はげまし物語 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ≪ビューティー・デスゥ~ン♪ あなたの実装石ちゃんの髪を、今よりももっと美しく≫ 食事中、うちのミドリがテレビで流れていたCMを見て 口をだらしなく開けて固まっていた。 視線はCMに釘付け。 実装フードがテーブルにこぼれ落ちているのにも気づかない有様だ。 画面には、一匹の仔実装が亜麻色の後ろ髪をふぁさ~っとしている姿が映っていた。 正直、人間の俺が見ても綺麗な髪だなと思うほどで、 これがプロのヘアモデル実装かと感心する。 今、流れていたのは『ビューティー・デスゥ~ン・プレミアム』とか言う 愛護派向けの実装石用シャンプーのCMだ。 軽く検索してみたが、愛護派の間では人気で信頼できる商品らしい。 「さっきのモデルの髪、綺麗だったな」 検索が終わった後でミドリに声を掛けてみると、ぷいっと顔を背けられてしまった。 『べ、別に大したことないテチ。ワタチの髪の方がもっとキレイテチ』 俺が他の実装石を褒めたのが気に入らないのか、ミドリはそっぽを向いたままだ。 うちのミドリは大人しいがやや気難しく、ちょっとしたことでへそを曲げる。 もっとも、そこが可愛らしいとも言えるが。 ちなみに俺はミドリの髪も、モデル並みとは言わないが綺麗だと思う。 でも実装石の髪は手入れが面倒…乱暴に扱って抜けたらもう生えてこないそうだし、 実装石の短く雑な手ではちゃんと洗えないから、俺が洗ってやる必要がある。 前髪と後ろ髪しかないんだし、いっそ禿でもいいんじゃと思うが、 実装石にとっては禿なんてとんでもない事らしい。 ミドリも自分の髪は自慢なのか、シャンプーの時はあれこれうるさい。 ミドリはCMのシャンプーが気になるらしく、そのCMが流れるたびに見入っている。 『あのシャンプーを使えば、ワタチの髪はもっとキレイになるテチ。 あんなモデルなんかに負けないテチ』 不機嫌な口調でそう呟きながらも、モデル実装の髪から目が離せないミドリに、 俺はニヤつきながらわざとらしく呟いた。 「そうかー、ミドリもやっぱり綺麗な髪になりたいか…まあそうだよなあ」 『髪は実装石の命テチ!』 おっ、食いついてきた。こっちを向いたぞ。 「でも、既にあのモデルより綺麗だって言うなら、別に買う必要ないかな?」 『買う…?何の話テチ?』 ミドリは不思議そうな顔で、テチテチと俺の側に近寄ってきた。 …そこでサプライズだ! 「実はちょっとまとまった金が入ってな…、 あの『ビューティー・デスゥ~ン・プレミアム』を お前にプレゼントしようかと思ったんだ」 『…テェッ!?』 あ、また固まった…難儀な奴だ。 * 翌日、俺は仕事帰りに約束の品を買って帰ることにした。 断っておくが俺はごく普通にペットを飼っているというだけで、 実装石を溺愛しているわけではない。 虐待派に言わせれば、シャンプーを買う時点で十分愛誤扱いだろうが、 ペットのシャンプーくらい普通だろと思わなくもない。 ただ、いつもより高いシャンプーを買うのはほんの気まぐれ…。 たまたま趣味のスクラッチが当たって金が手に入ったから、 少しはペットに良い思いをさせてもいいだろうと思っただけだ。 「さて、この辺りに実装ショップは…おや、あんな所に宝くじ売り場が。 どうせあぶく銭だし、プレゼント代を残して使っちまうか」 先にスクラッチを買う為に宝くじ売り場へ向かう俺。 だが、その選択がとんでもない事態を招く事に…! * 「ただいまー」 『おかえりなさいテチャーッ♪』 俺が玄関の扉を開けると、ミドリが駆け寄ってきて、 期待に満ちた眼差しでこちらを見上げてきた。 