……今、自分がいる場所は夢だとわかる。目の前にいるのが人化する前のうちの実装だからだ。 『ニンゲン!とっとと飯を持ってくるデス!』 『はいはいわかりましたよ』 確か、あいつを家に入れてから数日経った位か、その時の記憶だろう。 最初はペットショップで処理しきれない糞蟲をもらったのが始まりだったな。 実際には保健所に行って処理を頼まなければいけないが、それは金がかかるし1体だけにそんなに金をかけたくなかったのだろう。 そこの常連で糞蟲しか虐待しないという事を知られていた俺に渡したのも無理はなかった。 『はい、お待ちどうさま』 『遅いデス!もっと迅速に!私が命令したらさっさと行動するデス!』 …………今考えるとよく持ちこたえたな、と思う。これもすべては上げ落としの為、と割り切っていたっけ。 『まったく、ダメじゃないかこんなにこぼして』 『うるさいデス!とっとと片付けるデス!』 『……手伝ってくれるとうれしいな?』 『デギャァァァ!私の、私の腕がぁぁぁ!』 ……この時点で上げ落としはもうダメっぽかったが。この後に高い肉を焼いて食わせたんだっけ。 そして完全に我慢が出来なくなった時は野良を虐殺してたな。 『デス?ニンゲンデス!私を飼ギュボッ』 『デププ。不用意に近づくからこデベェッ』 『デェッ!?まずいデス。逃げるデブァッ』 ただし、武器は使わず素手で握りつぶしてたっけな。 もうこの頃には駆除者の資格を持ってたから、あまり飛び散らないようにしてたんだっけ。……片付けるの俺だし。 そういう感じで何ヶ月か過ごした後だったな、あの異変が起きたのは…… そう考えた瞬間、その時……実装が人化した時の記憶に飛んだ。 確か、朝起きてから実装も起こしに行った時だったな。見えている記憶の映像に集中する。 『おーい、朝だぞ……』 俺が実装のいる居間に顔を出したらでかい繭が出来ていた。 『って、なんだよこれは!?』 初めて見た繭にビビリながらも、例の逸話を思い出していた。 『これってもしかして、あの愛護派どもの都市伝説って奴か?』 愛護派の都市伝説……実装石を愛情を持って育てれば翠星石になる。その現象を始めて目の当たりにした俺はしばらく固まっていた。 しかし、ふと思い出した。実装石は自らの願望のために繭を作る事もある、と。 そしてその願望を受けて変異した物が…… 『まさか実装さんになってないだろうな……』 実際に口に出すとありえるなと思い、とりあえず対抗の準備をする。 クローゼットの内壁に立てかけてあった長い袋を出し、中身を取り出した。 『久々にこいつを握る事になるな』 袋の中身は大きなバール……正式名称は金テコらしいが……。全長180センチの超大型だ。 虐殺派時代はこの鉄棍とも言える代物を振り回し、実装を殺しまくった。そして付いたあだ名がジッソウ殺し。 元は誰もがわかるはずだからあえて言わないでおく。『鉄塊』を『鉄棍』に置き換えればいいだけだから。 金テコバールを両手で構え、繭のほうを向くとひびが入りはじめていた。 もし実装さんならば一気に殴りまくれば何とかなる……と思う。さすがに実装さんは相手にした事がない。 やばくなったら逃げればいい。そう考えながら金テコバールを握りなおす。 繭のひびは大きくなり、そして……ひびが開き、中身が出てきた。 それは、女。 亜麻色の髪の女だった。少女と言うには年上で、女性と言うにはまだ若い。 透き通った緑色の粘液に包まれながら、裸体の女は体を反らした。 ……まるで、蝶の羽化を見ているようだ。いや。それよりも……美しい。 