【ニンゲンの偽石】 5 結果として、彼女に嫌な仕事をしてもらっている間、 僕はチーの言う『ニンゲンの偽石』を調べることにした。 と言っても、自分のためはもちろん、誰かさんのために宝石なんか 買ったことのない僕に、石のことなんてわかりはしない。 駅前に古くからある、お客さんを見たことがない「時計と宝飾の店」に 持ち込むことにした。 新聞を読んでいた老店主に用向きを話すと、「忙しいのに仕方がない」 といった様子ながら、不承不承鑑定してくれた。 「これは、ネフライトだ」 あっさりと答えが返る。 それにしても立派な名前だ。 名称だけなら、SF映画の小道具に出てきてもおかしくない。 「高い物ですか?」 「安い」 「じゃあ、珍しい物なんですか?」 「軟玉翡翠。ありふれたもの」 「翡翠? 翡翠って、貴重な物じゃないんですか?」 「日本で言う翡翠とは違うよ。 台湾の土産物屋でよく売ってる、安物だ」 老店主は僕に石を返すと、面白くなさそうに新聞に戻った。 代金は、と尋ねると、右手で犬でも追い払う仕草をした。 僕は頭を下げ、店を後にした。 実装リンガルを使って、僕はチーに訊く。 「なあ、お前は台湾と何か関係があるのかい?」 「……知らないデス。 台湾って何デス?」 もともと実装石に、いや人間以外の動物にボーダーはないのだろう。 賢いと言われる実装石だって、彼らのナショナリズムは段ボール・ハウスの中、 あるいは飼われている家の中、良くて公園の中までしか広がらないだろう。 台湾に実装石が住んでいるからと言って、そいつが自分のことを 「台湾の実装石」と認識している筈もない。 我ながら、馬鹿な質問をしたものである。 日本に住む実装石と台湾に住む実装石では、話す言葉が違うのだろうか? などと、どうでもいい疑問が浮かぶ。 石のことは、チーにどう説明しよう。 「台湾の土産物屋で売られているありふれた物なんだって」 そんな直截な表現はチーを傷つけやしまいか? 「台湾っていう外国の珍しい石なんだ」 これも今一つ。 どうしたものかと悩んでいた時、彼女から「取材」報告の電話があった。 「部隊の編成地、それに石の原産地──台湾ですか、鍵を握るのは」 「ですね」 「じゃあ、僕の推理から言いますね。 おじいさんは台湾で編成された部隊を指揮していた。 だから台湾へ行き、そこで石を手に入れた。 高価な物ではないけれど、薄い緑で、きれいだよね。 その当時、まだおばあさんのお腹の中にいた君のお父さんへのお土産として買った」 勢いでそこまで言ってしまって、それはないだろう、と自分に突っ込みを入れる。 子供に買ってきた土産を、実装石にくれてやるというのはあまりに不自然だ。 案の定、彼女に一蹴された。 「それじゃあお父さんがあんまり可愛そうじゃない。 それとも、それが理由で実装石嫌いになったってわけ?」 ころころと彼女は笑った。 電話の回数を重ねるごと、少しずつため口になっていくのが嬉しい。 一方の彼女の意見はこうだった。 あの石は、台湾出身の兵士からおじいさんに贈られたもの。 もしかすると、戦地でなくなった兵士の形見かも知れない。 おじいさんの部隊には実装石を可愛がっていた兵士がいた。 そのことを思い出して、おじいさんは実装石にあの石を与えた。 さすがに一次情報により近いだけあり、彼女の推理のほうがはるかに説得力がある。 けれど、それでも「ニンゲンの偽石」という説明がつかない。 形見であれば形見だと言って渡せば良いわけで、 わざわざ「偽石」と言って実装石に渡す必要が感じられないのだ。 厄介な物を受け継ぎやがってと、チーの額を軽く突っつく。 お尻をぺったり床につけて座っていたチーは、バランスを崩して後ろに倒れた。 驚いて、「デェッ」と鳴き始めるチー。 ちょっと待て、それは勘弁してくれ。 「何、どうしたの? 電話の向こう、やけに騒がしいみたい」 「いや、別に」 僕は右の肩で電話を押さえて、左手を伸ばして棚の上の金平糖を取る。 ジップロック式の袋を開け、一つ摘んでチーに渡す。 横目でちらっと見て、再び泣き出す。 仕方なく一つまみ取って見せると、チーは「デッスウ」と上機嫌になり、 両手で受け取った。 