※実装石の台詞は全てリンガルを通して翻訳済みとしてお読みください。 「はい、これで審査は終了です。貴方は合格ですので、そちらのブースで好きな家族を選んでくださって結構ですよ」 「ああよかった、ありがとうございます!」 男が審査員に一礼して案内されたブースに入ると、実装ショップと同じガラスのショーケースに入れられた実装石たちが、一斉に男のほうへ視線を向けてくる。 その場所には、実装ショップと違う点が二つあった。 一つは、ケースごとに入れられているのは全て家族であり、仔実装の姉妹たちとその親が一緒にされていることである。 ショップであれば実装石は成長段階ごとに分けて売られていて、常識的に考えれば成体実装というものは売れ残りだ。 そしてもう一つは、実装石たちが人間を見ても「ワタシを飼うデス!」とか「カワイイワタチを選ぶテチィィ!」といった具合に、見苦しいアピールをしてこないという点だ。 いわゆる“おあいそ”のポーズをとっている者もいるが、それは媚びているというよりもただボケっと見ているという感じで、売れ残れば廃棄処分というショップの実装石たちのような焦燥感は微塵も感じられない。 むしろ人間が入ってきたのを確認した後は興味を失い、団欒に戻っている家族までいた。 ここは双葉市にある公民館。 今日開かれているのは、愛護派が組織したNPO法人の団体による、増えすぎて公園の生態系を保てなくなった野良実装や、事情があって里子に出された飼い実装の『里親募集会』だ。 このNPO法人は単なる愛“誤”派ではない、ちゃんと良識を持った愛護派の団体であり、実装石が他の愛玩動物と同じように、人間と良好な関係を築くことができるよう尽力している団体であった。 飼い実装には『捨てられた』という思い込みからショックを受けないよう、元飼い主の事情と、里親が見つかればまた別の家で飼い実装として暮らせることをきちんと説明してあるし、さらに家族がバラバラにならずに済むよう、 この里親募集では『一つの家族を丸ごともらっていただける方のみにお譲りします』という条件がつけられている。 野良実装にせよ、無責任な愛“誤”派の餌撒きによって個体数が増えすぎたせいで逆に食料事情が悪化し、お互いを殺して食料を奪い合っているような有様の公園から、個体数が適切な数になるよう保護してきたものである。 さすがにあまりにも酷い糞蟲は安楽死させたが、優秀な調教師(あくまで虐待師ではない)に躾を依頼することで、どの個体も元野良実装とは思えないほど行儀よく、そのままショップに卸しても問題ないほどになっている。 それゆえに、ここにいる実装石たちは男が入ってきても全く焦ることもがっつくこともなく、『選んでもらえることは決まっているけど、次は自分たちだったらいいな』ぐらいの感覚で優雅に構えているのだ。 そしてもちろん経歴や性癖を偽った虐待派が良蟲個体を手に入れるための温床などにならぬよう、里親志望の人間には厳しい審査が課せられていた。 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- その男は孤独だった。 少し変わった性癖というか、困った妄想癖の持ち主なのだ。 『キチ○イスイッチ』という言葉をご存知だろうか? 友人と普通に談笑していたりする最中に、唐突に『彡(゚)(゚)(今こいつを殴ったらどうなるんやろ…)』という想いに駆られてしまう現象のことである。 全てを台無しにしたくなる衝動というか、小学生の子供が通学路でよくやる「キィヤァァーーー!!!」という奇声を上げて走り回りたくなる衝動というか、まあそんな感じだ。 男はそういうシーンの妄想を、脳内で鮮明に描き出してしまうタチだったのだ。 そしてそのような妄想に駆られると、目を剥いたり歯を食いしばったり思わず体に力が入ったり、そういう妄想に入り込んでいるのが顔に出てしまうというか、傍目にも分かってしまう癖もあった。 もちろん行動に移したりはしないし、普段はそんな奇行を絶対に人前で見せたりはしないのだが、たまたま目撃された場合などに相手がドン引きしてしまい、人間関係が上手く構築できないでいた。 