もう一度この光景を見てようやくわかった。俺はこの時、生まれたばかりの人化実装に見惚れていた。 実装は繭から出て来ると、俺のほうを向いた。 すでに武器を構える事も忘れていた俺はその視線にようやく正気に戻り、もう一度金テコバールを構えようとして。 実装が口を開き、こう喋った。 『ニンゲン。ボーっとしてないで私にステーキをおごるですぅ。新生した美しい私の誕生記念です!』 次の瞬間、実装は俺のダッシュ張り手を喰らい、後ろに吹っ飛んだ。 『お前なあ、今の台詞で感動的シーンが台無しじゃないか!』 『うるさいです!いいからとっとと高級料理をおごるです!』 『……いいからとりあえず体を洗って服を着ろ』 この、ある意味衝撃的な出来事から俺と実装の生活が再開した…… * デスゥ * 「……です…………!」 実装の声がする。意識は半分夢から出てるみたいだ。 「…………!……に……す!」 うるさいな、もう少し寝かせてくれよ……そう思っていると声が聞こえなくなる。 そして顔の上に冷たいものが被さって…… 「ぶはぁっ!」 「やっと起きやがったです。ほら、ちゃっちゃと朝飯を作るですぅ」 口減らし!? もとい、実装の奴俺の顔に濡れ雑巾置きやがった。 「お前は俺を永眠させる気か!?というかこんな事されたら死ぬ!」 「そんなわけないですぅ。大抵はその間際になったら生きたいってもがくですよ。他でもないこの私が言うから間違いないですぅ」 飼い主の顔に濡れ雑巾くっつけるペットがいるか?そう考えたと同時に口を止める。 いや。そもそも俺とこいつの関係はペットと飼い主か?それとは違う気がする…… 「ふん、私の理論にぐうの音も出ないですか。まったくこのニンゲンは……」 「単に呆れただけだ。人間はお前らみたいなゴキブリ並みの生命力は持ってないんだよ」 でも確かな事は一つ。決して仲が良いわけではないという事だ。 「ごっ……あんな黒光りして最後に汁をビュルビュルぶちまけるものと一緒にするなです!」 「ほとんど同じだろうが!臭いはするし汁ぶちまけるし百害あるし!」 「でも私は違うですぅ!生まれ変わってニンゲンになったです!」 「人間になっただぁ?笑わせるな!姿形が変わろうが糞蟲は糞蟲なんだよ!」 俺がこいつらを好きになれるわけがない。個人的ではあるが、恨みがあるから。 赤ん坊の時に俺を実装病にし、こいつらと同じ瞳という烙印を押された。……この印は永久に消えない。 だから虐殺派をやめた今でもこいつらへの怒りはなくなる事はない。 「お前らは消えて当然の糞蟲!そしてそれをわからないのがお前らなんだよ!」 だからよくこうやってぶつかり合う。いくら人間の形をしていてもこいつは実装。俺とは相容れない存在だから。 「…………出て行けよ」 「でっ?」 「家から出て行けって言ったんだよ、糞蟲」 「……ああそうですか。なら出てやるですぅ」 実装はつかつかと部屋の扉へ歩いて行き、ノブに手をかけながら振り返った。 「さようならです、クソニンゲン」 部屋から出て、扉が勢いよく閉まった。 「……ふん」 こうやっていつも喧嘩した後は実装が家を出る。 と言っても、半日位すればまた勝手に戻ってくるが。『ニンゲンが寂しがってるかもしれないからまた戻ってきてやったです』とか理由をつけて。 とりあえず朝飯でも作ろうとベッドから出て、ふと思い当たる事が一つ。 「黒光りして汁をビュルビュルぶちまける?……何考えてんだあの糞蟲」 本来なら実装がいる時に突っ込む事だが、今更気付いてしまったのでもう遅い。 台所に向かう途中、玄関であるものを発見する。 