普通に飼いたかった 国立ふたば森林公園。 この地区のほとんどを占める大きな公園で、自然豊かな環境に街の人達から親しまれている。 青年は美容師の卵であった。 専門学校で勉強し、夕方からはバイトをしていた。しなければとても生活が回らない。 夜の帳がすっかり下りた頃、散歩がてらにこの公園を通り抜け、家へと帰る。 通らないほうが近道なのだが、とある目的のためにわざと遠回りしていた。 いつものベンチに腰を下ろすと、デバイスでタバコを加熱する。 すると、茂みの奥に赤と緑の光が見え、小さな何かがテッチテッチと騒ぎながら走ってくる。 仔実装である。 青年の足の回りをぐるぐると走り回る。 活きがいいのか、それともアホなのか……。 片手でギリギリ持てる程度の身体に、赤と緑のオッドアイが光っていた。 「テーッチテチ。テチャテチャ!」 青年に何かを一生懸命訴えている。 リンガルをつけるまでもなく、「飼ってチ!」という事だとわかった。 さらに後ろの茂みの中にも、赤と緑の光がいくつも揺れている。 青年と仔実装の様子を伺っているようだ。 青年は煙を模した蒸気を吐き出しながら、慣れた手つきで軍手を嵌め、しゃがみ込む。 こいつは、最後まで走りきれるかな…… 青年は首をかしげ、テチテチとはしゃぐ仔実装を見つめながら家路へと足を進めた。 --- 家に帰ると、まずはお風呂で仔実装の丸洗いである。 青年はぬるま湯を大きめのバケツに汲み、仔実装を突っ込むと、ゴム手袋を嵌めた。 「デチューン! チューン!」 小さな手をバタつかせながら、気持ちよさそうな声を上げる仔実装。 野良の実装石はとにかく汚くて臭い。 青年は仔実装を洗濯用の石けんでワシワシと洗う。 仔実装は目に入ったらしく暴れるが、青年は笑いながらそのまま続ける。 青年は何度かお湯を変えながら、色が黒くなくなるまで洗った。 ようやく洗い終え、風呂場から出た青年は仔実装の髪を乾かす事にした。 実装石の髪の毛は額に一カ所と後頭部に二カ所生えている。 青年はその生え際をまじまじと見つめ、つくづくみっともない生き物だと思った。 仔実装は心底気持ちよさそうに目を細めている。 十分に乾かし終えると、青年は仔実装のうしろ髪に手櫛を通しながら、細い三つ編みを編み始めた。 仔は目を輝かせて小さく鳴く。 「テッチュウー…」 仔実装にとって、まるで夢のような時間であった。 三つ編みは、左右にそれぞれ五本ずつとなった。 「10本かぁ……じゃあ、お前の残機は10な。がんばれよぉ。」 青年は笑いながら宣告する。 仔実装は首をかしげ、ひと鳴きする。 「テエ?」 残機?何それ?とでも言いたげな顔だ。 青年は仔実装用の水槽にタオルと簡易トイレを置くと、仔実装を入れる。 青年はリンガルをつけ、説明を始める。 「いいか?これからお前を飼うためのテストだ。 糞を漏らすな。でかい声を出すな。食い物を落とすな。歯向かうな。むやみやたらに発情するな。 やりきればちゃんと飼ってやるよ。 …できなくても最後まで面倒は見るから安心しろ。」 仔は目を細め、ニヤニヤしている。 「テチテチ……テチュテチュ!テッチューン!」 (何言ってるんデチ…? もう飼われたも当然デチ! 賢いワタチを拾えてニンゲンは幸せデチューン!) 青年は思った、おうおう、威勢がいい。マジで頑張ってくれよ、と。 --- 水槽に下ろすと、最初の粗相はすぐにやってきた。 床に糞をムリムリとたれた。 「テチテチ! テチューン!(ニンゲン!ウンチを片付けさせてやるテチ!)」 青年は三日月型に目を細め、糞蟲感たっぷりの仔実装を左手でそっと持ち上げた。 右の三つ編みの根元に手を掛けながら、仔実装の顔を見つめる。 舐めきった目で見上げ、首をかしげる仔実装。 青年はためらわず、思い切り三つ編みを引き抜いた。 一瞬、抵抗があった後、ブチブチと音を立てながら髪が頭皮を巻き込み、剥がれ抜けた。 