冬の野良実装の話 日が昇る前の早朝。 寒風吹き荒ぶ中、一匹の親実装が指定時間外に出されたゴミ袋を開けて中を物色している。 袋の中身は・・・・余り食料になるような物は無く、紙クズや破れたビニール袋などが大半を占めている。 袋の中身を粗方物色し、目当てのものがないと分かると親実装は中身をゴミ袋に戻して壁に立てかけて置く。 本当ならちゃんと結んで何も無かったかのように偽装したいのだが、実装石の不器用な手ではそんな贅沢は望めない。 溜息を吐く間もなく次の獲物を物色し始める親実装。 日の昇っていないこの時間帯は実装石が唯一自由に動き回れる貴重な時間。 結局、3時間のゴミ漁りの成果はカビの生えた食パン3枚とバターの空き箱だけだった。 芳しい成果を獲られなかった親実装は溜息を吐く。 こんな物では子供を養うことすら出来ない。 自分の食べる分を確保すると食べ盛りの仔達を黙らせるには程遠い量になる。 どうしたらいいものか・・・。 家畜は加減を知らない仔達が早々と苛め殺してしまうし、冬前に溜めた貯蓄ももうじき底をつく。 ご飯集めも最近では難しくなって来ているし、冬場の所為で同族の仔を捕まえるチャンスも少ない。 このままでは今まで温存してきた子供達を食べないとワタシの命も危ういな・・・・。 子供を抱えた親実装の悩みは尽きない。 冬場の大切な食料である同族が見つからないのは死活問題だ。 慢性的な食料不足と人間による執拗な駆除がジワジワと自分の生命を圧迫しているのをおぼろげながら理解している。 数年前までは餌探しに出れば最低10〜20匹の同族に出会ったものだが、 今年の冬はめっきり同族に出会うことも無くなっている。 人間の出す生ゴミに依存できないこの状況において同族は大切な食料。 特に草や木の実を採取できない冬場は特にその傾向が強くなる。 食物連鎖の底辺にいる実装石が狩猟できる物といえば動きの遅い昆虫や同族ぐらいしかない。 同族を狩る時は大体後ろから奇襲を掛けて半殺しにする。 周りに人間等の脅威が無ければ獲物の服と髪を毟って禿裸にして子供の有無を尋ねる。 居れば巣まで案内させて子供を捕えて家族揃って奴隷に転職させる。 居なければ自分の巣まで連行してそこで仔産み奴隷か食料にする。 1匹の成体実装石を捕まえられれば6〜4匹の仔実装を抱えた家族が2週間生き延びられる。 それと、秋に生んだ子供は冬越えの為の大切な食料。 どうしょうもないバカを間引いた後は沢山餌を与えて、冬本番になる前にある程度の大きさまで育てる。 後は必要最低限の餌を与えて生かしておけばいい。 親実装によって異なるが、 春仔(本命の子供のこと)を教育する為の演習として躾を施したり、 餌を与えるだけで子供と関わり合おうとしなかったり、 自分の寝床とは違う場所に押し込めて家畜の様に扱ったと様々な関わり合いが存在するが、 最終的にはどの親の仔実装も辿る運命は同じ。 運良く春まで生き残ったとしても、本格的な活動を始める前の滋養として喰われて短い生を閉じるのが定番だ。 親実装はブツブツと独り言を垂れ流しながら巣に辿り着く。 この親実装の巣は古いコンクリート塀の継ぎ目の隙間を利用した物。 50cm級の親実装が屈まないと入り込めない隙間を入口とし、段差を降りた内部は少し広めの空洞になっている。 この場所で親実装は幾多もの仔を産んで、喰らって、育ててきた。 親実装はすぐには家に入らず、今日の成果を置きに自分専用の窪みに入る。 こちらは子供のいる家ほど立派ではないが、親実装が自分のためだけに設えた空間。 