「私は愛護派が嫌いなんですよ……」 早朝の静かな公園で青年は一人呟いた。 彼は虐待派でこの公園へは虐待目的でしょっちゅう訪れる。 しかしその彼の悩みの種が愛護派である。 最近彼が公園で虐待をしていると愛護派がやってきてもの凄い剣幕で怒鳴り散らす。 公園に住む全ての実装石は愛護の対象だ 実装石を虐待する奴は人間のクズだ 実装石よりもお前が死んだ方が世の為だ 等、最後は彼自身を咎める様な罵声を浴びせているのである。 だが彼は普通の虐待派とは違い一般的に『糞蟲』と呼ばれるような個体しか虐待(虐殺)していない。 人間に害をもたらし人間を見下す様な事しか出来ない糞蟲が彼は嫌いなのだ。 だからあくまでも糞蟲しか虐待しないというポリシーを持っている。 賢い個体を虐待するつもりは毛頭無い、その事を愛護派に主張しても愛護派は聞く耳を持ってくれない。 賢かろうが賢くなかろうが実装石は実装石、全てを愛護するのが愛護派だという主張に彼は頭を痛めた。 <愛護派> それは端から見れば実装石をこよなく愛する非常に印象の良い人間に見られているが現実はそうではない。 愛護派の取る行動は虐待派達が頭を痛めるには十分だった。 なぜなら愛護派達は公園にやってきて見境無く餌やお菓子をばら撒く。 その行為がどういう結果を生むか。 野良実装達は苦労する事無く餌を手に入れる事が出来る。 危険を冒してゴミ捨て場に行き生ゴミを漁らなくてもよくなる。 そうすると今度は実装石が増長し愛護派を自分の下僕、奴隷だと思い込むようになる。 その結果、公園に住む野良は人間が来れば餌を要求し思い通りにならないと癇癪を起こして暴れる殴る糞を投げる。 彼だけではなく他の人間も実装石の被害は受けているはずだ、特に最近は愛護派の影響で増長する個体も増えている。 当の愛護派は自分の与えた餌を喜んで食べる実装石の姿を見て自分のしている行為は素晴らしい、当然の事だ、と思い込む。 しかし殆どの愛護派はリンガルを所持していないので実装石の言葉は理解していない(実際に実装石を飼っている愛護派は別であるが) だから自分が実装石の奴隷と認識されている事にも気づいていないのだ。 当然餌を与えている個体が殆ど糞蟲だという事も気づいていない。 愛護派と実装石は互いの意思が交換出来ていないのである。 そうなると虐待派に対してはどうだろうか? 愛護派にしてみれば自分達の可愛がっている実装石を虐待・虐殺しているとしか見えない。 それを黙って見ている事が出来ない人は虐待派に食って掛かる。 そうして愛護派と虐待派には埋められない溝が生まれる。 だが愛護派が実装石の本性を全て知ったらどうなるだろうか? 自分が愛を注いだ実装石がどんな事をしているのか知ったら……。 愛護派であるならば実装石の事を全て知ってもらわなければ。 そうして彼は今公園にいる。 ◇ まだ朝も早いこの時間、もう少し経てば愛護派の連中が公園の野良達に餌を与えに来るだろう。 以前も虐待中に何度か愛護派と鉢合わせし口論になった事があるので時間帯は大体知っている。 『おいニンゲン!ワタシはお腹が空いているデス!さっさと餌を寄越すデス!!』 『何やってるテチ!ママが餌を寄越せと言っているテチ!まったくトロイニンゲンテチ!!』 『何ボーっとしてやがるデスか!!餌を寄越せと言っているデスゥゥゥゥ!!!』 彼に寄って来た実装石の親仔、この個体も愛護派の影響で餌の調達をしなくなり人間に要求するだけになった個体だ。 「さて、今日もあなた達を虐待するとしましょうか……」 静かに口を開くと鞄の中から得物を取り出し寄って来た親実装に狙いを定める。 『このワタシの言葉が理解できてないデス!?まったく馬鹿なニンゲンはこれだかデボォォォォ!!?』 『マ、ママになにするテチ!お前なんてワタチの糞を舐めて殺してやるtテチャァァァァ!!!』 あくまでも今日の目的は愛護派である為手加減はする、しかし死なない程度の手加減なので重症であるが。 「さぁ……もっと大きな声で叫んで下さい、そうすれば人は注目し集まるようになりますから……」 得物で殴り鉄板の入った安全靴で蹴りいたぶるように虐待を続けていく青年。 しかし数分後、お目当ての人物が現れた。 「ちょっとあなた!何してるの!?」 背後から大きな声が響く、振り向くとそこには彼よりの年上の女性がいた。 彼の知る限り、この町内の愛護派連中の中心人物だ。 内心喜びながら彼は女性に向き直る。 「何って……公園に相応しくない実装石達を駆除していた所ですが何か?」 あくまでも彼は当然の事をしていると言いたげな表情で言った。 その言葉に女性は顔を赤くする程興奮し怒鳴り散らす。 「あなたこんな可愛い実装ちゃん達を虐めるなんて!