僕は生まれてからと言う物、人から愛された記憶と言うものが無い。
いつも心の中では愛されたいと思い続けていた、やがて報われない思いは歪な形で蓄積されていく。
やり場の無い孤独と焦燥感を、どこへぶつければ良いのか分からなかった。
ただ淡々と流れて行く月日の中で、自分だけが別世界にいる気がした。
そんな時に出会った公園をうろつき回る小さな彼女達。
彼女達は全てにおいて圧倒的に弱く儚く、外的要因によって虐げられいつも不幸が付きまとう。
彼女達が人を襲ったり不利益になるような事をした訳ではない、ただただ弱い存在と言うだけだ。
頭が悪く力も弱い彼女達は愚直なまで自分に素直だ、愚直故に意味も無く暴力を受け気晴らし程度で殺されていく。
彼女達は自分を愛して欲しいと願い続ける、現実そんな物は到底受け入れられる訳が無い・・・
僕の様にその気持ちは心にしまって置けばいい、そうしておけば惨めな思いをしなくてすむ。
相手が僕を好きになれば嫌な思いをせずに済む、手段を選ばなければそれが可能だと言う事を僕は知っている。
僕の目の前の弱く儚い存在は僕にすがり僕に哀願を繰り返す、その時僕は初めて心の中で本心を明かす。
—僕は君の事が好きだ—
「黒い塊 7」
小夜子の指を握り締め、僕は救急箱のある二階へと急いだ。
いつもは実装石が相手の拷問も、人間相手だとこうも勝手が違う。
小夜子の指から吹き出る真っ赤な血は、僕にとっても充分なインパクトがあった。
超えてはいけない一線を越えてしまった、それは理解しているつもりだった。
いざ越えてしまうと後戻りの出来ない事になってしまい、僕自身も後悔の念が生まれて来る。
それでも僕は認めたくは無かった、自分の行動は小夜子との契約なんだと呟く。
カタワの左腕も僕との契約で切り落とした、カタワは何の不平も言わない
カタワがそうなら小夜子も同じ筈ではないか。
僕は必死に心の中で自己弁護を考え繰り返し、意味不明な言葉を呟き続ける。
棚の上に置いてある救急箱を手に取ると、僕は慌てて一階へ向かった。
居間の扉を開けると椅子に縛られたままの小夜子が泣きじゃくっている。
僕が近づいて行くと、いっそう体をガタガタと大きく震わせた。
『傷口から菌が入るといけないから、消毒をするよ』
『少ししみるから・・』
小夜子にかけられてあるタオルを取ると、傷口からの出血はもう少なくなっていた。
傷口を見ると根元の第二関節部分まではかろうじて残っている。
時折ぴくぴくと僅かだが動いた、小夜子の掌は血で塗るつき出血の多さを物語る。
小夜子は自分の指の状態を確認すると、自分の指はもう無いんだと思ったのか天井を見上げた。
汗が異常なほど出ている、小夜子の体は発熱して頭痛をおこしている事が分かった。
切断された指の傷口を、僕は消毒液を浸したガーゼで丹念に拭くと、
とたんに血の止まった傷口が湿りすぐに血が滲んで来た。
そのままガーゼで切断面を覆うと、包帯で指をぐるぐる巻きに縛った。
あたりは血の臭いと漏らした小便の臭いでむせ返る。
小夜子の手が震えている、僕は小夜子の顔を覗くと小夜子の顔が真っ青になっていた。
『さ・・寒いの、なんだか頭もガンガンする・・』
小夜子の額に手を当てると確かに熱がある、とにかく鎮痛解熱剤を通常の倍の量を飲ませてみた。
一時間ほど様子を見ていたが、小夜子はがっくりとうなだれ全く動く気配が無い。
少し抵抗があったがこの部屋に布団を持ってくると、小夜子をこのまま寝かせる事にした。
椅子に縛った小夜子の紐を解くと、小夜子の息づかいは荒く自分で立つ事も出来ない。
僕は小夜子を引き摺り何とか布団の上まで持ってきた。
汗と小便にまみれ苦しむ小夜子に、僕は性的衝動がむずむずと頭をもたげて来る。
小夜子の首筋に汗が光りハァハァと白い息を吐く、普段は見せる事の無い弱弱しい姿に僕は見入っていた。
『寒い・・部屋を暖めて・・』
小夜子の言葉に僕は我に帰ると、エアコンのスイッチを入れて部屋を暖める。
逃げられ無い様に手足を縛り上げ布団を上からかけると、慌てるように部屋を出て行った。
廊下に出ると早足で風呂場まで来た、傍らにはあの実装石が溶けた水槽があった。
僕は握り締めていた小夜子の指を、タイル貼りの床に置くと、
慌てる様にズボンを脱ぎ、既にいきり立った自分のペニスをしごきはじめた。
布団の上で苦しむ小夜子の顔を思い浮かべ、目をつぶりながら手の動きが早くなる。
苦しみに喘ぐ小夜子の表情は僕とって、可哀相ではなく興奮の対象でしかない。
少し色が黒くなり血が乾きこびりついた小夜子の指を見つめながら、僕は激しくペニスをしごいた。
実装石とは違い罪悪感と後悔が頭をよぎる、小夜子の声や表情を妄想しては興奮が高まって行く。
そのまま小夜子の指に精子を降りかけると、両手を床についてがっくりと肩を落とした。
『はぁはぁはぁ・・ううう』
この満足感は実装石相手では絶対得られない、僕は更なる興奮をと感じていた。
相手の事は関係なかった、一方的な関係それこそが自分にとっての愛情表現だった。
