タイトル:【虐他】 実翠石との生活Ⅲ 労働は自由を約束する
ファイル:実翠石との生活Ⅲ 労働は自由を約束する.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:237 レス数:4
初投稿日時:2025/05/01-23:57:31修正日時:2025/05/01-23:57:31
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実翠石との生活Ⅲ 労働は自由を約束する
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郊外の一角にある、そこそこの広さを誇る日本式邸宅と庭園。
まだ二十代半ばの亜紀はその縁側で緑茶をすすりながら、庭園を眺めていた。
視線の先では、飼い実蒼のブラウが庭木を剪定し、切り落とされた枝葉を労働実装の2号が仔実装達と共にゴミ袋へとまとめている。
半年ほど前に亡くなった祖父から会社と併せて相続したこの邸宅と庭園は、それなりに見事な造りであるだけに、維持にもそれなりの手間と費用が掛かる。
今までは祖父の代から懇意にしていた庭師に定期的に手入れをして貰っていたのだが、三か月ほど前に高齢を理由に引退してしまった。
それ以降はブラウ自身の希望もあり、彼女に庭の手入れを任せていた。
だが、やはり体格故の限界があるのか、ブラウだけで面倒を見るというのはさすがに無理があるようだった。
そこで亜紀は、素性が悪くなさそうな成体実装を三匹ばかり保健所から引き取り、ブラウの下で働かせることにしたのだ。
 (できれば実蒼石を引き取りたかったが、保健所に引き取られる実蒼石など滅多にいないとのことだった。) 
せいぜい雑草抜きや枝葉集めが出来ればよいと割り切っていたので、大した期待はしていなかった。
当初はいくらか問題も生じたが、今のところは上手くいっているようだった。


元飼い実装のミドリこと現労働実装の2号は、自身の置かれた現状に対して大いに不満を抱いていた。
元々仔実装の頃にペットショップで購入され、成体実装になるまで飼い主一家に愛されて育つという恵まれた個体だった。
だが、野良実装が家族連れで歩いているのを見て嫉妬した挙げ句、自分も仔を産みたいと我儘を言って散々に暴れたのが運の尽きだった。
暴れた際に飼い主一家のまだ幼い娘に怪我を負わせてしまい、危険な個体と看做されて保健所送りにされてしまったのだ。
保健所のケージの中でデスデス泣きながら処分を待っていると、運よく今の飼い主である亜紀の目に留まることが出来た。
また飼い実装に戻れると喜んだのもつかの間、与えられた環境はかつての飼い主が与えてくれたものとは隔絶したものだった。
ミドリ改め2号に与えられた住環境は、柵に囲われた庭の一角と使い古された犬小屋だった。
主人の家に上がることは決して許されなかった。
食事は味や栄養よりも低価格を追求した徳用フードと生ゴミだった。
足りなければ庭木が付けた実を食べてもよいとされたが、かつて口にしていたフードやおやつとは比べるべくもない。
水は庭の池からくみ取らねばならず、風呂に入るなど望外の事だが、不潔にしていると制裁が加えられた。
糞の処理も自分達で行わねばならない。
糞穴用に充てられたスペースに自分達で穴を掘り、そこで糞をする。
それ以外の場所で糞を漏らした場合はやはり制裁の対象となった。
以前飼われていた家とは違い仔を持つことを許されたが、それは労働力として期待されてのことだった。 
産んだ仔は2号の仔と識別しやすいよう、21号、22号といった具合に名付けられた。
主人はこの扱いを是正するつもりはないようだった。
2号がせっかく仔供達に覚えさせたお歌とダンスを披露しても、一顧だにされなかった。
2号は愛玩用ではなく労働力として引き取られたからだ。
2号はこうした扱いに対して不満を持っていたが、決して主人に逆らうことはできなかった。 
この家には実蒼石が飼われていたからだ。


