「小さな世界の争い」 小さな商店街から少し離れた場所に林がある、この林にはアリクと言う名のリーダーが務める実装石の巣があった。 林は他にも幾つかの集団が独自に巣を作って、お互い牽制しながら均衡を保っていた。 300m四方の地方都市では大きめの林は、竹が中心になり他の雑木が回りを囲んでいる。 中央に開けた所があり、地主がゴミ焼きに掘った大穴がある、そこに雨水が溜まり実装石達の水源となっていた。 外からは暗く見えにくい、ここは街の人間から隔離された世界だった。 月に一回、地主である老人が、ここに住み着く実装石を駆除に来る。 老人は林に住む実装石にとって恐怖の権化である。 鎌を片手に一切の躊躇も無く、冷淡に雑草を刈るように実装石を切りつける。 一撃で死ねるなら幸運だ、老人の攻撃で手傷を負った実装石が、 どんなに哀願しようが媚びようが老人は眉一つ動かさない。 まるで殺人機械の様にかつ仕事でもするかの様に、林の実装石を殺して回った。 今日はその老人が林に来ている、老人の後を追うかのように実装石の叫び声が聞こえる 殺した実装石は中央の大穴には水が溜まっている為使えない。 仕方なく別に穴を掘りそこに投げ入れ集め火をつけた。 まだ息の微かにある実装石達の呻き声の中、煙は天高く舞い上がる。 数十匹の実装石はその煙と一緒に遠くへ旅立って行った。 アリクの集落だけは別である、巧妙に隠した巣の中、 全員で息を殺し断末魔であろう実装石の叫び声を聞いていた。 そんな時、一匹の仔実装が泣き声を上げる、母実装がなだめても泣きやまない。 するとアリク直属の者数匹がその仔実装の後ろに忍び寄った。 静かに仔実装の口を塞ぎ、他の者は手足を押さえ、動けなくして首を絞めた。 「クムゥー・・チムム!!」 いきなりの事に仔実装は驚いて助けを請うたが、回りの反応は全く無い、まるで自分一人だけが別世界の様に。 目をギョロギョロ見開いて回りを見たが、淡々と静かに事が進んで行く。 母実装もその様子をただ見ているしかなかった、この巣を追い出されれば一匹で生きて行かなければ行けない。 集団と言う物に慣れきった実装石には、今更無理な相談だった。 仔実装は母実装に手を差し伸ばすが、母実装はやはり見ているだけで動こうともしない。 暗闇の中で絶望を感じつつ熱さと静けさの中、仔実装は体の自由を奪われ数匹がかりで絞め殺された。 「もう少しの辛抱デス、もう少しの・・」 押し殺した狂気の中で、アリクは自分に言い聞かすかのように独り言を続けた。 「・・肉の焼ける匂いがするデス」誰かが言った。 暫くすると静寂が辺りを包み、また暫くして「デスデス♪」と、実装石の喜ぶ声が聞こえだした。 アリクは一匹の実装石に合図を送ると、その実装石はそろりと巣から顔を出した。 一度アリクに振り向くと頷き巣を出て行く、身の軽い彼女は偵察へと行ったのだ。 偵察へ出た実装石はチコと言う名前で、アリクは小さく身の軽いチコを必ず偵察に使った。 チコもアリクの頼みならと、自ら危険な偵察を買って出ている。 草木の間を隠れるように、チコは実装石の声に向かって行く。 声の正体は焼けた実装石を他の実装石が、旨そうに食べて舌鼓を打っている声だった。 老人がいなくなると、必ず実装石の丸焼け死体が数十体出来る事を、他の実装石は分かっていた。 共食いは人間からすれば狂気の沙汰だが、実装石にとっては普通にある出来事だ。 一部炭化した実装石の肉は同族にとってもご馳走で、群がる数は増え続けて行く。 「デピャピャピャ♪、焦げた所がクリスピーでカリカリです」 「何てジューシーなんデス?脂の乗りが最高デス」 「こっちの肉は仔実装です、肉汁がしたたり落ちるデスゥ」 感極まったのか一匹の実装石が、余りの旨さに感動をしている。 「幸せデス、旨いデス、幸せデス、あの爺いには感謝してもしきれないデスゥ」 その様子を観察していたチコは背筋が凍るのを感じた。 アリクの集団は、実装石同士の共食いを禁止してから随分と経っている。 禁止令が出来て生まれたチコにとって、共食い行為はもっとも忌むべき行為に映った。 「マラ付きもいるデス、あいつらまた共食いしてるデス、信じられんデス」 「仲間を食べるなんて・・・チコはあいつらと違う巣で良かったデス」 心の中でそう言うと、チコは慌てて自分の巣へと帰って行く。 