「……あの糞蟲、自分のリンガル忘れてやがる」 さっき『人間の姿をしていても』と言った理由は他にもある。まず言葉が実装の時から変わらない事。 だから普通の人間が聞いても『ですです』としか聞こえないので翻訳機(つまり実装リンガル)が必要になる。 「ま、いいか。どうせそれを理由に戻ってくるだろ」 次に外見も少し違っている。……まあ、近くで見ないとわからない些細なものだが。 まず紅と翠のオッドアイ、耳も人間の位置にあるが少々尖っている。口元は実装の『A』と人間の口を掛け合わせたような軽いネコ口。 完全な人間とは言い難い外見をしている。そしてそれでも人間だと言い張る実装。 「あー、ほとんど食材ないし……買いに行かないと」 冷蔵庫を開けると見事にすっからかん。あるのは調味料と酒(二日分)くらいか。 仕方がないので適当に調味料を塗った具なしホットサンド(トーストとは言わない)を食い、腹を黙らせる。 「あいつがいなかったのは正解かもな。『また足りないです、もっと作るです』とか言いそうだし」 ケチャップだけでもピザっぽく感じるな、と考えながらゴミを分けて捨てる。 「さて。ついでだしゴミも出しちまうか」 ゴミの日を確認し、どれがどのゴミなのか一瞬迷ったがとりあえず適当に持って行く。 「あれ、今日って特売あったか?」 一旦玄関先まで出たものの、ふともう一つの目的の方が気になりまた戻る。 「……あー、カップ麺とかしかないか。せこい店だよ」 近場のスーパーのチラシを手に取り、俺はため息をついた。 せこい店だが、何気に他の店より安く物が売ってるからどうしても行かざるを得ない。 「さすがに三食カップ麺は体壊すだろうし……」 実装からも文句が来そうだ。あいつの愚痴を聞くと頭が痛くなる。……いや、あいつの事は考えないでおこう。 どうせ今はいないんだし、もしかしたらずっといなくなるかもしれないし。 チラシの内容をある程度暗記し、外に出た。 「そうさ。あの糞蟲の事だ。俺より扱いやすい愛護派でも見つけてそこに居候するかもしれないし」 歩きながらつぶやく。日ごろから俺をクソニンゲンと呼ぶあいつの事だ。ありえるだろう。 「……それはそれでむかつくな」 新しい飼い主に俺の事を『まさに外道ですぅ』とか言うんだろう。そうやって同情してもらうんだろう。そう考えると腹が立ってくる。 意味もなく腹を立てながら、持っていた袋をゴミ捨て場に放り投げる、というか叩きつける。 怒りの感情はゴミ袋と一緒に投げ飛ばされ、落ち着く事ができた。次は買い物だ。 目的のスーパーはゴミ捨て場から歩いて十数分のところにある。もう一度歩き始めた。 「……そういえば、俺から出て行けって言ったのは初めてだったっけ」 過去の喧嘩を思い出す。……いつものパターンは限界突破した実装が『こんな家出て行ってやるです!』というものだった。 もしかしたら戻ってこないかもしれない。そんな声が頭の中で響く。 「だからどうしたっていうんだ」 いなくなったらいなくなったでまた新しい実装でも探せばいい。 どうせ虐待できないなら意味はない。どちらにしろいなくなってくれた方が食い扶持も減る。 と考えている間にスーパーに着いたので、買い物を開始する。 「とりあえず保存できる物を買わんと」 冷凍食品をかごに入れる。一人身の男には役に立つのだ。 一回り歩いて、生鮮コーナーを見た瞬間、思わず目が点になってしまった。緑色の球体。そうとしか言いようのない物が鎮座してあったから。 「なんじゃこりゃ」 往来が無ければ某ジーパンのように絶叫していたところだ。