コドクな実装石 〜 飼い実装編 偽りの家族 〜 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− コドクは彷徨い続けた。 仲間の姿を求めて… だが、コドクが懸命に寄っていけば行く程、コドクは虐げられ、そしてコドクの周りの実装石は居なくなった。 コドクを残して消え去ってしまうのだ。 コドクはいつしか、仲間とも距離を置くようになった。 自分が仲良くなろうとすると、居なくなってしまうのが判ってきたのだ。 だから、少し離れて見守る事にした。 ただ、物陰から楽しそうな日常を見ているだけ、それで、家族が居るような妄想を重ねて、 ブツブツと独り言を呟いて楽しんだ。 そうしてコドクは、この町の中でひっそりと町の景色を見ながら生活していた。 いつか、自分を受け入れてくれる家族が居る事を願って… −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− コドクは、いつしか彷徨うのに疲れたのか、ビル同士の隙間に居を構えて生活していた。 とはいえ、まだ、親に甘えていたままでしかない仔実装のコドクには、知識としての生活能力は乏しかった。 もし、蟲毒になっていなければ仲間の迫害を受けないとしても、とても生きていられるレベルではない。 家の戸を示し、雨風を凌ぐのは、捨てられた雑誌を立てかけてあるだけ、 かろうじて、道路からその幅30センチばかりの”隙間”の奥に何が居るのかを隠している程度でしかない。 むしろ、その不自然な物体がある事で、姿は隠せても、存在している事を宣伝してしまっていた。 その隙間でコドクは、水を吸った新聞紙の上で、ビニール袋をブーケの様に羽織って丸まって震えていた。 陽の差さないビルの隙間は、夏が過ぎて寒くなる一方だ。。 コドクが目を覚ましている間に受けられる蟲毒の恩地は、飢えや暑さ寒さなどでは直接的に死なないという事でしかなく、 少なくとも感じる暑さ寒さは普通の実装石と同じであるが、 それを独力で何とかするだけの知恵も力もコドクには満足に無かった。 さらに孤独であることが、より一層の無力感をコドクに与えて責めていた。 家族がいれば、分担して何かが出来る。 家族がいれば、何かをしよう、しなければという気力も生まれる。 家族がいれば、身も心も寄り集まって温かくなれる。 行動のヒントもキッカケも家族や仲間が居るから出来、それにより経験出来るのだ。 それが出来ないコドクは、只でさえ無力な仔実装をさらに無力にした実装石だった。 そして、それをコドクに教えられる物は存在しない。 生き抜く知恵を尽くし抵抗しなければ死によって全てが終わる。 それを毎日繰り返し知識で教える家族も居なければ、時に体に刻みつけて後悔させる仲間も居ない。 コドクは、寒さに震えながら、目の前にある泥まみれのピンポン玉を「ペチュ」と手で押して、 それが転がる様を見て「ペチュチュ♪」と無気力に笑った。 家族が居た頃、母親が拾ってきたボール…それを思い出して拾ってきたのだ。 一人でそれを転がして、何がおもしろいのかコドクには判らない… 野良のコドクにはボールは何匹かで転がしあう遊びがおもしろいのだ。 だが、玉が転がっている間は、妹達と遊んでいた頃を思い出させてくれる。 コドクの唯一の、寂しい娯楽と呼べる物であった。 それも、ヘコミだらけのピンポン玉は、あまり転がらず、コドクはすぐに飽きてしまう。 コドクは玉転がしに飽きると、ヨタヨタと路地の方に歩いていき、 雑誌の影から、ちらっと外を覗き出す。 見えるのは町の喧噪、そして、そこに生きる実装石達の悲哀。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 今日は、朝からコドクの住む場所の前、丁度、歩道の向かい…車道寄りで、 8匹の仔を連れた一家が道に新聞紙を敷いて、まさに物乞いのように道行く人に物をねだっていた。 コドクが朝に見た頃には、一家はそれなりに恵まれていた。 一家揃って、踊って見せたりして人間の気を引いて、なにがしかを貰えていた。 それに気をよくしたのか、一家は、そのままその場所に居続けた。 だが、居続ける事は賢い事ではない。 人通りは少なくなり、暇な時間になると気が緩んで、この場所が定住地のようにくつろぎ出す。 怠惰の姿を見せる野良実装石は、無関心な人間が見ても気持ちの良い物ではない。 仔達は好き勝手に遊び回りだし、親はグデッと横になって尻を掻きながら居眠りを始める。 「ママー、トイレトイレ!ンコ出るンコ出る!」 「漏れちゃう漏れちゃうテチュ!みんなの前でお漏らしはイヤテチィー!」 「トイレ!トイレ!いつもみたいに出したの食べるのダメってママ言ったテチィ!!」 「デス?我慢できないならココにするデス…」 親は面倒くさそうに、人間が何か入れてくれる事を期待して置かれた空き缶の中から、 低いシーチキンの缶を仔の方に差し出す。 3匹ばかりが、それにイソイソと集まり、スカートを捲り下着を脱いで少し高い缶に尻を乗せる。 ブリブリブリ… 「みんな見ているテッチュ〜…少し恥ずかしいテチュ♪みんな好き者テッチュ〜」 「イッパイ出るテチィ!まだまだ出るテチィ♪信じられない程でちゃうテッチュー♪」 一応、恥ずかしがりはしているが、お構いなしに排便音を響かせる。 半端に朝の収穫があっただけに、その量も臭いも強烈である。 そして、それがより人を遠ざけているという事に気が付かない。 車が行き交う道の側でも、親実装はふてぶてしくその汚れた肉体を横に、車の音に負けぬ鼾や歯軋りを響かせ眠り、 仔達は、親に習って眠るなり、好き勝手に遊び出す。 「テチテチッ…ママ…イッパイ追いかけっこして疲れちゃったテチュ…お腹空いたテッチュ」 揺すって起こす仔に、やはり面倒くさそうに、前に置いた缶をキョロキョロと見るが、 そんなに都合良く何かを入れて貰える事はない。 せいぜい、タバコの吸い殻が入っている程度で、親はそれを手にクンクンと臭いを嗅いで、ポイッと道に投げ捨てる。 そして、再びキョロキョロして、自分の後ろにある、仔実装の糞入れにした缶を見つけると、 それをクンクン嗅いで、ギョッと顔に皺を作るが、それをスッと仔実装達の前に差し出す。 「なんか供物が残っていたデス…お昼の前に食べておくデス」 実に実装石らしい思考である。 「テッチュ〜♪まったりしてなかなかおいしいテッチュー♪」 「テチテチ…ングッ…ゲフー…食い応えあるテッチュー♪ニンゲンの供物はウンコとは比較にならないテチィ!!」 遊んでいる間に、自分たちの糞であると認識できなくなっている仔達も実に平均的実装石らしい。 通りがかりの人間は、その臭いと姿に眉をひそめて駆けていくばかりである。 その場で駆除されないだけ幸運に恵まれている事には気が付かない。 そんな状態であるだけに、かき入れ時の昼の時間帯には、朝とはうって変わり、まったく統一性がない。 実装石の踊りは、人間から見れば悪い物を食べてのた打ち回っているのと大差が無い。 しかし、複数匹が息もピッタリと踊れば、不思議と良く見える。 数が多ければ、さらにあっていなくても誤魔化しが利く。 連携が知恵や知能を感じさせるので、他の実装石より頭が良く見え、 数が居れば、そういう踊りなのだと思われる為だ。 しかし、緊張感が無い今は、連携どころか、何匹かがグースカ鼾をあげて寝ている始末。 むしろ心象を悪くするだけである。 それでも、親はそれなりに機転を利かせ、寝ている仔の傍に駆け寄り、 軽く揺すって見せ、隠れて手を舐め、それを目の下に塗り涙を流している様に見せながら、 「デスデスデッスゥゥゥゥゥ…この仔は飢えて死にそうデス動けないデス…タスケテくださいデス! ワタシはとっても悲しいデス…せめて食べるものがあれば助かるデス、食べ物ワタシにくれデス」 と演技をしてみる。 しかし、その仔の盛大な鼾と、揺すられた事で寝ぼけ、 「うるさいテチィ!このくそババァ!!」と演技をする親の鼻っ面にパンチを咬ましてしまして台無しにする。 それ以前に、ワザワザ、その親仔相手にリンガルの表示を見る人間など居ないので、 見た目が全て…言葉はまったくの無意味である。 必死の親実装は、策が功を奏さない焦りからか、今度は堂々とその仔の足を食いちぎり出す。 