アリクのグループにとって敵は人間以外だけではない、他の実装石も敵となっていた。 △ そんなアリクの巣に一つの事件が起きていた。 事件とは林の端に住む違う集落の実装石が、アリクの巣に助けを求めて来たのだ。 その集落はアリクの集落と一度いざこざを起こして、以来付き合いは途絶えてしまった集落だ。 アリクとしては余り外部との接触が無いほうが良いと思っていたので、幸いだとも感じていた。 助けを求めてきた実装石が叫んだ「このままじゃ集落が、集落が全滅です!」 そう言うとその実装石は土下座をして、まだ生き残っているかもしれない仲間の救出を懇願した。 助ける助けないに関わらず、とにかくアリクはこの実装石に理由を聞いて見た。 どんな情報でも無いよりあった方が良いと、アリクは知っていた。 「落ち着くデス、顔を上げて何があったか話して見るデス」 アリクの問いに土下座をした実装石は顔を上げ、これまでの事を話し出した。 どうやら林で一番勢力のある実装石の集団に襲われたらしい。 新興勢力のその集団は、上位を占める実装石全てがオスの個体で占められている。 アリクにとってもその集団は人間以上に厄介で、頭の痛い存在だった。 普通実装石のオスは生れ落ちた時に間引かれる、だが稀に心優しく慈悲深い実装石によって生き延びる事がある。 ただ単体ならばそれ程怖い存在ではない、集団になるとメス実装では手が付けられなくなる。 力や凶暴性はメスの能力を遥かに凌ぎ、集団同士なら破壊衝動に駆られたオスの集団に抗う術は無かった。 そしてこの集団のボス実装バグは、珍しい物好きの人間によってわざわざ作られた。 人間はバグを可愛がり何でも欲しい物を与え甘えさせてしまう。 そして実装石に良くある、勘違いと優越感で飼い主の言う事も聞かなくなり公園に捨てられた。 バグがどうして公園からこの林にやって来たのか誰も知らない、バグ自身も話す事は無かった。 バグはメス実装を捕まえては子を産ませ、オスなら自分の配下に加えてメスなら食料か性奴にして行く。 そうやって少しづつ増えたオスの集団で、次第にこの林に自分の勢力を拡大して行った。 そしてたまに気が向くと、他の巣を襲い気に入ったメスを奪い他は食い殺して自分達の凶暴性を満たせていた。 バグの巣からは毎日犯され食い殺される、メス実装の声が聞こえた。 「話は分かったデス、チコこっちへ!」 アリクはチコを呼ぶとナナと名乗ったこの実装石と一緒に、襲われた巣を見てくる様に言った。 「危険が無さそうなら生き残りを連れてくるデス、危険なら戻り検討するデス」 チコたちが出て行くと他の実装石は口々に怯えを表した、マラ付きと聞いただけで震えてしまっている。 その様子を見たアリクは、以前から考えていた事を実行に移す時かもと考えていた。 △ チコが巣に来て見た物は、ぼこぼこに崩れたダンボールの山だった。 襲われた巣はダンボールを組み合わせた、実装石がグループを組むとよく見られる巣だ。 所々が凹み、齧られたのだろうか開いた穴には歯型が付いている。 「ナナ、みんなどこに隠れてるデス?」 ナナは崩れたダンボールに這いずって入り込むと「こっちに来てデス」とチコを呼んだ。 チコが潰れたダンボールに潜り込むと、そこには数匹の実装石が固まって震えていた。 立ち尽くすナナにチコが聞いた「生き残りはこれだけデスか?」 「分からないデス」とナナは首を振った、すると震えていた実装石が答えた。 「他の仲間は連れて行かれたデス、犯されて殺されるデス」 「どうしてそう思うデス?」チコが聞くと、その実装石が答えた。 「ボス実装のバグがそう言ったデス、他にもこう言ったデス」 「(お前達は生かしてやるデス、またお前の仲間が増えたら狩りに来るデス)・・そう言って帰って行ったデス」 チコにはその意味が分からなかった、だが生き残りがいたと言う事はアリクに伝えなければ行けない。 「ナナ、みんなを連れてここを離れるデス」 残った実装石4匹とナナを連れ、チコは自分達の巣へと向かった。 ナナ達を自分の巣へ導きいれると、アリクはこれからの事をみんな集め話し出した。 