実翠石との生活Ⅲ 短編まとめ15 ----------------------------------------------------------------------- 8月12日はハイチュウの日 休暇を取っていた秋人は、実翠石の裏葉と娘の松葉を連れて、近所の商店街に買い物に来ていた。 それだけならいつもの平和で幸せな日常なのだが・・・。 「パパ、ちゅー、です♪」 「おいおい・・・」 松葉が事あるごとに頬にキスしてくるのを、秋人は苦笑しながら甘んじて受ける。 「松葉、人前でそういうのは・・・」 「ママにも、ちゅー、です♪」 注意しようと顔を寄せた裏葉の頬にも、松葉は物怖じせずキスをする。 裏葉は一瞬だけ嬉しそうな表情をするが、そこはやはり母親、娘への躾を怠るような事はしなかった。 「松葉、そういう事はあまり人前ではしてはいけませんです」 「え?今日はハイチュウの日だから、好きな人に、はい、ちゅー、ってするんじゃないんです?」 子供らしい可愛らしい勘違いに、秋人と裏葉は思わず顔を見合わせた。 「ハイチュウの日っていうのはね・・・」 秋人が本来の意味を教えてやると、松葉は顔を赤くして俯いてしまった。 「うぅ、はずかしいです・・・!」 「まあ、また一つ賢くなったって事で、いいじゃないか」 そう言って秋人が笑いながら松葉の頭を撫でてやると、松葉はえへへ、とはにかんだ笑みを浮かべた。 帰宅後。 「さあ松葉、お外から帰って来たから、お手々を洗いましょうです」 「は〜いです!」 パタパタと洗面所に向かう松葉に続こうとする秋人の腕を、裏葉がくいくいと引っ張る。 きょとんとする秋人の首に腕を回すと、裏葉は自身の唇を秋人のそれに押し付けた。 「んっ・・・ちゅっ・・・♥」 触れ合うだけでは物足りなかったのか、舌を割り入れ数度絡ませると、ようやく満足したのか唇を離す。 「わたしだって、パパとたくさんキス、したいです・・・」 頬を赤らめながらもどこか拗ねたような口調の裏葉に、秋人は苦笑しながらも裏葉を優しく抱き締める。 裏葉は秋人を抱き締め返しながら、耳元でそっと囁いた。 「・・・松葉が寝たら、キスよりももっとすごい事、してほしい、です・・・♥」 『ゴチュインチャマ!ゴチュインチャマ!ワタチもゴチュインチャマにチューってしたいテチュ!』 どちらかと言えば不愉快寄りの、甘ったれた鳴き声を上げる飼い仔実装のミドリコ。 飼い主のまだ若い女性は頬を若干引きつらせながらも、どうしたのかと聞いてみた。 『デキソコナイばっかりズルいテチュ!ワタチもゴチュインチャマにチューしたいテチュ!ゴチュインチャマにもチューしてほしいテチュ!』 要領を得ない回答に飼い主の眉間に皺が寄るが、ミドリコは構わず続ける。 『今日はチューする日なのテチュ!チププ、ゴチュインチャマがしたいならチューよりもっといいことしてあげるテチュ!』 パンツをちらつかせてくるミドリコに気色悪さを覚えつつも、今日がハイチュウの日だった事に思い至った飼い主は、その勘違いを正してやった。 「今日はハイチュウっていうお菓子の日で、本当にキスをする日じゃないのよ」 『そうなのテチュ?チププ!じゃああのニセモノはただのバカテチュ!媚び肉穴にふさわしいマヌケテチュ!』 ミドリコは、散歩の途中で見かけた、飼い主のクソニンゲンにやたらとキスをしていたオナホ人形の実翠石母娘を思い出して嘲笑を浮かべた。 ニンゲンに媚びる事しか頭に無い肉人形らしい無様な勘違いが、愉快で愉快で仕方がなかったからだ。 無論、つい数分前まで自分が同じ勘違いをしていた事など、完全に記憶から失せている。 そんなミドリコに、飼い主は侮蔑と不愉快さの入り混じった視線を向ける。 飼い始めたうちは甘えてくる様子が可愛らしく思えていたが、今となっては泣き喚けば要求が通ると勘違いした立派な糞蟲に成り果てていた。 思い通りにならないミドリコに飼い主は鬱屈とした思いを日々重ね続け、とうとうそれは限界に達した。 頃合いか、と思った飼い主は、ミドリコに今日のおやつよ、と言ってハイチュウを与える。 『アマアマテチュ!アマアマテチュ!』 喜んで舐めしゃぶり、口に含むミドリコだったが、そのままハイチュウを喉に詰まらせてしまった。 『チュボッ・・・!?テ・・・ボヒュ・・・!?』 嚥下力の弱い幼児や老人にはあまり推奨されないものを、仔実装に与えたのだからこうなるのはむしろ当然ですらあった。 喉を掻き毟るミドリコを、飼い主は助けるでもなくただ見下ろす。 その口は三日月状に吊り上がっていた。 ミドリコは助けを求めて手を伸ばすが、飼い主は冷たい笑みを浮かべたまま動こうとはしない。 結局ミドリコは長時間窒息で苦しんだ後、偽石を自壊させて死んだ。 