漁港で生活している猫達はわりと健康的な個体が多い。 釣り人が雑魚を分け与えたり、 毎日のように漁師達のおこぼれを食べられるからだろう。 実装石の場合はどうだろう? 気になったので漁港まででかけてみると 「お前の釣った魚は、美しいワタシが食べてやるデス ありがたく思うがいいデス」 勝手なことを言いながら釣り人のまわりで騒いでいる実装石がいた。 実装石の態度に怒るでもなく無視を決め込んでいる釣り人。 愛護派ではなさそうだが、虐待派でもないようだ。 しばらく見ていると、竿先がわずかに動いた。 黙ってリールを巻き上げる釣り人。 海から小さい赤茶色の魚が上がってきた。 釣り人は特に反応をしめそうともせずに魚を靴底で踏みつけて針から外すと、 実装石のほうへと蹴り飛ばした。 目の前で跳ね回っている小魚を見て 「高貴なワタシがこんな雑魚で満足するとおもってるデスか!! 次はもっと大きい魚をよこすデス」 と文句を言いながらも小魚の尻尾を掴んで走り去る実装石 小物とはいえ、せっかく釣果を与えたのにあんな反応をされたのでは釣り人がいたたまれない。 「酷い態度ですね」と僕が話しかけると、 「いつものことだよ」 と釣り人は苦笑いをしていた。 「いつもあんな調子なんですか?」 「そうだよ。 まぁ、寄ってくるのは違う奴なんだろうけど、同じようなことを言われるね」 「失礼ですが、何故あんなことを言われるのにエサを与えるんですか?」 「もうすこしすればわかるよ」 釣り人がそう言い終ると駐車場の方向から実装石のものと思われる悲鳴が聞こえてきた。 「なにか、ものすごい声が聞こえてきましたね」 「たぶん、駐車場の隅にいると思うから、見てくればどうだい?」 「そうします」 駐車場につくと口から血を流してのたうちまわっている実装石がいた。 「痛いデス、お口がとっても痛いデス」 どうしたものかと見ていると、実装石は海の方へと転がっていき、 ボチャンというあっけない音と共に海の底へと沈んでいった。 「実装石がのたうちまわってましたよ」と僕が報告すると 「そうだろうなぁ」 と気にも留めていないような返事が返ってきた。 「あの実装石はどうしたんですかねぇ?」 「ん? 君はあまり魚のことには詳しくないようだね」 「はい、確かにそうですが・・・ もしかして、さっき釣り上げた魚ですか?」 「あぁ、そうだよ あの魚はハオコゼといってね、人間が刺されても病院に駆け込むような毒を持っているんだ そんな魚に噛り付いたんだから、半狂乱にもなるさ」 「わかってて蹴りましたね?」 「もちろん。 いちおうはワタシも虐待派ですからね」 しばらく釣り人と会話を楽しんでから家路についた。 エサがどれだけ豊富にあったとしても、結局は虐待派のおもちゃにされていたのでは、 あまり健康的な生活だとはいえなそうだ。