全く現金なものだが、こういうところが実装石が嫌われる所以かもしれない。 「チー、泣いているの?」 「いやー、そんなことない、そんなことない」 電話の最初の頃は、彼女の気持ちは沈み込んでいて、口も重たかった。 ここで僕が実装石を、チーを泣かしたとあっては、彼女の感情を逆撫ですることになる。 それ以前に、僕という人間の信頼が失墜する。 僕は強引に話題を逸らした。 「それより、行ってみようと思うんですよ」 「行くって……」 「台湾!?」 疑問と肯定とでイントネーションは違ったが、きれいに声が揃った。 けれど、その後は全く噛み合わなかった。 「ち、ちょっと、チーはどうするの?」 「一時、預かってくれないですか?」 「それが駄目だから、最初にお願いしたんじゃない」 「じゃあ、ペット・ホテルに預けるかしますから」 「可愛そうじゃない、一人っきりでペット・ホテルなんて」 「それなら、チーと一緒に台湾行ってきます。 調べてみたら、飛行機で一緒に行けるんです、犬や猫と同じ扱いで」 本当だった。 犬や猫と同じで、出国時、外国への入国時、再入国時に検査が必要だが、 手間と多少の金を惜しまなければ実装石を海外へ連れ出せる。 他の乗客の迷惑になるため、絶対に手荷物扱いにはできないが ──環境の変化についていけずに、機内で脱糞したらどんなことになるか。 それがテロリストによる計画的なものだとしたら……。 先日も山手線で自爆テロがあったばかりだ──、 バルクルームに入れて「輸送」することはできる。 「ちょっと待って、実装石のチーは連れて行けるのに、 人間の私は連れて行けないってこと?」 話は、予想しなかった方向へ流れて行った。 6 米俵一俵は約六十キログラムある。 これを、一人で背負い、山道を登っていく。 それも舗装道でもなければ、人間が踏み固めた山道でもない。 文字通り道なき道を歩かなければならない。 ばかりか、その兵士はとうに肉体的限界を超えていた。 ただ意志の力でのみ、一歩、また一歩と足を踏み出していた。 フラフラになりながら進む兵士の足元に、一匹の実装石が追いすがる。 「デスゥ? デスゥ?」 心配そうな声を上げるが、兵士の耳には入ってこない。 兵士は実装石を省みることなく、ただ前を見つめて歩く。 実装石も、背中の巾着以外にも、両手に食糧を持って歩く。 ヒルに吸いつかれても、実装石は兵士に助けを求めることはなかった。 自分の力で、ヒルを引き剥がす。 肉体の一部をヒルに持っていかれても動じなかった。 どんなに意志の力が強くとも、肉体の崩壊を食い止めることはできない。 兵士は、道半ばにして力尽き、倒れた。 米俵の下敷きになった肉体を、意志の力で再び動かそうと試みたが、駄目だった。 パキラが、両手の荷物を放り出して兵士の許に駆け寄る。 ぼろぼろになった兵士が、一語一語を必死に吐き出すように、パキラに語りかける。 「俺も、ここまでみたいだ。 みんなに、申し訳ない」 「デス、デスゥッ!!」 「すまん、最期までお前の言葉はわからんかったよ」 そう言って、少し笑ってみせた。 「小隊のみんなの所まで行ってくれ。 そして、ここまで案内してきてくれ」 「デスデスッ、デスゥ」 実装石は首を横に振った。 目の前のニンゲンが、優しかったニンゲンの命の灯が消えようとしている。 とても離れることなんてできはしない。 実装石の強い母性が、パキラをこの場に縛り付けていた。 自分よりはるかに大きく、強いニンゲンを、 しかしまだあどけない少年のようなニンゲンを、自分の仔のように思っていた。 「お前、俺のことが心配で動けないのか」 「デスデス」 今度は首を縦に振った。 「そうか」と兵士は言って、雑嚢の奥に手を入れ、何かを取り出す。 「実装石は偽石が壊れない限り、死なないんだろう。 実はな、俺もそうなんだ」 「デスゥ?」 驚くパキラ。 兵士はにこりと笑って、実装石に震える手を差し出した。 握られていたのは、台湾翡翠だった。 出征の日、母親がお守りの中に入れてくれたものだ。 「これが、俺の、偽石だ。 お前が大事に持っていてくれ。 お前がそれを守ってくれている限り、俺は死なない。 