実翠石との生活Ⅲ 短編まとめ7 ----------------------------------------------------------------------- 必要と不必要 「わぁ〜!」 実翠石の常磐を連れて、何とはなしに立ち寄ったショッピングモール内のおもちゃ屋。 そこで陳列されていた様々なおもちゃに、常磐が瞳を輝かせる。 常磐と一緒にあれこれ眺めていると、動物達の一家が住まう様々な家具が設置されたドールハウスが私の視界に入った。 懐かしいな。私も昔はよくああいうので遊んでいたな。 買ってくれた両親はもう他界してしまったけど、まだドールハウスは押入れの何処かにあるはずだった。 見れば小さい女の子が、店頭の試遊サンプルと思しきドールハウスに、飼い仔実装を入れておままごとに興じていた。 なるほど、ああいう楽しみ方もあるのか、とちょっと感心してしまう。 「常磐はああいうお人形やお家に興味はある?」 「むむ、う〜ん?」 私の問いに、常磐はちょっと考え込むが、すぐに笑顔を浮かべて私の胸に顔を埋めるように抱きついてきた。 「お人形さんと遊ぶのも楽しそうだけど、やっぱり私はお姉さまと一緒にいるほうが嬉しいです!」 「そ、そう?」 「はいです!」 ・・・やっぱり、誰かに必要とされるってのは、嬉しい事なんだろうな。 何故かちょっと鼻の奥がツンとしてきた。 「・・・ありがとね、常磐」 「お姉さま?」 きょとんとする常磐の頭を撫でて、気分を落ち着かせる。 撫でられるままに幸せそうに目を細める常磐の笑顔を見ていると、なんだか私まで幸せな気分になってくるから不思議なものだ。 「それじゃ、いつも良い娘の常磐には、何か甘いものをご馳走してあげましょうか」 「わーい!お姉さま、ありがとうございますです!」 『ヂィッ・・・!』 玩具売り場を去る二人の後ろ姿を、飼い仔実装のテチタンは忌々しげに睨み付けていた。 せっかく綺麗で豪華なお家でセレブな気分を満喫していたのに、卑しい肉人形の実翠石が飼い主のバカニンゲンに媚びているところを見せつけられたのだ。 最近は飼い主の少女があまり構ってくれなかった事も相まって、テチタンからすれば気分を害するなという方が無理な相談だった。 『テヂャァッ!』 苛立ちに任せて書棚を蹴り飛ばす。 『テヂィィィッ!テッヂャアアァァァッ!』 食器棚をひっくり返し、テーブルや椅子を投げつける。 「て、テチタン!?どうしちゃったの!?」 飼い主の少女の戸惑いを無視し、怒りのあまりたっぷりと漏らしていた糞を所構わず投げつける。 「だ、だめだよ、テチタン!良い仔だからやめて、ね?」 必死に宥める飼い主の少女だったが、当のテチタンは聞く耳を持たない。 飼い主の少女は小学校受験でここしばらく忙しく、テチタンの相手をほとんどしてやれなかった事に罪悪感をおぼえていた。 この度めでたく合格し、ようやくテチタンと遊ぶ時間を作れると思った矢先にこれである。 困惑と悲しみで目に涙を浮かべながら、少女は服に糞が付くのも構わずテチタンを何とか止めようと頑張った。 だが、少女の努力も虚しく、騒ぎを聞きつけた少女の両親が駆け付けるまでの間に、試遊サンプルのドールハウスのみならず、 周囲のあちこちがテチタンの撒き散らした糞で汚染されてしまっていた。 手に負えないと思った少女の両親、特に母親の決断と行動は速かった。 『ヂッ!?』 テチタンはその場で少女の母親にあっさりと首を捻られて始末された。 まるで大して思い入れのない不必要になった玩具をゴミに出すような容赦の無さだった。 少女はテチタンとの急な別れを悲しんだが、4月に入り小学校で新たな友達が出来ると、子供らしい切り替えの早さで明るさを取り戻していった。 ----------------------------------------------------------------------- 待ち侘びた春の訪れを前にして 「えっへへ〜♪」 お出かけからの帰り道。 各所にフリルがあしらわれた薄桃色のワンピースに身を包んだ実翠石の常磐が、嬉しそうに笑みを浮かべていた。 やはり女の子だからか、可愛い服を着ればテンションが上がるようだ。 