「んじゃさ。俺から質問のお返し。逆に、もう一度行きたいところってある?」 「ある。けど、さ。俺の都合で行ってもダメなんだよなぁ」 男は腑に落ちない顔をして、俺を見ていた。 理由は、おいおい語るとして。彼から聞いた刑務所の話の変わりになるかは、分らないが それでも、とっておきの話を聞かせてやろう。 俺は酔いが回って働かない頭で、なるべく丁寧に、そして言葉を選びながら話し始めた。 ■もう一度、行きたい■ 「にいちゃん、どしたん?」 不意にかけられた言葉で、俺は泣きそうになった。って言うか、泣いた。 「た、助けてください!」 疲労困憊。足の痛み。後悔と、自責。そして空腹。限界だった。 やめときゃよかったんだ。自転車で、日本横断なんて! 「ほぉけ。そらぁ、災難やったのぉ〜」 最初は順調だった。「まず、北海道へ向かおう」なんて調子で目的地セット。 後は道沿いに、北へ北へ。 そして、県境の峠に差し掛かったところで、自転車が壊れた。 まさかと思ったが、チェーンが切れた。外れたとかじゃない、プッツリと切れたのだ。 パンクならともかく、修理道具なんて持ってない。 薄暗くなって行く空。・・・・・・人影は無い。車も通らない。 ・・・・・・てか、本当にこの峠に入ったとたん一台も見かけなくなったな。 何というか。人類が俺だけ残して、滅亡したのでは?と、錯覚する。 「はい。もう、ダメかと思いました」 そんな時、白い軽トラックがやって来た。俺は、当たろうが引かれようが、 構わない決意を胸に、全力で止待ってくれと。助けてくれと訴えかけた。 渡りに船!それほど、追い詰められていたからだ。 「オニギリさぁあるで、喰ったらよか」 軽トラの運転手は、気さくなおじさんだった。 おじさんの後ろに、後光が見えた気がする。実際、柔和そうな顔がしわくちゃでも 仏様に見えた。話を聞くと、街で資材調達をしてこの先にある村へ帰る途中だと言う。 俺は、ひたすら頭を下げてお願いし、何とか村へ連れて行ってもらうことにした。 「熊・・・・・・ですか?」 「あぁ、出よるさの〜。よぉ、食荒らすだでよわっとる」 こんな話を聞けば、道端や、少し入った林の中で野宿なんかできない。怖すぎる。 色々と身の上を話していたが・・・・・・安心と、満腹感で眠ってしまっていたようだ。 俺が次に目覚めたところは村の中で、このおじさん宅の駐車場だった。 ● 「あぁ、こりゃダメや・・・・・・接いだりするより、新しいチェーン買った方がええわ」 「そうですか・・・・・・」 軽トラの荷台から自転車を下ろして。このおじさん、名前を武田さんと言うのだが、 状態を見てもらったが・・・・・・どうにもダメそうだ。 武田さんは、俺の表情を見てとって、「三日後でええなら、近くの街までおくったらい」と 言ってくれた。ま、当然交換条件があるのだが。 「わしのぉ、ちょうど人が欲しかったけん。手伝どぉて欲しいもんが、あるんじゃ」 「あ、はい。それはもう、お手伝いさせてください」 で、その手伝いの説明をしてもらう。 「まぁ、の。簡単ちゃ簡単だで、今日はゆっくり寝て、明日からがんばってぇの」 「はい。頑張ります!」 ● 「・・・・・・えぇ〜」 すごい数だ。まったくもって、なんだこりゃ。ドッキリカメラ? 「デププププ!デ、デスデッスンデェ!」 実装石が30匹。もっと驚く事は、その全てがマラ付だったのだ。 一匹一匹、小さな飼育小屋に入れられて、泣き声をあげていた。 武田さんは、このマラ実装の餌を街まで買いに行っていたそうだ。お手伝いは、 こいつらのお世話だろう。 「あ、違うけん。兄ちゃんは、こっちきてな、ほれここ」 「作業台っすか? ん、形が・・・・・・?」 