最後の最後で、ミドリコは飼い主の意に沿えた形となった。 ----------------------------------------------------------------------- 9月4日は串の日だったり供養の日だったり 今日は串の日という事で、秋人一家の夕食は焼き鳥となった。 「むぅ・・・、ちょっと食べづらいですぅ・・・」 松葉が串の中ほどに残った鶏肉に苦戦していると、秋人が苦笑しながらも助け舟を出した。 箸で鶏肉を串の先にまでずらしてやり、松葉の口元に差し出す。 「パパ、ありがとうです!」 そう言って嬉しそうに串を口に含む松葉を、裏葉が羨ましそうに見ている事に気付いた秋人は、小さく笑みを浮かべながら、裏葉にもまだ手を付けていない串を差し出す。 「ほら、裏葉も、あーん」 「あ、あーん・・・」 松葉の手前、少し恥ずかしそうにしながらも、裏葉は素直に従った。 串を口に含みながら上目遣いで秋人を見つめる裏葉に、秋人は、誘われているのかな、などとつい思ってしまう。 「パパの、おいしい、です・・・♥」 ちらりと舌先を覗かせる裏葉に、今夜は長くなりそうだな、などと思う秋人だった。 「ようミドリ。今日は何の日だが知ってるか?」 とある男は焼き鳥のパックを片手に、飼い実装のミドリに陽気な声をかけた。 『デ?分からないデス・・・』 男が持つ焼き鳥のいい匂いによだれを垂らしながらも、ミドリは応えた。 この“ミドリ”は、つい最近男が実装石の里親募集サイトを通じて入手した個体だった。 元の飼い主の意に背いて勝手に仔を産んだがために、娘共々里子に出された、愚かで哀れで、そして男にとって都合のいい実装石、それがミドリだった。 『テチャァ!ウマウマな匂いテチ!』 『クソニンゲン!さっさとそのウマウマをワタチに献上しろテチ!』 『気が利かないドレイニンゲンテチ!さっさと食わせろテチャァッ!』 『テェェェ、次女チャンも三女チャンも四女チャンも、そご主人サマにそんな事言っちゃダメテチ!また捨てられちゃうテチ!』 焼き鳥の匂いに魅かれたミドリの娘達が、糞蟲っぷりを隠そうともせず喚き散らす。 唯一長女だけが妹達を諌めようとするが、糞蟲が言う事を聞くはずもない。 男は焼き鳥を頬張りながら言った。 「今日は串の日なんだそうだ。というわけで、ほれ」 『テヂッ・・・!?』 男は焼き鳥の串を次女の口に突っ込み、そのまま貫通させた。 喉を潰され悲鳴を上げる事すら出来ない次女は、必死になって串を抜こうと暴れるが、叶わずに力尽きた。 『デ、デシャァァァァッッ!?次女ォォォォォォッッ!?』 『テチャァァァァ!?ク、クソニンゲンの分際で何しやがるテチィッ!?』 『ド、ドレイニンゲンが逆らうなんてありえないテチ・・・!』 『じ、次女チャン、しっかりするテチ!』 娘の死に悲鳴を上げるミドリ。 この期に及んでも舐め腐った態度を崩さない三女と四女。 手遅れながらも次女を助けようとする長女と、ミドリ一家の反応は男の期待通りだった。 「なあ、ミドリ。この家にはルールがあるんだ」 ニヤニヤと笑みを浮かべる男に、ミドリ一家は恐怖のあまり動けない。 「いやなに、単純なルールだ。糞蟲は殺す、それだけさ」 そう言って、男は立て続けに三女と四女の脳天に串を突き刺し始末する。 『ヂッ!?』 『ヂギヂィッ!?』 『三女ォォォォォォ!?四女ォォォォォォ!?』 『い、いいい妹チャン達がみんなカナシイことになったテチィ・・・!』 嘆き悲しむミドリと長女に、男は言葉を続ける。 「でもまあ、いい仔にしていればちゃんと飼ってやるぞ?長女はなかなかいい仔みたいじゃないか。ほれ、食うか?」 男は長女に焼き鳥を差し出すが、 『チヒィィィッッ!?こ、こここ怖いテチィィィィィッッッッ!?(パキンッ!)』 あまりの恐怖に長女はストレスで偽石を割って死亡した。 『ちょ、長女ォォォォォォォォォッッ!?』 たとえ元の飼い主に捨てられても手放さなかった愛しい娘達があっという間に全滅した事に、ミドリは血涙を流してうずくまる。 ミドリの反応に満足した男は、庭の端にある小さな墓を見やる。 そういえば今日は供養の日でもあったな。 男は内心で先代の“ミドリ”に語りかける。 お前の後任もなかなか楽しめそうだな。 そうそう、お前の忘れ形見の親指実装は、蛆共々まともな飼い主に貰われていったぞ。 今頃は飼い実装として慎ましく生きていることだろう。 お前の分まで幸せになれるように、せいぜいあの世で見守ってやることだな。 男は心の中で手を合わせると、視線を当代の“ミドリ”に向けた。 当代の“ミドリ”がシアワセを掴めるかどうかは、まだ誰にも分からなかった。 ----------------------------------------------------------------------- 9月6日は黒の日 『お散歩に行きたいデス!』 『産まれたばかりの仔達にいろんなものを見せてあげたいデス!』 そんな事を喚く飼い実装のミドリに、飼い主の男は笑みを浮かべて首を縦に振る。 ミドリの腕には先日産ませたばかりの、2匹のやや小ぶりな仔実装が抱かれていた。 2匹の仔実装は飼い主の姿を認めるとペコリと頭を下げる。 媚びたりせず、飼い主をドレイニンゲン呼ばわりする事もない良個体。 強制的に妊娠、出産させたためか体格は親指より少し大きい程度だったが、胎教で余計な事を吹き込まれなかったせいか、今のところ糞蟲じみた言動は見られない。 しばらく様子を見て、素質があれば飼い実装として里子に出すのもいいか、と思える程度には賢い個体だった。 リードを繋ぎ、ミドリの要望を聞き入れて近所の公園へと向かう。 ミドリの事だから、産まれたばかりの自慢の我が仔達を野良実装共に自慢したいという魂胆なのだろう。 もっとも、目的地の公園は、以前に大規模駆除と環境整備が行われており、野良実装など一匹も生き残ってはいないのだが。 代わりに、公園では実翠石の母娘とその主人と思しき男性が、木陰のさすベンチに並んで腰掛けて、仲良くアイスを口にしていた。 黒髪の実翠石が満面の笑みを浮かべてアイスを食べる様子を、男性と母親らしき実翠石が笑顔で見守っている。 誰もが微笑ましさを覚える、ささやかだけれど幸せそうな光景。 『デギギギギギィィッッ・・・!』 『ママ、ご主人サマに迷惑になっちゃうテチ!』 『そうテチ!やさしいママに戻っテチ!』 もっとも、ミドリにはまた別の見解があるようだが。 男は口元に嘲りを浮かべると、リードを強めに引っ張ってその場を後にする。 実翠石を見ても怒り狂ったりしないミドリの仔達に、これはなかなかの良個体かもしれないな、と幾ばくかの期待を抱きながら。 『デギィィィィッッ・・・!』 家に帰り着いてもミドリの怒りは収まらなかった。 公園で見かけた実翠石の母娘。 飼い主のクソニンゲンに見守られながら、自分が口にしたこともない美味そうなものを食べ、自分の実装服と違って綺麗な服に身を包んでいた。 ダッチワイフならダッチワイフらしく、飼い主のクソニンゲンの一物でもしゃぶっていればいいものを! おまけに娘の方は忌々しい事に黒髪だった。 実装石にとって、黒髪はニンゲンに心から愛された事の証明に他ならない。 決してあんな媚び穴人形如きが持つことなど許されないステータスなのだ。 『ママ、ご機嫌直しテチ・・・』 『そうテチ。ママにはニコニコしていてほしいテチ・・・』 ミドリは足元でテチテチ鳴いている娘達を見やった。 亜麻色の髪。決して黒ではない。 ワタシは飼い実装として愛されているはずなのに、どうしてこの仔達の髪は黒くないのだろう? 思えば、ミドリの飼い実装としての生活がおかしくなったのは仔を産んでからだった。 前のご主人サマには仔を産んだ事を理由に捨てられた。 今のご主人サマには、ミドリが以前に産んだ4匹の仔達全てを殺されるなどぞんざいに扱われている。 仔はシアワセの象徴なのに、どうしてワタシはシアワセではないのだろう? ミドリの認識が、【黒髪の仔はニンゲンから愛された証拠】から【仔が黒髪ではないからニンゲンに愛されない】と捻くれ曲がった瞬間だった。 ミドリは母を心配してテチテチ鳴く長女を抱き上げた。 ひどく醒めた目をしたミドリに、賢い長女は違和感を覚える。 『テ?ママ?』 『なんでお前は黒髪じゃないんデス?』 『ママ?どうしちゃったんテチ?』 『黒髪じゃないならいらない仔デス』 そう言ってミドリは長女の頭を口の中に押し込み、閉じた。 『ヂッ!?』 首から上を失った長女はビクリと震えた後、だらりと身体を弛緩させ、二度と動かなくなる。 『マ、ママ・・・!?な、なんで長女姉チャンを食べちゃったのテチィ・・・!?』 腰を抜かしながらも後ずさる次女に、ミドリはゆっくりと歩み寄り、掴み上げた。 『お前も黒髪じゃないデス』 『ヂッ!?』 そのまま次女の首元に噛みつき、食い千切る。 ポテリと落ちた次女の頭はコロコロと転がり、いつの間にかそこに居た飼い主の男の爪先に当たり、止まった。 悲しみと驚きが貼り付いた次女の顔とは対照的に、男の顔は本当に楽しそうだった。 「何だミドリ、良い仔達だったのに殺しちまったのか?」 表情通り楽しげな口調の男に、ミドリは戸惑いつつも正直に応えた。 『この仔達は黒髪じゃなかったデス。仔が黒髪じゃなきゃワタシはシアワセになれないデス』 そうかそうか、と男は笑う。 「それじゃあ、黒髪の仔が産めるように、せいぜい頑張るんだな」 そう言い残して男は去って行った。 