「襲われた巣の話を聞いたデス、マラ付きは私達メス実装を単なる食料としか思っていないです」 「林全体を牧場と化しある程度大きくなると襲い、食料と性欲を満たして行く・・・それが奴らの狙いデス」 「このままじっとしていても、いずれここもマラ付きに発見されるデス」 「ただではやられないデス、反撃してマラ付き共を反対に殺してやるデス」 号令の元この巣に住む実装石50数匹は大きな声を上げた。 アリクなら何とかしてくれる、その時みんなはそう感じていた。 今の巣を要塞化する事をみんなに告げると、その手順や配置を各々に伝え最後にこう言った。 「この要塞化には林全体の命運が掛かっているデス、・・楽園を守り抜くデス!!」 △ アリクの巣は林の一番奥に位置しており、人間や外敵に見つかり難い所にあった。 だが餌や水を取りに行く場合はもっとも遠くに位置している。 守るには良い反面、行動を起こすには適さない場所だった。 今まではそれで良かった、アリクや他の仲間も餌に困る時は少なからずあったが飢え死ぬ様な事は一度も無い。 林にはタンパク源となる虫や木の実が沢山あったので、暖かい間に獲り溜めて置けば、 餌の少なくなる冬はどうにか超えることが出来る。 同じ思いを共有しているので不満を漏らす物も少ない、だが年に数匹が不満を漏らし巣を出て行く者はいた。 今まで段差に出来た地面に幾つかの縦穴を掘り、そこに数匹ずつで生活をしていたが、 これを奥で一本化して何処からでも出入り出来る様にする。 入口は極力小さくしたのは、大型マラ付きを一気に通さない様にして一匹ずつ始末する為だ。 巣の高台に上がるとアリクはチコを横に立たせ考えていた。 (守るだけでは駄目デス、反撃した後マラ付きを全滅させなければデス) 「チコ!偵察はオマエに任せるデス」 「でもオマエに出来るデスか?一番大事な仕事デスよ」 チコは胸を叩くと「みんなの為なら命も惜しくないデス」と、胸を張った。 まだまだ先の話だが、アリクは心の中で次のリーダーはチコと考えていた。 それにはこのグループの為に尽力して、皆にそれを認めさせなければ行けない。 アリクはわざとチコには厳しい事ばかりを押し付け、チコの反応やそれに対する皆の反応を見ていた。 △ 要塞化の建設を始めた頃、バググループの動きが活発化しだした。 各所の巣を襲いその巣を壊滅させると、次々と他の巣まで襲いだした。 明らかに今までとは違う、後先の事を考えていない勢いだった。 偵察に出したチコの話だと、バグは全てのメス実装を単に殺して回っている。 バグの出す指令は食料でも性欲処理でもない、単なる大量虐殺だった。 生き残って逃げ出したメス実装達が、次々とアリクの巣へ逃げ込んでくると、 アリクの恐れていた事が現実となった事を理解した。 バグは林の独占支配ではなく、メス実装の全殺戮が目的ではないか? だがその行動には何かの理由がある、それは実装石の本能ではない何か・・ アリクはメスの個体数がまだ圧倒的な内に行動を起こさないと、 取り返しが付かなくなる事を恐れた。 一ヶ月をかけてようやく巧妙に草木で隠した要塞は完成した、その間に林は半分以上のメス実装が減ってしまう。 餌探しに出たアリクの仲間も何匹か殺されてしまった。 、 いつ襲われてもいい様に、要塞は高台になっている後ろに一つだけだが逃げる穴も開けている。 これならいざと言う時、隠れて逃げ出せる。 各入口の玄関には穴が掘ってあり、穴の間の細い道を通らないと入口に入れない仕組みにもなっていた。 そして巣の中に巨大な空間を作って、ここに一匹ずつマラ付きをおびき寄せようと考えていた。 アリクはバグの巣へ向かい挑発をする者を募集した。 集まったのは集落ではチコだけだ、それに敵討ちがしたいとナナとその仲間4匹が志願した。 合計6匹の決死隊を編成すると、隊長はチコで副隊長はナナを任命した。 「お前達には厳しい試練が待っているデス」アリクの表情は険しかった。 「マラ付きの何匹かを殺すデス、それぐらいしなきゃ用心深いバグは本気にならないデス」 マラ付きを殺す?チコもナナ達も驚いた。 メス実装がマラ付きを殺すには、集団で一匹を標的にしなければ不可能だからだ。 チコ達の表情を見て、アリクが話し出した。 「ここの林には実装石の敵である、ニンゲンの罠があるのを知ってるデスね?」 チコはアリクから罠の事は何度も聞かされていた。 チコだけではない、巣のみんなもアリクから聞いて場所は知っていた。 