中には腐りかけの生ゴミの詰まったビニール袋が2つ置かれている。 これが親実装の春までの生命線。 今日の成果を餌袋の中に詰めて袋をしまう。 子供達に餌を与える前に様子を見るとしようか・・・。 親実装は自分専用の場所で少し寛いだあと、子供達の待つ家に向かう。 親実装が中に入ると5匹の仔がボロ布に包まって居眠りをしている。 ・・・・一番小さい仔は他の姉妹から除け者にされてボロ布の端を掴んで寒さで震えている。 ・・・・・本当にしょうがない低脳どもだ。 姉妹仲良く留守番をしていろと命令したのに末っ子を苛めて・・・。 仕方ない、この一番小さい子供はそう長くないだろう。 なら・・・・。 親実装は寒さで震える末っ子を掴んで軽く振る。 「・・・テ・・テェ? ママ・・テチ?」 「しッ!黙るデス。 これからお前にだけいいものをあげるから黙ってついて来るデス。」 親実装は目を覚ました末っ子に小声で指示を下すと一緒に外に来るように指示を下す。 ・・・親実装はノタノタと外に出てきた仔を抱き上げると自分専用の隙間に連れ込む。 末っ子はいつも冷たい母親がお姉ちゃん達を差し置いて自分を構ってくれることが嬉しくて、 喜びの声を上げながら親実装に縋りつく。 「黙るデス!」 「テチュゥ・・・。」 怖い母親に一喝されると末っ子は黙り込んでしまう。 でも、親実装の体温は芯まで凍えていた末っ子にはありがたいもの。 しっかりと抱きついて今まで甘えられなかった分を取り返そうと縋りつく。 「ママァ♪あったかテチ♪ ママにだっこされてるととってもきもちいいテチ・・・。」 妄想にかまけて母親の顔を見なかった末っ子は幸せだったのかもしれない。 さらに甘えて、ご飯をねだろうとした末っ子は永遠にその言葉を口にすることが出来なかった。 親実装に頭を丸のみにされて、首から上を食いきられたから・・・。 ビクビク痙攣しながらパンコンする自身の仔だったものを親実装は無心で喰う。 すえた臭いのする服も、脂でギトギトの髪も、頭を失ったショックで洩らした糞もみんな平らげて親実装は唸る。 ・・・・美しくて賢いワタシの仔に相応しくないやせっぽちの頭の悪いガキだったけど、美味しかった。 やはり糞を食わせて養った家畜の肉や腐りかけの生ゴミとは全然違う。 これで餌の配当の負担は少し減ったが、すぐに次の落伍者が出てきそうだ。 この分だと春までは残りそうもない。 景気付けをする為に一匹ぐらい生かしておきたいが・・・・。 親実装は口や手に付いた血を拭って何も無かったように偽装して子供用の餌を分け始める。 カビの生えた食パンを半分に分割し、それをさらに4等分する。 それを持って子供の所へ戻る。 「おい、お前たち! 起きるデスゥ!!」 ボロ布に包まってまどろむ子供を蹴って起こす親実装。 自分の命令を守らなかった罰と憂さ晴らしを兼ねて少々強めで蹴り飛ばした。 「テビイィ!!いたいテチィ!!」 「テチャア!なにするテチ!」 「テェェェーーーン!!」 「ママがけったテチィ!!!」 突然の痛みにわめき子供達を労わる事も無く親実装は各自の前に分割したパンを投げる。 「喰えデス。 今日のご飯はそれだけデスから良く咬んで味わうといいデスゥ。」 「「「「テエエェーーーン!!!すくないテチィ!!!」」」」 声を揃えて不平を垂れる子供達。 協調性とは無縁の実装石でもこんな時ぐらいは意見が揃う。 「・・・・・じゃあそれはいらないんデスね? ママが命がけで探してきたご飯に文句を吐けるとは・・・とてもいい度胸デス。 だったら無理に喰うなデスゥ!!