タイトル:【馬】 初期型を虐待してみる
ファイル:初期型なんか怖くない.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:3294 レス数:3
初投稿日時:2007/05/26-01:03:58修正日時:2007/05/26-01:03:58
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ある朝、目を覚ますと実装石が枕元で踊っていた。

「なあ、おまえ……どこから入った?」

『デスー』

俺のアパートは1階なので、玄関はもちろんのこと、
ベランダの窓の戸締りにも十分気をつけていたはずだ。
寝床から這い出して確認してみると、どちらも鍵は掛かっている。

そうなると……部屋の片隅に転がるオレンジ色の三角コーン同様、
どこかから持って来てしまったと考えるべきか?
昨夜は叔父貴のおごりだからって、飲み過ぎたしなあ……

ヤバイ。どこぞの飼い実装だったりしたら、かなりヤバイ。

「なあ、おまえ。どっかの飼い実装だったりする?」

『デスー』

はて……リンガルが機能していない?
安物だからって、3ヶ月やそこらで壊れるなよなあ……


『デスー』

「ちょっと、じっとしててくれ」

ざっと見たところ、首輪もしていないし、リボンもつけていない。
頭巾に妙な模様がついていたり、服が微妙に七部袖だったりと
どこか普通の野良実装とは違うような気がするのだが、
かと言って、飼い実装にも見えない。

やはり、その辺の野良を適当にお持ち帰りしたらしい。
部屋や冷蔵庫が荒らされた様子もないことだし、
今回はこのままお帰りいただくのが無難だろう。
どこかの飼い実装である可能性もまだゼロではないのだから。

玄関を開けて、廊下へと追い出す。

『デスー』

「もう来るなよ」

去って行く実装石の後ろ姿を見送りながら、ふと思う。

「……野良にしてはずいぶんと素直だな。やっぱり飼い実装なのかなあ」

『デスー』

「!?」

振り向くと、あの実装石が踊っていた。




この実装石……何かおかしい。

『デスー』

「悪い、ちょっと静かにしててくれ」

大急ぎでパソコンを立ち上げ、検索をかける。
キーワードは、頭巾の模様、リンガルが通じないこと、
目に妙な凄みがあること、あたりか?


ネットを介して得られた答えは、見事なまでに一致していた。

”混沌を実装した存在、あるいは実装された混沌”
”周囲の全てを混沌に誘う存在”
”あらゆる脅威を混沌へ返し、あらゆる援助を混沌へ返す存在”
”どこへ捨てても3日で帰って来る”

そう……初期型実装石である……


「そ、そんな馬鹿な……なあ、おまえ!」

脇から画面を覗き込んでいた実装石の頭を殴りつける。

『デスー』

「え?」

まるで誰かに殴られたように頭が痛む。
実装石の方は、何か硬いものを殴ってしまった痛みを
まぎらわそうとするかのように右手を振っている。

『デスー』

やっぱり初期型?一体どうして?

いや、こいつが本当に初期型なら、理由などないのかも知れない……




「帰って来ないでくれよ。頼むから、な?」

『デスー』

友人に車を借り、わざわざ2つ先の県まで捨てに来た。
定期バスの運行すらないようなこの山中から俺のアパートまでは、
どんなに頑張っても1週間かそれ以上はかかるだろう。
それも人間の大人の足で、だ。


大丈夫……大丈夫……帰って来るはずがない。

初期型なんて何かの間違い!
そんなものいるわけない!うん!

帰りのハンドルを握りながら、俺はそう自分に言い聞かせていた。




3日後の夜、俺は他愛もないバラエティ番組を眺めながら、
ツナ缶を肴にして酎ハイをすすっていた。
傍目にどう映るかはわからないが、決して優雅な晩酌などではない。
酒の力にでも頼らなければ神経が持ちそうになかったのだ。

11時50分……

あと10分、あと10分……
あと10分で日付が変わる。

そうすれば、3日経ってもヤツは帰って来なかったことになる。
そうすれば、全てが終わる。終わったことになるのだ。

時計の針が止まっているように思える。

あと5分……あと3分……あと……


ペチペチ、ペチペチ

まるでノックのように規則的にベランダの窓を叩く音がする。

……やはり帰って来てしまった?

