「テチィ……」 薄暗いケージの中に仔実装の鳴き声が沈んでいく。 折れた右腕と両足が鋭い痛みを発し、全身に及んだ火傷が 熱と痒みを帯びた鈍い痛みをその身に与えつづけていた。 高温に熱せられたホットプレートの上に投げ込まれ、 必死でその場から逃げ出そうとすると、棒でその身を殴られるという、 虐待を受け続けたからだった。 足は投げ入れられる前に折られており、右腕は逃げるときに 棒で打ち据えられて折れてしまった。 髪も服もとうの昔に奪われていたので、火がつくという 心配はなかったが、しかしそれにどれほどの差が有るのだろうかと 思えるほど酷い目に遭ったのだった。 だが、今日はまだましなほうだった。 本当に酷いときには、仮死することもある。 今日はまだ意識があるだけ生ぬるかったのだろう。 「テチィ……」 呟きながら、仔実装の目には自然と涙が浮かんでいた。 今でこそこんな酷い目に遭う日々だが、昔はそうじゃなかった。 そう思うと、切なくて涙が溢れてきてしまうのだった。 この仔実装は、飼い主の家で生まれた生粋の飼い実装だった。 しかし、だからといって生まれついての幸せな飼い実装生だったわけではなかった。 仔実装の実装生の幕開けは、悲劇から始まった。 生まれてすぐに実の母親に殺されかけたのだ。 その仔実装は、仔実装から生まれた。 そのため未熟児の蛆実装として生を受けたが、母親からの胎教を受け、 この世のすべてに希望を持って生まれてきた。 「レフ〜♪」 お前もテチィ…… しかし、産まれ落ちた自分を見るなり母実装であった仔実装はそう呟いた。 そのときの母親の顔は恐ろしく醜く歪んでいた。 そして鬼のような形相で、未熟児として生まれた蛆実装である我が子を殺そうとしたのだ。 それを助けたのが飼い主だった。 母親である仔実装は飼い主に殺され、助かったのは蛆実装一匹だけだった。 その後飼い主は蛆実装を大切に育てた。 母親に殺されかけるという目に遭い、たった一人ぼっちだったが、 飼い主の優しさに包まれ、蛆実装は毎日が幸せだった。 やがて蛆実装は飼い主の愛情に応えるかのように、繭を作り 親指実装大の仔実装に変態を遂げ、スクスクと成長していった。 そんな夢のような日々に転機が訪れたのは、仔実装の身長が ようやく普通の仔実装並に成長した頃だった。 仔実装は、その日の朝のことを今でも忘れられない。 いつものように実装フードの朝食を食べていると、飼い主が 仔実装にいった。 「今日は特別にコンペイトウをやろう」 「テチュ〜♪」 仔実装は素直に喜んだ。 今日のご主人様はいつもより優しい。嬉しい。 そんなふうにさえ思い、何の疑いも抱かず、コンペイトウを口にした。 しかし、仔実装の体に異変が表れたのはその直後だった。 「テッ!?テッチチィ……?」 激しい腹痛が仔実装を襲い、全身から脂汗がだらだらと垂れる。 顔面も蒼白になり、痛みのあまりめまいさえ起こる。 その異常な事態に、仔実装は内股になり、ヨチヨチ歩きながら飼い主に助けを求めた。 「テェ…テチュゥウウ……」 涙目で飼い主を見上げた仔実装が見たものは、口許を手で抑え、 肩を震わせている飼い主の姿だった。 「……プ……プァッハッハッハ!なんだその格好!?」 ゲラゲラと笑い転げる飼い主に、仔実装は呆気に取られた。 原因不明の痛みに苦しんでいる自分を見てなぜ笑っているのか? それが分からなくて、そしてそれがなぜか悲しくて、仔実装は必死に訴えた。 ——痛いテチ!助けてテチィ!ママ!ママァ!! 涙を流して訴えかける仔実装への飼い主からの返事は、一発のデコピンだった。 「ヂィ!!?」 お腹を押さえて前屈みになっていた額を打ち抜く指の衝撃で、 仔実装は大きく後ろに仰け反り、仰向けに倒れこむ。 ブピィ!ブバッババババッ! そして、その拍子に盛大にお漏らしをしてしまう。 「テェ!?テェエエ……テェエエエエン…テェエエエエエエン……」 脱糞しながら仔実装はとうとう泣き出してしまった。 デコピンによる肉体的な痛みはあったが、それよりも なぜそんな仕打ちを受けなければならないのかという悲しみと、 お漏らしをしてしまった情けなさからくる涙だった。 