そのため男はなるべく人と関わらないように生きてきたのだが、やはり寂しさは否めない。 そんなとき、男は実装石という生物を知った。 人間をデフォルメしたような容姿を持ち、リンガルという機械を使えば人間と同じようにコミュニケーションが取れて、人間と同じようなものの考え方をする生物。 もちろん人間よりは知能も低いし、性格も糞蟲性と呼ばれる醜悪なものが根底にあるという話だが、それはある意味獣と同じで、本能に忠実なだけともいえる。 男は昔から動物が好きだったし、これなら友達代わりにするのに丁度いい相手になるのではないかと考えた。 そして実装ショップに足を運んでみたのだが、これが男の想像を遥かに超える値段だった。 なにせ躾済みというだけで三万、五万は当たり前、上を見れば数十万円もするやつもいる。 それだけなら犬猫と同じともいえるのだが、ハムスターかせいぜいミニウサギ程度の値段を想像していた男にとってその値段は衝撃的なものだった。 かといって百円で投売りされている蛆実装などまさに何かの幼虫だし、まるで赤ん坊のように手がかかる分ペットとしての敷居は高いといっていい。 親指実装や仔実装にしても、ハムスターと同じような値段で売られているものは見た目からして知性の片鱗も感じられないような醜さで、常にパンツを糞で緑色に染めているあたり、衛生的な面でも不快感しか抱けない生物だ。 うな垂れながら実装ショップを後にした男はその日の夜、ネットで実装石を安売りしていないかを調べてみた。 『ペットは意外に高い』→『安く購入する方法ってないかな?』→『個人売買とか?』という具合に調べてみたことのある人間なら知っていると思うが、そういうときに目にするのが『ペットの里親募集』の広告である。 男は渡りに船とばかりにそれらの情報が書かれたサイトを見てみたが、個人同士の取引きはほとんどが終了済みになってしまっていた。 再び肩を落とした男がブラウザの画面をスクロールしていくと、一つの広告が目に入った。 とあるNPO法人が、飼い主が事情によって手放した実装石や保護された野良実装の里親募集会を大々的に開くというものである。 全ての実装石はちゃんと躾済みで、しかも開催地は自分の住む双葉市となれば、男に行かない理由はなかった。 そして男は訪れた里親募集の会場で、虐待派でないかどうか、きちんと最後まで責任を持って飼えるだけの経済力があるかどうかなどを審査された。 経済力は問題ないとして、男は祖父が犬のブリーダーをしていたこともあり、幼少の頃から動物を飼うことには慣れていたし、前述の困った癖も動物相手に発揮、ましてや虐待になど及んだことはない。 意外なほどあっさりと審査は通り、男はたくさんのショーケースの中から一家族を選ぶことになった。 男が一つ一つのショーケースを見て回る。 どの家族もとても大人しく、ショップで見た安売り実装石と同じ生物とは思えない品性がある。 その中の、ある家族の前で男の足が止まった。 その家族は四匹の仔実装とその親という構成で、ちゃぶ台のような白い円テーブルを囲んで談笑している。 ふとショーケースを覗き込んでいる男の姿に気づくと、その家族は全員“おあいそ”をするでもなく男を見て、ただ目を細めてにっこりと微笑んだ。 「この親仔がいいです」 男は思わず口にしていた。 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- その日から、実装石の親仔と男の生活が始まった。 男が本人ならぬ本石に話を聞いてみると、その親仔は元飼い実装で、とても優しい老夫婦に育てられたのだそうだ。 しかしその夫婦が立て続けに亡くなり、親戚縁者は実装石嫌いだったために保健所送りにされそうになっていたところを、件のNPO法人に保護されたらしい。 その後、男は親実装に「名前はあるのかい?」