ペチペチ、ペチペチ

「……」

カーテンが引いてあるのでベランダの様子を窺うことはできないが、
向こうからもこちらの様子はわからないはずだ。
無視することにしよう、やり過ごせれば儲けもの。

べランダにいるものの正体を確認したい衝動を必死に押さえ込み、
テレビの画面に意識を集中するよう努める。

『デスー』

「!?」

トイレのドアが開いて、あの実装石が出て来た。

もう間違いない。初期型実装石だ……

飼い実装拉致って来るよりよっぽどヤベエじゃねえかよ!!




実蒼石だらけの湖畔に置き去りにしようが、箱詰めにして出鱈目な住所に送り出そうが、
山中奥深くの大木に縛り付けてこようが、ダンボールに入れて夜の海に流そうが、
必ず3日後に帰って来た。

有効な手を打てぬまま、もう1ヶ月が過ぎている。

実力行使しかないのか?


「くっ……」

『デスー』

バールを頭上高く振り上げてはみたものの、どうしても振り下ろせない。
部屋を汚すと大家のババアが怖いなーとかのセコい理由ではなく、
最初のとき、こいつへの攻撃が自分に返ってきた、というのが記憶にあるからだ。
渾身のバールの一撃などが返ってこようものなら、とても無事では済まない。


それに、初期型、初期型と大騒ぎしてはいるものの、
今のところ実害があるわけではない。

最初、テレビの画面に潜り込んで台所の排水口から出て来たときには
随分と驚いたものだが、恐ろしいことに俺も慣れ始めている。
机の引き出しに消えて行ったり、壁から生えてくるぐらいでは、もう驚きもしない。
まあ、それはそれでヤバイ気もするが。

『デスー』

訳のわからぬ声を上げて踊っているのが鬱陶しいぐらいのものだ。


それなりに可愛いところもあるし、このまま飼ってもいいかなあ……

俺の部屋のように公園に近い物件では、安い家賃でペット可の場合が多い。
これは、野良実装対策は自分で犬猫や実蒼石を飼うなりしてくれということなのだろう。

でも、初期型って野良対策になるのか?

そんなことを思いながら、ぼんやりと窓の外を眺めていると、
初夏には少し不似合いな濃いピンクのワンピースを着た実装さんが駆けて行った。

……ヤバイ。絶対に何とかしないとヤバイ……




やはり、餅は餅屋だろう。無理に自分で何とかしようとせず、
専門家である実装石駆除業者に相談するのが一番!

ここはひとつ奮発して、テレビCMもしている大手の業者に
頼むことにしよう。ええっと、電話番号は……


「はい、○○駆除です」

「××と申します。実装石の駆除をお願いしたいのですが」

「はい、ありがとうございます。
  それでは、御客様のご住所と電話番号、
  駆除を行う場所と、大体の数や状況を教えていただけますか?
  ただちに御見積もりを作成させていただきますので」

「初期型実装石らしいのですが……」

「……申し訳ございません、お客様。
  初期型となると、私どもの手には負いかねるものでして……
  その……誠にお気の毒ですが……」

「お気の毒って何!? お気の毒って!?」

 ガチャッ

 ツーッ、ツーッ、ツー……


その後も何件かの大手に電話してみたが、初期型という言葉を出しただけで
速攻で断られた。ご丁寧にお悔やみの言葉つきで、だ。
この分では、引き受けてくれるのは駆け出しの業者ぐらいなものだろう。

……頼んでも無駄だな。かえって事態が混乱しそうだ。


自力で何とかするしかないのか?

『プニプニ気持ちいいレフー』

白い大蛆ちゃんをプニプニしながら、そんなことを考える。

いや、手を出さない方がいいのはわかってるんだけどさ……

抱き枕サイズの大蛆ちゃんだぜ?
この機会を逃す手はないだろ?




そして、情報収集は行き詰っている。

初期型がいるから助けてくれと何度も繰り返していた俺は、
あちこちの掲示板で荒らし扱いされるようになっているのだ。
最初のうちはネタだと思って好意的に反応してくれていた人たちも
今では俺のことを完全に無視している。

いつの間にかトップに掲げられていた”荒らし・煽りにはスルーで”の文字が目に痛い。


ただ、その夜は少しだけ違っていた。
1つだけ、たった1つだけだが、俺宛てと思しき書き込みがあったのだ。

”初期型とたたかうには、たたかわぬこと”

身体中を這いずり回る無数の蛆ちゃんの感触に身悶えしつつ、
謎掛けめいた言葉に思案を巡らせる。


答えを見つけたのも同じ掲示板でのことだった。

俺に見せつけるべくトップに掲げられた文字。

”荒らし・煽りにはスルーで”

……もしかして?


