【良い匂いのする実装石】 A:実装石視点 ワタシは公園で暮らす野良実装デス。 毎日エサを集めたり、敵やギャクタイハニンゲンサンから隠れたりと、生活は楽ではないデスが、3匹の仔とどうにか生きているデス。 ある日、エサ集めからおうちに戻ってくると、おうちの様子がいつもと違ったデス。 『ムスメたち~、ママがもどったデスよ!』 いつもなら、こうして声を掛けるとムスメたちはおうちからテチテチと鳴きながら出てくるのデスが、今日は誰も出迎えに来ないデス。 ……それどころか、おうちの中から変わった匂いがするデス。 『すんすん……なんか、良い匂いがするデス……』 ワタシは集めてきた木の実を地面において、おうちにゆっくりと近づいたデス。 そして中を覗いてみると……。 『デデッ!? む、ムスメたちがかなしいことになってるデス!?』 そこには、ワタシのムスメたちがあちこちを食い千切られた無残な姿で倒れていたデス……。 しかも、よく見るとお互いに食いつき合ったようデス……い、一体何があったんデスゥ……。 『オロロ~ン、どうしてこんなことになったデスゥ!』 ワタシはしばらくの間、動かなくなったムスメたちの体を抱きしめて泣いたデス。 でも、いつまでもそんなことをしていられないデスゥ。 ムスメたちが死んだのは仕方ないことデスが、まだ生きているワタシはムスメたちの分も生きなくてはいけないのデス。 『……それにしても、良い匂いデス。 思わずよだれが出てくるデス……どうしてこんな匂いがするデス?』 ムスメたちの体からは、今まで嗅いだことのないような食欲をそそられる匂いが漂っているデス。 たぶん、ムスメたちが互いに食いつき合って死んだのもこの匂いのせいデス……。 『ワタシが集めてきた木の実なんかよりも、ずっと美味しそうな匂いデスゥ……』 気がつくと、ワタシはムスメの死体にかじりついていたデス。 『うっ……ウマウマデシャアアアアアッ!』 口の中に広がる芳醇な香り、そして肉自体にも良い風味がついていて、一旦食べ始めると止まらないデス! 滴る血も、まるで昔ニンゲンサンが捨てた缶を拾った時に中に残っていたスープのような極上の味デス! ウマい、ウマすぎデシャアアアアア! 「喜んでもらえて嬉しいよ」 『デデッ!?』 突然の声に振り向くと、白い服を着たニンゲンサンが立っていたデス。 そしてニンゲンサンが持っていた筒からシューッという音と共に霧のような物が噴きかけられたデス……。 B:人間視点 我々が新たに開発したこの薬。 実装石に噴きかけることで、燻製にしたのと同じような風味を付けることができる。 その名も実装イブリ(実装燻り)。 先程、親実装が出かけて仔だけになったダンボールハウスを見つけ、入口の隙間から中に噴きかけてみたところ……。 効果はすぐに表れた。 『オネチャ、美味しそうな匂いがするテチ』 『イモチャからもするテチ』 『ワタチの体からもするテチ……?』 初めは不思議がって互いの匂いを嗅ぐだけだったが、やがて1匹が相手の体にかじりついた。 『痛いテチッ、イモチャ何するテチ!?』 『オネチャのお肉ウマウマテチ! いつもママが持ってくるクソマズイ木の実とは比べ物にならないウマウマさテチィ!』 『ワタチも味見したいテチッ!』 『やめろテチッ、ウマウマそうなのはオマエたちも同じテチッ! やめないとオマエを食ってやるテチ!』 親の帰りを仲良く待っていた(と思われる)姉妹は、すぐに共食いを始めたのだ。 妹2匹は姉の腹や足をかじり、姉は片方の妹の頭の肉を食い千切り、もう1匹の首筋にも食らいついた。 『テビャッ!?』パキン『ヂィィッ!』パキン 『ハァ、ハァ……イモチャたちのお肉……ウマウマテチィ……』パキン 3匹の仔実装たちは共食いの末にパキンし、そこへ帰ってきた親実装は……仔の死骸に食らいついた。 まあ無理もないか、研究所で飼っている実験体の実装石で試した時は、我々研究員でさえ旨そうな燻製の香りに唾を飲んだものだ。 体臭のキツイ野良実装に使用した場合は、さすがに人間にとっては食欲のそそる匂いにはならないが、 同じ野良実装にとっては十分ゴチソウに感じられるだろう。 さて、我が仔の死骸を食らったこの親実装にも実装イブリを噴きかけたので、すぐに他の野良に食い殺されるだろうな。 ほら……もう近所のダンボールハウスから、数匹の野良実装が集まってきた。 食事の邪魔にならないように、私は退散するとしよう。 『デププ……』『デスゥ、デスゥ……』『デスデスゥ……!』 『デデェッ……デギャ、デギィィィ……!』 本来この薬品は、食用実装の風味付け用に開発したんだが、野良実装の処理用としても使えるかもしれないな。 食われていく親実装を少し離れた場所で眺めながら、私はそんなことを考えていた。 C:コマーシャル 画面に映るのは楽しそうな一家がキャンプの支度をしている様子。 「さぁ、燻製の準備をするぞ~♪」「「やったー!」」 父親が簡易スモーカーに食用仔実装を吊るしていく姿に、子供たちは大喜び。 画面は『『『『テェェェン、テェェェェェン!』』』』と泣きじゃくる食用仔実装を映す。 「あれっ、燻製用のチップを切らしてたな、これじゃ燻製ができないぞ」「「え~!」」 困った様子の父親と、残念そうな子供たち。 そこへ母親が取り出したのが……! 「あなた、そんな時はこれ、実装イブリよ!」 「おぉ、実装イブリがあったか!」 父親はスプレー缶を受け取ると、吊るされた食用仔実装にシューーーーーッッと満遍なく噴き付ける。 【食用仔実装に噴きかけるだけで、燻製の風味をしっかりと染み込ませます! バーベキューのお供に、黒浦食品の実装イブリ!】 そして画面は網の上で焼かれる食用仔実装と、焼き上がった食用仔実装を笑顔で頬張る家族を映す。 『テヂィィィ……!』 「「おいしいね!」」 終
1 Re: Name:匿名石 2025/04/28-10:09:39 No:00009627[申告] |
燻製風味液のあれか |
2 Re: Name:匿名石 2025/04/28-23:50:00 No:00009628[申告] |
以前仔実装って茹でたりするとソーセージみたいな食感っぽいってのを見かけて妙に印象に残ってるのでこれは活きのいいソーセージ製造法として重宝しそう
それと拘束しない集団に使用する共喰いリスクも逆に駆除に流用というのが実に対実装らしい発想だなあ |