しかしそんな仔実装を見て、飼い主はいつまでも、 ただ狂ったように笑い続けていた。 その日を境に仔実装は来る日も来る日も虐待を受け続けていた。 後日、そのときのコンペイトウがドドンパという毒物であったことを、 日々受ける虐待生活の中で否応なく知ることになる。 そして現在に至る—— 「テェエエエン……テェエエエン……」 優しかった頃の飼い主を思い出してはさめざめと泣き続ける。 どうしてご主人様は自分を虐めるのだろう。 なにかワタチがいけないことをしたのだろうか。 仔実装はいつもそんな自問自答を繰り返す。 しかし答えは出ない。出なくて当たり前。 虐待をするほうの理由など理不尽なものなのだ。 仔実装の悲鳴が好きだから。 必死にもがくさまが面白い。 ただなんとなくストレス解消に。 そんな理由を思いつけるはずもなく、また知ることは残酷すぎた。 だから仔実装は毎日涙に暮れるのだった。 しかし仔実装はある日、ついに飼い主に訴えてみた。 ——悪いところがあったら直すテチ。 ——いけないことをしたなら謝るテチ。 ——だから前みたいに可愛がって欲しいテチ。 実装リンガルに表示された文字を見て、飼い主は鼻で笑った。 「別にお前に直してもらいたいことこなんてないよ。 せいぜいイイ声で鳴いてくれればそれでいい」 そんな飼い主の言葉に、仔実装は、「それなら歌を歌うテチィ」と 訴えたが、そんな仔実装のつるつるの頭を飼い主はデコピンで弾き飛ばす。 「ヂァッ!」 「誰がお前の訳の分からん歌声なんか聞きたいかよ 俺が聞きたいのは泣き声だよ、な・き・ご・え。勘違いすんな。 いいか、思い違いをしているようだからこの際はっきり言っておくが、 俺はお前を虐待するためだけに飼ってるんだ。それ以上でもそれ以下でもねぇよ」 その飼い主の言葉に半泣きの仔実装はそれでも食い下がる。 ——そんなことないテチ! ——ご主人様は本当は優しいテチ! 「あ?何を根拠にそんなことを言ってんだ?」 悪いママからワタチを助けてくれたテチィ! 蛆ちゃんだったワタチを大切に育ててくれたテチィ! 小さかった頃はとっても優しかったテチィ! そんなご主人様が大好きだったテチィ! あの頃のご主人様に戻って欲しいテチィ! リンガルに表示される仔実装の訴えに、飼い主は顔を強張らせる。 その様子に、仔実装はさらに訴えかける。 ——お願いテチィ! ——ワタチを可愛がって欲しいテチィ! ——ワタチはご主人様のことを愛してるテチィ! その言葉に、飼い主は握っていたリンガルを取り落とすと、 その場にがっくりとうなだれた。 その後、飼い主はポツリポツリと呟くように話しはじめた。 仔実装を虐めるようになる頃の前後、付き合っていた彼女から 手酷い裏切りを受けたこと。そして、それ以来他人が信じられなくなったこと。 そのやり場のないストレスの捌け口として虐待がやめられなかったこと。 仔実装には、飼い主の言葉は難しくて意味の分からないところもあったが、 それでも飼い主も傷ついていたんだということを、幼いながらに感じ取っていた。 ——ワタチはご主人様を裏切らないテチィ! 力強く答える仔実装に、飼い主の男は涙目でゴメンなといって、 自分がむしりとってしまった前髪のあたりを撫でてやる。 「テチュ〜……」 仔実装は久しぶりの感じる温かな指先に、目を細めて鳴いた。 そして、そのオッドアイの瞳には、自然と涙が浮かんでいた。 「でも、俺はやっぱりお前を信じることが怖いんだ。 お前が俺を裏切ったりしないか……それが怖いんだよ」 手のひらの上で甘える仔実装に、男はそう呟く。 そんな男に仔実装は自分がどんなにご主人様を愛しているのか、 あるいは絶対に裏切らないなど一生懸命訴えかけたが、 飼い主がやはりそれでも不安そうな顔をするのを見て、仔実装も うなだれるより他なかった。 しかし、そんな仔実装にまさに天啓とも思える名案がひらめいた。 ——ワタチ、ご主人様の仔供を産むテチュ! リンガルの表示を見て驚く飼い主。 「馬鹿な!?仔実装のお前が出産なんて命に関わるんだぞ!」 