  実装石は人間の想いが生み出したもの。
  誰かの想いなしに存在することは出来ない。
  それ故、自分の存在を無視されることを恐れ、
  孤独を何よりも恐れる。

いつか耳にした、そんな言葉が思い出される。

「……」

確かに、実装石が最も恐れるのは、虐殺でも虐待でもなく、
徹底的に無視されることだと聞いたことがある。

これに賭けてみることにしよう。

いや、賭けてみるしかない。


しかし、どうやって?

玄関から8畳の部屋までの短い廊下、その左に小さなキッチン、右にユニットバス。
部屋には大き目の押入れが1つあるだけで、ロフトがあるわけでもない。
ベランダは、洗濯物を干すのとエアコンの室外機を置くためだけのスペース。
そんな、ごくありふれた造りのワンルームのアパート。

こんな環境で、縦横無尽かつ神出鬼没に動き回る初期型を無視することなど、
とても不可能なことに思える。

露骨に目を逸らせば、それは、”おまえを意識している”と宣言しているのと同じだ。

何か、何か良い方法はないものだろうか?


『下〜にぃ〜レチ、下〜にぃ〜レチ』
『下〜にぃ〜レチ、下〜にぃ〜レチ』

畳のへりを行く親指実装の大名行列をぼんやり眺めながら、思考を巡らせる。


……待てよ?

完全に無視することは無理でも、それに近いことはできるんじゃないか?




10kg入りの実装フードを担いで夜更けの公園を訪れる。

どうせなら昼のうちにペットショップで買っておきゃ良かったな。
コンビニで買うと結構高いもんだな、これ。


この公園の野良どもの間では、訪れた人間にしつこく媚を売らない、
水道を出しっ放しにしない、ゴミを漁った後は片付けるなどの
ヤツらなりに考えた、人間と共存するためのルールが徹底されている。

こういう賢い群れのリーダーを務めるぐらいの実装石が、
俺の計画にはどうしても必要なのだ。


「—————という訳なんだ」

『デエエ……どうしてワタシにそんな話振るデス……』

「いいじゃん、その間は飯の心配もないんだし。
  何もしなければいいんだから、楽なもんだろ?」

『ワタシだって初期型は怖いデスゥ!』

「なあ、最近ではこの辺りも野良猫やカラスが増えて、餌探しも大変だろう?」

『それは……』

「前払いだけでも10kgの実装フードだよ?
  成功したらプラス10kg、いや20kg出そう。
  群れのみんなも喜ぶんじゃないかなあ」

『でも……やっぱり怖いデス』

リーダー格の実装石は俺の顔色を窺いながら、慎重に言葉を選んで返事をしている。
初期型も怖いが目の前の人間も怖い、ということだろう。

断っておくが、俺は虐待派ではない。
言うことを聞かないからと暴力を振るうつもりなど毛頭ないし、
暴力で無理矢理に言うことを聞かせるつもりも全くない。

「そうか……なら、仕方ない」

『わかってくれたデス?』

「ああ、無理強いはしないよ」

『ごめんなさいデス』

リーダーの顔に安堵の色が浮かぶ。

「でもね」

『?』

「初期型怖いよ〜、もうオウチに帰れないよ〜
  ああ……俺は今日からホームレスだ……
  ご飯はどうすればいいんだろう?
  どこで寝ればいいんだろう?」

『デ?』

「ああ、そうか!ご飯はゴミ捨て場で探せばいいじゃないか!
  というわけで、今から俺とオマエはライバルだ!
  ハッハッハッ!手加減しないぞぉ、コイツぅ♪」

『デデエエエッ!?』

「そんな訳だから、食糧不足は深刻になるかもなあ。
  ”デェエエ、もう3日も何も食べてないデスゥ”とか、
  ”テェエエーン、ママー、ワタシを食べちゃ嫌テチィイイイ!!”とか……ねえ?
  でも、俺も生きて行かなくちゃならないから、仕方ないよね、うん」

『デエエ……』

「そうだ、トイレをねぐらにしよう!
  そうなると、ニンゲン様の寝室にキミたちを入れる訳には行かないなあ。
  あ、そろそろ出産シーズンだから大変だろうねえ〜
  ”水、水……仔がみんな蛆ちゃんになっちゃうデスゥウウ”とか
  ”早く舐めてテチィ!蛆ちゃんになっちゃうテチィイイイ!”とか……ねえ?
  でも、これも生存競争だから仕方ないよね、うん」

