台風一過でみごとな快晴だったが、その台風が運んできた南の大気で蒸し暑い一日だった。 眼前の公園も雨に洗われて木々の緑は鮮やかだったが、近くで見れば風雨でそれなりの被害も出ていることだろう。 特に奴らのボロ家などは。。。 デスキン・ロビンズというアイスクリームのチェーン店を知っているだろうか? 31種類のアイスやシャーベットをカラフルに並べて売ることで有名な店だ。 俺は今年30歳になってしまった「」、とあるデスキン・ロビンズの1店舗を任されている。 肩書きは店長という事になるが、要するにアルバイトに毛が生えた程度の雇われ店長だ。 今日もアルバイトの女子高生たちが帰った後に、事務所の鍵を閉めシャッターを降ろして帰る仕度をしていた。 想い起こせば10年以上前、大学を中退し、引き篭り同然の日々を過ごしていた。 親の仕送りも途絶え、とりあえず見つけたアルバイト先がデスキン・ロビンズだった。 駅前の小さい店舗で毎日なんとなく働いていた。 バイトの出入りが激しく次々と辞めていくなか、なんとなく辞めずに残っていた。 やがて、遅刻しないで毎日真面目に出勤してくるという、ただそれだけの理由で新規店舗を任されて今に至る。 目をかけてくれたオーナー氏には感謝している。 デスキン・ロビンズはフランチャイズ展開で15年程前に急成長した。 オーナー氏の会社もフランチャイジーであり、この街でデスキン・ロビンズを3店舗経営している。 フランチャイズ本部からは、優良店舗として高く評価されているそうだ。 俺の店は、他の2店舗とは異なり、街の中心からやや離れた県道沿いに出店している。 3店舗の中では特に週末の売上が良い。 『市民公園』という名称の広大な面積を誇る自然公園に面した立地により、週末は家族連れやスポーツのサークルで賑わうからだ。 その週末の売上が全体の7割を占めており、市民公園のおかげというところなのだが、反面困った問題も起きる。 もちろん言うまでもない。 緑の害獣、例の糞蟲どもである。 公園と名の付くところなら必ず湧いて出る実装石が、この市民公園にも多数棲息している。 幸いにもこの公園は広すぎて、実装石の棲息密度は低い。 しかし迷惑な存在であることには変わりがない。 奴らは時折り公園から県道を横切ってこの店にやって来る。 来られたが最後、100%ろくなことにはならない。 出入り口のシャッターを閉めようとして、ふと見ると窓外に実装石の親仔がいることに気付いた。 小さく舌打ちする、今夜もかよ。。 やつらが何をしようとしているのかというと、要するに託児を狙っているのだ。 あれで隠れているつもりなのか、じっと入り口の脇で待ち続けている。 きっと台風で家を失った家族が、窮余の一策で飼い実装になることを目論んだのであろう。 普通であれば託児はコンビニで行われるものだが、この店でも託児狙いの実装石が意外に多く出没する。 糞蟲どものそれこそ糞並みの知能では、アイスクリーム屋とコンビニの区別もつかないようだ。 まぁ夜ともなれば照明の具合で、ぱっと見にはコンビニっぽく見えるのも無理はないかもしれない。 21時の閉店時間になり照明を消して暗くすると、よくデデェ!?と驚く声とか、デスデース!!という喚き声が聞こえる時がある。 24時間営業じゃないなんて詐欺デスゥ!!と文句を言っているらしい。 そんな晩の翌朝には、店のシャッターに緑色の糞がこびり付いていることが多々あった。 託児が出来なかった腹いせで投糞していくのだ、迷惑な話である。 当然、自衛策を採らなければならない。 それもアイスクリーム屋ならではの、ちょっとしたクールな自衛策というやつをだ。 さっそく大き目の持ち帰り用ビニール袋に【ある物】を入れ、それを片手にぶら下げながらシャッターを降ろした。 