だから、ほら、先へ行くんだ」 「デ……」 「任せたぞ」 パキラは頷くと、兵士の「偽石」をポケットの奥に入れ、全力で走り出した。 海外旅行はこれで二度目だったが、空港でも、チェックインしたホテルでも 日本語が使えたので戸惑うことは全くなかった。 もっと言えば、彼女の前でいらぬ恥をかかなくて済んだ。 日本の観光客が多いので日本語が通じるのかと思ったが、それだけではなかった。 年配のタクシー運転手が僕の顔を見るや、嬉しそうに日本語で話しかけてくる。 父親に、いずれ必要になるからと教わったのだという。 その父親は、日本統治時代に学校で学んだ。 運転手の娘さんは、日本人と結婚し、今は日本で暮らしている。 そして日本人である僕は、歴史に導かれて台湾までやって来た。 教科書が教えるぶつ切りの歴史では絶対に理解できない、時間の流れを感じた。 大袈裟かも知れないが、僕はタクシーの中で歴史の一部になった気がした。 同じく台湾は初めてという彼女は、台湾料理に台湾スイーツにと、 本来の目的以外にこの旅を満喫する気でいた。 そこはそれ、さすがは女の子といったところか ──女の子と呼べる年齢かどうかは微妙だが。 チーを連れてきたことに、僕は少し後悔した。 台北までは3時間程度のフライトだが、バルクルームで恐い目にあったらしい。 空調は効いているのでその意味では快適と言えるが、何せ初めての飛行機である。 離陸時のG、エアポケットによる急激な降下、そして着陸時の衝撃。 尾篭な話で恐縮だが、いわゆる「パンコン」は不可避だった。 台湾の熱気にもやられた。 日本と違い、南国特有の自己主張の激しい空気が、実装石には辛かったようだ。 僕でさえ、吸い込む空気の質量を感じたくらいなのだ。 それでも少し街を歩くと、元気な人々に刺激され、 その空気をエネルギーに転換できるような気がしてきた。 チーも、元気を取り戻した。 実のことを言えば、台湾に謎を解く手がかりがあったわけではない。 日本軍として戦った、烏来族の戦没者記念碑が台北市内の公園にあるので、 お参りしておこうと思っただけなのだ。 僕達なりの調査で、彼女のおじいさんは第三小隊の小隊長を務め、 烏来族を指揮していたことを知った。 その事実だけをもってしても、多少なりとも関わりを持ってしまった僕は、 記念碑に手を合わせたい衝動に駆られていたのだ。 公園の一角に、その記念碑はあった。 予想していたものとは違う、小さなものだったが、手入れは行き届いていた。 日本から持ってきた線香に火を点け、お供えする。 彼女と僕、チーが横一列に並んで、両手を合わせ、黙祷する。 顔を上げ、目を開けると、後ろから声をかけられた。 明瞭な日本語だった。 「日本の方ですか?」 気がつけば、パキラはいつも食糧を確保しにいった密林に入り込んでいた。 この数週間、毎日通った場所である。 目をつぶっても歩ける。 体の小さい実装石だからこそ、通ることのできる抜け道、近道がある。 茂みの向こうは、小隊陣地だ。 死線をくぐり抜けてきたパキラは、様子がおかしいことに気づく。 傷病兵以外の、元気な兵士の姿が見えない。 それに血の臭い──実装石の血だ。 警戒しながら、パキラは茂みから姿を現す。 土嚢に身を隠しながら、臭いがするほうへ近づく。 そこは、敵に見つからないよう火を起こしても煙が簡単には出ない工夫がされた、 調理に使われる壕だった。 上から覗くと、そこには見知らぬニンゲンと仲間たち。 いや、かつては仲間たちだった、肉塊。 切り刻まれた親実装と、強制出産によって産み出された仔実装。 仔は? 自分の仔は? いた。 パキラはこぼれそうになる悲鳴を必死で呑み込む。 三匹のうち、二匹は既に食材と化しており、目の輝きを失っていた。 一匹だけは、リリーと名づけられた末っ子だけは、 右脚を切断されてはいたが、まだ生きていた。 その脚を、ニンゲンは火で焙っていた。 壕の上に母親の姿を見つけ、力なく微笑むリリー。 パキラは壕から身を乗り出し、リリーの手を掴む。 ニンゲンは、皮をぱりぱりに焼いたリリーの腿肉に歯を立てる。 それを見て、神経がつながっている筈もないのに、リリーの痛覚が刺激される。 