タイトル:【馬紅】 実装のいる風景2 春の災難
ファイル:実装のいる風景2 春の災難.txt
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初投稿日時:2007/05/15-21:48:46修正日時:2007/05/15-21:48:46
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実装のいる風景2 春の災難

 ある日野良の実装紅を見かけた。
 畑にトマトとピーマンの苗を植えていたら裏の竹藪の近くで赤いものがゴソゴソしている。
 どうやらお茶の木の新芽を摘んでいるようだ。
 昔はどの家でもお茶は自家製だった。オレが幼い頃にはこの時期になると死んだ爺さん達が茶葉を
摘んできて夜遅くまで茶揉みをしていたことを覚えている。今ではあんな手のかかることをしたがる
物好きは田舎でも滅多にいない。昔は茶畑だったところに今は誰にも茶摘みも手入れもされないお茶の
木がずっと枯れずに残っている。
 わき目もふらずせっせとお茶の新芽を摘んでいる実紅。少し小さめのところを見ると昨年巣立った
ばかりの若い個体であろうか。
 食えもしないが誰の迷惑にもならない生き物なのでほっておく。
 手順をふめば上等の紅茶を絞れると聞いているが我が家で紅茶はあまり飲まない。
 田畑の害獣実装石と異なり実装紅は繁殖力が低く個体数そのものが少ない。また実装紅は自生して
いる茶の木さえあれば生存可能である。栽培された茶がある土地には周囲に自生する茶の木も必然的
に増える。知能が高い野生の実装紅の一部には山林で茶を自ら栽培し収穫するものすら観察されている。
そのため実紅による茶の食害といえるものはお茶の名産地ですらほとんど聞かれない。同じ実装生物
でも野良実装石は人間の生活圏に及ぼす極端な悪影響が原因で徹底的に殲滅駆除される。しかし野良
実紅は毛色の変わった野良猫程度の扱いで防除の対象にもならない。

 ようやく苗を植え終えて一息ついていると、けたたましい鳥の鳴き声と一緒に実装紅の悲鳴が聞こえ
てきた。
 何事かと鍬を持って駆けつけると、羽色の鮮やかな雄の雉に追われて実装紅が逃げ回っていた。

 ケケッーーー  ケケッーー   ケケッケケッーーーーーッ
   チャバッ?!    ナノダワーッ!  ダワダワァァァーーーッ!

 よくわからんが手にした鍬で雉を追っ払う。
 執拗に嘴でつつかれ蹴爪で蹴られ実装紅はかなりズタボロにされていた。
 実装石と比べて珍しい生き物なので満身創痍で気絶した実装紅を保護してやる。

 実装石がカラスに襲われる話はよく聞くが実紅を雉が襲う理由がわからない。
 気になったので近所に住む鉄砲撃ちの爺さんに聞いてくる。
 爺さんの話だと、春に繁殖期を迎えた雄の雉は雌を巡って争う。
 雉の雄は縄張りにいる赤くて動くものを同属の雄だと認識して襲いかかってくるらしい。
 文字通り赤い実紅は大きさ的にも雉にライバルとして認識されて当然だ。
 いつの間にか竹藪に住みついていた雉にあの実紅は縄張りを荒らしに来た雄と勘違いされたようだ。

 家に戻ると気絶していた実紅が意識を取り戻していた。
 物置の隅で埃を被っていた青い雨ガッパを適当に切り詰めて着せてやる。それでもダボダボなので引き
ずらないようビニールロープでたすき掛けに縛っておく。ついでに昔旅行先の土産物屋で買ってきて何の
役にも立たなかった網代笠を被せてやる。

 不思議そうな顔をしている実紅に、この格好をしていればあの鳥に襲われずにすむと教えてやる。
 頭のいい実紅はすぐに話を理解してくれた。

 翌日も同じ場所で茶摘をしている実紅を見かけた。実装紅らしいとはとても言えない姿だが日本の農村
風景にはよく似合っていると思う。

 しばらくしてあの実紅がなぜか新茶を届けてくれた。
 熱々の熱湯を注がないと満足に色も出ない青臭い新茶は懐かしい味がした。



−− 終わり −−

春の味            初スク
春の味2 実竹煮       2スク
春の味3 身近な野草の天婦羅 3スク
実装のいる風景1 春の思い出 4スク
実装のいる風景2 春の災難  5スク

次は食ネタいきます。
 

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