店の外で、例によって託児を狙っていた実装石が唖然としていた。 シャッターが降りて暗くなった店と俺の顔を何度も見比べている。 そのうち親実装が俺に向かってデスゥ!デスデスデッスゥ!!と猛烈な勢いで文句を言い始めた。 それに勢いを得たのか、仔実装や蛆までが一緒になってレチレチ!レフー!と大騒ぎである。 なんで許可なく店をしめるデスか!?糞ニンゲン!!というところだろう。 責任もって飼えとか、ステーキとコンペイトウがどうしたとか、訳の判らん要求を突きつけているに違いない それぐらいリンガルなしでも容易に想像できるというものだ。 9月に入ったとはいえ、まだまだ夜になっても蒸し暑い。 シャッターを降ろすだけで額に汗が噴出すし、そんな足元でデスデス騒ぐナマモノは黙らせたくもなる。 とりあえず、足元で騒ぐ親実装の腹を蹴り飛ばした。 デビャ!!情けない悲鳴を上げ、吹っ飛んだ親実装がシャッターに激突した。 仔実装どもは動かない。あっけにとられているのが2匹、親の無様を嘲笑っているのが1匹。 残り1匹は蛆だけに状況を理解していない、プニフープニフーと俺に腹を向けて鳴くだけだ。 あっけに取られていた2匹のうち、1匹はあわてて親のもとに駆け寄っていった。 テチーテチーと鳴きながら親の腕を引っ張り、一緒に逃げようと呼びかけている。 親は舌をデロンと出して失神している、揺り動かされても動く様子は無い。 ガラス玉のような両目は虚ろなままだ。 もう1匹の仔も殆んど同時に走り出していた、ただしこちらは真っ直ぐ公園に向かって逃げていく。 家族は見捨てていくようだ。自分だけ助かればよいということか。 テッチテッチテッチテッチ!と不恰好な短足で全力疾走だ、まぁ遅いなんてもんじゃないが。 コイツは放っておくことにした。 どうせ仔実装1匹で生きていける筈もない。 テッチテッチテッチテッチ!と店前の駐車スペースを横切り、県道を渡り、公園の入り口から闇に消える。 それに気を取られているうちに、親を嘲笑っていた残り1匹の仔実装が親のもとに駆け寄っていた。 しかし親を介抱するのではなく、だらしなく伸びている親をポフポフと蹴り始めた。 チププ!チププ!と嘲りながらだ。 親が無抵抗になのをいいことに、ここぞとばかりに蹴り続ける。 親子関係がうまくいってなかったのだろうか、それとも間引きそこなった糞蟲個体というやつか? あるいは単純に、この熱帯夜でトチ狂ったのだろうか? 最初に親のもとに駆け寄っていた方の仔実装が止めようとするが、糞仔蟲は制止を振り払い今度は親の顔を殴る。 ポフ!ポフ!という間の抜けた打撃音が聞こえてくる、殴る度にテティ!テチャァ!という糞仔蟲の歓声があがる。 予想外の展開にしばらく様子を見ていたが、よく観察していて妙なことに気付いた。 親を殴り続ける糞仔蟲は、親への攻撃を続けながらも時折りチラリチラリと俺の顔を覗っている。 俺が見つめている事を意識してか、時折りわざとらしくテチャア!と叫びますます猛り狂う。 その糞仔蟲を制止しようとして、その度に振り払われ突き飛ばされているほうの仔実装も同様だ。 時折りチラリと俺の顔を横目に覗っては、さも慌てているかのようにテチャァ!と糞仔蟲に駆け寄り制止する。 その都度、糞仔蟲に突き飛ばされ、テチャァ!と転んではチラリ、再び駆け寄ってはチラリ、、俺の様子をうかがっている。 よく判らん。 どういうつもりだろうか?さすがに気になった。 たしか最近買い替えた携帯電話にリンガル機能が搭載されていた筈だ。 翻訳してみた。 『この!この!死ねテティ!この役立たずのバカ親めテティ!』 『やめるテチ!ママが死んじゃうテチィ!』 『死んじゃえばいいテチ!こうやって元気なワタチをアピールすれば、ワタチは選ばれて飼い実装テチ!』 『何言ってるテチ!