手を繋いでいなかったら、今にも踊り出しそうなくらいだ。 新しく買った春物の服をそのまま着て帰ってきたのだが、色合いも相まって、桜の妖精が顕現したかのような愛らしさに、見ている私も嬉しくなってくる。 ふと、通りかかった公園の桜の木が視界に入った。 枝には色づき始めた蕾がちらほらと付いているのが見て取れた。 「お姉さま、もうそろそろ桜の花も咲きそうです!」 一足早く咲いた桜のような笑みを浮かべる常磐に、つられるように私の口元も綻ぶ。 「そうね。桜が満開になったら、お花見にも行きたいわね」 「はいです、楽しみです♪」 『デッジィィィィィィッ・・・!』 呑気な会話を交わす二人に対して、とある野良実装一家は公園の中から呪い殺さんばかりの視線を向けていた。 食糧の備蓄が底を尽き、餓死した仔の死体すら口にして糊口をしのいでいるというのに、あのデキソコナイは人間に媚を売って安穏と豊かな生活を享受している。 自分達はボロボロになった実装服をまとうのが精一杯なのに、あのヒトモドキは野良には垂涎物のピンクの服に身を包んでいる。 あまりに理不尽な現実に、野良実装一家は怒りで顔から火を吹かんばかりに真っ赤になっていた。 そんな野良実装一家の近くを、ピンクの実装服に身を包んだ飼い実装一家が通りかかる。 あの肉人形ほどではないにしても、飼い実装一家もずいぶんと恵まれた生活を送っているのが一目で分かった。 野良実装一家が実翠石に抱いていた憎悪は、手近な発散先に叩きつけられる事となった。 『その服寄越せデジャアアアアアアアァァァッッ!!』 『ぶっ殺してやるテチィィィィィッ!!』 『お前達は今日のご飯テチャァァァァァァァッ!!』 突然襲いかかってきた野良実装一家に、飼い実装一家は為す術無くその餌食となった。 『デジャッ!?』 まず飼い母実装が野良母実装に首筋を噛み千切られて絶命する。 『テ・・・?マ、ママ・・・?』 暴力とは全く無縁の生活を送ってきたが故に、目の前で何が起きたかを理解できず、飼い仔実装達は呆然と立ち尽くしてしまう。 致し方ないとはいえ、それは致命的な隙を野良実装一家に与える事となった。 『一匹も逃がすなデスゥッ!』 『死ねテチャァッ!』 『喰わせろテチィ!』 野良実装の指示の下、飼い仔実装達に対する虐殺が始まった。 『や、やめテチィッ!ワタチタチはお友達テチィ!?』 『痛いテチャァッ!?噛んだりしたら駄目なのテチィッ!?』 『髪の毛引っ張っちゃ嫌テチャァッ!?』 全く抵抗出来ずにいる飼い仔実装達に、野良実装一家は情け容赦無く暴力を振るう。 程無くして飼い実装一家は一匹残らず全滅し、野良実装一家の餌と化した。 腹が膨れて多少なりとも思考力を取り戻したのか、野良母実装は妙案を思い付いたようだ。 『お前達、飼い糞蟲共が着ていた服に着替えるデス!すり替わってセレブな飼い実装に転身デスゥ!』 『飼い実装になれるテチ!?』 『セレブな生活ゲットテチィ!』 『クソニンゲンを奴隷にして贅沢三昧テチャァッ!』 歓喜の鳴き声を上げて、野良実装一家は血肉と汚物にまみれたピンクの実装服に手をかけた。 惨劇の一部始終を、遅れて公園にやって来た飼い主が怒りに震えて睨みつけているとも気付かずに。 報復は直ちに実行された。 『デゲボアッ!?』 胴体を半ば潰される程の威力の蹴りを喰らい悶絶する野良母実装。 『テベチッ!?』 『ヂッ!?』 『ママァッ!助けテチベッ!?』 『許しテチ!ゆるしチュベァッ!?』 野良仔実装達は身動き出来ない野良母実装の目の前で一匹ずつ踏み殺された。 野良母実装は四肢を踏み潰された挙げ句、服と髪を毟り取られ、そのまま放置された。 『た、助けてデスゥ・・・。こんなの嫌デシャアァァァ・・・』 力無く呻く野良母実装だったが、その運命は風前の灯火だった。 『デププ・・・!』 遠目に見ていた他の野良実装達が、空腹を満たそうとニヤついた笑みを隠そうともせず近付いて来ていた。 飼い主による報復はそれだけでは済まなかった。 飼い実装を襲う凶暴な野良実装がいると役所に通報し、数日後には駆除業者が公園に乗り込んで野良実装を一匹残らず根絶やしにしてしまった。 公園に住まう野良実装達は、あれ程待ち望んだ春を楽しむ事なくこの世を去ることとなった。 ----------------------------------------------------------------------- 髪は女の命というけれど 私は実翠石の常磐を連れて近所の美容院にお邪魔していた。 少しばかり髪が伸びたせいか、手入れに手間がかかるようになったので、気分転換も兼ねて少し切ってもらおうと思ったのだ。 髪を切る必要があるのは私だけなので、常磐には留守番をさせるつもりだったのだが、 「お姉さまがきれいになるところを見たいです!」 という常磐のご要望もあり、一緒に連れて行く運びとなったのだ。 美容院に他の客が居なかったためか、はたまた常磐の美少女然とした愛らしさ故か、お邪魔どころか歓迎されたのは幸いだった。 何やらジュースまで差し入れされてるし。 常磐も常磐で、お礼を言ってジュースに口を付けながら、私が髪を切られているところを興味深げに眺めていた。 店員さんの興味も私よりむしろ常磐に向いていたようで、 ヘアカットの際の会話も常磐の事ばかり。 私の髪のセットが終わるや否や、 「お客様、よろしければお嬢様の髪もお手入れしてはいかがですか?サービスしますよ?」 と聞かれるほど。 期待に瞳を輝かせてこちらを見る常磐にダメとは言えず、まあ良いか、とお願いすることにした。 上質な絹糸を思わせるロングヘアを切るのはもったいないので、毛先を整えてヘアアレンジしてみるとのこと。 店員さんにこの髪型もいい、この髪型も捨てがたい、とあれこれ髪型を試されている常磐の楽しげな様子に、私も不思議と楽しくなってくる。 ほんのちょっとだけ妬けちゃうけど。 最終的にはいわゆるドリルツインテールに落ち着いたようだ。 「お姉さま、どうです?かわいくなったです?」 「うん、なんだかお嬢様っぽくてすごく可愛いわ、良く似合ってる」 瞳をキラキラさせる常磐に正直な感想を述べると、そのまま常磐は飛び込むように抱きついて来た。 「えへへ〜、お姉さまにかわいいって言われちゃったです〜♥」 そう言って常磐はぎゅっと抱きつく力を強める。 常磐から伝わる体温と親愛の情に、私は心身共に温かくなるのを確かに感じた。 『デギギギギギギギギギギィッ・・・!』 ピンクの実装服に身を包んだ飼い実装のフランソワは、美容院を後にする常磐達を歯ぎしりしながら睨み付けていた。 主人である中年女性に散歩がてら連れてこられた店に居た、ニンゲンに取り入ろうとする性根の卑しい肉人形。 高貴で美しいワタシがいるにもかかわらず、周りのニンゲン達は卑しいヒトモドキをチヤホヤするばかりで、こちらには目もくれない。 実翠石自体はさほどの間を置かずバカな飼い主に連れられて店を出て行ったが、それで不愉快な思いが消える訳でもない。 あんなヒトモドキだけがいい目を見るなんて許せない。 あんなデキソコナイよりもワタシのほうがもっと格上の扱いがされて然るべきだ。 あんな媚びる糞蟲よりも下の扱いを受けるなんて理不尽は絶対に認められない! 躾で抑え込まれていたはずの糞蟲性が、フランソワの中で鎌首をもたげ始めていた。 もっとも、成体実装になるまで売れ残り、処分価格で売られていたところを運良く飼って貰えたという程度の出来のフランソワに、本能に逆らって大人しくしていろという方が無理な相談なのかもしれないが。 『ワタシも髪型を変えてオシャレしたいデス!』 フランソワは首輪に付けられたリンガルのスピーカー越しに五月蝿く執拗に要求した。 とうとう根負けしたらしいフランソワの飼い主はちょっとだけだから、と店員に無理矢理頼み込む。 店員としても常連の頼みは断れず、内心渋々、だが顔はあくまでも営業スマイルで請け負う事とした。 と言っても実装石は前部に一房、後頭部に二房しか髪が無い。 これをどうやってアレンジしたものかと、店員は美容椅子に座らせたフランソワの後ろ髪を梳かしながら思案する。 だが、実翠石を見て苛つきが収まらないフランソワは、そんな店員に八つ当たりの罵声を浴びせ始めた。 『手つきがトロいデス、クソニンゲン!やる気が無いならとっとと失せろデス!』 実翠石は褒めそやしていた癖に自分には何も言わない店員が、フランソワは大変気に食わなかった。 