夜狩り−Night Safari− 野良実装が運動公園で大繁殖しているので駆除して欲しいと一週間ほど前に保健所から連絡があった。 飼い実装が多く、音叉が使えない場所や地域はうちのような駆除業者が担当している。 ただいつもと違うことは今回駆除を行う公園が通学路のど真ん中にあることだった。 駆除風景は子供の教育によくないため日中に作業ができない。 だから駆除は日没後に行う通称ナイト・サファリを行うことにした。 運動公園に野良実装が住み着いてからというもの、利用者は愛護派か虐待派に限定されつつあった。 野球やサッカーの地区予選も大繁殖した野良実装のせいで最近はトンとご無沙汰である。 大繁殖の背景にはこの公園に大量に植えられている針葉樹が関係していた。 春先から初夏にかけて花粉を撒き散らす針葉樹と、繁殖力旺盛なデタラメ生物が対になった結果がこれである。 ランニングコースの脇に作られたダンボールハウスの中で、実装親子が幸せそうな寝息をたてていた。 彼女たちのことだ大方幸せ回路全開な夢を見ているのだろう。 「デギャアァ!!」 親子は突如聞こえた仲間の尋常でない悲鳴に飛び起きた。 「(なっ……なんデス? 今の悲鳴は?)」 暗がりの中で親一匹と仔二匹は顔を見合わせた。 「(ママ、アタチ怖いテチィ)」 「(アタチもテチィ)」 二匹抱き合って震えだす仔実装。 「(ここで待ってるデス)」 親はそう言って外の様子を見にダンボールハウスから出た。 生垣に身を潜め、慎重に辺りを見回す。 パララララという得たいの知れない音が耳に入り、条件反射で跳びあがってしまい、気がつけば生垣の外へと走りだしていた。 距離にして十数メートルしか走っていないが、実装石にとっては二、三百メートルを走ったような感覚だった。 そして例によって何かにつまづいてコケる。 起き上がって自分を転ばせた物体を確認し、それが他の実装石の死体であることに気づき、親実装は癇癪を起こした。 「(デギィーー!! この高貴なワタチを死体になってまで転ばせるとは大した禿裸糞蟲デスー!!)」 死体を怒りに任せて蹴っていると、背後に気配を感じ、恐る恐る後ろを振り返る。 「(デビャアァァァーーー!!)」 親実装は恐怖でパンコンし、足がすくんで力が入らなくなっていた。 暗闇に光る一対の紅い眼差しが親実装と捕らえ、じわりじわりと近づいてくることだけは解る。 『(殺られるデス!!)』 そう想った瞬間、足が動き、親実装は一目散にダンボールハウスに逃げ帰った。 その作業員の格好は異様だった。 恐らく彼らと対当した全ての人間は威圧感を覚え、実装石は本能的に死を悟るだろう。 顔面を暗視ゴーグル付きガスマスクで覆い、独特の実装臭と排泄物の臭いから嗅覚を守り、 市販エアガンではなく、旧ドイツ軍のMG34機関銃を模した外部エアタンク式ハイパワーガスガンを振り回す。 全身の要所を覆う漆黒のプレートアーマーと、巨大なエアタンクを装着できる無線機能付きバックパック。 「紅い眼鏡」をした地獄の番犬たちである。 『おい、何故撃たなかった?』 先ほど親実装を仕留め損ねた作業員に無線で上司らしき男から通信が入る。 『すみません。迷いが……でました』 『まあいいそんな時もあるさ。野良実装はまだかなりいる。次は逃すなよ』 『………』 『復唱!』 『りょ、諒解!』 男は己を叱咤する。害蟲を駆除することにいつまで迷っているのかと。 そしてMG34を構え直し、ナイト・サファリを続行した。 「(デー! お前たち、早く逃げるデッス!!)」 親実装の鬼気迫る声に仔実装たちも慌てて外へと出る。 「(紅い目玉のバケモノがうろついてるデッ……)」 親が喋り終わらないうちに何かが飛んできた。 何事かと思い辺りを見回す。 するとダンボールハウスの壁に鉛色の弾がめり込んでいた。 よくよく見ると血のようなものが付着している。 怯える仔らの視線を辿り、脇腹に違和感を覚え、視線を下げる。 所々にある街灯のおかげで完全な暗闇ではなかったため“それ”がはっきりと見えた。 「(デヂイィィィーーー!!)」 自分の脇腹がえぐれて止めどなく血液が流れ出ている。 痛みは何故か感じなった。 しかし肉が焼け付くように熱い。 何とか我が子だけでも安心させようと笑いかけようと顔を上げた瞬間、親実装の首があらぬ方向にひしゃげた。 