「テチャ!!テチャァァァァァ!!」 「大変デス!この仔は大怪我をしたかわいそうな仔デス!!やさしいニンゲンさんに飼ってタスケテ欲しいデスゥ♪」 と足を失った仔を抱え上げて、道行く人間に見せびらかす。 だが、その最後の賭は、さらに逆効果だった。 只でさえ、生々しい傷を負った実装石を見せびらかしても一般人からは引かれるだけ、 さらに、それを口の周りにベットリと体液を付けた親実装が掲げていてはなおさらである。 そして、それを見た仔実装は、母親の行為を真似して、寝ている別の仔に何匹かで襲いかかる。 「テテ!テチャ!イタイ!!お前達何して!テピィィィィィ…」 「テチャ、テチャ!この遊びおもしろいテチュ!殴られたらナンバイにもしてお返しスッキリテチュ♪」 「テチュー!いろんな方向から一斉にやると殴られないテチュ♪ワタシ賢いから勉強したテチ!」 往来の中で繰り広げられる、生の惨殺ショーに手を差し伸べる人間など居はしない。 仔達の行為に気が付いた親は、自分の事は棚に上げて怒りだし止めさせる。 「なにをやっているデス!ニンゲンの見ている場所でそんな事をしてはいけないと何度言えば判るデス!」 バチン! 「テェェェェェェェェェェン!!イタイテチ!ママがやって楽しそうだったからテチィ…」 バチン! 「テピャ!!テェ…テッ…テ…テ…」 「口答えするなデス!」 まさに、自身で自分たちのボロを暴き出していく。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− その騒ぎの一部始終をコドクは、黙って見つめては時折「ペチュ〜ン♪」と甘えるように鳴いたり、 「ペチャー…ペチャー…」と寂しそうに鳴いたりしていた。 コドクには、騒ぎの正確な内容は伝わらない。 それだけに、”いつも”の様に、その姿を勝手に幸せな家族の団欒な姿として解釈しているのだ。 やがて、再び人通りが少なくなると、親実装はイライラと落ち着かない動きをする。 「ママー、ニンゲン、供物置いていかなかったテチ…お腹空いたテチュー…」 「お腹空いたテチュー!本当にコレじゃ死んじゃうテチ!」 「朝にお腹ポンポコリンになるほど食べただけテチュ!これじゃ育児放棄テッチュ!!」 働こうが働くまいが、食おうが食うまいが、気が付いたときが空腹感を感じるのが実装石。 動ける3匹の仔は、盛んにイライラしてしかめっ面でクルクルと同じ所を回る親について回り、 スカートを引っ張って空腹を訴える。 親実装は、グッと手を振り上げたが、この場は思いとどまって、 先程のシーチキンの缶を仔達の前に置き、今度は自分がその上に尻を出して、 ブリブリブリと激しく糞を落とした。 仔達とは比べ物にならない山盛りどころか缶が埋まってしまう量を出し終えると、 厳しい口調で「いつものヤツデス!好きなだけ喰いやがれデスゥ!!」と言って、再びブツブツと呟き歩き出す。 次はどんな手で人間から物を貰うか、それしか親の頭にはなかった。 「「テチュー…またウンコテチュ…クサイしマズイテッチュー」」 そう不満を漏らしながらもがっつき出す仔達、負傷した仔達もヨタヨタとそれに加わる。 糞と認識すれば途端に不満を感じる思考も思考だが、 それでも普通に喰ってしまう思考も実装石の見本のような家族である。 暇な時間が増えると、再び鬼ごっこが始まる。 今度は、そのうちに何匹かが新聞紙の”テリトリー”を超えてはしゃぎ回り、気が付かずに車道にまで飛び出す。 ペシャ!! 「テパァ!!」 「「テチュワァァァァァァァァ」」 鈍い音と共に、1匹が華麗にシミとなる。 2匹が早めに気が付いて腰を抜かしたために、下半身を潰されたり、跳ね飛ばされてガードレールに激突した。 下半身を潰された仔は、自らの返り血で両目を赤くして、潰れた腹が膨らみ苦しんでいる。 「テピッ!足が無いテチィ!テッピャァ!!ポンポイタイテチ!ナニカ動いてるテチ!苦しいテチ!ポンポ裂けちゃうテチュ!!」 出口が潰れ、妊娠期間無しの分裂細胞だけがドンドン逃げ場無く腹に溜まり、 排泄口だった場所の僅かな切れ目から、やや黄色がかった粘液がピッピッと噴き出している。 「テッ…テチッ…真っ暗テチ…からだ痛いテチ…歩くとあんよも背中も痛いテチ…ママ…」 ガードレールに直撃した仔は、顔面を直撃して目玉を潰し、損傷した体のまま、 ヨタヨタと歩道ではなく車道の中央に向かって歩いていく。 「テチャァァァァ!!お姉ちゃん達が大変テチィ!!」 「待っててテチィ!今助けに行くテッチュゥゥゥゥ」 親に下半身を食われた仔以外は、それなりに動けるだけ回復していた。 十分に動ける仔達は悲惨な目にあった家族を助けようと、次々と車道に飛び出していく。 2匹が車道を歩いていく仔を追いかけ、2匹が潰れた仔を抱えて引きずろうとする。 「お前達!はやく戻るデス!危ないデスゥー!!」 親はガードレールの下から身を乗り出して仔に呼びかける。 潰れて苦しむ仔を、なんとか引きずって癒着した地面から引き剥がし、1匹が押し、1匹が引きずって運んだ。 道路の真ん中に歩いている仔にも何とか追いつきかける。 ブロロロロロロロロ…プシャ!! 「テチッ!」 「テパ!」 「テッチャ!?テチャチャァァァァァ!」 「プペッ…」 「ボペェェェェェェ…」 「テリャァァァァァ!!」 「デデ、デスゥゥゥゥゥゥゥゥ…」 まず、目くらになった仔が対向車線まで行ってしまい、華麗に粉砕され、 それに追いつき掛けた仔も地面のシミとなり、やや遅れた仔は、中央線で腰を抜かし動けなくなった。 潰れた仔を助けようとした仔は、潰れた仔を親の方に押し出そうとしていた仔がシミとなり、 引きずっていた仔は妊娠仔実装と共になんとか助かった。 だが、妊娠仔は、自分の分裂細胞の行き場が限界となり、口からデロデロとその不完全な仔を粘液と共に吐き出しながら、 それにより窒息し、かつ、腹が破裂した。 「コポ…クケッ、ケポッ…ケェェェェェェ…ケェェェェ…ヒフ・ヒフ・ヒフ…チパァ!!ヒィ、ヒィ、ヒィ、ヒィ…テ…テテッ…テ」 パン! 「テチャ!!お姉チャァァァァァン!!…!?…テテ?」 その飛び散った体液が無事な仔に浴びせられ、緑の方の体液が仔実装を妊娠させる。 「テチャァァァ…ママ、ママ、お姉ちゃんチンじゃったテチ!ワタシ、ワタシお腹ヘンテチュ!!重たいテチュ」 「マ・マ・マ・マ・ママ…ク・ク・ク・クルマ怖いテチュ…動けないテチュ…」 「デスゥゥゥ!!今タスケルデス!!」 それなりに愛情はあるのか、親は恐怖のパンコンと妊娠して膨らむ体で歩けない我が仔を歩道にすくい上げると、 再び、ガードレール支柱を掴んで、その下から身を乗り出して手を伸ばす。 「危険デス!!こっちに早く来るデス」 親がしたのはソコまでだった。 車が通る道が怖くて入れないのだ。 だから、無理を承知で仔の方に呼びかけた。 見かけの愛情はあるだろうが、自分の命はもっと大切な親だった。 「むむむ、無理テチュ…走れないテチュ…」 仔実装は前後左右きれいに大きく膨らんだパンツが邪魔で普通に足を前に出す事すら困難、しかも重い。 さらに、恐怖で足は震え、腰が抜けて立つ事すらままならない。 意を決して立ち上がるが、ガクガク足が震えて腰砕けになり、 たまに車が仔実装の前後を駆け抜けると、頭を抱えて亀の姿勢になった。 親も助けには行きたいが、車の往来する道を堂々と渡る度胸もなければ、仔実装が歩けないのも理解できている。 そのやり場無い怒りを行き交う車にぶつける。 「ワタシの大切な仔をよくもあんな目に遭わせたデス!止まりやがれデス!このウンコタレ!! ステーキぐらいでは許さないから覚悟しやがれデス!止まれ、止まれデス!!」 朝以来うまくいかないイライラも、この親に無駄な怒りを駆り立てる原因でもあった。 そして、その無駄に昇った血が、親実装の命取りとなった。 「ニンゲンなんかウンコタレデ・デェ!?」 ブゥゥゥゥゥゥゥゥン…パチン! 無駄にガードレールから身を乗り出して長々と、そして勢いよく怒りをぶちまけていた親実装の前を車が駆け抜けた。 その車はたまたま、歩道寄りを走ってきた。 そして、きれいに親の首をもぎ取って粉砕した。 怒りに我を忘れ、只でさえ鈍い反応速度や距離計算が出来ず、迫る車を見ながら頭を引っ込めなかったのである。 