「テゲャア」 思わず悲鳴を上げるリリー。 振り向いたニンゲンと、リリーを壕の上に引き上げたパキラが目を合わせる。 パキラはリリーを引きずって逃げようとする。 持ち上げるだけの力は、もう残されていなかった。 地面に傷口を擦られ、泣き叫ぶリリー。 その時、第三小隊の兵士たちが姿を見せた。 飢餓と疫病にもかかわらず、小隊のため、食糧を輸送してくれた飼育係の遺体を、 丁重に運んできたのだった。 パキラとリリーを追おうとした兵士は、壕の中に引っ込み、 大急ぎでリリーの腿肉を嚥下してつまみ食いの痕跡を消し去った。 その隙に二匹は茂みの中に潜った──パキラは、運ばれてきた飼育係の遺体を見なかった。 パキラは混乱した。 優しかったニンゲンたちはいなくなり、恐いニンゲンが壕にいた。 自分たちの居場所はなくなってしまった。 はっきりしていることは、ここから逃げなくてはならないということだけだ。 「あのヒトの所へ戻るデス」 パキラは思った。 二匹は苦労して、山道を下っていった。 満足に歩けないリリーに肩を貸し、パキラは飼育係と分かれた場所まで戻ってきた。 しかし、飼育係はもちろん、米俵もなくなっていた。 ポケットに手を入れ、飼育係から預かった偽石を確認する。 「あのヒトは生きているデス。 偽石は無事デス。 どこかで必ず、あのヒトは生きているデス」 僕と彼女、そして声をかけてきた老人はベンチに座っている。 僕達は、烏来義勇隊の生き残りだという老人の話に圧倒され続けていた。 手記に書かれていた誤りが訂正され、 かかれていなかったことが、老人の言葉で補われていった。 何とか言葉を口にしようとして、彼女はその度に言葉を詰まらせ、 涙をこらえるのに必死になった。 僕も、似たようなものだった。 チーは、この公園で暮らす実装石と遊んでいた。 どうやら実装石同士、言葉の壁はないらしい。 日本の公園にいる野良実装と異なり、この公園の実装石には、 立派な木製の集合住宅が与えられていた。 彼女たちはそこで暮らす権利が与えられる代わりに、公園の掃除、 そして記念碑を清掃する義務を負うのだという。 「実装石がたくさん暮らしているでしょう」 閑話休題とばかり、老人が実装石がいるほうに手を振った。 「ここの実装石たちは本当に優秀ですよ。 先生が良かったからですかね、みんな日本語を理解する」 老人はうんうんと頷いた。 老人に促されるまま、実装リンガルなしで、一番近い台湾実装に話しかけてみた。 「こんにちは、チーと仲良くしてやってね」 「はいデス、一緒に遊ぶデス」 リンガルの表示を見て、僕と彼女は顔を見合わせた。 彼女は両手で鼻と口とを覆い、目を開いて驚いている。 「最近は便利な機械もできたもんです。 お陰様で、当時わからなかったことがいろいろわかりました」 パキラとリリーは、さらに一日かけて山を下った。 どんなにお腹が空いても、パキラは背中の干物に手を出そうとはしなかった。 「テッチャア!」 リリーが道の先を指して叫んだ。 兵士が倒れ込んでいる──一緒に山を下り、帰り道で力尽きた兵士だった。 だが、まだ息はある。 リリーを兵士の許に残し、パキラは小川に水を汲みに行った。 不器用に、葉っぱに水を汲む。 戻ってくるまでに大半をこぼしたが、何度も往復し、 葉についた水滴を飲ませていると、次第に兵士は意識を回復した。 「お前たち……」 「テチュ!」 「デッスゥ!」 再会を喜ぶ間もなく、陣地から逃げて歩き通しだった二匹は、 倒れ込むようにして眠ってしまった。 目が覚めると、パキラは覚悟を決めた。 実装石として、考えられないくらいエネルギーを消費してきた自分は、 そう長くはないであろう。 そうなると、あのヒトの偽石を守ることができない。 あのヒトが死ぬと、優しくしてくれた部隊のみんなが困る。 だから、この偽石だけは命に代えても守っていかなくてはいけない。 パキラは眠っているリリーを起こすと、ニンゲンの偽石を渡した。 「いいデス? これは『ニンゲンの偽石』デス。 お前も知っている、あのヒトの偽石デス。 あのヒトは大事なお仕事をしているデス。 