こめかみにはあの鉛色の弾が刺さっている。 「(ママー!!)」 仔の叫びが耳に届いたのか、親は微笑みながらこと切れた。 「「テヂャーーー!!」」 泣き叫ぶ仔実装姉妹。しかし今の状況でそれはかなり好ましくない。 パララララと音が木霊し、姉妹の許へ大量の弾が飛んで来た。 姉妹はパンコンする暇すら与えられずに肉片と化していく。 『Aブロック制圧完了』 『本部諒解。Cブロック制圧隊と合流せよ』 『諒解』 実装親子を襲った弾はドイツと日本の製薬会社で共同開発された業務用DX実装コロリ弾である。 これは実装の体内に入ると血液と反応し、まず人間の赤血球に当たるβヘモジソニンを破壊し、酸素の供給を遮断する。 次に血小板の役割をもつγヘモジソニンを溶解し止血を阻止し偽石に負担をかけて自壊へと導く恐ろしく強力な駆除専用BB弾だ。 しかも原料はコブラとサソリの毒だから、土壌細菌によって分解されるというエコ思想に則った薬品である。 本来昼行性である実装石にとって、夜の世界は昼とは勝手が違っていた。 普段なら難なく避けることのできる小石や段差に躓き、ぶつかるはずのない街灯の柱やトイレの壁にぶつかる。 それが追い立てられていれば尚のこと。 紅い視線が二つ、四つ、六つと増えていくのに比例し、野良実装たちの恐怖もまたつのっていった。 「(デヂイィ!! 何で高貴でプリチーなワタチがこんな目に遭うんデスー!?)」 デーデーデスデスと喚きながら逃げ惑う実装石めがけてMG34が掃射された。 蜂の巣にされ、ボロ雑巾と化した肉塊が地面に崩れ、地溜まりが広がる。 「(テエェェェーーーン! ママが死んだテチィ!)」 泣き叫ぶ仔実装もフルオートで射撃して吹き飛ばす。 まだ生きていたとしても初弾が後頭部にめり込んでいため、助かることはまずないだろう。 「(ママー! 待ってテチー! アタチと蛆ちゃんを見捨てないでテチィー!)」 足許でテチテチレフレフやっている蛆を抱いたままパニックを起こして同じ処をぐるぐる回っている仔実装を蛆もろとも死なない程度に軽るく踏み潰す。 そしてDXコロリ弾を傷口に乗せるやると、薬と血液が反応したのか大量に吐血してこと切れた。 公園全域に散在している野良実装たちが一箇所に集まりだした。 反撃するという訳ではなく、ただ自分や家族だけでいると怖いからというのが本音のようである。 しかし、紅い眼鏡の駆除隊員にとっては手間が省けて大助かりだった。 実装たちが集まっていたのは池のほとりだったが、よくよく考えれば背後が水ということは逃げ道の一つが最初からないことになる。 しかしそれに気づいている個体は一匹たりもいなかった。 やがて実装たちが異変に気づいたのは、池の周囲が紅い光で満たされた頃だった。 そう、駆除隊が池の周りを完全包囲したのだ。 何足ものミリタリーブーツの足音が近づいてくる様は実装たちに生きた心地を与えない。 やがて恐怖に耐えかねた一匹が猛然と駆け出すと、それにつられたように群れ全体がそちらに流れた。 しかし、それは自ら銃口に近づいているということを彼女たちは全く理解していなかった。 『撃(テ)ッ!!』 号令とともに全てのMG34が咆哮を上げる。 「(ヤメルデス! クソニンゲン!! 今なら土下座と金平糖だけで許し……)」 「(デェーッ!? ワタチのキュートな腕が……腕がなくなってるデスゥ!!)」 すると実装たち悲鳴を上げながらも、DXコロリ弾の雨から逃れようと池の方へと引き返していった。 駆除というより虐殺に近い光景がそこには広がっている。 耳に届く音は、MG34型のガスガンの射撃音と野良実装たちの断末魔の悲鳴。 正に阿鼻叫喚の様相。 「(ワダヂの……ワダヂの仔があぁぁぁ……オロロ〜ン)」 射撃は全ての実装が動かなくなるまで止まることはなかった。 日本国内で一晩の内に駆除した野良実装の最高記録かもしれない。 やがて朝日が顔を出した。 池の水は濃緑色に染まり、コイやフナが白い腹を点に向けて浮かんでいる。 駆除隊は誰一人として、ガスマスクを外そうとしなかった……。 了 画像掲示板のエアガン使った実装狩りのスレみて思いつきましたとさ by似非蜥蜴 元ネタ:ケルベロスサーガの首都警 二スク:夜狩り 初スク:餌
