相応しくない食べ物と相応しい食べ物 男が外出しようと玄関を開けると、野良と思しき仔連れの実装石が居た。 親実装は男の姿を認めるなり叫び始めた。 『おいニンゲン!オマエをワタシのドレイにしてやるデス!このおうちもワタシたちの物デス!』 『ワタチたち三姉妹にも部屋を1つずつもらうテチ!』 『ありがたく思えテチャァ!』 『ママたち、やっぱりやめるテ…』 『オマエは余計なこと言うなテチ!』 『テチャ!痛いテチ!ぶたないでテチ!』 突然の来訪者に男が戸惑って見下ろしていると、親実装がイラついた表情でさらに言葉を続ける。 『何をぼさっとしてるデス!?なんとか言えデス、このドレイニンゲン!』 「よくぞお出でくださいました…私はあなた方の来訪を心より歓迎いたします」 何を思ったか、男は実装石に対して深々とお辞儀をし笑顔でそう言った。 その態度に満足したのか、親実装はさっそく実装石らしい要求を突きつけた。 『良い心がけデスゥ!じゃあ、まずはスシとステーキとコンペイトウを持ってこいデス!』 『スシ!?ママ、ワタシたちスシを食べられるテチ!?』 『ステーキテチャ!夢にまで見たステーキテチャア!』 『コンペイトウ…食べたいテチ』 スシ、ステーキ、コンペイトウ…野良実装が見たことも食べたこともないであろう(コンペイトウはあるかもしれないが)、 しかし偽石の記憶にしっかり刻み込まれた最高の食べ物。 仔実装たちにとって怖い存在だったママが、急に頼もしく見えてきた瞬間だった。 【やっぱりママは凄いテチ…あんな大きなニンゲンにスシを持ってこいなんて…】 【ステーキ!ステーキ!ママ最高テチ!】 【怖いママだけど、コンペイトウは食べたいテチ…】 仔実装が各々の特に食べたいものに思いを馳せていると、しかし男は目の前で手を横に振りながら笑顔のままこう言った。 「寿司にステーキに、金平糖?とんでもない、あれは卑しい人間の食べる物です。高貴で美しい実装石様たちには相応しくありませんよ」 『デッ…?デデッ…?そ、そうなんデスゥ?』 衝撃の言葉だった。 親実装はその言葉がすぐには信じられなかった。 スシ、ステーキ、コンペイトウへの欲求は、身体の奥から、正確には偽石からわき上がる衝動のような物で、本能と言える。 その三種の神器とも言うべき食べ物を「実装石には相応しくない」と否定されたのだから無理もなかった。 だが、仮にも実装石はそこらの動物とは違う、雀の涙ほどとは言え知性を持つ存在である。 スシとステーキとコンペイトウが「高貴で美しい実装石には相応しくない食べ物」とまで言われてしまうと、 プライドが刺激されてしまい、それ以上は同じ要求をすることはできなかった。 『…じゃあワタシたちに相応しい食べ物を持ってくるデス』 「もちろんでございます。すぐに持って参ります」 『急いで用意するデス!ワタシたちは腹ペコなんデス!』 「はい、心得ております。そこで少しの間お待ちください」 男は親仔を玄関の外のポーチで待たせて、何かを取りに行った。 残された親仔の反応は様々だった。 『知らなかったデスゥ…スシとステーキとコンペイトウは、卑しいやつらの食べ物だったデス。 言われてみれば、公園でアイゴハのニンゲンが持ってくるコンペイトウに群がる連中は間抜け面してたデス』 自分もその中の一匹だったことを棚に上げて仲間を貶める親実装。 『スシはまだ来ないテチ?人間はのろまテチ!』 『オマエ聞いてなかったテチ?スシやステーキよりもっとウマウマな物を今ドレイが持ってくるテチ!』 『コンペイトウ食べたかったテチィ…』 話をよく理解していない感のある仔実装たち。 そして…。 「お待たせしました。こちらは高貴な実装石様の為に作られたお団子でございます」 戻ってきた男が笑顔で差し出した器には、派手な色をした大小4つの団子が置かれていた。 大きいのが親実装用、小さいのが仔実装用であろう。 『オダンゴ?…スンスン、匂いは悪くないデス、お腹も減っているし食べてやるデス…ムシャムシャ』 『これがスシよりおいしい食べ物テチ?…テムテム』 『ステーキの方が美味しそうテチ。まあ今はこれで我慢してやるテチ…テムテム』 『アマアマな匂いがするテチ。ニンゲンサン、いただきますテチ…テム、テム』 親仔が団子をかぶりつくように食べ始め、そしてしばし。 『ヂュアァッ!?』『ヂィィィッ!?』『ヂギィィィ!』 『デッ、ムスメたちどうしたデ……デグボァッ!?』 突然、仔実装たちが苦しみ、のた打ち回り始めた。 続いて親実装も、娘たちのことを心配する間もなく、腹を抑えて転がる。 玄関ポーチが、親仔の吐瀉物とパンツからあふれた糞で汚れる。 『こ、これは毒デスゥ…騙しやがったデズゥ…!?』 苦しみの中、辛うじてそう言いながら、男を睨みつける親実装。 しかし男は笑顔のまま、親仔を見下ろしていた。 「いえいえ、これは高貴な実装石様を確実にラクエンへ…あの世へお送りするために作られた…実装コロリです。 どうです?天にも昇るような素晴らしい味でしょう?これこそ実装石様に相応しい、実装石様のための食べ物です」 『コロ…リ…?…デギギギ…ゲボ、グボッ…!』 親実装がのた打ち回っている間に、仔の方は次々にパキンしていく。 『ヂィィ…グルジイデヂュ‥‥』パキン 『グゾママァ……オマエのぜいデヂィ……!』パキン 『ママ、ママァ…ダズゲデヂィ…』パキン それを見た親実装は死を実感したのか、男の方に手を伸ばして哀れっぽく懇願した。 『だ、だずげるでデズ……ニンゲンザン……!』 「手遅れでございます…このコロリは即効性で、実装石を苦しめながら死に至らしめると評判の物ですので」 『ガボァッ、ゲババッ…!デズズゥゥ…じにだぐないデヂィ…ジニダグ……ヂィ…!』パキン 実装石が悶え苦しんで死ぬのを笑顔で見届けた男は、コロリと一緒に持ってきていたペットボトルの水をポーチに撒いた。 親仔が巻き散らした吐瀉物や糞、さらには彼女ら自身の死骸までもが、見る見るうちに溶けて消えていく。 「大分の水はよく効くなあ…後片付けにはもってこいだ」 そう言ってすっかりきれいになったポーチを見下ろす男。 男はいつもなら家の敷地に入ってきた野良実装など追い払うのだが、今回はちょっと趣向を変えて下手に出てみた。 前もって準備していたコロリを、実装石に相応しい食べ物と言って食わせる…。 野良実装は驚くほどあっさり引っ掛かったが、糞蟲ならこんなものだろう。 少しはまともな性格だったように見えた末っ子らしき仔実装も、糞蟲と比べればマシという程度だった。 「ま、こういうのもたまには楽しいかもな…また気が向いたらやってみよう」 男は最後にそう呟き、玄関の扉をバタン、と閉めた。 大分の水で濡れたポーチには、親仔実装が居た痕跡は何一つ残されていなかった。 終 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ スレに投下した1レススクを加筆修正