黒髪なんて産めるはずもないのにな、と内心で嘲笑を浮かべながらも、その狂いっぷりには大いに期待できるな、と嬉しく思う男だった。 ----------------------------------------------------------------------- 9月9日は救急の日 松葉を寝かしつけた後の事。 秋人は松葉とのお医者さんごっこの話を裏葉にしていた。 聴診器のおもちゃを秋人の身体のあちこちに当てたり、包帯を巻いてみたりと、なかなか楽しんでいた様子だったと話すと、 「ね、パパ、私ともお医者さんごっこ、してほしい、です・・・」 裏葉は潤んだ瞳でそんな事を言い出した。 「パパへの恋の病で、すごく胸がドキドキしてるんです・・・」 裏葉は秋人の耳元に唇を寄せて、熱く囁いた。 「だから、パパにたくさん愛してもらって、治してほしい 、です・・・♥」 秋人は裏葉を抱き締めながら、内心で呟いた。 恋の病に罹っているのは、きっと自分も同じなのだろうな、と。 「おいミドリ、今日は救急の日だぞ」 妙に楽しそうな飼い主の男の様子に、飼い実装のミドリは困惑気味に応えた。 『デッ?キュウキュウ・・・?いったい何デス?』 『チププ!ドレイニンゲンが頭のおかしい事を言ってるテチ!』 「訳分かんないこと言ってないでスシとステーキ持ってこいテチャアッ!』 『使えないクソニンゲンテチ!ウンチ塗って教育してやるテチ!』 先日産まれたばかりのミドリの娘達の糞蟲っぷりに、男は笑みを大きくする。 この仔実装達は、黒髪の仔を産まないとシアワセになれない、というミドリの思い込みの賜物か、 通常の仔実装よりも髪色が少しばかり黒に近かった。 ちなみに通常の髪色の仔実装も三匹ほど産まれていて、それらはわりと賢く性格も良かったのだが、 翌日にはミドリと糞仔蟲三匹に散々嬲り者にされた挙句、生きたまま喰い殺されていた。 どうやらミドリは、黒髪の仔以外は存在すら認めない方針らしかった。 「見事な糞仔蟲ばかりだな!糞蟲なのは頭の病気かもしれん、早速治療してやろう!」 男はそう言って仔実装の一匹を摘まみ上げる。 「開頭手術の前に邪魔なものは取らないとな!」 そう言って男は仔実装の頭巾を破り取り、髪をプチプチと乱雑に引き抜いた。 『テッ!?テッチャァァァァァァッッ!!??』 失われたら二度と元には戻らない髪と頭巾を奪われ、仔実装は甲高い悲鳴を上げる。 「ほら、脳味噌の具合を確認しような」 男はカッターナイフの刃先を仔実装の頭に突き立てて、ぐりぐりと抉り回した。 『チョベッ・・・!?チュババッ・・・!」 頭蓋骨ごと脳を破壊され、仔実装は男の手の中で糞を漏らしながら、ビクビクと不気味なダンスを繰り返す。 『ヂィッ・・・!』 激痛に耐えられなかった仔実装は、偽石を割って死亡した。 「残念!手術は成功したが患者は死んじまったな」 男がミドリ達に向かって仔実装の死骸を放り投げる。 男の凶行に呆然としていたミドリ達は、目の前で漬れ汚い染みと化した家族を見て今更ながら大騒ぎし始めた。 『な、何でこんなひどい事をするんデスゥゥゥッ!?』 『ク、クソニンゲンの気がふれたテチャァッ!?』 『ド、ドレイニングが反乱なんて生意気テチ!お前なんかワタチがボコボコにしてやるテチャァッ!』 男は構わず仔実装を掴み上げると、今度は喉元にカッターナイフを深々と刺しこみ、総排泄孔に向かって一気に切り裂いた。 『〜〜〜〜〜〜!!??』 喉を裂かれて悲鳴を出せない代わりに、血肉や内臓、そして糞をたっぷりまき散らして仔実装は死んだ。 「はい次〜」 男は最後に残った仔実装を摘まみ上げる。 『放せテチ!このクソドレイ、さっさと放せテチィ!』 『も、もう止めてデスゥゥゥ!』 手の中でイゴイゴと暴れる仔実装と、それを取り返そうと男の足に締りつくミドリ。 「お前の糞蟲気質を絞り出してやろう」 『チュバァァァァァァッッ!!??』 男は手の中の仔実装をじわじわと握りつぶしてゆく。 肉と内臓が潰れ、骨が折れ、身体中の穴という穴から血やら糞やらを溢れ出させながら仔実装は死んだ。 男は仔実装の死骸を放り投げると、嘆き悲しむミドリに、死骸を片付けておくように命じてその場を後にした。 今回のミドリもやはり期待通りだな、と嬉しく思いながら。 ----------------------------------------------------------------------- 9月14日は十字架称賛の日 秋人が実翠石の裏葉と娘の松葉を連れて、近所を散歩している時のことだった。 「こちら、娘さんにどうぞ」 「わぁっ、ありがとうございますです!」 