タイトル:【虐・ホラー】 飼い実装後編
ファイル:コドク6.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:3278 レス数:0
初投稿日時:2007/03/17-15:54:08修正日時:2007/03/17-15:54:08
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コドクな実装石 〜 飼い実装編 人形達の夢 〜

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その日、ベスの部屋には沢山の着飾った実装石が集まっていた。

20畳程の部屋の中央に置かれた、2階建て実装ハウスの前には、
いくつかの低いテーブルが並べられ、30匹近くの実装石が、立食パーティ形式でわいわいと和やかに集まっていた。
料理があるからとガッつくものなど1匹も居ない。
我慢と言う内心の無理が、仕草や顔に現れているものも居るが、その点では良くしつけられたペット実装達である。

料理はペット実装の健康管理に留意した、アレルギー配慮・ノンシュガー・低カロリー素材が使われ、
それでも味を落とさず、かつ、強すぎないように調理味付けされ、見た目も人間のものと遜色が無い専用食だ。

豆腐や蒟蒻などを工夫したものだが、見た目ケーキも寿司もステーキも用意されている。

素材が安いとはいえ、その調理の手間などで人間の食事よりも金が掛かっている。


ベスはあれからハウスに篭る事が多くなって、家の中はおろか、
この部屋すら歩き回って飼い主に姿を見せることがグッと少なくなったので、
心配した飼い主が愛護仲間に相談して、元気を出させる為にオトモダチに”お見舞い”をさせようと言う話になったのだ。
近所の飼い実装、さらに、その人たちが知り合いの飼い実装を借りてきての盛大なパーティーを開いてあげようと…。

それが、この30匹近い着飾った実装石の集団である。


ベスはそれを喜び、久しぶりに自身と2匹の仔を派手に着飾らせて自分の両脇に配すると、
その集団をハウスの外で出迎えた。


「オトモダチの皆さん、心配させて申し訳ないデス…そして、ありがとうデス」
「「ようこそいらっしゃいませテチュン♪」」

こうして、沢山の仲間に囲まれお見舞いを持ってこられれば、実装石である彼女達はすっかりお姫様気分である。


形式通りの挨拶が終われば、ベスの前に列が出来、励ましの言葉とプレゼント渡しが始まる。

1匹1匹が、ハウスの階段を登り、挨拶をしてテラスの上のベスに、見上げるように物を渡し、
ベスはそれを受け取るとハグをする。

1匹1匹が高いところに上がって物を差し出すのは、主賓とゲストの立場を明確にする為、
ハグは、お互いが敵ではないオトモダチを表す意思表示として躾けられ守らされる。

全て形式として決められ、躾けられた行動である。
もっとも、飼い主の大半は、そんな細やかなところまで躾がされているとは知らないので、
さらに実装石が愛情深い知能的な生き物であると感心するのである。



「オトモダチなら当然の事デス♪はやく元気になって、また、一緒に遊ぶデス」

来た集団には、こうして本当に仲間として心配しに来たものも居れば、


「早く元気になって、今度こそ元気な仔を産むデス…デプププ」

「かわいそうデス…ワタシの仔を1人ぐらい里子にしてやっても良いデス、ワタシはいつでも産めるデス」

と、こうした厭味をわざと口にする連中も多い。
ワザワザ哀れな事が起こった仲間を見下しに来ているのだ。

むしろ、それが目当てで来ている者が圧倒的多数で、
残り一部は訳も判らず良い格好でお出かけ出来るとか、訳もわからず土産物を渡された者で、
それらは、ベスに渡す前に、列についているのに飽き、
その箱を自分で開けて、その場で中の物を食ったり身に着けてしまっていた。
あるいは、ベスなどそっちのけで、自分の服を見せびらかしている実装石も居る。

ごく少数の実装石同士の交流を想定した手間の掛かる礼儀である。
待つことの苦手な実装石達は、待っている間に自分が何をしているのか忘れてしまう。

それでも、場はそれなりに賑やかで、元気なベスが見れたことに満足した飼い主は、
さらに豪華な食事の山を残し、連れてきた飼い主達を別室でもてなした。


食事に群がる(飼い実装なのでそれなりに品はある)実装石達で場は再び騒がしくなっていった。



「ワタシは何も出来ないデスけど、皆さんご存知のワタシの仔サクラちゃんが、
 皆さんのお食事の間に新しい踊りを見せてあげるデス」

会食の最中、一瞬、場の空気が「??」となる。

それもそのはずだ。

この場に来た実装石は、ベスの仔と言えば、ベスの哀れさの象徴となっている仔実装人形しか知らないのだ。

それを持って、他の飼い実装達は自分の優位さを誇り、心の中で笑いものにしながら、
哀れみの優しさを向けつつお付き合いしていたのだ。
サクラ達が出迎えの挨拶をしたときも、音の出る人形に買い換えたのだろうと思っていたのだ。


中には、人形が本物の仔になったと思い、自分の抱えている仔実装人形に急に揺らしながら話しかけるものも居る。
ベスを見下す割りに、彼らにもまた同様の妊娠障害実装が多い。
他人の持っているものは人形と解っても、自分のものは仔だと信じているのであるから、
その人形が本物になったのだから、当然自分の仔も動くはず…と考えるのだ。


サクラは、そんな様々な視線の中、ハウスの中に駆けていって着替えると、嬉しそうに踊りを披露した。


【Dance De〜 Kojissou♪】

テチュ、テチュ、テチュ〜、テチ、テチィ、テチュン♪Jissou〜ダンステチュ♪
(口に片手を当てオアイソ2回、手を変えて再びオアイソ2回、両手を広げて左右にステップ)

楽し、嬉しい、ワタシ、可愛いテチュ♪Jissou〜ダンステチュ♪
(両手を頬に当て背伸び2回、バンザイ姿勢で背伸び2回、腰に片手を当て1回転して投げキッスで決め)

両手をフリフリ Jissou・ダ〜ンチュ♪
(右を向いて両手をまげて身体の正面でシェイク、左を向いて繰り返し)

お尻もフリフリ Jissou・ダ〜ンチュ♪
(後ろを向いて前屈みになり尻を突き出し、左右に振り、勢い良く観客に突き出して決め)

おパンチュ真っ白 Jissou・ダ〜ンチュ♪
(スカートをまくり、同じ事を繰り返し、決めは足を開いて股下から笑顔が観客に見えるように)

前も真っ白 Jissou・ダ〜ンチュ♪
(正面を向いてスカートを捲り腰を突き出す、左右に向かってそれぞれ繰り返し、最後は正面でまくったまま腰をグラインド)

この可愛さに、誰もが メロメロテッチュ〜ン♪
(そのまま、尻餅をついてM字開脚、片手を股間に当て、腰を浮かして小刻みに縦に振る。笑顔は絶やさないように)


サクラは、懸命に周りより少し高い実装ハウスのテラスで、自分が見られている快感に酔いながら踊った。


人間が見れば、愛護派以外は間違いなく踏み潰している姿…。


しかし、実装石の基準では、仔実装に適度な運動量の踊りという建前と共に、
下着の白さを強調できる出来、人間を魅了できる性的テクニックも磨けると言う実装本能に根ざした振り付けで、
あまり考えずに人気となっている仔実装向け番組の教育ダンスである。

この短い歌詞を覚えるだけでも大変ではあるが、
サクラは、野良の時から、人間から餌を貰う為に、この手の歌と踊りの才能”だけ”はあった。


サクラもウメもベスも、完璧に決まったと思った。

サクラの可愛さに、見とれたはず…嫉妬して怒り出すもの、地団駄を踏むものが居るに違いないと…。

腰を振るサクラも、これほど小刻みに腰を動かせるのは自分しか居ないと自慢げだった。


しかし、次の瞬間、会場は笑いに包まれた。

「デププププ…醜くておかしいデス!!」
「何デス!?あれは、レベル低すぎてお話にならないデス!」
「デヒャヒャヒャヒャ〜あれは、マヌケという他に無いデス…恥と言う物を知らないデス」
「醜いデス!醜いデス!デ〜〜〜〜醜いデス」
「あれは野良デス…まさに野良デス…なんという野良っぷりデス?」
「下品ザマスデス…何処から紛れ込んだ野良ザマスデス?」

次々と投げかけられる笑いと罵声を自分に浴びせられたと思ったサクラは、
僅か1週間程度の飼いの生活で半端に、そして必要以上に身に着けたプライドと恥の概念で、
投げかけられる罵声に我に返って、確認した自分の姿に慌ててスカートで前を隠し、
ガクガクと震えながら、ゆっくりと亀の様に丸まった。
そして、届かない自分の耳に懸命に手をやる。

音楽と共に”踊っている”間は、それが振り付けであり、夢中で恥の概念は無かったが、
踊りを止めれば、自分でも判る飼い実装としてはしたなくハレンチな格好なのだ。


だが、耳を塞ごうとしても、その罵倒はどんどんと耳に入り、サクラを責め苛む。

「ヤメルテチ…ワタシを笑うなテチ…イヤテチ、イヤテチ…こんなのイヤテチ…ちゃんと振り通り踊ったテチィィィィィ」

サクラは、涙を流し、ブリブリとフンをタレ流しにして下着を染め、膨らませながら、
ガチガチと歯を鳴らした。
そして、その髪が脱色して白くなっていき、あるいはハラハラと床に落ちていく。
あまりの急激なストレスで、生まれながらの飼い実装の様にストレスに強くない偽石のダメージによる脱毛が始まったのだ。


「こ・これはどういう事デス!失礼にも程があるデス!!静まれデス!!」

慌ててサクラを保護しに来たベスが、その背中を撫でながら叫ぶ…。

そして、皆がサクラやベスの方を向いていないのを理解した。


皆が見ているのは、ハウスの横…。
少し離れたクッションの上で、奇妙な踊りを見せるコドクの姿であった。

コドクは、音楽にあわせて、その場所で、サクラが毎日遊ぶときにしていた踊りを見よう見まねで踊っていたのだ。


元々、踊りを必要としない生活の親から生まれたコドクは、その才能が殆ど無い。
サクラの様に何度も繰り返して踊りを練習できる機会も無いのでは、真似すら出来るはずが無い。

只でさえ、不自由な肉体で、偶にしか見ない他人の踊りを再現しようと言うのだから、
その踊りは、まったく似ても似つかない別物と化しており、より滑稽であった。
さらに、この場に似つかわしくない、不潔で何の変哲も無い実装服のコドクが踊っているのだ。

自分を少なくとも実装石より上の存在、人間と同等、あるいは人間であると思う集団から見れば、
まさに道化師の登場である。

見慣れた仔実装ダンスを踊る、お高くとまったサクラと、
同じ曲で、真新しく滑稽なダンスを踊るコドクでは、比較すればコドクに目が行くのが必然である。


音楽が止んでも、音楽が止まっているのに気が付かずに踊り続けるコドクへの笑いと侮蔑は止まず、
それをサクラは自分に向けられたものとしか考えられなかった。


サクラは、ベスが抱き上げようとしても、その姿勢のまま固まっていた。

「オマエの事じゃないデス!違うデス!オマエは笑われていないデス!!」

そう言い聞かせても、サクラはガタガタと震え「ワタシは野良テチ…所詮野良の仔テチ」と自虐の言葉を吐くだけだった。
偽石自体の崩壊は免れているが、崩壊してもおかしくない精神ダメージだった。