僕を見てくれさえすれば、それ以上は必要がない。
精液と血で汚れた人差し指を水道で洗うと、僕はその指を自分の頬に押し付けた。
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居間で寝かされている小夜子は指を切断された事により、切断された細胞が滅菌を始め発熱を始めた。
クスリと痛みで朦朧な意識の中、小夜子は手を後ろ手に縛られ足も縛られている事を確認する。
最悪な体調の為すぐに逃げ出す事も不可能で、布団の中で大人しくしていた。
ふと横を見るとゲージからカタワが小夜子をじっと見ている。
カタワは小夜子の事が心配で堪らない。
自分の主人は普段は大人しいが、いきなり凶暴になる事を知っていた。
目の前で殺されて行く同属に、カタワはなす術も無くただ見ているしかなかった。
ただ一度だけ主人の隙を突いて助けた人間、カタワにとっての心の拠り所になっている。
目の前で苦しむ人間を助けたい、カタワは小夜子を助ける為に自分なりに考えていた。
小夜子とカタワはお互いを見つめ合い、お互いの境遇の近さに仲間意識の様な感情が芽生えていた。
その日の夜主人が寝静まり物音一つ無くなると、カタワのゲージから音がする。
ガチャガチャと暫く音がしたかと思うと、ゲージからカタワが出て来た。
手にはどこで拾ったのか爪楊枝を持っていた。
カタワはキョロキョロと辺りを伺い、早足で小夜子の布団に潜り込む。
暫くは小夜子の体をもぞもぞと触りだした。
何かを確認すると小夜子の顔辺りで布団から這い出て、小夜子の顔に抱きついた。
小夜子は全く起きる気配が無く、カタワはその顔を覗きこむ。
「ニンゲンさん待っててテチ、カタワきっと助けるテチ」
「絶対テチ、絶対助けるんテチ、それまで大人しくしてるテチ」
カタワは小夜子にそう呟くと名残惜しそうに見つめた。
振り返ると自分のゲージに戻って、器用に爪楊枝を使い自分でロックを掛けた。
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翌日僕は学校を体調不良の理由で休んだ、多分今頃は小夜子について大騒ぎしているだろうと思う。
休むと疑いを掛けられるかもと思ったが、今日一日だけは小夜子の面倒を見たい。
部屋に入ると小夜子は寝ていた、熱も下がっている様で少し安心する。
小夜子を起こすとまだ体調が悪いのか、虚ろに目だけを開けて僕を見ている。
『あのさ・・昨日の僕はどうかしてたんだ、決して君を苛めるつもりはないんだ』
『分かって欲しい・・おかしいんだ・・僕は少しおかしいんだ、欲しい物はどうしても欲しい』
『だから君がおかしな事をしなければ、ここでは快適に過ごせる』
『自由もある程度は認める・・・僕の監視付きだけど』
僕の提案に小夜子は目を丸くして何も言わない、そうだろう監禁する事を小夜子に強制してるんだから。
『う、うん欲しい物を言って良いよ、とりあえず出来る事はするつもりだから』
『何も食べてないだろ、何か持って来てあげようか』
暫くの間、僕と小夜子の間に静寂が訪れる、最初に口を開いたのは小夜子だった。
『い・・いらない・・ロープを・・ロープを解いて・・それとトイレに行きたい』
僕は小夜子の要求を飲む事にした、ロープを解くと小夜子をトイレまで連れて行った。
フラフラと立ち上がり、足元もおぼつかない小夜子を僕は支えようしたが、
小夜子は手を上げて僕の接触を無言で拒んだ、僕はまだ嫌われているのだろうか。
小夜子は壁に持たれながらトイレまで行くと、トイレの前で僕は小夜子を監視した。
トイレから戻ると小夜子はすぐに布団に入って僕に背を向けた。
僕は寝ているいる小夜子の前に正座をして座った。
その背中を見つめていると、腹の底から湧き上がってくる衝動を感じていた。
小夜子を酷い目に合わせ無茶苦茶にしてやりたい、小夜子に優しくして僕を見直して貰いたい。
矛盾するこの気持ちは、僕がカタワを思う気持ちと一緒だ。
後ろからカタッと音がした、振り返るとゲージの中でカタワが僕を心配そうな顔で見ている。
『実装石か・・』
『僕をおかしくしてしまったのが、お前なんだよな』
『あの時に仏心を出したばっかりに・・・』
仏心・・違う、あの時の僕は約束を守る人間なんだと、こんな小さな仔実装に見栄を張っていた。
つまらない程小さなプライドの集合体・・・それが今の僕だ。
そのプライドが邪魔をして今もカタワを殺せずにいる。
小夜子に対してもそうだ、本当の自分は小夜子を徹底的に酷い目に合わせてやりたい。
指の一本程度で何をためらっているんだろう、体中に傷跡や火傷跡を作り泣き喚かせてやりたい、
指を一本一本落として絶望する顔を見たい、徐々に首を絞めて意識が薄れていくのを見てみたい。
僕の頭に中はそんな妄想で一杯になってくる、だがそれを抑制する気持ちが自分にも存在している。
カタワだ・・カタワと生活してから僕の気持ちに揺らぎが生じている。
カタワは僕を理解する唯一の存在、その存在を僕は目の前の小夜子にも求めているのか?