「「テチャァァァァァァァァァァァ!!ママァーママァー」」 歩道に2匹、妊娠した仔実装と、足が膝までしか回復していない仔、 そして、中央線にパンコンして動けない仔だけが生き残った。 「「チギャァァァァァ!!ママ、ママ、ママ、ママ…」」 歩道の仔が懸命に頭を無くしてダラリとした親を引き戻そうと服や足を引っ張る。 だが、母親の肉体は頭を失ってもなお、手をバタバタさせて、思うように引っ張れないどころか、 手の動きでズルズルと匍匐するように車道に移動して、そこで機能を完全停止した。 「テチャァァァァ!タスケルテチ!ソッチはダメテチ!向こうから押すしかないテチ!」 「ママ動いてるテチ!生きてるテチ!ママ!ママ!二人で押しとどめるテチ」 「ママ?ママ?ママ…」 中央線の仔は、母親の衝撃的な光景に放心したまま、ペタッと四つん這いになり、 その震える体のままハイハイして親元にまっすぐに歩き始める。 それを観察していたコドクは、居ても立っても居られず、建物の隙間からヨタヨタと駆け出す。 「ベッチャァァァァァァー」 そして、仔実装達に手を貸して親の死体を引き戻すと、 今度は、這ってくる仔を助けるために道路に入っていく。 幸い車は来ていないが、只でさえ遅い仔実装の歩みがさらに遅いのでは、 車の少ないこの道でも余裕など無かった。 「ベチュベッチュペチャァーン」《大丈夫デチュ!、助けに来たデッチューン》 道の中央で2匹は抱き合う。 だが、その2匹の目に、向かってくる車が見える。 距離は離れているが、遅い2匹が安全なところに行くにも戻るにも絶望的な状態だった。 だが、その時、奇跡が起きた。 1人の中年の女性が、車道に半身を乗り出させて、車に”止まれ”とサインを出したのだ。 町中の道で、車はそんなに速度を出しては居ない。 実装石には回避不能な絶望的な距離でも、人間なら危険無く停車を促せるだけの距離の余裕があった。 その女性は、止まってくれたドライバーにペコリと礼を言うと、抱き合う2匹を拾いに車道に入り、歩道に戻る。 そして、親の死体に抱きついて泣く2匹の傍に降ろす。 『かわいそうに、ママが死んじゃったの?』 3匹は、親の死体にしがみつき「テェェェェェンテェェェェェン」と泣き続けている。 コドクだけが、その人間を見上げていた。 「ペッチャーン」 コドクは両手を上げて答える。 『あら、この仔…リンガルが使えないわ…面白い鳴き声ね、舌が回らないのね』 女性は、コドクの頭を撫でる。 『この中では一番大きなお姉さんね…勇敢な仔だし、他の仔よりきれいなのね。 頭は良いんでしょうね…でも、かわいそうに』 3匹の仔は、大声で泣き、母親の肉体にしがみつき続ける。 コドクは、ヨタヨタとその仔達に寄っていくと、妊娠した仔の全身に付いた体液をゴシゴシと手で拭いてやったり、 漏らし続けている3匹の仔の下着を脱がせて、その溜まった糞を捨てたり、尻を拭いたり、 かいがいしく世話をした。 人間の事を良く知らないコドクにとっては、人間の心象などの計算は関係なく、 ただ、本当に親を失い残された3匹の仔が心配でしている事だったが、 その真摯な行為が、この人間の心を動かした。 『かわいそうに…こんな所で親を失ったら生きてはいけないわ。 この仔…服もキレイだし、面倒見も良いし、悪い仔ではなさそうね… この位の仔に育てられるレベルの親から生まれたんだから、大丈夫かしら』 人間は、そう独り言を4匹にささやきかける。 3匹は一通り大声を出し全身で親の体を揺すり続けた事で、すっかり泣き疲れ、 肩でヒフヒフと息をし、垂れた汗と涙を拭う。 泣き漏らすためにコドクに脱がされた下着を見つけて、慌てて履き直すと、 初めて自身の悲惨な状態を再確認しあった。 コドクが何か交渉をしているので、この人間から襲われる事はないという安心感が余裕を生んだからだ。 「テチャ!お腹が重くて動けないテチ…ワタシどうしちゃったテチ…お腹、勝手にもごもご痛いテチュゥゥゥゥ」 妊娠した仔は、自分が妊娠した事も理解できずに、異変に驚愕し、腹を抱えてオロオロした。 「テェェェェ…テェェェェ…怖いテチ、怖いテチ…クルマ怖いテチ」 取り残されていた仔は、すっかりクルマが恐怖となり、それを思い出しては頭を抱えて震えた。 「テキャァァァァ!あんよ無いテチィィィ!!いつ無くなったテチィィィ!?テピィィィィ!ジンジン痛いテチィ」 親に喰われたために騒ぎに巻き込まれなかった仔は、母親の死に忘れていた足の損傷を確認し、 何故、何時、そうなったかを忘れ、ただ、見た目で損傷を認識してしまったために痛みを感じた。 「ベジュゥゥゥゥ…ペチャ!ペチャチャペッチャァ!」 コドクは仔達を心配し、人間に懸命に訴えかけた。 《ワタシは心配ないデチ…でも、この仔達は生きてはいけないデチ!ニンゲンさんにお世話して貰いたいデッチュ!》 そう言って、地面に座るとペコリペコリと何度も地面に頭を叩き付ける程土下座をした。 コドクは無知ではあったが、同時にベースは賢い実装石の仔である。 親を失い、トラウマを抱えた仔実装が独力では生きていけない事を理解し、 自分にはこの仔達を養う生活能力が欠如している事も理解でき、 この人間が攻撃的ではないという判断の元に、頼み込んだのだ。 『私のお家には、丁度、仔が死んじゃった実装石が居るの… 落ち込んで元気がないから丁度良いわ。 こんな愛情ある仔なら、ベスちゃんが育児すれば大丈夫でしょう。 これも、何かの縁かしら…』 そう言うと、コドクの背中を優しく撫でる。 コドクは話が通じたと思い、まず、妊娠している仔を優しく抱えて運んでくると、 「ペチャーペッチャー」と差し出す。 『こんなに小さいのに妊娠しちゃったから動けないのね…』 女性は手に提げた買い物袋から中身をなんとかバックに移し替えると、袋の口を拡げてコドクの方に向ける。 コドクは、その袋の中にガサガサと入り、妊娠した仔を置くと、次に損傷した仔、怯える仔と順番に運び込む。 怯える仔は、あの状況で命を助けてくれたコドクにしがみついて泣いたが、 コドクは、やさしく宥めて手を放すと、自分は袋の外に出て、寂しそうに手を振って見せ、 人間を見上げてペコリと頭を下げた。 コドクは、自分が関わると不幸になると徐々に学んでいたために、この仔達に付いていかないつもりであった。 「ペッ…ペッチャー」コドクは、もう1度、袋の中の3匹を見て手を振る。 「テチャァァァァァァァ!!」2匹はそれどころではないが、トラウマの仔は、泣き叫びながら袋を飛び出すと、 コドクを追いかけ、そのスカートに捕まって引き留め、大泣きし大漏らしし、しがみついた。 「イヤテチ!イヤテチ!いっちゃイヤテチィ!!コワイテチィ!クルテチィ!クルテチィ!(車が)クルテチィィィィ」 この仔実装にとっては、コドクを信頼したとかいうレベルではなく、 ただ現在降りかかってくる恐怖を和らげる”モノ”と言う認識で頼ったに過ぎない。 『まぁ…お姉ちゃんは遠慮して一人で生きようと言うの? 妹ちゃんは、それを必死に止めようとするなんて…なんて賢くて愛情ある家族なんでしょう…』 だが、仔実装、コドク、人間…それぞれ、微妙に言葉が通じない為に、それぞれが微妙にお互いを勘違してしまった。 ガサガサ… 女性は袋を手に提げると『心配しなくても、家族は離れ離れにならないわ、ついていらっしゃい新しいママを紹介するわ』 とコドクの頭を撫でる。 それを理解したコドクは、しがみついてガタガタ震えて歩けない仔実装を抱っこする形で、 ヨタヨタと女性について歩き出した。 コドクは、こうして偶然と惰性で、幸運にも飼い実装となる事が出来た。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 女性の家には、1匹の実装石が飼われていた。 高級飼い実装…そして、重役夫人のペット… 箱入り娘ならぬ、箱庭娘として、与えられた部屋で、野良と接するどころか外に散歩にでる事もない生活。 接する同族と言えば、同じように育てられた、”自分を人間の仔”と勘違いした飼い実装のみ。 世間知らずに育つのには十分な土台ではあった。 生まれたときから様々な事が出来るように産まれ、さらに簡単な調教を施された仔に用意された役割は、 鑑賞ペットとして可愛い姿のままで居る事。 