そして、ついにベスの怒りが頂点に達した。

ベスの顔に深い皺が幾重にも作られると、テラスに落ちていた実装石サイズのガラガラを掴んで、コドクに投げつけた。

「デギャ!」
「デスッ!」
「テチャァ!!」

元来不器用な実装石が、感情が高まって力んだ為にリリースポイントが遅すぎ、
投げたものは、ベスの後方、見当違いの観客達に飛んで行ったのだ。

「デスゥ!なにしやがるデス!この無礼者!ワタシはキャサリンデスゥ!無礼者はワタシのママが許さないデス!!
 その前に、医者を呼ぶデス!ワタシの美しい顔に傷デス!入院デス!手術デスゥゥゥゥ」

「ママ…ママ…片目が無くなったテチ…見えないテチ…体も動かないテチ…このままじゃ死んじゃうテチ…
 ヒダギュウステーキ食べれば治るかもテチ」

「デェェェ!アンナマリーちゃん!仇は取るデス!おまえの分のステーキはワタシが食べてやるデス
 この!キサマの様な実装石でもご主人様の手前、付き合ってやって居たデスが、堪忍袋の緒が切れたデス!!」

被害に遭った実装石が騒ぎ出すと周辺は収拾が付かない状態になっていく。



「デッ!デッ!違うデス…ワタシはあいつを…デェッ!」


野良のように、感情のままに糞を投げつける抗議ではないが、
それだけに、様々な手近なモノがベス達めがけて投げ込まれる。

実装石の投射能力故、当たる確率は少ないが、それだけに広い範囲に逃げ場無く、
堅い積み木や、出された料理、その皿…中には自分の仔が投げられ降り注いだ。

そして、実装石の投射力だけに、見当違いの他者に当たって、それが新しい混乱を招くと、
集まった数十という実装石と、その家族で乱闘が巻き起こる。

「再び、このワタシにモノを当てたのはダレデス!!キサマデス?
 たかが、醜く太った実装石の分際で、このキャサリン様にモノを当てるとはイイ度胸デスッ!」

「何が、キャサリン様デス!?キサマの方こそ、ロクなモノを喰っていない太り方デスッ!
 只デカイ、肉の脂身しか喰ってないからブクブク太ってよくモノが当たるデス!
 脂身の塊のキサマは公園で野良と遊んでいるのがお似合いデスッ!!」

「言ったデス!!ワタシが公園野良と遊ぶときには、オマエの方は、公園野良に遊ばれて奴隷になるデス!」

怒りの実装石は、素早くポーチから護身用デスタンガンを取り出すと、その実装石に押し当てる。

バチン!!

「デベビベギャァァァァァァ!!」

「口程にもない野郎デス!!護身具は高貴な者のエチケットデス!ひょっとして買って貰えない程ビンボーさんデス?
 デププププ…恥ずかしいったりゃありゃしないデス…このコートはよさげなのでもらっといてやるデス」


飼いもピンからキリである。
本当にペットとしての礼儀作法の染みついた者もいれば、
飼われる時点で規格外の糞蟲もいるし、飼われている内にマナーが低下している者もいる。

礼儀は身に付いていても、精神が腐っていたり、ベスの様に自分を勘違いしている者もいる。


「やめるデス…こんな事をして騒いではセレブで無いデス…ニンゲンさんに怒られてしまうデス」
「ママの言うとおりテチュ…オバサマ達怖いテチュ…酷い事止めてあげてテチ」

「貧相な身成の癖にいっちょまえに意見するデス!!デッ…隣のミランダちゃんデス…
 ご主人様が、いつも、お前の家は見栄っ張りで、デカイだけでスッカラカンのピーピーと言っていたデス!
 そのクセに、毎日、お車でエステに行くなんて許せないデス!
 この前もお庭で大きいお肉を焼いて貰っていたデス!!ワタシもあんなに大きいの食べた事無いデスゥ!
 当てつけデス!!ビンボー人のクセに見栄這っている態度が気に入らないデス!!」

「デッ!ワタシはそんなつもりは無いデス…デデッ!イチちゃん達に何をするデス!」

「「テッチャァァァァ!ママァ!!」」

「何がイチちゃんデスッ!ニーちゃんデス!たかが実装石のポコポコ生まれたガキにまでシャネルなんてムカつくデス!!
 ワタシもおねだりしたら、顔が腫れる程叩かれたデス!!
 ワタシが買って貰えない物を貴様らみたいな実装石が身につけるなんて許されないデス!!
 身分に相応しい姿に戻してヤルデス!みんなでやっちまえデス!」

着飾ってはいるが、おしとやかに育てられた実装石一家は、特に狙われやすい標的となった。
本当のセレブ実装は、心優しすぎ、抵抗する間もなく取り囲まれ押さえつけられていく。

「テチャ!!ママ、ママ耳が千切れちゃうテチィ!!服がぁ服がぁ…テチャァァァァァァ!!」
「テピィィィィィ…蹴らないでテチ…殴らないでテチ」

「デプププ…コイツら、ウンチもらして泣きわめくデス♪やっぱり実装石デス!!
 クソムシは実装タタキ100回の刑に処するデス♪」

「ヒドイデス…デデ!お道具をそんな使い方してはイケナイデス!ワタシの仔が死んでしまうデス!」

「デプププ…アントワネットちゃん、ずいぶん楽しそうデス♪ワタシも混ぜるデス」

バチンバチン!

取り囲まれた中の逃げる3匹の仔実装を、電池式の実装タタキで打ち据える。

「テチャァ!テチャァ!…ママァァァァ…ママァァァァァ…テキャァ!テチャァ!テピャァ!」

人間が持てば強力なスナップで一撃瀕死の鞭と化す実装タタキも、
”もんじゃ焼きのヘラ”程にデフォルメされた実装石サイズの実装タタキでは破壊力はたかが知れている。
不器用で鈍い実装石が使えばさらに威力は弱くなる。
それでも仔には重い一撃で、しかも、一瞬とはいえ低い威力を補う電気が流れるので、
仔実装は、打たれるたびに短く呻いて、肉を破壊され、ミミズ腫れを作り、もんどり打って糞を漏らし泣いた。
しかも、改造され流れる電流が若干高くなっている。

バチンバチン!

「デェェェェェッピャッピャッピャッ!相応しい姿になったヤツから返してやるデス♪」

改造実装タタキで全身を叩かれた裸の仔実装が投げ捨てられていく。
原形を留めていなかったり、全身再生不能なミミズ腫れになったり、手足がペラペラに潰されて舌を出して死んでいる者もいる。

「テ…テチッ…」

「デェェェェェ!イチちゃん…ニーちゃん…サンちゃん…これはヒドイ…酷すぎデス…ワタシは何もしていないデス…
 ご近所の大切なオトモダチだと思っていたデス…ヒドイデス…」

「デプププ…叩く仔が居なくなったデス…そうだ、料理も投げてしまって口寂しいデス…
 コイツは実装石だから、仔を産ませてみんなでパーティ再会デス♪」

「流石、アントワネットちゃんデス!新鮮蛆の躍り食いはセレブデス♪」

アントワネットは、早速、仔の死体を1つ掴むと、他の実装石が、仔の死体を抱えて悲しむミランダを殴りつけて、
仰向けに倒して、手足を押さえつけさせる。

グキッと仔の首を捻って、千切り、その頭を自分の口に放り込みながら、
その仔の胴体から流れる血を確かめる。

「緑が流れてきているデス…丁度良いデス…見せ物デス」

その緑の血をミランダの赤い目に落としていく。

「デスゥ!やめるデス!妊娠するデス!ご主人様の許可無く妊娠したら、はしたない娘と思われるデス!!
 デギャァァァァァァ!!お腹が膨らむデス!もう気が済んだデス?
 放して欲しいデス…した事は誰にも言わないデス…オヤクソクにするデス…
 だから皆さん放して欲しいデス…はやくこのお腹の仔を撫でてお歌を聴かせてあげたいデス」

だが、ミランダは解放されなかった。

「「デプププ…デプププ」」

取り押さえたまま、膨らむ腹を見つめニヤニヤと嗤う仲間達、
「デピャピャピャ…歌ぐらいそのままでも歌えるデス?本当に鼻につくお嬢様デス…」


「ボ・ボェ〜…ボエ〜、デッデロゲー…早く大きくなるデスワタシの仔〜♪
 ご主人様は優しいデス〜♪お家も広くてお庭も広いデス〜♪みんなでバーベキューも楽しいデス〜♪」

ミランダは、泣きながらも、膨らむ腹に向かって歌を歌って聞かせる。


「そんなに早く産みたければ、手伝ってやるデスゥ!!」

「グゲェェェェェ!!」

次の瞬間、アントワネットがジャンプしてミランダの腹に両足のフットスタンプをかます。

バシャ!!

開かれた足の間に、大量の糞が撒き散らされ、”程よい大きさ”となった仔種が堕ろされていく。

「デグェェェ!デギャ!デッズゥゥゥゥ!ワタシの仔ぉぉぉぉぉ」

それに群がる飼い実装達…だが、彼らは口に運ぶ寸前で思い直したように野良と違う行動に出た。
糞まみれで堕ろされた仔を、ニヤニヤと嗤いながら見下ろすだけであった。

「まぁ、なんと醜いデス?人前でよくもこんなにウンコも仔も漏らせるモノデス…」

「まったくデス…ご主人様以外に仔を産む所を見られるなんて…
 いや、排便するところも見られたら、普通は恥ずかしさのあまり首を括って死ぬのが常識デスゥ♪」

「コイツはセレブの皮を被った野良デス!そんな事も知らずに無様な姿をさらすデスゥ♪」

「ウンコの仔デス…親に相応しいザマデス」

「デププププ…こんな仔のウンコカルパッチョなんか喰う価値なんてないデス」

「デプププ…こんなのありがたがって喰うのはクズ野良デス」

そう言うと、一同は、それを掬い、ミランダの口に押し込んでいく。

「デギャァァァァァァ!!ヤメルデス!ヤメテデスゥ!ウグゥ!ウゲッ…」

「野良はウンコも自分の仔も御馳走らしいデス♪たっぷり喰わせてやるデス」
「テチテチ…ママー、コイツ、涙流して喜んで喰っているテチュ♪ジッソウってこんなに醜い生き物テチュ?」
「誰も喰わない、汚いオマエのキタナイ仔デス、腹を壊す程喰うデッスゥー」

「ウンコ喰い、仔喰いデス!もう、コイツはセレブちゃんなんかじゃ無いデスゥ♪
 これで、ワタシがご近所イチバンのセレブちゃんデッスゥン♪」

行動の質としては差はないが、飼いには飼いなりのエグい迫害が牙を剥く。
ミンナ仲良く…など信じている絶対数が多くても、
結局、実装石は、本能のままに行動する個体が圧倒的に強く、周囲はそれに引きずられやすい。
礼儀正しい、本当のペット実装は、やはり弱いのだ。

