*人間が実装石を食べる残虐なお話デスゥ!カワイイ実装を食べるなんて鬼畜デスゥ!* *体調の悪い方や趣味の合わない方は読まないよう気をつけるのデスゥ・・・・デェエン!* 会社から自宅へ帰る途中、近道のために公園を突っ切ると、毎晩のように 飢えた野良実装を見かけた。俺がこぐ自転車にひかれそうになりながらも、 ある者は仔を差し出し、またある者は股を広げて必死に餌をねだる。 その浅ましい姿を嘲り笑っていたが、次第に自分も同じ立場に追いやられ ていった。会社が傾き始めてから、給料が減少の一途を辿ったのである。 少ない給料で生きていくには生活費の圧縮が不可欠で、食事も好きなもの を好きなだけ買って食べるという訳にはいかない。給料の額が減少していく に連れて、俺の食事のメニューは加速度的に貧相なものになっていった。 外食は自炊にとってかわり、美味しさよりも量を優先するようになった。 しまいには、日に三度の食事が二度になり、空腹を紛らわそうと寝ても 食い物の夢ばかり見るようになった。 そしてついに会社が倒産した時、俺は実装石そのものになっていた。 親はすでに亡く、実家なんてものはない。住むアパートの家賃は冷酷に 容赦なく毎月徴収されていく。社長が夜逃げして退職金なんてもらってない。 失業保険は支給されるが、元の給料が少なすぎて貯金はなく、支給期間が 過ぎれば収入の当てはない。かといって次の就職口もなかなか見つからない。 ふと気がつけば、ゲームや本を売って飯代に代えていて、部屋はがらんと していた。産まれた仔を食い、足りなくなれば自分の手足をかじる飢えた 実装石とどう違うというのだろう。 最後まで孤独を支えてくれたパソコンもついに売り払った時、慢性的な 空腹に苛立っていた俺は、ほとんど正気を失って部屋から走り出した。 深夜、町外れの公園に走り、意味をなさない言葉で誰もいない空間に向か って喚きちらした。ベンチを蹴り、ゴミ箱を樹木に投げつけ、ブランコの 座席の上で何度もジャンプして板を破った。壮絶だが何も生まない破壊活動 をひと通り行った後、もうなにもかもが嫌になって地面に伏して泣いた。 気がつけば、早朝の薄明かりの中で、何かが俺を取り囲んでいた。 この公園に巣食う野良実装の親子だった。俺を見て笑いながら喚いている。 普段なら気にもかけないその声が、この時は妙に気に障って、携帯電話に ついている一度も使ったことのない実装リンガル機能をオンにした。 「デププ、仔ども達よく見るデスゥ、これがいわゆる駄目ニンゲンデスゥ」 「分かったテチ、これがママのいってたドレイになるニンゲンテチ!」 「レフー、はやくコンペイトウをもってくるレフー♪」 俺は思わず笑っていた。親実装に仔実装、あまつさえ蛆にまで馬鹿にされ、 さっきまでこのまま消えてしまいたいと思っていた心と体が力強く立ち上が ったのだ。あまりに怒りが強すぎると、思わず笑ってしまうというのは本当 だった。強い怒りは絶望に勝るというのも本当だった。こんな生き物に馬鹿 にされたことに比べれば、生活や収入の不満などなんだというのだ。 強く地面を蹴って伸び上がり、自分達の何倍もの高さから見おろす俺に、 実装石どもは一瞬動揺を見せるも、黙って動かずにいると調子に乗って足元 に群がってポカポカと俺のスネを蹴りはじめた。 「脅かすなデスゥ、お前をドレイにしてやるというのになんなんデスゥ? ワタシという高貴な主人に拾われたことを感謝するんデシャァァァァァ!」 蹴られながら目の前に転がるゴミ箱の中からビニール袋を探し出す。 「むかつくテチィ! いじめてやるテチィィッ! これは躾デチィ!」 