自分のしている事が分かっているの!?」 「貴女こそ分かっていますか?この親実装は私を見かけるとすぐに餌を要求してきたのですよ」 「それが何!?だったらあげなさいよ!!」 「私は賢い実装石以外に与える餌は持たないので」 女性の言葉にあくまで冷静に切り返す青年、一方言い返されればそれだけ興奮し冷静な判断が出来なくなる女性。 だが彼は待っていた、女性から『ある言葉』が出るのを…… 「それに見て下さい、餌を持っていないと分かったらこの実装石達は私に向かって糞を投げてきたのですよ?」 彼はズボンの裾を見せ、実装石の糞が付着しているのをアピールする。 正確には虐待している時に実装石が漏らした糞が付着したものだ。 「こんな酷い事をする実装石を貴女は可愛いと言いましたね?」 「だから何なのよ!」 「私だけではなくこの公園を訪れる人は必ずと言っていい程このように被害を受けているんです。 しっかり躾けられてもいない実装石が公園に我が物顔で居座るというのはどうでしょう?」 「それならしっかりと躾ければいいじゃない!」 彼はその言葉が出るのを待っていた、この言葉が出れば後は彼の思い通りだ。 「では貴女が躾をしてくれるのですね?」 「はぁ!?なんで私がそんな事をしなきゃならないのよ!」 「まさか出来ないと言うのですか?実装石を愛する愛護派の貴女が実装石の躾が出来ないと……」 その青年の主張に女性は言葉を詰まらせた、売り言葉に買い言葉ではあるが自分でそう言ってしまった事を後悔した。 「ただ餌を与えて可愛がるだけなら子供でも出来ますよ、ちゃんと躾る事が出来る人を本当の愛護派と言うのではないでしょうか?」 「あぁもう分かったわよ!私が躾けるわよ!」 女性は青年の言い分に折れ、実装石の親仔を躾ける事となった。 女性は気づいていなかったがいつの間にか周りに人が集まり出している、その中には愛護派だけではなく虐待派も少数混じっていた。 「皆さん聞きましたか?こちらの方が糞蟲クラスの実装石親仔を躾けてくれるそうです」 その周りの人達にアピールするように青年は説明した。 「皆さんが困り果てていた実装石の被害もこの方が完璧に躾けてくれます、安心して下さい」 ギャラリーの人達からは「おー」という声が響く。 彼に駄目押しをされ後に引く事が出来なくなった女性に彼はある物を手渡した。 「これは私の使っている実装リンガルです、躾の際言葉が分からないと不便でしょう?しばらくお貸ししますよ」 あくまでも優しく言ってくるので怒る事も拒否する事も出来ない。 女性は渋々リンガルを受け取った。 「ついでにこれはリンガルの説明書です、あぁそうそう、そのリンガルはかなり高性能で完璧に翻訳をしてくれます。 その分かなり高級で軽く6桁はいくほど値が張りますので壊さないで下さいね?」 彼の差し出したリンガルはローゼン社が最近開発した超高性能リンガルで一般向けよりもむしろ業務向けの商品だ。 広く普及されているリンガルには翻訳した言葉を和らげる愛護モードが搭載されているがこれにはそれが無い、必要無いからである。 しかしかなり正確に翻訳してくれるので調教師やブリーダー等、実装石に関わる業者には重宝されている。 ネックは業務用である為、一般人が簡単に手を出せる値段ではない事くらいだ。 女性は暗い表情で公園を出て行った、勿論、躾をする実装親仔も一緒に。 全ての準備は整った、後は結果を待つだけである。 もっとも、彼には結果が目に見えて分かっていたが……。 ◇ 数週間後、彼は以前の女性宅を訪れていた。 女性から『躾が完了した』という連絡を受けた為である。 しかし迎えられた女性を見て彼は驚いた。 容姿が以前会った時とは違いすぎていたのだ。 顔は目に見えてやつれており、少し痩せている。 髪はよく見れば白髪が数本あり相当ストレスがかかったのだろう。 ふらふらになりながら女性は玄関先で彼の前に一組の実装石の親仔を連れてきた。 『初めましてデス、ニンゲンさん』 『初めましてテチュ、よろしくテチュ』 丁寧な挨拶をしてお辞儀までする親仔、躾をする前とは雲泥の差である。 その様子からこの親仔が演技をしているのではないと分かる。 しかし何かが気になっていた、何か違和感を感じる。 「(『初めまして』?私と会ったのは今が初めてという事でしょうか?)」 「どうかしら?私がここまで完璧に躾けたわよ、これなら文句はないでしょう?」 「そうですね……確かに『貴女が』躾けたのであれば問題はありませんね……」 「ちょっとどういう事よそれ!」 「ちょっと失礼しますね……」 青年は女性の言葉には返さず実装石の親仔を掴み上げる。 突然掴み上げられ驚く親仔だがすぐに彼の腕に懐いてきた。 すると彼は実装服を脱がし始める。 『デスッ!?』 