コドクな実装石 〜 惨劇(序章) 〜 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 1匹の仔実装が目を覚ます。 冷たい感触が顔に当たったためだ。 「テチィ!?」 そこは、草木に囲まれた場所で、仔実装はそこに敷かれた古びた、そして、水を吸ったヨレヨレのダンボールの上にいた。 仔実装は、そこで、辺りを見回して自分の妹たちがスヤスヤ、カリカリと寝息と歯軋りをしているのを見つけて安心した。 「ママ…ママ…」 しかし、母親の姿はない。 近くには、新しい家を建てるための材料かダンボールの束が、朝露に濡れないように工夫されておかれている。 もう、何日、こうしてお家が出来るのを待っているのだろうか…。 もう、あんなに怖い”夢”は終わったのに…。 ママは、もう全部終わったと言っていたのに…。 新しいお家の材料も揃っているのに…。 何日も、こうして待っているのに…。 仔実装は、その場でポテッとしりもちをついて座り、考える。 やがて、コクリコクリと頭が揺れ、カリカリと歯軋りをして眠りに落ちた。 きっと明日はワタシ達のお家が建つのだと… −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− その親実装は、身なりこそ貧しいが野良としてはそこそこ賢く、懸命に生活をしていた。 すでに服はまるですだれ暖簾の様にほつれ、裂け、破れ、服としての機能は肌を隠す役割しかなく、 寒さを凌ぐ役割も何もない。 ただ、野良として、毎回、実に参加数の1割強が生存不能に、3割が重傷を負うに至る程の餌場で、 壮絶な争奪戦を長く続けていれば、彼女の身なりは当然とも言えた。 母親は、その姿で懸命に日々を生き、我が仔に餌を運び続けた。 その母親にとって、我が仔はまさに我が身の分身であり、己の命より大事な物であった。 野良として生を受け、この地、この場所に、とにかく日々生きる事だけを目標として生きてきた。 その為に我が仔の作り方すら彼女は正しく知らなかった。 正確には、それに至る行為が非常に恥ずかしい事と感じる方向に知能が高かった。 それでも、実装石のデタラメな妊娠機能からすれば、 排便時など下着を脱いで排泄口を晒す事での偶然妊娠の確率は高いはずなので、知識が無くても妊娠する。 しかし、希にその偶然が作用しないために長く仔が作れない彼女のような例もある。 そんな彼女に偶然巡ってきた妊娠、そして、出産… まさに神からの授かり物のように思えた。 彼女は、正確にどうすれば妊娠するかは知らなかったが、 仔を育てる事は仔を望んでいただけあって、仔育ての知識は豊富に備わっていた。 生まれて、まず”悲しい事”をして、数を減らし、僅か2匹しか仔は残らなかった。 彼女は高い知性で、愛情を注ぐに相応しい知能の仔を求め、また選択する事を必要とした。 そして、待ち続けた我が仔のために彼女は変貌した。 仔を産むまで彼女は、賢いなりに考えて”家を持たない”という選択をしていた。 日々、公園内の至る所を移動し、木陰や捨てられた不燃ゴミの間などで雨風、暑さ寒さを凌いできた。 それが、彼女が親元を離れ身につけた生きる術だった。 同族や、特に人間から身を守るために… だが仔を産んだ彼女は、その身体で、その日のうちにダンボールやゴミを集めて家を建てたのだ。 我が仔を厳しい野ざらしでは安全には育てられない。 公園でコミュニティーの主流を気取る者達や、同じように迫害されながらも意地汚く馬鹿な者達が多く、 彼女は大人しく賢いという理由だけで、そのどちらからもナカマ外れにされ、ストレス解消の標的にされていた。 餌場では混乱しているからまだよいが、普段も仔を連れて居よう物なら、仔が食われたり連れ去られて奴隷にされる危険もある。 これまで、単体であるから自由に身を隠せていたが、仔連れではそうもいかないからだ。 そして、今までゴミ捨て場の奪い合いも、自分が生きていける分をかすめ取る事から、 少しでも多く手に持つために、口に銜えるために、戦いながら長く粘るようになった。 その為に、傷付き服が破れてもである。 それだけ彼女は自らの肉体を犠牲にしても、 そして、せっかく生まれたのに”悲しい事”をしてでも選んだ仔達を愛した。 仔達も、その愛情と教育を受けてつつましく賢く育っていた。 やがて、彼女に2度目の妊娠の機会が巡ってきた。 それは、マラによる襲撃…長く続く地獄のような陵辱と手足を失う苦痛ではあった。 幸い、直接命を奪われる前にマラが満足して去ったが、ボロボロの肉体は妊娠によって2重に栄養を失い危険であった。 それでも、彼女の愛を注がれた仔達の献身的な支えで危機を脱した。 動けない彼女は、仔達の拾って来る木の実で栄養をとり、 仔達が常に傷口や身体を洗い、部屋を掃除し、直接、排泄口に口を付けて糞を吸い出し、外に捨てに行く事で衛生を保たれ、 妊娠した事で不足しがちな栄養を補って、鈍くなった再生能力を取り戻した。 最初の2匹は、彼女の期待以上にとても賢く育っていたのだ。 そうして生まれた仔にまたも”悲しい事”をする彼女。 だが、残った合計5匹の仔3匹の親指3匹の蛆という大家族に囲まれ、 彼女は幸せを実感し、よりいっそう日々の生活に精力的に取り組んでいた。 気が緩んだわけではない。 ただ、単に実装石という存在と人間という存在。 捕食関係にあるわけではないが、どちらも自然の捕食地図から外れる知能と生態の生き物として、 それでも、地図の中で存在する上下関係の差から、永遠に狩る側と狩られる側である。 追跡という事であれば、人間の方が格段に優秀なハンターだっただけである。 彼女は夜中に異変を敏感に感知して目を覚ました。 しかし、眠っている実装石にとっての敏感な感知とは、その時点で手遅れを意味していた。 彼女の目に映ったのは、月の明かりを背に影を落とす人間の顔であった。 