店員は取り合わず、顔に営業スマイルを貼り付けて髪を梳き続けたが、それは悪い方向にフランソワを刺激した。 『まともに口も利けないんデス!?そんな無能だからあんな肉人形の媚にひっかかるんデス、このバカニンゲン!』 さすがに頬が引きつる店員だったが、それでも高い職業意識故か顔に貼り付けた笑顔は崩さない。 もっとも、フランソワに話しかける事もしなかったが。 『お前みたいなクソニンゲンに任せたのが間違ってたデス!クソニンゲン風情がワタシの髪に触るなデシャアッ!』 無視されたと感じたのかフランソワはとうとう癇癪を起こして、口から泡を飛ばしながら勢いよく店員に振り向く。 後ろ髪を梳いている最中にそんなことをすればどうなるかなど、フランソワは思い至らなかった。 結果、後ろ髪が櫛に絡まり、ブチリと嫌な音を立てて一房丸々根本から抜けてしまった。 『デ・・・?』 目の前の櫛にぶら下がる髪の毛の束。 髪の毛が生えていたはずの部分がヒリヒリと酷く痛い。 痛む部分に手を伸ばすと、あるべき髪の毛がそこには無い。 何故ならそれは目の前にあるから。 『・・・デ、デ、デ、デジャアアアアアアアアアアアアアアッッ!?』 現実に気付いたフランソワが絶叫を上げる。 失われたら二度と元には戻らないものが目の前にぶら下がっているのだから、当然といえば当然の反応だ。 『無いデジャア!?無いデジャア!?ワタシの美しい髪が無いデジャアアアアアアアアッッ!?』 フランソワは半狂乱になって暴れ始めた。 たっぷりと糞を漏らし、ご自慢のピンクの実装服を汚い緑色に染めながら、フランソワは店員に糞を投げ始める。 『このクソニンゲン!ワタシの髪に何てことしてくれたデギャァッ!?』 「止めなさいフランソワちゃん!止めなさい!」 さすがに飼い主が止めに入るが、フランソワはお構いなしに暴れ狂う。 『お前なんかウンコ喰わせてぶっ殺してやるデジャアアッッ!』 フランソワは投糞しながら店員を追いかけ回している内に、シザースタンドにぶつかって倒してしまった。 フランソワにとっては運悪く、店員にとっては運良く、スタンド上の鋏やカミソリがフランソワに降り注ぎ、その全身をズタズタに切り裂き、あるいは刺し貫いた。 『デギャアアアアアアアアアッッ!!??』 全身を襲う激痛にのたうち回り、ようやくフランソワは投糞を止める。 だが、店内は糞まみれとなり、もはや取り返しの付かない惨状となっていた。 フランソワに糞まみれにされた美容院は、一週間ほど臨時休業を余儀なくされた。 さすがに激怒した美容院側はフランソワの飼い主に損害賠償を請求し、飼い主側は刑事告訴しない事を条件に多額の賠償金を支払う事となった。 騒ぎの元凶となったフランソワは飼い主から愛想を尽かされて、怪我の治療すらしてもらえずに公園に捨てられた。 糞にまみれ、ズタズタに切り裂かれているとはいえ、ピンクの実装服を着て悪目立ちするフランソワは、野良実装石達の格好の標的となった。 『デププ、こいつは捨てられたみたいデス!ざまあみろデス!』 『こいつ髪が半分ないデス!不細工だから捨てられたデス!』 『元飼いだけあって肉付きは悪くないデス!バラして仔供達のご飯にするデシャアッ!』 『痛いデス・・・、やめろデス・・・、食べちゃイヤデスゥ・・・』 怪我の回復すらままならぬ状態で捨てられた事も手伝い、フランソワは抵抗もできずに生きたまま野良実装達に嬲り者にされた挙げ句、貪り食われる事となった。 かつてフランソワが使ってた実装石用の布団や数々の玩具、実装服等はその全てがゴミとして処分され、フランソワが生きていた痕跡は跡形もなく消え去る事となった。 ----------------------------------------------------------------------- 楽園行きのトラック 今日の昼食は外で済ませようと思い、私は実翠石の常磐を連れて商店街に来ていた。 適当に空いているお店が無いかと目線を滑らせていると、どぎつい彩色のトラックが駐車しているのが目に止まる。 荷台にはケージや水槽に詰められた、大小様々な実装石が載せられていた。 荷台の側面には満面の笑みを浮かべた実装石のイラストと、【楽園行き】と書かれた文字。 