と訊ねたが、親実装が「あるにはあったデスが、新しいご主人サマのところに来たからには、ご主人サマが新しいおナマエをつけてくださってもいいデスゥ」と言ったので、 男は親実装にミドリ、四匹の仔実装にそれぞれ上からスモモ、イチゴ、メロン、バナナと名づけた。 男は実装石の親仔をとても可愛がった。 もちろん甘やかしすぎて糞蟲にならないよう、親仔を引き取るときにNPO法人の職員から渡された『実装石の躾ハウツー本』に書いてあった通り、最低限の躾はきちんとしたうえでだが、元々この親仔はとても躾が行き届いていて、 しかも実装石にしては本当に珍しく『足るを知る』ということを知っていたので、親仔ともに糞蟲化の兆候も全く見えなかった。 そんなある日のこと————— その日、男は平日にもかかわらず家にいた。 前に休日出勤するはずだった同僚が急病で休んだとき、その代わりに出勤したのを埋め合わせる形で代休が取れたのだ。 そしていつもなら昼の仕事が始まる午後一時、男がリビングでたまたまデスエイチケーのBSプレミアムにTVのチャンネルを合わせると、古い映画ばかりを日替わりで放送する番組がやっていた。 「へえ、お昼からこんな番組やってたんだ。なになに……今日放送されるのは……………おおっ! 俺の大好きな『燃えよドラ○ン』じゃん!」 ————— ジャーーーーーーーーン……ジャンジャーン!(オァタァ!) ————— その映画を見たことはなくても、誰もが聞いたことがあるのではないかと思うぐらい有名なテーマソングが流れ、本編が始まる。 男はすっかり夢中になって、TVを食い入るように見つめていた。 そこへ、 「ご主人サマ、一緒に遊ぶデスゥ」 ミドリが男に買ってもらったスポンジ製のボールを手に、四匹の仔らと共に男の傍にやって来た。 だが男は、 「Don't think……Feel!(考えるな! 感じるんだ!)」 完全に映画の中に入り込み……いや、この映画の主演であるブ○ース・リーになりきってしまっていて、ミドリたちのことが全く目に入っていない。 ブ○ース・リーの映画を観たことのある人、特に男性なら理解できると思うが、この人の映画を観ている間、男はみな主役であるブ○ース・リーになりきってしまうのだ。 この男もまた例外ではなかった。 「デェェ……ご主人サマはお忙しいみたいデスゥ。お前たち、ワタシたちは邪魔にならないようあっちで遊んでいるデス」 「わかったテチ」 「ゴシュジンサマも一緒に遊びたかったけど、しかたないテチ」 人間の都合を優先することを当然と心得た親仔は不満を述べるでもなく、男から少し離れたリビングの中央で親仔だけのボール遊びを始めた。 ここまではよかったのだ。 ここまでは—————男とミドリたち親仔との関係に何の問題もなかった。 映画は中盤〜後半に差し掛かり、主人公のリーが敵の秘密基地へと潜入し、警備の連中と大立ち回りを繰り広げるシーンに移っていた。 「おぁた! ほぁた! ほぁぁぁぁ!!!」 男はすっかりブ○ース・リー気分で、立ち上がって画面の中の主人公の動きに合わせてパンチやキックを繰り出している。 だが、その表情はブ○ース・リーというよりも、もっとイカれた何かだ。 こういう映画やシーンを見るとついついそのシチュエーションに入り込んでしまい、頭に血が上ってリビドーが抑えられなくなる男の悪い癖が出てきてしまっていた。 そこへ————— 「ボール! ボール待つテチィ!」 ミドリの蹴ったボールが狙いから逸れ、男のほうへと転がっていくのを、長女のスモモが追いかけていた。 男はTVの画面を注視し、スモモはボールを追いかけるのに夢中で、お互いが全く視界に入っていない。 そしてボールが男の足元へと転がっていくタイミングに合わせたかのように、画面の中ではブ○ース・リーが飛び上がり、倒れた雑魚モブキャラを踏みつけようとしていた。 「ぁああああああああぉ!!!!!」 男が画面の中の主人公に合わせて跳躍し、足元に向けて思い切り踏みつける! ————— ぱちゅん! ————— 「チュブァ」 まるで小さな水風船を踏みつけたようにスモモの体が破裂し、血と肉と糞の混ざったものが男の足の下からはみ出て、フローリングの床に赤と緑の染みを作る。 