タイトル:表現が厨臭さ満載です。好きなモンで
ファイル:始末屋.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:2760 レス数:0
初投稿日時:2007/04/25-18:04:19修正日時:2007/04/25-18:04:19
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「チャァァッ!チャァァァアアアアアア!」
「・・・じゃあ、お願いしますね」
「はい、責任を持って引き取らせていただきます」

私は飼い主である中年の女性から、ケージを受け取った。
女性はすぐに踵を返し、部屋を出ていこうとする。
女性の耳に付いた、悪趣味なピアスがチャラチャラと鳴る。

「チャァァァアアア!テェッ!テェェッ!」
甲高い仔実装の鳴き声が、十重二十重に反響した。

学校の体育館ほどもある、無駄に広い・・・壁も、床も、天井も、真っ白な部屋。
人間の私でも端から端まで歩くのは面倒なくらいの空間だ。仔実装から見ればとてつもなく広い。
仔実装はケージの中から・・・網目状の鉄柵の中から、ずっと女性を見ていた。そして泣き続けた。

「ヂュアァァッ! テッチャァァアアアアー!」

・・・タン・・・・

およそ40メートルほど離れた鉄製の扉が閉まる音がする。
先ほどの女性が、今部屋を出ていった。

「チャァァーーーーッ・・・・・ テ テェ・・・」

ひとしきり喉が潰れるほど泣き続けた仔実装は、女性の姿が扉の向こうに消えると
もう無駄だと悟ったのか、鳴き声のトーンを落としていき・・・。

「・・・・・・・・」

ついに鳴き声はとぎれた。



少しの間を置く。
今、私はそのだだっぴろい部屋の中心にいた。
申し訳程度に置かれた折り畳みテーブルの上には、先ほどまで泣いていた仔実装のケージ。
広く、白く、耳鳴りがするほど静かな空間に、私と仔実装はしばらく立っていた。

この仔実装の名は・・・何だったか。ミドリとかそういった一般的な名前だったように思う。
書類を見る限り、それほど裕福でもないが貧乏でもない、ごく一般的な中流家庭で飼われていたようだ。

知能は上の下。実装石らしい生意気なところは多少あれど、喚き散らしたり糞投擲を行ったりはしないらしい。。
一通りの躾は、しっかり受けているんだな・・・。野良に産まれたいい加減な連中よりは、運のいいことだ。


ピピピピピピピ・・・ブツ

「はい」
「さっきの飼い主さんが帰宅されたよ。車はもう見えなくなった」
「了解です」

ピッ


仕事用の携帯を切ると、仔実装に話しかけた。

「おい」
「テェッ!!」

仔実装はビクリと体を震わせ、おそるおそるこちらを見た。
先ほどから続く息の詰まるような沈黙が、見知らぬ男のドスの効いた声で破られたのだ。そりゃ驚くよ。
持ったままの携帯のアプリから、リンガルモードを立ち上げる。

「名前は」
「テェ・・・・」
「・・・名前は」
「テッ・・・アオイ、テチュ」

なんだ、ミドリじゃなかった。アオイ、か。どうも三十路過ぎると物覚えが悪くなる。
どうでもいいことだから、だろうけど。

「だいたい状況は飲み込めてると思うけど、説明させてもらう。
 お前は今、飼い主に捨てられたわけだ」
「テェッ!? ウ、ウソテチュ!!」
「お前は子を産めない体らしいじゃないか。去勢された、と書類にある」
「・・・テェ・・・ソウテチュ・・・・ナンダカ ワカラナイケド ワタチハ コドモ ウメナイテチュ・・・」

片目は義眼か。何度見ても、書類を見るまで義眼だと分からない。最近の技術は進んでるな。

「でだ。お前に必要とされる役目は、ない。処理する」
「テッ・・・テェ? ・・・・ショリ?」

ブツッ

「こちら双葉です、説明と設問終わりました。」
「ご苦労様」
「書類の通り、病気になった経歴があります。本人からも口頭で答えを」
「了解、焼却処理室は空いてるから、すぐ頼むよ」
「承知しました」