教会の前に差し掛かると、チャリティーか何かの催しをやっていたらしく、松葉にプチケーキの詰め合わせが振舞われた。 これはどうも、と秋人と裏葉は礼を言い、少額ではあるが寄付をする。 ついでに今日のおやつにと、マドレーヌを幾つか買ってその場を後にした。 「お家に帰ったらみんなで食べるです〜♪」 そう言って松葉は裏葉と微笑み合う。 さして信心深くもなければクリスチャンでもない秋人だが、裏葉と松葉の笑顔がいつまでも見られるのなら、祈るのも悪くはないかな、などと思っていた。 『なんであんな肉人形ばかりいい目を見てるのテチャァッ!?』 『ワタチタチにもウマウマよこせテチ、このクソニンゲン!』 飼い実装ミドリの娘、黒に近い髪色をした二匹の仔実装は散歩から帰宅しても未だに怒り狂っていた。 散歩の途中で見かけた黒髪の実翠石。 あのニセモノのヒトモドキは生意気にもニンゲンから美味しそうな食べ物を貰っていた。 当然ワタチタチにも同じ物を、いや、それ以上に豪華な物を献上するべきなのに、あの気の利かないクソニンゲン達は、 ワタチタチを邪険に追い払うだけだった。 高貴で美しいワタチタチがこんな扱いをされるなんて間違っている! ミドリはそんな娘達を注意するが、全く効果は無かった。 黒髪実装は通常の個体よりも賢いと一般的には言われているが、どうやらミドリの娘はその例外らしい。 数日前に産まれたばかりにもかかわらず、糞蟲性を遺憾無く発揮していた。 実は他にも通常の髪色の仔実装が二匹産まれていて、そちらは割と賢かったのだが・・・。 黒髪仔実装にしか興味がないミドリに育児放棄された挙げ句、弱ったところを黒髪仔実装二匹に嬲り殺しにされていた。 そしてそんなミドリ一家の様子を、飼い主の男は楽しげに笑って見つめていた。 「頃合いだな」 糞蟲は容赦無く殺す、というミドリとの取り決めを、男は今回も履行するつもりだった。 男はミドリ一家に陽気な声をかける。 「ようミドリ。相変わらずお前の自慢の仔はろくでもない糞蟲だな!」 男の言葉に、ミドリは顔を青くする。反対に、黒髪仔実装達は顔を赤くしていた。 『ご、ご主人サマ!待って下さいデス!まだこの仔達には教育が必要なんデス!』 『ワタチタチを糞蟲呼ばわりとはドレイニンゲンのくせに生意気テチ!』 『そうテチ!罰としてワタチタチにふさわしいウマウマを献上しろテチャァッ!』 男は取り合わずに仔実装達を摘み上げて、ダンボールで拵えた十字架に雑に磔にした。 『テッチャァァァッッ!?』 『チッヒィィィィィィィッッ!?』 両腕をまち針で突き刺されて、仔実装達は甲高い悲鳴を上げる。 「ほら、今のうちに懺悔しておく事はないか?今なら神の許しが得られるかもしれんぞ?」 男の言葉など耳に入らず、仔実装達は激痛から逃げようと暴れ、その分だけ腕の肉が裂けてゆく。 そして裂けた腕は仔実装の体重を支えきれなくなり、遂には十字架から落下してしまった。 『ヂッ!?』 『チュべッ!?』 『デギャァァァァァァァッッ!?』 落下の衝撃で潰れて染みと化した仔実装の死骸を、ミドリは悲鳴を上げながらかき集める。 馬鹿な奴だ、と男はミドリに侮蔑九割、憐れみ一割の視線を向ける。 黒髪の仔にこだわりさえしなければ、親仔で平和な日常を過ごす事が出来たろうに。 良個体を殺して糞蟲を大事に育てるなどという愚かな真似を繰り返すミドリは、決して自身が望むシアワセになど手に入れられない。 そしてその事にいつまで経っても気が付かない。 もっとも、その愚かさこそが男が望んだものでもあるのだが。 ----------------------------------------------------------------------- 9月16日はマッチの日 夕食を終えた秋人がくつろいでいる時だった。 「パパ、ご本読んでくださいです!」 そう言って娘の松葉が差し出してきた絵本のタイトルは、マッチ売りの少女だった。 先日買ってきた絵本セットの内の一冊だったが、話の内容に救いが無いため、松葉に読み聞かせるにはどうかと思い、 敢えて読まずにおいたものだった。 まあ、たまにはこういう悲しい話もいいか、と思い、秋人は松葉を膝に乗せて絵本を読み進める。 雪のちらつく寒い夜。 小さな少女が一人でマッチを売っていた。 マッチを全部売らないと母親から酷く殴られる上に、ご飯も貰えず家にも入れてもらえない。 だが、街ゆく人々は少女には目もくれず、ただ通り過ぎてゆくばかりだった。 そのうち寒さに耐えられなくなった少女は、暖まろうとマッチに火を付ける。 少女がマッチを点ける度に、暖かいストーブやご馳走の幻が現れては消えてゆく。 マッチが残り少なくなったところで、マッチの炎に気付いた裕福そうな老夫婦が少女に声をかけた。 