「デ…デーデーデー…デッデロゲー…デ…デ…デェェェェ…」
ミランダは、哀れにも、我が仔と糞を咀嚼しながら、精神崩壊して胎教を呟き続けるだけとなった。
本当に躾られた実装石にとって、糞食、同族食いだけでも耐え難い屈辱であり、
さらに、それが息をする事がない胎児とはいえ、我が仔では尚更だった。

ミランダの方には、恥の概念が強くあり、まさに恥を掻いた事により死んだも同然になったのである。
それを嗤う恥知らず達は、それをする方も同等の恥を晒している事も知らず、
その様子を見てさらに笑い合うのである。


そんな光景が、そこかしこで繰り広げられる。

「止めてくれたデス…やっと分かってくれたデス?みなさんでちゃんとお片付けするデス♪キタナイのダメデスゥー♪
 例え人様のお家でも、汚したのはキレイキレイにしないとニンゲンママさんに”メッ”っておでこ叩かれるデス…
 怪我した人たちも、ニンゲンママさんのこのバンソーコーでお医者さんゴッコ、イタイノイタイノトンデケーデスゥ♪
 デスッ?!みなさんどうしたデス?」
まるで仔実装がそのまま大きくなったような仕草と喋りをする”翆星”と名札を付けた仔実装人形を抱えた実装石が、
ポシェットから絆創膏を取り出し、掲げていると、そこに人だかりならぬ実装だかりができる。

「デププ…なにがお片付けデス?なにがニンゲンママさんデス?なにがお医者さんゴッコデスゥ?
 イイコブリッコこいてポイント稼ぎするブタがココにもいるデス!!」

囲んでいるのは、これまた、不貞不貞しい精神が顔に体に表れた者達である。

「ニンゲン如きにコキ使われているバカがココにも居るデスゥ?
 デプププ…確かに利口そうなお馬鹿デス…人形なんか抱えて偉そうデッスゥ」

利口な馬鹿と馬鹿の利口が向かい合うが、数は馬鹿の利口が圧倒的である。

後ろから頭を叩かれた隙に、あっという間に前から、抱えた仔実装人形は奪われる。

「デスゥ!ワタシのチコちゃんになにをするデス!チコちゃん怖がっているデスゥ!」

人形を奪い去った実装は、その人形の手をもってフラフラと軽く振り回す。

「チコちゃんデスゥ?デピャピャ!人形抱えてうわごと喚くデスゥ〜♪
 まさか、こんなお人形が生きていると思っているデスゥ?」

ポフッ…

軽々と振り上げられた人形が、一気に地面に叩き付けられる。
その親である実装石は、その瞬間にブバッと両目から血涙を噴き出させて絶叫する。

「デギャァァァァァァ!!チコチャァァァァァァン!!」

「デペペペ!チコちゃぁぁぁんデスゥ♪」
「デヒャヒャヒャ…生きていると思っていやがるデスゥ!
 まったく実装石は救えないバカデスゥ♪ねっスィちゃん♪セイちゃん♪」
1匹は、自分の仔実装人形に話し掛けながら、親実装の前で人形を足蹴にしていく。

親実装は、彼らの足下でしゃがみ込み、人形の手を握りしめ泣きながら足をどけるように懇願する。

「お願いデスゥ…助かるデスゥ…今ならチコちゃんは助かるデスゥ…ニンゲンママさんなら助けられるデス。
 だから、もう許して下さいデスゥ…ワタシなら土下座でも何でもするデスゥゥゥゥ」

恐らく、そう懇願すれば相手が野良なら、人形より生身をいたぶれる方を優先したであろう。
そして人形のためとはいえ、そうされる事で、この実装石は母親としての責務を果たせていると納得できる。

だが、飼い実装はその生活で身につけた風習や掟と言う物によって、より陰険な苛め方をする結果となる。

「デスッ!?上手い事言って、あとで飼い主やニンゲン達に告げ口に行く気デス!」

「そうデス?すました顔してやっぱり陰険でクソムシな実装石デス!
 わざと叩かれて、ニンゲン達にある事無い事騒ぐつもりデス!!賢いワタシが騙されるワケ無いデスゥ」

どんなに賢くても実装石は自分自身の思考の範疇でしか自分以外を量れない。
人間の力だけは、その秤の規格外に置いている分だけ飼いやすいと言うのに過ぎないのだ。
商品となるために受けた調教で人間の力を知っているだけに、”告げ口”を多用し、
また、それを極端に恐れるだけに、告げ口できないように、相手が精神的に嫌がる責めを執拗に行うのだ。

今も、滑稽に人形に愛情を注ぐ姿を見た彼らは、告げ口さえ無ければ後で幾らでも言い訳が成り立つとの考えで、
直接相手を痛めつけずに置いた方が、後々の保身によいと考え、
また、その陰湿な精神が、それが効果的であると見抜いたのだ。

バシン!バシン! ポフッ!ポフッ!

「デギャア!デズゥ!なんでもするデス!ウンチ奴隷でも、裸踊りでもするデス!デギャアァァ!!」

積み木や、実装タタキで人形を袋叩きにする。
親実装は一撃ごとに、ブバッと血涙を撒き散らし、鼻水を垂らし、汗を、涎を振りまき、頭を擦りつけ、
そういう玩具のように土下座を繰り返し泣き喚き、仕舞いには典型的野良のように糞でパンツを膨らませた。

野良と違うのは、受ける精神的ダメージの量である。
それこそ親の代、そして胎内に発生したときから躾られた彼女達は、
性格がどれだけ悪くなろうが、どんな突発的事態が起ころうが、糞や汗や涎の管理力は遙かに高い。
それが、あらゆる体液を撒き、糞を噴射する度に見て分かる程衰弱し頬が痩けて見える程に狼狽した。

その姿は、直接的な加虐ではなかなか見られない姿であるだけに、
普段お嬢様を気取っている飼い実装石達には、強烈な快感のトリップ効果をもたらす。

「デピャピャ!デヒャヒャヒャ!オマエ、キレイ好きデス?
 ご主人様に怒られるからキレイキレイにすると言っていたデスゥ?
 そんな姿ではお掃除しても汚れるだけデス…オマエに代わって、このワタシが手伝ってやるデス…
 オマエはそこで見ているだけで良いデス…しっかり恩に着てワタシに感謝するデス!」

「デズッ…判ってくれたデス?早くチコちゃ… デギャァァァァァァ!!」

その実装石は、人形の首根っこを掴んで、
その背中で、騒ぎで汚した床の食べ物を雑巾のように擦りだしたのだ。

ベチャベチャ…

「デギャギャ!!デジャァァァァ!!!やめるデスゥー!!」

親実装は、まるで”小便小僧”の様に水のような便をピュ〜ッと噴き出させながらヨタヨタと我が仔を追いかける。
その哀れな姿が、さらなる笑いを誘う。

「デピャピャピャ!オマエの仔は実に良く汚れが取れるデスゥ♪
 まるで雑巾で作ってあるみたいデス!雑巾になるために産まれてきたデス♪
 デス?仔がキレイキレイにしているのに、親が汚すとは本当に実装石は使えない生き物デッスゥ〜♪」

「デアァァァァァァァッ!チィィィィィコォォォォォォ!!」

料理皿の上で、まさに、雑巾の如く人形を絞って汚れを出すと、親実装の悲鳴は超音波の域に達する。

その実装石は、狼狽しきった親実装を蹴倒すと、その親が漏らした糞を、
仔実装人形の向きを、顔を下に向けると、糞に汚れた絨毯を擦りだした。

「チコちゃ!チコちゃん!チコちゃん!チコちゃぁぁぁぁぁん!  グゲェェェェェェッ」

親実装は憔悴しきり、ついに吐いた。
もう、そこには何不自由なく飼われていた裕福な実装石は居ない。

もはや、飢餓を体験した野良実装の如きやせ細った実装石が、
「チコぉぉぉぉぉ、チコぉぉぉぉぉ…」と呻き手を宙に這わせていた。

「もう、壊れたデス」
「確かに壊れたデス… つまらんデス」

実装石達は、その様子を見ると、まるで自分の不注意で壊した玩具を見るようにバツが悪そうに見下ろし、
徐々に何事もなかったように引いていく。
最後に残った実装石も、さっきまでのはしゃぎ具合がウソのように、
本当に他人事のように見下して、その汚れを吸った人形を親実装に放り投げて去っていった。

残された実装石は、その姿で、もはや何の人形か判らなくなったソレを逆さまに抱えると、
その汚れをレロレロと無心に舐めとり続けた。
やがては、その人形の足を咥えて、涎を垂れ流しにしたまま、ボーっと一点を見つめ身動きしなくなった。

「プァ〜プァ〜…ワタチの仔はドコレッチュ〜…」

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

おとなしい事が飼い実装の姿…しかし、少数では確かに野良とは違う立派なペットとなっても、
実装石同士が数集まってしまえば、数の魔力は実装石を本来の姿に簡単に戻してしまう。
普段、飼い実装同士の交流があるとはいえ、
その両手両足で数えられるより多いオトモダチと一度に交流する機会は殆ど無いシチュエーションである。


短時間の間に、豪華な見舞いの席は、公園の野良並の乱闘場に姿を変え、
態度ばかりがでかい者達はより尊大にドンチャン騒ぎをし、
大人しい者達は、そこかしこで、その脆弱な精神を破壊されて転がっていた。


ベスたちは、幸い、皆がそれに熱中しだしたためにハウスの中で難を逃れた。


「テチィ…もう、ワタシは踊らないテチ…人前嫌テチィ!実装石に見られるのもイヤテチィ…」
激しいショックからはかろうじて回復はしたサクラは、
それでも、未熟な成長過程の心が折れ、いまもベットで布団を被って篭もっていた。
髪は僅かな束しか残っておらず、それも、かなりの数が真っ白に脱色していた。


「テチャー…ベタベタ甘〜いテチュ♪でも、ワタシのお料理食べられなかったテチュ…
 ケーキ降ってきたテチィ!当たったテチィ!痛いテチィ!でも甘〜いから許すテチィ♪
 テチィ!!ベトベト、汚れたテチィ!我慢出来ないテチ!!お風呂テチ!お風呂テチ!お〜ふ〜ろ〜テ〜チ〜!!!」

ベビーカーで、自力で動く事もなく甘やかされつづけたウメは、すっかり我が儘になりきっていた。

そして、降ってきたケーキが直撃し、全身生地とクリームまみれになって、その手を舐めながら風呂を要求して喚いていた。

ベスは、その我が儘放題のウメの汚れを拭きながら、篭もるサクラの心配をしていた。

愛する我が仔ウメの願いを聞いてやりたい…だが、外に出るのは得策ではない。
そのジレンマがストレスになる。
そして、自分たちの部屋を、自分たちの住みよい環境を、沢山のオトモダチを醜い物に変えられたという怒り…。
それが加わって、どの実装石よりも激しい執念の炎となってベスの中で燃えていた。

