タイトル:【分類不能】 第1話 『 青封筒到着 』 続きは気分次第
ファイル:地獄行き01.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:3712 レス数:0
初投稿日時:2006/07/04-21:32:55修正日時:2006/07/04-21:32:55
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 —— 6月上旬某日 ——



とある実装石専門ショップ。

『 そろそろ店じまいとするか…。 』

時計の針が九時を指し示し、店員が店先のシャッターを降ろし始める。
今日も一日が終わる。
店にとっては何の変哲も無い終わりだが、一部の売り物達には人生の終わりを意味していた。

「 あと1にちテチュ!あしたまで待ってほしいテチュ! 」

棚に並んだガラスケースの一つで、少し大きめの仔実装が1匹泣き叫んでいる。
しかし店長は無情にもその身体を掴んだ。

『 駄目だ、既にオマエはもう3日も過ぎてる。 』
「 店長サン、おねがいテチュ!…ュアアアァァッァア!! 」

店長の手の中で暴れてもがきながら、仔実装は奥に連れてかれた。
その様子を、他のガラスケースの仔実装達が眺めている。
奥に連れて行かれた仔実装がどんな運命を辿るのかは知らない。
だが、2度と生きて棚先に並ぶ事は無い事を知っていた。
売れ残り仔実装の末路を本能的に察していたのである。

『 てこずらせやがって…。 』

店長が帰ってきた。
その手に、さっき取り出した仔実装の姿は無い。

『 お前たち、あっちに連れてかれたくなかったら、売れるようにしろよ。 』

店長が店の奥を指差すと、一言残して電気を消した。
店内は瞬く間に暗くなり、ケース内の仔実装達が取り残される。

ケース内の仔実装達の面持ちも暗い。
ここにいる者達の中で、先ほど連れて行かれた仔実装を嘲笑う者は居ない。
そんな糞虫ぶりを発揮した仔実装は、即時奥へ連れてかれる。
そして棚先に並んだ仔実装は、どれもある程度の知能を併せ持っている。
明日は我が身、という事を充分に理解していた。


「 ……テェ 」

ガラスケースの一つ。
一匹の仔実装が嘆いた。
その仔実装は他とは違い、左耳が欠けている。
このケースにかけられている値札は、他のケースより半額程。
身体的に欠損のあるため、他の個体よりも安く設定されていた。
何とか売り物にしようと再生を施されたが、なぜか不可能。
本来なら即処分される筈であったが、この仔実装は通常より知能が高いため、店先に送られた。
値段を安く設定し、せめて躾費用だけでも回収しようとしたのだ。
だが客の目は厳しく、左耳の欠けた仔実装は他に比べて大きく見劣りする。
そもそも処分されるのを店先に送られただけでも幸運だが、その運も尽きようとしていた。
期限はあと一日。
明日、閉店時間を迎えた瞬間に運命は決まる。
もう時間は残されてなかった。



「 チュ〜! 」
「 テェー♪ 」

その日もガラスケースから来客に対するアピールは盛んにおこなわれた。
仔実装達も必死だ。
期限の違いこそ有れど、どの仔実装も飼われなければ何時かは奥に連れて行かれる。
特に片耳の欠けた仔実装は深刻だった。

扉が開き、来客がまた1人。
主婦らしき女性がガラスケースに近づいてきた。

『 お客様、実装石をお探しですか? 』

店員が様子を察し、女性に声をかけてきた。

『 はい、娘が実装石を飼いたいって言うので……少し見に来たんです。 』
『 そうですか〜、ここにいる仔実装達は、どれも賢い仔ばかりです。
  お値段も勉強してますので、是非ご検討ください! 』

婦人はガラスケースに目を向け、1匹1匹に目を通し始めた。

「 飼ってほしいチュ〜♪ 」
「 ニンゲンサン、ワタチをどうでチュ〜? 」

一斉に婦人に向かってのアピールが始まる。
ガラス越しに微笑ましく手を振り上げつつも、その内面は死に物狂いである。

「 テェ〜! 」
『 あら、この仔…。 』

ふと一つのガラスケース……片耳の欠けた仔実装に目が止まった。

『 あぁ、その仔はですね、生まれつき片耳が無いんです。
  ですから、このようにお安くなってます。 』

明らかに異なる値段の差。

『 …そうなの。けれど、どうせ飼うのなら両耳ある方が良いわね。 』

すぐさま婦人の関心は他のガラスケースに向けられる。

「 テェ… 」

ガラスに両手を置きつつ、婦人の後姿を見送る仔実装。
折角、購入を考えてるニンゲンが自分に関心を持ってくれたのに。
既に今は昼過ぎで、時間は僅かしかなかった。


『 ありがとうございました〜! 』

また1匹、仔実装が買われていった。
しかし片耳の仔実装はガラスケースに取り残されたままだ。
店内を赤い陽が指し、夕方で有るのが分かる。
これから客足は遠のき、買われる可能性はぐっと低くなる。