その時点で、この実装石が生物としての道を間違える事は目に見えていた。 ベスという名の実装石は、ある種の刺激に飢えていた為に、それだけのために仔を渇望した。 まだ小さな頃から慣れ親しんだ生活に不満はないが、心の飢えにも耐えられないのが実装石の本能。 だが、何でも出来るように調教されながら、何もする必要がない長い生活の怠惰で、 特定の知能が並の実装石以下に反動的に堕ちて居たのだ。 自身が飼われる分には全く問題ない…糞蟲性格でもない。 ただ、幸か不幸か、ベス自身は自分を人間であるという勘違いをしている為に、 実装石としての知能をも完全退化させてしまっていた。 妊娠は、人の手で花を突っ込んで貰った。 だが、妊娠しても何をして良いかすら判らない… 彼女はとにかく腹の仔を守ろうと、神経質になり、食べるものも食べず飲むものも飲まず、 与えられたゲージの隅に毛布の山を築いて、ひたすらその中に籠もり続けて、 女性が様子を見に手を出しただけでも威嚇をして噛みつく事すらあった。 もし、実装石の妊娠期間が長ければ彼女はまず、飢え死んでいただろう。 女性が、15日目に糞とは違う異臭を放つだけになったタオルの山を掻き分けたとき、 その奥で、やせ細ってヒクヒク痙攣するだけの脱水と飢餓状態で発見された。 実装石は、水さえあればしばらくは飢えで死ぬ事はないが、 水すら飲まなければ短期で生死に関わる。 その状態で胎児は全てまともな形ですら生まれておらず、出産でもさらに消耗し尽くしていたのだ。 異臭の正体は仔になりかけて流産した死体の腐敗臭だった。 ベスはかろうじて命を取り留めた。 だが、飼いの温い環境で生きる為に最適化され”生産”されたベスの肉体や精神は弱く、障害が残った。 肉体は寝たきりとなり、起きている間は力無く笑い続けた。 会話が成り立たない程精神が壊れ掛かったのだ。 今度は、その治療のために、無事に出産させる事となった。 妊娠から出産まで実装病院で細かく管理されて出産にこぎ着けた。 出産した事により、ベスは次第に元気を取り戻していった。 そして、仔実装の人形を抱えて退院したのだ。 飢餓を経験した肉体は機能が狂い、 手厚い保護の果てに生まれた仔は、全て重度の奇形で短命であった。 ペット実装には、妊娠機能障害は珍しくない病気である。 ベスは妊娠障害を抱え、また、完全に精神が直らずに、人形を我が仔として世話する事でペットとして成り立っていた。 人形相手に、疑似家族を形成して狂っている間のほうが、飼い主にとっては正常なベスである。 「デスデスデッスゥ〜ン♪」(ご主人様お帰りなさいデスゥ〜ン♪) 純白のドレスに身を包み、同じ服を着せた小さな人形を掲げながら、1匹の実装石が駆けてくる。 人形の口の周りはベットリと汚れが茶色く染みこんでいて、さらに新しいクリームが付着していた。 こまめに洗った跡はあるが、人形の口に食べ物を押しつけて満足しているのは明らかだった。 それだけではない。 その人形をあやすベスは両目が緑であった。 勿論、肉体的に健康になった今でも、正常な妊娠期間を経ても、正しい胎教をしても、 生まれるのは機能の欠落した肉饅頭…。 それでも狂った本能が無意識に”本物の仔供”を求める。 仔が産めない事を理解しながらも、仔作りをせずには居られない…。 執念とも言える狂った花弁自慰が続けられている証である。 「デスデスゥーデスデスゥーデッスデッス」 (みてご主人様!サクラちゃんがおやつのケーキをイッパイ食べて、また大きくなったデス 本当にオテンバさんデス…ウメちゃんも元気だったデス) 人形が何もせずに大きくなる事は無い。 『そう、良かったわね…』 そう言って飼い主は、哀れみの表情で優しく頭を撫でる。 小さく健気な生き物への哀れみ、 情を注いだ我が子への同情、 飼ってしまった事への責任感… この飼い主に、それらが欠落していれば、悲劇は起こらなかった。 「デス?!」 ベスは、その飼い主の足下に隠れるようにしている仔実装を目にとめる。 「テチャチャッ!!」見慣れない姿をした同族に怯え、コドクの背後に逃げる仔実装。 それは、ベスも一緒であった。 掲げていた仔実装人形をぎゅっと胸元で抱き留める。 「ご主人様…”これ”は何デス?」 ベスには、自分の仔と認識されない限り、実装石は実装石で、自分とは違う生き物と言う考えだ。 『あなたの仔供じゃない…生まれてから、ずっと入院していたんですよ』 飼い主は自分の下手な嘘にバツが悪そうな顔をしながらも続けた。 嘘は通じて、ちゃんと受け入れられるだろうかという心配もあった。 『怖がらなくても良いのよ…あれが新しいママ…ここがあなた達のお家なのよ』 ”新しいママ” そう聞いたコドクは、ドン底から天国に行けるように舞い上がった。 これで自分は孤独では無くなると… 「ベジュ〜ン!ベジャジャァァァァァァン」 コドクはヨタヨタと駆けだし、新しい母親に包容を求めた。 ベスは戸惑いながらも、生きて動き反応する”仔”を抱きしめると感情を露わにした。 狂った彼女には、理論的思考はない。 「よしよし、ワタシの仔デス!確かに”これも”ワタシの仔デス!!」 すると、その様子に怯えていた仔実装も「テリュ〜〜〜〜〜〜〜ン♪」と、その包容に加わる。 飼い主は感激した。 そして、残りの2匹も紹介する。 『この仔は妊娠して動けないの…大切に面倒見てね。 こっちの仔は、大怪我をしているから優しくしてあげたらきっとすぐに直るわ』 「デスデス〜♪判りましたデス♪大家族になってとってもうれしいデス〜♪」 ベスは人形を置き、その両手に、新しく仔実装人形と同じ大きさの仔をやさしく抱いた。 大きさが永遠に変わらない軽い人形から、彼女にはずっしりと重い儚い命。 傷付いていても確かに伝わる命の温もりを手にしたのだ。 そして、そのスカートを握る甘えん坊なコドクと仔実装。 「デスゥ〜、おおきいちゃんはサクラちゃんを連れてくるデス♪ みんなよりお姉ちゃんだから、ちゃんとできるデスゥ? 姉妹を紹介するデス♪お部屋も見せてあげるデス♪付いてくるデス♪」 コドク達もまた、それが異常だとは思わなかったし考えなかった。 コドクは自分が必要とされた事だけがうれしくて、仔実装人形をやさしく抱いた。 そして、仲良くトコトコと歩き出した。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 遊具が豊富にある部屋。 きれいで清潔で、暖かく柔らかい絨毯敷きで、部屋の中央に据えられた頑丈な2階建て実装ハウス。 常にエアコンが入り快適な室温と、沢山の玩具に服に毛布…。 部屋の隅には出産用のゲージ、別の隅には実装用の浴槽付きシャワー室も作られていている。 何もかもが未体験の世界。 仔実装は入った瞬間に駆けだし「テチテチ♪テチテチ♪テリューン♪」とはしゃぎだした。 コドクは、ベスに指示されるまま、妹と紹介されたウメ、ツクシの仔実装人形にサクラの人形を置く。 ベスは、両手の仔を抱えて実装ハウスに行き、破損した仔と妊娠した仔を実装揺り籠に入れ、 やさしく揺らしながら「ボエー…ボエー…」と、 病院で世話をされている頃に、そうする物だと教えられた子守唄を歌いあやす。 痛みと恐怖で震え続けていた仔も、柔らかい毛布の感触と揺り籠の動き、 それを動かし歌うベスの姿に安心して「テチ…テチー…」とその歌を呟く。 コドクもその傍で、ピタリと寄り添ってウトウトと頭を揺らし、 遊び疲れた仔実装もやってきて、ウトウトとベスの体に寄り添って眠りに落ちた。 孤独という点では、ベスもまた、孤独からの開放感を味わっていた。 産み落とされた、その瞬間から母親の温もりを知ることなくペットショップの籠が彼女の住処となった。 特別賢い高級な母親から生まれた彼女は、稀少品として別格の扱いで、ディスプレイされて店頭に並んだ。 引く手数多の母体から生まれた仔は競売で別々の店に売られ、姉妹達と一緒にいる事すら許されなかったのだ。 傷つけられたり変な知識を植えられないようにと、隔離されたボックスに一人きり、 隣に居るであろうオトモダチの姿も見えない仕組みの個室だった。 世界はその空間と、ブリーダーの調教部屋…そこでも彼女はオトモダチと会う事すら無かった。 この家に飼われ、ようやく同族と顔を合わせる機会はあるが、 彼女にとっての時間の大半は孤独だったのだ。 