あの醜いコドクへの憎しみとして…過去の自分の姿への憎しみとして…。


ふと窓の外を見ると、そのコドクが、騒ぎに巻き込まれるどころか何処吹く風で、
3つの人形を横に並べ、ボエーボエーと歌らしき物を歌っている。
それが、さらに自分たちに向けて、自分たちを小馬鹿に…ざまぁみろと歌っているようにしか感じられない。

「全て、あのクソムシが悪いデス…アイツが居る事が全て悪いんデスゥ!!」

確かに、この騒ぎ、引き金を引いたという点では原因は全てコドクにあるのは確かだが、
コドクがそうなった元を育てたのは、ベスの、自身の姿と向き合えない精神の弱さと醜さである。
コドクの姿を野良に近い、飼いとしては恥ずかしい姿で放置した排斥本能である。

「あの糞害虫の実装石が居るせいで、サクラちゃんが酷い目にあったデス…
 あの低俗な実装石が居るせいで、ウメちゃんは怖い痛い目にあったデス…
 ワタシ達をもてなす為の全てがダイナシデスゥ!!」

「テーチャチャチャ、ウマウマ…そんなにあのクソムシが邪魔ならブッ殺せばイイテチュ〜♪
 ママはバカテッチュ♪ワタシはスゴク天才テッチュー!」

野良が元で、甘やかされたウメは気軽に口にする。

だが、”殺す”という言葉は、飼い実装にとっては、口にする事は禁句の言葉である。
ベスに今、その衝動が無いとは言えない。
むしろ、あの産後からずっと抱いている感情である。
だが、たとえ糞蟲と認識している相手に向かってでも、それを考えてはいけない行為と教えられ、
彼女は、少なくともニンゲンには聞かれてはいけない言葉と認識している。

だからこそ、コドクは、今もこの部屋にいられるのだ。
ベスにとっては、自分が飼い主に捨てられない為のギリギリの譲歩により生かしてやっている状態である。
飼い主が、それでもベスを捨てないほど可愛がっているのは判っているが、
生まれたときから刷り込まれた教育によって、そこのラインは超えていけないと思っていた。

「やめるデス…そんな乱暴な言葉をご主人様に聞かれたらオシオキされると何度教え…」

「テチャァァァァ!!そうテチ!!あんなヤツ、躾なんかじゃダメだったテチィ!!
 やっぱり最初からブッ殺してスッキリだったんテチィ!
 ブーブ怖いのアイツのせいテチィ!貧しい生活をしていたのもアイツのせいテチィ!
 ツクシちゃんが悲しい事になったのもアイツのせいテチィ!ウメちゃんの仔が悲しい事になったのもアイツのせいテチィ!
 ママの仔が悲しい事になったのもアイツのせいテチィ!
 おやつがいつもケーキ1つだけしか無いのも、ゴハンが10種類しか味がないのも、
 特別な日しかお寿司やお肉が食べられないのも、このお部屋しかワタシ達の物じゃないのも、
 みんながワタシにひれ伏さないのも、ニンゲンが大きくて強いのも、ママのお小言が多いのも、
 面倒なルールがあるのも、みんなみんな、あの醜いウンコブタのせいだったテチィィィィ!!!」

布団に篭もっていたサクラが、ガバっと起き上がる。
その目は、もはや実装石にすら見えない別の生き物の様に、目の周りが充血し腫れ上がっていた。
その目で、さらに剥きだす様な表情を作れば、目は落ちるかと思うほど飛び出し、狂気にみちた表情を生む。

そして、コドクを窓の向こうに認めると、そこに出入り口は無いのに狂ったように突進して壁と窓に激突した。

その姿でベスは意を決した。

残された我が仔すらも狂わせ壊す元凶は”ブッ殺しても構わない”と。

ベスは、激突してもなお起き上がって、獣の様に叫ぶサクラを留めると、
その手に、ハウス掃除用の実装用モップを差し出す。

そして、ベスの手には護身用にと与えられたが、家を出ないベスが使った事の無いデスタンガンが握られていた。

すると、ウメがヨタヨタとベビーカーを降りて、変形した足でコドクそっくりに歩いて寄ってきた。

ウメとしては、ブッ殺すという行為が楽しみたいだけではあるが、
その不自由な下半身で歩く姿は、ベスには家族の為にと自身を犠牲にしてもあの糞蟲に抗議にいく勇士の姿に見えた。


騒ぎの少ない裏口へ仔を誘導し、そこからコッソリとハウスを出ると、
ベスとサクラ…特に先程までストレスで死に掛けて弱っていたとは思えない動きで回り込み、
クッションの上で人形の世話をするコドクを取り囲む。

「ベジャ?ベジャジャ〜ン♪ペッチューン♪」

ベス達に気が付いたコドクは、喜んでそれを迎える。
コドクは、ひたすら、ひょっとして今日こそは前の様に迎えてもらえる…そう信じて挨拶をしたのだ。

ベスの額に、擬似血管が浮かんでヒクヒクと動き出す。
まさに、人間の真似をして感情を表現するだけのためにあるような器官だ。

「ペチャチャ〜♪ペッチュチュ〜♪」

無言で立つベス達に、コドクは先程の踊りをして見せた。

「ペッチュチュン♪ペチャッ、ペッチャー、ベッチュ♪」《どうママ、妹ちゃん達、ワタシもこんなに踊りを覚えたデチュン♪》

バカン!   バチン!

その瞬間、ベスのデスタンガンが空を切って振り下ろされ、コドクのこめかみに直撃すると、
さらに、突き出すように押し込んでスイッチが入る。

「ジュベジャベ!ジョボジャベベベベビョエェェェェ…」

激しい悶絶のまま、コドクは突き飛ばされ、さらに、身体を痙攣させながらその場で転がりまわった。

ベスのデスタンガンは、幸い、棒状の正規品、まったくの護身用のものである。

それだけに電撃の破壊力は正規の実装サイズ実装タタキと同じで少ないが、
振って衝撃が加わった一瞬だけスイッチが入り電撃が走るタタキとは違う。
肉体への損傷は低いが、長い電撃は痺れ以上に、火と同じく実装石に精神的恐怖感も与え戦闘意欲を根こそぎ奪う。
また、警棒状でそこそこの重みもあるため、振るだけでも、軽い実装タタキより攻撃的な護身玩具である。

成体のベスが振るえば、まだその半分程度のコドクには十分な破壊力を生み出す。

「ジョッ…ジョベッ…ペレッ…ペェェェェ」

コドクは、転がるのをやめたが、仰向けでヒクヒク小刻みに身体を痙攣させ、
じょーじょー…っと尿分の多い糞を漏らしだした。
頭は左即頭部がグスグズに凹み、キレイな円柱形の形が”掘り込まれ”ていた。

コドクは正確には肉体的な痛みが存在しない。

だが、蟲毒が眠っている間は、肉体の機能や心はコドクであり、損傷によって血涙も流せば糞を漏らしもするし、
傷ついて体液を失えば、その分ちゃんと動きは弱る。
電撃を受ければ生身と同じく肉体を動かす機能は反応し、
それらの攻撃を視覚で認識すれば、心が受ける痛みもちゃんと発生するように成長していた。



ベスは自分のした行為の結果に打ち震えていた。
後悔等は無い。
沸き起こる表現不能な快感に身体が震えていた。

「キモチイイデス…こんなのいつものコイツへの躾では味わえないデスゥ…」

ベスは高級な飼い実装に相応しく、野良による迫害などを防ぐ護身具の扱いをマスターするが、
実際にそれを使うのも初めてなら、生き物相手に使うのも初めてである。
その高い攻撃力を味わえば、まさに玩具を与えられた子供となる。

ベスは、今度は殴らずに先端の端子をコドクの腹に押し当てスイッチを入れる。

バチバチ!

「ユプユプユプユプァ!!」

もはや糞とは呼べないもの…
固形物が無いためにパンツは膨らまずに液体が足との隙間から撒き散らされ、パンツから染み出す。

バタンバタンと手足が別々に動き回り、身体もカクンカクンと跳ねる。

「デェェェェ…デェェェェ…」
ベスは、涎を垂らし、機械の様にデスタンガンを押し付けては放した。
プリプリ…
ベスも糞を漏らし、どんどんと重みでシルクのパンツがずり下がっていく。


電撃が止めば、サクラとウメがモップの柄で交互に打ち据え、
その間、ベスは余韻に浸って「デフェッ!デフェッ!」と不気味な笑みを浮かべた。

サクラとウメが終わると、ベスが電撃を浴びせ、その間、2匹が休みながらもコドクの崩れていく外観と、
そののた打ち回る様に「テチュチュ♪テチュチュ♪テププププ」と侮蔑の笑みを浮かべた。

もはや、3匹には、当初の目的などどうでも良かった。
ただ、甚振り殺す事だけが目的として存在し、その目的の大儀として自分たちに正当な理由があればよい。

「デヒャヒャ…いいザマデス!のたうつデス!踊るデス!苦しむデス!クソムシへの裁きデスゥ!
 ワタシ達の苦しみを償うまでは、生殺しで苦しませるのが当然の報いデス!」

そうなると、むしろ、殺す事すら目的ではなくなる。
欲が生まれ、思いつく限り苦しませてやろうとする。
自分たちの楽しみの為に…。

パチッ…

「デッ!電池が切れやがったデスゥ…使えない道具デス!まったく、あのババァもトロくて役立たずデスゥ…
 今度はもっと性能のいいのをねだるデス!」

ベスは、堕落を示す言葉を吐きながら電池の交換を始めた。

「何をしているザマスデス?」

いつしか、騒ぎに気づいた実装石達が集まりだしていた。
仲間内の乱闘などにすっかりハマって、その元が何であるかも忘れていた。

「見て判るデス?このワタシのお部屋に勝手に上がりこんだ無礼なクソムシ実装石で遊んでいるデスゥ。
 まったく、実装石のクセに、醜い姿をさらして不潔極まりないウンチムシデス!」

そこに、少なくとも聞き分けの良い礼儀あるベスの面影は無い。

「そうテチィ!ママの言うとおり、コイツはウンチムシな実装石だから嬲り殺しテッチュ♪」

いまや、野良実装より悲惨な姿のサクラがまくし立てる。

「ウンチムシ叩くテチュー♪とってもとっても面白いテッチュー♪ウンコ喰い奴隷もイイテッチュ、蛆ちゃん奴隷もイイテッチュ♪」

もはや、ただのメロンパン脳のウメもモップ片手に喜びを踊りにする。


「「デヒャヒャヒャヒャヒャ!!」」

ギャラリーから見れば、それは、実装石が実装石を苛めると言う余興的光景である。
常軌を逸した顔のベスに、禿に等しい狂気の顔のサクラ、コドクに負けない不自由で滑稽な踊りを踊るウメ…
それが、もはや、グズグスに打ちのめされたコドクをさらにいたぶろうと言うのだ。
飼い実装にとって、割と興味を引く見世物である。

飼い実装が、襲われる危険を知りながらもやたらと外に散歩をしたがる場合、
高い確率で、こうした野良実装独特の虐め風景を見下すように見物して楽しむ為である。
結局、こうした本能として持つ行為には、躾の為に自らが手を出さなくても大好物なのである。