だが底の分厚いスリッパを履いていたためか、それともテンションが上がりすぎていたためか、男はその感触に気づくこともなく、画面の中のブ○ース・リーと全く同じ表情でプルプルと震えながらエクスタシーに浸っていた。 「デ、デェェェェェ!? ス、スモモぉぉーーーーー!!!!!?」 スモモが踏み潰される一部始終を見ていたミドリが、慌てて男の足元へと駆け寄っていく。 だが、それがまたいけなかった。 画面の中ではまだ俳優として無名だった若き日のジャ○キー・チェンが頭を掴まれ、今まさに首をへし折られようとしているシーンの真っ最中だったのだ。 ボルテージが最高潮に達した男は足元を見もせずに手を伸ばすと、ミドリの頭をわし掴みにして、これまた自分が何を掴んでいるのか見もせずに自分の胸元へと持ち上げる。 「デ、デェェッ!?」 そして画面の中でジャ○キーがフレームアウトし、ブ○ース・リーの顔がアップになった次の瞬間————— ————— メキャゴキグキャァ! ————— 「デギェゴァ!」 TVのスピーカーから流れるのと全く同じ音を立てて、ミドリは男に首の骨を捻り壊された。 だが先ほどとは違い、今度は男の手に嫌な感触が伝わった。 そしてふと我に返った男が自分の掴んでいるモノを見てみると、そこには両目から血涙を流し、パンツからボタボタと糞の塊を漏らしてグニャグニャになっているミドリがいた。 しかもよく見ると何かがおかしい。 まるでシャツを前後間違えて着た人間のように、胴体と頭の方向が一致していないのだ。 ミドリは首を百八十度捻られ、真後ろを向いたフクロウのようになっていた。 「あ………あ……………あぁぁ……………」 そして男はようやく自分のしてしまったことを理解した。 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!! ミドリぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!」 その後、すぐに動物病院に運ばれたミドリは辛うじて一命を取り留めた。 だが完全に踏み潰されたスモモはそうはいかない。 テンションが上がりすぎて知らぬ間にしたこととはいえ、男は激しく後悔した。 「すまんミドリ………俺は……俺はなんてことを……………」 「デェック……………顔を上げてくださいデスご主人サマ……元はといえばワタシにも原因があるデス………ワタシが……ワタシがちゃんとスモモの正面にボールを蹴っていたらこんなことには………デスン………デスン………」 ミドリは本当によく出来た実装石であった。 娘を殺し、危うく自分をも殺しかけた男を口汚く罵倒することもなく、今回のことを『カナシイ事故』として受け止めたのだ。 いくら実装石という生物がそのような目に遭うことが多く、そうやって家族が死ぬことを『カナシイこと』と呼称する習性のある生物とはいえ、これはある意味で奇跡的ともいえる善良さである。 ともあれ、今回のことは男に全く悪気はなかった。 男は決して虐待派などではないし、むしろ実装石に限らず動物を傷つけたりするのは大嫌いなタイプだ。 今回のことで何かが悪かったのだとすれば、それはただ一つ————— 見ていた番組が悪かったのだ。 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- スモモの死後、男は前にも増してミドリと残った仔実装たちを溺愛するようになった。 傍から見れば愛“誤”派と見誤られそうなほどといっていいレベルだ。 いや、実際のところ男のミドリたちに対する猫っ可愛がりぶりは愛“誤”派のそれとほとんど変わりない。 それでもミドリたち親仔が糞蟲化しないのは、ひとえに前の飼い主が与えた愛情と、NPO法人が行なった高度な躾、そしてミドリたち自身の資質によるものだった。 今日も男はソファの上で、ミドリをぬいぐるみのように後ろから抱きすくめて一緒にTVを見ていた。 「デッスゥ〜ン♪」 ミドリがうっとりとした目で嬌声を上げる。 