こんなところでどうしたのかと優しく問う老夫婦に、少女は自身の境遇を正直に話す。 少女の境遇を憐れに思った老夫婦は、少女を娘として引き取り、少女は裕福な家庭で愛情に包まれ、幸せな生活を送ることが出来ましたとさ。 「うぅ、よかったです〜」 ハッピーエンドに目を潤ませる松葉の頭を撫でながら、秋人は思った。 あれ、こんな話だったっけ? 裕福そうな老夫婦なんて出てきただろうか? 「ママも、パパと出会えたから幸せになれたんです?」 いつの間にか秋人の隣に寄り添っていた実翠石の裏葉に、松葉が無邪気に聞いた。 「ええ、パパと出逢えて、すごく、すごく幸せ、です」 それに、と裏葉は頬を染めながら続けた。 「パパのおかげで、松葉にも会えました、です♥」 裏葉の言葉に、松葉は嬉しそうに笑みを浮かべる。 秋人も笑みを浮かべたが、頬の赤さも手伝ってか、照れ笑いに近いものだった。 「それで、こいつらが今日の成果ってわけか」 飼い実装のミドリが、飼い主の男の前に、先ほど産まれたばかりの仔実装達を連れて来た。 『チププ、こいつがドレイニンゲンテチ?わざわざ挨拶に来るとは大した奴テチ!褒美にウンチを塗ってやるテチ!』 産まれたばかりだというのに糞蟲性を全開にしている仔実装が一匹。 髪色が黒に近い事から、こいつがミドリの本命なのだろう。 『長女姉チャン、ニンゲンさんにそんなこと言っちゃダメテティ・・・』 『ニンゲンさんがワタチタチのご主人サマテチ?よろしくお願いしますテチ!』 これに対して、通常の亜麻色の髪色をした、やや小振りな仔実装が二匹。 こちらは一見したところ賢そうな良個体だった。 きちんと人間との上下関係を理解し、挨拶までしている。 『なにクソニンゲン相手に媚びてやがるテチ!?媚びる糞蟲は食ってやるテチャァッ!テヂャァッ!?』 飼い主の前だろうと遠慮なく共喰いに及ぼうとする糞仔蟲を男はデコピン一発で制し、良個体二匹を手のひらに乗せる。し 「それじゃ、こいつらは貰っていくぞ」 『はいデス。黒髪じゃない仔なんていくらでもくれてやるデス』 これまでの男は、ミドリと黒髪の糞仔蟲共が良個体を嬲り殺しにする様子を楽し気に見ているだけだったが、 さすがに勿体ないかな、と思い直したらしい。 仔実装二匹を別室の水槽に移すと、男はマッチを片手にミドリ達の元に戻ってきた。 「ところでミドリ、俺との約束を覚えているか?」 『デ?』 「糞蟲は容赦なく始末するって言ったよな?」 男はニヤリと笑みを浮かべてマッチを擦り、糞仔蟲の黒髪に火を点けた。 『テ、テヒィィィィィィッッ!!??』 チリチリと燃えてゆくご自慢の黒髪に、糞仔蟲は悲鳴を上げてのたうちまわる。 黒髪はあっという間に燃え尽き、頭巾を焦がしてようやく消えた。 ところどころ火傷で酷い有様となった元黒髪の糞仔蟲、現禿仔蟲が、テェェェンッ、テェェェンッ、とミドリに泣き付く。 『ママァ!クソニンゲンがワタチの、ワタチの大事な黒髪を燃やしやがったテチィッ!』 ミドリはそんな禿仔蟲を慰めるでもなく、冷然と見下ろした。 『・・・黒髪じゃないお前に存在価値はないデス』 ミドリは禿仔蟲を抱き上げた。無論慰めるためではない。 『ヂッ!?』 頭部の大半を齧り取られ、禿仔蟲はあっさりと絶命した。 出産時の消耗を回復させるためか、ミドリはそのまま禿仔蟲の死骸をグチャグチャと貪り食う。 男の喉奥から笑いがこみ上げてくる。 シアワセになるためにとあれほど黒髪の仔を求めていたのに、禿になった途端に手のひら返しで食い殺すとは。 ミドリのイカれ具合は男の期待以上だった。 そんなミドリと出会えた事を、男は神以外の何かに感謝した。 今しばらくは楽しませて欲しいものだ、そう思いながら男は別室へと足を向けた。 良個体にはそれなりに幸せになる機会を与えてやらんとな、などと思いながら。 ----------------------------------------------------------------------- 9月20日は子供の成長啓発デー 「どうです?どうです? 前に測った時より背は伸びてるです?」 娘の松葉の期待に満ちた問いかけに、実翠石の裏葉は苦笑を浮かべる。 壁に貼られた身長計に新たに付けられた印は、先月測った際と比べて、ほとんど差は無い。 「ほんのちょっとだけど、伸びてるみたいです」 裏葉の優しい嘘に、松葉は嬉しそうに笑って大好きな母に抱きつく。 「はやくママみたいな素敵なオトナになりたいです〜♪」 松葉を抱き締める裏葉も、あらあらと照れ笑いを隠しきれない様子だった。 そんな二人の微笑ましい様子を見て、秋人は思った。 子供の成長ってのは、嬉しくもあるけど、将来親元を巣立っていくと考えると、少し寂しくもあるんだよな。 