保健所から引き取られた当初は、2号以外にも二匹の成体実装がおり、それぞれ1号、3号と名付けられていた。
元飼い実装同士ということもあり話も合い、仲良くなれると思ったのもつかの間、3号が労働の厳しさに耐え切れず脱走を図ったのだ。
無論あっさりと露呈して、3号はブラウに首を刎ねられた。
3号の穴を埋めるために1号と2号には子を設ける事が許された。
だが、1号の産んだ仔の内二匹が邸宅への侵入を試みてブラウに始末された。
この二匹は見せしめとして1号達が見ている目の前で切り刻まれて殺された。
1号は惨殺された我が仔の仇を討つべく反抗を企てる。
庭木の剪定に勤しむブラウの背後から家族総出で襲い掛かり、各々持っていた木の枝等で串刺しにしてやろうとしたのだ。
無論あっさりとバレて1号一家は皆殺しにされた。 
まず1号が四肢を切り飛ばされて地面に転がされる。
その目の前で、六匹いた仔実装が一匹ずつ切り刻まれていった。
最後に1号が2号一家の目の前で首を刎ねられた。
1号一家の死体は2号一家に片付けが命ぜられた。
逃げても逆らっても殺される。
たとえ現状に不満があったとしても、こうなっては2号はそれを受け入れるしかなかった。


一方、2号の娘の一匹である25号は、現在の生活を恵まれていると考えていた。
広い庭での雑草抜きは大変だが、一日一度はフードと生ゴミのエサが与えられるし、庭で採れた果実や木の実は食べても良いとされている。
お水もあるし、お仕事のない日はボール遊びもできる。
カラスや猫に襲われることもないし、飢えた同族にエサにされることもない。
一生懸命働いたら恐い実蒼石も褒めて頭を撫でてくれるし、何より家族と一緒に居られるのだ。
伝え聞く野良実装達の食うや食わずやの過酷な生活に比べたら、なんとシアワセなのだろう。
だが、そうした見解を25号は決して口には出さなかった。
ママや姉達が現状に決して満足していないことを知っていたからだ。
異分子はたとえ家族であっても容易に排除され得ることを、25号は理解していた。


今日も今日とて25号は、庭園の雑草抜きに勤しんでいた。
すぐ下の妹である26号と協力し、庭園に敷かれた玉砂利の下から生える雑草を、テッチテッチと引き抜こうとする。
非力な上に指の無い仔実装には大変な作業だったが、25号も26号も労を惜しむような真似はしなかった。 
少し離れたところでは、2号と21号達姉仔実装四匹が、ブラウが剪定した庭木の枝葉を集めて袋詰めにしている。
明日はお客様が来るとのことで、2号一家は総出で作業に当たっていた。
『調子はどうボク?』
声を掛けられた25号と26号は作業の手を止め、声の主であるブラウにペコペコとお辞儀する。
実装石にとって恐ろしい存在ではあるが、無聞に襲い掛かってくることはないと分かっているので、二匹とも逃げまどったりはしなかった。
『二匹ともよく頑張ってるボク。その調子で頼むボク』
ブラウは二匹の頭を撫でると、邸宅のほうへと足を向けた。
たとえ相手が実蒼石であっても、評価され褒められれば嬉しい事に違いはない。
二匹はテチュテチュと笑み崩れた後、より一層仕事に励んだ。


その翌日。
この日は客人を何人か招いてのお茶会ということで、庭園にはテーブルや椅子、日除け等々が並べられていた。
庭園自体もよく整えられており、客人の目を大いに楽しませてくれるだろう。
「ありがとう、ブラウ。おかげで良いお茶会になりそうね」
そう言って亜紀がブラウの頭を優しく撫でると、ブラウは小さく、それでいてどこからしげな笑みを浮かべた。
『マスター、できれば2号達にも何かご褒美を・・・』
「そうね、何か考えておくわ」
遠慮がちに言うブラウに、亜紀は気のない返事を返す。
正直なところ、亜紀は2号達にさほどの関心や期待を抱いていなかった。
せいぜいブラウの役に立てばよい、そうでなければ始末する。
その程度の認識しか持っていなかった。
むしろブラウのほうがよほど2号達に心を砕いていたといえる。
仕事の出来が良ければ誉めてやり、糞蟲化しそうであれば睨みを利かせて抑え込む。 
過去に反乱や脱走を企てた3号や1号一家にしても、ブラウとしては処刑などしたくなかったが、主人の命令に従ってそうせざるを得なかった。
ブラウとしては、最後に残った2号一家については何とか処分されずに過ごして欲しいと願ってすらいた。