だが、その幸せは本当に長くは続かなかった。 その夜、仔実装達は生まれて初めて食べる実装用フードに舌鼓を打った。 ただのフードではなく、高級なレトルトフードが温められて贅沢に出され、 デザートに新鮮な果物まで付けられていた。 「テチュワァ〜♪テチテチ♪テッチュワァァァァ♪」 「テリュゥゥゥゥン♪テッチュワァ〜♪」 「テッチュ!テッチュ!テピピピピィィィィィ…」 野良の生活で、これほどの味があり、かつ、温かく、噛まずに食べられるものなど存在しない。 もちろん、薄く味が染みた…というものではないために、口の中で味わい続けても素材やタレの味が失われる事が無い。 その衝撃に、仔実装達は夢中になった。 動けない2匹も、実装ベビーカーに乗せられベスに優しく運ばれての団欒の食事。 「違うデス!スプーンはこう使うデス…そうそう、そうデス♪零すのはみっともないデス」 ベスは、はしゃぐ元気な仔実装にちゃんとした食べ方をみっちり教えた。 「あーんするデス、ママが柔らかくしてさましてあげるデス♪はやく元気になるデス」 そして、動けない2匹に、只でさえ柔らかいフードをさらに自分でかみ砕いて口移しで与えていく。 自分の食事も取らずにそれらをする姿は、ベスの愛情の深さと喜びを表していた。 「おおきいちゃんは教える事無い程お行儀イイデス、流石お姉ちゃんデス。 終わったらサクラちゃん達に食べさせるデス、サクラちゃん達は一人で食べられないデス、甘えん坊さんデス」 そして、それに手が離せないので、コドクに”サクラ達”の食事の世話を頼む。 コドクは、仕事を任される喜びで、無心でグチャグチャとベスの真似をして、フードを口移しで人形に付着させた。 コドクだけは、黙々と食事を続け、人形に世話をした。 コドクの肉体は、味の違いや温かさを感じない…僅かに物が口に入ったと言う感触があるだけ。 見たことも無い食べ物では、比較する味の対象がわからないため、視覚でも贅沢な料理を味わえなかった。 食事が終わると、次は風呂の時間となる。 様々な道具の使い方を優しく教えられ、コドクは不自由な体なりにそれを覚えた。 初めての暖かい風呂、良い匂いのするシャンプーを経験していく。 それを満足そうに眺めるベスの顔は緩んだままであり、だらしなく口元から涎がしたたる程であり、 それは、母の優しさと言うより、狂気的な笑顔であった。 「デフフ…デフフ…おおきいちゃんは物覚えがイイデス…ママの代わりにサクラちゃん達を洗うデス♪」 デフッデフッ…と鼻息を荒げながら、コドクに人形であるサクラ達の入浴の世話もさせる。 「ベジューベジュー♪」と世話をするコドクの姿を見て、ベスは感極まったように自分のスカートを捲って、 グジュグジュと自分の排泄口を弄り始める。 緑の両目はさらに狂気の光をたたえていた。 仔を得た幸せが、脳を刺激して、母親の機能を持たない脳が直情的に幸せを興奮に変えていた。 そう、ベスは、母親になった事のない体なのだ…精神的にも実装石としての仔育て知識が失われた存在だ。 人形を他人であるコドクが洗う姿を観察して、ソレを補うという無意識が働いたのだが、 ベスは、その姿に興奮し、暴走して母性ではなく雌の部分ばかりが肥大したのだ。 悦に浸ったベスは興奮した体で、自分も”リアル”なソレを味わおうと、 コドクを追い出す様にシャワー室に仔実装達を連れ込んだ。 「デスデッス〜♪暖かいシャワーデスゥ〜♪」 「テチャ〜あったかいテチュー♪キモチイイテチィー♪」 健康な仔はそれで良かった…。 喜ぶ仔の姿にベスは、さらにグチョグチョと排泄口を弄り、 透明な液のみならず栓が緩んで糞もジョボジョボ漏らしながらビクビク絶頂を感じた。 そして、それが母親の幸せなのだと感じた。 「デフッ!デフフフ…洗うデス…洗うデス…デフフ…洗ったらどんな反応するデス?楽しみデス また、ママをイカせるデス…デフフフフフフフ」 「テッテチュ〜ン♪イイ匂いテチ、アワアワキモチイイテチー♪ テチッ…ママ…ママ…イタッ…テチャ!ママ痛いテチ痛いテチ!!」 自分以外、物言わぬ人形しか洗った事のないベスには、只でさえ他者を洗う適正な力加減がない。 まして、相手は小さな仔実装で、しかもベスは興奮して力が入っていた。 パキッ! 「テチュワァァァァァァ!!お手々折れたテチィ!」 仔実装は腕を折られ、暴れて、なんとか石鹸のお陰でベスの手から逃れると一目散に逃げ回った。 「デフフ、デフッ…イイ声デス…弄って無くてもイキそうデス♪オマエはどんな反応するデス…」 仔育てできない飼い実装に預けられる仔は、 さながら、マッドサイエンティストに飼われた実験動物みたいな物である。 次に目を付けられたのは、傷が癒え掛かった仔実装である。 姉妹があんな目に遭ったばかりというのに、その仔は、状況が理解できなかったのか、自分は大丈夫という考えか、 すでに大分再生が終わっているのに、甘えて動けない振りをしていた。 「ママー、ママー、まだ痛いテチ…ワタシ動けないテチュ、そのイイニオイのでたっぷりキレイキレイにして欲しいテチー♪」 だが、すぐにそれは悲鳴に変わった。 「テキャァァァァァ!イタイイタイ!!オナカの皮がむけたテチ!!アンヨおれ、折れ、テッキャァァァァァ!!」 ポフポフと手で抵抗し、逃れようとするが、それが、今度は逃がさないとばかりに体を捕らえた手を締める呼び水となる。 「ケポォ!!ケハァ!!チヌチヌ!チンじゃうテチ!!つぶれるテチ…ゲロゲロゲロゲロ」 口から押しつぶされて上がってきた糞までも嘔吐する仔実装。 怪我を装っている状態ではないと感じたときには、すでに足は片方が折れ、片方は握りつぶされ、 全身の皮がめくれ胃が潰されていた。 狂気に支配されたベスには、それが喜ぶ姿に思えていた。 人形は何も訴えないからだ。 普段は、反応しない人形相手…キレイになるまで続けても、破れて綿が飛び出す程続けても、 壊れた事を飼い主に伝えれば、翌日には直っているか新しい仔実装人形が用意された。 「あらあら、オマエも、お顔が汚いデスゥ…デファデファ… サクラちゃんもウメちゃんもツクシちゃんもいつもお顔が汚れるデス…デフフフフ」 仔実装の視界に入る、白い泡を生み出す柔らかなスポンジが、 今は仔実装の体液に染まっており、さながら拷問器具に見えた。 ピフピフと開きっぱなしの鼻から荒い息が吹き掛かり、狂気の笑顔が恐怖のドン底にたたき落とす。 「テ…汚れてナイテチ…ヤ・ヤメ・キレイ、キライ…テピァァァァァァァァァァァァァ…ムギュ」 ジョリジョリ…メニュ…グチュ… 「おかしいデス…揉んでも揉んでも汚れるデス…擦っても擦っても汚れるデス ママに甘えたいからワザと汚すデス?本当にオマエも甘えん坊さんデス… ブシュブシュ…デブシュシュシュシュ…グヒヒヒヒ」 ベスには、全てが初めての経験であった。 パンパンパン… 風呂に入っている音を聞いた飼い主が、新しいタオルを持って部屋の戸を開けると、 そこには、変形した腕をかばいながら、半狂乱に壁を叩き続ける仔実装が居た。 「オカシイデス!!とれないデス…ぜんぜん取れないデス…なくなっちゃうデス ワタシの仔がなくなっちゃうデス…サクラちゃんと同じで壊れたデス?」 シャワー室から聞こえる感情の高まった鳴き声に、飼い主が戸を開ける。 そこには、床掃除をするような姿勢でゴシゴシと何かを擦るベスがいた。 ベスは、飼い主の姿を認めると、泣きはらした顔で、その何かを掲げた。 「ご主人様…この仔ゼンゼンキレイにならないデス… サクラちゃん達と違って元気だったのに、今はウメちゃん達と一緒で”つまらない”デス どんどんペラペラになっちゃうデス…ツクシちゃん達とゼンゼン違うデス。 また、直して欲しいデス」 それは、肉が擦り落とされた仔実装の形を留める”皮”であった。 ベスは、洗いながら、無意識下では生きていた物が死んでいく事に気が付いていた。 人形と、この仔実装達は違うのだと判っていた為に泣いていた。 だが、どうにかする術どころか、普段して身につけた事を止める力もなかったのだ。 『あっ…』 飼い主はその光景に顔を背け、自分の過ちと、ベスが形だけで仔を育てる力がない事に気が付いた。 