【飛び実装】 服がマント状に発達した実装石の一種。 高い所からマントを広げて風に乗り、ムササビと同じく滑空することが可能。 ただしムササビのような長い尾を持たないため、滑空中の方向転換は苦手。 他に普通の実装石と異なる点は、大きさがやや小柄であること、 敵に追われると滑空して逃げるために高所に登ろうとすること、 そして木などを登るために手足の先端の皮膚が爪のように固くなっていることである。 (不束書房刊『世界の実装石大図解』より) その飛び実装(仮に『ムサコ』と呼ぼう)は、追われていた。 エサを求めて森をさまよううちに、ニホンザルのテリトリーに侵入してしまったのだ。 ニホンザルがムササビを襲うことは知られている。 どうやら同じように滑空する飛び実装もまた、ニホンザルにとっては襲撃の対象らしい。 ムサコはニホンザルに追い回されて木に登り、今日何度目かの滑空を試みた。 「…デスッ!」 マントを広げ、向かい風を捉えて木からジャンプ! 上手く風に乗って数十メートル滑空し、遠く離れた木にしがみついた。 どうやらサルはムサコを見失ったか、襲撃を諦めたらしい。 「デェ…」 ムサコはほっと一息つくと、シャカシャカと木を登って木の実を食べる。 空腹だったのにサルに追い回されて、体力をかなり消耗していたようだ。 そして食事が終わると、木の幹にしがみついて眠り始めた。 * ムサコが目を覚ました。 周囲を警戒しているようだ…いた、木の根元にツキノワグマの姿がある。 クマはムサコの真下で鼻をフンフン鳴らしていたが、 やがて「グルルル…」と唸ると木を登り始めた。 「デデッ!?」 ムサコは慌てて、さらに高い方へと木を登っていくが、 クマも木登りが上手く、諦めずに登ってくる。 …と、ムサコが木の上の方でマントを広げた。 滑空するつもりらしいが、今は無風だ。 上手く風に乗れなければ長距離は飛べない。 だが、ムサコには…と言うか飛び実装には秘策があった。 「…デェェェッ!」 ——ブババババッ! 叫び声と同時に、ムサコの尻から大量の糞が勢いよく飛び出した。 その反動でムサコは空中に飛び上がり、そこから滑空を始める。 高さを稼ぐことで、風に乗らずとも普通に滑空するより長距離を飛ぶことができるのだ。 * 研究者の間で『糞ジェット』と呼ばれるこの行動。 飛び実装が好んで食べる木の葉を体内で発酵させてできるガスを 糞と共に噴射することで可能となる、彼女らの切り札である。 この切り札のため、飛び実装は同じ飛行生物である鳥とは違い、排便の回数が少ない。 いざという時までガスと糞を溜めておく必要があるからだ。 また、『糞ジェット』を敵に向けて発射し攻撃に使うこともあるという。 ただし、飛び実装の仔の場合はガスを上手く溜めておくことができず、 頻繁にガス(おなら)を漏らしてしまうので、『糞ジェット』は使えないらしい。 稀にではあるが、慌ててパンツを下ろさずに『糞ジェット』をしてしまい、 逃走や攻撃に失敗する場合もある。 今回のムサコの場合は、ちゃんとパンツを下ろす時間があったようだ。 * 「デェェェェ…ェェェ…ッ!」 さて、百メートル以上を滑空したムサコは、クマの襲撃から逃れられたが…。 飛び過ぎたのか森を飛び出して谷川に落ちてしまった。 ムササビのような長い尾がないので、方向転換は苦手なのだ。 「デシャァァガボガボガボ…!」 実装石全般の例に漏れず、飛び実装も泳ぐことができない。 ムサコの命もこれまでか…そう思われたが。 「ブハッ!…デ、デェェェ…」 少し下流に流されたものの、何とか川岸に上がることができたようだ。 