招待客(といっても五指に満たないが)が揃い、お茶会が始まった。
今日はペット連れの知人がメインであることから、同伴者の顔ぶれも多彩であった。 
やや年老いたゴールデンレトリバーが一匹。
実装紅と実装金(いずれも成体)が一匹ずつ。 いずれも華美さよりも上品さが際立つ装いをしている。
そしてひと際異彩を放っているのが・・・、
「常磐と申しますです。この度は、お招きいただきありがとうございますです」 
カーテシーで挨拶する実翠石だった。
愛らしい少女然とした姿だが、紅と碧のオッドアイがその正体を物語っている。 
「今日は来てくれてありがとう。ゆっくりしていってね」
常磐の愛らしさに当てられたのか、亜紀も作り物ではない笑みを浮かべて応じる。
「すごく良い娘ね、常磐ちゃん。会えて嬉しいわ」 
「そう言ってもらえると何よりよ」
あまりこういった席には慣れていないのか、常磐の主人(亜紀と同年代の女性で大学時代からの知人)はやや緊張しているようだ。 
「そう固くならないで。気楽にお話に付き合って貰えれば大丈夫だから」 
亜紀の経営する会社の一部門では、実装石関連の事業を手掛けていた。 
今後は他実装の分野にまでそれを拡大するべきかを判断するにあたり、実際に他実装種をこの目で見てみたかった、というのが今日のお茶会の趣旨だ。
ゴールデンレトリバーは場違いに思えるが、これは他実装がペット犬と共生できるかを確認するためだった。 
ペット犬を多頭飼いしている飼い主は約二割程度いるらしい。
犬をもう一匹飼う代わりに他実装を、と出来れば市場開拓の余地はある。
亜紀の見たところ、気性の穏やかなゴールデンレトリバーならば他実装との共生は問題なさそうではあった。


主人達が紅茶を傾けて自身の飼い実装の話に花を咲かせている間、飼い実装達は飼い実装同士で仲良さそうにしていた。
ゴールデンレトリバーも傍に侍って、気持ちよさそうに撫でられるに任せている。
普段は庭仕事ばかりのブラウも、他実装と触れ合えて楽しそうな様子だった。 
今は常磐の膝の上で菓子を齧りながら、紅茶についてあれこれ語っている実装紅に耳を傾けている。
これなら上手くいくかもしれないな。
亜紀は客人の話に頷きながら、頭の片隅で算段を立てていた。
他実装種は実装石に比較して価格が高い。
価格の安さも相まって、実装石のほうがよほどペットとしてはメジャーな存在である。 
だが、価格帯が高い商品を購入できるということはそれだけ購買力が高いということでもある。
関連商品で利益を出す、というビジネスモデルを他実装種でも展開する余地は十分あるだろう。
問題は、実装石と比較して個体数が少ないことから利益を得られるだけの市場規模があるかどうかだが・・・ そんなことをつらつらと考えていると、ブラウから呼びかけられた。 
『マスター』
「あら、どうしたの?」
『皆にお庭を案内してあげたいので、少し外してもいいでしょうか?』
いいわよ、いってらっしゃい、と口にしかけて、亜紀は眉をに僅かにひそめた。
いくら敷地内とはいえ、ペットだけで行動させるのはどうだろうかと懸念したのだ。
「私が一緒に行こうか?」 
そう声を上げたのは常磐の主人だった。
不慣れな場で愛想笑いを浮かべるのに疲れたのかもしれないな、などと数瞬思案した後、 亜紀はその言葉に甘えることにした。
「ありがとう、悪いけどお願いするわ」
連れだって歩き出す一行を見送りながら、亜紀は他の招待客から実装紅、実装金についての話に耳を傾けていた。


楽しそうに連れだって庭園を歩くブラウー行を、2号は柵の隙間から歯噛みしながら睨みつけていた。
来客があるから今日は一日居住スペースの中でおとなしくしているように、とブラウから言い付けられていたからだ。 (おまけに勝手に出られないように、外から鍵までかけられている)
2号達の所まで漂ってくる甘い菓子の匂い。 
清潔感と品のある装いの他実装達。 
ブラウも、犬の背に跨った実装紅に実装金、一緒に歩いているニンゲンも皆笑顔で楽しそうだ。
翻って自分達はどうだ?
蓋をして、臭い消しに雑草を混ぜているとはいえ、そこはとなく糞の臭いが漂う居住スペース。
日々の庭仕事でほつれや破れが目立つ、水洗いするのがせいぜいの見すぼらしい自分達の実装服。
日頃の疲れを癒すためか、遊びたい盛りのはずの我が仔達は、皆ぐったりと寝転がってばかりだ。
そして何よりも忌々しかったのは、ブラウを抱っこしている実翠石の存在だった。
実装石にとって恐怖そのものといっても過言ではない実蒼石に媚びへつらっているヒトモドキ。
生意気にも人間に飼われ、自分達より厚遇を受けているデキソコナイ。 
本来あそこに居るべきは自分達実装石のはずなのに。
なぜあんな肉人形風情が・・・!! 
2号としては今すぐにでも飛び出してあのヒトモドキを殴り殺してやりたかったが、ブラウが睨みを利かせているためそれも叶わない。 
それがまた2号の怒りをいや増す結果となった。