『ベスちゃん…その仔は死んでしまったのよ…怪我が直らないくらい死んでしまったの』 「デス! デ デスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウッウッウッ」 ベスは無意識で理解していた事を、他者から伝えて貰う事でようやく受け入れる事が出来た。 自分が仔を死なせた事に、その皮を掲げたままガタッと膝を崩し、漏らし、泣いた。 人形とは違う…仔は死んでしまう… 幸い、犠牲になった仔は1匹であった。 その日、ベスは、飼い主にハウスの中のベットに運ばれたが、 ベットの上で、服を着る事もなく、その時の姿勢のまま、泣き漏らし続けた。 怪我をした仔実装は、妊娠仔のベビーカーと共に、ハウスの外のクッションの上で怯えながら寝た。 コドクはベスが心配で「ベッジィー…」と声を掛けたり甘えたり、サクラ達人形を運んできたりして、 泣き漏らすベスの糞にまみれたベットの上で、ベスに抱きついたまま眠りに落ちた。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 翌日、泣き続けて少しは落ち着いたベスに、飼い主は仔の洗い方をじっくり教えながら実践した。 「テチュワァ〜♪テチャチャテッピュワァ〜♪…テチィ!テチャチャ!テッピィィィィィィ…」 『これは気持ちいい時の反応、ここから力を入れて、こう泣くと痛がっているのよ…』 「デスデス?デスデス?デデッデッスゥ〜♪」 「テッチュワァ〜♪テピュピュ〜♪」 ちゃんと教えればベスには高い知能があり、それを吸収した。 仔実装も、前日にあんな事があったが、野良の仔らしく、一晩の熟睡とやさしいマッサージ洗いにすぐに忘れて、 快感を与えてくれる母親に甘えるようになっていた。 コドクは、一緒に、昨日指示されたとおりにサクラたち人形を一緒になって洗った。 事故はあったが、これから、母親に目覚め始めたベスと共に幸せな日々になると思っていた。 ベスは、揺り籠に入れられた妊娠仔実装を揺らしながら歌を歌っていた。 「お腹の仔に言い聞かせるように歌うデス、優しく歌うデス、心を込めて歌うデス」 「デェ〜ゲロッ、デ〜ゲロッ、デッデロゲ〜♪」 「テェ〜ケロッ、テェ〜ケロッ、テッテロテ〜♪」 ベスは歌いながら、仔実装の体格に似合わない巨大化した腹を一緒に撫でつつ、 自らの膨らんだ腹も盛んに撫でている。 「今度の仔も元気に産むデス…オマエも元気な仔を産んでイッパイな幸せになるデス」 「テチュチュ〜ン♪」 こうして、ベスは生きている仔を世話する事で急速に母親としての機能を発達させていった。 元々は優れた親から生まれただけに、極端に愛情が強い事も作用した。 子守をし、胎教を歌い、元気な仔実装の方の遊び相手もし、玩具の使い方や、普段の礼儀を教育していく。 2匹の服を選び、着せては「デスデス♪」と喜び合った。 仔実装たちも、野良の頃とは比較にならない生活、 襲われる心配の無い世界、コキ使われる事が無い遊び放題の世界、飢える心配の無い世界、 探す必要の無い贅沢な食事、清潔な身体に服… それに、優しく甘い母親…それらに浸り、満喫し始めていた。 だが、その輪にコドクだけが加われなかった。 コドクは大人しく、サクラ、ウメ、ツクシの人形の世話をした。 ベス達にならって、人形の着替えをさせ、自分も着替えて、その人形をベスに掲げてみせる。 「ペッチュ〜♪ペッチュ〜♪」 「デスッ?!デスデス…」 ベスはそのコドクをチラッとみると眉間に小さな皺を寄せ、冷たい目で一瞬コドクを見ると、 目を逸らせてからポフポフと2回程頭を撫でるが、それ以上は何もしない。 昨日までのベスとは違う…。 ベスは生きた仔の相手をして、母親を一から学んだ事で、人形と生きている仔の違いを理解し始めた。 同時に、実装石としての本能も、心も取り戻し始めていた。 そして、その違いを受け入れ始めたのだ。 もう、人形への興味はかなり削がれていた。 そして、言葉の通じない、動きのおかしいコドクの事もまた、自分の仔ではないという認識を持ち始めていた。 コドクは、ベスの区分では人形と同列にされたのだ。 それは、仔実装達にとっても同じ事であった。 元々、家族でも何でもないコドク…悲惨な現場にたまたま現れただけの存在であり、 都合良く物事を忘れる実装石にとっては、過去の恩などすぐに風化する。 コドクが居なければ、親の遺体を引き上げる事も出来ず、車道に降りて押し上げようとしていたかも知れない。 取り残された仔は、恐怖でショック死寸前だった。 それを助けてくれた事など、頭の隅にもない。 一緒に遊ぼうとすると、前日までコドクの後ろにピッタリ付いて歩く事が多かった仔実装は、 「テチッ!」と抱えた実装ボールをコドクと反対の方に向け、距離を開けようと移動していく。 妊娠仔にも、ベスの真似をして、お腹を撫でようとするコドクだが、 妊娠仔はその手を「テチャ!!」と嫌った。 食事も、コドクだけが少し離れた場所に食器を置かれ、みんなに近寄ろうとすると、 「オマエはサクラの世話をすればイイデス!」と強い口調で言われ、 その様子を見た2匹が「テチャチャ…」と小さく嗤う。 それでも、コドクは納得してその指示に喜んで従う。 コドクにとっては、恐ろしいのは孤独…構って貰えるだけ、傍に誰かが居るだけでも嬉しいと感じるのだ。 それが、疎外という孤独であることは考えない…ようにしていた。 そして、孤独はベスがそうだったように、その孤独感の逃げ口を、任された人形達に求めた。 コドクには、人形も立派な姉妹であると言う事を疑いなく受け入れたのだ。 その日の夜… これまで、ベスが寝るときにはハウスの中の2階の専用ベットに寝かされていたサクラ人形達は、 家の外に無造作に置かれてあった。 1階の一際大きなベス用ベットでは、ベスと仔実装が抱き合うように熟睡し、 その隣、ベットにピタリとくっつくように揺り籠の妊娠仔が並べられていた。 そして、そこにコドクが入っていないのに、実装ハウスの入り口には内側からロックが掛けられた。 「ペチュー…ペッチャー…」 コドクはガラス窓に顔を付けたり、叩いたりして”入れて”と訴えたが、 それが、無駄だと判ると、サクラ達を近くのクッションに並べて、 「ペチャーペチュペチュペッチュン」 と、人形が寂しくないようにと一人しゃべり続け、歌を歌い、撫でて過ごした。 エアコンが効いているため、ハウスの外と中の環境の差はなく、幸か不幸かわびしさは感じない。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「オマエ達では呼びにくいし恥ずかしいデス…実装石みたいデス だからママが名前を考えたデス…オマエは元気で明るいから”サクラちゃん”デス。 オマエは元気な仔を産めるように”ウメちゃん”にするデス。 死んでしまったあの仔にも名前をあげたいデス…”ツクシ”にするデス! サクラちゃんもウメちゃんも、お墓にお参りするときにはツクシちゃんと呼んであげるデス」 「名前貰ったテチュ♪うれしいテチュ♪」 「ありがとうテチュ♪ママ大好きテチュ!ワタシもママに負けずに仔供達に良い名前を付けるテチ」 翌日、ベスは仔実装に名前を与えた。 人形に飼い主が付けた名前をそのまま… それは、完全に人形への興味が無くなった事を意味していた。 そして、コドクにも名前は付けて貰えなかった。 それからは日を重ねて行くに連れ、そのコドクへの風当たりはどんどんと悪くなっていった。 この時期の仔実装は日々、肉体が大きくなる。 母親の言う事を聞いて、会話が増え、相互の会話が成り立ち、ベスに母親の責任感を強く実感させる。 仔達は、母親の庇護を実感し、心を許し、甘える。 生まれるのは絆と守ろうとする意識。 食事の距離はドンドンと離された。 いつしか、人形達の分も用意されていた食器は用意されなかった。 飼い主から渡される食事は、人形にベスが与えるであろう分も加えられていたが、 人形の3体分は、自分達3匹の分に加算されていた。 コドクは、それでも、自分の分を4等分して、名を奪われた人形達に与え続けた。 そして、その様子を見るベスの眉間に出来る皺はドンドン深くなる。 人形を我が仔と、愛情を注いで生活していた自身の姿をコドクは再現している。 母親の愛情に目覚めたベスには、その姿は恥ずかしい過ち、忘れたい過去であり、 ベス本人は、それを連想させる事を嫌ったのだ。 