今まさに、ダンボールの家の屋根を分解して取り払っている最中である。 「デェェェェッ…」 賢い彼女には、もはやどうにもならない状況である事が理解できた。 もはや何をしても、人間に見つかれば助からない。 こんな場所まで自分たちを探しに来る人間は、虐待派以外に存在しない事を知っていた。 せめて、我が仔を…それが無駄な事は判っていたが、彼女は最後に我が仔のぬくもりを感じて死にたいと願った。 そう這って動き出そうとしたときに、上から声が掛かる。 『おおっと、騒がないのは良い心掛けだが、動かれても困る』 そういって、彼女が歩み寄ろうとした方向の一番近い親指実装の頭をつまみ上げる。 スヤスヤ…レチュー…スヤスヤ… 頭を摘まれた親指は、手足をパタパタと動かすが目を覚ます様子はない。 「ニンゲンさん…聞いても無駄なのは判っているデス… どうしてワタシ達デス?ワタシ達はひっそりと暮らしたいだけデス… どうして、ワタシ達を苦しませて楽しむデス?」 ソレを聞いた人間の表情が困った顔になる。 『賢い方が虐め甲斐があるからさ…恨むなら、無能に人間の気に触れる糞虫どもの態度と、 そいつらと同じ生き物として生まれた事を呪うんだな…』 彼女が「デェェェッ…」とうなだれると、 『そういう答えならお前達は納得できるのか?』と人間が続けた。 彼女は予想外に問答返しが返ってきた事で混乱した。 だが、彼女の見聞きして蓄えた知識では、交渉する事も自分たちが実装石である限りは有効ではないと知っていた。 自分たちに交渉を持ちかけてくる時点で、相手は尋常な人間ではない事を意味するのだと…。 散々、過酷な条件を突きつけられた挙げ句に、守ろうが守るまいが、 結局最後は難癖を付けられて、良くて惨殺、悪くてまともな姿では帰して貰えず、苦しみ抜いて死に至るのだ。 そうして、苦行に耐え抜いた挙げ句に、全てを奪われ、奇形や半死の姿で放置され、 人を呪いながら、死んでいく者を何度も見てきた。 そう、彼女の母親もそうされたのだ… 彼女は、親が懸命に命乞いをして、親の命と引き替えに許されて野に逃げた。 『おまえも、哀しいヤツだな…あんな小さい仔実装が1匹で野良社会を生きていけるわけ無いのにな… 生きていたらまた会えるか?楽しみだな…ほら、約束通り、この鉄板の上でダンスして見せろよ、 30秒たったら”自力”で降りて良いぞ、そしたら後はおまえも自由だ…あはははは』 草むらの陰で、震えながら母親や他の姉妹達が踊り狂いのたうちながら焼けた鉄板の上で焼けた肉になるのをみた。 翌日になって草むらの中で、放心したまま仲間に母の肉が食われていくのを眺め、 仲間が去った後、残された炭化した母の部品を手にとって悲しみにくれたあの日を思い出した。 「納得なんか出来ないデス!ワタシ達はひっそりと生きているデス! ニンゲンさんは、そんなワタシ達をわざわざ探して苦しめるデス… ワタシ達がちっぽけな身体で考え悩むのを楽しんでいるデス! そんなに楽しみたいなら、どうして広場にいて捕まえやすい他のナカマ達を苛めず放置して、 ワタシたち隠れ住む者達を狙って苛めようとするデス? そのくせ、ワタシ達が悪い事をすると言うデス!不公平デス!! 助ける気もないのに…助ける素振りだけしてワタシ達を笑うデス」 彼女の言葉は、半ば自棄(ヤケ)であった。 『ふぅ…ご立派なご高説だな…人間の言葉にして世間一般に聞かせてやりたいぐらいだ。 確かに、そうやってわざと楽しむ人間が沢山居る事は否定しないさ。 広場に屯して、人間に依存するしか脳のない無防備な屑虫連中を百匹虐殺するより、 賢く、実装石なりに社会理念なんぞ持って生きているヤツ一匹の方が、 痛みを与えるにしても、苦悩させるにしても、知能ゲームを楽しめる娯楽としてはよい。 だから、この世の中、実装石をより分けて、交渉を持ちかける人間は虐待目的以外にないだろうな。 残念だが、俺もそんな人間の1人だ』 男は、そう言うと、掴み上げている親指実装の持ち方を変える。 親指と人差し指で輪っかを作るようにして親指実装の口を塞ぐように締める。 親指は息苦しくなって目を覚ます。 そして、それでも男が徐々に指を締め上げているのだ。 目を覚ました瞬間には、親指の頭は不自然に膨張し、開いた目から眼球が半分程飛び出す。 ちょっとでも衝撃を与えれば、そのままコロリと目玉がこぼれ落ちそうになっている。 スカートからパンツが膨らんではみ出していく。 「ンヒー!ンヒィィィ!!!ヒッフー!!」 口を塞がれ叫ぶ事も出来ず、身体を暴れさせて居るが、膨らんだ頭は赤く、胴体は窒息して土色になっていく。 手で懸命にその指を剥がそうとするが、やがて、弱々しく下に降りて行き、ピクピクと痙攣するだけになる。 「デッデェ!」親実装は、思わず両手を掲げて、言葉に詰まりながら涙を流す。 大きな声で叫ぶ事は状況的に許されない事が判っているが「テデッ!デッ…スゥ」と小さく声を上げ困憊する。 その表現できない形に変化する豊かな表情に、男の口元が冷ややかに歪む。 親実装は、その男の表情に、さらに顔の皺を増やして泣いて無言の懇願をする。 男は自分で言ったとおり、まがうことなく虐待派…それも知能種専門の真性サディストであることを空気で理解した。 ただ殺してイヤッハーと騒ぐ事など目的の結果に過ぎない。 殺すまでの課程の方を楽しむ、最も危険な人間に当たってしまった…。 こんな人間に、体裁を取り繕っても、より悪い方向にしか行かない。 とにかく、救いを懇願するしかない。 とにかく、自らの身を…いや、仔の大半を目の前でされているようにされてでも、 救いを求め続けて、何匹かは解放して貰うしか自分の血を後世に残す道はない。 母親がそうして自分が生き残ったように、奇跡に縋るしかない。 『ただ、俺の出す条件は、そんなお前達の為にもなる事なのだが、交渉に乗るかな? 話は簡単だよ。 俺はお前達実装石全体がもたらす害によって迷惑している。 