さっさと返しやがれデスゥ!!」 子供達からパンを引ったくり、袋に戻そうとする親実装。 「「テェェェーーー!!!ごめんなちゃいテチィ!!ママごめんなちゃいテチィィッーーーー!!!」」 「「テチュウアアアアッ!!!!ごはんぬきはいやテチ!!ごめんなちゃいテチィッ!!!」 土下座で親実装に謝る子供達。 卑屈に這い蹲り、地面に額を擦り付けて親実装の許しを請う。 「・・・・・まあ、そこまで謝るなら許してやるデス。 心の広いワタシに感謝するといいデス。」 「「「「ま・・ママァ♪ありがとうテチ♪」」」」 「でも、逆らった罰としてご飯の半分は没収デスゥ♪」 親実装は取り上げたパンを6割ほど齧ってから各子供に手渡す。 「「「「テ・・・・テェェェ・・・・。」」」」 唯でさえ少ない食事が目減りしたことに血涙を流して悲しむ子供達。 でも逆らえばこの少ない食事にさえありつけないことを明白。 子供達は泣く泣く少なくなった食事を喰う。 ・・・・本当にバカな奴ら。 ここに閉じ込めてから何度も同じことを繰り返しているのにどうして学習できないのか? まあ、バカだから仕方ないか♪ この親実装はバカな子供達の無様さを楽しんで日々の憂さを晴らしている。 糞の始末などの最低限の躾を施しただけの仔実装たちには、 親実装の悪辣さも、自分たちの運命と立場もまるで分かっていない。 絶対者である親実装の不興を買わないように黙って狭い住処の中で息を潜めている。 親実装が食料である子供達に与える物は我慢と退屈と恐怖だけ。 親実装は不潔な(巣に閉じ込めて以来体も服も洗濯してない)子供達から離れるために外に出ようとする。 自分の汚臭は我慢出来ても、他者の臭いを我慢できるほどこの親実装は立派ではない。 「ま、ママァ!どこいくテチ?」 「・・・・餌探しデス。 お前たちはここで大人しくしているデス。」 「あ、あそんでほしいテチ。 ワタチはとってもたいくつテチ。 ひまで死にそうテチ、なんとかするテチ。」 親実装は遊びの催促をした仔を蹴り飛ばす。 「ふざけるなデスゥ!! ワタシはとっても大変なんデス、人間の目を盗んでご飯を探すのがどれぐらい大変か・・・ 能天気なお前らにわかるんデスか?」 激しく蹴り飛ばされて悶える仔を笑う残りに3匹も等しく蹴り飛ばす。 「「「テゲェ!!!」」」 「卑しく笑うなデス。 この低脳糞蟲どもが!!」 死なない程度に全ての子供を打ち据えると親実装は子供達の服を剥ぎ取って一箇所に集める。 「・・・・脳タリンのお前たちがワタシの指示無しに外に出たら10秒もしないうちにあの世行きデス。 ワタシはお前たちの言うことなんて信じないデス。 だからバカなお前たちがワタシの言うことを破って外に出れないように服は預かっておくデス。 ・・・・・こうすればいくら足りないお前たちでも分かるデスよねぇ? 裸でお外に出たら寒いデスよ? 裸のみっともない姿でお外をうろついている最中に他の奴に見つかったら奴隷にされるデスよ? 賢くて美しいワタシの言うことをきちんと守ってお家でじっとしているがいいデス。 分かったデスね?」 「「「「テェェェ・・・・・。わかりまちたテチ・・・。」」」」 子供達は血涙を流しながら親のことを睨みつけていた。 親実装は子供たちのすえた臭いのする服を抱えて外に出ようとしたが、 巣の外に複数の生き物の気配がすることに気付いて立ち止まる。 「「「「テェ?」」」」 入口付近で立ち止まって壁を睨みつけている親実装を不思議そうに眺める子供達。 ・・・・・同族がワタシのお家に踏み込もうとしているのか? 