不自由な肉体で、物言わぬ人形に懸命に世話をしているコドクの姿は、 自身の姿を”忠実に”再現する鏡のように見えたのだ。 その為に彼女は、自分達とソレとの区分けを考えた。 そして、我が仔達にこう口にするようになったのだ。 「アレは、可哀相な低俗の”実装石”という生き物デス… ワタシ達の真似しか出来ない生き物が”実装石”デス…”実装石”がワタシ達に似ているからって構っちゃダメデス」 仔達もコドクへの攻撃心を露わにし始めた。 正常な仔は、一緒に遊ぼうと寄ってくるコドクを避け、実装ボールを投げつけるようになった。 「テチャァァァァァ!!寄るなテチ!来るなテチ!キモチワルイ動きテチ!!ワタシと同じ空気を吸うなテチ!」 そして、滑り台に昇り、感情が高まると野良のクセで糞を漏らし、 その糞をコドクに向かって投げ出すのだ。 「テシャァァァァァァァ!!オマエのせいで怖い目に遭ったテチィ!!アレはきっとオマエのせいテチィ! ブーブ怖いのきっとオマエのせいテチ!ワタシを本当のママから引き離した、あのクソババァな実装石の手先テチ ワタシは、本当は、このママの仔だったテチ!それをあんな実装石達と一緒にさせられたのはオマエのセイテチュ」 いつしか、全ての事象の責任が、部外者と見なされたコドクに押しつけられていた。 それに託けて、障害を抱えて攻撃しやすく、反撃してこないコドクを攻撃する事で自身の優越感を満足させているのだ。 それでも、コドクは構って貰えるだけ嬉しかった。 痛くなければ、多少の攻撃すらそう感じてしまうのだ。 追いかけっこをしているような物であった。 「デシャァァァァァ!!ワタシのお腹の仔にバイキンうつるテチィ!実装石に汚染されるテチ!! ワタシは高貴な生まれテチ、オマエとはゼンゼン違うテチ、ワタシの仔が実装石になったらオマエのセイテチュ」 妊娠仔は、腹を触ろうとするコドクに噛み付くまでになっていた。 だが、コドクは、それは妊娠して気が立っているためと思った。 そして、飼い主もそういうところを見ても、そうなのだと解釈した。 溺愛傾向にある飼い主の悪いところは、実装石を知能生物として人間に当てはめて考えると言う事だ。 簡単に言えば、何でも実装石の自主性に任せてしまうのである。 知能があるから、ちゃんと判ってやっているんだ…あるいは、いずれ学んで自己解決できる。 そう考えてしまうのだ。 手を出すべきときに出さず、貸し手はいけないときに手を貸してしまう。 悪い事をしても何か理由があるのだ…いい事をすればさすが我が仔だと…。 しかも、当の飼い主は、何も知らないのに自分はちゃんと世話をして、管理していると思っている。 その過度の期待を抱いた放任主義の終着が、ベスという実装石だった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− そして、仔達が飼われて4日目… その体長10cmの小さな肉体に、不恰好なほど巨大化した腹を抱えていた仔、ウメが両目を真っ赤にして騒ぎ出す。 「テチャァァァ!ポンポ!ポンポォイタァァァァイテチュ!動くテチ、イッパイ動くテチィ!」 「デスゥ!産まれるデス!サクラはご主人様に産湯を貰ってくるデス! 落ち着くデス!元気な仔がいるデス!産まれるデス!デスデスヒフーデスデスヒフー…」 ベスは慌てて、自分の下着を脱ぎ、腹を抱えて、 自分で呼吸を整えて下腹に力を入れてフンをピスッピスッとフンを噴出させる。 パニックで、ウメの気を安らげるつもりが、自分の仔が生まれると勘違いして、 そのうちに、勘違いに連動して疑似の産気がやってきていた。 そこに飼い主がお湯を張った桶を持ってやってくると、 自分が真っ先に、そのお湯の入った湯船に身を浸し、同じ事をする。 そこに、飼い主がウメをやさしく抱えて湯船に浸してやると、2匹で合唱となる。 「デェェェェズゥゥゥゥゥ、ヒフヒフ…産まれるデスゥ」 「デェェェェチュゥゥゥゥゥ、ピスピス…産まれるテチュ」 ブバっと一気に水が真緑に染まると、まず、仔実装の排泄口が開いて中から何かが顔を出す。 だが、その顔を出したモノは、ビチビチと頭を動かすが一向に外には出ない。 僅か3cm程度の小蛆が出ようとするが、その小さな排泄口から中々抜け出られない。 幾らある程度の伸縮をするとはいえ、実装石には人間の様に”仔を産む為に”骨盤が開くと言う機能は無い。 そして、60cmの肉体から5cm程度と自身の1/10以下の仔を産むのが普通である。 その為、ある種便利な多機能を集約した排泄口という機能は、自力での伸縮の自由度が失われたのだ。 それでも、仔の大きさは漏らす糞と大差が無いために、普通ならまったく問題はない。 産気や産中の苦しみは擬似で無いかといわれている程である。 ウメは仔実装のため、仔に分けられる栄養が少ない為に出すものは小さいが、比率的には大きな仔を産む事になる。 人間の手や、こうした事故でもなければ、仔は妊娠しないため、その機能が仔実装を苦しめる。 ビチッ! 仔実装の股間が裂け、ようやく小蛆は自由になる。 小蛆は水面に浮かんだと思った瞬間、身体を弱々しくくねらせて水に沈んでいく。 仔は股が裂けた痛みと、次の蛆が出てくる痛みでそれ所では無い。 飼い主がソレを掬い上げてタオルの上に寝かせ、身体を拭いてやる。 一方のベスも、パニックによる疑似の産気が肉体を刺激して、本当に仔が産道を降り始めている。 その両目はみるみる赤く変色していく。 「デェェェェェェズゥゥゥゥゥゥ…デズッ! デスゥン♪デッスゥン♪ デッ?! デデェェェッ!!」 だが、出てきた仔をみて、ベスは絶叫をあげた。 排泄口からすんなりと抜け出た仔は”頭だけ”で、 持ち上げたベスに向かって、早く膜をとって…と訴えるように口を動かしていた。 正確には、本来の頭の後頭部に当たる部分に胴体が圧縮された体… 本当に頭だけに肉体が圧縮された奇形児…肉饅頭である。 「チガウ…チガウ…こ・れ・は・ワタシのモノではないデッ…デッ…デッ」 それが、何匹も水面に浮かんでくると、ベスは、顔を歪め、泡を吹いて痙攣を始めた。 飼い主は、慣れた手つきで、それを用意した別の”容器”に移していく。 ベスが何度妊娠と出産を繰り返しても、この程度か、もう少しは形のある生き物しか産まれては来ない。 脳無しで生まれた奇形児達は、何も考えることなく、声ではなく「アー、アー」と”音”を発しながら、 まるで芋洗いのように、ゴロゴロと実装石の顔だけが、触れる物に食いつこうと動きあっている。 そして、やがて、生き残った頭蛆達も、自然と疲労で弱って動かなくなった。 小さな頭に凝縮された肉体機能が、小さすぎて、あるいは抜け落ちて生物として機能しきれないのだ。 ウメは、全ての仔を吐き出し終わっていた。 ただし、未熟な肉体に詰まっていて、生きて産まれた仔は2匹…残りは胎児状態。 僅か4日での出産は、事実上、母体を保護するための流産である。 2匹が生きて産まれた事自体奇跡である。 飼い主は、出産を終え、裂けた股間を投げ出して湯船に体を預けるウメに、 膜をとった小蛆を1匹抱かせる。 ウメは、自分で服をめくり上げ、その仔を腹の上にのせて貰うと、 弱々しいながらも両手で胴を抱いて、胸に仔を吸い付かせる。 「テチャ…ワタシの蛆ちゃん…くすぐったいテチィ…もっと吸うテチ」 そして、もう1匹を、泡を吹くベスに渡す。 「デッ…ワタシのオクルミちゃんデス…ワタシが産んだデス?産んだデス!!」 すると失神し掛かっていたベスの目が生気を取り戻し、 やはり、腹の上にのせると、盛んにその顔を乳首に誘導していく。 だが、只でさえチリィと表現される蛆がさらに半分程度の小ささで産まれたのだ。 力の弱い仔実装にしか取り扱えない命である。 「デ・デ・デ…可愛いデス〜♪お乳飲むデスゥ〜♪沢山飲むデス〜♪」 「レペッ!」 あまりの可愛さに、ベスは、蛆を乳房に軽く抱き埋めようとした。 注意して軽くやったつもりであった。 それだけで、小蛆は、首があらぬ方向に曲がり、舌を出し血を吐いて死んだ。 ベスは、それに気が付くことなく、しばらくその死体に顔をすり寄せて、頬を合わせてグリグリした。 首がカクンカクンと動いてプチッと千切れたところで異変に気が付いた。 「デデ!! デ スゥ ?? デギャァァァァァァ!!」 