わけわかんないテチ!やめるテチ!』 『チププ!そんな理屈もわからない馬鹿姉ちゃんは引っ込んでろテチ!』 『ママは死んでもいいけど間違ってるテチ!ドレイニンゲンは親思いな賢いワタチを飼うんテチ!』 『テチィ!選ばれるのは高貴なワタチだけテチ!!親だってやっつける無敵のワタチテチィ!!』 チラリと俺に視線を飛ばす糞仔蟲、視線をそらしてチププと含み笑い。 『テチャァ!賢いワタチに決まってるテチ!!ママは死んでもワタチは幸せになれるテチャァ!!』 チラリと俺の様子をうかがう仔実装、視線をそらしてチププと含み笑い。 ・・・なんというか、、わざわざ翻訳して損した。 やっぱり公園の野良レベルでは、考えている事が自分勝手すぎて理解不能だ。 つか、、浅ましすぎて呆れるしかない。 俺は駆除する事しか考えてないのに、幸せいっぱいの安い脳内ではそんな可能性を考えもしないのだろう。 なんか気がつくと5分近くも実装の相手をしていた自分が情けなくなってきた。 この汗がしたたるほどクソ暑い夜に、なにを実装ごときに時間を費やしているんだろう。 さっさと全滅してもらおうか。 たしか携帯の翻訳機能には、こちらの言っていることを実装語にして発声する機能もあったよな。 テチャテチャ!と、わざとらしく騒いでいる仔実装をよそに、携帯を弄くり必要な機能を見つけた。 さっそく使ってみる。 「あ〜〜、、アレだな。親でも仔でも蛆ちゃんでもいいけど、飼えるのは 一匹だけ だなぁ。。」 わざとらしく、「一匹だけ」を強調してみた。 翻訳された合成音が、携帯からデスデスデッスンと響いた直後の展開には笑った。 失神しているようにしか見えなかった親実装が突如跳ね起き、あっというまに両手で1匹ずつ仔実装を捕まえたのだ。 そのまま愕然としている2匹をまとめて口に放り込み、悲鳴を上げる間も与えずにボリボリと咀嚼しだした。 さも美味そうに残らず食いつくしやがった。 デッス〜〜ン♪デスデスデッス〜〜ン♪ 『宇宙で一番高貴で美しいワタシだけを飼おうとは、なかなか見どころがある奴隷デスゥ!』 『その意気に免じて、特別にワタシだけを飼うことを許すデスゥ!』 『てっきりギャクタイハだと思って死んだ振りして損したデス!まったくツンデレなニンゲンデスゥ!』 『生意気なガキどもも調子乗りすぎデスゥ!バカなガキも利口なガキも用済みデッス!』 『ガキどもは美味かったデス!さすがワタシの子デッス!最後くらいは役に立ったデス』 『それもこれもセレブな飼い実装生活のためには当然の犠牲デッス!今日からコンペイトウもステーキも食い放題デスゥ!』 デプププ・・・デシャシャシャ!!と哄笑する親実装を放置して、俺は唯一残った蛆実装のもとに歩み寄っていた。 デデ!? 無視された親が驚き見詰めるなか、蛆実装を眺めながらわざとらしく呟く。 「あ〜〜アレだな、、蛆ちゃんってのもカワイイもんだなぁ。。」 携帯をもったまま話すのであるから、当然親にも伝わっている。 デジャァァアア!!! 鬼の形相で蛆実装に飛び掛る親、相変わらずプニフープニフーと脳天気な蛆を口に放り込んだ。 咀嚼するまでもなく一気にツルンと飲み下しやがった。 とてもか細く小さい悲鳴がレピャァァァァ・・・と聞こえたような気がしたが、気のせいだったかも知れない。 って、あらら、、、残さず食っちまいやがんの。さすが情け無用の野良実装。 呆れて見つめる俺にデッス〜〜ン!デッス〜〜ン!!と媚びてきやがった。 こうやってまじまじと顔を見つめてみると、実にもって醜悪そのものである。 仔実装には多少なりとも可愛げがあったが、親ともなると薄汚れた人形の失敗作としか言いようがない。 蒸し蒸しとクソ暑い空気中に、かすかだが不快な生ゴミ臭が噴き上がってくる。 