実装石は儚く弱い存在、その程度の存在に僕は何を求めているんだろう・・・
何なんだろうこの気持ちは・・・嫌われたくないから?・・・・違う・・それは僕の望んだ事だ。
認めたくない・・実装石のカタワを僕の方が好きだなんて事は・・・認めない・・認めない。
僕は実装石どころか人間すら殺せるんだ・・・何をためらっているんだ・・ためらう理由など無い筈だ。
僕は自由だ・・なんでも出来る・・自由を行使してなにが悪いんだ・・責任は後で誰かが考えてくれる。
僕の中の誰かが僕に暗示をかけて来る、久しぶりにお腹の底から黒い塊がせり上がって来た。
息苦しい・・・自分の手を見ると震えている、吐き気に似た胸のむかむかに我慢が出来なくなって来る。
胸を押さえて屈みこむと、もう一人の誰かが僕を急き立てている様な気がした。
僕の手は無意識に小夜子の掛け布団を掴んで、そのまま上に捲り上げていた。
いきなり布団を剥がされて、うとうとと眠っていた小夜子が驚き悲鳴をあげた。
『キャァァァァア!!』
小夜子は丸まるように自分の体を折り曲げると、僕を上目遣いに見ている。
僕が小夜子の方ににじり寄って行くと、小夜子が首を振った。
『い、いや・・やめて』
『お、お願い・・来ないで・・来ないでぇぇぇ!』
叫んでいる小夜子に僕は馬乗りになると、小夜子の履いてるジーンズのボタンに手を掛けた。
右腕が使えない小夜子は左手一本で必死に抵抗する、敵意をむき出した目で僕をなじった。
『やめてぇ!あんたなんかに・・・』
『あんたなんかにやられる位なら、死んだほうマシよっ!!』
その言葉を聞いた瞬間、小夜子の顔が急に醜くなった様な気がした。
激しい怒りが胸から口へせり上がって来ると、怒りに任せて小夜子を殴り始めた。
何度も小夜子の両頬を拳で殴りつけると、殴られる度に小夜子の抵抗が弱まっていく。
殴りつける度に小夜子の口から、短い呻き声が聞こえる。
きれいだった小夜子の顔が赤く腫れ、僕の興奮は絶頂へと達する。
気が付くと小夜子は鼻と口から血を流しぐったりとして、泣きながら哀願を繰り返していた。
『うう・・や、やめて・・もう抵抗しないから・・』
『好きにして良いから・・・大人しくしてるから・・』
慌てるように小夜子の服を剥ぎ取ると、思い続けていた小夜子の裸があらわになった。
白く均整のとれたプロポーションに、僕は暫く釘付けとなる。
顔を胸に近づけると汗の臭いに混じって甘い匂いが漂ってくる。
その匂いを嗅いだ僕はそれから先を覚えていない。
背中を丸め泣きじゃくっている小夜子が、裸で僕の目の前にいた。
小夜子の性器からは僕の物であろう精液がドロリと溢れている。
僕は何て事を・・こんな筈じゃなかった、自分をどうしても抑えきれない。
全てが終わり冷静になると、ぼくは自分のした事に後ろめたさを感じ、
小夜子に対してすまないと言う気持ちで一杯になる。
僕は何度も謝りながら小夜子の体をタオルで拭いたが、小夜子は何の反応も示さなかった。
無抵抗の小夜子の手を後ろ手に縛り足も縛ると、僕は居間から逃げるように出て行った。
自分の部屋に帰るとベッドに潜り込み、自分の行為に後悔と懺悔を繰り返したがやがて眠ってしまう。
その日僕の見た夢は実装石ではなく、小夜子が無言で耐えている表情を延々と繰り返す夢だった。
夢の中の小夜子はとてもキレイで、僕は小夜子の事を何度も慰めていたが小夜子の返事は最後まで無かった。
朝になり僕は自分が夢精していた事に気付くと、昨日の事もありなんだか恥ずかしくなった。
シャワーを浴びると学校へ行く用意をする、今日は学校へ行かなければ僕まで怪しまれてしまう。
家を出る時に小夜子の様子が気になり居間を覗いた。
特におかしな事も無かったのでそのまま学校へ行く事にした。
学校に行くと案の定クラス中小夜子の話で持ちきりだ。
口々に失踪だの誘拐だの憶測が飛び交っている、僕は知らん振りを決め込んで何食わぬ顔で窓の外を眺めた。
窓からの景色は相変わらずだが、僕にはそれを楽しむ余裕は無かった。
そして噂をするクラスの者達の目が、全て僕に向いている様な気がした。
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『キャァァァァア!!』
いきなり布団を剥ぎ取られて、小夜子は驚きの声をあげた。
「」を見ると無言だが、どこか狂気を感じさせた。
小夜子の心に「犯される!」の思いが、支配されていく。
丸まってじっとしていたが「」はすぐに小夜子に馬乗りになり、独り言を呟いている。
その独り言は自分を弁護する言葉で埋め尽くされ、小夜子を犯す正当性を模索している様だった。
気味が悪くなった小夜子は「」を罵倒した、その瞬間「」はいきなり怒り始めた。
何度も殴られて意識が遠のいていく中で、小夜子は命の危険を感じた。
指を切られ体力も落ちている小夜子は、もはや抵抗も出来ない。
悔しいけど自分の体は「」に任せる事に決める、このまま殺されるよりかは良いと思った。
『うう・・や、やめて・・もう抵抗しないから・・』
『好きにして良いから・・・大人しくしてるから・・』
そう言うと「」は小夜子の体を貪るように撫で回し始める。
その様子は小夜子にとって滑稽で気持ち悪い物だった。
こんな奴の言う事を聞かなければいけない自分が、情けなくて仕方がなかった。
「」は自分のペニスをどこに入れていいのか分からず、何度も小夜子の性器へ押し当てる。
何度か繰り返す内に偶然だが上手く嵌める事が出来ると、何も考えずに腰を振り始めた。
まだ濡れていない小夜子の性器は、いきなりの激しい動きに痛みを覚える。
小夜子にとってSEXはこれが初めてでは無かったが、これ程嫌なSEXは初めてだった。
早く終われば良いとふと横を見ると、カタワがゲージから自分を見ている。
その表情はやはり心配してる顔が見て取れて、小夜子なぜか急に悲しくなって来る。
カタワを見つめながら大粒の涙が止め処なく流れると、カタワは自分の左腕の袖を掴んでうずくまった。
何も出来ない自分が悔しいのはお互い同じだった、二人はお互いの気持ちが痛いほど分かっている。
全てが終わるとなぜか「」は急にしおらしくなり、小夜子の身を心配し始める。
小夜子にとってその行為全てが癪に障り、殺せる物なら殺してやりたいとも思った。