もっとも、ギャラリー自身も、もはや飼い実装とは呼べない本性を晒しているのだが…。


「ペリュ…ペ…ペ…ペリュ…」

コドクは、3匹が会話に気を取られている間に、そのボロボロの肉体で弱々しく這った。
そして、逃げるでなく、3匹の足元に転がる仔実装人形に向かい、その1つの上に覆いかぶさった。

「ペリュリュ…ペッチャー…」《妹ちゃん達…大丈夫デッチュ…》

「テチャァ!足に何か触れたテチィ!クソナマイキに反撃したテッチュー!!助けてママ!!」
「デス?このブタ野郎はまだ動きやがるデス!クソムシ菌が移りやがるデス!望みどおりブッころ…デス?デスゥーン♪」

ベスは、振り上げたデスタンガンを止めて、何かを思いついたようだ。

ベスの見た目にも、途中から手加減していたぶったとはいえコドクはもはや瀕死である。
今、感情のままに一撃振り下ろせば確実にコドクは昇天する。

ベスは、感情と思考の天秤で、珍しく思考を優先させた。


”ここで殺したら楽しめない”


コドクは、懸命に手を伸ばして付近の人形を掴んで腹の下に隠していた。
ベスは、3匹目に手を伸ばしたとき、その手を蹴って人形を拾い上げた。

「ベジッ…ベジュァー…ペッチィィィィ」

その姿をコドクは見上げる。

顔は執拗な殴打で赤く膨らんだり、紫に変色していたり、デスタンガンの電撃のミミズ腫れや焦げ目が出来、
頭の形状はすっかり元の形がなくなっていた…最初の殴打の痕もそのままである。
涎ではなく血反吐を吐いている。

蟲毒が眠っている間も、コドクがコドクで居られる期間を維持する防壁、超高速再生が弱まっていた。
コドクは確かに3匹から、並みの仔実装なら数度は死に至っている暴行を受けながらも、まだ生きては居る。

だが、町の野良実装に責められた時の様に、一撃死を受けない限り短時間に元通り再生…という勢いはなくなっていた。


「サクラちゃん、ウメちゃん…そいつの小汚い人形を奪うデスッ!!」

「「テチュ?!     テチィ!判ったテチュ♪テププププ」」

サクラとウメも、ベスの一言で何をしようというのか理解した。

2匹は、コドクの左右に回ると、その後ろ髪をそれぞれ掴んで引き摺った。
コドクと2匹の体格差は今でも5cmほどもあるが、コドクが抵抗しない限り引き摺れない相手ではない。

本来なら、コドクの肉体は再生して5体満足に抵抗ぐらいは出来た筈である。
それが、今は、そのまま衰弱死しそうな状態でかろうじて息をして動いているだけである。

2匹は残り2体の人形もそうして奪い去った。
足の遅いウメにすらやすやすと奪い取れ、殆ど動けないコドクにはどうすることも出来ない。

「デププ…見せてやるデス」

「テッチュ〜ン♪」

2匹は、まるで、決められた格好でもあるかのように、同じ振りで人形を床に投げ落とし、
モップで叩き始めた。

「ペチュ!ペチュ!ペチュゥゥゥゥゥゥゥゥ」《サクラちゃん!ツクシちゃん!助けてあげてデチュゥゥゥゥ》

コドクの目から肉体の損傷による血涙から、精神的な昂ぶりによる透明な涙が溢れ出した。
コドクもまた、先の飼い実装…そして少し前のベスほどに人形を生きていると信じていた。

コドクは、自分への加虐には慣れていた。
不死身の肉体の所為もあるが、家族を得た事で、それを守る意志が自分への攻撃に対しての支えになっていた。
そして、その分…弱くなった。


先の飼い実装同様の狼狽ぶりにベス達はニタニタと笑い、ギャラリーは腹を抱えた。


ベスも人形を床に叩きつけ、デスタンガンで何度も殴打する。

ポフッポフッと音がするたびに、「ベジャ!ベジィ!」と自らが打たれているように手を伸ばし視覚で楽しめる反応をする。

「デフェッ…デフェッ…デフェフェ」

ベスは人形を再び持ち上げると、その服を裂き、その股間を見る。
人形であるのを忘れ、糞を漏らしていないか確認したのだ。

そして、髪を表現した部分を千切りだす…。
縫い付けてある部分は非常に簡単に千切れてしまい、中の綿が飛び散る。

「ベジベジィ!!ベッジャァー!!」《ウメちやんの服デチュ!!ウメちゃんの髪が大変デチュー!!》

コドクの悲鳴を他所に、再び股間を確認すると、糞が漏れていない事に怒ったのか、
ベスは「デジャァァァァァ!!」と感情をあらわに叩きつけ、人形にデスタンガンを押し付けスイッチをいれる。

「コイツラナマイキデスゥ!ナマイキデスゥ!クソナマイキデスゥ!!!」
行為に対して反応があってこそ楽しめる…その反応の目安たるお漏らしが無いのが癪に障った。

ごく短時間の記憶力の低下…感情的な思考、狭い視野に占有されて起こる記憶・判断力の低下は、
直情思考を生み、癇癪を起こしやすくなる糞蟲堕落の終着駅である。

バチバチバチ…

「ジベジャァァァァ!!ジビッジビッジビッ…ベジャー!!」

ベスは、さらに、サクラとウメが協力して同じ様に剥き破いた2体の人形にも執拗にデスタンガンを押し付ける。
何度も何度も、3つの人形を1つずつ3匹で叩きのめし、破り、電気を流した。

綿が舞い、焦げ臭いにおいが立ち込め、コドクの悲鳴が響き、大勢の笑いが起きる。

いいかげん、原形をとどめなくなった人形は放り捨てられたが、
その人形の中では異変が起きていた。

デスタンガンのごく小さな火花が、中の綿に小さな小さな火種を残した…。
それが乗数的に大きくなり、一気にメラメラと燃え出した。

ゆっくりではあるが、それは床の絨毯にも燃え移り広がりだしていた。

「デス?なんか変なニオイデス…誰デス?オナラなんかした低俗エセセレブちゃんは…」
「デデ!違うザマスデス!オナラじゃないザマスデス!ひひ火ザマスデス!燃えているザマスデスー」
気が付いたのは観客達である。

火自体は、まだ、人形と付近の絨毯をほんの少し覆っている程度でしかないが、
苦手な火を目の当たりにして、一同は大パニックになる。

「「デスデスデスゥ!!」」
「「デギャァァァァァァ!!」」
「「デデデ!デスゥー!!」」

その場で腰を抜かすもの、その為に逃げる者に踏まれるものが居る。
仔を抱えて逃げるものが居れば、仔を置き去りにしたまま逃げる者も居る。
仔実装人形を掲げ、同じ場所をグルグル回りだすものも居れば、近くの壁をひたすら叩き始めるものも居る。
この世の終わりとばかりに、食い物を堅苦しい作法抜きに”野良食い”でガバガバ大口に放り込みだす者も居る。

「デスッ??」「テチッ?!」「テチャチャ?」

3匹は、やや遅れて騒ぎに気が付いた。
その間に、今責めていた仔実装人形からも火種が燻って煙が出る。

「ベジジィ!ベッジャァァァァン!!」

臭いで火種の存在に気が付いたコドクは、懸命に這って近寄り、なんとかその仔実装から出る火を消そうとする。


「デギャァァァァァァ!!ワタシのお部屋が燃えているデスゥゥゥゥゥ!!」

「テチャー!!ママ!何をボッとしているテチィ!!早く火を消さないとワタシのためのお部屋も玩具も燃えるテチュ!!」

「テチュ!違うテチュ!早く逃げないと焼け死んじゃうテチュ!!」

ベスはその場にヘナヘナと腰を落とし、ウメは火を消させようと火元に向かって母親の袖を引っ張り、
サクラは、兎に角逃げようと反対の袖を引っ張って、部屋の出口に向かおうとした。

ビリビリ…

その為にベスの服は容易に裂けた。

「デ…デスゥ?!何しやがるデス!このゴクツブシ!」

「「テジャ!!テッテッテテテテ…テェェェェェェェンテェェェェェェェン」」

服が破れたベスは、感情のままに2匹を掴んで、その顔面同士を激突させた。
糞蟲化の終着駅にたどり着いたベスは、咄嗟の行動が直情的で抑制がなくなっていた。
行動に野良実装並の抑制…この2匹の仔の本当の親程の情も存在しなかった。

本当の親ではないだけでなく、ベス自身が本当の仔育てを経験していないのも、今の行動に現れていた。
そして、それだけに、パーティー用の一番のお気に入りを破られたという事しか頭になかった。

2匹は、いくら柔らかい仔実装同士とはいえ、容赦なく鉢合わせして崩れた顔面を抱えて泣いてうずくまった。


一方のコドクは、なんとか仔実装人形から出る火を消そうと、ボロボロの手でパタパタと人形を叩いた。

「ペリャ!!ペペペェッ!」

だが、悲しいかな実装石の身体は人間の皮膚よりも遥かに燃えやすく着火し易い。
しかも、怪我をしたコドクの動きでは、火種を叩き消すのではなく撫で付けるだけになっている。
あっという間に火が手に燃え移り、風を送る形になり火種は小さな火を上げたのだ。

「ペチッ…ペッチャー!!」

コドクは、燃え出した手の火に臆する事無く、コレでは火は消えないと悟り、
なんと、そのボロボロの身体で立ち上がると、火の出ている人形に優しく覆いかぶさった。

コドクは、知能だけなら優れた母親ケロの血を引いている。
酸素や火の特性と言ったところまでは判らなくても、あいまいながらどうすれば火が消えるかが理解できた。

肉の焦げる臭いが立ち込める。
燃えた手も、なんとか、人形に当たらないように腹の下に潰した。

「ペリャリャ…ペチュァ…ペチー…」

火が消えたのを感じたコドクは、腹の下の、
すでにいたるところが裂けて、原形を留めず中の綿を溢れさせ、黒く焦げ目の出来た人形に語りかけた。

守ったという実感がコドクを安らかにした。

そして、人形の負荷を減らそうとゴロリと横に転がった。

服には腹に大きなコゲ穴が2箇所開き、そこから見える肉は真っ黒にこげて凹んでいた。


コドクは限界を感じた。


痛みは消えたが、肉体は回復せずに弱りきり、何もしなくても傷のために消耗して身体が動かせなくなっていくのを感じていた。

だが、コドクは恐れも、悲しみもしなかった。

自分はやっと妹を守ったのだ。

実装石の自分に出来る限りの事をして守ったという実感が、コドクを納得させたまま死に導こうとしていた。


コドクは、あの公園を出て最初に野良達に酷い目に合わされた頃から、
薄々と自分はあんな事をされて何故死ねないのだろうと考え始めていた。

あれから、何度か似たような酷い目に遭ったのに死ねない事に気が付くだけの精神的成長をしていた。

でも、何故死ねないかは実装年齢なりに成長したコドクにも理解できず考えもしなかった。
痛みもなく、普通なら瀕死の重傷程度の損傷は即座に再生ができてしまうから実感も無い。

だが、今のコドクは痛みは感じないが、確かに肉体が損傷し消耗し回復せずに弱っていく一方なのを実感していた。
そして、その死の実感にコドクは満足感を味わっていたのだ。