こいつらが普段、何を食っているのかがよく判る臭いだ。 腐りかけの生ゴミ、同族の屍肉、昆虫の死骸、、そんなところか。 どちらにしても人に飼われる生き物に許される臭いではない。 さっさと甚振り殺して帰るとしようか。 俺は片手に下げていたビニール袋の口を広げ、親実装石に入るように促した。 例の【ある物】を入れてある袋だ、ずっと片手に下げて持っていた。 飼い実装になる選ばれた実装石のための特別な袋だよ〜と言ってやると、疑いもせずに喜んで入りやがった。 話に聞いてはいたが、本当に【特別】という言葉に弱いナマモノだ。ちっとは疑えっての。 デッス〜〜ン♪ 中に入った実装石は嬉しそうに鳴いている。翻訳機能には『気持ちいいデスゥ〜♪』と表示される。 そりゃそうだ。これが夏場における実装殺しの定番アイテムなんだからな。 アイスクリーム屋ならではの、クールな必殺アイテムだ。こいつはまだ気付いてないけどな。 俺は通勤用に使っている自転車の鍵を外し、サドルにまたがった。 袋を片手に下げたまま走り出そうとした時、なにやら小さな悲鳴を聞いたような気がした。 そのまま留まり、聞き耳をたててみる。 ・・・気のせいかな? チャァ・・・ んっ?やっぱり聞こえる。。 チャァ・・・ テチャァ・・・!! テチャァァァァアアア!!!! やっぱりな。。 公園に逃げていった仔実装が逃げ帰ってきたようだ。 公園の入り口から街路灯に照らされて、小さい肌色の仔蟲が走ってくる。 チャァァァアア!!テチャァァァアアアア!!!! あ〜〜あ、ちょっと会わない間にすっかり禿裸だ。 よほど怖い眼にあったのか、パニック状態になってこちらに走ってくるが、、遅い。 まぁ、ちょっとだけ付き合ってやるか。 タバコを取り出し火をつけた。 タバコが半分になったところでやっと県道を渡りきった仔蟲が、店の駐車場に駆け込んできた。 見ると右腕が根元から千切れている。 両目から色付きの涙を流し、チャァァァア!テチャァァアア!!とパニック状態で泣き叫んでいる。 きっと公園に逃げ戻ったところで別の野良実装に遭遇したのだろう。 庇護者のいない脆弱な仔実装である、ひとたまりもなく捕まってしまったのか。 禿裸に剥かれたところを見ると、食われるというよりは奴隷にさせられるところだったに違いない。 なんらかの幸運に助けられ、逃げおおせる事が出来たのか。 しかし、それでも代償として服と髪、腕一本を失う事になったのだろう。 聞きなれた自分の仔の叫び声に反応し、親実装が袋の口から目をギョロつかせる。 デスー?デスー?と探していたが、やがて走ってくる仔実装に気付きデェェ!?と驚く。 その親の声に反応し、パニック状態の仔実装がテチャァァ!と俺の足元に駆け寄ってきた。 ビニール袋越しの親子の対面となった。 仔蟲は袋に向かってピョンピョンと跳ね、疲れ果てた傷だらけの身体で親に助けを求める。 それを袋越しにじっと見つめる親。 やがて、、 デプ・・・デププ・・・ あまりに予想通りではあったが、親実装は禿裸に落ちぶれた仔を嘲りだした。 テチャ・・・ 親実装の反応に愕然とし仔実装が硬直してしまう。 デプププ・・・・・・デピャピャピャピャピャピャピャ!!!!!! 親実装が爆笑しだした。 そのまま腹を抱えて、袋の中でデピャデピャピャと嗤いころげる。 『なんてみっともない禿裸・・・』 『みじめに死んで当然のクズ肉奴隷・・・』 『セレブな飼い実装とは住む世界が違う・・・』 『高貴なワタシの産んだ仔の筈がない・・・』 『さっさと下賎な野良どもに喰われて消えろ・・・』 こんなメッセージが携帯の液晶画面に何度も表示されては消えていく。 親を見捨てて公園に逃げ込んだ仔蟲が、今度はその親に見捨てられたようだ。 実装石の親子関係が愛情で支えられるケースは非常に稀と言われている。 