仔実装は頭の痛みにジイィィィっと鳴いた後、テェーと間の抜けた声を出しながら、青年の右手に握られた髪の毛をぽかんと見つめている。 少し後、状況が飲み込めたのか甲高い鳴き声を上げた。 「テ...テ...テェエエェェェェエーン! チィイイジ!」 (かみ…かみのけ…かみのけえええぇぇぇ!ワタチのだいじなぁ…このクソニンゲンめえええッチ!) 絶叫しながら、手に噛みつこうと身体をよじり始めた。 「清々しいくらいの糞蟲だなこいつ……。」 青年はぼやくと、 仔実装を掴んだ手にギュッと力を入れると、苦しそうにヂィヂィ鳴きながら糞を漏らした。 ため息をつきながら、引き抜いた三つ編みを傍らの箱へ入れた。 そして、左右両方の三つ編みに手をかけると思い切り引っ張る。 バンッと音を立てながら仔実装の三つ編みが抜ける。 頭皮が巻き込まれ、左右の側頭部まで皮膚が毟れた。 ピンクの脂肪が生々しく、徐々に血が滲み出始めた。 仔実装は頭の痛みと、続けて髪を失ったショックで抵抗をする気を失ったようであった。 青年は仔実装を水槽に放り捨てると、四肢を投げ出し、天井に焦点の合わない目を向けながら泣き続けた。 「テェェェエン! テェェェエン! エッ...イグッ...ヂィィィィイン! テェェェエン!」 青年は甲高い仔実装の鳴き声に顔を顰めると、ゆっくりと話しかけた。 「なあ。それ以上泣くんならもう1本いっとくか?」 言いながら右手で頭を押さえて左側の三つ編みに手をかけた。 すると、嗚咽を必死で噛み殺しながら目を見開き、首をイゴイゴと振る仔実装。 「へえ。やればできるじゃん。えらいえらい。」 青年はそう言いながら仔実装の頭を撫でた。 目をギュっと瞑りながらヂッヂッ…と歯を食いしばる仔実装。 無力感と恐怖から口の端から泡が零れ落ちる。 青年は仔実装ににこりと笑いかけて水槽にそっと戻した。 仔実装は水槽の真ん中で、しばらく頭を擦りながら脱力していたが、ふらふらと立ち上がりタオルに包まると、眠りについた。 その夜、すすり泣く声がやむ事はなかった。 ーーー 次の日も粗相は続いた。 食べ物をこぼす、騒ぎながらの自慰……。 青年が三つ編みを引っこ抜くたび、仔実装は必死に暴れ、泣き叫んだ。 自分の財産に命よりも固執する実装石にとって、二度と生えてこない髪を失う事は身を切られるよりも辛い。 青年はそれを知識として知っていたが、実感はまったくなかった。 仔実装が青年の機嫌を取ろうと歌った歌が癇に障り、最後に残った前髪を掴んで床に叩きつける。 ついにすべての髪の毛を失った仔実装の心は、折れかけているようだった。 仔実装は水槽に映る、髪を失い前歯が砕け、鼻血を流した自分の姿をじっと見つめながら、 「テー」 とひと鳴きした。 ーーー たった二日で威勢のよさもなくなり、従順になった仔実装であったが、その活力も失われつつあった。 青年がふと水槽を見ると、ボーっと服を洗っていた仔実装がパンツに糞を漏らした。 青年は仔実装にしゃがみ込み声をかけた。 「もう髪の毛ないもんなぁ……ここからは身体を張ることになるから、もっと元気だせって!」 仔実装はビクッと身体を震わせ、お仕置きをされると思ったのか頭を抱えたが、急にかけられた優しい言葉が嬉しかったようだ。 顔を上げると意を決したような表情で青年に呼び掛けた。 「……テッチューン」(……ゴシュジンサマ) 仔実装が初めて青年をご主人様と呼び、媚びてきた。 青年は内心、ちょっと喜びながら、仔実装を左手で掴むと、台所へと連れて行った。 パンツを脱がして尻をお湯で洗ってやると仔実装は嬉しそうにチイチイと鳴いた。 そして、右腕を捻りながら引きちぎった。 肩口の部分がブラブラと毟り切れなかったため、キッチンバサミで挟み切った。 仔実装は突然の想像を絶する痛みに目を見開きながら歯を食いしばり、声も出ないようだ。 シンクの中で血を流しながらのたうち回り、糞を漏らしている。 「うお、ばっちいな…追加でおしおきじゃんか...」 左足に手を掛け、捻りながら捩じ切る。 