「シャンプーだろ、分かってる。ちゃんと買ってきたよ、ほら…」 『テッチュ~ン♪』 俺が紙袋からシャンプーのボトルを取り出してミドリに見せると、 ミドリは喜びのあまり、くるりと一回転した後で踊りだした。 うぅむ、そこまで喜ばれるとちょっと…。 「じゃあまずはメシにするかー、って何だよその顔は?」 『使っテチ!すぐ使っテチ!』 ミドリはシャンプーのボトルに抱きついて、そう訴えてきた。 うーん、気は進まないがここまで来たらもはや後には引けない。 「じゃあ、風呂にするか…」 * 『テチュッテチュッ♪』 シャンプーを泡立てて髪を洗ってやると、ミドリはご満悦だ。 髪の根元までしっかり洗ってやって…と。 「さぁ、お湯をかけるぞ」 『はいテチ!』 お湯の入った洗面器を見せると、ミドリはぎゅっと目をつぶった。 ————ざばぁ お湯が、シャンプーの泡を洗い流す。 「…!?」 そして、ミドリの髪も洗い流していた。 「…えっ?ちょ、ま、ミドリ、まだ目を開けるな!」 『どうしたんテチ?あ、さてはあんまりキレイになったからびっくりしたテチ?』 「いや、その…」 俺はどうすればいいか分からず、ただ慌てていた。 『だいじょうぶテチ。 後であのモデルの仔みたいに髪をふぁさ~ってやってあげるテチ!』 「いや、もうそれは無理と言いますか…」 何故か丁寧語になる俺。それほど俺は混乱していた。 そして、とうとうミドリが目を開けてしまった! 『テェ?…これ誰テチ?』 鏡に映った禿裸の自分の姿…風呂なので服は着ていない…に、 ミドリは理解が追いつかない様子だ。 『ゴシュジンサマ、鏡が変テチ。知らない仔が映ってるテチ。 それにこの仔、禿裸テチ?おかしいテチ~!』 ミドリよ、それはお前の姿だ。その禿裸はお前なんだ。 俺がそう告げようとして、でも言えないでいると、 ミドリは不安になったのか、後頭部に手をやって髪を触ろうとした。 『ほら、ワタチにはこんなにキレイな髪が…。 テ…?ワ、ワタチのキレイな…キレイな髪…ワタチの…』 俺は浴室の床に散らばっているミドリの髪を指差し、強張った声で告げた。 「ミドリ…鏡に映ってるのはお前自身だ。 お前の髪…理由は分からないが全部抜けちゃったんだよ…」 『テ…テェェェェェェェ!?』 浴室に、甲高い鳴き声が響いた。 * 『テェェェェン!テェェェェェェェン!』 部屋に戻った後も、ミドリは裸のまま床に座り込み、血涙を流して泣いている。 慰めようとして大好きな金平糖をやってみたが見向きもしない。 風邪をひくからせめて服を着て欲しいんだが、泣きじゃくったまま着ようとしない。 「くそっ、多分あのシャンプーの所為だ!」 …実は、買ってきたシャンプーはパチモノだった。 スクラッチでハズレ続けて、ついついプレゼント代を使い込んじゃったのだ。 で、仕方なく近所の格安ショップで似た容器の安い商品を買ってきたってわけ。 まぁ、実装石用シャンプーには違いないし、問題ないと思ったのだが…。 俺はシャンプーを購入した店に電話し、文句を言う事にした。 * 「…と言う訳で、そちらで買ったシャンプーを使ったら うちのミドリの髪が抜けちゃったんですよ!どういう事ですか!?」 【えぇ?おかしいですねぇ、何て商品を買われたんですか?】 「えぇと…『スーパー・ビューティフル・デッスーン』ってシャンプーです」 【ちょっと調べてみますね…えーと、あぁ、あったあった。 『ビューティー・デスゥ~ン・プレミアム』に似たパッケージの商品ですね。 …それは虐待派の方が買う脱毛シャンプーですよ。 実装石の毛根だけに作用して根元からごっそり抜けるんです。 