「ドレイニンゲンテチィ?」 「ドレイニンゲンテチィ!」 ここは双葉市立緑地公園、ピンク色の実装服に身を包んだ飼い仔実装と 頭巾の破れた実装服を着た野良仔実装が話をしていた 「ママが言ってたテチ、ドレイニンゲンを手に入れたら ずっとアマアマとウマウマに囲まれた楽しい暮らしができるテチ」 野良仔実装が自信満々に言う 「テェェ…それって、飼い実装よりもすごいテチ?」 飼い仔実装が聞き返す テフン、と鼻息も大きく野良仔実装は続ける 「当然テチ!飼い実装にはゴシュジンサマがいるテチ でも自分がゴシュジンサマになれば毎日スシとステーキとコンペイトウが食べられるテチィ」 「そ、その方法を教えるテチ!オモチャでもコンペイトウでも欲しいだけやるテチ!!」 飼い仔実装は野良仔実装に詰め寄った ------------------------------------------------ 「きゃあああああああ」 ガシャーン! 夕暮れの実田家に絹を裂くような悲鳴と何者かがひっくり返る騒音が響く 壮太は慌てて自室から廊下に飛び出すと、倒れていた人間に声をかけた 「大丈夫か?」 「い、いたたたた…」 廊下のど真ん中に転んでいたのは壮太の妹の衣子だ 廊下にしたたかに腰を打ち付けて身動きが取れない様子 そこに衣子の飼い仔実装のデスパーがテチテチと駆け寄る 「テェェ...」 デスパーは衣子に近寄ってポフポフと触る 「あら、心配してくれるの?」 衣子は転がったまま衣子からみて後方の死角にいるデスパーに声をかける しかし、壮太は妙な違和感を感じる…辺りに漂う嗅ぎ覚えのある独特の臭い…その臭いの元は… 「あれ?衣子、それ、髪になんか付いているぞ?」 「えっ…やだ!これ、実装糞じゃないの!?」 よく見ると、飼い実装のデスパーの両手には糞がついている どうやらその手で衣子の髪に触ったらしい --------------------------------------------------------------------- そのまま家族会議になった どうやら衣子が転んだのはデスパーがミニカーを廊下に転がしたかららしい 実装石に詳しい父に言わせると、もうデスパーは処分するしかないらしい 一度イタズラを覚えた実装石は必ず繰り返す ましてや、大事な衣子にケガをさせた以上は家に置くわけにはいかん、と それに対して衣子はと言うと、私がちゃんと見ていなかったのがいけないだけ デスパーは悪くないの、と言って健気にもデスパーの身を案じる そして、当のデスパーはと言うと水槽のガラス越しにぽけーと父を衣子を見て 状況がわかっているのかいないのか時折衣子の方を見てはチププとさえずっている 母は困ったように言った 「動物を飼うってのは人間の赤ちゃんがいつまでも家にいるようなもんだから やっぱり実装石を飼うなんて最初から無理だったんじゃないのかねえ 今からでも、もらってくれる人っていないかしら?」 それには流石に壮太が口を挟む 「無理だよ、実装石なんて汚いし臭いのに、糞を撒くようなのは貰い手なんかつかないよ」 「そうだぞ、やっぱり処分するしかないんだ!」 父親がすかさず便乗する 「だからちゃんとお世話するって言ってるでしょ!」 衣子も負けてはいない 熾烈な舌戦は続く… --------------------------------------------------------------------- 一夜明けて… 結局、深夜まで衣子と父が戦った結果、デスパーは衣子が責任を持つ、ということに決まった つい今しがた首の皮一枚で命が繋がったことを知りもせず デスパーは呑気にひっくり返って涎を垂らしながらテプー、テプーと寝息を立てている 寝起きの壮太が衣子の部屋の前を通りかかると 何やらガムテープとダンボールで作業をしているところだった 「何やっての?」 衣子は徹夜で充血した目で答える 「ああ、これ…ペットドアを塞がないとデスパーが部屋から出ちゃうからさ… 父ちゃんに約束したし、私が見ていない時には部屋から出しちゃいけないから」 衣子の行動の速さに驚きつつも壮太はふと思いついたことを言う 「ああ、そうかあ、そういえばクラスに実装石を水槽で飼ってるヤツがいたなあ… あいつなら実装石に詳しそうだし、色々話が聞けるかも知れないな」 衣子はほっと胸をなで下ろす 「良かった!詳しい人から教えて貰えそうで…正直言って、少し不安だったから これから頑張らなくちゃ、だね!」 ---------------------------------------------- 「オロローン、こんなハズじゃなかったテチィ…」 暗く、冷たい水槽の中で、禿裸になったデスパーは一人ごちた 確かに、公園のオトモダチの言う通り、ゴシュジンサマをやっつけて、髪に糞を塗りたくった そうしたら、元ゴシュジンサマのドレイニンゲンは、ワタチのためにニンゲンパパと戦った そこまではよかった しかし、そこから徐々に話がおかしなことになってしまった ドレイニンゲンの部屋から外には出してもらえなくなり 食事も味気ないフード、ニンゲンのオヤツも分けてもらえなくなった どこで間違えたのか?何がおかしかったのか? 公園に行ってあの頭巾の破れた仔実装を締め上げてやりたいが そもそも、あの晩以降、公園への外出はおろか、部屋からすら一歩も出させてもらっていない それどころか、抗議の投糞をした結果、水槽に入れられて出してもらえなくなった 怒りに打ち震えてパンコンを繰り返したところ、禿裸にされてしまった 公園のオトモダチの言うゴシュジンサマとは何だったのか?? 「テー...」 