それがただの虐待のための理由付けと感じるかはお前の自由だ。 お前達も、お前達から見れば低脳な者達が居る事で、その罪を被り、隠れるように暮らさないといけないのは迷惑だろう? 俺の出す条件は…お前達がお前達自身で、糞虫どもをいかなる形でも無くしてみないか? ”それが実現できる力を試してみないか?” と、言う交渉に来たわけだ。 大丈夫か?俺の話が理解できているか?説明してみろ』 「ンクプゥ!!!!!」 パン!と下半分を締め付けられ、膨らんだ親指実装の頭が限界を超えてはじけ飛ぶ。 ボタッと首から下が地面に落ち、落下した足が潰れ、胴体と腕だけがピクピクと脈動する。 「デッ…ニ・ニンゲンさんは、ワタシ達の様なひっそりと暮らす者に、 あの毎日バカ騒ぎをする連中を排除しろと言う訳デス!?」 彼女は今すぐにも飛び出して、無残な我が仔の肉体にしがみ付いて悲しみを表したかった。 それを噛み殺して答えた。 『なかなか飲み込みが早いな。 その要点が1発で判ったのはお前が初めてだ。 つまり、ソレを判らせるための犠牲も1匹で済んだわけだ…えらいえらい』 男は、ゆっくりと、彼女に顔を近づける。 その目は、彼女を実装石として見下す事無くジッと見据えており、 ガラス玉の様で、目線がどこを向いているか分かりにくい彼女でもソレを反らす事が出来ない。 『どうだ?悪い話ではないだろう? お前達も、あいつらを救いようのないクソムシと思っているのだろう? なーに、体裁を取り繕う必要はない。聞いているのはお前と俺だけだ。 賢く生活力ある者が、何故にあんな糞虫の生け贄にされるのか… 何故、やつらは何の苦労もなく脳天気に繁栄するのか… 何故、自分達賢い者が、大人しく群れが少ないというだけでヤツラにすら迫害されて怯え生きるのか… お前も、その理不尽さを呪い、憎々しく思っているのだろう? 大人しい、出来の良い振りをするな…ヤツラが憎い、残らず排除してやりたい…。 そう、心の中では思っているのだろ?ずっとそう思っていたのだろ? でなければ、種族の違う俺の話が1発で理解出来、要約して応答できるはずがないからな! 知能があるからと、協調性まで押しつけられる必要はない。 大人しくつつましやかに…それがお前達の身を救ったか? やつらと違う生き方をしてお前は救われたか?違うだろ? クズなナカマもナカマと認めてやる事で、人間に認められたか?救われたか? コレを見ろ…これがお前達の築いた物の結果だ。 ヤツラからもニンゲンからも隠れて生きて、迫害され、媚びへつらおうが潔くしようが、結局最後は殺される。 糞虫共が蔓延る限りは、そんな生き方をしても、こうして惨めに殺されるのがオチなのだ。 やつらをナカマと優しい顔をしてやった結果、貴様も糞虫としてしか見られないのだよ… ならば、いっそ、他人の手や、居もしない神に都合の良い粛正を懇願する位なら、自分の手でそれをやってみせろよ。 方法なら幾らでもあるし、欲しければ望むだけの力もやろう』 男の言葉は、彼女の深層心理をえぐり出すような…洗脳するような言葉を休み無く流し込んできた。 それでいて、反論を許さず畳みかけるようにねっとりと彼女の耳に流し込んでいく。 男は、まさに真性の精神的サディストである。 虐待はオマケで、徹底的な言葉で絶対的主導権を握りつつ、決定を彼女に決めさせる事を”誘導”している。 「や…ヤツラはクソムシデスゥ!!あんなウンチ製造器とワタシは違うデス! 大切な仔共を食べ物や小間使いにしか見られず、考え無しに産み捨てるヤツラとは違うデス!! 日々、何もせずに食べ続け、そのくせ、ニンゲンに物を恵まれる事しか考えてないヤツラとは違うデス! でも…ワタシではあいつらは排除できないデス… ニンゲンさんも知っているデス?アイツらは自分たちの事となるとスグに纏まって、 ワタシ達なんてカンタンに排除されてしまうデス…」 『正直は良い…だから、力を貸してやると言っている。 人間だって目に見える力だけじゃなく知恵を使って生態系を凌駕した存在になった。 お前達流に判るように言えば、力を使って神になれたんだ。 なってみせろよ…お前達も”神様”とやらに』 「デッ…カミサマデス?知恵と力…デスゥ!?」 『そう、知恵と力…それを持てば何者をも恐れる事はない…人間すらね。 ただし、力を得るには代価を失う事になる。 これは当たり前の事であり、人間だってそうしてきたんだ…』 「…」 『やはり、対価を求めるのか…と言いたいか? なに、最初はお試し期間…というヤツだ。 この公園からクソムシを排除するために使う力など既存の道具で十分だから失う物など無い。 試してみて、その力以上の力が欲しくなったら… その時にこそ、教えてやるよ対価を払えばなれる”神様になる方法”をな』 「おいしい話がないのは知っているデス…ワタシが、ニンゲンさんに従ってワタシの得は何デス? ニンゲンさんの得は何デス?」 『俺の得を言うなら、自分の手を汚さずに済む…簡単だが、それ以上の理由はあるか? それ以外では、俺の知的探求心が満足する。 オマエの得を考えるなら、邪魔者を自分たち手で排除出来る上に、 お前達は、それ以降、少なくとも俺からは何もされない… 身の丈にあった力で満足するなら、プラスマイナスゼロで何も得られないが、これ以上は何も失わない。 いや、糞蟲が居なくなるんだ…この公園はお前達が今まで以上に住みやすくなるだろうさ』 「わかりましたデス…どうすれば良いデス?」 彼女は首を縦に振るしかない。 男の言葉が本当でも嘘でも、もともと、選択肢はないように感じられた。 拒否すれば全てが、その瞬間に終わりそうな気が… 『お前は、今まで見た中では一番”素質”がありそうだな… 明日、あの一番大きな木の下にみんなで集まれ…そうだな…流石に親指や蛆はどこかに隠しておけ。 この公園で同じように選んだお前のナカマが集まる。 信用しろ…少なくともウソは言わない。 知っているか?