思いとどまらせようと説得する飼い主。 しかし、仔実装も譲らない。 仔実装がまだ親指実装大だった頃、TVで見たことがあった。 本当に愛があり結ばれたニンゲンさんと実装石の間には、 髪の毛の黒い実装石が生まれるんデスゥ。 そんな話を仔実装は思い出していた。 ——ご主人様との間に黒い髪の子供が生まれれば、ご主人様はきっと ワタチの愛を信じてくれるはずテチ! リンガルに表示された文字を見て、飼い主はため息をついた。 結局、仔実装の決意の固さに折れる形で妊娠を許可することにしたのだった。 とはいえ、実際に性行為を行うには仔実装と飼い主では 体の大きさが違いすぎる。そのため妊娠には飼い主が採取した精液を 仔実装に渡して、それで妊娠させることにした。 「テッテロチュ〜♪テッテロテチュ〜♪」 数日後——仔実装の胎教の歌がケージの中から聞こえてきていた。 深く沈んだ鳴き声しか出せなかった頃とは大違いの明るい鳴き声だ。 あの日を境に飼い主の態度は以前とはまったく違っていた。 妊娠した仔実装を気遣い、多めに餌を与え、体を綺麗に洗ってやり、 髪は残念ながら無理だったが、破り捨てた服は新しいものを買い与えた。 ご主人様があの頃に戻ってくれたテチュ。うれしいテチュ。 お前たちも元気に生まれてくるテチュ。 優しいご主人様と楽しいことをして遊ぶテチュ。 仔実装は幸せの絶頂にあった。 そして妊娠から数週間たったある日のこと。 「テチュゥウウウ……テェェエエエエエエ……」 仔実装はまさに出産のときを迎えていた。 昼間に訪れた陣痛のために飼い主不在のときの出産になったが、 いつ陣痛が起こっても大丈夫なようにと飼い主がケージの中に 用意してくれた簡易分娩台で仔実装はいきんでいた。 そうしていきみ始めて20分が経った頃——、 ポチャン 「レフ〜♪」 仔実装の総排泄口から蛆実装が生れ落ちた。 そして最初の仔を皮切りに、仔実装は5匹の蛆実装を出産した。 やったテチィ!生まれたテチィ!二人の愛の結晶テチィ! 出産を終えた仔実装は、あわてて分娩台の中の水の中に落ちている 我が子を拾い上げる。 蛆ちゃん、ワタチがママテチィ。パパはご主人さ—— 蛆実装を抱き上げた仔実装はそう言いかけて硬直した。 「レフ〜♪」 能天気な鳴き声をあげて仔実装に甘える蛆実装。 その額に生えていた髪の毛の色は、亜麻色だった。 な、なんでテチィ!?なぜ黒髪じゃないテチィ!? あわてた仔実装は抱いていた蛆実装を投げ捨てる。 「レピュ!?」 その衝撃で蛆実装は儚い実装生を生後数分で終えた。 一方の仔実装は他の蛆実装達の前髪を確認する。 しかし、どの蛆実装の髪の毛も亜麻色だった。 な、なぜテチィ…なぜ黒い髪の毛じゃないテチィ…… 膝を折り、ガクガクと震えながらその事実に動転する仔実装。 仔実装は今でも十分幸せだと感じていた。 しかし、ご主人様への愛の証を立てられなければ、 いつまたあのような辛い日々に戻ってしまうかもしれない、 という不安の上に成り立っている幸せだとも感じていた。 その不安が、今目の前で現実のものになっている。 仔実装の足元で、妊娠してから今日までの幸せな日々が 音を立てて崩れ落ちているような気がした。 がっくりとうなだれ、この事実を受け入れられなくて、 そして悔しくてその目に自然と涙が浮かぶ。 そんな仔実装のことなど露知らず、蛆実装は能天気に鳴いていた。 「レフ〜♪レフ〜♪」 その何も考えてないような顔を見ていると、仔実装はだんだん腹が立ってきた。 なんでワタチが苦しんでいるときに、こいつらはこんなに楽しそうなんテチ そもそもこいつらが黒い髪で生まれなかったのが悪いんテチ なのになんでワタチがこんなに苦しむんテチ なんで、こんなやつらのために…… 仔実装はゆらりと立ち上がると、フラフラと蛆実装の傍に歩み寄る。 「……レフ?」 そして手近にいた一匹の蛆実装を捕まえた。 こいつさえいなければ…… 「レピャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」 気がつくと、仔実装はすべての蛆実装を喰らっていた。 