ミドリは男にこうされるのが大好きだった。 実装石という生物は基本的に淫乱で、少しでも『男女の仲』というものを意識するとたちまち股を開いて自慰を始め、性交渉を懇願する糞蟲なのだが、稀に人間に対してプラトニックな恋心を抱く者も存在するという。 すでに仔を持つ身ではあったが、最近のミドリには男へのそういった感情が芽生えつつあるようだった。 見ていた番組が終わったので、男がなんとなくTVのチャンネルを変えてみると、CS放送の○映チャンネルで、磁石の力で合体する某ロボットアニメのEDが流れているところだった。 「うっわ懐かしー。子供の頃、従兄弟の兄ちゃんにデッカイ玩具をもらったっけなあ……あれって今にして思えば成体実装よりもデカかった気がする」 そんな思い出に浸っていると、子供の頃に再放送で見ていたロボットアニメのOPテーマが男の脳内で再生され始める。 ————— ダンダダダダン、ダダンダンダダン、ダンダダダダン、ダダンダーン! ————— 「デェ?」 ふと男の様子に違和感を感じたミドリが体を捻って体勢を変え、男の顔を見上げる。 すると、男の表情はミドリが見たこともないものに変わっていた。 目はまるでホラー映画『リ○グ』の貞○のように見開かれて四白眼となり、口はギリギリと軋む音がするほど歯を食いしばりつつ、ニヤリと笑うかのように左右に大きく開かれている。 いや、見たことがないというのは間違いだ。 ミドリはこの表情をした男を一度だけ見ている。 それは、男がイチゴを踏み潰し、自分の首を捻り壊したあのとき—————あのときも男はこんな顔をしていたのではなかったか。 ミドリは本能的に恐怖を感じた。 「ご、ご主人サマ—————」 ————— みり…… ————— 男に向かって何か言いかけたそのとき、ミドリは脇腹に圧迫感を感じた。 「デェッ? ご主人サマ……く、苦しいデスゥ!」 ————— みり……みりみり………みしぃっ! ————— 抗議の声を全く無視して、男の腕はさらにミドリの胴体を締め付ける。 「ご、ご主人サマ! やめてデス! やめてデスゥゥー!!!」 腹部を圧迫されたミドリはすでにパンコンし、パンツの淵からボタボタと糞を垂らしている。 「………マグネット・パワー、オン! この野郎っ! 死ねぇっ!!! ジ○グブリーカー!!!!!」 ————— みりっ……! めりめりっ……! メシャァッ! ————— 「デゲオェァ!」 総排泄孔からは糞を漏らし、口からは血を吐き出し、ミドリの体が上半身と下半身で真っ二つに轢断される。 そしてミドリからミド/リになったモノと、破れた糞袋から漏れ出した緑色の糞がべしゃりと床に落ちた音で、男は正気を取り戻した。 「あ……あ………ああっ……………」 上半身だけになったミドリは「ご主人サマ、どうして?」という表情のまま、乾いた両目で男の顔を見つめている。 「ミ、ミドリぃぃぃぃっ!!!!!!!!!!」 男は血と糞で汚れた自分の姿を省みることもなく、千切れたミドリの上半身を抱えて慟哭した。 くどいようだが、男は決して虐待派などではない。 今回のことで何かが悪かったのだとすれば、それは一つだけ————— ただ、TVを見ていた体勢が悪かったのだ。 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 運良く偽石が破損していなかったことと、男がすぐに千切れた上半身をほとんど希釈していない濃厚な実装活性剤に浸したため、ミドリはまたも一命を取り留めた。 しかしその日以降、男とミドリたち親仔との関係はなんとなくギクシャクしたものになった。 ミドリは男に必要以上に近寄らず、距離をとるようになったのだ。 そしてミドリはイチゴやメロン、バナナの世話もみな自分でやるようになり、娘たちを男に極力触らせないようになった。 普段の接し方から考えて、ミドリにも男が虐待派ではないことは分かっている。 だが、この男はどうにも危険な存在であるという、拭い難い不信感がミドリに芽生えていたのだ。 