虐待派でもお前達に明確な嘘は付かない事を… お陰でお前達の中には、俺にしたような質問返しや潔い死の覚悟を持って救われている者もいるだろう? 簡単な理由だ、底辺生物たるお前達に明確な嘘を付くと、 死後、酷い扱いをされ、下手をすると実装石に生まれ変わらせられるそうだ… おかしな話だろう?文明を築く人間すら未だにそんな事を信じて律儀に守っている。 実装石が楽園を夢見たり、食べた事もないステーキをねだるのと何も変わらない…ククク。 人は、それをノロイと呼ぶんだ…覚えておいて損はないぞ』 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 翌日の夜、彼女は5匹の仔を引き連れて木の下に集まった。 月明かりの下、何匹もの実装石が同じように集まっていた。 小さい仔や親指・蛆を除いた仔を入れれば実に100匹近いが、成体の数はそれほど多くはない。 ただ、本来の彼女達、穏健な実装石全体の数に比べても、やはりかなり数が少ない。 それは、あの人間によって仔が大分殺された事を意味している。 仔達の中には遊んでいる者もいるが、 大人達は皆、不安な表情をして寄り合って話し合っている。 「ケロさん…アナタも見つかったデス?」 彼女はケロという名前だ。 「はいデスゥ…見つかった以上拒否は出来ないデス ノンさんも同じデス?サンさんも居るデス!?」 ノンやサンと呼ばれた実装石達は不安げに首を縦に振る。 彼女たちも”賢い”故に追いやられ、隠れ住まう実装石仲間であり、近くに住む者達である。 ケロが、家を持たずに暮らしていた頃から、 同じ様に、賢さが鼻に付くという理由だけで何かと迫害生活を送る仲間…。 色々と手助けし合って生きてきた仲間である。 中でも、サンと呼ばれる実装石は、非常に古くからこの地に住んでいる。 長く生き続け、ペットや下手をすると人間より博識にして面倒見がよい。 実装石としても年を取っているのか、その苦労からか、元来容姿が変化しにくい実装石にあって、 顔に少し皺が浮き、髪に白髪が交じっている。 その特異な容姿から立派な風格も備わっている。 野良達の集団に受け入れられていれば、能力的にもコミュニティーを1から築いて統括できる才覚があった。 「ニンゲンの交渉に乗るぐらいなら、拒否して死すべきと思いましたデス… あのニンゲンは命令を拒否した時の方が地獄だと…新しく生まれた我が仔を酷たらしく殺しだしたデス」 サンが憔悴しきったままケロたちに呟く。 長年、虐待派や駆除者の手を逃れ、すでに何代もの仔達を無事に巣立たせた、歴戦の者サンですらその有様だ。 素直に死を受け入れられるサンを焦らせ、条件を受けさせる程の行為があったと言う事だ。 ケロは自分の選択が正しかったと思えた。 「あのニンゲンは一見、理論的な話をするデス…でも、その裏には何かあるデス… 絶対に拒否は出来ないデスが信用する事も出来ないデス。 何故かは判らないデス…でも、我々隠れ住む一族が納得できる良い条件を提示しながらも参加は強制的デス。 何か恐ろしい事を企むニンゲンの基本的行動デス」 「ママ、気を落とさないデス…少なくとも、この条件を飲めば救われるデス! あいつの言うとおり、ニンゲンはワタシ達に最初から絶対的な嘘は付けないデス。 後から条件を付け足されても、最初にアイツは事が終われば何もしないと約束したデス。 その条件も後から付け足さないと言ったデス… ママの教えは絶対デス…何度も窮地を救われたデス」 ノンも、サンから巣立った仔の1匹である。 「でも、ノンさん…ニンゲンさんはワタシ達に、この公園のヤツラを根絶やしにさせるつもりデス。 それは、とても不可能な事デス…サンさんでも不可能だった事デス。 その条件だけでも酷と言う物デス…かれらと戦えば…ワタシ達が全滅するデス」 「…それならまだ救われるデス…あのニンゲンの手で殺されるよりは、 あのナカマ達の陰険な責めで腹に収まるなり、糞食い奴隷に落ちる方が…たぶん楽な気がするデス。 ここに集められた皆の姿を見て、それを実感してしまったデス。 変な言い方デスが、あのニンゲンは、何かをするためにワタシ達を直接殺す気は無いデス。 殺す気はないのに…ワタシは死ぬ事が怖くなかったのに、怖くさせられたデス。 まだ、ナカマの手で惨たらしく奴隷にされて絶望しながら死ぬほうがマシかも知れないデス。 ワタシは、あのニンゲンの”言葉”というのが恐ろしくてたまらないデス。 今までワタシ達に酷い事をしてきたニンゲン達には無い恐ろしい話し方デス」 それを聞いて、一同が静かになる。 思い当たる節を、皆が本能的に感じていた。 ケロもそうだった。 あの人間と問答をしていると、自分の中にある押さえていた黒い思考が沸き上がるようだった。 『よお、約束通り集まったようだな?』 人間が姿を現す。 大半の仔が、昨夜の記憶が印象的だったのか、一斉に糞を漏らし伏せて祈りだす。 『賢い者同士算段して何か纏まったかな? まぁ、好きにすればいい。 俺はお前達が俺の言うとおりの事をして、とりあえずは、この公園の糞蟲を駆除してくれればそれでよい』 男はバックの中身を拡げる。 そこには実装石サイズになっている鉈や槍があった。 手作りなのか、そう見える形をした物という方が表現としては正確な物である。 それを見てケロは確信した。 ケロだけではない…サン達もそうである。 この話にはやはり大きな裏がある…と。 わざわざ、そんな物を作って持ってくるぐらいなら、人間の力で駆除した方が確実にして早い。 自分の手を汚すのがいやだとか面倒だというのは、ただの方便に過ぎない。 その位の事は、人から隠れる事を選んだ彼女たちにも十分に理解できる。 自分たちを捜してどうにか出来る程なら、この公園のナカマ達にこの人間の追跡から逃れる術はないからだ。 少なくともケロやサンには、そこまで思慮する余裕があった。 ケロは意を決して口を開いた。 「ニンゲンさん!