ポキポキプチプチと小気味いい音を立てながら容易く取れる。 「イジャァァァアアア! ヂィィィイイイ!」 痛みに痙攣しながら叫び声をあげる仔実装。 青年はその声を聞いて、眉間に皺を寄せて顔をしかめた。 「でかい声をあげるなって言ったじゃんか...んもう。」 青年はそうぼやくと、耳を右手で思い切り引っ張り、キッチンバサミで切り落とした。 仔実装は下唇を噛みぬきながら、声を上げないように耐えた。 青年は脈打つ肉片を見つめながら、少し考えこんだ。 ———とりあえず炒めてやるか。 驚くべきことに、彼には虐待をしている意識が少しもなかった。 仔実装は目玉をひん剥き、噛みしめた口の端から泡が吹きだしている。 青年は包丁を取り出した。 耳を膾に刻み、手と足は開いて血を洗い流して、骨をこそげ取る。 青年は肉片を酒に浸すと、仔実装の様子を見ようとシンクの中に目をやった。 なんと、さめざめと赤と緑の涙を流しながら殊勝にも糞を我慢しているようだ。 「おお……おまえにしてはえらいじゃないか...…」 青年は薬箱から軟膏を持ってくると、仔実装の傷口に塗ってやり、水槽に戻した。 台所に戻った彼は肉片を醤油とごま油でさっと炒めて餌皿に分けると、仔実装に差し出した。 「頑張ったじゃん。ほら、お前の手と足と耳だよ。ご褒美に炒めてやったぞ。 味つけ薄いとかあったら言えよ。」 皿をじっと見つめて動かない仔実装。 「なんだよ食べさせて欲しいのか...…この状況で糞を漏らさなかった事はえらい。食べさせてやらん事もない。」 仕方ねえなと箸でつまみ、口元に持っていくと泣きながら食べ始めた。 「テー」 と一言鳴いたのでリンガルを見ると、 「おいしいデチ」 と表示されている。 青年は思わずはにかみ、声を掛けた。 「そりゃよかった。また作ってやるよ。」 声をかけた瞬間、仔実装はジェエェェェと叫び、パキンと乾いた音がした。 半笑いの表情の仔実装の目が色を失い、鼻から濁った液体が出てくる。 糞は漏らさなかった。 「えぇー!?死んだの!?…… 美味かったんじゃないのかよ...…んもう。」 青年はため息をつきながら仔実装の亡骸をビニール袋に包み、ゴミ箱に捨てた。 そして、死んでも糞を漏らさなかった事は偉かったな…とシンクで仔実装を見た時と同じ事を考えたのか、つい笑ってしまうのであった。 ーーー 彼の部屋には子供サイズのマネキンが並び、その頭には様々な長さのウィッグが被せてあった。 課題で作ったり、趣味で作ったものだ。 髪をいじるのは楽しいが金はない。 そう。今までの仔実装の存在はそこにならんだ、ウィッグ達に置き換わっている。 「結構集まったなぁ。そろそろ実際に身に着けている所が見たいんだけどなぁ...…。」 鼻歌を歌いながら、仔実装から引き抜いた髪をウィッグ用に加工していく。 そして、早くちゃんとしたやつを飼いたいな...とつぶやいた。 仔実装の迎えた結末も、彼にとっては趣味と実益を兼ねた、気ままなテストであった。 青年が、まだ見ぬ自分の飼い実装に思いを馳せ始めると、さっきまで家に居た仔実装の姿は思い出せなくなっていた。

| 1 Re: Name:匿名石 2025/11/04-21:40:56 No:00009826[申告] |
| 今後おしゃれさせて飼うであろう良仔実装の為の素材にすぎなかったわけか糞蟲仔達は
これは未来の性格の良い飼い仔実装がウィッグの正体に気付いた時の反応も気になるね |
| 2 Re: Name:匿名石 2026/01/14-20:12:20 No:00009866[申告] |
| うまいことヘアドネーションに繋げられねーかなーとは思ったけど
ただでさえ病気や事故、投薬で苦しんでる人達に実装石かなんてもんの髪の毛で作ったウィッグは酷だな 質によっては美容師理容師さん向けの練習用ウィッグとして牧場で飼育されてる実装石の髪の毛使えばそれなりに経済が回るんじゃないだろうか |