一方のウメは、仔を抱え浮かれていた。 浴槽で、仔に高い高いをしてみたりしている。 飼い主が危ないからと、仔を預けて浴槽から出るように言っても聞き入れずに可愛がった。 「テチャ〜、ウメちゃんの仔、カワイイテッチュ♪ワタシにも抱かせて欲しいテチュ」 「テチュー…仕方ないテチュ、サクラちゃんになら少し抱っこさせるテチ」 調子に乗って、そのまま、歩いて浴槽を出ようとするウメは、 自分の股間が裂けて変形して直っていないのと、水の抵抗を考えていなかった。 数歩歩いて仔を差し出したときに、バランスが崩れて転倒する。 「テチャ!?」 「レフフゥ〜♪レッフ!!」 グチャ… 小蛆は、ウメの手に抱かれたまま、浴槽の縁に激突し、潰された胴と頭が離れて転がる。 「テチャァァァァ!!ニンゲン〜お手手痛いテチー… テチ!蛆ちゃん!!」 「ワタシの可愛いオクルミちゃぁぁぁぁぁん!!オロロォォォォォォォン」 「蛆ちゃん!蛆ちゃん!オロロォォォォォン」 今度は、悲痛な泣き声の大合唱となった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ベスは、仔を失って荒れていった。 翌日もショックで2匹は、ハウスのベッドに寝たきりで過ごした。 サクラも心配して、中に篭る事が多くなった。 ”今度こそと言う”意気込みと、”生きた仔を抱いた”実感が、強い上げ落とし効果を生んだのだ。 サクラとウメに対する態度は相変わらず…いや、生きた自分の仔を死なせた事でより深くなった。 そして、仔を死なせたのは自分の責任というのは十分理解できていたが、 ゼンゼン関係のないコドクを、自分たちとは違う部外者という理由だけで、 憎まざる終えない精神状態になっていった。 ウメは、自分の不注意で死なせたショックでふさぎ込み、手も、裂けた股も治りが遅くなった為に、 変形したまま半端に再生を終え、本当に歩く事も出来なくなっていた。 それも、ベスを追い込む…その姿は、自分の過去の姿でもあるからだ。 機能的に忘れた過去を…”正常”だった自分の姿を見せつけられるのは、 それが、悲惨な過去であればある程、忌避すべき事になってしまう実装石の矜持(プライド)を傷付ける。 現実と向き合う事を、極端に嫌う、実装石自体の習性とも言える精神力の打たれ弱さを責め立てる。 ベスは、さらに次の日には、少しはハウスの外に出るようにはなった。 サクラの遊ぶのを、ウメをベビーカーに乗せて付きっ切りで面倒を見たり、 体を洗ったり、服を着替えたりする必要があるためだ。 そして、外に出て目に付くのは醜いコドク…。 篭もって悲しんでいる間に、ベス達はコドクを憎む事で自身を正当化していた。 ベスは、コドクはきっとこの自分達に起こった悲劇を笑っているのだと思った。 何故なら、自分がその立場に立てばそうするからに他ならない…そうするのが実装石の本能としてあるからだ。 ずっとハウスの外から心配そうに見て、今も心配して駆け寄ってきたコドクをベスとサクラが蹴って追い返す。 コドクは、以降、室内のあらゆる施設を使う事を威力を持って禁じられた。 コドク自身の服も、仔実装人形に用意されていた服も使う事を禁じられた。 シャワーで、人形もコドク自身も洗う事も出来ない。 餌は飼い主が一応、人数分用意するが、その配布は3匹分にベスが配分し直す。 そう、コドクの分すら用意されなくなった。 そして、その姿が見えただけでも、物を投げつけられるようになった。 実装石には広い部屋でも、隔離された空間である。 姿を見られないというのは、全く無理な話である。 コドクは、それでも…いや、そうして忌避されるからこそ、 愚直に、姉妹と信じた人形達に愛情を向けて世話をした。 孤独が嫌で、誰かに傍に居て貰うだけで良かった。 それが、物も言わず、動く事もない人形相手であっても… その姿がさらに、ベスを…ベスの過去を滑稽な寸劇に仕立てて見せつけているように… そして、ベスとウメを襲った悲劇を嘲笑っているかのように見えたのだ。 意識して小馬鹿にしているようにベスには感じられ、そのペットとして無駄に肥大した矜持を傷つけた。 嫌って追い払うだけでなく、ベス自身が暴走して、コドクを追いかけて暴行する事も日に何度も行われた。 やがて、ベスのみならず、サクラもおもしろがって暴行に加わりだしたのだ。 「実装石のクセにナマイキデス!人様の前をウロウロするなデス」 「テチャチャー!その通りテッチュ!たかが実装石のクセにワタシ達、選ばれたモノはニンゲンも平伏すテチ! そのワタシ達のマエでエラそうテチ、ナマイキテチ、 ママァー、ボコボコにシメて、シメにシメて、シメまくってブタに礼儀を教えるテチ」 「ペチュ!ベジュジュ!ベジャ!ベジィ!」 コドクに出来る事と言えば、3つの人形を抱え、庇って丸まって耐える事だけであった。 そうなれば、殴り放題…そして、共同して攻撃しているだけに、 有利という数の魔力が、飼いのプライドを持つベスと、野良の本能を持つサクラのそれぞれの攻撃意識を相互に増長させる。 ペットとして調教され禁じられた暴力を、”実装石を躾ている”という言葉で正当化し、味わう事で、 自身を尊大に感じ、他者を卑下する快感が、サクラの見せる野良流の攻撃で余計に高まっている。 サクラも、ただ本能のままに弱者を優位に攻撃するだけでなく、 理由を付けて攻撃する事で、その理由を野良の頃より高く持つ事で、 自分を必要以上に気高い存在に持ち上げられる快感を味わう。 そして、その姿を見ても、飼い主はコドクを助ける事をしなかった。 見て見ぬふりではなく、何もしない事でベス達を援護していたのだ。 彼女の飼っている括りは、あくまでベスであり、ベスの家族である。 そのベスの家族の括りから外されたコドクを、飼い主もまた、ただのモノと認識した。 ただひたすら、ベスが自分にとって飼いやすい状態で居る事を望んだ。 その為の、”多少の暴走”は仕方がないと思った。 コドクを迫害する事で、ベスが仔を産めないという現実から解放されれば、 それが”彼女達の正しい選択”…それを彼女達は自力で選んだのだと…その自主性を尊重した。 そして、その犠牲がコドク1”匹”で、ベス達3”人”がとても仲良く生活できるのなら、 目をつぶるのに躊躇いはなかった。 最初は良かったが、飼い主もまた、動きのおかしく、会話の出来ないコドクに特別な愛情はなかった。 元々、拾った4匹自体、ベスに与えた人形代わりの玩具だったのだ。 ベスが自分たちの括りから外したコドクは、飼い主にとっては、もはや実装石でもない。 ベスが育児を放棄して、手入れする必要が無くなった人形達と同じである。 「ベジッベジッ!!ベッジュワァァァァァァァ」《ご主人様、ご主人様、せめて妹ちゃん達だけでも守ってあげてデッチュ》 ボロボロになり、それでも抱えた3体の人形を差し出しながら、飼い主に助けを求めるコドクに、 飼い主は冷たい視線を向けて言い放った。 『ベスちゃん、サクラちゃん、あんまりよごしてはいけませんよ…お家に篭もりっきりよりはいいけど…。 それに”こんなモノの為に怪我したら大変よ”…こんな蟲にイライラするのはわかるけど』 飼い主はベスへの愛情とともに、コドクを中途半端に必要とした事が悲劇の全てであった。 もし、飼い主が、この時に、ベスの行いを悪い事として、もう一度家族に迎え入れるように指導していれば、 あるいは、コドクを不必要、教育に悪いと捨てていれば… だが、こうしてコドクを苛める間のベスは元気である。 それが無くなったら、ベスはショクで立ち直れないのではないかという不安が、コドクを助けさせなかった。 この一言は、人間の言葉が理解できるコドクには酷な…そして、決定的な言葉だった。 だがコドクにはそれが虐めであると気が付いても、もはやその虐めから逃れる術がなかった。 野良の時ですら、虐めを虐めと感じる頃には手遅れに近いが、 まだ、コドクには学習して逃げたり身を隠せていたが、ここには逃げ切ったり身を隠せる場所はない。 出来るのは、今起こっている事が間違いであると言う事を祈り、翌日には無かったと忘れる事だけである。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− コドクな実装石 飼い実装編 つづく…