道具があるぐらいでどうにかなるならワタシ達は悩まないデス! ワタシ達は石や木の枝から十分、身の丈にあった武器が作れるデス! ワタシ達はソレでイザという時に身を守ってきたデス でもそれでは自分の身を守る事にしか使えないデス。 道具がある位では、アイツらの数には対抗できないデス」 『それは、お前達が道具を使う知能を持っていても、”活用する”知能がないだけの事だ。 お前達に理解できるか?猿だった人間が、知能を持って道具を使い、道具を使って知能を得た事を。 お前達には、知能を持って道具を理解しても、道具から知恵を得る能力が恐ろしく乏しい。 今更、それをどうこうできる物ではない。実装石はそこで成長が止まるように出来ている。 同じように、何をするにも足りない部分が多い生き物だ。 だから、人間が知恵を貸してやるんだ。そうすれば人間以上に効率的に糞蟲を始末できる。 簡単な事だろう?お前達は難しく考えずに従えば良いんだ』 そう言うと男は、ケロ達に様々な講義を始めた。 戦闘の概念、戦術の概念… ケロたち野生に限りなく近い野良にして、知恵を捨てない者達ですら持ち合わせていない部分を語った。 そうして、彼らは男の前で戦闘訓練などをして夜を過ごした。 戦う者は、体格に優れた成体のみでよい。 優位に戦うための分断工作、待ち伏せの利用法… それらをたたき込まれたのだ。 その時点でケロたちの大半は、これなら少数でも勝てるかもしれないという希望を持つと共に、 男の提供した条件に真実味を持ち始めていた。 ただ、サンだけが、最後まで疑問を胸に持ち続けていた。 夜が明け始めた頃、最後に男は、大量の小さな容器を残した。 『戦闘に参加しない仔達に、この入れ物を持たせろ。 そして、お前達が戦闘で始末した者の肉や体液を可能な限り集めて、この場所に持ってこさせるんだ。 それを、ここに埋めてある壺の中に流し込め…ここをめくればあるだろ?深いから落ちるなよ。 いいか、お前達は糞蟲とは違う事が俺がこの作戦を託す条件の1つだけに、 どんなに相手が憎くても、死体を食べてはいけない。 それを見かけたら我が仔でも殺せ!でなければお前達の楽園は完成しない。 同時に、俺が殺せと指示した相手には決して情けを掛けてはいけない』 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 翌日より、ケロ達は作戦を開始した。 人間に教えられたとおりに…。 公園内での戦力比は以下の通りとなる。 ケロ以下、”穏健派実装石” 戦闘可能者 60匹 幼年仔実装など 150匹 何らかの家屋を有す賢い者を含むコミュニティー”主流派実装石” 約400匹(一定以下の仔実装や親指は約1500匹前後) 知能が低く、家屋の持てない”下級層実装石” 約300匹(同上仔実装約1800匹) 道具を使えるとはいえ、数による戦力の差は歴然としていた。 元々、平気で産めよ増やせよと増殖し、死ぬ以上にどこかで生まれ続ける実装石達は、 人間が駆除を行っても数匹が生き残れば、数を減らした事で生活上の競争や害が少なくなり、 僅かな期間の間に、再び、共食いを必要とする人口密度まで増殖する。 そんな物を敵として突如排除せよと言われれば、確かにケロ達が不安がるのも真っ当だ。 何せ、大量殺傷を可能にする駆除業者の広域実装コロリ粉散布ですら不可能なのだ。 それに、多少良い武器を持っても、主流派にも道具を持つ物も多い。 中には、ケロ達が逆立ちしても手に入れられない破壊力の武器を持つ元飼い実装もいる。 ましてや、前日までは諍いはあれど、人間の駆除などの時にはナカマとして協力し合う事もあった連中だ。 手の内も実力も良く分かっているつもりだった。 それでも、一旦、追いつめられた彼らには、実行する以外に術はない。 実行すれば、自分たちが滅びるか向こうが滅びるかの戦いである。 まず、ケロたちが”主流派”でも”下層派”でもない事を最大限に利用させた。 夜になると、閑散とした場所のダンボールハウスを襲撃したのだ。 襲撃は簡単だ。 鉄製の武器を持っているので壁に穴を開ける事も楽なのだ。 ”主流派”は家を持っているため生活のリズムが完成しているので、彼らのほとんどが寝ている夜は活動しやすい。 そうして、外側から順に1晩で10件程度を襲う。 襲う数としては戦闘力に対して多くはない。 1軒の家に常に6匹が襲いかかる。 1件には1匹程度の親…居ても大きさから2世帯程度しか入っては居ない。 そこに、3匹から4匹が外で見張りをして、中で惨殺を開始する。 逃げ出す者は、見張りが余すことなく建物の中に投げ戻すかその場で殺害する。 「デェェェェゲロッ…(ガリガリギリギリ)デェェェェッ…」 「テェェェェェッ(ギギギギ…)テスッ…ニンゲン早くウンチ食べて跪くテスゥ♪(ガリガリ)」 「「テチュ〜テチュ〜ママー…(キリキリキリ…)」」 歯軋りといびきが響く部屋の壁を鉈でバリバリと穴を開けていく。 「デスッ…五月蝿いデス!!…デェェェェ〜(スピィー)」 「テチィ…ママ大声テッチュ寝られな…テッ!?オバチャン達何しているテチ?」 寝ぼけて大声を出す親の声に、眠気眼を擦り起きる何匹かの仔。 その時には、狭い室内には動く余裕すら殆ど無く、親仔は、鉈や槍を持った実装石に見下ろされている。 「テッ!テテテテテ!!ママァー!!」 ここで、男の条件が加わる。 可能な限り”惨殺せよ””建物は証拠隠滅せず破壊しろ”である。 ケロ達は後悔の念を持ってコレを実行した。 「何デス寝られ…(ザク!)デッ??(グフッ!)デギャァァァァァ!!」 目を擦る間も無く腕が鉈で落とされ、足に槍がつきたてられる。 まずは、親を行動不能にし、その眼前で仔から執拗にいたぶり殺すのである。 男の指示だ。 「テヒィ!!マッマァァァァ!!何をするテチィ!テッ!離すテチィ!ママ、タスケテ!!」 「テチャァァァァー!!服服服!!破れ破れェェェェ」 「テェェェェ!お姉ちゃんを離すテチィ!離すテチィ!