とある小さな公園の前に、一大の白いバンが停車した。 バンの側面には実装グッズの大手、ローゼン製薬のロゴが記載されている。 そのバンの運転席と助手席から、作業服を着た二人の男性が降りてきた。 一人は20台半ばの若者で、もう一人は30台ほどの壮年だ。 男達はいくつかの工具をバンから取り出すと、公園の周囲をぐるりと回る。 緑色のフェンスに破れている箇所があれば針金で適当に塞ぎ、 公園の入口も同じように高さ80センチ程度まで細い針金を張り巡らせて封鎖した。 最後に、「実装石駆除作業中 騒音にてご迷惑をおかけして申し訳ございません」の立て札を立てかけた。 その手順には一切の無駄が無く、二人の男がこの作業を何度も繰り返している事が伺えた。 作業服の男達は、次にバンの後部から大き目の工具箱のようなものを引きずり出した。 その箱には「ローゼン製薬試作品」と書かれたステッカーだけが貼られている。 箱を開くと、そこには釘打機のようなものとショットガンのようなものが1つずつ収められていた。 「実装製駆除グッズとは言え…大仰なものを作るよなぁ」 「まあ、今の駆除グッズは割と消極的って言うか…トラップ形式が主ですもんね」 彼等は、実装コロリなどで有名なローゼン製薬の社員だった。 その中でも、「実地試験」を専門に行う部署である。 実装石駆除グッズの新製品はまず、本社施設内の養殖した実装石を相手にテストが行われる。 しかし施設内の環境は言ってみればとても「ゆるく」、このテストにパスしたとしても 実際に使ってみると地形や実装石の知能差などからあまり効果が挙げられないという事例は数多く存在する。 そこで、愛護・虐待グッズならばともかく、駆除グッズともなると実地試験を行うのが基本だった。 ミリタリー用語で言うならばコンバット・プルーフを行い、機能性と効率性を高めるのである。 作業服を着たこの二人の男は、そういった作業を専門に行う部署の人間だった。 新製品を実地で使ってみて、使用感や改善してほしい点などをレポートにして提出するのが仕事である。 今回もその為に、実装石が数多く繁殖しているこの公園にやって来たのだ。 「さて、それじゃあ準備しましょう、先輩」 「よし、ちゃっちゃと済ませて飲みに行くか」 男達は、箱から今回の「テスト品」を取り出す。 釘打機のような形をしているものは、通称「実装コロリ銃」だ。 文字通り、球形に形成した実装コロリを実装石の体内に直接打ち込む事によって、 旧来の散布型コロリのように受け身な駆除ではなく攻撃的な攻勢駆除を可能にする。 射程は最大10メートルほどで、ガス圧式。コロリ弾が実装石を貫通してしまわないよう、絶妙の威力調整が施されている。 使用するコロリ弾は実装石に着弾するや否やその体液に反応して一瞬で溶解し、 あっという間に体中に回って効果を発揮する特別製のものだ。ちなみに装弾数は50発。 標準でレーザーサイトを装備しており、素人でも簡単に照準が出来るようになっている。 今回は「駆除用ハイエンドモデル」「虐待用ローエンドモデル」の2種類の弾丸をテストする。 それぞれ効き目が高い→低いとなっており、ハイエンドの弾は着弾と同時にほぼ即死させる事が可能となる。 苦しみを与えると嘔吐やパンコン等で周囲を酷く汚染する為、駆除の障害となるからだ。 逆にローエンドは、当たっても5分間は苦しみ続ける羽目になるだろう。 ショットガンのような形をしているのは、的が小さい仔実装や蛆実装を確実に倒す為のコロリ散弾銃だ。 極小のコロリ弾を放射状に発射し、命中率を高めている。 主なターゲットは成体実装以外に限られる為、その程度の小弾でも致死させる事が出来るのである。 もっとも、成体実装であってもこの散弾が5発程度命中すれば致死量に至る。 装弾数は20発。有効射程は7メートルほどとハンドガンタイプに比べやや短い。 ショットガン形式ではあるがマガジン式を採用している。 双方共にあくまで駆除の為の用品という事で、武器的なシルエットではなく どちらかと言うと工具に近い外見になっているのが特徴的だ。 作業服の男達はそれぞれの銃にマガジンを叩き込み、ガスのカートリッジをセットする。 