仔を食ってしまったということによる罪悪感よりも、 仔実装はまず飼い主にこのことがばれなかったことに安堵した。 しかし、すぐさま今のこの状況が不味いことに思い至る。 昨日までは臨月間近の大きな腹をしていたのだ。 それが今日いきなりぺったんこになってしまったのでは、 飼い主に不審がられてしまう。 下手をすると仔を食べたことが露見するかもしれない。 仔実装は足りない頭で必死に考えた。 自分の血で妊娠することも考えたが、それだと生まれてくる仔が 100%亜麻色の髪の毛になってしまう。それでは意味がない。 あれやこれやと考えていたが、結局いい案が思い浮かばないまま 夕暮れ時を向かえ、飼い主が帰宅した。 「ただいま〜。まだ生まれてないか?」 そう言いながら部屋に入った飼い主が見たものは、ケージの中で さめざめと泣いている仔実装だった。 「なんだ?どうしたんだ?」 飼い主はリンガルを使って話しかけた。 仔実装は、あの辛い日々に逆戻りしてしまうことを恐れて泣いていた。 そのため言葉にはならなかった。 ただ、「蛆ちゃんが…蛆ちゃんが…死んじゃったテチィ」という言葉を うわ言のように繰り返すだけだった。 一方飼い主は、仔実装の腹がすっかり元通りになっているのに気がついた。 そして仔実装の言葉をきいて思った。 「もしかして、流産したのか?」 元々仔実装が無事に妊娠・出産することは難しいと知っていた飼い主は、 この状況にそう思ったのだ。 ——流産テチ? その飼い主の言葉に、仔実装は首をかしげる。 「ああ、仔が死んで生まれてくることだ。 実装石の場合はどうなるのかよく分からんが、 とにかくやっぱり上手く仔が生まれてこられなかったんだろうな」 そういって納得している飼い主に、仔実装ははじめポカンとしていたが、 やがてこれが自分にとって都合のいい勘違いであることに気がつく。 ——そうテチ!流産しちゃったテチ! 「ん?なんか妙に元気が出てきたな?」 ——テェ!?そんなことないテチ……悲しいテチ…… 慌てて仔実装は再び泣いている振りをする。 しかし、その瞳には隠しきれない喜びが滲み出ていた。 そうして上手くごまかした仔実装だったが、しかし結局現状としては 以前となんら変わりのない、いつまた虐待を受けるかもしれないという 不安の残る日々になった。 そのため、仔実装は再び飼い主に妊娠したいということを告げた。 「大丈夫か?前は流産で済んだが、今度はお前も死ぬかもしれないんだぞ?」 そういう飼い主に、仔実装は「大丈夫テチ!」と力強く答える。 今回もまた飼い主が仔実装に押し切られる形で妊娠をさせることにした。 そうして二度目の妊娠となり、再び臨月を迎えることになる。 しかし——、 な、なぜテチィ!?なんでなんテチィ!!!? 生まれた蛆実装は、やっぱり亜麻色の髪の毛をしていた。 今回は7匹も産んだのだが、そのすべてが亜麻色だった。 この事実に仔実装は、今度は明確な憎しみを持って蛆実装を喰らい尽くした。 こんな役立たずはワタチの餌になるしか価値がないテチィ…… 血走った目で蛆実装を租借するそのさまは、まさに悪鬼のようだった。 この度の妊娠も飼い主には流産だったと告げた仔実装は、 そして再び妊娠を申し出た。 そうして仔実装は何度も妊娠・出産を繰り返した。 飼い主から栄養状態などを管理されていたので、仔実装には負担のかかる 妊娠と出産の繰り返しも最初の数回は何とかこなせていたのだが、 それも二桁に達する頃になると、仔実装の体に変化が表れはじめた。 まず腕や足が歪な形に曲がり、普通に歩くことも困難になってきた。 頭はところどころが陥没したり出っ張ったりして、不気味な形相になっていた。 体は全体的に痩せてきて、餌は食べるのだが身にはつかず、 まるで餓鬼のように腹だけがぽっこりと不自然に膨れ上がってしまっていた。 なぜ……なぜ生まれてくれないテチィ…… もう幾度目かも忘れてしまうほどの出産の果てに生まれた蛆実装。 それはやっぱり、亜麻色の髪の毛だった。 「レフ〜♪」 相変わらず脳天気に鳴く蛆実装。 