テボァ!!テチャァァァァァ!アチがアチが折れちゃったテチャァァァ…」 「テチィィィィ!テチィィィィ!出して出して出してェェェェェェ!!(バンバン)」 「デスゥゥゥゥゥ!やめるデス!そんな事をしたらワタシの仔が生きて行けなくなるデス!!」 仔の服をはぎ、髪を奪い、逃げそうなものは足を潰す。 それを、動けない親に見せながらやっていくのだ。 愛情があろうが無かろうが、状況も分からず突然に襲われ嬲られれば親は苦しむ。 愛情があれば仔の苦しみを、無ければ自分がいつあの目に遭うかという待たされる恐怖でだ。 「テチャァァァァ!!足が千切れたテチィィィィ!!」 「テチャァァァ!!これはお姉ちゃんの足テチィ!何をス!グフッモグモググフッ…」 足をちぎり、他の仔に食わせるのではなく、無理矢理押し込んで窒息させる。 「テキャァァァァァァァ!!股!また!マタマタマタァァァァ…」 頭を押さえて、片足を持ち上げていき、ゆっくりと股を裂く…。 コキコキと仔実装の股関節は容易に折れて、さらに開き、股が裂けだすと 糞だけでなく体液が排泄口から、やがて、排泄口以外からも糞と体液を噴出し、 デロッ…と身体に対して大きな胃袋が重みで落ちてブラブラと仔実装の身体の下で揺れだす。 「ヒハァ…ヘハァ…ホヒィィィ!ホッヒャァァァァァ…」 彼女達は、とにかく思いつく限り残虐なショーを親実装の前で見せ、 両目を腫らし涙を溢れさせて、なくなった手をパタパタと振って抗議する親を眺め、 胸を痛めながら、仔が息絶えた後に、親にも時間を割いて死に導いていく。 それだけに、1日で襲える数など1件で精一杯なのだ。 自分たちも親であり、まして知能と愛情を持つケロ達”穏健派”にはつらい行為である。 そして、全てが終われば自分たちの仔がやってきて、容器で少しずつその肉片や体液を持って行くのである。 「テチィ!テェェェェェ!!バラバラテチ…テェ!ママ!この仔、ワタチを見ているテチィ!コワイ…コワイテチュ…」 「デチュー…それは死んでいるデチ…はやく、ツボに詰めるデッチイ…ママを困らせてはいけないデチィ…」 「「レチレチレチ…重いレチィ…」」 「テッ…テチィ…」 その時の仔達の怯えた表情が、さらにケロ達を苛む。 手本となる自分たちの”決してやってはいけないと教え続けた行為”を見て、我が仔は自分をどう思うだろうかと…。 それが終わると、6匹で、建物をなかった事にせず、建物の外壁に肉体を使ってわざと襲撃を受けた事が判る程破壊する。 彼女達の知能なら、道具を使いキレイに解体した上で、小さくして遠くに運んでも掛かる時間に差は無い。 襲撃の痕跡を隠滅する事もできるが、男の命令では家を壊して残せという指示があった。 それを2日続けて20件程度を破壊し、戦闘可能な大きさの仔から蛆も含め100匹程度(内、成体25匹)を殺した。 そして3日目からは様子が変貌する。 ”主流派”は、ただの集団徒党ではなくコミュニティーを築いている。 このような事件が相次げば、即座に彼らなりに対応策を打ち出してくる。 犯人捜しと夜間警戒が開始されるのだ。 とはいえ、所詮は実装石達の頭脳では現場を目にしない限り犯人を捕まえるのは無理だ。 そして、彼らは襲われた家の状態から安易に低知能で飢えた”下層派”の犯行であると決めつけた。 一方のケロ達は、夜間に集団巡回が始まって家の襲撃が出来なくなると、狙いを”下層派”に定める。 彼ら下層派は、僅かな差しかないのだが、特定の家屋を持てず餌取りにも苦労するほど知能が低い。 それだけに、活動時間が一定ではない上に、他者の襲撃を恐れて常に複数でつるんで行動する。 ケロ達は、今度はコレを、部隊を20匹編成3部隊で夜間に襲撃する。 つるんでいるとはいえ10匹にも満たない相手を確実に倍以上の数で襲うのだ。 低層派は短時間の体力は高いが、まず加工された武器を持っている事自体ほとんど無い。 「デチャチャチャ…今日はあの憎憎しいウンコマシーン共を見なくて済んだデス」 「本当デス…あいつら、ワタシ達を見つけては苛めるデス」 「一匹ではワタシ達の前でウンコ漏らすのに、すぐにタスケを呼んで偉そうにするデス」 「今日のアイツらはムカついたデス!優雅に食事をしていたのに寄って集って石を投げやがったデス。 ワタシの大事な仔が3匹も大変な事になったデス…仕方ないので皆で食べたデス」 「それは災難デス…昨日からあついらおかしいデス…もとから頭がおかしいデスけど、もっと変デス。 今からアイツらが来る前に供物を独り占めに行くから食って忘れちまえデス」 「確かにヘンデス、昨日から夜も固まって歩いて居やがるのを見たデス…」 月明かりの下、身なりの汚い5匹ほどが、我が子を連れてゾロゾロと徘徊している。 大き目の仔も引き連れているので数だけなら13匹程になっている。 そこに、ガサガサと草むらから1匹の実装石が姿を現す。 「びっくりさせるなデス!お前も供物探しデス?危険だから一緒に来るのを許すデス」 しかし、呼びかけた実装石が手に鉈を持っていることに気が付く。 彼らの頭でも思いつく…こんな道具を持つのは主流派の連中ぐらいであると。 「デデッ!道具を持っているデス!!(ブピッ)デ…でも1匹デス… なーんだ、たかが1匹デス!普段はよくもイジメてくれるデス・・・デププ この数が目に入らないデス?ズタズタのギタギタにしてサシミにするデス! 謝るなら今のうちデス…服を脱いで裸踊りして足を舐めたら許してやらん事も無いデス。 いや、驚いてワタシ漏らしちゃったから、パンツの恨みで謝ってもギタギタのバタバタにして殺すデスゥ〜」 「テテテ!テスゥ!ママァーーー」 5匹が調子に乗っている間に、後ろには自分達より多い武器持ちの実装石に半包囲されている。 そして、統率された動きで振り上げられる鉈、突き出される槍に、為すすべなく蹂躙される。 無闇に数を誇るものは、その理論の壁の前に無条件で戦意を失う。 