噂には聞いていたが、始めて見る【楽園行き】のトラックだった。 載せられている実装石達は、イラストと同様に皆笑顔だ。 自分達が辿る残酷な運命をこれっぽっちも知らずに。 「あの、お姉さま・・・」 常磐も何か良くないものを察したのだろう。 悲しげな視線と共に、繋いでいた小さな手に力が籠もるのを感じた。 『デププ!』 『チププププッ!』 『デッヒャッヒャッヒャッヒャッ!』 荷台に載せられていた実装石が常磐に気付いたのか、こちらに向けて嘲笑を向けてくる。 不思議と怒りは湧かなかった。 「常磐、行こっか」 「は、はいです・・・」 なんとも嫌な気分になってしまった。 ここは気分転換にちょっと奮発して、美味しいものを食べに行こうかな。 『デププププッ!哀れデスゥ!惨めデスゥ!』 荷台のケージから忌々しいヒトモドキの実翠石を見下ろしながら、元飼い実装のミドリは嫌らしい嘲笑を浮かべた。 楽園行きに選ばれず、悲しそうな表情を浮かべるデキソコナイに、溢れる優越感を抑えきれない。 飼い主の言いつけを破って仔を産んだのがバレた時はどうなるかと思ったが、 飼い主はミドリ一家を公園に捨てたりせずに、実装石だけが行ける楽園で家族一緒に暮らせるようにしてくれたのだ。 ニンゲンに媚びるしかない卑しい肉穴風情は、せいぜいクソニンゲンの元で必死に腰でも振っているのがお似合いだ。 ミドリは己が掴んだシアワセに酔いしれていた。 『ママ、これから行く楽園ってどういうところテチ?』 無邪気に聞いてくる仔の一匹を抱き上げて、ミドリは笑顔で応えた。 『実装石だけが行ける、食べ物にも住むところにも困らない素敵な場所デスゥ!選ばれた実装石だけが行ける特別な場所デスゥ!』 飼い主からの受け売りだが、幸せ回路の働き故かミドリの思い描く楽園はまさにこの世の贅を尽くしたような場所だった。 『すごいテチすごいテチ!』 『スシやステーキもいっぱいテチ!?』 『コンペイトウも食べ放題テチ!?』 『クソニンゲンをドレイにしてこき使ってやれるテチ!?』 仔供達の喜びように、ミドリもさらに笑みを大きくする。 シアワセいっぱい夢いっぱいの楽園での生活が、楽しみで楽しみで仕方がなかった。 飼い主は決して嘘は言っていなかった。 楽園に行けば食べ物にも住む所にも困ることは無くなる。 楽園に着いたが最期、そのまま焼却炉にまとめてぶち込まれるのだから。 飼い主は、事実全てを伝えていないだけだった。 家に帰り着いても、常磐は沈みがちな表情を浮かべていた。 あまり気にして欲しくはないと思う反面、優しい心を持っているのだな、と嬉しくもなる。 「常磐、ちょっといい?」 私は常磐の前髪をそっとかき分けて、額に軽くキスをする。 「お、お姉さま!?」 真っ赤になった常磐に、私はいたずらっぽく笑いかける。 「元気になった?」 「は、はいですぅ・・・♥」 頬を赤くしながら額を両手で抑える常磐を、そのままぎゅっと抱き締める。 うん、やっぱり可愛い常磐には悲しげな表情など似合わない。 だから、ね。 ずっとずっと、私のそばで笑っていてね、常磐。 -- 高速メモ帳から送信
1 Re: Name:匿名石 2025/05/11-14:50:05 No:00009647[申告] |
常磐の行くところ飼いも野良もみな地獄に…恐ろしい子!
あと「楽園行き」の設定久々に見た。好きな設定なので嬉しい |
2 Re: Name:匿名石 2025/05/11-16:56:05 No:00009648[申告] |
毎度、〆の甘々っぷりがええのう(人知れず自滅する糞虫たちを尻目に)。
あと、スレでの投稿時も突っ込みあったけどお姉さま行き遅れにならんか心配されてて笑うんだ。末永く幸せに居てほしいの当然としてこのまま行くとどうなるのか…。 |
3 Re: Name:匿名石 2025/05/11-17:45:23 No:00009649[申告] |
毎度何も鑑みない糞蟲連中と実翠石の思い遣りのある心根の差で笑ってしまう
一見感情があって会話が成立する様に見えるのが糞蟲共のタチの悪い所だな 実翠石に対して依存性があるのは他のペットでも言える事だからまあね なんならそこを気にする個体すらいそうではあるが |