位置的には野菜のブロックだから、これも野菜なのか? とりあえず値段を確認。……なんとか買えそうだが、うまいんだろうか。 とりあえず、買い。とかごに入れる。 後は適当に食材を見繕い、かごに入れていった。 店員に変な目で見られながらもレジを済ませ、スーパーを出た。 ……もしかしてこの球体か?球体が悪いのか?まあ、サングラスをかけて人相が悪くなってるからかもしれないが。 帰り道にふと考えた。もしかして本当に叫んだんじゃないか?と。 「あー、まずいな」 流石にやばい人判定されたかもしれない。あそこが俺の命をつなぎとめてるのに…… やってしまった事は仕方が無い。白い目で見られるのは我慢して通い続けよう。 家に着き、鍵を開けようとするとすでに開いていた。 「あの糞蟲」 もう帰って来やがったのか。ドアを開ければそこに実装が……いない。 「あれ。いつもなら文句の一つでも言うのに」 あいつがおとなしくしているわけがない。何か企んでるのか? 居間に行くと、のんびりとくつろいでる実装がいた。……いや、正確には『見ず知らず』の実装がいた。 どういう事だ?と一旦玄関に戻り、実装が使っていたリンガルを手に取ってスイッチを入れて話し掛けてみる。 「ただいま」 『デッ!?びっくりさせるなデス!』 あいつが使っているのは音声変換式リンガル。驚いた実装の声が人間の言葉になって出力された。 「いつの間に帰ってきたんだ?」 『ついさっきデス。それよりニンゲン!私はおなかがペコペコデス!とっとと飯を作るデス!』 「はいはい」 リンガルのスイッチを切り、台所に行こうとすると。 「……デププ。ちょろいもんデス。向こうで奴隷をいじれないのは残念デスが、ついに念願の飼い実装生活ゲットデスゥ」 実装の声がした……やっぱりな。 「そうか。そういう事か」 「デェェッ!?」 台所の方を向いたまま言い放つと、実装が驚く。……となれば本当に俺の事を知らないんだろう。 「に、ニンゲン……何で私達の言葉を喋ってるんデス!?」 「喋れるし聞き取れるんだよ、糞蟲」 まだ赤ん坊だった俺は実装病の進行が速く、後少しで手遅れになるところだったらしい。 なんとか回復したものの、後遺症は大きく残った。それがこの能力だ。 実装の言葉がわかる、それは奴らの糞蟲発言が嫌でも聞こえる事。周囲からの迫害が無かったとしても虐待派にはなっていただろう。 どんな愛護派でもこいつらの言葉を長年聞いてれば嫌いになる事は間違いない。俺はそう思っている。 「俺はお前らにこうされたんだ。証拠、見せてやるよ」 サングラスを取り、実装病患者の証であるオッドアイを見せてやる。 「……デププ。あの奴隷と同じ眼デス。ニンゲンみたいな体をした奴だったデス。お前も奴隷デス」 笑う糞蟲……ようやく話が繋がった。何で見ず知らずの実装が窓を割らずに鍵を開けて入って来たのか。 「ちょうどいいデス!お前をこきつかってやレベァ!」 あいつは、他の実装につかまっている。そして代わりにこいつが来た、という事か。 実装の頭をアイアンクローで掴む。そのまま握りつぶさないように力を込めていった。 「一つ聞く。その人間と同じ体の実装はどこだ?」 「ふ、ふん!奴隷に言う事かデス!」 まだ奴隷呼ばわりするんだな?……糞蟲が。左腕を引きちぎる。糞蟲は喧しい悲鳴を上げた。 「デギャァァァァ!」 「次は右腕だ。早く言わないと達磨になるぞ?」 「腕が!私の腕が!なんて事するデスかこの糞蟲!」 糞蟲。それを聞いた瞬間一気に頭の中が白くなった。この糞蟲は自分で自分を殺すスイッチを押した事に気づいていない。 