川原の日当たりの良い石に登ると、ムサコはずぶ濡れになった実装服を脱いで 石の上に服と頭巾、靴とパンツを並べて乾かし始めた。 そしてムサコ自身も、裸のまま石の上に仰向けになって体を温める。 しばし、何事もなく時間が流れ…。 「シューッ…」 「デッ!?」 不意に聞こえた音に、ムサコが飛び起きる。 キョロキョロと辺りを見回し、どうやら蛇を見つけたらしい。 「デ…デェェェッ!?」 逃げ出すムサコを蛇が追いかける。 よほど慌てたのか、実装服は石の上に置きっぱなしだ。 「ハァッ、ハァッ…デ、デスッ!」 近くに細い木を見つけ、登り始めるムサコ。 しかしこの程度の木では蛇も登ってくるだろう。 ムサコは迷わず木のてっぺんまで登り、腕を広げて…飛んだ! 「デッ…!?デェェェェェェェェッ!?」 飛び実装は、マント状の実装服の力で滑空する。 故に、裸であった場合、ただ飛び降りたのと何ら変わらない。 「…ぶべっ!」 ムサコはそれでも、体を捻ることで顔面からの落下は免れた。 だが背中をしたたかに打ちつけ、動けなくなってしまう。 「デヒィ、デヒャィィィ…!」 呻くムサコの方へ、蛇が舌をチロチロ出しながら近づいてくる。 ムサコは恐怖に顔を歪ませ、血涙を流しながら、 何とか逃げようと手足をばたつかせるが、上手く動かせない。 「デシャ!デシャアアアア!」 蛇がムサコに巻き付いていく。 もはやムサコにできるのは悲鳴を上げることだけ…。 『糞ジェット』も先ほど使ったばかりでまだ再発射はできない。 もはや絶体絶命である。 「デ…デッスゥ~ン♪デッスゥ~ン♪」 もはや死を待つのみという時にムサコがとった行動は、まさかの『媚び』であった。 蛇に巻きつかれて腕を動かすこともできなかったが、 小首をかしげ、あとはウインクと表情で、蛇に媚びてみせた。 だが…。 「デッ!?デシャ…デシャア…ッ」 蛇はムサコの媚びを見た途端、より強くムサコに巻きつき締め上げた。 恐らく、ムサコにまだ余裕があると感じたのだろう。 まさか『媚び』にムカついたからではあるまい。 どちらにせよ、蛇はムサコを全力で締め付けた。 「カハッ…デ、デシャ……」 蛇に全力で締め付けられ、すぐにムサコは媚びることもできなくなった。 あとは飲まれるだけである。 「デシャァ…デジャァァ…!デギャァァ…ッ…!」 頭からゆっくり呑み込まれていくムサコ。 ろくに動かない手足をイゴイゴさせていたが、そのまま丸呑みにされてしまった。 飛び実装は空を飛べるため活動範囲は広いが、 それは同時に多くの敵と遭遇する可能性があるということ。 この『ムサコ』のように立て続けに敵と遭遇することも、決して珍しくはない。 それでも飛び実装は、その能力を駆使して森の中で日々を暮らしている。 …もっとも、裸のまま飛ぼうとしたのは、間抜けと言わざるを得ないが。 ~終~
| 1 続: Name:匿名 2023/08/12-14:25:23 No:00007773[申告] |
スク本文ではマント状として書きましたがムササビ同様の皮膜状にしてみました |

| 1 Re: Name:匿名石 2023/08/10-21:41:57 No:00007759[申告] |
| 技を駆使してても結局最後に頼るのは媚というね |
| 2 Re: Name:匿名石 2023/08/12-21:10:43 No:00007776[申告] |
| 自ら最大の武器を脱いでいくスタイル
比較的短慮な個体だったんだろう |
| 3 Re: Name:匿名石 2026/03/22-04:04:05 No:00009905[申告] |
| 死ぬことに全力ダッシュするよな〜ほんと
そこだけは他の生物には真似できん特技だな |