気配が1つ、2つ・・・・・良く分からないが沢山いる。 まあいい、高貴な私のお家を乗っ取ろうなんて考える不届き者には罰を与えなければならない。 親を潰せば子供はどうにでもなる。 これでご飯探しを当分しないで済むかも♪ 親実装は扉代わりの段ボール片を固定するのに使っていた石を持ち上げて侵入者を待ち受ける。 この方法で親実装は2回ほど同族をしとめている。 ・・・・・・はやく入って来い。 捕まえたら、たっぷりいたぶって隷属させてから喰ってやる。 美しいワタシに娯楽と食料を献上する喜びをあたえてやるから早く来い。 ・・・・・しかし外の気配は一向に入口を潜ろうとしない。 同族の頭を一撃で陥没させる威力を秘めた石を掲げる親実装は武器の重さに脂汗を噴き出して震え始める。 しばらくすると・・・・・入口から管のような物が巣内に差し込まれる。 「デェ?」 「「「「テェェ?」」」 いぶかしむ親子。 一匹の仔実装が不用意にそれに触ろうとした瞬間、 勢い良く管の先から白色の煙が噴き出した。 「デガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァッーーーーーーー!!!!!!!!」 「「「「テチャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァッーーーーー!!!!」」」」 煙を嗅いで悶絶する親子。 子供も親も転げ周り、何とか巣の外に逃れようと試みる。 だが、親実装は気付く。 これはニンゲンの仕業だと・・・・。 親実装は手の届く所を転がりまわっていた子供を2匹両脇に抱えて、外から死角になる場所に座り込む。 自分の前掛けに噛み付いて声を出さないようにして、子供達の口もさっき奪った服を押し込んで黙らせる。 その際、子供が暴れて親の拘束を解こうと躍起になるが、親実装は子供が砕けんばかりの力を込めて抱きしめる。 親実装に保護されなかった子供達はふら付きながらも外へと這い出してゆく。 胃袋を吐き出してしまいそうな悪臭の漂う巣内には一秒たりとも居られないといわんばかりに。 ・・・・まて・・・バカどもが・・・。 今外に出たら・・・ニンゲンに捕まってしまうぞ!!! ニンゲンに捕まったら・・・ワタシの今まで努力はどうなるんだ!!! 戻って来い!!!バカども!!! 幾ら親実装が毒付こうとも子供達は外に出て行ってしまう。 そして、 「「確保ボクゥ!!」」 「テチャアアアアアッ!!!!」 「テェェェェーーーーーーン!!!!!!」 子供達の悲鳴と実蒼石の声が聞こえた。 巣の外では噴霧器を背負った清掃局員と2体の実蒼石が捕えた仔蟲を眺めている。 「・・・・・フム。 親蟲ちゃんはゴミ漁りに出かけているようだな。」 「そうでしょうかボク。 案外巣の中に潜んでいるかもボク。」 「実装石忌避剤の芳しい香りを嗅いで理性を保てる実装石はざらにはいないはずだ。 だが、まだ1月と言うのに非常食の仔蟲の数が少なすぎるな・・・。 大方バカな個体が計画も立てないで喰い散らかした結果なんだろう。」 「隊長、周囲には親蟲の姿や気配を確認できなかったボク。」 「ご苦労さん、じゃあ保険を掛けて次の現場に向かうとしようか。」 清掃局員は再度巣内に実装石忌避剤を噴霧し、様子を見た。 ・・・・・・巣から飛び出してくる者も鳴き声もしない。 助手の実蒼石達が捕えた仔実装を回収ケースに放り込んでいる間に清掃局員は巣の入口に細工を施して、 その場を後にした。 ・・・・駆除部隊が立ち去った。 巣の中で震える親実装と子供2匹は猛烈な悪臭に悶えていた。 子供達はなんとか親の手から逃れて外に逃げ出そうとしていた。 猛烈暴れまくったお陰で口に詰め込まれた服を吐き出してはいたが、 非力な仔実装では本気で締め上げる親の抱擁を解くことはできない。 体験したことの無い悪臭とアバラが破砕しそうな激痛に悶える子供を他所に親実装は頭をフル回転させていた。 畜生!ニンゲンどもめ!!! このお家はもう使えない・・・はやく引き払ってどこかに身を隠さないと。 折角溜めたご飯はどうしよう・・・この腕の中に捕えている子供は・・・? 諦めるしかない・・・全てを運び出すなんて無理だ。 畜生!!どうして美しいワタシがこんな目に遭うんだ!!! 畜生!畜生!畜生!畜生!畜生!畜生!畜生ッ! 気が治まらない・・・、そうだ子供を食って気分転換しよう。 どの道捨てるしかないんだ・・・喰ってしまった方がいいに決まっている。 親実装は迷うことなく右手に捕えている子供の頭に齧り付いた。 「テギャアアアアアアアアアアッーーーーーーー!!!!! ママママママァ!!!!なななにちゅるテチィ!!!!」 「テゲェェェ!!!ママがお姉ちゃんを食べたテチ!!!」 子供の悲鳴などお構い無しに食事を続ける親実装。 二口ほどで上半身を平らげて残りを喰おうとした際に左手の拘束が緩んで無事な子供が逃げ出した。 「あっ!・・・・まあいいデスゥ。 コイツを平らげたら次はお前の番デスよ♪」 子供の腸を蕎麦みたいに啜りながら親実装は呟く。 何とか親の手から逃れた仔実装は段差を這い上がろうと必死に努力している。 はやく逃げなければ鈍臭いお姉ちゃんみたいにママに喰われてしまうから。 栄養不足と運動不足の所為で反応の鈍い体を酷使してようやく段差を越えた時、 親実装は子供だった物を平らげて厭らしいゲッブを吐いたところだった。 「・・・・さて、次はお前デスよ♪ 今まで育ててやった恩返しをするがいいデスゥ♪」 「いいいいい、イヤテチィッ!!!!! ワタチはママになんかにたべられたくないテチ!!!」 「我侭はダメデスよ♪ お前の妹やお姉ちゃんの様にちゃんと食べられて、美しくて賢いワタシの滋養になるといいデス。 お前が今まで生かされていたのはお肉を喰う為なんデスからね♪」 「テギャアアアアッーーーー!!!! おまえはあくまテチィぃーーーーーーー!!!!!」 仔実装はヨタヨタとおぼつかない足取りで必死に出口を目指す。 実母に裏切られ、あまつさえ捕まれば踊り喰いされることへの恐怖と絶望が仔実装の体を前に進ませる。 親実装は子供の無様に足掻く様を見て楽しんだ。 外に出れば無力なムシケラ以下の存在であっても、 この巣の中では全てを支配する暴君で居られることが親実装にはたまらなく愉快だった。 人間が実装石を虐げるように、子供を虐げて笑う親実装。 子供をいたぶっている時だけが唯一・・・・親実装が心の中で思い描く自分と重なっていられる時間。 子供との距離をゆっくり楽しみながら詰める親実装。 本気で追いかければすぐに捕えられるがそんな無粋な真似はしない。 今回生んだ子供の最後の生き残りとのスキンシップなのだから・・・・。 いっぱい楽しまなければ今まで餌を与えて育ててきた元が取れない♪ ノロマな仔実装が何とか地獄と化した巣から抜け出した。 曇天の上に身を切る様な冷たい風が吹く悪天候だが躊躇はしていられない。 はやくママから逃げなければ喰われてしまう。 そうしたら・・・・楽しいことも美味しいものも何にも味わえずに死ななければならなくなる。 