「これぁな、実装石座らせてな、処理する台や」 そういうと、一番近くの飼育小屋を開けて、マラ実装を一匹取り出した。 プゥ〜ンと、イカの匂い。もしくは、栗の花の匂い。マラ実装の箱からは、 濃厚な刺激臭が・・・・・・。 「ここ座らせてなぁ、兄ちゃんはこいつ動かんように押さえとってくれるか?」 台の起伏にすっぽりと収まったマラ実装は、分娩を待つ妊婦のような格好で寝かさ れている。少し違うのは、隆起した肉塊が見やすい位置に来るように角度が付いている事。 「暴れよるでの、一人では難儀やおもとったとこや。昔は息子がやってくれたんやがのぉ」 「こ、これで良いですか?」 「ん。もっと強よぉ、そうそう。んで、先にな両腕をやな・・・・・・ほい」 ストン。いつの間にか持っていた鉈で、武田さんはマラ実装の両腕は付け根から切断 した。見事な、実に鮮やかな切断だった。 「デ、デジャァァァァァァァァァァァァァァ!!」 「あ、そうやった。口に、これ咬まさな。年やのぉすぐ忘れる、あぁ〜ん」 「デシィデシィ・・・・・・デ? デチュンゥン〜♪」 「何を入れたんですか?」と聞くと、なんてこたぁない。金平糖だ。しかし、口の中で 拡がる甘さで頭が一杯になり、泣き叫ばなくなると言う。何ってこった。 実装石の事は、知っていたがここまで出鱈目だとは。 「まだ、終わりとちゃうよ、こっからが本番やてな」 「え、それって。あ・・・・・・」 チョキン それはイカンだろ!だって、それさ、うわぁ。武田さんはマラ実装の先っぽ、 1センチくらいを、これまたいつの間に持ち替えたのか、ハサミでちょん切った。 それから、焼けて真っ赤になった鉄を、切り口に強く押し当てた。 ジュウゥゥと肉の焼けた匂い。痛そう。っていうか、絶対痛いって。 自分が同じ立場だったらと、想像して迫り来る架空の痛みに眉をひそめた。 「ん、こな調子でなや、明日までに全部おわらせるで」 「このマラ実装全部ですか?」 「ん。やっときゃ、金平糖やって悲鳴出させんといてぇな?他のに聞かれんように」 「は、はぁ。」 何というか、男?としこいつらに、同情する。 しかし、ボヤボヤしている暇はない。早く終わらせる事だけを考えて、俺は言われた通り に黙々と作業に専念した。 「ラスト、終了〜」 「ん。お疲れさんやったの、後はこれを明日の朝神社の前に番号毎においてくけん」 「は、はい」 気がつけば、17時だった。疲れた〜。今夜は風呂に入ってすぐ寝よう。 こんなにケースが有るのだから、明日の重労働は確実だな。 武田さんの好意で、一番風呂。ゆっくり湯に浸り今日の作業を思い出した。 そういえば最後、武田さんは処理済みのマラ実装を、神社に持っていくと言った。 何故だ? ・・・・・・考えても分らない。ん。まぁ、良いだろう。 明日になれば、はっきりするだろうし・・・・・・。 そんな事を考えながら、俺は風呂から上がった。 ● 「あーお祭りだったんですね?」 「いんやぁ、いうとらんかったけぇの?」 「はぁ」 神社の周りに設営されていく提灯や、紅白の垂れ幕。巫女さんや、神主さんと思われる 人たちが、村役場の人たちとなにやら相談している。設置場所の確認だろうか。 「武田さん、こっちゃです。ここ右端にして、1列5箱。んで6列さ作ってもろたら」 「箱の間は50センチ、やったかいね? 「ほうやと、思とったがいの、神主はんに聞いてくるわ」 位置と場所さえ決まれば、後は置いていくだけの単純作業。だが、それが重労働 となれば、楽ではない。綺麗に見えるように、慎重に箱を並べる。 これで、準備は終わったようだ。 「よう頑張ってくれたの、後は祭りさみてぇ旅の思い出にしたらよか」 「はい、結構楽しかったですよ」 「ほうけ、しかし。