仔実装は生えたばかりの歯を自慢したいのだろう、必死に噛み付いてくる。 「レフー!レフー!」 蛆までもが威勢良く俺を威嚇する。 「!?」 俺はなしうる最大の瞬発力を発揮して、一瞬で仔実装と蛆をビニール袋 に入れ、そのまま上着のポケットに隠した。そして親実装の大きすぎる頭 を両手でつかみ、ポケットの中の仔どもに声を聞かれないよう、口を塞ぎ ながら力を込めた。 「・・・・・・! ・・・・・・!? ・・・・・・・」 親実装の頭が潰れ、手のひらに固い感触を覚えた。赤と緑の肉片の中に、 朝日を受けて輝く小さな石があった。これがいわゆる偽石というヤツか。 試しに噛んでみたが、堅めに焼いたクッキー程度の強度しかなかったので、 そのまま噛み砕いてしまった。思わずペッと噴出し、地面にばらまく。 砕けた偽石にみとれていると、頭部を失った親実装の体がぺたんと地面 に座り込み、完全に脱力して動かなくなった。完全な死を迎えたのだろう。 首から血が噴き出し、朝日にきらきら輝いて赤い噴水のように見えた。 どこかで見た光景だ。そう、テレビでみたとがある。 砂漠化が進んだアフリカや中国では、最低限の環境でも簡単に繁殖する 実装石を食用としており、生き血を飲んで栄養ドリンクの代わりとする人 達もいるということだった。 現地では、血も肉も骨もあますところなく活用し、人々の生活を潤して いるため、日本での扱いとは逆に益獣としての地位を得ている。もっとも、 実装石自身にとってはありがた迷惑以外の何物でもないだろうが。 テレビで見た時は気分が悪くなったが、今、こうして目の前で出血の 奔流を見ていると、それが人間のそれと同様に栄養素を含んだものであり、 命の源であると理解できた。人間というより動物としての本能がそれを 俺に悟らせたのだろう。 俺は驚くほど冷静に、何の迷いもなく、血の詰まった皮袋としか思え ない実装の体を頭上に掲げ、口を開いて溢れる血を飲み干していた。 味はしない。水を飲むのと似た感覚だ。実際はそうではないのだろうが、 俺の中の大切な何かが壊れたこととひきかえに、感覚の一部が遮断された ようだった。俺がごく普通の現代日本人である自分と決別した瞬間だった。 気がつけば、実装の腹をぐいぐい押して糞抜きをし、文房具のカッター を使って四肢を切り裁き、針金に肉を通してライターの火で炙り、実装肉 を貪り食っていた。 無造作にぶつ切りにされ、いわゆるマンガ肉のような形で焼かれた肉に、 俺は異様なほどの食欲を示し、ものの数分で親実装一体を平らげた。味は なかったが、空腹が満たされる実感だけは喜び悶えるほどに感じていた。 さすがに骨は食えなかったので、拾って仔実装達が入っているのとは 別のポケットに入れた。俺は正気を失いかけていたが、もし公園で遊ぶ 子供達がこの骨を見て怖がったらかわいそうだ、と考える程度の余地は かろうじて脳に残されていた。 ポケットの仔どもは眠っているのか気絶しているのかはたまた死んで いるのか、ぴくりとも動かない。いずれにせよ、こいつらも俺の食料に なってもらおう。もはや実装を食うことへのためらいは消えていた。 いやまてよ。 もし生きていたら、繁殖させてからたっぷり食らってやろう。 こいつらは花粉でも受精して妊娠し、出産するという。 どうせ暇は売るほどあるのだから、やってみるのも悪くない。 俺はアパート向かって、朝日のなかを歩き出した。身も心も軽い。 生まれてこのかた感じたことがないほどのハイな気分だった。獲物を 食い終えた原始人の充足感を21世紀の街中で体感しながら、俺は実装 繁殖計画を鼻歌を歌いながら嬉々として考えていた。