《もう十分デチ…ワタシは疲れたデチュ…このママはママじゃなかったデチ…でも、妹ちゃんは守ったデチ…
 きっと今度はみんな仲良くやってくれるデチュ…本当のママ達に逢えないのが残念デッチュ》

コドクは、そっと呼吸をやめようとしていた。

《今日はワタシのワタシは出てこないデチュ…静かデッチュ…判るデチュ…これが死ぬって事デチ》


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騒々しい喚き声と、焦げ臭い臭いに気が付いた飼い主達が部屋の戸を開けた。

『まぁ!!何事です?これは…』
『大変大変!お水お水!』
『何があったのアントワネットちゃん!よしよし、怖かったでしょ』
『キャァァァァァ!ミランダちゃぁぁぁぁん!なんてこと…何があったの…ミランダちゃんお返事をして…』

飼っている実装石と変わらないパニック風景が広がる…我先に我が仔を探そうと躍起になり、
我が仔達が無事で喜ぶもの、悲惨な姿を見て驚くもの泣くもの様々だ。

しかし、そこは人間、パニックを起こしながらも、すぐさま水を運んできた者が消火を始め、
幸い、2体の人形とその付近を僅かに燃やしている程度なので即座に火は消えた。

その後、火はたいした事が無いので通報はされなかったが、
全体の半数近くが負傷しており、同族虐めにより、精神崩壊しているものも居る為に、
実装病院から医師を呼ぶ事になった。


医師が来るまでの間、それぞれの飼い主が我が仔の心配をして付きっ切りになった。

『マリーちゃん、大丈夫ザマス?』

「デス!デスデスデッス!デギャ!デスデッギャァァァァァァ!!」
(遅いザマスデス!ワタシのピンチにはすぐ助けに来るザマスデス!ステーキ程度では許さないザマスデギャァァァ!)

一旦、本能に流される事を味わってしまえば、元に戻す事は容易ではない。
まして、飼い主がその変化に気が付かないようでは、再教育を施す事もなく、
いずれ、飼い主の手に負えなくなるまで放置され、殆どが保健所で処分される運命となる。


『ミランダちゃん…ミランダちゃん…どうして貴方みたいにやさしい仔達が…』

「デッ♪デペッデペッ…デピョ〜デピョ〜デ〜♪デーデーデピョデッピョデー♪」
(ウンコデス〜♪イッパイ降るデス〜ウンコの雪が降ってるデス〜♪ウンコの雪で〜雪ダルマデス〜♪)

仔を殺され、食わされる禁忌を受けたミランダは、
自分で、まだ生きていた半死の仔を排泄口に突っ込み、すでに死んだ仔を食いながら、まだ腹をさすって歌っていた。

「テチ…テ…」身体をグズグズにされて無理矢理排泄口に戻された我が仔は、
頭だけをそこから出した状態でかろうじて息をしているが、その命は風前の灯だった。
そして、ミランダがフン!と力むと、「テ…」と呻いて漏れる糞の圧力で仔の首が千切れた。

「デッ!デッスゥ〜♪デスデスデッスゥ〜ン」
(やっと生まれたデス〜♪ワタシの仔♪ワタシの仔♪ワタシの仔はクサくてウマイデッスゥ〜ン)

ミランダは、詰め込んだ仔ではなく、噴出した糞を掻き集めて、
その糞をレロ〜レロ〜といとおしく膜取りするように舐め、固形物を眺めてから口に放り込んだ。

『ううう…』飼い主は、顔を背けて泣く事しか出来なかった。
こちらは、再教育以前に、処分以外の救いの手は無いのだ。


一方、ベスの飼い主も、ようやくベス達を見つけた。

ベスは、その一番大切にしていたパーティー用ドレスがボロボロに裂け「デェェェェェンデェェェェン」と泣いていた。
その前には、サクラとウメが、体液まみれで崩れた顔面を押さえてのた打ち回っていた。

『ベスちゃん!!』

その飼い主の声を聞いたベスは、「デススゥ!デッスゥデッスゥデスデッスゥ〜♪」
(おいババァ!ワタシの大切な大切な服が破れたデス、即行、もっと丈夫でキラキラするのに買い換えるデス〜♪)

『コレは一体何があったの?どうしてあなたの人形が燃えているの?』
そういいながらリンガルの電源を入れようとした仕草を見て、
ベスは我に返って頭をフルに回転させ、都合の良い言い訳を考えねばならなかった。

「デスゥゥゥ…火が出たデス…とても怖くて怖くて泣いていたデス…
 サクラもウメも、慌てて転んでしまったデスゥ」

『落ち着いてベスちゃん…怖い目に遭ったのね…どうして火が出たの?みんながあんな風になったのはなぜ?
 賢いと評判のミランダちゃんが壊れたり、仔実装の様に可愛いって貴方も気に入っていた翆星ちゃんも可愛そうに…』

「ぜぜぜ…全部、アイツの仕業デスゥ!!」

それを聞いた飼い主は、ほぼ限りなく死に近づいているコドクの身体を探った。
『おかしいわ…火をつけられる道具なんて持っていないわ』

ベスは、自分の手に握られたままのデスタンガンを見て顔を青くした。
そして、オロオロ飼い主の後ろで歩き回る。

その小さな容量の脳味噌で考えていた。
今更、コレをサクラかウメに持たせるのもおかしな話だ。
何とかして犯人をコドクに押し付けてスッキリしたい。

「ママー!!そいつが突然、ワタシ達にヒドイ事を始めたデス!
 とってもとってもヒドイ事で、大人しいワタシ達は怖くて何も出来なかったデス!!
 近所のミランダちゃんや翆星ちゃんがあんなになったのもソイツがヒドイ事をしたデス!
 だから、ワタシ達は一生懸命がんばって、そいつを止め様としたデス!
 そしたら、ワタシ達もヒドイ事をされたデス!サクラやウメがこんな風にされたデス!!
 デッ♪
 見て見てデス!服がこんなにされたのがその戦いの証デスゥ♪ワタシは勇敢デスゥ♪
 そうデス!その時にそいつがワタシからコレを奪って暴れたから、
 近所のミランダちゃんや翆星ちゃんがあんなヒドイ事になったデス!
 人形にもそれで火をつけて暴れ始めたデス!
 だから、ワタシ達はソイツからバチバチを取り上げるのに懸命に戦ったデス!
 ミランダちゃんや翆星ちゃんは、その時に犠牲になってしまったデス。
 でも、ワタシは素晴らしい選ばれた者デス♪たかが実装石如き片手でケチョンケチョンデス♪
 ご主人様にワタシの強さを見せたかったデス♪
 だから、今はコレを私が持っているのはゼンゼンおかしくなんか無いデス♪
 全部コイツのせいデス!」

ベスは大声でまくし立て続けた。

愛護派の悪い点があるとすれば、先の実装石の自主性を重視する点もだが、
もう1つ…自分の飼っている実装石の発言は筋が通らなくても、可能な限り都合の良い方向に汲み取ろうとする点だ。
それは、自分の仔に対しての悪い事を遮断する独特のフィルターである。

まだ、中実装程の大きさのコドクが暴れたところで、出来ることはたかが知れている。
また、その時に身を護る為に多くの飼い実装が護身用具を持っているのだ。
30匹の実装石がそれで一方的に負けるはずもない。
10匹近くの実装石を精神が壊れるようにいたぶり、部屋の中を滅茶苦茶に荒らし火をつける…
しかも、ベスが武器を持っていてもそれを奪い去られたのに、その武器を持ったコドクを一方的にやっつけて奪い返した…
そんな馬鹿な話は、普通の会話では絶対に通用しない。

だが、その御伽噺は信じられた。

他の飼い主もベスの喚きに集まってきていて、その話を信じ始める。

自分の仔は大人しく賢く優しいから、武器を持っていても使わないだろうからありえるのだと…

無事な実装石達も、自分に都合が良い話に、口裏を合わせ飼い主に訴え始める。

真実を語りそうな正直な実装石は、すでに精神が壊れて転がっている。

誰も、真実を語ろうとはしない。

誰もコドクを助けようとはしないのだ。


コドクは、それを人間の手の中で聞いていた。

「ペチッ…ペチューペチュペチュ…」(違うデチュ…ワタシは妹ちゃん達を守っただけデチュ…)


死んでも死に切れないとはこの事だろう…。

コドクは、安らかな死を前にして、自分の無実を晴らそうと消え入る声で死に対して逆らい始めた。

善悪問わずに賢い者にとって、自分に優位な”真実”が自分以外の者に曲げられるのは強いショックだ。

まして罪が理解できる知能を持ったものが一方的に罪人にされるのは人間でも耐え難く、

飼い実装の中には、おやつをつまみ食いしたと疑われ、弁明を聞き入れてもらえない事で精神が死に至る者も居る。


『まぁ…サクラちゃんはそのせいでこんな姿になったのね…
 ウメちゃんも、こんな身体で一生懸命戦ったのね』

「そいつのセイでワタシは転んで、ひざを擦りむくなんて大怪我したザマスデス!吊るし上げザマスデス!」

『まぁ、どうするザマス!マリーちゃんも御宅のベスちゃんと同じ意見ザマス!
 それが悪い事は明らかザマス!!』

「デェェェェンデェェェン、確かにそいつが殴りかかってきたデス♪間違いないデスゥ〜♪」

「ソイツは悪魔のようなヤツデス!ワタシの大事な実装タタキも、ミランダのクソナマイキな仔の血でベトベトに汚れたデス!
 コレではイマイチ叩き甲斐が足りないデスゥ♪新しいのにしてもらいたいデスゥ〜♪
 そんな事より、コレもソイツに奪われて、ワタシが一人でやっつけて取り返したデスー♪
 だから、ワタシが犯人なんてありえないことデッスゥ!!
 それより、ミランダの蛆はちっちゃくてウンコまみれで食う気がおきないデス!ミル実装を食って見たいデスゥ〜♪」

『これは、管理問題になりますわ!』

『うちの娘は、もう立つ事も話すことも出来ない有様ですのよ!』


「ベチッ…ベチュー…ペッチューン、ペッチューン、ペッチュゥゥゥゥゥゥゥゥゥン」
《違う…ママ…みんな…本当の事を言ってデチュ…本当の事を言ってデチュ…本当の事を言って欲しいデチュゥゥゥゥゥゥン》

コドクの両目から…もはや残りの体力もなく死が待つ涙も枯れた身体から、一滴ずつの涙が頬を伝って床に落ちた。


『皆様にはなんとお詫びを言ってよいやら…
 コレは特に害が無いと思って離して置きましたが、こんな事になってしまうとは…
 せっかくご好意で集まっていただいたというのに、大変な事態に巻き込んでしまって。
 皆様の治療費は私が保証いたします。
 それにしても、せっかく飼ってあげたと言うのに、恩を仇で返すなんて所詮は野良実装だわ…。
 ベス達が何とかしなかったらもっと被害が大きくなっていたなんて…。
 もっと早く処分しておけば良かったんだわ!全て悪いのはコイツなのだわ!』

