タイトル:旧絵板の†さんの絵を見て
ファイル:帰路.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:17667 レス数:0
初投稿日時:2007/04/14-23:23:31修正日時:2007/04/14-23:23:31
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「ママー、おうちまだテチー?」
「デスー」

「ママー、おうちまだテチー?」
「デスー」

「ママー、おうちまだテチー?」
「デスー」 

ある日の夕暮れ、とある郊外の住宅地。
肩から黄色いポシェットを提げた飼い実装らしき実装石が、
西日の差した道路をトボトボと歩いていた。

よくよく見ればポシェットの中には一匹の仔実装が収まっており、
時折鳴き交わしている様子を見るに、
恐らくは親子の実装石ではないかと思われる。

飼い主が同行していない飼い実装の徘徊など、
カラスや同属の野良、あるいは虐待派の格好の餌食だが、
夕闇が間近に迫っているのでカラスは既にねぐらへと飛び去っており、
人目を避けて行動する野良実装も
住宅地には(ゴミ漁りのために)早朝にしか足を踏み入れない。
同じく人目を避ける獲物を狙う虐待派の人間も
帰路を急ぐ学生や買い物帰りの主婦の姿が行き交う
こんな時刻にはそうそう現れない。

まさしくスポット的な空白の時間帯のおかけで
この飼い実装石親子には単独での徘徊が許されているのだが、
日没が迫り、この時間帯がまもなく終わりを告げようとしているのに
親実装が道を急ぐ様子はまったく感じられない。
いや、むしろその歩みに力は無く、
ただ惰性で足を動かしている様が容易に見て取れた。

親実装の名は『みどり』。
ごく平均的な一般家庭の飼い実装。
なまじ裕福な家庭に飼われなかったため、
適度なアメとムチによって増長することなく成長し、
仔を産み、親となった。

仔実装の名は『こみどり』。
みどりの仔で、この世に生を受けて一週間。
次々と里子に貰われていった他の姉妹に比べて
オツムの出来がよろしくなかったため、
将来を心配したみどりが最後まで手放さなかった1匹だ。

出来の悪い子ほど可愛い。

そんな言葉を体現するかのように、
みどりはこの頭の弱い仔実装の世話を焼いた。
鼻を垂らせば自らの舌で舐め取り、
糞を漏らせば自らの手で尻を撫で拭き、
腹が空いたと言えば餌の時間でなくとも
ケージの奥に隠した実装フードを取り出し、こみどりに与えた。

明らかにみどりの母性は
仔実装の成長に悪い方向へと発露していた。

そして生後一週間目の今日。
こみどりの鳴き声が「テチュ」から「テチ」へと代わり、
その後の性格形成に大きな影響を与える
幼児期(学習期)へと移行したにもかかわらず、
みどりの育児は相変わらず仔の欲求を満たすだけの内容。
親子の将来に不安を覚えていた飼い主は、
とうとうこみどりを二世ペット専門の躾け業者に預けることを決意した。

カチャ…

居間の隅にあるケージの扉をそっと開ける。
昼食後のこの時刻ならば、
親子揃って昼寝をしているのが日課となっている。

平均的年収のこの飼い主にとって、
業者への預託料は決して軽い負担ではないが、
既にみどりは家族の一員であり、
その仔であるこみどりもまた家族の一員だと思っていた。

こみどりだけをケージの中から取り出し、業者に渡す。
ただそれだけ。
目が覚めたみどりは悲しむだろうけど、
一週間経てば仔は立派にマナーを習得して帰ってくる。
それで元通りのはずだった。





「ママー、おうちまだテチー?」
「デスー」

「ママー、おうちまだテチー?」
「デスー」

「ママー、おうちまだテチー?」
「デスー」 

既に夜の帳が下りつつある住宅地の中を彷徨う、みどりとこみどり。
飼い主がケージの中を手を伸ばしたとき、
既に実装石の親子は姿を消していた。
飼い主が自身らに対して何らかの不満を抱いていることは
みどりの側も薄々感づいていたのだ。

だが、生後間も無い仔を抱えて
飼い主の庇護下から出て行くことが自殺行為であるということも
みどりは重々承知していた。

そんな中、仔の声が変わったことを契機に
飼い主が決断したように、みどりもまた同様に決断したのだ。

少しずつ蓄えていた実装フードは
歯の生え揃ったこみどりが四六時中給餌をせがむので
思ったほどの量を用意することが出来なかった。
今夜のねぐらだってまだ見つかっていない。
いや、そもそも行くあてすらも無い。

だが、こみどりの食事がミルクから実装フードに
完全に切り替わった今であれば、
少なくとも隙だらけの授乳中に外敵に襲われる心配は無い。
これ以上あの家に留まってれば、
決定的な「何か」が起こることだけは間違いなかった。
そう考えたとき、みどりはケージの扉を開けていた。

家族のために仔を(一時的に)取り上げようとした飼い主。
家族のために飼いの地位と飼い主を捨てたみどり。
果たしてどこで、誰が、何を間違ったのかは分からない。
既にみどりは外の世界に飛び出していったのだから……。

おわり

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