大抵は子供を非常食と見なす打算であったり、他の同族に対して大家族を誇るという見栄であったりする。 そんな関係であるが故に、身体に欠損が出た家族はいとも簡単に破棄される。 こいつらもそういう、一般的な家族だったようだ。 もはや親実装の目には、この仔実装は死に損ないのゴミと認識されているのだろう。 仔実装は立ち尽くしたまま動かない、袋の中から嘲り嗤う親を見上げたまま動けない。 人形そのままの表情に乏しい顔で、テチ・・・と呟き肩を震わせうつむいている。 やがてポロポロと、涙を流し始めた。 その涙の色がやけに濃くなった。 黒に近い赤、黒に近い緑だ。蜂蜜のような粘り気のある涙を両目から流している。 虐待を趣味とする友人が教えてくれた言葉を思い出した。 実装石を甚振り尽くして心底絶望させると、血よりも濃い色の涙を流すときがある。 蜂蜜のように粘度が高いその涙は、絶望の結晶とでも呼べるものであり滅多に見られるものではない。 マニアックな虐待師の中にはその涙を流させる事に執念を燃やす奴らもいる。。 どうやらこれがその涙のようだ。 頬から糸を引きながらこぼれ落ちた涙が、だらしなくたるんだ腹に落ち、さらに糸を引いて地面に溜まりだした。 俺は携帯リンガルで親に聞いてやった。 「あ〜〜念のために聞くけどよ、このガキどうするよ?助けたいか?」 返事はそっけなかった。 『そんなのいるわけないデスゥ・・・』 袋の中で寝そべったまま面倒臭そうに応える親実装。 ・・・そうかい。 絶望して立ち尽くしたままの仔実装を尻目に俺は自転車を漕ぎだした。 そのまま駐車場の中を大きくぐるりと回って加速をつけ、狙い定めて前輪で仔実装を轢き潰してやった。 ガクッという軽い手ごたえ、プチンという破裂音と共にアスファルトに小さな血の華が咲いた。 ヂッ!という短い悲鳴。 それで全てだった。 まぁ苦しむ間もなく死ねたのだ、親を見捨てるような虫けらにしては上等な死にかたと言えるわな。 感謝しろよ。 駐車場の隅に設置してある吸殻入れに、吸い終えたタバコを放り込んだ。 そのまま片手に実装石を入れた袋を下げたまま、県道沿いに自転車を漕いで走る。 店を出てからしばらくは、道路の両側には何もない。雑木林と野原がつづく。 間隔をおいて立っている街路灯の灯りを頼りに、ひたすらにペダルを漕ぎ続ける。 暗い道。 粘るような熱気が肌にまとわりついては流れていく。 今年の暑さは異常だ、暑いにもほどがある。 ひたすら自転車を漕ぎ続ける俺の手元で、なにやら訝しげな声がした。 デッ?デデェエエ?? やがてはっきりとした悲鳴が聞こえはじめた。 デ!デビィイイイ!!デデェデェェエエエエ!!!デギャァァ!!!!! 袋の中の実装石が騒いでいる。 まぁ当然だな。 この阿呆蟲は、仔を嘲笑うついでに袋の中で寝転んでしまった。 それが原因で、今この阿呆は身動きひとつとれずに全身を襲う痛みに苦しんでいる訳だ。 魂消るような苦鳴の合間に、なにやらデスゥ!デスデスゥ!!とわめき散らしている。 きっと俺に対する呪詛の言葉でも吐き散らしているのだろう。 それとも、この痛みを何とかしろドレイニンゲン!とでも命令しているつもりなのだろうか? まぁいいさ。 もう間もなく、時間の問題でこの阿呆は口も利けなくなる。 なにしろ、袋に入れておいた【ある物】ってのは、板状の【ドライアイス】だからな。 袋に入った直後は奴も喜んでいたわけだ、そりゃこの酷暑の中で冷たいのだから当然だ。 こいつら人間と違って感覚器官がいい加減だから、凍死直前にならないと危機に気付かない。 なんの危機感もないままに、冷たくて気持ちいいからとドライアイスの板の上に寝転がったままでいたわけだ。 アイスクリーム専門店が扱う業務用のドライアイスなのだから、それなりに大きいものが用意してある。 