『デエエ……わかったデス……協力するデス……』


こうして、リーダーは快く協力してくれることになった。




早速、リーダーを伴って帰宅する。

「さあ、リードちゃん!今日からはここが君のオウチだよ(棒読み)」

『ありがとうデス。ニンゲンさん(棒読み)』

「ハッハッハッ、ニンゲンさんじゃなくて御主人様だろう?コイツう」

『テヘッ、間違えちゃったデスゥ』

『……』

俺とリーダーのやり取りを初期型は無言で見つめているのだが、
無表情なはずのその顔にわずかながら驚きの色が浮かんでいる。

……オマエの感情らしい感情って初めて見た気がするぞ、おい。

「さあ〜て、服を脱ごうねえ〜」

『デデエッ!?ジ、ジックスするデスゥ!?』

うあ……キモい……ブチ殺してやりてえ……
湧き上がる殺意をグッとこらえ、声を潜めてリーダーを脅しつける。

(ジックスなんぞとぬかしたら、次は……わかってんだろうな?おいコラ)

(ご、ごめんなさいデス……)

「リードちゃん、ちょっと臭うみたいだからお風呂に入ろうねえ」

『アワアワのお風呂、嬉しいデッスーン』


この手狭なワンルームで初期型を完全に無視するのは確かに難しい。

しかし、初期型以外にも実装石がいればどうだろうか?

そいつの相手に専念すれば、初期型を無視するのもかなり楽になるはず。
それに、完全に無視できなくても、完全に仲間外れにすることはできる。
もしかしたら1対1での無視よりも効果的かも知れない。

そう……キャッキャウフフで1匹だけ仲間はずれ!


そのためには、どうしても賢い実装石の協力が必要になる。

いわゆる糞蟲では、玄関をくぐった途端に作戦など忘れ、
初期型のことをデププと嘲り笑うこと間違いなしである。

それでは駄目なのだ。パートナーとなる実装石にも、
初期型のことを無視してもらわなければならない。

ペット用の躾済み仔実装を買って来るという手もあるが、
賢さはともかく、度胸という点で不安が残る。

野良として生き抜き、群れを束ねるまでに至った、
このリーダー以上の適任は考えられないだろう。

事が済んだら公園に帰せばいい、というのも気楽でいい。
用済みになったからといって、仔実装を捨てるのは気が引ける。


『デッスーン』
(くすぐったいデス〜)

「ほ〜ら、リードちゃん。動かないでねえ♪
  いい子にしててくれないと、きれいに洗えないよお?」
(頼むから、妙な声出さんでくれ)

『ごめんなさいデスゥ、御主人様ァ♪』
(だって、だってデス……)

「うん、わかってくれたんだねえ。
  さすがにリードちゃんは賢いなあ」
(泣きたいのはこっちだよ)

正直言って、キモイ。

盲目的な愛護派の連中ってのはどういう感性をした生き物なんだ?

いや、それ以上にわからんのは虐待派の方だ。
上げ落としとか言う手法があるそうだが、落としのためとは言え、
よく我慢して上げなんかやるよなあ。

そんなことを考えながらリーダーを洗い終わった頃には、もう随分と遅い時間になっていた。


大き目のダンボールにバスタオルをたっぷりと詰めた寝床を用意する。

明日にでも実装用のベッドとか買ってこないとなあ……トイレと、遊び道具もか。
それなりの待遇をリーダーに与えた方が、初期型へ見せつける効果があるだろう。
かなり痛い出費だが仕方がない。

「さあ、今日はもう遅いから寝ようね」

『はいデス、御主人様』

『デスー!』

おや?ずいぶんと派手な踊りだな?
いや、無視。無視。

まるで俺たちの気を引こうとするかのように激しく踊りだした初期型を尻目に、
俺たちはキャッキャウフフなやり取りを続ける。

「それじゃあ、おやすみ。リードちゃん」
(寝グソなんぞしないでくれよ?頼むから)

『おやすみなさいデスー♪』
(ワタシのことを何だと思ってるデス……)




そして、翌朝の楽しい食事の時間。

「どうだい、リードちゃん!美味しい実装フードだろう?」
(てめえ、ボロボロこぼすんじゃねえよ)

『実装フード大好きデッスン』
(だって、だって、お皿にのった餌なんて初めてなんデス)

「遠慮なくおかわりしていいんだよ」
(冷蔵庫の余り物ぐらいなら食っていいぞ?)