男はただアニメの台詞を真似て必殺技のシーンを再現しただけなのだが、そんなことを知らないミドリにとっては、男から面と向かって「死ねぇっ!!!」と言われたこともその原因になったかもしれない。 男が 「なあミドリ、最近前みたいに元気に遊んでないじゃないか。気分転換に皆で旅行にでも行かないか? 北海道とかさ」 という具合に誘っても、 「ワタシたちジッソウはニンゲンさんのしたいようにされるがままの存在デス……ご主人サマのご自由にどうぞデスゥ……」 と、返事はそっけないものだった。 それでも男はなんとか以前のようにミドリたちと仲良くしたいと、親仔を連れて北海道にやってきた。 ここはまだ山頂に雪の残る大雪山系が見渡せる展望台。 大自然の壮大なパノラマが、男とミドリたちの前に広がっていた。 「おおー………さすがは北海道、すごい景色だなあ」 「デェェー………キレイデスゥ」 ミドリもしばし男への警戒を解き、目の前の雄大な風景に見とれていた。 仔実装たちはよくホームセンターなどで売っているプラスチック製の昆虫飼育用虫かごに入り、ミドリが行商人のような格好でそれを背負っている。 男が運ぼうかとも言ったのだが、やはりミドリは遠回しに断って、男に娘たちを預けてはくれなかった。 男が一抹の寂しさを感じていると、虫かごの中にいた次女のイチゴが 「ワタチたちには何も見えないテチ! ママ、ワタチたちも下ろして欲しいテチ!」 と騒ぎ出したので、ミドリは自分の体に虫かごを縛り付けていた紐を解き、虫かごを地面に下ろした。 だが上蓋は閉めたままで仔実装たちを外に出さないのは、やはり男による唐突な暴行を警戒してのことだった。 それでも仔実装たちは、透明なプラスチック越しに見える美しい景色にテチィテチャアと歓声を上げている。 すると好奇心旺盛な末娘のバナナが、ミドリに向かって 「ママ、あれはなんていうおナマエのお山テチ?」 と質問した。 もちろんミドリが知るはずもない。 困ったミドリが男の顔を見上げると、男は頼りにされたのが嬉しいのか、心底優しげな顔で 「あれは大雪山っていう山だよ。まあ一つの山の名前じゃなくて、並んでる山全てを総称して大雪山系っていうらしいけどね」 と、ミドリたちに教えてやった。 「テェェ……すごく大きなお山テチィ」 「もしかしたらワタチたちのオトモダチも住んでるかもしれないテチ」 イチゴやメロンも目の前の景色に釘付けになっている。 そんな娘たちの様子を、ミドリもまた目を細めながら微笑んで見つめていた。 —————しかし、それがいけなかった。 ミドリは娘たちの楽しそうな姿に気をとられ、男がいつの間にやら 「大雪山か……大雪山といえば………」 と呟きつつ、かつて自分への凶行に及んだときと同じイカれた表情へと変わっていくのを見落としていたのだ。 男の脳内では、三体合体ロボットの金字塔ともいえる某アニメのOPテーマが流れ始めていた。 ————— テレレレレッ テレレレレッ テレレレレッ テレレレレッ テレッテテッテッテッテッテレレン(ガン! ガン! ガン! ガン!)————— 男は唐突に虫かごの取っ手を掴み、自分の胸の高さへと持ち上げる。 ミドリは男に背を向けていたため、反応することができなかった。 「デェッ!?」 ミドリが慌てて振り返ると、そこには前と同じように目と歯をひん剥いたキチ○イのような表情で、全身を竜巻のように回転させて虫かごを振り回す男の姿があった。 「「「テヒャァァァァーーーー!?!?!?!?!?」」」 虫かごの中にいた仔実装たちは、突如として発生したもの凄い遠心力で体を床に押し付けられ、パンコンしながら悲鳴を上げる。 「デェェーーーッ!?」 ミドリもまた悲鳴を上げて男に近寄ろうとするが、回転が激しすぎて近寄れば自分も危険なことに気づいて躊躇してしまう。 そして男は、 「 大 ・ 雪 ・ 山 おろぉぉぉぉし!!!!!!!!!!」 と叫びながら、まるでハンマー投げの選手のような見事なフォームで虫かごを上空高く放り投げた。 ————— ブンブンブンブンブンブンブンブン! ————— 凄まじい回転を加えられながら宙に舞い上がる虫かご。 その飛んでいく先は、展望台の柵を越えた向こう側の崖だ。 「「「テッチャァァァァァァァァァ……………!!!!!」」」 回転による遠心力とドップラー効果によって、仔実装たちの悲鳴が妙な具合に響きながら遠ざかっていく。 それを見たミドリは、「どうしてこんなことをするデスゥ!?」と抗議するつもりで男のほうを振り返った。 だが、今回はまだ終わっていなかったのだ。 振り向いたミドリが見たのは完全にキチ○イスイッチの入った男の顔と、自分へと伸びる魔手だった。 男はミドリの襟首をむんずと掴むと、まだ落下を始めていない虫かごへと狙いを定め、 「ストロングミサイィィル!!!!!!!!!!」 ミドリの体を、飛んでいる虫かごに向かって砲弾のように放り投げた。 「デアァァァァーーーーー!?!?!?」 パンコンし、糞をまるでジェットのように噴射しながら飛んでいくその様はまさにミサイルのようだ。 そしてミドリの体は落下していく虫かごへと正確に飛んでゆき————— ————— バッッッカァァン!!! ————— 空中で直撃した。 衝撃で虫かごの蓋が外れ、中にいた仔実装たちとミドリが崖下へと落下していく。 地面に激突するまで、あと十秒もないだろう。 その短い間に、彼女たちは何を感じただろうか。 激しい回転によって目が回っていた仔実装たちは何が起こったのか全く理解できず、自分が死ぬということにすら気づけなかったに違いない。 だがミドリははっきりと見た。 地面に激突する直前、自分よりも先に落下した最愛の娘たちが赤と緑の染みと化すところを。 そして自分が同じように地面の染みとなるまでのわずか一秒足らずの間に、娘たちに向かって謝罪した。 (イチゴ、メロン、バナナ、ゴメンナサイデスゥ………ママが、ママがあんなニンゲンに貰われたばっかりに………) そして————— ————— ぐしゃん! ————— ミドリの上半身は完全に潰れ、地面から実装石の両足だけが生えているという奇妙なオブジェが、ミドリたち親仔の墓標となった。 ミドリにとって一つだけ幸いだったのは、絶望と悲しみのあまり地面に激突する前に偽石が崩壊し、その痛みを感じなかったことぐらいだろうか。 その頃、崖上では正気に戻った男が自分のした事に気づいてわなわなと震えていた。 「お、俺は………俺は一体何を……………あ………あ……………あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」 男の慟哭が、北海道の大地に響き渡る。 そしてそれ以降、男が実装石を飼うことはなかった。 しつこいようだが、男は決して虐待派などではない。 今回のことで何かが悪かったのだとすれば、それは一つだけ————— ただ、来た場所が悪かったのだ。 NPO法人の厳しい審査にもかかわらず、なぜこのような悲劇が起こったのか。 怒りや憎しみのスイッチが人によって様々であるように、何がトリガーとなってキチ○イスイッチが入るのかも人によって様々なのだ。 そして多くの人間はそういった“闇”ともいえる部分を持ちながらも、それを上手く隠して社会生活を送っているのである。 わずか数十分程度の面談で、そういった個々人の“闇”を理解できると考えるほうが無理があるのだ。 —————本日の教訓:キチ○イは刃物を持たなくても危ない————— -END- ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- あとがき 序盤だけを見て「これは【愛】スクじゃないの?」と思った? 親仔の末路を見て「これは【哀】スクじゃないの?」と思った? ところがどっこい! やってることは結局虐待です!(一条AA略) いやー、今回は本当に書き易かったです。 だって、いつも自分が実装石を虐待するのを夢想しているときのノリをそのまま書いてるだけですので。 