成体の実装石がゴロリと横になれる程度には大きなサイズだったりする。 そりゃ、気付いた頃には背中側から凍って貼りついて身動きできなくなるわな。 逃げようもないままに、順々に全身が凍りついていくわけだ。 冷たさは度を越すと痛みに変わる。 デギィ!!・・・デェェ!・・・・・・・・・・ デェ・・・・・・・・・デ・・・・・・ェ・・・・・・・・・ ェ・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・ 実装石の声が聞こえなくなり、やがて完全に静かになった。 冷凍実装石が完成したようだ。 住宅街に出る前に小さな川を横切る。 流れの幅は、せいぜいが2メートルといったところで、昼間なら浅い川底がはっきり見える。 小魚やオタマジャクシが泳いでいるのも見える、用水路に毛が生えた程度の緩い流れだ。 県道は、そこのところで橋になっている。 もっとも車で走っていると、それが橋だと気付かない程度の短い橋なわけだが。 俺はその橋の上で自転車を停めた、ちょうど街路灯の真下の明るいところだ。 もう一本、タバコをとりだし火をつける。 額から噴出した汗が顎から滴り落ちる、背中もべったりと濡れていて気持ち悪い。 手にしているビニール袋から白い冷気が流れていく。 袋の中を覗いてみて、今回の作品の出来映えに満足した。 ドライアイスの板に貼り付く様にして、完全に凍りつき微動だにしない実装石がいた。 流した涙まで凍っている、まるでイチゴとメロンのシャーベットだ。 思い出すのは、いつだったかレンタルで借りてきたSF映画のワンシーンだった。 たしかスターウォーズだったかな、なんとかいう船長役がこんな感じに氷漬けにされていたっけ。 街灯の明かりに照らされる氷結実装石の出来映えに満足しながら、俺はタバコをくゆらせていた。 吸殻を携帯灰皿にしまう。吸い終ったのを合図に、袋の中身を眼下の川に投げ捨てた。 ガチガチに凍った冷凍実装石はくるくると回転しながら、2メートルほど下の水面に落ちていった。 それなりに飛沫が上がり、一気に沈んでいく。 同時に白い泡が猛烈な勢いで噴きあがりはじめた。 ボコボコ・・・ボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコ・・・・・・ 泡が弾け、川面を白い気体が霧のように流れていく。 やや黄色がかった街路灯の照明に照らされ、一種幻想的ともいえるような光景が出現する。 俺はこれが好きだ。 この眺めが好きだからドライアイスを無駄遣いし、重い思いをしてでもここまで運んで捨てる。 泡の勢いは5分や10分では衰えることはない。 これくらい大きなドライアイスとなると、完全に溶けきるまでに結構な時間を食う。 ボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコ・・・・・・ やがて泡に吹き上げられるようにして、唐突に川面に浮かんで来るものがあった。 服の切れ端、白い前掛け、亜麻色の髪の束、急速な冷凍と解凍の過程で千切れて浮かんだのだ。 次々と浮かんで来る。 根元から千切れた耳。 腕の先っぽ。足。 凍りついた実装石の体は急速に解凍すると砕ける。 経験的にこうなることは知っているが、どういうメカニズムかは知らない。 初めてドライアイスで殺した際に、捨てる場所に困りこの川に流した時に知ったのだ。 泡立つ川の水が緑色に濁った、実装石の腹が破裂したのだろう。 腹から内臓が噴出し、その内臓もまた連鎖的に破裂する。その際の夥しい出血で水の色が変わる。 小さな生首が浮かんできた。 小さい手足もだ、食われた仔実装2匹分のパーツだ。胃袋が裂けたのだろう。 続いて蛆実装が浮かび上がってきた。 