「……言ってくれるじゃねぇか?手前ぇも糞蟲の癖によぉ?」 「ギィィィィィィ!脚が!私のきれいな脚がぁぁぁ!!」 腕を飛ばして両脚を掴んで引きちぎってやった。 「おい、手前ぇよぉ?俺だって仏様じゃぁねぇんだ。次に言わなかったら未来永劫すりつぶすぞ?」 俺の口調が昔のものに変わる。……虐殺派時代のものに。 「デピィッ!?どどどど奴隷の癖に生意気な奴デス!いいデス、向こうの奴隷の場所も教えてやるデェェェェッ!」 ミキミキと実装の頭に俺の指が食い込んでいく。 「い・い・か・ら・は・な・せ。な?」 その実装から聞いた場所は、隣町の公園だった。……道理で知らないはずだ。俺はこの町でしか駆除活動をしていなかったから。 「よし、道案内は頼むぞ?糞蟲ちゃんよぉ」 「い、居場所を言ったんデスからとっとと開放するデス!」 「まだだ。手前ぇにはまぁだまだ聞きたい事があるんだからよぉ?」 荒縄でぐるぐる巻きにして、まるで巾着のようにぶら下げる。 隣町といっても歩いてもなんとか行ける位の遠さだ。というかそんな所まで行ったのかあいつは。目的地までの道中、うちの実装がつかまった経緯を聞きだす。 見知らぬ人間が隣町の公園(この糞蟲の住処)にやってきたので媚びてみた所、実装の言葉を喋ったらしい。 その人間、つまりうちの実装が実装だとわかった瞬間よってたかってあいつを暴行したらしい。 そして、その先は自分も見ていないからわからない、との事だ。 「まったく、とんだ災難デス!どうせ向こうの奴隷も刃向かって黙らされてるはずデス」 「俺は奴隷じゃねぇつってんだろ糞蟲が」 「ベババババババ!!」 コンクリの塀に顔面を押し付け、もみじおろす。 「はっ、少しは見れるようになったじゃねぇか」 「わだじのがおがぁぁ!」 顔の皮が磨り潰され、ボロボロの状態になった。そんな遊びをしていると、公園らしき場所に到着。 「おい、ここで合ってんのか?」 「デァァァァ!がおがぁぁぁ!」 「黙れ」 さっきから喧しいのでついぶら下げた状態から振り回し、地面に叩きつけた。 「ベァッ!」 ぐしゃぐしゃに潰れる糞蟲。……我に返り、頭を抱えた。 「やっちまったぁ……」 コレしか場所がわかる奴がいないのに……しかしやってしまったからにはもう遅い。 「偽石は……割れてやがる。この役立たずが」 仕方がない。この公園らしき場所に入るか。糞蟲を捨て、中に入っていった。 「ニンゲンデス」 「とっとと出て飼って貰うデス」 「でもさっきの奴隷みたいな奴だったらどうするんデス?」 「同じようにすればいいデス」 どうやら当たりのようだ。ひそひそと話す野良実装を無視し、あいつを探す。 「名前を付けなかったのは失敗だったな」 呼ぼうにも名前がない。一人ごちた所でそんな自分に笑ってしまう。 「何であいつの事を気にかけなきゃいけないんだ?」 そう。あの糞蟲の事なんか放っておけばいい。……だが、それができない。 どうしてだろうか?わけもわからず探し回っていると、便所の影からあいつの足が見えていた。 「こんな所にいたのか、糞……」 そこを覗いた瞬間、言葉が、いや。息が詰まった。 実装が変わり果てた姿で倒れていたからだ。……外傷は見た所なさそうだが、白く濁った液にまみれていた。 「おい?」 声をかけるが反応はない。 「おいっ!」 抱き上げた瞬間、嫌な臭いが鼻の中に入り込んできた。 「まさか……これ、精液か?」 男なら嫌でも嗅ぐだろう、あの臭い。それが実装を包んでいた。 「…………あ……」 「っ、大丈夫か!?」 俺を見る眼は半ば虚ろ。