そんな2号の背中を見て、25号は思った。
お仕事は大変テチ。
でも、ここにはご飯もお水もお家もあるテチ。
恐いカラスやネコに襲われたりもしないテチ。
ワタチタチを食べようとするオバチャン達もいないテチ。
お仕事を頑張ったら褒めてもらえるし、なにより家族と一緒に居られるテチ。 
だからこれ以上ワガママを言って、ニンゲンさんやブラウさんを怒らせたらダメなのテチ。
25号は賢かった。
それ故に、思ったことを考えなしに口に出そうとはしなかった。
家族の中では、自分の意見が少数派だと分かっていたからだ。
だが、世の中には例えどんなに避けようとしても降り掛かってくる不幸があるのだということを、25号はすぐに思い知ることとなる。


日が傾きかけたところで、本日のお茶会はお開きとなった。
招待客を見送りながら、亜紀は頭の中で本日得られた情報を整理していた。
実装紅は気位が高くて扱いにくいところがあると聞いていたけれど、今日見た個体はずいぶんと大人しかった。
育て方や躾け方にもよるのだろうか?
実装金も意外と静かだったな。もっとお転婆な印象だったのだが。
実翠石は・・・どうだろう?
美少女然とした愛らしい容姿。
知能が高く、性格は穏やかで優しく、飼い主には忠実。
だが、個体数が少ないから市場を形成できるだけの素地がそもそも無さそうである。 
飼うにあたって必要なものは、ほとんど全て人間用の物で賄えてしまうのも問題だ。
敢えて専用グッズを開発・販売するだけの必要性が需要側、供給側にも無い。
やれるとすれば・・・サブスク形式のアフターサービスくらいか?
それにしたって採算がとれるか怪しいものだが。
いや、サブスク形式のアフターサービス、例えば躾け直しや健康診断、一時預かりといったサービスならむしろ実翠石以外の他実装にこそ需要がありそうだ。
特に糞蟲化という問題を潜在的に抱えている実装石を対象にした躾け直しや糞蟲化防止の講習などは、それなりの市場規模を見込めるだろう。
事業の立ち上げ直後はサービスが提供できる地域が限られるだろうが、事業の採算が取れて軌道に乗ればサービス対象地域を拡大することも可能なはず。
あとは競合他社との差別化をどうするかだが・・・。
そんな事をつらつらと考えていると、ブラウが亜紀の足元に寄って来た。
『マスター、お願いがあるのですが・・・』
「あら、何?」
『よければ余ったお菓子を2号達のご褒美に分けてほしいのです』
「いいわよ、好きなだけ持っていきなさい」
『ありがとうございます、マスター』
ペコリと頭を下げるブラウに、亜紀は少しばかり感心していた。
従業員を大事にしたほうがいいっていうのは、どこも同じなのかしら、と。