もう駄目かもしれない

片耳仔実装はガラスに手を付いたまま項垂れ、肩を落とした。



『 いらっしゃいませ〜! 』

そろそろ夕飯時の頃、店にまた1人の客が入ってきた。

『 ……。 』、
『 あ、あの……? 』

客は20代前半らしき男だった。
この店には男女に偏りなく訪れるため、男性客自体はそれ程珍しくない。
ただ、この男が他の客と違っていたのは雰囲気。
男はいかにも思いつめた表情を浮かべ、店員の愛想良い接客にもほとんど反応しない。

明らかにペットを求めに来た他の客と異なっていた

その重々しい負のオーラから、仔実装達もアピールを戸惑う。
噂に聞いた虐待派だろうか。
仔実装達にとって買われるのは重要だが、虐待派に買われるのは処理されるのと同義。
いや、処分されるよりも辛い運命が待っているかもしれない。

その男がガラスケース群の前に立った。

『 ……お客様、実装石をお求めで? 』
『 あァ…。 』

仔実装達も見つめる男の目は死んでいた。
もう何日も眠ってないのか目の下にクマを腫らせ、睨みつけるように仔実装を見ている。

『 …あのさァ。 』

不意に男が店員に話しかけた。

『 はい、何でしょう。 』
『 実装石って計算できる? 』
『 計算……ですか? 』

突然の質問に対し、店員の接客に戸惑いが生じた。

『 はい、ここにいる仔実装達は頭の良い者ばかりです。
  足し算引き算程度なら可能ですよ。 』
『 足し算引き算、ねぇ…。 』

店員の説明に興味を惹かれ、男は近づいてケースの中を覗きこんだ。
その雰囲気に呑まれ、仔実装達のアピールも今ひとつ元気が無い。
飼われたいのは山々だが、虐待派に飼われては終わりだ。

『 じゃ、もう一つ。
  この中で一番気合の入ったヤツはどれ? 』
『 き、気合ですか? 』
『 そうそう、暑さや寒さに強いヤツ……ま、直接聞いた方が早いかな。 』

男はガラスケース全ての仔実装達に呼びかけた。

『 お前ら、よく聞け〜!
  俺は今、仕事のできる実装石を探してる! 』

その呼びかけにケース全ての仔実装の視線が向けられる。

『 ペットとして可愛がるつもりは無い!
  遊ばせるつもりも無い!
  仕事のできる、やる気と気合と根性入ったヤツは居ないか〜? 』

通常、実装石を求めてやってくる客の目的は愛玩か虐待。
この店を始めて長い店長も、仕事をさせるために実装石を買う客など見た事が無かった。
当然だが仔実装達の反応も鈍い。
男の申し出に只ならぬ気配を察し、どの個体も息を潜めていた。

『 ……いないか。 』

興味を失い、男は背中を返して店を出ようとした。

「 テチュ! 」

その時、息を潜めていた仔実装達の中から一際大きい声が上がった。

『 ん…? 』

振り返って声の下方を見る……片耳の欠けた仔実装だ。
男は翻ると腰を落とし、ガラスケースの中を覗きこんだ。

『 お前、やる気有るか? 』
「 テチュ!テチュ! 」

リンガルを所持しない男には言ってる事が理解できない。

『 …お客様、これをどうぞ。 』

店員に手渡されたリンガルに実装石の言葉が表示される。

「 おしごとでもなんでもするテチュ!がんばるから飼ってほしいテチュ! 」

これが最後のチャンスかもしれない。
今、この男に買われなければ、自分が奥に連れて行かれるのは間違い無いだろう。

『 やる気は有るようだな。あとは能力か……。 』

すると男はケースから離れ、商品コーナーから首輪を二つ持ってきた。

『 この首輪は一つ500円だ。二つでいくらになる? 』
「 テ……テェ……せ、千円テチュ! 」
『 おう、正解だ。なら、一万円出した時のお釣りはいくらだ? 』
「 お釣り…って、なにテチュ? 」
『 だから一万円じゃ多いだろ?
  首輪を二つ買っただけじゃ、お金が余るじゃないか。
  その余ったお金はいくらかって聞いてる。 』
「 そ、それは……テ、テェ………。 」

仔実装は頭を抱えて考え込む。
この仔実装はガラス越しに店内の様子を見ているうちに、売買の概念を学習した。
個々の商品の合計額をレジに打つ店員の言葉を聞いてるうちに計算を覚えたようだ。
その僅かな実装石の知能を全てフル回転させて…。