それを見た時、何かが俺の中で弾けた。 「つかまれるか?走るぞ!」 膝の下に手を入れ、持ち上げると出口に向かって走り出した。 「デデッ!?何をやってるんデスかあのニンゲン!」 「奴隷が連れ去られるデス!」 「そうはさせないデス!」 野良達が立ちふさがる。そこで一旦立ち止まり、野良達の方に眼をやり。 「いいぜぇ、糞蟲が……蹴散らしてやんよぉ」 笑みを浮かべるといきなり道が出来る。気分はモーゼだ。 「おらおらどきやがれぇ!踏み潰されんなよ!」 そうは言いながらもわざと踏み潰したりしているが。公園を抜け、家へとひたすら走ってる間。 「ちょっと。そこの君」 「あ?」 よりによって警官に止められた。 「その子は一体どうしたんだね?」 「誰かにヤられた」 「君じゃないのかい?」 「ああ」 ……うざい。ひたすらにうざい。こちらも長い間止まってられないっていうのに。 「悪いけど急いでるんで」 走り出そうとするが、警官に肩をつかまれる。 「ちょっと待った。一応署で事情を……」 「急いでるっつってんだろうが!」 つかまれていない肩を降ってその反動を利用し、つかまれた方を軸足にして後ろ蹴りを放つ。 見事にみぞおちに命中し、警官は気絶した。 「元虐殺派をなめんじゃねぇ」 警官やヤンキーともやりあってるんだ、伊達に修羅場はくぐっちゃいないぜ? もう一度走り出し、家へと急いだ。 * デスゥ * 家に着くなり実装の服を脱がせて体を拭こうとして……。 「なんだよ、これ……」 下着姿の実装を見て茫然としてしまった。 上半身は服で隠れていたところがアザだらけだった。そして…… 「なんだよこれは!」 下半身の……言わなくてもわかるだろう。そこは下着が破け、ドロドロの状態だった。 ただ拭くだけじゃダメだ。洗い流さないと。 風呂場に移動し、裸にした実装をバスマットに寝かせ、ズボンを脱いでパンツ一丁になった。 シャツの袖をまくり、水道のスイッチを蛇口からシャワーに切り替える。 給湯機のスイッチも入れ、シャワーを出して湯が出るまで待つ。 湯が出たらまず実装の体全体にシャワーを浴びせ、体に付いた精液を洗い流す。 次に被害が酷い部分をどうするか……と悩み、結局手でかき出す事に。 …………その細部は省略しておく。とりあえずかなり酷い状態だった事だけは言っておこう。 触ると傷が酷くなりそうな位のそこを洗うのにかなり神経が擦り減った。 そして髪の毛。精液に砂が混じってしまってるため、何度も湯で流した後にシャンプーで洗った。 実装は未だ眼が虚ろで俺が全裸にした時も反応はほとんどなかった。 実装の体をバスタオルで包み、もう一度居間に移動。腕を出して体に巻き直し、ソファに座らせた。 ドライヤーで髪を乾かし、ブラシで整える。服は後で洗濯しておこう。 ……ふと思う。こんな姿を昔の俺が見たらどう思うだろうか。たぶん嫌悪するだろう。糞蟲ごときに何やってんだ、と。 俺だってどうしてこんな事してるのかはわからない。 ただ、精液まみれで倒れていた実装を見た時の感情……とてつもなく大きな怒りと、初めて覚えた感覚。 この二つの意味がわかれば繋がる気がする。 髪も乾かし、服と体のアザ以外は元の状態に戻った。とりあえず俺の部屋着を着せておく。 「あとは……と」 実装の体勢を変え、ソファに寝かせる。 「とりあえず寝てろ。何か体に優しい物作ってきてやるから」 聞こえてるかどうかはわからないが声をかける。 こういう場合はおかゆがベストなんだろうが、あいにくうちは洋食派。吸血鬼に今まで食べたパンの数は?と聞かれても思い出せないだろう。