その只でさえ無い判断力を奪うために、わざと1匹が飛び出して注意をひきつけ油断させたのだ。 戦意を失った彼らは、真っ先に戦う選択肢を無いことにして蹂躙された。 次々と細切れにされていく中、四つん這いに突っ伏して丸まりその姿勢でケツだけを高々と上げ、 その姿勢でケツを左右に振りながら、パンツを降ろしていくものが所々に現れる。 この”どうぞお蹴り下さい”というこの姿勢は、下層派の目上に対する降伏姿勢の1つである。 この姿勢を取り、無防備で無様さを表す事で、酷い目にはあうが命まで取られる事無く開放される確率が高いからだ。 涙を垂らし、鼻水を垂らし、涎を垂らし、顔を歪め懇願しながらケツを高々と上げてユラユラと左右に振る。 だが、ケロ達の攻撃は、その掲げられたケツから脳天にめがけて槍を串刺しにして、 そのまま数匹掛かりで持ち上げられベタンベタンと地面に叩きつけられたり、 そのプリプリした尻の割れ目を鉈が引き裂いて、無残に生きたまま内臓を引きずり出された。 「デヒッデヒッ…降伏しているデス…約束が違うデス…ワタ、ワタ、ワタシは助けるデス… 今なら許されるデス…デギャ!許させてあげるデス…デボァ!!いや、ユルシテくださいデスゥ!! 靴を舐めさせて欲しいデス♪ウンチ穴も毎日レロレロピカピカにしてあげるデス〜♪ どうぞ便器とお呼び下さいデス♪ウンコだけで長く生きられるデス、あなた達のウンコ食うために生まれたデスゥゥ そうだ、ワタシは元気な仔も生むデス!プリプリでおいしいのを山ほど産むデス〜♪ 一緒にイッパイ食うデス♪だから、ワタシはタスケテくださいデス! ちゃんと殴られたらブヒデス、ブヒデスと鳴いて面白い顔で踊って飽きさせないデスー…」 プライドも何もなく、ただ生きるというためだけに、自分をそこまで貶めてしまう同族の姿に、 ケロは、無意識に唾を吐きかけていた。 命乞いをするにも程度というものがある。 自分達や家族の命や未来の為に、こうして同族を惨殺する自分達の所業は、確かに彼らの姿と根本では同じ行為だ。 だが、自分達は…自分達には未来をより良く残す目的がある。 彼らの行為は、自分の今を安泰にする為なら、何処までも堕ち、 また堕とす事に躊躇いも矜持もなければ、未来すら必要ない。 自分達は、長年…こんな連中にすら何かと苛められコソコソと公園を這い回るように生きなければならなかったのだ。 ケロは、自分の心の中に湧いていた黒い思考の不安が何であるかを理解した。 そして、あの人間が語りかけていた言葉の意味と怖さを理解した。 それは抑圧され続けた嫉妬心である。 それが、ケロたちを前日まで躊躇わせていた心の枷を取り払って、 汚物を土に混ぜて隠すように、同族の哀れな懇願を蹂躙してグチャグチャと冷酷に殺させ、 その醜態に唾をはかせたのだ。 今度は、前日までとは逆に、この醜い汚物を殺す事を抑制しなければならなかった。 何故なら、男の指示が1匹だけ生かして逃がせ…というものだからだ。 ケロ達は、1匹だけ残ったソイツを、反吐が出る思いを抱いたまま、それほど痛めつけずに逃がさねばならなかった。 傷つけ過ぎては、襲撃を受けた事を広める前に衰弱して死ぬか、別の仲間に襲われてしまうかも知れないからだ。 ”第2段階”では、相手を1匹は半殺し程度で解放した。 翌日には、下層派でも議論が起きる。 彼らの知能では、武器を持った統率集団に何カ所も同時に襲撃を受ければ、 思いつくのは”主流派”による攻撃しかない。 ”主流派”はコミュニティーとして群れ全体の利益も多少は考慮されるが、 知能も纏まりもない”下層派”は集団としての機能は感情的に傾く。 丁度、夜になって主流派では夜間に集団が武器を持って徘徊している。 自分たちへの風当たりもいつにもまして強くなっている。 それだけに、頭の回らない彼らが”主流派”を敵視するのも早い。 そうなれば、日々の小競り合いも急速に激化する。 それでも、全面的な抗争まで激化はしない。 主流派が性急に戦いを望まない限りは、双方の戦力差が寸前の所で抑制させているのだ。 しかし、それも男の入れ知恵をうけたケロ達の蠢動でタガが外される。 公園にはお互いの取り決めで、諍いを禁じる場所が幾つかある。 水の確保と安全な出産の出来る水場やトイレである。 特にトイレ…この場に限っては双方、協力してマラの暴走を阻止する体制が取られていた。 種を残す事に関しては、”利用できるものは全て利用する”のだ。 しかし、その体制が崩れた事で、お互いが身を守るために時間によって使い分ける体制に切り替わっていた。 性欲に飢えたマラの襲撃よりも、双方が双方の襲撃から身を守るのを優先したという事だ。 昼行性の主流派実装達が昼、下層派実装達が夜である。 活動時間の一定しない低層派には納得しがたい条件であるだけに不満が溜まる。 ケロ達は、夜に一気に30匹集団で列を成すトイレ待ちの妊婦に襲いかかり、 何匹かに手傷を負わせるとサッと引き上げた。 同じ頃、別の30匹集団が、裸に全身に泥を塗った姿で見回りの合間を縫って何軒かの家を襲撃し、 殺すでもなく、増援が来る前にサッと引き上げた。 この工作により、両派閥の熱は一気に跳ね上がった。 特に”下層派”は安全な出産場所という大切な場所で、ただでさえ不満のある状況で、 一方的に制限された取り決めを、さらに一方的に破棄されたと言う怒りが広がった。 一方の”主流派”も不満を持ちながらも、何とか同族間の抗争だけは避けようと動く。 細かい取り決めを作れる知能を持つトップだけではあるが、そう考えたのだ。 実質的支配力を握って、下層派達の生殺与奪の権利を手にしているように振舞っても、 イザ群れ単位での争いとなれば、人間の駆除並みに双方に大変な死者が生まれる。 敵は下層派の体力バカ共だけではない。 その分、公園外部勢力からの流入や人間からの迫害・駆除で、自分の統括できる群れが無くなり、 今必死にしがみ付いていると言える地位が無意味になるのを恐れたのだ。 