『テチャー!』 「ちょっと何してるの!?」 突然の行動に声を荒げる女性、しかし次に彼が発した言葉で顔色を変える。 「あぁやっぱり……この親仔はショップで購入したんですね?」 彼が実装服を脱がせたのは体のどこかにある刻印を見つける為であった。 もし実装ショップで躾けられた一級の実装石なら調教師の付けたシリアルナンバーが刻印されているはず。 案の定親仔の首元にその刻印があった、これは間違いなく調教師によって躾けられた事を意味する。 「どういう事ですか?私は公園にいたあの糞蟲を躾けるようにお願いしたんですよ?」 「えっと…これは……」 青年の言葉にしどろもどろになり言葉に詰まる女性。 「大方、躾けるのに失敗して私にはショップで購入した親仔を見せればいいと思ったんですね……」 「そ、そうよ!大体素人の私が完璧に躾をするなんて無理に決まってるじゃない!!」 青年に事実を突きつけられた女性は開き直った。 その言葉に彼は溜息を吐く。 「それで……あの糞蟲親仔はどこに行ったのですか?まさか殺したのですか?」 「そんな訳ないでしょう!あいつらは……」 そこまで言って彼は女性の家の中から実装石の小さな鳴き声がするのに気づいた。 耳をこらしていなければ聞こえなかったであろうその声に彼は過敏に反応する。 「ちょっと失礼しますよ!」 「あ、あなた勝手に人の家に!」 女性を押しのけ家の中に進む。 そして彼はリビングでぐったりしている実装石の親仔を発見した。 間違いなくあの時の糞蟲の親仔だが以前と違い変わり果てた姿だった。 服は破れ殆ど裸の状態、髪も大半が抜け落ち全身に目立つ痣が出来ている。 躾ける際に体罰を加えた証拠だ。 更に首に首輪を付けられ繋げられた鎖は短く、満足に歩き回る事すら出来ない。 それによく見るとリビングのあちこちに実装石の糞が散乱している。 癇癪を起こした親仔が反抗して糞を辺り一面に投げたのだろう……。 その事から彼は全てを理解した。 「酷いものですね……言う事を聞かない実装石に体罰を与え、鎖の短い首輪で行動を制限するとは……」 「し、仕方ないじゃない!私がいくら言っても理解してくれないんだもの!!」 「ですがこれだけ見たら貴女は虐待派と何一つ変わらない事をしているのですよ?」 「何で私があなたみたいな虐待派と一緒にならないといけないのよ!!」 青年の言葉に女性は強く反論する。 しかし彼は静かに言葉を加えた。 「調教というのは躾と殆ど同じなのですよ……言葉で分からない個体には身をもって叩き込むしかない。 それが実装石ならなおさらです……貴女が行ったのはそれに近い行為ですが結果的に虐待したのと同じになってしまいましたね」 その言葉に女性はがっくりと膝をつく。 そして彼はこう呟いた。 「私が糞蟲を駆除していた理由が分かって頂けましたか?」 「……………………」 「素人が野良実装全てを躾けるなんて無理なんです、だから私は糞蟲のみを駆除しようとしていました…… このままでは公園は糞蟲しかいなくなってしまいます、そうならないようにしたかったのです」 女性は彼の言っている事が聞こえているものの言葉が出ない。 「私のした事を分かって頂けたのであれば貴女方にも協力してもらいたいのです」 「……協力…………?」 その言葉に初めて女性は顔を上げた。 「私は公園に住む実装石を全て賢い個体だけにしたいのです。 勿論賢い個体には手を出さない様他の虐待派の方に警告するつもりではいますが……それには愛護派の皆さんの協力も必要です」 「そうね……分かったわ、私達も実装ちゃんの為に協力しましょう……」 ◇ その後、女性は愛護派連中に実装石はどんな存在であるかを言い広めていた。 そして公園内の糞蟲を駆除をする虐待派には何のお咎めも無くなったである。 勿論、賢いのは手を出さず糞蟲と分かった個体のみを駆除しているのだが。 今では愛護派も落ち着き以前のように虐待派に突っかかっていくような事はしなくなった。 たまに賢いのも含めて問答無用に虐待している人と口論している姿を見かけるが…… 「なぁ、一体何をやったんだよ?」 「何って……何のことですか……?」 公園を虐待派の友人と共に訪れていた彼は友人にふと質問をされた。 「とぼけるなよ、あのドが付く愛護派のおばちゃんがあんなに変わるなんてお前が何かしたんだろ?」 「別に……人間変われば変わるものですよ……そんな事を言っているより私達も駆除に取り掛かりましょう」 「あ、あぁそうだな」 友人が得物を持ち糞蟲に向かっていくのを見た後、彼は誰にも聞こえない様に呟いた。 「まぁ……私は愛護派が嫌いですしね……」 ◇後書き? なんていうか、自分の思った愛護派象を書いてみました。 虐待分皆無で申し訳ないです。