「」が出て行き居間には静けさが戻ってきた。
用心深い「」は小夜子の手足を縛ると、その日は二度とくる事は無かった。
夜中になり小夜子がうとうととしだすと、耳元で声が聞こえた。
見るとカタワがゲージを抜け出して、小夜子の顔の前まで来ていた。
「テチィ、テチャァ」
(ニンゲンサン、大丈夫テチ)
カタワが小夜子に話しかけてくるが、リンガルが無いので小夜子には分からなかった。
『あなた自分で出られたんだ・・・』
カタワは小夜子の顔に抱きつくと、涙と汗と血が入り混じり汚れている顔を自分の服で拭き始める。
くすぐったかったが嫌な気はしない、小夜子もカタワの事が気になって仕方が無い存在になっていたからだ。
拭き終わるとカタワの服が汚れていた、心の底から優しく接するカタワに小夜子は特別な物を感じていた。
カタワは小夜子から少し離れると片腕を自分の胸にポンポンと当て、自分に任せろとゼスチャーを繰り返した。
何の意味か分からず首をかしげ、小夜子はカタワを見つめていたが、
テチィと一言小夜子に言うと、カタワは小夜子の布団に潜り込んで来た。
布団に潜り込んだカタワは小夜子のロープを必死に、引っ張ったリ押したり叩いたりして外そうと試みる。
だが所詮仔実装の力ではロープを外す所か、まったくびくともしない。
小一時間程だろうかカタワはロープを相手に奮闘したが、ついには自分の力では外せ無い事を知る。
布団から這い出てきたカタワは汗だくになり、真っ赤な顔をして息も荒い。
首をうなだれ小夜子の前まで来ると、すまなさそうな顔で小夜子を見つめた。
「ハヒィ、ハヒィ、プヒィィ」
「テチィ・・テチテチ、テチィ」
(ごめんテチィ・・どうしても外せなかったテチ」
片腕の実装石に出来る事は何となく想像は付いていたが、落胆して溜息を付くと小夜子はカタワに話しかけた。
『ふぅー・・いいのよ、実装石のあなたに期待した私が悪いの』
肩を揺らせ息を整えているカタワを見て、小夜子はテレビの1シーンを思い出していた。
小夜子の頭の中ではお互いが縛られている男女が写る。
切迫した時間の中で男が女のロープを歯で噛み切るシーンだった。
だが実装石のカタワにそんな事が出来るのだろうか、少し考えたが小夜子にとってカタワ以外に頼る者はいない。
『ねぇ・・あーんしてみて』
キョトンとするカタワは小夜子の言っている意味が分からなかった。
首をかしげるカタワに小夜子は自分の口を開け、カタワにも同じ事をする様に即した。
『ほら早く!あーんよ』
小夜子の行動につられてカタワも自分の口を目一杯開けて見せた。
「テチィ・・アーンチィ」
カタワの口の中を覗き込むと、仔実装ながらカタワには小さいが歯は生え揃っていた。
犬歯も何本か生えており、小夜子にも少しだが希望が見えて来る。
『良く聞いてねカタワ・・あなたのその歯で縛っているロープを噛み切って』
口を空けたままのカタワは口を閉じると、自分に対して小夜子が助けを求めている事を知る。
ただ実装石の弱い歯で堅いロープを噛み切れる自信は無く、小夜子を不安げに見つめた。
カタワの表情に小夜子も不安を感じていたが、今はカタワに一縷の望みを託すしか無かった。
『大丈夫あなたなら出来るわ、あなたしかいないの』
『お願い!!』
カタワはうつむいていた顔を上げると、小夜子に向かって一度頷きまた布団の中へ潜って行った。
手を縛るロープを確認すると、カタワはいきなりそのロープに齧りついた。
齧りついたのは良いが、ロープはカタワにとってとても堅く歯が立たない。
暫くガジガジと噛み付いていたが顎が疲れたので、座り込んでしまう。
どうすればこのロープを噛み切る事が出来るのか考えたが、所詮実装石の頭では何も思いつかなかった。
気を引き締めるとまたロープに噛み付いた、疲れたので表面を少し齧るとプチリと少しだけだが切れた。
「ティー?テチテチャ、テチィテチ」
(切れたテチ??なんだか分からなけどちょっとずつなら切れるテチ)
荷物を縛る為のビニールロープは、引っ張りには強いが摩擦には弱い。
カタワは少ししづつ噛み付く事によって、縦繊維になっている所を少しだけ歯に引っ掛けて偶然切れたようだ。
ガジガジ、ガジガジとカタワは懸命にロープに齧りつく、プチプチと少しづつだがロープは切れていく。
3分の一ほどロープが切れたろうか、顎の痛みと闘いながら犬歯に繊維を引っ掛け引っ張ると、
バキンッと口の中で音がした、いきなり痛みが口の中を襲う見ると口から血が溢れてきた。
「チャァァァァァ!」
(痛いテチ!歯が、歯が折れたテチィィィ!)
口からころりと鋭い犬歯が落ちてくる、折れた歯の根元から血がダラダラと顎を伝い服に血が付いた。
カタワは自分の歯を触って確かめると、他の歯もぐらぐらしている。
「テチィ・・テチャテチャ」
(やばいテチ・・歯がもたないかもテチ)
朝になってもまだロープは解ける様子は無い、小夜子も半ば諦めの気持ちが強くなってきた。
そんな事を考えていると居間のドアがガチャリと開いた。
『あっ・・あいつもう来たんだ』
小夜子は部屋の中に入られるとまずいと思ったが、「」はドアを開けチラリと見ただけで部屋を出て行った。
耳を澄ましていると玄関の扉が開け閉めする音が聞こえ「」が家を出て行ったのが分かった。
小夜子は「」が学校へ行ったんだろうとほっとした。
手を伝わってカタワがロープを齧っているだろう感触を感じつつ、
「」がいなくなった事に安心したのか小夜子は、疲れの為ぐっすりと眠ってしまう。
熟睡していた小夜子は縛られていた手が、ごとりと落ちた事に気付き目を覚ました。
まだぼんやりとしていたが、時計を見ると丁度お昼になっていた。
『うん・・手が、手が動く・・』
小夜子は敷き布団に手を付き上半身を起こすと、掛かっている掛け布団をめくり上げた。
傍らには口を血だらけにしたカタワが、ニッコリと笑って小夜子を見上げていた。
笑った口から数本しか残っていない歯が覗き、その姿を見た小夜子はカタワを抱き上げた。
脇に置いてあるタオルでカタワの顔を拭くと、抱きしめ頬摺りをした
『ごめん・・ごめんね、無理言っちゃって』
『私の為にこんなになっちゃって』
ニンゲンさんが自分に感謝をしている、見ると自分に涙を流している。