飼い主は、詰め寄って来た人間や実装石達の方に身体を向け、
コドクの両足を其々の手で持って逆さまに吊るすと、ムギッと足を開いていく…

ビチビチ…

股が裂けだすが、出血は多くない。
だが、弱ったコドクは口をパクパクと動かし、手がピクピク反応して痛みを訴える。

その有様を見て、ベスはニヘラニヘラと醜悪な笑みを浮かべ、好奇の光をたたえた目をしている。
2匹の仔も、母親と信じた相手に顔面を粉砕されたのも忘れ、
その様子を見て「テッチャ♪テッチャー♪」(ヤレー♪もっとヤレー♪)とはしゃぐ。

飼い実装にとって、絶対的な力を持つ人間が、自分の指示した物を破壊するのは、
自分が労力を尽くしていたぶるのを超える快感をもたらす。

そして、実装石を人間と平等に…などと口にしていても、愛護…いや、我が仔溺愛派は、
イザ障害を排する為には、簡単に残虐的な行為を行うのだ。


腹が裂け、内臓が零れ落ち、それでも手が弱々しく動き、口の動きが早くなり危機を演出する。

メチメチメチメチ…

人間の力をもってすれば、股裂きで身体を2つに分けるのに一瞬で済む。

わざとゆっくり1分かけて裂いていったのだ。

綺麗に2つに裂かれたコドクを見て、一斉に「「デピャピャピャピャ」」と笑いの大合唱が巻き起こる。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

だが、次の瞬間…


飼い主の隣から、ボワッと淡い炎が舞い上がる。

緑色の綺麗な炎が確かに小さく燃え出した。

そこは、コドクの最後の涙が、落ちた場所…透き通ったエメラルド色の涙が落ちた場所だった。


『えっ何!?』

「「デスゥ!!!!」」

飼い主はコドクの遺体を手放し、一瞬驚くが、すぐに落ち着いて対処した。

それは、とても小さな炎で、何かで覆ってしまえば簡単に消えると思った。

飼い主は、近場のクッションで何度かパンパンと叩いて、そのままクッションを被せた。

『嫌だわ…燃え残りがあったんだわ…念のためにお水を掛けておかな…あっ!』

その次の瞬間…

消えたと思ったエメラルド色の淡い炎が…クッション全体が、まるでガスコンロの火をつけるように発火した。

『きゃぁぁぁぁぁ!!』

「デスゥゥゥゥゥゥ!!」

クッションを押さえていた飼い主の両手にも火が燃え移ると、
その火は、まるで油や着火剤でも塗ってあるかのように腕から身体へと移っていく。

あの人形が燃えた小さな炎ですらパニックに陥った実装石達にとって、
人間を包み込むほどの炎は並みの衝撃ではない。

「「デギャァァァァァァ!!」」
「「デベデビバラベァァァ!」」

『キャァァァァァァ!!』

パニックになるのは実装石だけではない。
それぞれの飼い主達も叫びをあげてパニックに陥った。

人間が突然燃え上がったのだ。
パニックにならないほうがおかしい。

哀れなベスの飼い主は、肌を焼く炎を消そうと手で身体を叩き床を転がる。

『ギャァァァァァァ!!!ああああ!アギャァァァ!』

皮膚が焼けとけ、捲れ落ちていく。

だが、人間は明らかに、その損傷以上の痛みを受けながら、肉体は死に至らなかった。
酸欠、ショック…それらで、動けなくなってもおかしくない状態に至り、
皮膚が炭化し、その下の脂肪や筋繊維までもが焼け溶け、炭化を始めても、もがいて苦しんで叫んでいた。

それは、まるで、コドクの無念の…怒りの抗議が炎となったように焼き、責めているようだった。


そう、コドクは安らかな死を前に、その死に逆らって抗議の涙を2粒床に落とした。
その涙は、コドクがその意思で押さえ切れなかった怒り…。
それが床に敷かれた絨毯に染み、コドクの死によって開放された。

僅か2滴のエメラルドの涙は、
だが、確かにそれは数百数千という、今や実装石に留まらない”行き場を失った命”の集合体。
コドクの無念の感情を”最後の糧”に産み落とされたそれは、
実装石が最も忌み嫌う炎の姿となって具現化したのである。

それは、生き物を焼き尽くす炎ではあるが、炎ではない。
確かにそれは蟲毒である。
入れ物を求め、永遠に彷徨う命の炎である。


公園に居た時、野良達に襲われたとき、コドクは死に瀕して”戸惑う”だけであった。
今は、相手を”恨む”程の感情を残したのだ。


ブワッ…

床のいたるところからその火が起きる。

人間達は素早く、この部屋唯一の出口に殺到した。

だが、取っ手に触れた瞬間…

『あぁぁぁぁぁつぅぅぅぅぅぅぅいぃぃぃぃぃぃ』

「デベギベギバギガァァァァァ!!」

ジュッ…という音と共に、取っ手を握った手から煙が上がり、手を離すと皮膚が解けて焼きついていた。

同時に、戸をドンドン叩こうとした実装石も、同様に手が戸に焼きついた。

そして、その手からエメラルドの炎が見えると、
ベスの飼い主同様に舐めるように炎が皮膚を焼きながら登っていった。


宿主たるコドクによって怒りの感情を植え込まれた蟲毒は、戸惑いの蟲毒よりもさらに攻撃的だ。

より素早く広範囲に絶対に相手を逃さない様に炎で取り囲む。

蟲毒の炎だけではない…

そうしている間に、コドクがその身を持って消したはずの3つ目の仔実装人形から、
コドクが覆って燻っていた小さな火種が、再び大きくなった…。

2つに裂かれたコドクのそれぞれの断面から流れ出ているエメラルド色のゲルが、
その火種の周りで、うちわの様な形に変形して扇いでいるのだ。



『あつい…あつい…』

『ゴホゴホ…助けて…助けてぇぇぇぇ』

「デギャァァァァァァ!!燃えるデス!高貴なワタシを助けるデス!ニンゲン!なんとかしやがれデスゥ!!」

もはや、仮面をつけていられないと、しゃがみ込んだ飼い主に蹴りを入れている実装石がいる。

飼い主はここにきて、直感的に我が仔が糞蟲であることに気が付いた。

だが、それを知った所でどうすることも出来ない。

「デギッ!なにを…  デッ!違うデ!  火を消せといって… デギャ!デッギャァァァァァァ!!」

精々、傷つけられた飼い主としてのプライド分、我が仔を床に擦りつけ、火の中に投げ込む程度である。


あるものは、残った水を撒いてみる。

だが、火は消えるどころか、その水の上をエメラルドの炎がさぁーっと走って、
バケツを持った人間に襲い掛かってくる。


ベス達は苦しむ飼い主を無視して、逃げ出そうとしたが、
その目の前に、3体の仔実装人形が炎をまとって踊っていた。

裂かれボロボロに綿をはみ出させた人形が踊りながら歩み寄ってきた。

ベスとサクラ・ウメコンビは、それぞれ別のほうに逃げ出すと、さぁっと炎が進路に向かって燃えていない道を開いた。

そして、それぞれを分断して炎の中に孤立させた。


ベス達は炎の中で怯え、戸惑い、愕然とひざを屈した。

サクラとウメは、何とか火の暑さから身を守ろうと、自らが漏らす糞をベタベタと身体に塗り付けだした。



そのベスの前に、炎の壁の中からゆらりと仔実装人形が現れた。

「デェッ!デデェッ!!」

ベスは糞を漏らしながら後ずさりをした。

チョンチョン…

肩を叩く感触にベスは、「サクラデス?ウメデス?ワタシを助けるデス!!」と声を上げて向き直ると、
そこには、やはりボロボロで真っ黒に焦げた小さな仔実装人形が肩を叩いて立って…いや、浮いていた。
そして、その人形は自身の頭をクイックイッと指し示した。
頭には燃えていない桜色のリボン…確かにそれはサクラだった…人形の方の…

「デデデデデァッ…」ベスは口をパクパクと開閉しながらその人形から逃げようとすると、
再び、背後から肩を叩かれる。

「デヒィッ!!」ベスは鞭打たれたように一瞬震え、カチカチと硬直した。

すると、横からヌッと破れた仔実装人形の顔が覗いて、ベスの左手に掴まると、やはり、自分の頭を指差す…
その頭には、やはり燃えたはずの真っ赤なリボンが鮮やかに残っていた…ウメ人形の印だ。

「ヒドイテチ…ヒドイテチ…」ベスの頭に声が響く…

「ママヒドイテチ…ドウシテ サクラ ヲ ステルテチ…」
「ママヒドイテチ…ドウシテ ウメ ヲ イジメルテチ…」

サクラ人形も宙をすぅーっと漂ってくるとベスの右手を取る。

「ワタシタチハ ママニ トッテモ カワイガッテモラッタテチ… ママハ ワタシタチガ ダイスキテチ…」
「ワタシタチハ ママヲ トッテモ アイシテイタテチ… ワタシタチハ ママガ ダイスキテチ…」

「デデデデ!デェェェェェ」ベスの両目は見開かれ、顔は青ざめ脂汗が垂れ流される。
糞は出ない…両足は内股で閉じられたまま硬直して、腹がポッコリと膨らみだす。
人間で言えばキンタマが縮み上がって体内に引っ込んで痛くなるのと同じ状態で、
意思とは無関係に排泄口周りの組織が必要以上に収縮・硬直してしまっている。

「ソレナノニ コンナメニ アワセルナンテ トッテモトッテモ…」
「トッテモトッテモ… ヒドイ ママテチ… ワタシタチハ モウ ナオラナイホド コンナスガタニ ナッチャッタテチ…」

「イマサラ ジブンダケ タスカリタイテチ? ソンナムシノイイ ハナシ ナンテナイテチー」
正面からゆっくりゆっくり、炎を纏った人形が迫ってくる。
その人形も頭を指しており、炎の中というのに、ベスにははっきりと黄土色のリボン…ツクシ人形のリボンが見えた。

「ナンド ワタシタチヲ コロステチ?」サクラが囁く。
「ナンド ワタシタチイガイニ イモウトヲ ツクロウトシテ コロステチ?」ウメが囁く。

「デモ ワタシタチハ ママヲ アイシテイルテチ… ダカラ ゼンブ ユルステチ」ツクシが笑っているように見えた。

「ワタシヲ コンナフウニシタノモ」
「ワタシヲ ステタノモ」
「ゼンブ ユルシテアゲルテチ… アイシテイルカラ ゼンブ ユルシテアゲルテチ」

「デッ…おまえたち…」その一言にベスは気が緩んだのか、ブシャーっと腹に溜まった糞が零れ落ち始めた。

「「ダカラ ワタシタチト イッショニ… ”エイエンニ イッショニ ナルテチ!!”」」

燃えるつくし人形がベスの胸に飛び込んでくる。
右手にしがみ付くサクラ人形もバッと燃え上がる。
左手のウメ人形も炎を上げる。
そして、それぞれの人形の背中からエメラルド色のスライムが躍り出ると、
ベスの身体を伝って、その開きっぱなしの口から体内に潜り込んでいった。