『嬉しいデスー、御主人様大好きデスー』
(一度ニンゲンさんのご飯食べてみたかったデス♪)

さて、何が残ってたかな。

……これ、食うかなあ?
賢い実装石がどんな反応するか、ちょっと興味はあるな。

「ほーら、お食べ」

『テッチュ〜ン、ニンゲンさん、おばちゃん、はじめましてテチィ♪』

『デギャアアア!?
  食用仔実装なんか食わせるなデスゥウウッ!!』

まあ、こんな悪戯をしている場合ではないのだが、
ちょっとぐらいの息抜きは必要だろう。


『デスー』

初期型は相変わらず踊り続けているが、もしかして寝ずに踊ってたのか?

……結構効いている?




3日目にして早くも初期型にはっきりとした変化が現れた。

『デスー……』

踊るのを止め、ほとんど声を上げなくなった。
たまに鳴くのも棒立ちのままで、あの独特の奇妙な踊りはない。

その様子は、無視されることにダメージを受けていると言うよりも、
俺たちに愛想を尽かしつつあるように見えるのだが、
それは俺の考え過ぎだろう、うん。


ただ、少なくともヤツが弱体化しているのは間違いない。

俺の身体を這いずり回る蛆ちゃんたちはお漏らしをしなくなったし、
白い大蛆ちゃんは妙にゴワゴワして硬そうで、プニプニの誘惑に耐えるのが楽になった。

大名行列にしても、尊皇攘夷派の襲撃を受けることが少なくない。

まあ、実装さんのスカート丈が短くなったのは、
パワーアップかパワーダウンか判断に迷うところだが。




そして1週間目。

『デスー、デスー』

今日は久し振りに初期型が元気で、朝早くからやたらと鳴き立てては
バタバタと部屋中を駆け回っている。

一体、これは……?

(なあ、どう思う?)

(ここが正念場デス)

(だな。続けるぞ)

無言でコクリと頷くリーダー。

「今日はいい天気だなあ。洗濯でもするか」

『ワタシも洗濯したいデス』

「じゃあ、教えてやるから。簡単なもので練習するといい」

『大丈夫デス!いつも自分でやってたデス!』

何かしていた方が気がまぎれていい。
正直言って、この1週間で俺とリーダーもだいぶ消耗している。

って、リーダーよ。
飼い実装の生活をさせてやってるんだぞ?
それで消耗するとは随分と失礼な話だな、おい。


…………

ん?初期型の足音が……止んだ?

「ああ、ちょっと待って。お茶飲んでからにしないか?」
(ちょっと様子を見よう。)

『?』
(やっつけたデス?)

「おいしいクッキーがあるぞォ♪」
(いや、今動くのはヤバイ気がする))

『わーいデスゥ』
(わかったデス)


…………

『クッキーおいしいデスゥ』

「リードちゃんに喜んでもらえて、僕もすごく嬉しいよ」

『お茶もおいしいデスゥ』

「リードちゃんのために用意した、上等のお茶だからねえ〜」


…………

そうして30分ほども経っただろうか。

ギイッ……バタン……

玄関のドアが開く音、そして閉まる音。

(出て行ったデス?)

(ああ……そうみたいだ)

全身の神経を研ぎ澄ましても、俺とリーダーの息遣いしか感じられない。
何よりも、朝からこの部屋を押し包んでいた異様な圧迫感が消え失せ、
空気が軽く感じられる。


やった……ついにやった……

「クッ……」

『?』

「クックッ……クックックックッ………」

『御主人様、どうしたデス?』

緊張の糸が切れて、笑いがこぼれるのを抑えきれない。

そうだ。俺はついにやったのだ。

誰もが恐れる初期型をやり込めたのだ。もう何も恐れることはない。

久し振りに酒でも飲もう。発泡酒、いや、ちょっと贅沢してビールで祝杯だ。

そんなことを考えながら、玄関に目をやる。




初期型がそこにいた。

やられた……ドアを開けて、閉めて、息を潜めていただけ。
カオスでも何でもない、子供でも出来るような手。

まともに目が合ってしまった。

もう目が逸らせない……

『デスー♪』

初期型が心底嬉しそうな声を上げる。

もう駄目……ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ……


『洗濯はまだデス?』
(話を合わせるデス!)