招待客が帰って日が沈みかけた頃合いになっても、2号の怒りは収まらなかった。
他実装達との格差のある扱い、特にデキソコナイであるはずの実翠石との差を見せつけられてしまった2号は、これまでの鬱慣も込めて文句を吐き出していた。
 『ワタシタチの扱いはおかしいデス!もっと良い待遇を要求するデス!』
『そうテチ!もっといいものを食わせろテチャァ!』
『お家ももっと大きいところに住みたいテチ!』
『お風呂も使わせろテチ!水浴びだけなんて嫌テチ!』
『こんなドレイ扱いなんてもう嫌テチ!今度はあのクソニンゲンをドレイにしてやるテチャァッ!』
2号に感化されたのか、21〜24号までが2号に合わせてテチテチ騒いでいる。
そんな2号や姉達を、25号は不安げに見つめていた。
こんなところをブラウさんに見られてたら、きっとすごく怒られるテチ。
きっとすごく痛いお仕置きをされるテチ。
でも今のママやお姉チャン達に余計なことを言ったら・・・。
そんな25号の危惧を余所に、末妹の26号が臆することなく、憤る2号や姉達に苦言を呈した。
『ママ、お姉チャン達。そんなこと言っちゃダメテチ。ワタチタチは野良に比べれば十分恵まれているテチ』
26号は25号同様賢い個体だったが、その性格は25号に比べて素直に過ぎた。
いや、この場合は危機感に欠けていたというべきかもしれない。 
2号や姉達の剣呑な目つきに気付かないのか、26号は言葉を続けた。 
『お仕事は大変だけど、ご飯も貰えるしお水もちゃんとあるテチ。ワガママ言ってご主人サマやブラウさんを困らせちゃダメなのテヂャアァッ!?』 
最後まで言い切る前に26号は2号に殴り飛ばされた。
『ワタシタチのどこが恵まれているデス!?お前もニンゲンや青蟲に媚びる糞蟲だったデ ス!?』
怒声を吐きながら、2号は何度も26号を踏みつけた。
『テヂッ!?テヂャッ!?や、止めテチ!許しテチャッ!?』
2号が怒りに任せて踏みつける度に、26号は足を潰され、腕の骨を折られ、内臓にダメージを負って糞を漏らす。 
『ママッ、もう止めテチ!それ以上やったら死んじゃうテチ!!』
『邪魔するなデス!』
『テチャァッ!?』
26号へ振るわれる容赦のない暴力に、たまらず25号が止めに入ろうとするが、あっさりと2号に張り飛ばされる。
そればかりか、
『自分だけ良い仔振る糞蟲テチ!』
『生意気テチ!ムカつくテチ!』
『まずはこいつからドレイにしてやるテチャァッ!』
2号に倣った姉達に袋叩きにされる羽目になった。
『や、やめテチ!お姉チャン達、こんなのダメテチィッ!?』
姉妹であるため大した体格差が無いとはいえ、多勢に無勢である。
25号は姉達に叩かれ、噛みつかれ、髪を引き抜かれ、実装服を引きちぎられた。
ブラウが2号達の前に姿を見せたのはそんな時だった。
同族いじめに夢中の2号達は、ブラウの存在に気付かずに25号と26号を嬲り者にしている。
ブラウは腕に下げていたお菓子を詰め込んだビニール袋を下ろすと、まずは25号を嬲り者にしている21号達に気配を殺して一気に距離を詰め、自慢の鋏を振り抜き様に一閃させた。
『テヂィッ!?』
『テベッ!?』
『テヂャアアァッ!?』 
『チギィッ!?』
21号達はまとめて薙ぎ倒された。
手加減した峰打ちとはいえ、脆弱な仔実装の身体にはかなりのダメージだ。
21号達は手足を折られ内臓にダメージを負い、イゴイゴと無様に地を這う。
ブラウは返す刀で2号の背に鋏を叩き付け、背骨を破壊した。
『デギャアアアアアァァァッ!?』
たまらず崩れ落ちる2号を無視して、ブラウは26号を見やる。 
身体が半ば踏み潰されており、目は既に灰色に染まっていた。
おそらく偽石が胴体にあり、それを踏み潰されたのだろう。 続けて頭を抱えてうずくまったままの25号に歩み寄る。
ところどころ血が滲んでいるが、命に別状はなさそうだ。
命と同じくらい大事な実装服と髪は失われ、禿裸にされてしまっているが。 
『大丈夫ボク?とりあえず一緒に来るボク』
ブラウはテェックテェックと泣く25号を立たせると、その手を引いて2号達の居住スペースを後にする。
痛みにのたうち回る2号達はそのまま放置された。


ブラウは25号を連れて邸宅内に居る亜紀の元へと戻り、ことのあらましを報告していた。
話を聞き終えた亜紀はため息を吐くと、ブラウに指示を与えた。
「2号達は処分しておいて。やり方は任せるわ」
『わかりました、マスター。ですが、その・・・』
「あら、どうしたの?」
『25号の事なのですが、どうしましょうか・・・?』
未だに涙を流したままの25号をちらりと見やり、亜紀は答えた。
「そうね、そちらについては追々考えましょう。とりあえずは適当なところに置いておきなさい」
『わかりました。ありがとうございます、マスター』
ブラウはペコリとお辞儀すると、25号の手を引いて亜紀の元を辞した。
あまり気乗りはしないが、マスターの指示だ。
庭園に戻ったブラウは、25号に待っているよう言い含めると、2号達が転がる居住スペースへと足を向けた。
25号は涙を流しながらそれを見送った。 
ほどなくして、2号達の断末魔が聞こえてきた。