「デギャァァァァァァァ!!」
「「テチャチャチャチャチャチャ… ママ アイシテイルテチ テチャチャチャチャチャ」」

ベスは、自分の欲求を満たす為だけに振りまいた愛情を蟲毒に利用され、
思い出させられた3つの人形絵の愛情、
捨てるように産み続けた我が仔達への後悔の念を認識させられ、食われて焼け崩れていった。



一方の仔実装の方のサクラとウメも蟲毒が責めていた。

糞を懸命に漏らしては塗って居るサクラとウメに、炎の中から囁く声がする。

「テチャチャ…テチャチャ…」

「テチィ!?気のせいテチ…熱いテチ…足りないテチ…塗らないと死んじゃうテチ…」
「ウンチ塗るテチ…身を守れるテチ…ワタシ達はやっぱり選ばれた者テチ!!」

サクラがキョロキョロと見回すが、周りは炎の壁で誰かが居る筈も無い。
サクラは再び、気張りの姿勢を取り糞を垂れ流しながら、それを身体に塗りたくって熱さを遮ろうとした。

「テチャチャチャチャ…ウンコムシテチ…ウンコムシテチ…」

「テチャ!!誰テチ!!」
「笑うのは誰テチ!!」
そう叫んだ2匹の前に現れたのは、炎の中に浮かぶ3体のボロボロの仔実装人形…。

「テチャチャ… ワライモノテチ ハズカシイテチ ミニクイテチ」
「テチャチャ… ジブンガ ナニヲシテイルカ ワカラナイ ウンコムシテチ…」
「テチャチャ… ジブンガ ヒトヲ バカニスル マエニ ソノ スガタヲ ミルテチ」

得体の知れない恐怖に、2匹は抱き合ってブピブピとその姿勢のまま固まって糞の山を築いた。

実装石の糞は感情や状況に応じて自在に糞の硬さも量も決められる。
実装石にとって野生の本能的に身を守る武器でもあるからだ。
それが恐怖で暴走し、自分の体積の半分を超えるほどの糞の山を作り上げた。

「ワタシタチヲ ミルテチ… コンナメニ アワサレテモ ウンチ ナンテ モラサナイテチ ソレガ セレブト イウモノテチ」

「や・や・やめるテチ!!笑うなテチ!違うテチ!ワタシはウンコムシじゃないテチ!立派に人間に飼われたエライ実装テチ!!」
「そ・そうテチ!ワタシ達は賢く美しい実装テチ!実装石みたいなウンコムシじゃないテチュー!!オマエ達みたいな人形でもないテチ!!」

「「テチャチャ… ウンコムシ ウンコムシ ソコニ イルノハ ウンコムシ」」

「「違う違う違うテチ!!ワタシは選ばれた実装テチ!ワタシのこの服が証…テテテ!!」」
2匹はお互いに自分の姿を確認するが、その全身は自分で塗りたくった糞に染められていた。

「「クサイテチ ノラテチ ノラテチ ソコニ イルノハ クサクテ ミニクイ ノラテチ」」

「テ・テ・テチャァァァァァァァ!!違うテチ!ワタシは野良なんかじゃないテチ!歌って踊れるサクラテッチィ!
 ママも褒めてくれるテチ…ご主人様も喜んでくれるテチ…間違いテチ…野良は間違いテチ!」

「テ・テ・テチュゥゥゥゥゥゥゥ!!違うテチ!ワタシは醜くなんか無いテチュ!黙っていても皆が世話してくれるウメテッチュ!!
 ゴハンも手を使わずに食べさせてもらえるテチュ!何でも命令だけでやってもらえるテチュ!野良には真似できない生活テッチュー!」

2匹は力強く叫びながらも、頭を抱え何とか耳を掴んで引っ張り、耳の穴を覆い隠して震えた。
野良が幸運にも人間に拾われ、さらに新しい母親に溺愛され勘違いをした。
それだけに野良と見られる事を極端に恐れた…無駄に自身を高く見てプライドを肥大させた。
だからこそ、コドクという存在に噛み付き固執したのだ。
そして、今は、それを蟲毒に責められる立場となった。

「オマエハ ノラテチ タカガ ノラテチ… ドレダケ カクシテモ リッパナ ノラテチ」
「ソノ スガタガ ナニヨリノ アカシテチ… クサイノラ ミニクイノラ ウンコムシノノラ」
「ソレデ ヨク ホカノモノガ ワラエルテチ… ワラウノハ オマエヲ ミタ スベテノモノテチ」
「「テチャチャチャチャチャチャチャ…テチャチャチャチャチャチャチャ…」」

「「笑うなテチィ!!笑うなテチィ!!ワタシを笑うなテチュー!!聞きたくないテチ!認めないテチィィィィィィ」」
2匹はそう叫ぶと、ブチッと自らの力で引っ張りすぎた耳が千切れた。

千切れた耳を手に、半狂乱になって自分が築いた糞の山に頭を突っ込み、その中でもがき苦しんだ。

やがて炎の中の人形たちの姿は消え、エメラルドのスライムがその中から姿を見せると、
糞の山に頭から突っ込み、窒息寸前のサクラの露出した下半身を伝って、
その排泄口から体内に侵入すると、内側からそれぞれを焼いて蒸し焼きにした。

2匹は哀れにもヤケクソを体現する惨めな姿で食い尽くされていった。




僅か5分で、部屋には逃げ場がなくなり、悲惨な3匹を他所に人間も実装石も燃え踊っていた。

全ての実装石と人間が全身を焼かれた瞬間、その炎は突然と消えた。

だが、焼かれた者達は、その焼かれた姿のままのた打ち回り続けた。

部屋はゆっくりと本物の…ツクシ人形から煽られた火が少しづつ着実に広がっていた。

本当の炎がさらに全てを燃やすまで、何十分も、皮膚を焼かれた者達は死ねずに叫びをあげ続けた。

そして、その本物の火の中…2つに割れて捨てられたコドクの中から伸びたエメラルドの触手が蠢き続けていた…。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「こちら双葉町消防分隊…△島邸火災、○時○分消火終了!」

10台近い消防車両がかき鳴らすサイレンが止んだとき、
この閑静な高級住宅地の一角にあった邸宅の姿は、
その半分程度が黒焦げの骨組みだけ残っていると言う、ほぼ全焼の無残な姿を晒していた。

コドクの蟲毒が目覚めてから3時間…通報の遅れが原因だった。

もっとも、この近所一帯のご婦人方は、殆んどがこの家に集まっていただけに、気付いて通報するものなど居なかった。
呼び出されて遠くから来た実装医師が到着して、既に家の内部を火が占有していた状態で通報したのだ。


防火服に身を包んだ消防隊員が、まだ、熱気の残る元室内を手分けして捜索している。

「遺体らしき物はまだ見つかっていません…」

「ご主人の話では、今日は婦人が1日中、飼い実装と家に居るはずだと…」

「近所の婦人もこの家に集まっていたのでは?という話です」

「なら、なんでこれだけガレキをさらっても骨の1つも見つからんのだ!?」

幾ら家を焼き尽くす炎とはいえ、人間の骨が形が崩れるほどの灰になるのには900℃以上で焼き続けなければならない。

普通の火事では瞬間、部分的にその温度に達してもそれが常時維持される事は無い。
密閉された火葬場の焼却炉でも800℃は必要である。

そして、人体は水分を大量に含んでいる肉に覆われているために、
骨までが容易に跡形も無くなくなる事はありえなかった。

まして、近所だけで十人近くの人間が、この家のどこかに居たという事になっている。

そのために、燃え盛る火の中に、完全装備で何度か部下が飛び込んで捜索し怪我までしている。

「ご婦人方はペットほったらかしでのんびり外食…ペットが悪戯で出火…だったりしたら目も当てられませんよ」

「なら、せめてペットの骨でも見つけにゃいかんだろ?あとで、ちゃんと調べなかったとか言われでもしろ…」

「隊長…知らないんですか?実装石は普通の生き物とは違って燃えやすいんで、こんな火事だと文字通り骨も残りませんよ」

「原因の特定は難しいですね…台所は無論…この季節に暖房器具は早いですし。
 燃焼度合いから言ってこの場所が一番長時間燃えて居たのは間違いありません」

「綺麗に燃えたとはいえ…この部屋には”装飾品”も何もなかったのか?」


カタカタ…


隊員たちが、一応、火元と特定した部屋の跡地で話しこんでいると、何か動くものがあった。

隊員がすっかり炭化した板を動かすと…

「ペチュ…」

1匹のうつ伏せの実装石がキョトンと顔を上げた。

「うわ!生きてる!!」

この火事で、実装石が生きているとは信じ難かった。

その実装石は、まるで火事になど遭って居ないような、身奇麗な格好で「ペチュペチュ」と頭を振っていた。

「ひょっとして、コレが婦人の飼っていた実装石?」

「バカを言うなよ…この火事で、ココに居て、こんな綺麗な状態のわけがないだろうが!ね!隊長」

「俺をバカにしているのか?実装石が火傷したら再生できない位の知識はあるぞ!
 きっと消火後に迷い込んできたんだろう…」

物理的に、ここに存在していたものは助からない…
出火の原因や行方不明の人間など、説明できない事が多すぎた彼らは、
この実装石には物理的な枠に推し留めようと解釈した。

コドクは「ペッチー…ペチッ」とゆっくり立ち上がると、パンパンと身体に付いたすすを払い落とし、
無視して話し込む隊員達をよそに、その足元からボロボロで半分焦げた仔実装人形を抱え上げて、
「ペチャー…ペチャー」と喜び、しっかりと抱きしめるとヨタヨタと歩き出した。

「あれ?あの仔実装何か持っていたような?」
「実装石ぐらい放っておけ!それより原因の特定だが…」



コドクは実装石であって、もはや実装石ではない。
その肉体は1匹の仔実装であって、数百数千…蟲毒が吸い取り続ける限り蓄えられる命のストックを持っている。
蟲毒が働く度に、吸い取った命で入れ物たるコドクは再生してしまう…そして守られてしまう。
火の中ですらコドクの肉体は再生し、コドクを…人形を包んで守ったのだ。

火をつける為に煽ったあと、蟲毒は役目を終えたつくし人形を包んで火を消して守った。
コドクの強い思いが、かろうじて1つ、妹を少ない損傷で守ったのだ。

コドクはその意思で、蟲毒を…その発動条件たる感情を抑えるところまで来ていた。
そのお陰で、コドクの蟲毒は発動せず、餌が無い為に浅い眠りのままコドクの見聞きするものを蓄えた。

だが、発動しない限りはコドクはコドクで居られた。
そして、継続的に”餌”が得られず、発動する事も無い蟲毒は深い眠りに落ち、コドクを守る力が弱まった…

コドクは自身の成長のお陰で、まともに死ぬ機会を得たのだ。

だが、蟲毒を身体に宿す不幸を背負ったコドクは、その機会にも死に辿り付く事はなかった。

絶対の力と永遠の命の代償…それは、永遠の孤独を背負い生き続けるという事に他ならなかった。


コドクは、誰の気にも留められる事無く、再び町の中を彷徨い歩き出すことになった。

それは、いつ終わるともしれない永遠の放浪者の旅である。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

コドクな実装石 … つづく

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