プチ

「さ、行くぞ」

仔実装からの返答を聞かず、私はケージを抱え部屋を出る。
コツコツというブーツの規則的な音が輪唱を開始した。



この会社は、いわゆる「始末屋」だ。

一時のブームか娯楽のつもりか、覚悟無くペットを飼い、案の定責任が持てず
飼いきれなくなった飼い主が駆け込む、駆け込み寺のような会社。

それじゃあ保健所と変わらない、と思うかも知れないが、そうじゃない。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

・引き取った実装石は、自然で生き抜く知恵を身につける教育を施されます。

・そうして、山実装として山奥、あるいは外国に輸送し、野に返します。

・実装石は害獣の扱いを受けることはありますが、れっきとした動物です。

・責任を持ってペットを飼うことは重要です。しかし、飼い主の方々にも
 抜き差しならない理由があり、身を切る思いで家族である実装石を
 手放さなければならないこともあるでしょう。

・そんな飼い主の方々の手助けをします。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


ウチの会社が掲げている、社訓。私も入社当時から暗記させられた文章だ。

これが、この会社の「表向き」なのだ。


しかし、実際はそんなことしちゃいない。
先ほどのやりとりでも理解してもらったと思うが、実際は違うのだ。

引き取った実装石は、虐待セレブへの売却。種馬実装としての売却。実験動物として売却・・・。
そして、先ほどのように偶然要望が来ていなかったもの。あわれな「ハズレ」は始末する。

始末する課程をホームビデオで撮影し、虐待趣向のある人間に売却しているのは、
先ほど私が携帯でやりとりした先輩の小遣い稼ぎだ。(これはこの会社の業務ではない)


この会社は、汚れている。やっていることも下卑ている。
しかし、ここに来る連中もそれは変わらない。

この会社の社名をネットで検索したりすると、すぐにわかる。
裏でやっている惨状なんて、正直「裏でやっている」とは言えないほど露見しているのだ。

しかし、それを承知で飼い主はやってくる。


飼い主は、理由が欲しいのだ。
飼えなくなった邪魔者を始末する理由が欲しいのだ。
いらなくなった生き物の命を、「自分で」奪いたくないのだ。
奪ったと、世間に思われたくないのだ。
世間と言わず、自分に言い聞かせたいのだ。
この会社の裏を、知らなかったことにしたいのだ。

邪魔者を、殺して欲しい本音を。
自分が汚れていることを。

知りたくないのだ。

綺麗なままでいたいのだ。



「チャ、チャァァァーーーーーーーーー!!!!!!」

君の名前はミドリ、いや、なんだったかな。

ミドリ?が、焼却炉へと落とされていく。先ほどのケージから鉄製のケージに入れ替えられて
時間をかけて、ゆっくりと灼熱の中へ落とされてゆく。実装服の裾が変色してゆく。

ペリ、ペリと聞こえてきそうなほど、焼けただれた皮膚が、焼けるスルメのように
裂けて反り返ってゆく。もう先ほどのように暴れたりはできない。足は、もう炭になってしまった。
顔を見ると、もう絶命しているようだ。先ほどまで泣き叫び、涙を流していたようにも見えたが
もう涙も蒸発してしまった。涙のあとも、ない。顔自体が、もう炭化してしまっている。

私の隣では、先輩がホームビデオを回している。
先輩は薄笑いを浮かべていたようだが、カメラの捉える映像が焼却炉の赤い炎だけになったとき、
つまらなさそうにしていた。



書類には、
【飼い主の夫が借金を抱えたことにより、生活さえも困難になったため】

とあったっけ。



私が夜、会社帰りにコンビニに寄ると、まだ幼さの残る仔実装を抱えた中年女性とすれ違った。
チャラチャラと鳴る趣味の悪いピアスには見覚えがあった。

(あいつも、また「ウチ」に来るのかな)

仔実装が、ふとこちらを見、偶然目があった。
「・・・テチッ!」


見知らぬ私に挨拶、ね・・・はは、かわいらしい仔だな。


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