予備のマガジンとカートリッジをベルトに取り付け、準備完了だ。 「それじゃあ、始めるか」 「はい」 二人は封鎖用の針金をまたいで公園内に入った。 --------------------------------------------------- 公園に入ると、数百匹におよぶ実装石のデスデス大合唱が二人を待ち構えていた。 当然だ、二人は公園の前にバンを止めた上に、公園の封鎖作業をしている時から彼等の興味を引いてしまっていたのだから。 若い男はその不快な騒音に顔をしかめ、年配の男性はその様子を見てアゴをしゃくる。 「まずお前がやっちまえ」の意だ。 若者は最初からそのつもりだったようで、釘打機のような形のコロリ銃を構えると、レーザーサイトのスイッチをオンにした。 そして近くの実装石からターゲットし、無造作に次々と引き金を引いていく。 ぱすっ、ぱすっ、と間の抜けた発射音と共に、「デ」の一声を発すると同時に即死してゆく実装石達。 しかしその周囲の実装石は、悲鳴を上げず苦しむ仕草もしない仲間の死に全く気付いていないようだった。 相変わらず口々にデスデスと大合唱を続けるばかり。 内容は恐らくいつもと同じ、飼え、メシを寄越せ、綺麗な服を用意しろ、といったところだろう。 若者はマガジン内の50発の弾丸を全て発射し命中させた。 あっという間に死体の山が出来上がったのだが、それでも実装石達は未だ気付いていないようだった。 そのニブさに若者は呆れ顔で年配の男に視線をやった。年配も同じような顔をしている。 「…これじゃテストを終える前に全滅しちまうな…。こいつら、自分が最後の1匹にならんと気付かないんじゃないか」 「…ありえますね…」 「…仕方ねぇ。順序を変更してローエンド弾を試せ。仲間が苦しむ様を見たら逃げ出すだろう」 「うい、了解ッス」 若者はベルトから青くペイントされたマガジンを抜き出すと、それをコロリ銃に叩き込む。 そして手近な実装石を数匹、撃った。 間もなく、その実装石達はパンコンしばたばたと悶絶しながら苦しみ出した。 「デ…?」 「デス…?」 「デ…」 その様子に、周囲の実装石達の動きがようやく止まる。 若者は追い討ちをかけるように、もう一匹実装石を撃った。 「デ…デァ…? デ! デボァ! デボボボボボブァデベヘァ!?」 たちまち、その実装石も苦しみ出す。 男たちを取り巻いていた実装石達は、ようやく彼等の持っている物が自分達に危害を加えるものだと察したようだ。 口々に悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らすように逃げ出し始める。 「…はあ、ようやく仕事が進むな…」 「いやでも、まあ、駆除アイテムとしてはすごく有効ですよね。気付かれない間に倒せるんですから」 「……まあそれもそうか。レポートにはそう書いとくか」 年配の男もコロリ銃を構えると、レーザーサイトを起動させた。 そして逃げる実装石の背中や後頭部を狙うと、次々に発射する。 男は発砲しながら、飛距離・命中精度・威力等レポートに記載しなくてはならない事項を入念にチェックする。 「む、最大射程10メートルとか言っておきながら7メートル超えたら頭撃っても弾がめり込まねぇ」 「あー…頭蓋骨は申し訳程度に頑丈なんですね」 「らしいな…。よし、いい感じに散らばったな。あとは分担してデータ取りすんぞ」 「了解ッス」 かくして公園は地獄と化した。 --------------------------------------------------- 「デギャアアアアアアァ! デヒイィイィイィィィ!」 「デズァアアアァァ! デアアアアアァァ!」 フェンス際まで追い詰められた実装石が、命乞いや威嚇を行う。 だが次の瞬間コロリ弾を撃ち込まれてあっさり絶命した。 「オロロ〜〜ン! オロロ〜〜ン!」 その様子を見て自分の可愛そうさに酔い、動きを止めた実装石が次に死んだ。 「デス〜ン、デッフ〜〜ン♪」 命乞いも威嚇も通用しないと悟った実装石は色仕掛けに出たが、 そういう固体は最優先で抹殺された。 レーザーサイトの赤い光が舞い、それが実装石に当たると次の瞬間コロリ弾が打ち込まれた。 