ければ飼ってやるぞ」 リンガル越しに話しかけると、仔実装達は飼いにしてやるという言葉に反応したのか、喜々として歌い踊り始めた。 テチテチ小煩く鳴いて、イゴイゴと無様に手足を動かすだけの程度が低すぎる代物だったが、 お楽しみはこれからが本番だった。 コンロに火が着けられ、鉄板に徐々に熱が回ってゆく。 仔実装達が異変に気付いた時にはもう手遅れだった。 『テチャァァァァッ!?熱いテチ熱いテチィ!?』 『立ってらんないテチ!助けテチ!』 『クソニンゲン、何しやがったテチ!早くワタチをここから出せテチィ!』 足に伝わる熱を少しでも避けようとヒョコヒョコ無様に飛び跳ねる仔実装達に、高校生達はゲラゲラと笑い出した。 先程仔実装達が披露していたタコ踊りよりもよほど好評だったが、仔実装達にそれを喜ぶ余裕は無い。 仔実装達は鉄板から飛び降りようとするが、高校生達はそれを火箸で追い回して鉄板上から逃げられないようにする。 そのうちに一匹が足に負った火傷で立っていられなくなり、前のめりに転んでしまった。 『テヂャアァァァァァァッ!?』 顔面を鉄板で灼かれて悲鳴を上げる仔実装。 それを見た仔実装の一匹が、倒れ込んだ仔実装の身体を踏み台にして鉄板の熱さから逃れようとする。 『高貴でカワイイワタチがこんなところで死ぬなんて世界の損失テチ!お前はワタチを助けて死ねテチャァ!』 起き上がろうともがく仔実装の上で跳ね回り、鉄板へと押し付ける仔実装。 その光景を見たもう一匹の仔実装が、自分もよじ登ろうとして喧嘩を始めた。 『ワタチも乗せろテチ!』 『うるさいテチ!邪魔テチ!お前もそこで焼け死ねテチ!』 醜い争いを続ける二匹に、高校生達はどちらが生き残るか賭け始めるが、二匹揃って鉄板に倒れ込んだ事で結果はドローとなった。 『テジャァァァァァァァッ!?』 『テヒィィィィィィィィィ!?』 鉄板に灼かれてその身をこびり付かせる仔実装達。 最初に倒れ込んだ個体は既に死んだのかピクリとも動かない。 やがて三匹は仲良く消し炭と化したが、その死は無駄ではなかった。 茂みから隠れて事の成り行きを見守っていた野良母実装は、連れてきた仔達に静かに、だが厳かに告げた。 『ニンゲンの怖ろしさは分かったデス?ニンゲンは糞蟲を嫌うデス。お歌や踊りで気を引こうとしても無駄デス』 仔達は涙目になりながらも、声を上げて見つからぬよう口元を抑えてコクコクとうなずいた。 姉妹の末路を嘲笑うような糞蟲はいない。 仔達の様子を確認した野良母実装は、安心させようと大きく笑みを浮かべる。 『分かったら、ニンゲンに見つからないよう、ママの言うことを聞いてお家で大人しくしてるデス。 言う事を聞かない糞蟲はああいう風に殺されるデス』 そう言って野良母実装は仔達を連れて静かにその場を後にする。 賢い野良母実装は、糞蟲化した娘三匹を犠牲にして他の仔達に教訓を与える事が出来た事に内心満足していた。 仔達がこの教訓を生かして長生きしてくれれば、そう願って止まない野良母実装だったが、 その願いが叶うかどうかは誰にも分からなかった。 -- 高速メモ帳から送信

| 1 Re: Name:匿名石 2025/11/17-15:36:16 No:00009835[申告] |
| 仔実装コスプレセットはそれなりに売れてそうだよね
愛護派はもちろん観察派とかが格差をつけて飼うのにも使えるし あと「レミングと同じ個体数調整の間引かれのために歌ったり踊ったりする説」面白い |
| 2 Re: Name:匿名石 2025/11/17-17:55:47 No:00009836[申告] |
| コスプレセットとかいう実装石の優越感や自尊心を助長し新たな嫉妬やっかみの元にしかならないルサンチマングッズよ…
テヴェールの飼い主ですらかわいくないと思う実装ダンスも反面教師の教材としては中々有用だね |
| 3 Re: Name:匿名石 2025/11/22-09:03:31 No:00009838[申告] |
| ペットの芸は飼い主がその生き物に対して、何を求めているのかによる。
犬は飼い主の意図を汲めれば。鳥は物真似が多少できれば。猫は居るだけで。 これは無意識の見下しで、人間の厭らしい性質の一つだと思う。 種族として低能な物ほど期待されていないから、ちょっとした事でハードルを超える。 今に至るまで、虹裏で10年以上かけて出来上がった実装石像は愚かとはいえ、限りなく人に近い物だ。 他の生物なら愛されただろうが、数多の作品から実装石に求められているダンスのクオリティは現実のアイドル程度だと感じた。 歌って踊っているつもりの実装石を見ると殺したくなるのは普通の事で、テヴェールの飼い主は至って普通の感覚を読み手に伝えている。 こういう本当に実装石が現実にいるかのようなスクリプトは嬉しい。 実装石のおゆうぎは自殺。 |