「 きゅ、九千円テチュ! 」
『 ん——……。 』

男は片耳仔実装から目を離さず観察していた。

『 ……お前、計算遅いな。 』
「 ェ…… 」
『 そんなに遅くちゃ、待ってくれてる相手に失礼だ。 』

否定的な男の言葉に期待が削がれ、再び仔実装の肩が落ちる。
この瞬間、自分の運命が決まったのだから。

『 ……まぁ、それは訓練次第か。 』
「 ……ェ? 」
『 俺はお前をペット扱いするつもりは無い。
  これから仕事のために徹底的に訓練して使えるようにする。
  どうだ、やる気は有るか? 』
「 や、やるテチュ! 」

ガラス越しに仔実装の決意の籠もった言葉が男へ。
これが自分に残された最後の選択肢である事を予感していた。

『 お客様、こちらの実装石をお求めで? 』
『 あぁ、コイツを買うことにする。
  ところでコイツだけ他より安いけど、何か理由でも? 』
『 はい、ご覧の通り、左耳が欠けてまして…。 』
『 ん…? 』

男の目が仔実装の頭に。

「 テ…テチュ…… 」

欠点を指摘され、購入する意思が削がれるかもしれないと不安に駆られる。
今までの客は全て自分の片耳を見て、購入を見合わせたのだから。

『 …他には? 』
『 はい? 』
『 他に何か欠点とか、安い理由が有るの? 』
『 い、いえ、ございませんよ。
  それ以外は健康ですし、賢いので躾の手間もかからないと思います。 』
『 なら、問題無い…コイツと必要な道具を一式貰うよ。 』

男は欠けた左耳の事など全く気にしていないようだった。
というより、店員に指摘されるまで気付かなかった。
ケージと簡易トイレ、ランクが並の実装フード、そして首輪を同時に購入する。

『 あちらに実装石専用の玩具コーナーもございますが…。 』
『 要らない要らない、遊ばせるつもりは無いんで。
  必要な物だけで充分だ。 』
『 お客様、実装石を飼うのは初めてで? 』
『 あぁ、そうだよ。 』
『 飼い方などマニュアルなどはどうです? 』
『 それも必要無い。
  少しでも部屋を汚したら速攻で窓から叩き出すんで。 』

片耳仔実装は安かったものの、それでも数万単位の値がついている。
更に用具一式を揃えた事により、かなりの金額に昇った。

『 …じゃ、これで。 』

レジで男は、分厚い財布から一万円札紙幣を何枚も乱暴に取り出した。
店員が一瞬見たその財布の中には、まだ多くの紙幣の束。


『 あ、ありがとうございました! 』

一風変わった男だったものの金払いも良く、処分されるはずだった仔実装を引き取ってくれた。
店側にとっては願ったり叶ったりだ。
だが、買われた当の仔実装にとってはそうでなかった。

「 テ…… 」
『 …… 』

店を出て、ケージの中に入れられたまま男は一言も発しなかった。
片耳仔実装にとって最悪の事態は免れた。
しかし、これからどうなるか分からなければ当然不安である。


「 …ごしゅじんさま? 」
『 あァ? 』

店を出て、辺りも暗くなった帰り道。
自動音声リンガルで発せられた仔実装の声に、男が面倒そうに反応した。
男が同時に購入した実装リンガルは、人間と実装石との双方向同時通訳機である。
玩具類を一切買わなかった男だが、必要と判断した物には金を惜しまなかった。

「 ワタチは、なにをすればいいテチュ? 」
『 後で教える。 』

男は素っ気無く答えた。
そんな男に、仔実装は何も話しかけることができない。


 ( 〜〜〜♪ )

男の胸元から着信音が鳴った。
仔実装の入ったケージと荷物を地面に降ろすと、携帯電話を取り出す。

『 あぁ、俺だ。調子はどうだ? 』

男は道端で話を始めた。

『 そりゃ、受かるに決まってるけどさ……また今回も誕生席だったよ。
  いや、流石に壁は無理だけどさ〜。
  壁になる壁の厚さは尋常じゃ無いからな。
  俺もそれなりに売り上げ出してるが、まだまださ。 』

男の話は続く。

『 …今回ばかりは参ったよ、誰も見つからなくてな。
  一日ズレてくれると丁度良かったんだけどさ……あ、ソレはダメダメ。
  俺ね、ネット募集したりして初対面のヤツに任せるつもり無いから。
  多いんだよ、売り上げをちょろまかすセコい馬鹿が…。
  こんな事に時間割く暇が有るんなら、原稿やりたいんだけどな。 』

ケージの中の仔実装にもリンガルを通して男の話が伝わる。
当然だが、話の内容は理解できない。

『 …だから、たった今見つけたんだよ。 』


男は地面に置かれたケージを手で軽く叩いた。



『 売り子はバッチリ確保した! 』












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