寂しい、というのは親のエゴかもしれないけれど。 でもまあ、その時まで、松葉がたくさんの笑顔を積み上げられるようにしないとな。 「ようミドリ、ずいぶんと楽しそうだな!」 飼い主の男が飼い実装のミドリー家に声をかける。 ミドリ一家に与えられた居住スペースでは、比較的黒に近い髪色をした二匹の仔実装が、 通常の髪色をした仔実装一匹を寄ってたかって足蹴にしていた。 周囲には、既に踏み潰された蛆実装の染みが三つばかり広がっている。 ミドリはそんな娘達を止めるでもなく、ただ冷然と眺めているだけだった。 『チププ!黒髪じゃないお前なんか生きる価値は無いテチ!』 『蛆チャンと違ってドレイにはなるかもテチ!』 『テェェンッ、テェェンッ、お姉チャン達、もう止めてテチィ・・・!』 産まれたばかりだというのに、さっそく糞蟲と化している黒髪仔実装二匹を、男は手でしっしっと追い払い、 通常の髪色の仔実装を手のひらに乗せる。 「おい、大丈夫か?」 『テェェェ、ワタチは大丈夫テチ・・・・。ご主人サマ、ありがとうテチ・・・。でも、蛆チャン達を守れなかったテチィ・・・!』 テェェンッ、テェェンッと泣き出す仔実装を目にして、男は満足そうな笑みを浮かべる。 うむ、こいつもそれなりに良個体のようだな。 きちんと躾ければ良い飼い実装になれるだろう。 「ミドリ、こいつは貰っていくぞ」 『・・・どうぞデス。どうせそいつはいらない仔デス』 『ふざけんなテチ、クソニンゲン!そいつはワタチが喰ってやるんテチ!』 『クソニンゲンもドレイにしてやるテチ!ウンチ塗ってやるからこっちに来いテチ!』 黒髪仔実装以外にはやけに冷淡なミドリと、元気いっぱいに糞蟲っぷりを見せつける黒髪仔実装二匹を見て、男は思った。 そういえば今日は子供の成長啓発デーだったな。 どれ、ここは一つ、ミドリの奴を啓発してやろうじゃないか。 男は良個体を別室の水槽に移すと、ミドリー家の元に戻ってきた。 黒髪仔実装達の頭を撫でながら、お前達はシアワセになるために産まれてきたんデス、 などとしょうもない事を吹き込んでいるミドリに、楽し気に声をかける。 「なあミドリ、今日は子供の成長啓発デーなんだそうだ」 『デ?何言ってるのかよく分からないデス』 『ママのお話を邪魔するなテチ!このクソニンゲン!』 『そうテチ!ドレイニンゲンならドレイニンゲンらしくとっとと這いつくばれテチィ!』 男は黒髪仔実装達のたわ言を無視して続けた。 「幸せになりたいんだったら、仔はちゃんと躾けないとな。ほら、こんな風に」 そう言って男は黒髪仔実装の内、一匹の片腕を引き千切った。 『テ、テヒィイイイッ!?痛い、痛いテチャァァァッッ!!』 『チヒィィッ!?ド、ドレイニンゲンが反逆してきたテチィ!?』 『な、なんてことするんデシャァァァッ!?』 「躾だよ、躾。お前達糞蟲には必要な事だ」 男はもう一匹の黒髪仔実装の腕も同様に引き千切った。 『テッヂャァァァァァァッッ!?』 『ここ、こんなの躾じゃないデスゥッ!ただの虐待デスゥ!』 ミドリの抗議にも、男はどこ吹く風だった。 「いやいや、これがお前達糞蟲に相応しい躾なんだぞ?」 男は二匹の残った片腕も同様に引き千切った。 悲鳴、悲鳴、悲鳴。 「ミドリ、お前が碌に躾けないから俺が代わりに躾けてやってるんだ。いわば啓発ってやつだな」 男はもう止めてデス、と縋りつくミドリを乱暴に振り払うと、黒髪仔実装達の両足をむしり取った。 「これで人間様との力関係が理解できたか?」 つい先ほど遊び半分で潰した蛆実装達の様に、無様に違うことしかできない黒髪仔実装に、男は語りかける。 ミドリの教育の賜物か、脳内お花畑状態からの突然の暴力で、黒髪仔実装達はテチテチと恐怖に震えた声を上げるだけになっていた。 「ここで糞仔蟲共に挽回のチャンスをやろう。相手を食い殺した方を飼いにしてやる。傷の手当もしてやるぞ」 男の言葉に、黒髪仔実装達の目に暗い光が灯った。 ずりずりと無様に遣いながら互いに近付き、相手に噛みつき始める。 『飼いになるのはワタチテチャァッ!』 『ワタチのために死ねテッチィィィッ!』 『お、お前達、止めるデスゥゥ!』 止めに入ろうとするミドリを、男は踏みつけて抑え込む。 黒髪仔実装達は互いに絡みつくようにもぞもぞと動き、歯を立て合った。 見ていて気持ち悪くなる光景だが、男は侮蔑に満ちた笑みを浮かべてその様子を眺めている。 やがて片一方が相手の腹を食い破って運良く偽石をかみ砕く事に成功し、勝負がついたかに見えた。 だが、勝った側も食い破った箇所から溢れ出た糞で窒息してしまい、もがき苦しんだ末に死んだ。 糞蟲に相応しい無様な死に様に、男は大満足だった。 