それに、彼らにとって低層派実装達は、それらに備えるときに、 実に、騙して危険な役目を押しつけ易い都合の良い存在でもあったからだ。 その為にどこか抗争が過熱する前に”手打ち”が図られる。 男はそこまで、推測してケロ達に策を授けていたのだ。 ケロ達は、別の場所で小さな騒ぎを起し、それに両派が気を取られている隙に、 交渉に集まってきた主流派のトップと下層派トップを全力で襲ったのである。 こうして、トップを失った双方は、完全に抑制を失った。 考える頭脳が居なければ、主流も下層も、構成する実装石の質に天地程の差があるわけではない。 特に情報処理力に劣り、単純で直情的な下層派実装達は、一方的にやられる前にやれと先手を打って、 主流派の家の密集する”団地”に雪崩のように襲いかかった。 その時点で主流派実装達は、決め事を定める上から指示が無いために、 結束を必要とする事態に混乱し、応戦する者、命令を守り戦わない者の統率が取れなかった。 しかし、一時の混乱で劣勢を強いられた主流派も、スグに体勢を立て直す。 何せ、若干であれ統率慣れしていれば、体勢さえ立て直せば、数でも武器でも優れている。 両者、公園の至る所で激しい殴り合いが繰り広げられ、次々と死者が生まれていく。 夕刻には数の差で下層派実装と呼ばれた者達は集団の体をなさなくなっていた。 この時点で、主流派280匹(総数1000匹)下層派90匹(総数200匹) 完全に決着は付いた。 予想通り、大きな損害を出しながらも、内容では主流派実装の圧勝に終わった。 ところが、ここで戦闘が収束しなかった。 元々、主流と下層の区別など大きな差はない。 僅かに不器用だったり頭や要領が悪いだけの差が、迫害によって住居や餌の差に発展しただけである。 そして、長時間続いた大規模な総当たり戦と、明確な区分を持たない差による区分けによって、 誰が敵であるか判らなくなっていたのである。 戦闘で負傷したり、汚れた者達は、勝手に下層派にされて同士討ちが始まる。 考える事を他者に依存したために、コミュニティーを組むからと、その構成員達までが優秀なわけではないのだ。 そして、日も暮れる頃には様子が一変する。 数が少なくなると、派閥抗争が、すっかり目的も秩序も失い、個々の権力争いに変貌したのだ。 次に、誰が支配者となるかである。 人間が、両派の諍いを演出したのは、この混乱を生じさせる抗争を生むための餌だったのだ。 抗争による大規模総当たり戦が混沌を産み、混沌が混乱と目先の野心を生じさせる。 元が弱者排斥や自己顕示の本能が強いだけに、完全に戦闘を止める時機を逸していたのだ。 最初は数匹が、自分こそ次のリーダーだと争いだし、それが感染して行く。 それを望まぬ者も、自衛のために、五体満足で有利な内に弱い他者をさらに弱らせなければならない。 狙われた物は、死にたくないが為に、他者を自分より傷つけなければならない。 抗争の被害を避けるためにと、仔達を数カ所に集めていたが、それすらも襲われ出す。 ある者は我が仔を救うために他者の仔を、ある者は支配欲を満たすために弱い仔を、 ある者は敵味方の区別も付かず目に付く者を…。 その間、ケロ達は林に陣取り、林に逃げてくる者達、それを追ってくる者達を的確に結束して撃破していた。 深夜過ぎ…広場には大量の死体や負傷した実装石、肉片に体液が充満していた。 すでに主流派も何もない。 生き残ったのは両派合わせた全体で僅か100匹程度… 仔達などは、安全のため集められていただけに、そうした者は僅か数分で全滅していた。 コミュニティーそのものを失った僅かな実装石の小集団が、疲労困憊して屯していた。 後は、ケロ達が、その疲労と飢えの極みに達した集団に襲いかかるだけで良かった。 集団とはいえ、団結も密集もしていない。数の有利も存在しないに等しい。 ケロ達は、瞬く間にそれを飲み込み、そして、残虐に殺し続けた。 ケロ達の仔も、公園中に広がる肉片、体液を休む間もなく運び続けた。 さらに、公園中に分散し、戦いを避け隠れた者…奇跡的に逃げ出した仔達も全て炙り出した。 戦意を失い降伏する者も、賢い、愚か問わず、最初のメンバーで無い物は容赦なく処刑した。 最初は、自らの大罪に怯えていたケロ達も、親仔問わず、その作業になれてしまっていた。 いや、彼らの醜態に、憎しみと侮蔑の感情を隠す事無く、殺す事が作業になっていた。 虐げられ続けたものの怒りが、否定した行為を快感に変えていた。 朝が来て…公園はかつて無い程に静かになっていた。 あまりの静けさに、反比例する糞や肉が大量に腐敗する臭いが、すっかり土や草木に染みつき、 中で起こった異常事態を知らせ、流石の野良実装達もこの公園にしばらく寄りつこうとはしないだろう。 そこには、鳥も近づかず…虫の羽音さえしない…。 だが、ケロ達はついに、自力で公園を我が物としたのだ。 ここは、ケロ達、賢く理性と協調性を備えた実装石によって管理される… ハズであった。 そう、新しいこの公園は自分達の楽園となる… もはや糞蟲は居ない…糞蟲はこの公園には入れない…その力を自分達は学んだ。 糞蟲さえ居なければ、人間から嫌われる事はない。 人間に今更飼われる事を望まない限り、つつましく生きる分には十分な、小さな『楽園』… ケロ達は、皆、新しい未来図を描いた。 そして、新しい秩序と集団とコロニーを得る事を夢見て、 この『楽園』を高望みしないが理想郷とするために、まず、あの男に奪われた家を再建しようと思い立った。 それに熱中できる間は、彼女たち60匹は幸せであった。 そして、それが永遠に続く物と思っていた。 自分達は、あの愚か者達とは違うのだと…。 ケロは我が仔達に、”あれは悪い夢なのだ”と言い聞かせた。 もう、あんなに怖い夢は見なくても良いのだと…。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− コドクな実装石… つづく