とりあえず13枚と答えるが。 「……っと、待てよ?確かシリアルが残ってたような」 台所を検索し、箱入りのシリアルを見つけた。賞味期限は……ギリギリセーフ。残量もかなり少ないし、これで使い切れるから一石二鳥。 シリアルの袋を箱から取り出し、そのまま揉んで中のシリアルを砕く。ある程度細かくなったら揉むのをやめ、別の作業に取り掛かる。 その前に買ってきた食材が外に放置されっぱなしだったのを思い出し、これから使う食材以外は慌てて冷凍庫、冷蔵庫へ。 ミルクパンに買ってきた牛乳を注ぎ、火にかけて温める。ついでに食パン一枚を半分に切り、半分は小さくちぎっておいてもう半分は俺の口へ。 温まった所で弱火にしてから先ほどの砕いたシリアルとちぎったパンを入れ、へらでよく混ぜる。シリアルがふやけたら完成。へらですくい、少し食べてみる。 「……甘いのは仕方ないか」 作った似非オートミールを小さい深皿に盛り、実装の所へ。 「ありあわせで悪いが作ってきたぞ。ほら、食え」 スプーンですくい、実装の口元に持っていく。少しずつではあるが口の中に吸い込んでいった。……半分は残ったがそれでも食ってくれたので安心した。 「何やってるんだろうな」 俺は今、安心している。その事に驚き、少し呆れてしまう。これもやっぱりあの時の感情と関係があるんだろうか。 口をつけないのでもう食えないと判断し、皿を下に置く。 「一晩寝れば大丈夫だろう」 後は本人の精神力次第。……まあ実装の事だ。割と図太い神経をしてるし、軽いトラウマくらいで済むだろう。 自分の部屋からタオルケットを持ってきて実装にかけてやる。 とりあえず俺も自分の部屋に戻ろうと立ち上がろうとして。いきなり服が引っ張られた。 実装が俺の服の裾を掴んでいた。ため息をつき、もう一度そばに座る。 「まったく、この糞蟲が」 寝顔を見てみると満足げだ。……本当なら殺意の湧くような顔なのに、呆れしか出てこない。 なんだろうな。もしかして俺も歳なのか? 「んな訳ないだろ」 まだまだ魔法も使えないのに爺くさい事を。思わず口に出してしまい、笑ってしまう。 「ほんと、何だろうな」 悪い気はしない。実装を憎んでいるはずなのにこいつはどうでも良いと思えてくる。いや、むしろ…… そこで思考を無理やり止めた。その考えは俺自身を否定してしまう。 それよりも必要な事は、こんな事をやったのが誰か、だ。……いや。誰であろうとその先は決まっている。 人間ならば一生の恥を。 実装ならば永劫の死を。 さすがに殺人者にはなりたくないからな。前科持ってるし罪が余計に重くなる。 気絶させて全裸で公園の木に吊り下げるとか、ハチ公の上に乗せてやるとか……って、ハチ公に失礼だな。 ああ、M字開脚で縛ってハッテン場に放置でもいい。やらないか?やりましぇーん!ってか? だが実装だったら容赦はいらないな。女を犯せるのはマラ実装位しかいない。あんなゴミクズを生かすわけにはいかないだろう? ニヤリと笑う。どちらにせよ落とし前はつけてもらわないと、な。 *** あとがきデスゥ *** 前回はあとがきなんてありませんでしたが。 さて、人化実装系スクのセオリーっぽいもの、『スクの主役の人化実装は不幸になる』を打ち砕こうと書いていたんですが真っ先に不幸が来ちゃいました。 マジでどうしよう……でもこの先もすでに形は出来ているんで何とかなりそうですが。 とりあえずこの糞蟲には幸せ(?)にはなってほしいですね。 挿絵をギロ目氏、もしくはなげやり氏に描いて頂きたいなぁ……と幸せ回路を全開にしてみたり。