ミドリは泣き崩れていたが。 「おいミドリ、これで躾の大事さが分かっただろ?」 男の言葉にミドリは返事もせず、床をポフポフと叩いて嘆き悲しむばかりだ。 そんなミドリに、男は蔑みの視線を投げかけてその場を後にする。 次にミドリが糞蟲を産むまでに、良個体をきちんと教育してやらないとな、などと思いながら。 ----------------------------------------------------------------------- お彼岸のお話 今日はお彼岸、という事で、秋人一家は食後のデザートにおはぎをいただいていた。 「あまくておいしいです〜♪」 娘の松葉がおはぎを小さな口いっぱいに頬張る様子を、秋人と実翠石の裏葉は共に笑顔で見守っていた。 「松葉、お口に餡子が付いてるです」 そう言って裏葉が松葉の口元を優しくティッシュで拭ってやるのを見ながら、秋人は思った。 いい機会だから、仏壇の掃除でもしようかな。 父さんと母さんは、今の俺と裏葉、そして松葉を見たら、どう思うだろうか? まあ、既に二人共鬼籍に入っているのでは聞きようもないのだが。 とりあえず、俺達は幸せにやっているから、心配しないで大丈夫だよ、と心の中で語りかける。 そんな事を思いながら、秋人はおはぎを口に含む。 目の前に広がる幸せな光景のように、餡子の優しい甘さが口の中いっぱいに広がっていった。 一方その頃。 飼い実装のミドリは死にかけていた。 黒髪実翠石の母娘への対抗心からか、黒髪の仔を産まないとシアワセになれない、と思い込み、 これまで何度も仔を産んだのが偽石に強い負荷をかけていたらしい。 今朝方出産を終えた後は、立ち上がることも出来ずに床に臥せっていた。 ちなみに、今朝方産まれた黒髪に近い髪色をした仔実装は一匹だけ。 後は蛆実装ばかりだった。 もっとも、仔実装は知能に問題があったらしく、同時に産まれた蛆実装達をテチャテチャ笑いながらその場で食い散らかした挙げ句、 その死骸を喉に詰まらせて窒息死していた。 「どうした、ミドリ?調子が悪そうだな?」 心配そうな言葉とは裏腹に、飼い主の男の声は楽しげですらあった。 ミドリはそんな男に何も答えない。 目の前の男は、飼い主であると同時に、可愛い我が仔を糞蟲だとして容赦無く殺した仇でもあるのだ。 死に際ぐらい、反抗的な態度を取っても許されるだろうとミドリは思った。 そんなミドリの態度を男は意に介する事なく、手元のタブレットを操作する。 「今日はお前にいいものを見せてやろうと思ってな」 男は動画ファイルを再生し、ミドリに見せた。 ミドリの目が驚きに見開く。 動画ファイルの中では、ミドリがいらない仔扱いした良個体のうちの一匹が、ペコリとお辞儀していた。 『ママ、お久しぶりテチ。ワタチは元気テチ!』 そう言って、にっこりと笑う仔実装。 『大好きなご主人サマにいつもいっぱいいっぱいいい仔、いい仔してもらって、ワタチは毎日シアワセテチ!』 『ご主人サマはおいしいご飯をくれて、お風呂に入れてくれて、たくさん遊んでくれる、すごく優しいニンゲンサンなのテチ!』 『おっきくなったらご主人サマのためにお掃除とか頑張りたいテチ!』 『ママが良い仔に産んでくれたおかげで、ワタチはシアワセになれたのテチ!』 『ママ、ありがとうテチ!』 バイバイ、と小さい腕を笑顔で一生懸命振る仔実装の映像を最後に、動画ファイルは終了した。 『な、なんなんデス・・・?これは一体なんなんデス・・・!?』 いらない仔として捨てたはずの我が仔の、シアワセいっぱいのビデオレターに、ミドリは喜ぶどころか憤激していた。 シアワセの象徴であるはずの黒髪を持った仔達が糞蟲扱いされて殺されたのに、何故あんな普通の髪色のいらない仔がシアワセになっている!? シアワセになるために黒髪の仔を産もうと頑張ってきたのに、何故いらない仔ごときがシアワセになっている!? ミドリはこれまでの苦労を完全に否定され、絶望した。 弱りきっていた偽石にピシピシと亀裂が入り、激痛がミドリの全身を苛む。 そして・・・、 『デギィィ・・・!』 パキンッ!という音とともに偽石が砕け、ミドリは二度と動かなくなった。 「・・・ご苦労さん、ミドリ。今回も楽しませてくれてありがとうな」 彼岸の向こう側へと逝ってしまったミドリに、男は笑いかける。 普段の嘲り混じりの笑みとは違い、それはどこか優しげですらあった。 -- 高速メモ帳から送信

| 1 Re: Name:匿名石 2025/11/02-23:12:10 No:00009825[申告] |
| 根性が歪み倒錯しきったミドリより
糞蟲の醜態が大好きなミドリの飼い主の方が優良仔を幸福にしている事が実翠達との対比以上に皮肉な状態だな |