カタワは小夜子の役に立った事が嬉しくて仕方が無かった。
口の中の痛みもその嬉しさの前では、心地良い痛みとしてカタワに響いてくる。
カタワは頬摺りされ懐かしい気持ちになると母親を思い出した、母親が生きていた頃は毎日こうして抱いてくれた。
右手を伸ばすと小夜子の頬に触れる、久しく味わっていない不思議な気持ちがカタワの心を覆った。
カタワを下ろすと小夜子は縛っている足のロープを外し立ち上がった。
一度屈伸をしてカタワを見下ろすと、カタワに向かって手を差し伸べた。
『さぁ・・ほら!』
小夜子の呼びかけにカタワ見上げて頭を傾ける。
「テェェ?」
『・・だからあなたも一緒に出て行くの』
『こんな所にいると、あなたも殺されるわよ』
カタワにもやっと小夜子の言った意味が分かったが、なぜか顔が曇りだす。
「テエー・・テチテチュ」
(い、行かないテチ・・カタワここに残ってるテチ」
首を振って小夜子の手を振り払うと、カタワは後ろを向いた。
『なんで・・なんでよ、もう!』
『いいわ、無理やりにでも連れて行くから』
「テチャァァ!!」
小夜子が手を伸ばし捕まえようとした瞬間、カタワは走り出しゲージへ逃げてしまう。
追いかけたがねぐらにしている巣の中に入り、そこから出なくなってしまった。
「テチテチュ、テチィィ」
(ニンゲンさんだけ早く逃げるテチ」
「テチテチャ、チィィ」
(カタワのお家はここテチ」
巣の中で後ろを向きうずくまるカタワを見て小夜子は溜息を付く。
『ふぅー・・分かったわよ・・』
『それじゃ私・・行くから・・ありがとねカタワ・・』
ゲージを振り返りながら小夜子が出て行くのを確認すると、カタワもゲージから出てきた。
小夜子の出て行った扉を見つめて、安堵と後悔の念が湧き上がってくる。
「いちゃったテチ・・・」
「あのニンゲンさんママみたいだったテチ」
「もっと一緒にいたかったテチ」
カタワが小夜子の寝ていた布団をさすりながら考え事をしていると、部屋の扉がいきなり開いた。
驚いて立ち上がると、扉を開けたのは出て行ったはずの小夜子だった。
手には玄関に刺してある木製バットが握られている。
「テチャァ!テチュテチュ!!」
(戻ってきちゃ駄目テチ!早くここから逃げるテチ!!」
必死に小夜子を説得をするカタワだが、小夜子はカタワが何を話しているのか分からない。
『いいの、私ねあいつがどうしても許せない!』
『このまま警察に行っても、あいつは痛い目も会わずに出てくる、考えられないわ』
『私の恨みは私自身が晴らす!』
小夜子の言葉を聞いてカタワは困り果ててしまう、このニンゲンは何を考えているのか分からない。
「テチャ、テッテチュ!ティェェ!」
(無茶テチ、ご主人様はとっても恐ろしい人テチ!」
『ふふ、待ち伏せすればあいつもイチコロよ』
『カタワ!あなたにも手伝ってもらうから』
そう言うと小夜子は部屋を出て行った、残されたカタワの心境は複雑だった。
小夜子に協力すればご主人様を裏切る事になる、さりとて小夜子にもここを無事に出て貰いたい。
足りない頭で何度考えても答えは出てこなかった。
部屋を出た小夜子は各部屋の配置や武器になりそうな者を捜した。
捜して行くうちに風呂場の前まで来た、扉に手を掛けた時になぜか嫌な予感が小夜子を襲う。
意を決して入って行くと、強烈な異臭と異様な風景が目に飛び込んできた。
『うわぁ・・何よここ・・』
壁に掛けられている拷問道具の数々、天井から吊るされているフック。
風呂桶にこびり付く血と緑色の染み、そして何よりも部屋全体に異臭が漂い、目を開けていると涙が出てきた。
ふと傍らに置かれてある水槽からコポッと音がした。
『うん・・何かしらこの水槽・・・キャッ!』
水槽の蓋を開けるとそこには、半分溶けかかっている実装石の顔が浮いていた。
その顔はまだ死んでいないのか口を時折パクパクと動かして、小夜子に何かを訴えかけていた。
『なに・・なによ・・気持ち悪い・・ウゲッ!』
いきなり吐き気が小夜子を襲い、風呂桶に手を掛けると吐いてしまった。
昨日から何も食べていない小夜子の胃からは黄色い胃液しか出てこない。
その胃液は風呂桶の汚物と一緒に混ざると、そこからも異臭が漂ってきた。
風呂場を出て扉を閉めると、小夜子の体から汗が噴出して来る。
手に持ったバットを見つめ、両手で掴み力を入れると指の無い右手が痛くて力が入らない。
小夜子はこんなものであいつを叩きのめせるのか不安になってくる。
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学校では小夜子の行方や硫酸の件それらが重なり、今はまともな授業も出来ない状態になっている。
警察関係の人間らしき者も見かけ、色々と調べ始めている。
僕が捕まってしまうのも時間の問題の様な気がした、取り合えず僕は白を切るだけ切ってみようと考えている。
授業も半日で終わりになり僕は慌てて家路に急いだ、小夜子の事が心配になったからだ。
家に帰りドアを開けると鍵が掛かっていない、嫌な予感は的中した。
慌てて居間まで行くと、そこには小夜子所かカタワの姿も無かった。
小夜子はカタワを連れてこの家から逃げ出してしまった、今度こそ僕も終わりの様だ。
と、その時廊下の方で何か軋む様な音がした、僕は廊下に出ると音の行方を捜した。
廊下に出たがそれらしき物は確認できない、!!後ろで音がした。
振り返ると小さな黒い影が廊下を走っていく、その影は階段の裏側に置いてある整理棚の裏に隠れた。
『カタワなのか・・おい!』
僕は黒い影を追って階段の裏まで来た、ここは階段の下という事もあり昼間でも明かりが差さず暗い。
置かれている整理棚を捜したが、影の原因は分からなかった。
「テチィ・・」
カタワの声だ・・二階から聞こえる、変だなカタワの大きさだと二階へは登れない筈だ・・・
僕は特殊警棒を風呂場から取ってくると、用心しながら階段を登り始めた。
階段を四つん這いになり登って行くと、一番上の踊り場の端にカタワが座っていた。
『カタワ・・なんでこんな所に?』
カタワの表情はどこと無く悲しそうだ、ん・・後ろからズボンの裾を何かが引っ張った。
振り返り見ると引っ張っているのは、さっき廊下を走って行った黒い影だ。
『えっ・・なんだお前・・影だけなのか』
—ガツン!
