その日も私は、スイと一緒にタクシーに乗った。 スイも楽しそうに外の風景を見て、 デー、デー、デー、と歌っている。 着いた所は大きなビル。 そこに在るレストランへと入る。 ここは近年増えている「実装石も入れるレストラン」だ。 店員に案内されて予約していた個室に入る。 料理が運ばれてくる。 勿論スイのぶんもだ。 私は高級イタリアンを食し、スイもまた実装石用高級イタリアンを食べる。 『ご主人さま、おいしいデスゥ』 リンガルを見るとそう書いてある。 「どうだ?イタリアンもなかなか美味しいだろ?」 『はいデスゥ。さっきは我侭言ってごめんなさいデスゥ』 家を出る前、スイに「今日の夕食はイタリアンだ」と言うとそれだけで行く事を嫌がったのだ。 スイは中華やフレンチ、和食やトルコ料理、東南アジア、中東の料理などは食べてきたが、 イタリアンは初めてだったので「食わず嫌い」を起こしたのだ。 だが、こうしてスイはイタリアンの味(実装石用だが)を覚え、それを楽しんでくれている。 私の名は「」。 私は虐待派ではない。 だが愛護派でもない。 愛護派というと、自らの実装石を溺愛するあまり他者への迷惑を顧みない者が多いが、 私は決してそんな事はしないからだ。 人間は実装石とは程よい距離で、愛でるべきなのだ・・・・。 食事の後、タクシーで家に戻り、私はソファーに座りウィスキーを飲み、 スイは実装石用のウォーキングマシ−ンで運動をしている。 実装石はいつ食糧が手に入るか分からない環境で生きる生き物だ。 つまり食べたものの栄養は殆ど体に蓄積される。 そのため食後は必ず運動をさせている。 はじめは嫌がったが、今では体を動かす喜びを知ったらしく、楽しそうに運動していた。 運動を終えシャワーを浴びてきたスイが私に尋ねてきた。 『ご主人さまはどうしてあんなに美味しい食べ物を沢山しってるデスゥ?』 「世界中の色々なところに行って色々なものを食べてきたから、かな?」 『それじゃ、世界で一番美味しい食べ物って何デスゥ?』 「世界一・・・・・か」 私の脳裏にあるものが浮かんだ。 「それはね・・・・」 『デ、デスゥ・・・・・・』 「実装石の肉だよ」 『デエェ・・・!!?』 幾ら多くの料理を食べてきたスイとはいえ、流石に同属の肉は口にした事はないだろう。 「でもね、スイ」 『デスゥ?』 「実装石の肉だけではダメなんだ」 『他に何か必要デスゥ?』 「うん。『この世で最高の調味料』さ・・・・・」 『そ、それって何デスゥ・・・・!?』 「『空腹』だよ」 『"くうふく"デスゥ?』 「そうだよ。空腹は、人類が見つけ出したこの世で最高の調味料なんだ」 『わ、わたしも・・・・・・』 「ん?」 『わたしも・・・・・それを味わいたいデスゥ!』 スイが共食いというタブーをあっさりと破ろうとしていることに少し驚いたが、まぁいい。 美味なる食事を求めるのは人間も、そして実装石も同じということだ。 スイのために、その願いを叶えてやろう・・・・・・。 それからスイは水以外口にしなくなった。 2日後、私はスイの目の前で実装石の肉を七輪であぶり、ブラックペッパーをかけたものや レモン汁をかけた肉を与えた。 『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!!!!』 「うまいか?」 『し、信じられないデスゥ・・・・・・・・こんな美味しいものがあっただなんてデスゥ・・・・・・・』 賢明なる読者諸君はお分かりの事と思うが、私が調理している実装石の肉は 近所のスーパーの特売品である。 実装石の肉は現在日本で普通に手に入る肉の中では最も安いが、味は悪い。 スイがそれを美味と感じたのは単に空腹が極限まで達したからである。 『ご主人さまぁ・・・』 「ん?どうした?」 スイは両目から涙を流し肉を食している。 『も、もしかしてもっともっと"くうふく"を我慢すれば、もっともっと美味しくなるデスゥ?』 「ああ、その通りさ」 そう言って私はスイの頭を優しく撫でた。 その後、スイは長期にわたる断食に入った。 実装石特有の丸みを帯びた体つきは消え、かなり痩せ細っていた。 居間にあるスイの子供の時の写真や先月一緒に旅行に行った時の写真と見比べると だいぶ痩せてしまったようだ。 正直こんな姿を見るのはつらい。 だがこれも美味を求めるスイのため、と心を鬼にして見ていた。 ある日みるとスイの右手がちぎれていた。 どうやら空腹のあまり食べてしまったらしい。 だがその肉は実装石の肉。その味に悦び、涙と涎をたらし、独り笑っていた。 その後スイの両手はだんだん短くなっていった。 普通実装石は四肢を失っても一晩あれば回復するが、スイはずっと齧りついていたので 回復する間もなく手が消滅したらしい。 わたしは肉を与える、と言ったが、 空腹を我慢できなかった自分が嫌で、もうしばらく頑張りたいらしい。 その後のスイは何も食べなかった。いや、食べられなかった。 実装石の体の構造上自分で自分の脚を食べることはできないからだ。 だがスイは、美味なる肉の味を反芻するかのように、独りでずっと笑みを浮かべていた。 そしてスイは餓死した。 私が無理矢理にでも何か食べさせれば良かったのだろうか。 そう思うと悔やまれる。 居間にあるスイの写真を思い出す。 思わず目頭が熱くなる。 だがこうしてはいられない。 スイの遺体を風呂場に運ぶ。服を脱がし、全身を丁寧に洗っていく。 そしてあるものを持ってくる。 ノコギリだ。 それでスイの頭部と胴体を切り離す。 頭部は血をきれいに拭き取り、額にそっとキスをした・・・・・。 そしてそこで私がいつも行っている作業を行う・・・・。 油をよくひいたフライパンに、肉をのせる。 じゅーっという心地よい音が聞こえる。 ワインをグラスに注ぎ、焼いた肉に茹でたブロッコリーを沿え、テーブルに置く。 椅子に座る。 テーブルの中心には、写真たちが並んでいた。 スイがまだ子供だった時の写真。 私の腕の中で、私に甘えるように抱きつきぐっすりと眠るスイの写真。 風船を追いかけて走り回るスイの写真。 初めて韓国料理を食べて辛さにびっくりするスイの写真。 どれを見ても、愛らしい。 本当にスイは可愛らしく、私の娘のような存在だった。 そして今、スイは私の目の前の、皿の上にいる。 昔誰かがこう言ったのを覚えている。 「料理はまず目で味わい、それから舌で味わうものだ」と。 スイ・・・・・・君は本当に私の目を楽しませ、また味あわせてくれた。 今度は、私の舌と胃袋を味あわせておくれ。 あの愛しいスイが、私の体内に入り込み、私に吸収されていく・・・・。 それだけでもう私はこの上ない快楽を感じた。 そう思うと、また、目に涙が溢れてくる。 ナイフとフォークを持つ。 さあ、晩餐だ!