あのヒトが死ぬと、みんな困ってしまうデス、死んでしまうデス。 だから絶対、この偽石を守るデス」 「はいテチ」 リリーは、母親の目を見て頷いた。 「お前が駄目ならお前の仔が、その仔が駄目ならその仔の仔が、 ずっと偽石を守ってあげるデス」 「ずっとずっと、偽石を守るテチ」 「お前は強い仔デス、運の良い仔デス。 お前なら絶対、偽石を守り切れるデス」 一命こそ取り留めたものの、兵士の状態は悪化していった。 パキラも、兵士とともに横たわっている。 運んできた食糧に手をつければ体力を回復できる筈だが、 みんなのための食糧と考える一人と二匹に、それはできなかった。 失った片脚が徐々に再生を始めたリリーが、 母親の代わりに水を汲みに行った時である。 最前線へ向かう伝令兵たちが、兵士と実装石を見つけた。 一人と一匹は大急ぎで担架で運ばれた。 リリーが戻ると、誰もいなくなっていた。 「その時、担架で運ばれた兵士が、私なんです」 老人が言った。 「私が今、こうしてここにいられるのは、実装石のおかげかもしれません」 「その時の実装石、パキラはどうなったんですか?」 「私と一緒に、ここ台湾に送られました。 ご存じかどうかわかりませんが、戦争中でも台湾は内地と違って食糧が豊富で、 私も、パキラも、じきに回復しました」 「でも、リリーと離れ離れになって、パキラ、不安だったでしょうね」 彼女が、どうにか言葉を吐き出した。 「すぐに子育てに追われて、大変でしたから、その暇もなかったでしょう。 リリーにちなんで、彼女は台湾ユリで身ごもりました。」 ということは、まさか。 「そうです、ここにいる実装石は、みんなパキラの子孫なんですよ。 パキラは、自分の仔達に日本語を教えました。 自分で喋れないから、私達が喋った時に、言葉の意味を教える方法で。 教師になりたいという彼の叶わなかった夢を、彼女が代わりに果たしてくれたんです」 僕は、チーを呼んだ。 「リリーは、日本へやって来たんじゃないですか?」 僕は言った。 老人は全て知っている、と言いたげに、ゆっくり首を振った。 「私を助けてくれた伝令兵は、転進命令を持っていたんです。 すぐに小隊が山から下り、死にかけていたリリーを見つけたそうです。 その時には、私や実装石が輸送中の食糧に全く手をつけていなかったことが、 全軍に知れ渡っていました。 小隊長は、リリーを死なせることは皇軍の恥だと、あらゆる手を使って 内地のご自宅へ送り届けました」 この公園で、パキラとリリーの子孫が邂逅したのだ。 彼女はしゃがんで、チーの顔を見る。 「チー」 それから、チーをぎゅっと抱きしめた。 「えらいね、チーは」 「デスゥ?」 「チーたちは、いろんなものを守ってきてくれたんだね」 タクシーの中で感じたあの感覚が、もう一度、僕の体を駆け抜けていった。 (終) ────── ※文中の部隊名や戦友会発行の会誌はもちろん架空のものです。 ※元ネタになっているのは、ニューギニアにおける高砂義勇隊の逸話です。 詳しくはググってください。 そのまま使うのはどうかと思い、本作では架空の部族名(烏来族)に してあります。 人によっては実装石と同列に語るとは、と憤慨されるかもしれませんが、 読んでいただければわかるように貶める意図は全くなく、 最大限の敬意を払っているつもりです。 ※うんち→放屁→おしっこ→尻穴と、馬鹿スク専門で書いてきて、 次はマラ実装をテーマに書こうと考えていましたが、 人としてどうよ? と思い、真面目な長編に挑戦してみました。 ……やっぱり馬鹿スクが性に合っているみたいです。

| 1 Re: Name:匿名石 2014/09/27-10:45:52 No:00001385[申告] |
| こういう綺麗な話もいいものだ |
| 2 Re: Name:匿名石 2016/06/06-05:53:51 No:00002403[申告] |
| こういう話大好き♪ |
| 3 Re: Name:匿名石 2016/06/07-23:44:05 No:00002404[申告] |
| 高度な知識と実装石に対する愛情で書かれたスクはやはり良い
サルベージしてくれた↑の人ありがとう |