居住スペースでは、未だに2号達がイゴイゴと地面を這っていた。
血糊であちこちを汚したくないので、ブラウは鋏の峰を使って次々と21号達を撲殺してゆく。
『チベッ!?』
『ヂッ!!』
『チギィッ!?』
『助けテチ!たすけテベァッ!?』
頸部と頭部に鋏の峰を叩き付けて次々と破壊する。 
ブラウは大して苦しまずに済んだかな、と思いながらも2号に落ち着いた様子で足を向けた。 
『許してデス! ワタシが悪かったデス!もっと真面目に働くデス!文句も言わないデス!だから・・・!』
恐怖のため盛大に糞を漏らしながら泣き喚いて命乞いする2号に、ブラウは鋏を一閃させてあっさりとその首を刎ね飛ばした。
あれだけうるさかったのに、あっという間に静かになった2号達の居住スペースをブラウは見渡した。 
少しは上手くやれていると思ったのに、何もかも無駄になったな。 
ブラウは人知れず肩を落として、邸宅へと戻っていった。


「まったく、糞蟲は何もかも台無しにしてくれるわね・・・」
ため息交じりに言う亜紀に、25号はビクリと身体を震わせた。
2号達の処分が終わった後、ブラウは25号を連れて亜紀の元へと戻っていた。
25号の今後の処遇について確認するためだ。 
禿裸にされたおかげで余計に身体中の怪我やアザが目立つ25号だが、亜紀の態度には同情の欠片も見えなかった。
『その、マスター・・・。25号ですが、よく働く真面目ないい仔です。だから・・・』
「だから?」
『その、出来れば命だけは助けてあげてほしいのですが・・・』
ブラウの遠慮がちな主張に、亜紀はふぅんと興味深そうな声を上げる。
実蒼石のブラウにそこまで言わせる実装石というのも珍しい。
とはいえ、所詮は仔実装。その処遇にあれこれと考えてやるほどの価値があるとは思えなかった。 
「いいわよ。その仔実装はブラウの好きにしてかまわないわ」 
『ありがとうございます、マスター』
ホッとしたような様子のブラウは、ペコリとお辞儀すると、25号の手を引いて亜紀の元を辞した。


その後、25号はそれまでと変わらず、ブラウの元で庭仕事に従事することとなった。
以前と変わらぬ真面目な働きぶりはブラウを満足させたが、残念なことにそれはあまり長く続かなかった。 
目の前で家族を、そして命と同じくらい大切な実装服と髪を失ったことで、偽石にダメージを受けていていたのかもしれない。
十分なエサを与えられていたにもかかわらず25号の身体はほとんど成長せず、それどころか日に日に弱っていった。
仕舞いにはほとんど住処の犬小屋で寝たきりとなり、ブラウに日々介護される有様となっていた。 
ブラウもブラウで、亜紀の命令とはいえ25号の家族を皆殺しにしたことに思うところがあったのだろう。 
嫌な顔一つせず、25号の世話をし続けた。
だが、そんな二匹の関係もとうとう終わりを迎えようとしていた。


その日もブラウは寝たきりの25号の世話を焼いていた。 
もう自力で身体を起こすこともできない25号の頭を、ブラウは優しく撫でさする。
使い古しのタオルを布団替わりにしていた25号が、力なくつぶやいた。
『ブラウさん、ありがとうテチ・・・ 』
パキンという小さく乾いた音が犬小屋内に響く。
それっきり動かなくなった25号の頭を、それでもブラウは撫で続けていた。

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1 Re: Name:匿名石 2025/05/02-05:57:41 No:00009633[申告]
身を身を窶した根元が自分にある事も理解出来ない2号は論外としても賢い仔2匹は幸福を掴む素養は十分にあっただろうね
思慮深い25号と違い26号は賢い実装石の最大の敵が同族である事までは理解できなかったか
ブラウの気遣いが報われる事が無かった事が糞蟲共の最悪な罪だった…気に病むんだろうなきっと
2 Re: Name:匿名石 2025/05/02-12:28:40 No:00009634[申告]
潜在的な糞蟲は買う際にリスクを考慮する必要が…
いや常盤ちゃんが死神っぷりを発揮しただけかな?
3 Re: Name:匿名石 2025/05/03-08:15:41 No:00009636[申告]
???「働いたのに食えなかったぞレーニンッ!」
4 Re: Name:匿名石 2025/05/07-14:42:04 No:00009641[申告]
サブタイの元ネタはアレか…

それはそれとして、実装石は実蒼を本能的に忌避しても憎悪を燃やすまでには至らない分、譲歩しやすくていいのかもね。共存の可能性を感じた良スクでした。
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