デスパーはプラスチック製のベッドに腰掛けて虚ろな目で天井を見やる 今日も世話にやってきたドレイニンゲンはゴーグルやマスクに手袋、エプロンといういでたちだ そして、水槽の中をぬるま湯で流して雑巾で拭き 丁寧にデスパーの水槽を事務的に処理していく 既にデスパーの水槽内部に水と洗剤で洗えない物はない フカフカのオフトンも、蛆実装模様のクッションも 抗議の投糞を行った時に汚れたために破棄され 水槽にあるのはプラスチックのベッドとスポンジのクッション そしてビニールの断熱材を毛布代わりに与えられている デスパーには思い至るべくすべもないが これらは別に嫌がらせでやっているわけではなく デスパーを清潔な環境で飼育するための依子の心づくしの努力だ ゴーグルやマスクに手袋は人間と実装石、お互いを病原菌から守るためだ 体力のある人間から実装石に病気が伝染ればそれだけで重病になりかねない 実装石から人間に病気が伝染れば衛生的な問題となり、実装石は保健所に処分されかねない 本来、責任を持つとはそういうことなのだ 当然、重装備なため指に後ろ髪が多少巻きついてもわからない 糞が絡みついた髪は邪魔でしかないので、禿裸にするのが正解だ 全ては本に書いてあったことだ 実装石を水槽で安全に健全に飼う、そのために必要なことだ 何もおかしなことではない 実装石にだって個体差はある 賢くて知恵が回ればご家庭のお手伝いもできるお手伝い実装もいる 愛玩用として座敷で飼われる実装石もいる 番犬がわりに庭で飼われる実装石もいれば畑仕事を手伝う農奴実装石もいる 今現在のデスパーは愛玩用の飼い実装としての適性が無くなっただけのことだ そうなれば水槽で観察、観賞用として暮らすしかない 現実に水槽で禿裸として何不自由なく一生を終える実装石も少なくない たまたまかつて愛玩用の楽しみを知っていたものが 水槽へ来たことで偶然の上げ落としになっただけに過ぎないのだ 「テー...」 デスパーはうっすら灰色になりかけた瞳で天井を見つめる ---------------------------------------------- 「実装石を飼うのって大変だね」 衣子は掃除道具を片付けながら父親に話しかけた 「ああ、お前があれを飼い続けると言った時はどうなるかと思ったが ちゃんと世話ができているようで本当に良かった」 父親も満足気だ 「うん、ちゃんと本の通りにお世話してたら、昔みたいに聞き分けよくなったのよ!」 そこまで言って、衣子の表情が少し曇る 「でも、前みたいに一緒に散歩できなくなっちゃったし、水槽から出せなくなったのは寂しいかな」 壮太が答える 「それは実装石だと無理だから仕方ないよ、あれは水槽で魚みたいに飼うのが正しいんだから そういうことがしたかったら、犬を飼わなくっちゃ、犬を」 それを聞いて父親が手を打つ 「そうか!よし、そうと決まればせっかくだから犬を飼おう!」 衣子は目を輝かせて言う 「やったー!わたし小さいのがいい!たくさん可愛がるんだ!」 壮太も言う 「俺はでっかいのがいいなあ!」 母親も言う 「せっかくだから番犬にしましょうよ」 「はーっはっはっはっは!」 今日も一家団欒の食卓に笑い声が響き渡る どこかでパキンと乾いた音が聞こえた気もするけど多分気のせい ありがとう、ゴシュジンサマ コメントありがとうございます、おかげさまで久しぶりに頑張れました 体験入園…前のパソコンがクラッシュしたので、かなり書いたのに消えちゃったんですよね バックアップとったはずなのでどこかにはあると思うんですがどこに行ったかわからず… でも久しぶりに来た白保管庫が賑やかで本当に嬉しいですね なんかこういうの、すごくいいなあ、って思います このスクも書き始めたの3年も前なものですから、多少読みにくい部分もあるかと思いますが 今の腕前で変に手を加えるとかえって完成度が落ちそうなので昔書いた部分はそのままにしました (どこ書き足したかわかりそうなぐらい完成度に差が出てしまいました…) 実を言うと純粋な愛護スクは初めてだったりします 楽しんでいただけると幸いです

| 1 Re: Name:匿名石 2016/12/09-02:35:10 No:00003090[申告] |
| 実装石を飼っている世界のどこかで起こっているありふれた一コマって感じが
凄くイイ! |
| 2 Re: Name:匿名石 2016/12/09-02:58:34 No:00003091[申告] |
| 本来動物愛護ってこういうことだよなあ
安全な環境で清潔と栄養を与える |
| 3 Re: Name:匿名石 2016/12/09-12:39:05 No:00003093[申告] |
| 犬お陰で放置されて餓死したらよかったのにw
いや愛護スクだからーそれはないか、責任感ある飼い主に安全な水槽で清潔に飼育されてよかったねデスパーちゃん! |
| 4 Re: Name:匿名石 2016/12/09-12:48:27 No:00003095[申告] |
| 人間並みの感性を持ってるのに
智恵と想像力の足りなさから過ちを起こして不幸になるという切なさ |
| 5 Re: Name:匿名石 2016/12/09-20:08:13 No:00003102[申告] |
| ごめん00003093の感想描いた者だけど妙に誤字多いw |
| 6 Re: Name:匿名石 2016/12/09-21:40:24 No:00003105[申告] |
| 新しい作者さんが来られたり、懐かしい作者さんが戻ってきてくれて嬉しい限り |
| 7 Re: Name:匿名石 2026/03/25-09:57:07 No:00009913[申告] |
| オー!マイキーの様な白々しい家族団欒だwww |