だが、駆除用ハイエンド弾で死ねた実装石はまだ幸運な方だった。 虐待用ローエンド弾が当たった時の苦しみは尋常ではなく、最長で5分はのた打ち回る羽目になる。 体中のあちこちに激痛が走り、それが偽石に浸透して死ぬまで続く。 中には、その途中で偽石が崩壊して死に至る実装石もいた。 「テチィー!」 「レフー!」 若い男の背後で、蛆を抱えた仔実装が逃げる為に走った。 しかし彼はすぐにそれに反応すると、コロリ散弾銃を構えて撃つ。 逃げる仔実装の背中に散弾が突き刺さり、蛆にも一発の弾丸が命中する。当然二匹は即死だった。 「デギャアアアァァ! デヒイイィィィ!」 「テチュゥゥー! テチー!」 「テッチィー!」 賢い固体の実装石一家が、この惨劇から逃れる為に公園の入口へと走った。 人間の目を逃れる為に茂みから茂みへと渡り歩くのはさすがと言える技だったが、 入口は細い針金で封鎖されていた。だが親実装はそれに気付かず、針金に思い切り突っ込む。 「デベッ!? デエエェェエエェッ!?」 細い針金は実装石のウレタンボディに容赦なく食い込み、肉を切り裂く。 自分から鋭利なワイヤーカッターにかかりに行ったようなものだ。 大規模な駆除作業ではこの効果を狙い、公園の入口はあえて板やテープではなく針金で封鎖する。 「デッ! ガ…ギィ…」 親実装はそこから逃れようと暴れるが、もがけばもがくほど針金が体に食い込む。 「デ…デベ…バ…」 腕や腹の肉がスライスされ、その分頭に荷重がかかる。 針金はついに実装石のノドにかかり、その気道を緩慢に切り裂いていった。 「テ、テチュ!?」 「テエエェェッ! テ! …」 「テチッ!? …」 その親実装の背後で、仔実装の声が次々に消えていった。 年配の男がコロリ銃で仔実装を駆除したのである。 「…んー、仔実装相手にこっちの拳銃タイプの弾はやっぱ威力が大きすぎるのか…。 頭が丸ごと吹っ飛びやがった…」 男はレーザーサイトの光をそのまま親実装に当てるが、 「…こいつはほっといても死ぬか」 余計な弾は使わない事にした。 コロリ銃を引っ込め、次の目標を探しにかかる。 「…デ、………デ…」 それから数十秒後、親実装は胴体と頭を切り離されて絶命した。 --------------------------------------------------- 30分が経過した。 少し前まであれほど実装石の声でやかましかった公園内は、すっかり静まり返っている。 わずかに聞こえるのは、ローエンド弾で苦しむ実装石の呻き声と悲鳴ぐらいだ。 男二人は公園内を隅々まで調べながら実装石の死体のカウントを行い、生き残りがいない事を確認する。 「…433、と…。仔実装蛆実装親指実装含め433です」 「うい、お疲れ。俺の数字と一緒って事ァ確認終了だな」 「しかしこの小さい公園でよくもまあここまで増えたもんですねぇ」 「ああ、だからこういうモンが必要なんだろよ」 「確かに…それじゃあ、清掃業者呼んで引継ぎしますね」 「おう、頼むわ。俺はフライングでレポート書いとく」 「あ、ズルっ」 若者の抗議を無視して、年配はバンの中に引っ込んだ。若者は苦笑いしながらも、携帯電話で清掃業者に連絡を取る。 5分程度で情報伝達を終えると、若者もバンに戻って報告書を書く。 やがて清掃業者が到着するといくつかハンコを押して引継ぎ完了だ。 その場に留まっている理由も無くなったので、運転席に乗り込んだ若者はバンを発車させる。 「しかしまあ、早く終わったもんですね」 「だなぁ…。しかも疲れねえし」 「報告書提出したら飲みに行くんですよね? まだ夕方ですけど」 「当たり前だ。付き合うか?」 「勿論です」 「よっしゃ。パパッと書いちまうぞ」 --------------------------------------------------- 後にこの実装コロリ銃は威力を少し落とした子供用が発売され、爆発的な人気を得る事となる。 公園で遊ぶ子供が実装石に糞を投げつけられる事件が多い昨今、 子供が実装石から身を守る事の出来るこの武器が人気となるのは自然な流れだろう。 勿論、それで遊び半分に実装石を追い回す子供が増えたのも言うまでもない。 彼らの受難は永遠に終わらないのだ。