その蛆実装の目の前に立つと仔実装は一言ポツリと呟いた。 お前もテチィ……お前も、違うテチィ…… 「レフ?」 そうして仔実装はいつものように蛆実装を抱えあげると、尻尾に噛み付いた。 「レピャアアアアアア!?」 「はい、そこまで」 突然頭の上から声が聞こえてきたかと思うと、噛り付いていた 蛆実装がヒョイと摘みあげられた。 「テェ!?」 驚いた仔実装がゆっくり振り返ると、そこには飼い主の姿があった。 「テェエエエエエエ!?」 驚きのあまり尻餅をつく仔実装。 ——ち、違うんテチィ!これは違うんテチィ! アワアワと言い訳をする仔実装を尻目に、飼い主は蛆実装を 摘み上げると、さも大事そうに運び出す。 そしてそれを隣の部屋においてくると、再びケージの前に戻ってきた。 再び飼い主に言い訳をする仔実装。 歪な手と頭を振り乱し、必死に言い訳を繰り返す仔実装に、 飼い主は口許を押さえ、肩を震わせる。 「テェ?」 その姿に、仔実装の過去の記憶が呼び起こされる。 そう。その姿は、初めて虐待を受けたあの日のご主人様のような——、 「ブハッハッハッハッハ!お前いいなぁ!最高だったぜ!」 やがて堪えきれなくなったかのように、手放しで笑い転げる飼い主。 その様子を呆然と見上げる仔実装。 忌まわしい記憶が蘇ってくる。 あの理不尽な虐待の日々の始まるを告げる不快な笑い声。 しかし、現実はもっと残酷だった。 「妊娠を28回もするなんてな。お前が歴代で最高記録だぜ? ご褒美にいいことを教えてやるよ」 飼い主はそういうと、茫然自失の仔実装を摘み上げると、 別の部屋に連れて行った。 「デプゥ〜……」 その部屋には、四肢を固定された一匹の成体の実装石がいた。 ただそいつが普通の実装石と違うのは、その股間にマラが生えていること。 いわゆるマラ実装であることだった。 その異形の同属の姿にも、仔実装は色のない眼差しを 向けるのみで、何の反応もない。 しかしそんな仔実装に飼い主は告げる。 「お前が俺の精液だと思って必死こいて妊娠に使ってたのは、 あいつの精液だ」 その言葉をきいた仔実装の体がぴくりと震えた。 「まったく、誰がお前らのような奴と子供を作りたいなんて思うかよ。 そうとは知らずに必死に仔作りに励むお前の姿は最高だったなぁ……。 俺のあんな猿芝居にコロリと騙されてくれるし、まったくお前らは最高に楽しいよ。」 仔実装の体が小刻みに震える。 「そうそう。お前の母親は14回目でぶっ壊れたが、 お前はその倍がんばったんだよなぁ」 仔実装の脳裏にあのときの言葉が蘇る。 お前もテチィ…… それは、自分がついさっき蛆実装に向けて呟いた言葉。 そして、おそらくそのときの自分の顔はさぞ醜くゆがんでいたことだろう。 妊娠・出産の繰り返しによる体の崩壊だけではない、心の中から滲み出た 醜さを映した、最もおぞましい形相。 知らず、そして騙されていたとはいえ、そんな顔を我が子に向けていた事実。 仔実装は一筋の涙を流した。 悔しいのか、悲しいのか分からない。 ただ涙が一筋あふれてくるのみだった。 「つまり、お前は母親の倍馬鹿だってことだなぁ」 そういうと、飼い主はまた狂ったように笑い続けた。 そんな飼い主の手の中で、小さく乾いた音が響いたが、 それは飼い主の笑い声によってかきけされた。 おねがいテチ…… ワタチの仔… お前だけは、この悪魔のような人間に騙されないで欲しいテチ…… そして、かわいそうな仔を産まないで欲しいテチ…… 仔実装は今際のきわにそう願った。 しかし仔実装は知らない。 仔実装の母親も、死の間際にそう願ったことを。 おはり ------------------------------------------------------------------------------ スレに投下した分とあわせて二つ目の仔実装妊娠ネタです スレ投下分はジックス分が多々あったので拒否反応もあったのですが、 今回はどうでしょうか?楽しんでいただければ幸いです。 前作「地獄から天国、そして」に感想を下さった方、ありがとうございました。