筆者はいつも他の方が書かれたスクを読んでるとき、いつもこの主人公みたいな顔をして、ときに棒ヤスリなんかを床や机にガスガスやりながら、作中の実装石たちをザクザクぶっ刺しているような気分で読んでますし。 この作品の主人公は悪気がないだけの愛護派として書きましたが、まあ潜在的に虐待派の素質があるんでしょうね。 主人公の行動が突拍子もなさすぎな気もしますし、本来の意味で使われるキチ○イスイッチとは少し意味の違うものになってしまいましたが、キチ○イの行動に合理性や整合性を求めてはいけません。 ちなみに仔実装たちの名前は【愛】スクの大作として有名な『サクラの実装石』から拝借しましたので、親実装の名前も『サクラ』にしようかとも思ったのですが、それだとこの主人公の場合、 サクラという名前から某格闘技漫画に出てきた眼球のないプロレスラーを連想し、「与えちゃいけないっ!」などと叫びながら親実装をグシャグシャに壊してしまいかねないので、仕方なくありきたりな『ミドリ』にしました。 あとストロングミサイルは初代ゲッ○ー3ではなく、二代目のゲッ○ーポセイドンの武装ですね。 大雪山おろしがム○シ仕様のものではなく、○慶仕様のものだったということで…… まだまだプロットはあるのですが、とりあえず作品の全体像までできているものは一つだけなので、次回作はそれになると思います。 ちょっと時間かかるかも……

| 1 Re: Name:匿名石 2016/07/02-00:10:22 No:00002424[申告] |
| スイッチが入った時の目はやはり石○賢の描くキャラっぽく
グルグルしているのだろうか。◎◎ |
| 2 Re: Name:匿名石 2016/07/02-00:19:33 No:00002425[申告] |
こんな顔なんだろうなあ |
| 3 Re: Name:匿名石 2016/07/02-19:56:41 No:00002426[申告] |
| 親石の名前がサクラだった場合、カモテペテー デンデコデンデコデデデデデー
という脳内BGMと共に歌劇ダンスで親仔を踏みつぶす可能性もありそうですね。 |
| 4 Re: Name:匿名石 2016/07/02-21:49:28 No:00002427[申告] |
| ※2の挿し絵的なサムスィングワロタ
これは怖かっただろうな実装ちゃん達w 愉快愉快 まあ、間違ってうっかり人間の家族を持ったりする前に自分は誰かと暮らしちゃいけないことに気付けて良かったよね 珍しく実装が社会の役に立っててメデタシメデタシ |
| 5 Re: Name:匿名石 2016/07/02-23:20:12 No:00002428[申告] |
| 下手に自分が正しい実装が悪いだから殺すとか自己弁護してる虐待派より
こんなふうに真性のキチガイとして描かれてる虐待派の方が安心して読める |
| 6 Re: Name:匿名石 2016/07/03-13:39:22 No:00002429[申告] |
| チププ・・・虐待派じゃなくてただのキチガイって書いてあるテチ
文字も読めないとはニンゲンは救いようのない馬鹿テチ |
| 7 Re: Name:匿名石 2016/07/04-00:58:21 No:00002430[申告] |
| 笑えるんだがキ◯ガイに関して考えさせられる社会派?スクでもあるな |
| 8 Re: Name:匿名石 2016/07/04-03:02:21 No:00002432[申告] |
| 確かに普通に人と話してるうちにアレな事考えたりする事あるよね?実際に行動に移したりしないし、そもそもしたいとは思わないけど。だから何となくこの「」の思考が分かる |
| 9 Re: Name:匿名石 2016/07/14-12:36:17 No:00002447[申告] |
| 意外性もあって面白かった。
ここまででなくとも、映画やアニメに入り込んじゃうことってあるかもね。 |
| 10 Re: Name:匿名石 2026/03/26-13:07:48 No:00009922[申告] |
| 糞蟲買う前に精神科行けよ |