リーダーの声で我に返る。

「あ、ああ……そ……そうだな……」

やっとの思いで返事をするが、声が震えているのが自分でもわかる。

「こ、この季節の天気は変わりやすいから、い、今のうちにやっちゃおう」
(すまん、助かった)

『じゃあ、早速始めるデス』
(その調子デス)

ナイスだ!リーダー!

お前を選んでよかったよ、ホント。


それにしても迂闊だった。

かなりのところまで初期型を追い詰めていたはずなのに、
これで一気に挽回されてしまっただろう。
最悪の場合、振り出しまで戻ってしまったかも知れない。


「じゃあ、まずは……!?」

『!』

『……』

立ち上がった俺のズボンを誰かが無言で引っ張っている。
そして、テーブルを挟んで向かいに座っていたリーダーが
表情をこわばらせている。

間違いない、初期型だ。

直接手を出してくることなど、これまでなかったのに……

心臓が早鐘のように鳴り、鼓動の音がはっきりと聞こえるようだ。
信じられないぐらい大量の汗が全身から噴き出してくる。




そうして身動きすらできぬままに、どれほどの時間が経っただろう。
汗はいつの間に止まり、首周りがベタベタして気持ちが悪い。

(……初期型を見るデス)

初期型のことを見ろ、とリーダーが目配せしている。

(オマエ、正気か!?)

(大丈夫デス。ワタシを信じるデス)

(だ、だって……)

確かに、こうしていても状況は悪くなる一方だ
長引けば不利になるのは俺の方だ。身体も神経も持たない。

それに、リーダーからは初期型の姿が見えているわけだし、
何か考えがあってのことだろう。

……オマエのこと信じるからな?嘘だったら泣くからな?


大きく息を吸い込み、意を決してズボンを引く方に目を向ける。

『デスー……』

そこには、やはり初期型がいた。

しかし、その顔はどことなく寂し気で、声にも迫力がない。

無視とか仲間外れは、俺が考えていた以上にこたえていたらしい。


それにしても……そんな声を出されると、まるで俺が悪者みたいじゃないか。
いや、情けは禁物!ここで勝負を決めなければこっちがやられる!

「ここにオマエの居場所はない」

初期型を見下ろし、目を合わせてキッパリと言い放つ。

『デスー……』

すると、初期型はガックリうなだれ、クルリと俺に背を向けて
玄関に向かってトボトボと歩き出す。

今度こそやったか?


『デスー……』

玄関の扉を押し開けた初期型は、未練たっぷりに俺たちの方へ振り向き、
寂しそうな声を出した。

もう一押しだ……あと一手、あと一手は……

そうだ!


「でも、世界のどこかにオマエを待っている人がいるよ、きっと」

『デスー!』

ガバッと顔を上げて嬉しそうな声を上げる初期型。

……なんだか、現金なヤツだなあ。

初期型に感情はない、って聞いてたのとイメージが違ような?
まあ、個体差ってやつが初期型にもあるのかも知れない。


『デスー♪』

たった一言で力を取り戻したのだろうか、
初期型は弾むような軽い足取りで、まだ昼前だと言うのに
夕日の中へと消えて行った。


「行ったか……」

『行ったデス……』

「はあ…………」

『でも……これでよかったデス?』

「?」

『あれだと、他の人に取り憑くデス』

「!?」

『どこにもオマエの居場所はない、って言えばよかったデス。
  誰かが待ってるなんて、言わない方がよかったデス?』

「あ……」

『…………』

「…………」




そんな訳で、ちょっぴり寂しがり屋の初期型が、いつかあなたの町を訪れるかも知れない。

そのときは…………どうか仲良くしてやって欲しいものである、うん。


(終)

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1 Re: Name:匿名石 2014/10/13-12:19:13 No:00001471[申告]
初期型もこうしてみると可愛いもんデス
2 Re: Name:匿名石 2014/10/13-17:00:20 No:00001477[申告]
初期型もさることながら、共食いを嫌がるリーダー実装にツメの甘い人間と、
登場人物全員にムナクソな性格なのがいないのがまた読んでて気持ちいいよね
正直カオス実装はこれ読んでから好きになったw

しかし初期型がずっと居たら何が不都合になるんだ
3 Re: Name:匿名石 2014/10/23-21:14:07 No:00001496[申告]
何が不都合って初期型自体は鳴きながら踊ってるだけで無害でも蛆に這われるとか外を見れば怪しい格好の実装さんとか嫌すぎるぞ
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