髪を溶かさず抜けるだけなので従来とは違った虐待の仕方ができると——】 「いや、そんな説明いいです!それより、愛護コーナーの棚にあったんですけど!?」 【あー、たまにいるんですよねぇ、イタズラで違う場所に置く人が。 こちらの管理ミスですので、レシートをお持ち頂ければお金はお返ししますよ】 * なんてこった…。 パチモノなのは分かっていたけど、虐待商品だったなんて。 いや、ちゃんと容器の説明を読んでいれば虐待商品と分かったのに。 と言うか、そもそもスクラッチなんかで金をスらなければ正規品を買えたんだ。 でも、今更そんな事を言っても始まらない。 大事なのは、これからどうするかだ。 「ミドリ…」 『…』 血涙を流したまま反応がない。 「…禿も可愛いと思うぞ」 『…』 駄目か…いや、もっとはげまそう。 「…禿は髪が汚れないから衛生的だ」 『…禿は馬鹿にされるテチ。メロンちゃんにも、リーフちゃんにも、 お友だちみんなみんなに馬鹿にされるテチ』 確かに、例えば野良の場合だと禿裸は奴隷扱いだと聞く。 飼い実装同士で飼い主という後ろ盾があっても、禿の個体は馬鹿にされるのだろう。 俺はしばし考え、そして、さっき拾っておいたミドリの髪を持ってきた。 「よし、お前の抜けた髪でウィッグを作ってやる」 『テェ…?』 「ほら、さっき抜けた時に拾っておいたんだ。こうして頭に付けてみろ…ほら!」 頭巾をミドリに被せて前髪と後ろ髪を挟み、その姿を手鏡に映す。 以前とさほど変わらない姿が、そこには映っていた。 「実装ショップに頼んで、お前自身の髪を使ってウィッグを作ってもらって、 外出する時はそれを付けていけばいいんだ」 『テェ…でもゴシュジンサマ、どうしてワタチの髪は抜けたテチ?』 うっ…やはりそこが気になるか! こうなったら正直に打ち明けるしかない。 いや、そうじゃない。初めからちゃんと打ち明けるべきだった。 「その、実を言うとな、お前の髪が抜けたのは俺の所為なんだ」 『テ…?どういうことテチ?』 俺はこれまでの経緯を説明し、謝罪した。 正直言って、仔実装であるミドリがちゃんと理解できたかは分からないが、 それでもしっかり伝えないと俺の気が済まなかった。 『…よく分かんないテチ。でも、いけない事をしたって ちゃんと謝ってくれたのは嬉しいテチ…』 俺の説明をちゃんと理解できたわけではないようだったが、 謝罪に込めた誠意は伝わったらしかった。 「本当にすまない…」 俺はもう一度、ミドリに向かって頭を下げた。 『ゴシュジンサマ…』 抜けた髪を抱えて、ミドリが俺を見上げた。 うっ、真っすぐ目を見るのがつらい…! 『ウィッグ、お願いしますテチ』 ミドリ…! 「分かった!こうなったら少し値が張っても良いのを作ってもらうぞ!」 * その後、実装ショップに頼み、ミドリの抜けた毛でウィッグを作ってもらった。 前髪と後ろ髪の間を頭頂部のパーツで繋いだ一体型で、 サイズの調整もできるし、人工毛のオプションもついているので、 身体が成長しても毛の量を増やして見た目を維持できる優れモノだ。 頭巾の中にそれをつけていれば、傍目には禿とは分からない。 ミドリもウィッグをつけた姿を鏡に映してみて、その出来栄えに満足したようだ。 『ゴシュジンサマ!ワタチ、元の姿に戻ったテチ!』 ニッコリと笑いながら、ウィッグの後ろ髪をふぁさ~っとやって見せるミドリ。 「あぁ、すっかり元通りだ。でも俺は禿も可愛いと思うんだが…」 『禿は嫌テチ!』 …全力で拒否られた。 やっぱり実装石にとって禿は受け入れ難いものなのか。 ミドリは家の中でも基本的にいつもウィッグをつけて生活している。 …だが、それからしばらくしたある暑い日に、俺は見てしまった。 俺との散歩を終えたミドリが、俺が手を洗っている間に 頭巾とウィッグを脱いで扇風機の風に当たり、気持ち良さそうにしているのを…。 『頭が涼しいテチュ~ン♪』 俺は、気づかなかったふりをした。 いずれ心の傷が癒え、少なくとも家の中では 俺の前でウィッグを脱いでくれる日が来るかもしれない。 その時をゆっくり待つ事にしよう。 …あと、スクラッチはもうやめた。 二度と同じ過ちは繰り返さないぞ、ミドリ。 ~終~

| 1 Re: Name:匿名石 2023/07/09-12:37:53 No:00007478[申告] |
| 店頭商品にすらイタズラでやらかすとか中々にヤベー民度で笑う |
| 2 Re: Name:匿名石 2023/07/09-14:45:23 No:00007479[申告] |
| 謎の商品すぎる…虐待なら直抜きの方が楽しめるだろうしドッキリにしてもシステマチックに剥くにしても脱毛クリームで十分なのでニッチとしても成立するのかどうか。
それとモノとして自慢したい愛護派連中ならともかく別に虐待とか関係なくサマーカット感覚で禿にして飼う方が楽じゃない? 洗わせるが奉仕させる感覚に髪を自慢が虚栄心に繋がり不遜や増長に繋がる。排泄時や失禁時も付着リスク高く不衛生、糞蟲化制御もしやすくなるだろうから普通に飼育するならメリットしかない。愛護でも禿で飼うシチュもあるっぽいし |
| 3 Re: Name:匿名石 2023/07/09-16:02:47 No:00007481[申告] |
| 虐待シャンプーは上げの段階で忍ばせて実装自身に問題があるから罰が下ったとか病気になったとか出来そう。
ミドリは髪を失ってもご主人と和解出来る辺りとても良い子なんだな。 昔、こう言う愛情一杯に育った実装石は人化したりそこまで行かないでも実装翠とか実翠石になったスクがあったような気がする |
| 4 Re: Name:匿名石 2023/07/09-17:04:22 No:00007482[申告] |
| 虐待シャンプー、ネタとしてはもの凄く面白いけど一匹につき基本一回しか使用チャンスがないのね
まあなんとか禿が良いものだって教育・洗脳したいけど実装自身の沽券に関わる事だから受け入れさせるのは一苦労しそう |
| 5 Re: Name:匿名石 2023/07/10-17:34:17 No:00007491[申告] |
| 普通にシャンプーして水で洗い流すだけでキレイに髪が根本から抜けるとか…こんなの楽しすぎるだろ
売ってたら嬉々として買ってそのへんの野良実装を洗ってあげまくるわ ただ髪をぶち抜くんじゃなく恐怖や痛みもなく幸せの中いつの間にか一番大事なものがなくなっている… とんでもない上げ落とし商品だ とりあえずミドリが良い仔で良かった |
| 6 Re: Name:匿名石 2023/07/11-16:45:30 No:00007496[申告] |
| 微笑ましくて面白かったです
でも髪は取り返しつかないねえ |
| 7 Re: Name:匿名石 2023/07/16-02:20:16 No:00007532[申告] |
| よくよく考えたらあんな実装石の髪、家ならまだしも
野良じゃすぐに極めて不衛生にすぎて絶対に成り立たんと思うわ 禿裸実装にするのは愛護だった |
| 8 Re: Name:匿名石 2025/06/23-23:59:52 No:00009710[申告] |
| ホントこれ名作
テンポといい、起承転結といい何から何までま上手い |