仔実装が意を決して外に踏み出す。 「デププププッ♪禿裸が何処に行くデスゥ♪」 親実装は必死に這いずって逃げようとしている子供に罵声を浴びせてさらに近づく。 あと20センチの距離を詰められたら・・・仔実装は畜生な親実装の餌になる。 「い、いやテチィ!ママのごはんなんかになりたくないテチ! かわいいワタチにはこれからいっぱいたのしいことがまってるんテチィ!! こんなところでしねるかテチ!!」 「身の程を弁えないバカ餓鬼デスねぇ♪ お前には薔薇色の未来なんてないデス。 美しいワタシの栄養になることがお前に課せられた使命です。 無駄な努力をしないでさっさと仕事を果たすデスゥ♪」 親実装は遊びを終わりにして仔実装の元に近づく。 仔実装は既に道路上に出ていて、どっちに逃げようか考えて頭を左右に振っている。 「さあ、楽しい追いかけっこはお終いデス♪ 美味しく食べてやるからこっちにくるデスゥ♪」 「テチャアアアァァァッーーーーーーー!!!!!!」 パンコンしながらへたり込む仔実装。 親実装が隙間から出ようとすると鼻の辺りに何か引っかかる物がある。 ・・・・・・・なんだ? 検証する暇も無く親実装は上へと引きずり上げられる。 な・・・何だ?何が起こったんだ? ワタシが浮いている? 何で?どうして? 体を無茶苦茶に振り回して地面に戻ろうと試みるが、体中に鋭い痛みが走ってどうにもならない。 何度か暴れるも、それが無駄だと分かると親実装は自分を捕えているものの正体を見極めようとした。 ・・・・・・網? ニンゲンの罠か!!! 自分の体液が付いて見えやすくなった細い強化ナイロンで編まれたネットをみて呻く親実装。 迂闊だった・・・。 ニンゲンが罠を仕掛けた可能性を見落とすとは・・・・。 いつもなら簡単に見破れるはずなのに・・・・。 あの餓鬼が悪いんだ!!! ワタシにさっさと喰われていればワタシがこんな目に遭わずに済んだのに!!! 毒付きながらネットに咬みつく親実装。 だが、実装石程度の噛み付きではナイロン糸を切るどころか傷を付けることも難しい。 何度も力任せに咬み付いて引っ張り回した所為でナイロン糸が歯茎を切り裂いて大事な前歯を失ってしまう。 「へウガアアアアアアアアッ!!!!ワ、ワタヒの歯ギャァァァッーーーーー!!!!!」 顔面を赤緑の斑に染めた親実装は悶絶する。 悶絶して暴れるたびにナイロン製の網は体のいたる所に喰い込んで鬱血させ、大事な財産である服や髪を引き裂く。 「テププププ・・・・♪」 「デガァ!!!誰デズゥ!!ワタジを笑っだのはデズゥ!!!」 下を見れば、追いかけていた子供が酷く楽しそうな様子で笑っている。 「笑うなデズゥ!!いやじい糞蟲めデズゥ!!!」 「テピャピャピャピャピャピャァァァッーーーー♪ ブサイクがお空で血だるまでおどってるテチィ♪」 いくら自分を喰おうとした親であっても少々考え物の言動を垂れ流す仔実装。 生まれて始めての大爆笑に悶絶する仔実装に親の罵声などまるで届かない。 畜生!! どうして実装石の中でもっとも優れたワタシがこんな脳タリンの糞に嘲笑われなければならないんだ・・・。 はやくこんな罠から脱出してあの糞を喰ってやる!! 畜生!!畜生がッ!!! 一番苦しい殺し方をしてやるぞクソ餓鬼が・・・・、 お肉の分際で至高なワタシを嘲笑わうなんてことが許されるはずが無い。 笑った分だけ苦しめて、それから時間を掛けて喰ってやる。 親実装が悶えれば悶えるほど網が体に食い込んで損害が広がり、 親実装が苦しめば苦しむほど仔実装が笑う。 