コクリとチコが頷くとアリクが言った。 「バグ達は罠の場所まで知らないです、そこにマラ付きをおびき寄せるデス」 地主の老人は実装石を捕らえる為に、林のそこかしらに罠をはっていた。 それは落とし穴だったり、竹を使った吊り下げ紐だったり、変化に富んでいた。 アリクの仲間も何匹かその罠に掛かり命を落とした。 だがアリクはその経験を元に、巣の皆に場所を教えていた為、 巣の仲間だけは二度と同じ罠にかかる事は無かった。 「お前達は今日から暫くの間、チームを組んで特訓して貰うデス」 「数日の間に他の巣にも、この事は呼びかけるデス」 「林全部のメスが動けばいいデスが、駄目でも作戦は決行するデス」 「お前達はその尖兵となってもらうデス、生き伸びようなんて思わないで貰うデス」 アリクの言葉はチコ達には厳しい物だったが、それだけに自分達への責任の重さを理解できた。 ブルッと体を震わすとチコはナナ達を見た、ナナ達の命を握っているのも隊長である自分なのだ。 アリクほどの能力がないと自覚してるチコは、今震えているのは武者震いなのか怖くてなのかも分からなかった。 △ 決行の日が来た、アリクの呼びかけに応えた巣は僅かに残った者全員だった。 他の実装石も分かっていた、このままではいずれ全員が食われてしまう。 望みは低くても、ほぼ無傷で残っているアリクのグループに賭けるしかないと、 全ての実装石が要塞と化した巣に集まって来た。 総勢200匹の実装石が集まると、要塞化した巣の周りを固めた。 いざと言う時は要塞に隠れるが、その前にアリクが仕掛けた罠で少しでも数を減らしたかった。 マラ付きのグループは約50匹だがまともに行っては、到底敵わない。 アリクは要塞の上に立つと、20匹づつ分けた部隊に指令を出した。 「マラつきはやがて、ここに全てやってくるデス!」 「今までの恨みを晴らすのは、今デス!」 「各隊は隊長の下に、決められた場所で待機するデスゥ!!」 アリクには心配している事が幾つかあった。 チコが上手く誘導できるだろうか? 生き残りの混成2部隊は上手く戦えるだろうか? 各巣からなる実装石15部隊の戦う意思はどれほどだろうか? マラ付きの強さもアリクには未知だった。 それにリーダーのバグ、コイツはアリクの予想を上回る能力を有した個体だ。 すんなりと作戦の罠に嵌るとは、アリクも思えなかった。 「もう戻れないデス・・全てか無デス」 アリクは目をつぶると、チコの事が頭によぎった。 チコにアリクは伝えていた。 誘導が済めばチコ達はそのまま直属1部隊を連れて、バグの巣へ向かう様に伝えてある。 まだマラ付きの仔や、生き残りがいるかも知れない。 災いは完全に根絶する、これをチコに徹底して伝えていた。 △ その頃バグ達のグループは、林中の実装石が一斉にいなくなった事を不思議に思っていた。 そして偵察に出した数匹から、今まで襲っていなかった巣から、 一匹の仔実装も見つからないと報告を受けた。 「偵察するマラを増やせデス!」 「幾らなんでも、いなくなるには早すぎるデス」 「草の根分けても捜せデス!!」 他のマラ付きより明らかに大きな姿のバグは、その大きな体躯を揺らし苛ついていた。 今までメス実装を襲えたのは、奴らがバラバラだった事もあるからだ。 もしも一致団結でもされたら、こちら側にもそれ相応の被害を覚悟しなければ行けない。 「ワタシには使命があるデス・・・使命の為だからマラ付き共を生かしてるだけデス、 こいつらなんぞ、本当はどうでも良いデス」 「ご主人様との約束・・・それだけは忘れてないデス、それには少しの失敗も許されないデス」 だが部下のマラ付きは凶暴なだけで、頭が悪い者ばかりだ。 バグに歯向かう物も少なくはない、その度に一々叩きのめしてその地位を不動の物にした。 本当なら殺してしまいたいと思った気持ちも抑えてだ。 「まったく・・この寛大なバグ様のお陰で、お前達は生きていられるって言うのにデス・・」 「糞マラは敬うって事すら、バカすぎて理解もしないデス」 ぶつぶつと文句を言い続けていると、偵察の一匹から報告が入った。 「バグ様!いたデス、この巣の近くに数匹がうろついているデス」 報告を聞くとバグは立ち上がり、大声をあげた。 「聞けデス!!偵察にいってる奴らを呼び戻せデス、全員で出撃デス!!」 続く