後ろを振り返っていた僕は、いきなり右耳の辺りに激痛が走る。
キーンと耳鳴りがして意識が遠のいて行く、階段を落ちそうになったが何とか左手で階段の手すりを掴んだ。
踊り場を見ると小夜子がバットを持って立っている、僕を睨みつけるとバットを振りかぶり振り下ろしてきた。
僕は右手に持っている特殊警棒で頭を守ったが、振り下ろしたバットは僕を支えている左手をなぎ払った。
バキン!と骨が砕ける感触がすると、伸ばしきっていた腕は衝撃を吸収できずいとも簡単に折れてしまった。
その瞬間僕は階段を転げ落ちる、一回転して仰向けに背中から落ちると胸に痛みがあり呼吸が苦しい。
『ゴホ!ゴボ!』
口から血が少量だが滲んでいる、腕も変な方向に折れ曲がり感覚が無くなっている。
見上げるとカタワを拾い上げ小夜子が階段を下りて来た。
僕は体を起こそうとしたが背中にも激痛が走る、カタワを小脇に抱え小夜子が僕を見下ろし毒づいた。
『いい気味だわ、あんたなんか死んじゃえば良かったのに』
『私の指・・私の指はどこにあるの?』
『・・・・・』
『ふーん・・そう』
カタワを床に下ろすと、無表情な顔で僕を見下ろしたままだ。
—ドガ!
『ギャァァ!!』
『くっくっくぁぅぅ!!』
いきなり僕の折れた腕を小夜子は蹴り上げた、信じられない痛みが体中に伝わると僕は腕を押さえ転げ回る。
『指はどこっ!』
—ガッ!
『ほら早く』
—ガス!
『言わないと』
—ガシ!
『いつまでも』
—ドカ!
『続くわよ』
—ドコ!
床を這いずる僕を小夜子は執拗に追いかけ蹴り続ける。
その表情に感情と言うものが全く無く、僕は恐怖心を感じた、このままじゃ殺される!
『や、やめてくれぇー!!』
『言うから・・もう逆らわないから!』
『冷凍庫、冷凍庫に入れてある』
僕の顔を何か汚い物を見るような目で見ると『フン!』と一言吐き出し台所の方に歩いて行った。
横ではカタワがオロオロとした顔で、僕の顔を覗きこんでいる。
僕は痛みで意識が朦朧となり、汗が顔から大量に流れ落ちている。
小夜子はすぐに台所から出てくると、僕の前に立ちカツンと何かを顔の前に投げてよこした。
見るとそれは小夜子の凍りついた指だった、紫色に変色した指は切り取った状態からは随分と変化している。
『何よこの指!』
『もう使い物にならないじゃない』
僕は何も答えられず小夜子の顔をおずおずと見上げた。
小夜子の目には涙が浮かび、明らかに怒りをあらわにしている。
『この指が欲しかったんでしょっ!』
『あんたに上げる!』
小夜子の体が震えている、怒りも頂点に達したのか声も震えだす。
『あーもう・・私、もう我慢出来ない』
『あんたの・・あんたの頭を潰してやる!』
冗談じゃないと思ったが小夜子の目は尋常じゃない、バットを振りかぶると僕を睨みつけた。
『ま、待ってくれ、良く考え直せば分かるだろ!』
『僕を殺しても指は元通りになる訳じゃない、損をするのは君なんだぞ!』
『損・・損ですって!あんたに何が分かるの』
『あんたの頭を潰せば、さぞかし気も晴れるでしょうよ!』
駄目だ、もはや話し合いも糞も無い、小夜子は僕を本気で殺す気なんだ。
異様な空気が辺りを包み込むと、小夜子の後ろに無数の小さな影が現れた。
その影を見て正体がようやく分かった、あいつらは僕が殺した実装石達だ。
もしかしたら大人しい筈の小夜子が、こんなに凶暴なのもあいつらのせいなのか。
そう思うと僕は今の状況に合点がいった、これは奴らの復讐なんだ。
どうあっても僕を殺さなければ気が済まないのだろう。
いつの間にか無数の黒い影達が僕の周りを囲んでいる、僕は観念して目をつぶった。
「テチャァア!」
突然僕と小夜子の間にカタワが割って入って来た。
小夜子の前で一本しか無い手を広げ何かを叫んでいる。
「テチャァ、テッチテチテチィ!」
(だめテチ、ご主人様ころしちゃだめテチ!」
『ちょっと!邪魔よどきなさい!』
「テチュァァァァン!!」
(いやテチィィィ!!)
『もう!』
小夜子はカタワを押しのけ前に出ると、僕を殺そうと再度バットを振り上げたが、
僕の顔にカタワが覆いかぶさる様に、抱きついてきた。
「テチテチ、テチュテチュ!!」
(カタワのご主人様テチ、勘弁してテチュ!!)
『むっ・・・・・!!』
暫くの間カタワと小夜子の間に沈黙が流れると、カタワに対し小夜子が怒り出した。
『あんたねぇ〜どっちの見方なのよ!』
『あんたの腕もそいつが切り落としたのよっ』
『憎くないの!悔しくないの!』
「テ〜・・テチュテチィ」
(テ〜・・カタワ分からないテチ)
「テチューテッチテチ」
(憎いってなんテチ、悔しいって分からないテチ」
小夜子はカタワの言葉が何となく分かったのか、諦めたような口調になり手に持ったバットを床に投げた。
『分かったわ・・カタワがそう言うんじゃバカらしくなっちゃった』
『もういい・・私は家に帰るから』
後ろを向いて去ろうとする小夜子にカタワは、名残惜しい様な顔をしている。
僕は気になる事があったので、小夜子を呼び止めた。
『ちょっと・・ちょっと待ってくれ』
小夜子は振り返ると、僕に対して軽蔑の眼差しを向けた。
『何よ、あんたなんかに話す事は無いわよ』
『あのさ・・君の周りに黒い影が見えるかな?』
小夜子は首をかしげると馬鹿にしたような口調で答えた。
『はぁ、何言ってんのあんた、頭おかしいんじゃない』
『黒い影?・・そんな物はどこにも見えないわよ』
『そ・・そうか』
どうやら黒い影は僕以外には見えないらしい、家を出て行く小夜子を見つめながら僕はほっとしている。
天井に目をやると痛みのせいか歪んでライトの明かりが見える、カタワが僕の顔を心配そうに覗きこんだ。
僕はポケットからリンガルを取り出すと、カタワに話しかけた。
『カタワには助けられてしまったな』
「ご主人様を助けるの当然テチ」
『ははは・・そうだったな僕はカタワの主人だもんな』
『聞きたい事があるんだ、どうやって小夜子はロープを切ったんだ』
『いや・・そもそもカタワは小夜子と何をやっていたんだ、答えてくれカタワ』
カタワは自分の服から爪楊枝を取り出し、僕に見せた。