いつも静かな路地裏は今日に限って糞蟲親子の合奏で騒がしい。 6時間後・・・・・。 仔実装はすっかり笑い疲れ、巣穴に戻って寝ている。 親実装は血塗れの禿裸に成り果ててネットの中で唸っていた。 ・・・・ああ・・・もう・・駄目だ・・・。 綺麗な服も髪も全部無くなってしまった・・・・。 どうして・・・ワタシが・・こんな酷い目に遭わなければ・・・ならないんだ・・。 手も足も氷みたいに冷たくなって動かない・・・。 「お、ちゃんと引っかかっているな。」 清掃局員は罠に引っかかっている親実装を見て笑う。 「まあ何とも無様なご様子で・・・・生きているのが恥ずかしくないのかい?」 親実装入りのネットを外して口を結んで地面に置く。 それから巣穴に実装石忌避剤を噴射する。 「テチャアアアアアアアアアアアアアッアァッーーーーーーー!!!!!!!! 臭いテチィィィィッーーーーーー!!!!!」 巣の中でぬくぬく寝ていた仔実装が凄まじい臭気に悶絶しながら飛び出してくる。 「確保ボクゥ!」 巣から飛び出してきた仔実装を助手の実蒼石が捕獲用トングで捕える。 そのトングは捕えた実装石を逃がさないように鋭い歯が幾重にも付いているので、 実装石程度ではどんなに暴れても抜け出すことは出来ない。 「親蟲1匹、仔蟲がさっきのと合わせて三匹・・・以外に少ないボク。」 「コイツは多分頭が悪いから食料の配分なんて事を考え付けない糞蟲なんだろう。 目に付く子供はみんな餌としてパクつくからこんなに子供が少ないんじゃないか?」 「ボク達に駆除されなくてもそう長生きする個体じゃないボクね。」 「違いない。 どの道、この冬を越したとしても春先の駆除で始末される類の連中だ。 虐待用にも撒き餌の繁殖用にも使えない屑蟲ってやつだな。」 親子を笑う清掃局員と実蒼石を見て血涙を流して悔しがる親実装。 食料として生んだ子供にバカにされたことも、ニンゲンに訳も無く捕えられたことも、無能のバカと罵られたことも、 全てが腹立たしい。 でも、人間からどうしょうも無い屑と罵られた親実装であっても自分の未来が閉じられたと言うことぐらいは理解できた。 人間に媚びて飼われようとしても、死力を尽くして暴れてもどうにもならないことぐらいは・・・。 「隊長、周りには仔蟲は居ないみたいボクゥ。 そちらにいた仔蟲だけみたいボク。」 もう一体の助手の実蒼石が周囲の探索から戻ってくる。 「あいよ、ご苦労さん。 ここは当分回らなくてもいいな。」 清掃局員は壁の高い位置にチョークで日付を書き込み、 ネットにくるまれた親実装を掴んで車に向かう。 「ニ、ニンゲン!! カワイイワタチを飼わしてやるからはやくはなせテチィ!!」 回収ケースに放り込まれる寸前に仔実装は無謀にも清掃局員に向かって自分を飼わせてやると叫びだした。 底なしの頭の悪さと親譲りの能天気さがそうさせたのだろう。 「おや、脳タリンの仔蟲ちゃんは現状を把握していないみたいだな?」 偉そうな大言を吐く仔実装も最後まで口上を言い切ることなく回収ケースに放り込まれる。 「な、何でテチィ!! ワタチを飼わせてやるっていってるんテチ!」 そしてその上にネットに包まれた血塗れの禿裸の親実装が降ってくる。 「チャベェッ!!!」 「デベェ!!!」 仔実装は親実装に押しつぶされて短くて無意味な実装生を終えた。 「さて、あと2箇所だな。 さっさと仕事を済ませて帰るとしようか。」 「「ボクゥ♪」」 駆除部隊の車は運の無い親子を乗せて次の現場へと向かった。