原型を留めたままだが少しは消化されたらしく禿裸だった。 白く濁った眼を宙に向け水面をプカプカと漂っていたが、急にパチン!と腹から弾けて沈んでいった。 投げ入れてから10分以上経過したが、白い泡の勢いは未だ衰えを知らない。 3本目のタバコに火をつけ見守ることにした。 唐突に親実装の生首が浮いた。 髪も耳もないツルンとした後頭部を上にして浮いてきた。 顎関節から上の部分だ。 白い泡に洗われるようにして、顔の側がぐるりと上を向いた。 いまだ苦悶の形相を留めた表情、街路灯の光が両目に反射する。 眩しいと文句を言うかのように、その眼がパリン!とガラスのように割れ散った。 そのまま光を失った生首は、ゆっくりと下流に流されていく。 あとを追うように小さい肉隗が流れていった。舌だった。 ドライアイスも残り少なくなってきたのか、次々と親実装のパーツが剥離し浮かんでは流れていく。 下顎から肩辺りの肉隗。 得体の知れないヌメヌメとした内臓のかたまり。 やけに生々しく白い股の関節。 腸のような長い臓物を引きずっている胸部。 肩から先の腕の残り部分。 いろいろと浮かんでは流れていく。。 この死骸は朝までに海まで流れていくのだろうか、それとも河口に辿り着く前に水の生物に食い尽くされるのだろうか? そもそも野良実装石の死肉なんか好んで食う生き物がいるのだろうか、朽ち果てて川底に堆積して終わりなのだろうか? タバコの煙を吐き出しながら、ふとそんなことを考えていた。 やがて泡の勢いが衰えてきた。 ボコ・・・ボコボコ・・・ボコ・・・・・・・・・ 咥えタバコが燃え尽きたのにもしばらく気付かず、俺は最後の泡まで見逃すまいと見詰めていた。 やがて、、ポコ・・・っと小さな泡がひとつ上がり、それきりで再び川面は静寂を取り戻した。 しばらく川面を見つめ、これ以上何も出て来ないことを確認してから、俺は小さく肩をすくめ自転車にまたがった。 鼻歌交じりに県道を走り続け、途中にある道沿いのコンビニで袋を捨て、夜食とビールを買いこむ。 コンビニを出発すると、いくらもしないうちに周囲の景色が変わり市街地に入る。 そのなかに俺の暮らすマンションの部屋もある。 そうだ、明日は無駄遣いしたドライアイスを多めに仕入れなきゃ。 暑い夏だったがそろそろ秋の訪れだろうし、シャーベットよりもアイス系の売上が伸びる時期も近かろう。 テレビを眺めながらそんなことをぼんやりと考え、ビールの空き缶を処分し蒲団にもぐりこんだ。 今日も何の事件もない平和な一日だった。 明日は3連休の初日だったな、台風一過できっと快晴になるだろう。 忙しくなりそうだ、頑張って働こう。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 今年の真夏のクソ暑い時期に書いていたスクです。 内容にいまひとつまとまりがなく、そのうち書き直そうと放置していたら、 すっかり忘れて冬になっておりました。 いやはや。。

| 1 Re: Name:匿名石 2014/12/13-12:25:51 No:00001591[申告] |
| 清々しいほどのクズ蟲ですね(*`・ω・)ゞ |
| 2 Re: Name:匿名石 2014/12/16-09:17:55 No:00001592[申告] |
| 凍結からの解体描写が素敵だった |
| 3 Re: Name:匿名石 2014/12/21-19:54:06 No:00001597[申告] |
| ファミリー総糞蟲の描写も解凍描写もお見事の言葉に尽きる |
| 4 Re: Name:匿名石 2025/06/25-12:09:58 No:00009713[申告] |
| 暑くなってくるとこのスクが読みたくなるんですよねぇ |