2年に一度の祭りに合わせてくるんじゃて、運がええのか悪いのか」 武田さんは、苦笑して俺の背中を叩いた。俺もつられて苦笑い。 祭りが大好きな俺にとって、今までの苦労はこの時の代価だったのかもしれないな。 パンパンと、花火が鳴った。いつの間にやら、もう祭りは始まっていた様だ。 ● ここ○○県と●●県の県境にある小さな村は、とあるお祭りで賑わっていた。 ちょっと変っているこの村のお祭り目的に、外人観光客もやってくるらしい。 その道ではワリと有名な、男根型道祖神を祭る「御年子祭」。 子が沢山生まれますように、安産でありますようにの願いのせて、巨大マラ神輿が 村内をくまなく練り歩く祭りである。 そして、ここからがこの神社でしか見られない行事である。手順はこうだ。 まず神主が、木箱の中に入った木札を5枚選ぶ。5枚の札には1から30の番号が書いてある。 神社の敷地に運び込まれた木箱の番号も、1から30。つまり、30箱の中から5箱、 木札と同じ番号の付いた物が選ばれる事になる。 選ばれた木箱から、中に入れてあったマラ実装石が取り出された時、見物人らが どよめいた。マラ実装のマラが、ありえないぐらいに膨張しているのだ。 先端を焼かれているので、再生した両手でいくらしごいても、精液が出せない。 溜まりに溜まった精液は蓄積される。そして、竿の膨張が起きるのである 台に乗せられて、手足を聖人のように十字架に貼り付けにされる5匹。 抵抗すらできないのか、ぐったりうな垂れたまま拘束されるマラ実装。 マラの付け根に、細い糸がくるっと巻かれ、片方を巫女が、反対側を神主が持つ。 鈴や太鼓が鳴り響き、別の巫女による神へささげる舞が踊られる。 それが終わると、ひときわ大きく太鼓が鳴らされ、神主と、巫女が糸をひっぱる! ブシュゥゥゥゥ〜!!! マラが本体から切り離された為、逃げ道ができた精液は物凄い勢いで噴出した。 ロケット花火のようにマラが飛ぶ。1本の距離を測ったら次のマラが飛ぶ。 そして、全てのマラ中一番飛距離の出た番号が子宝日に決まるのである。 「すごい!! すっごい飛ぶんだぁ!」 「ほじゃろ、今年はわしがマラの当番やったでな。張り切って育てたけんの」 武田さんが、俺に胸を張ってそう答えた。 子宝日と言うのは、まぁなんだ。ぶっちゃけ、その日に夜の夫婦生活を頑張りなさい。 その日に種付けした子は、良い運勢の持ち主になれますよ、といった具合。 めでたく、今年は毎月6日に決定したようだ。今年も子沢山に恵まれるますようにと、 拍手喝采。こうして、お祭りは大盛況のうち幕を閉じた・・・・・・。 ● 「とまぁ〜。こんな具合」 「なんだ、それすッげー面白そうじゃないか」 「だろ? でも、さ。すっごい前の話だからなぁ場所は探せても期日がなぁ」 「なるほどなぁ」 俺は、喋り続けて渇いた喉を潤す為にバーのマスターにお代わりを注文した。 男はうんうん頷いて、俺の話を反芻しているようだった。 「ま、ダメモトでも良いからさ、今度いかね?」 「え、まじで?」 マスターが新しいグラスを俺の前に置きながら、「もう、そろそろ」と 閉店を促す。俺たちは、それならばと互いの連絡先を教えあって、必ず 例の祭りへ行こうと約束して、別れた。 翌朝、携帯の住所録に新しく登録された名前と、電話番号をみて昨日の事が 夢でないと分ると、物凄いニヤケた面で、会社へ行く準備を始めた。 −終- 「二度と行きたくない」の続編でした。 「二度と〜」、感想いただきまして、ありがとうございました。 励みになります。 初スク ある市の復興記 2作目 二度と行きたくない 3作目 もう一度、行きたい
