一匹の飼い仔実装が縁側で三方に寄りかかりながら満月を眺めていた。 「テェ……、キレイテチィ!」 澄んだ秋の空気が真円を描く月を大きく見せ、仔実装を魅了した。 そんな月見に夢中になる仔実装に、飼い主の人間が声をかけた。 「そろそろハウスに戻る時間だよ」 仔実装にそっと手を添え、その小さな体を手の平に乗せると、ハウスに連れていこうとした。 「イヤテチ! もっとお月様見たいテチュ! 起きてるテチュ!」 飼い主の手の平から飛び降り、イヤイヤと顔を横にブンブンと振りながら地団駄を踏む仔実装。 言うことを聞かない仔実装に困った飼い主は夜空を見上げ、ある事を思いつく。 「そんなわがままを言っていると、もうお月様を見れなくしてしまうよ?」 「テェ……? そんなこと出来るわけないテチッ!」 一瞬、ギョッと驚いた顔を見せた仔実装だったが気丈に言い返す。 「じゃあ、やってみようか」 飼い主は仔実装の目を人差し指で覆い、10からカウントダウンを始める——。と同時に三方に手を伸ばすと、供えられていた月見団子を握り込んだ。 「3……、2……、1……、0」 仔実装の目を覆っていた人差し指を動かし、視界を開いてやる。すると——。 「テ……、テテッ? お月様無くなっちゃったテチャ!」 先ほどまで確かに夜空に浮かんでいたはずの満月はその姿を消し、光を失った夜空はただ黒く広がっていた。 「ニンゲンサンがどっかやっちゃったテチ……?」 驚きと戸惑いを隠せない顔で飼い主の顔を見やる。 「……ほら。ここにあるよ」 飼い主は秘密に握っていたお供え物の月見団子を仔実装の前に差し出した。 「……? それはお団子テチ」 「違う。これがお月様だよ」 と言いいながら、その団子を夜空にかざして見せた。 団子は先ほどまで満月が輝いていたであろう位置で掲げられた。 その形、大きさはちょうど満月と同じだった。 「テェ……。ほ……、本当にお月様を取っちゃったテチ?」 いよいよ顔色を悪くする仔実装。両手をモジモジと、こねくり回しながらバツの悪そうに改めて飼い主に質問した。 「だからそう言ってるだろ? ほら、早く寝ないとお月様、戻してやらないぞ?」 困り果て、うつむいている仔実装に寝床に着くよううながす。 「分かったテチ……。でも……。」 飼い主を見上げ——。 「明日になればまた見れるテチ……?」 「うん。ちゃんと空に戻しておくから、見れるようになるよ」 「……分かったテチィ……」 飼い主は、とうとう観念した仔実装を手に乗せると、雲に隠れた満月が再び顔をのぞかせる前に寝床に連れていったのだった。

| 1 Re: Name:匿名石 2025/07/16-04:24:55 No:00009744[申告] |
| 「お月様を取る」から始まり「ちゃんと空に戻しておく」という飼い主の優しいウソで終わる無理のない構成と世界観。
いい読後感である。 |