『そうかそれでカタワはゲージを出たんだ』
『ロープ・・小夜子のロープはどうやって切ったんだ』
カタワは口を大きく開いて、ボロボロになった自分の歯を僕に見せた。
『・・・カタワお前か・・全部お前の仕業だったんだ』
『カタワは主人の僕を裏切っていたんだ・・・なぜだ、答えてくれ』
「裏切るつもり無かったテチ、ニンゲンさん可哀相だったテチ」
「カタワニンゲンさんを助けられたテチ、だから助けたんテチ」
なんて事だカタワはここに来た時から、何も変わっていなかったんだ。
いつも一緒にいた僕でさえも分からなかった、僕の与えた恐怖なんてカタワには関係ないのか。
『カタワ・・僕はカタワが好きだ』
『こんなに好きで好きで堪らないのに、お前は僕を裏切るんだな』
「カタワもご主人様、大好きテチ」
「カタワと遊んでくれるのご主人様だけテチ、好きテチ、大好きテチ」
唯一動く右手でカタワを殺す事も出来るが、今はそんな気分にはなれなかった。
やがてここに警察が来るだろう、それまではカタワと一緒にいたかった。
『そうか・・そうだな・・・』
『僕は暫くいなくなるが、すぐに帰って来る』
『いいかカタワ僕の帰りを待っていろよ』
『また一緒に二人で暮らそう・・』
「ご、ご主人様!カタワ待ってるテチ、ずっとずっと待ってるテチ」
『あぁ当然だカタワ、お前は僕の物なんだから』
○ ○ ○ ○ ○ ○
あれからすぐに警察がやってきて、僕は病院に連れて行かれた。
カタワの行方はその時以来分からない、今はどうしているんだろうか気になる。
怪我が治ると裁判になったが、僕は未成年で精神が侵されているという事になり無罪となった。
小夜子の親は傍聴席で怒っていたが、僕も小夜子から痛い目に会わされたんであいこだろう。
ただ指定の精神病院への強制入院を義務付けられてしまい、僕は今もそこにいる。
3畳程の狭い個室だが孤独は嫌いではなかったので、住み心地は悪くは無い。
窓はやたら高い所にあり小さな空しか見えない、多分脱走や自殺防止の為だろう。
ここでの生活で僕は困った事がある、それはカウンセリングと称して、
担当の医師やボランティアと称するつまらない奴らと、毎日かなりの時間面談をしなければならない。
そしてたまにやってくる父との面会も僕を苛立たせ、とてもじゃないが我慢が出来ない。
僕は一人で良いんだ、誰とも話なんかしたくは無い。
医者の奴らはまだまだみたいに首を振り僕を馬鹿にする、知ったような顔をして命令すらする。
ボランティア・・・こいつらは最悪だ、僕の事を可哀相な目で見て自分の虚栄心を満たしているんだ。
口から出る言葉は嘘でまみれ反吐が出る、こんな奴らの為に何で僕が付き合わなければ行けないのか。
そして父との面会も僕を嫌な気持ちにさせる、父は息子でる僕の事をここから出そうとはしない。
治るまでは絶対に出さないと言った、でもおかしいだろ僕のどこがおかしいのか当の父も分からないのだ。
僕は何度も父に僕のおかしい所を聞いてみたが、先生に任せているの一点張りで取り合おうともしない。
父は僕を一生ここに閉じ込めて置くつもりなんだ、そんな父が来ると必ず僕は怒りだしてしまう。
壁には僕を24時間監視するカメラが取り付けてある、部屋の明かりも監視するために完全に落とす事は無い。
明るい部屋で僕は眠れず、腹の底からイガイガした物で一杯になってくる。
だけど明かりを落とさないのは、僕にとって幸いなのかもしれない。
僕は暗闇が怖い、あの黒い影が明かりの中では出る事は無いだろうからだ。
唯一の暗闇そこはベッドの下にある、ベッドは打ち付けられている為に動かせない。
ベッドの下を覗くと無数の影が蠢いているのが分かる、その影は塊となって僕を睨みつけている。
もしも・・全てが暗闇に包まれたら・・・そんな事を考えながらベッドの下の影を感じている。
僕の事は構わないで欲しい、僕は一人で何でもできる、僕は一人でどこへでも行ける。
誰もいらない、何もいらない・・父親も学校も僕に関わる全て・・唯一カタワ以外は・・
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エピローグ
あの事件の後この家は父親によって売りに出された。
地元の不動産屋が購入したのだが、廊下を走る音や風呂場から悲鳴が聞こえたりと変な噂が立ち、
半年が過ぎたが未だ買い手も付かない有様だ。
門は堅く閉められいつしか幽霊屋敷と言われる様になり、購入した不動産屋も困り果てていた。
ここを売った代金は全て小夜子の賠償に当てられ、今も毎月「」の父親は賠償金を払い続けている。
民事では父親が全ての責務を負い、全ての支払いを義務づけられた。
「デスゥ・・」
カタワもいつしか成体になり、近所の公園をねぐらにして生きていた。
毎日この家の門に来ては、かつてのご主人様が帰って来るのを待っている。
飼われていた時はそれなりに清潔にしていたが、今では見る影も無い位に汚れている。
髪の毛はぼさぼさに伸びて、それが固まりの様になっている。
服は所々が破れ色も汚れが染み込んで、緑と言うより黒に緑がかって擦れる所はテカテカと艶を出していた。
顔はやはり汚れで薄黒く、きれいな場所はどこにもなかった。
門に掴まり中を覗き込むが人の気配も無く寂れ、かつて自分もここに住んでいた頃を思い出していた。
公園での生活は片腕のカタワにとっては、とても過酷でつらい物だ。
体に異常がある実装石は健常な実装石の捕食相手にみなされる。
カタワも何度も命を狙われたが、運良く逃げおおせて何とか生きていた。
しかし隠れ住んでいるカタワにとって餌一つ満足に取るのも大変で、いつも腹を空かせている。
今も柵に掴まり空腹がカタワを襲う。
「おなかへったデス・・また帰りに道端を捜すデス」
「ご主人様・・帰って来るって言ったデス」
「カタワ・・カタワはもう駄目かも知れないデス」
へたり込むカタワに影が上から覆った。
「デスゥ?」
『・・・うふふ、ほら』
現れたのは小夜子だった手にはリンガルが握られている、小夜子はあの日以来カタワが心配で度々ここに来ていた。
