タイトル:【愛】 コンペイトウステーキ
ファイル:コンペイトウステーキ.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:4359 レス数:1
初投稿日時:2006/08/23-16:36:34修正日時:2006/08/23-16:36:34
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コンペイトウステーキ


その実装石の前の薄いテーブルには、飼い主が彼のために用意した食事が置かれていた
低い折りたたみテーブルの上、百均の鉄皿の上ではステーキが香ばしい匂いを放っていた
ステーキには揚げたてのフライドポテトが添えられ、その隅で炒めたホウレンソウが彩りを添える

この野良実装石が公園で、通りがかりの男に瀕死の体で拾われて以来数日、こんな夕食が続いていた

テーブルの向かいではその実装石の飼い主が、量だけ多いが同じメニューの夕食を前にアグラをかいてる
彼は実装石でも無理なく食べられるように薄く切り、丹念に叩いたステーキを実装石にすすめた

「いただきますデス」「いっただっきまーす!」
一人暮らしの頃、公園での孤独な生活の頃には無縁だった言葉とともに、夕食が始まった

早速ステーキを切り、食い始めた男は、実装石がステーキに口をつけるのを見て喋り始める

「すまねぇな、またステーキだ、すき焼きとかシチューとか凝った物でも振舞いたいんだけど
男所帯なもんで、つい夕食は焼いただけのステーキとか、冷凍のポテトだの温野菜になっちまうんだわ」

実装石は塩と胡椒だけで味付けされたステーキに器用にナイフを入れながら、口を開いた
ナイフとフォークの使い方、背筋を伸ばして食卓につく姿勢、実装石は拾われた最初の日に覚えた
話し好きな飼い主、食卓では会話を弾ませ同席者を楽しませるマナー、この野良は賢かった

「ワタシが公園で野良をやってた時、ワタシ達がどれだけステーキに憧れていたかお話したはずデス
ご主人サマに助けて頂いて、お風呂や寝床を与えて頂いて、昨日はオスシまでご馳走になったデス」

「ん、ああ、仕事が忙しいと持ち帰り寿司とかで済ませちまうんだ、愛情足りないかな?俺」

犬にドッグフード以外のものを与えると早死にするらしいが、この生き物は不健康な食生活をしてても
寿命に変わりは無いらしい、ただ、愛されずケージの中で孤独な食事や生活をする実装石は短命だとか


「ありがとうございます、ご主人サマ、ほんとうにありがとうございます」


実装石は初めて本物のステーキを見た時、肉の匂いでかつて生きるために行った同属食いを思い出し
食べることを拒んだが、最初はポテト、次に温野菜、と男がゆっくりと口に運んでくれた付けあわせと
それに染み込んだ肉汁の味に少しづつ食欲を取り戻し、愛情こめて焼いた肉の旨みは辛い記憶を和らげた





その晩、男は業務スーパーの安い輸入肉をフライパンで焼いていた。横では実装石が包丁を振っている

男は単純豪快な料理が好きだが、洗い物や食器出しのような細々としたことが苦手だった
今ではそういう事は実装石が進んでやってくれるので、ただ料理と食事だけを楽しめるようになった

男はよく焼けた肉を皿に移すと、肉汁のついたフライパンを持ち、横の実装石に顎をしゃくる
実装石はみじん切りにしたタマネギを男に渡した、この実装石は最近、料理の仕込みもやるようになった
男は実装石からまな板ごと渡されたタマネギのみじん切りを、フライパンの肉汁の中に落とす
「ご主人サマ、今日は、何を作るんデスか?」
「ん、ああ、いつも塩胡椒だけじゃ飽きるし、グレービー・ソイソースってのを作ろうと思うんだ」
音声/文字リンガルが「?」の文字を表示する、男は実装石がその時見せる好奇心旺盛な顔が好きだった
「肉汁の残ったフライパンにタマネギと砂糖を入れて、醤油と酒を一合づつ、軽く煮詰める、ウマいぜ」
「あ、それなら、砂糖よりこっちのほうがいいデス」
実装石は緑の服と白い前掛けの間から小さなビニール袋を取り出し、中身を全部フライパンに開けた
コンペイトウ、公園で暮らしていた実装石が口減らしのために母実装のねぐらを追い出された時
餞別として一袋与えられたものだった、その実装石はコンペイトウを少しづつ、少しづつ食べていた
「オイ!それ、お前の大事な・・・」
「ご主人サマと食べたほうがオイシイデス、あ、タマネギが焦げちゃうデス!」
「おっと!」


醤油味のグレービー・ソースのかかったステーキ、肉の上には溶けきれず残ったコンペイトウが乗っていた
横にはパック寿司、男と実装石はいつも通り、いただきますを言ってステーキを切り始めた
男と実装石の会話は弾む、相手への気遣いで始めたお喋りも、今では夕食時の大事な楽しみになっていた
実装石は男と話した、昼間見たテレビや世間への文句、公園での辛い過去、よく笑い、そしてよく泣いた
「ゴメンナサイデス、上州生まれの実装石は涙もろいんデス、カラッカゼがいけないんデス」
「ん・・・ああ、わかるよ、俺も半分、そっちの血が入ってるから・・・」
男が幼い頃に自分を捨てた母親の事を微笑んで話せるようになったのは、実装石と暮らし初めてからだった

肉と砂糖は相性がよく、コンペイトウをかじりながら食うステーキは、安物肉とは思えないほど美味かった

男は幸せだった、掃除洗濯、料理の手伝いをこなしてくれる賢い実装石が居る、それだけじゃなかった
実装石は幸せだった、野良の夢、ステーキ、オスシ、コンペイトウが目の前にある、それだけじゃない

ただ生きるだけの暮らし、ラクな暮らしをしていいもの食べて、それだけでは幸せになれない
心を通じ合わせる存在が居るから、相手を案ずる気持ちが、心の中にキラキラ輝く幸せを創り出す


二人で焼いたステーキ、その上には甘くていい香りがする、キラキラ輝く色とりどりのコンペイトウ


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1 Re: Name:匿名石 2025/07/16-03:28:53 No:00009742[申告]
古いスクを漁って読んでみたが中々の力作。
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