ブレザー姿の小夜子は学校の帰りに、たまたまここまで足を伸ばして来た。
「あっ、あの時のニンゲンさんデス」
『捜したのよカタワ、やっと逢えた』
そう言うとポケットからハンカチを出しカタワの顔を拭き始めた。
『もう、こんなに汚れて、たまには洗いなさいよ』
拭き終わると汚れた面を中に折込またポケットにしまった。
『カタワったら、もしかしてまだ待ってる訳』
「はいデス・・ご主人様が待っていろって言ったデス」
『うーん・・言った所であんたに分かるかしら』
小夜子はカタワにこの家の事情や、売られてしまったので待っていても無駄な事、
カタワにも分かるように噛み砕いて説明した、カタワは半分以上意味が分からなかったが大よその意味は理解した。
「えっ、それじゃいつまで待ってもご主人様来ないデス」
「帰る場所が無くなったデス?」
『まぁそう言う事、あんたのご主人もあっちの病院に行ったし』
『それに治ってもこの地域に帰って来れないって、法律で決まったの』
「そ・・そんなデス」
落胆するカタワに小夜子は自分の手を見せた、その手の人差し指は第二関節から先が無くなっていた。
カタワはその指を触り、申し訳無さそうな顔をする。
「デスゥ・・カタワと一緒デス」
『ふふ、あなたほどは深刻じゃないわよ』
『残った関節で大概の事は出来るし、もう慣れちゃったから』
しんみりとした時間が二人の間に流れると、小夜子が話を切り出した。
『ねぇカタワ・・かたわの私達って似た物同士だと思わない』
「そんなデス、カタワ実装石デス、ニンゲンさんと違うデス」
『私の名前は小夜子って言うの、みんなはサヨって呼ぶわ』
「サヨ・・ちゃんデス?」
『うん、ニンゲンさんじゃ、おかしいでしょ』
「分かったデス、サヨちゃんデス、サヨちゃんデス」
他愛の無い事に喜ぶカタワを見て、小夜子もこれならと話を始めた。
『あのね・・カタワ、あなたさえ良ければだけど、私の家に来ない?』
『あなたは私の命の恩人よ、パパやママも大丈夫だって・・』
いきなりの小夜子の申し出にカタワは言葉も出ない。
色々な思いが頭の中を駆け巡ると、実装石の頭では整理出来ずにいた。
「そ、そんな分からないデス、カタワ分からないデス」
『簡単よ私はカタワが大好きよ、カタワは私の事が嫌いなの』
「好きデス、サヨちゃんカタワ大好きデス・・でも」
「時間が欲しいデス・・ちょっと待っててデス」
小夜子から離れるとカタワはこれまでの事を考えていた。
自分は母親の変わりに生き延びた事、目の前で沢山の同族が殺されて行った事、
そして自分自身で同族を殺した事、自分にはご主人様がいる事。
無くなった腕の袖を掴みカタワは必死に考えていた。
ご主人様の事は既にここに来れないと分かった以上、義理立てる必要も無いのは分かってはいた。
目の前にいる小夜子はとても優しく、自分はついて行けばきっと幸せが待っているに違いない。
それでも自分だけが幸せになる事には、どうしても抵抗があった。
暫く考え顔を上げると、小夜子の前に行きカタワは告げる。
「ごめんデス・・やっぱりカタワ・・行けないデス」
小夜子は溜息を付くと悲しそうな顔になり、立ち上がった。
『そう・・あなたが決めたんならしょうがないわね』
『悲しいけど、それもあなたの人生だし』
カタワは小夜子に抱きついてでも付いて行きたかったが、だがどうしても小夜子の元へは行けなかった。
「ごめんデス・・ごめんデス・・・カタワ・・」
『また明日もここに来るわ、きっと来るから待っててね』
『私って意外としつこいのよ』
カタワにそう言い残すと小夜子は自分の家へ歩き出す。
小夜子を見送るカタワの心境は今すぐ声を掛け、小夜子の所へ走って行きたかった。
色んな感情を胸に飲み込むと、顔を上げ小夜子に精一杯の声を掛けた。
「待ってるデスゥ〜カタワ待ってるデスー、ずっとずっとここで待ってるデス−−−」
片腕を精一杯振ると、小夜子が気が付いたのか振り返る。
ニコリと笑うと手を振って遠ざかっていく。
「大好きデス−−、カタワ、サヨちゃん大好きデスーーー!!」
嬉しさと淋しさが入り混じりカタワはいつしか涙を流していた。
小夜子の姿は完全に見えなくなったが、カタワはいつまでもそこに立ち尽くしていた。
自分を思ってくれている人が存在した、それだけでもカタワにとっては嬉しく満足だった。
終わり
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この作品を書くに当たって今回は描写という事に重点を置きました。
リアルな人間の行動と言う訳で、サイコ少年と愚直で優しい実装石。
描写にも自分で出来る限りリアルにえぐい物を考え、それらを最後の方に向け心境の変化を織り交ぜてみました。
結局は両者とも変わる事はありませんでしたが、意固地振りは僕の性格と同じ気もします。
描写を細かくすると次の展開に中々行けずに、描いている僕もイライラしました。
スピーディーさを殺さなければ行けないのは辛かったですね。
ちなみに本当は途中で子供を一人殺すつもりでしたが、展開がグダグダし始めたんで割愛しました。
見張り作者

| 1 Re: Name:匿名石 2023/05/03-19:47:28 No:00007121[申告] |
| 次の日くらいにニンゲンに目をつけられた嫉妬で他の野良に食われてそう |
| 2 Re: Name:匿名石 2023/07/20-00:18:16 No:00007577[申告] |
| 一応即答しなかったがサヨちゃん大好きデスー!で締めるの笑うわ
酒鬼薔薇は大した報いも反省もなく再会もなく終わりでナニコレェ… |
| 3 Re: Name:匿名石 2023/12/12-03:55:12 No:00008522[申告] |
| カタワは愚かだけど良い子で好きだわ
こういう終わらせ方は心証的にはモヤッとするけど、それがまた良いね 鬱々とした邦画の良作を見たような感じでした 人への攻撃は個人的に苦手ったけど、実装石への虐待描写は本当秀逸だと思ったので、また次の作品も楽しみにしてます |