【ニンゲンの偽石】 3 僕は預かった小冊子『くさむすかばね』に目を通した。 おじいさんの戦友、または上官の連絡先がどこかに掲載されていないかと考えたのだ。 あれば、片っ端から電話をかければいい。 しかし、その時々の訃報は掲載されていても、隊員名簿などはなかった。 自分の考えの甘さを呪いつつ、何か情報はないかと目を走らせる。 読み物の多くは、元兵士が思い出を綴ったものだった。 巻が新しくなるごとに、活字が写植になり、文字サイズも大きくなっていることに 時代の流れを感じたりもした。 文章の出来不出来はあれど、戦前・戦中を生きた者だけが証言できる内容は、 戦争を知らない世代にとって衝撃的だった。 小冊子の記述と、WEBサイトで調べたこと、 それに古書店で見つけた『戦史叢書』の情報をまとめてノートに書き出した。 仕事柄、情報の収集と整理は苦にならない。 それによると、おじいさんが所属していたのは第十三連隊であり、 同連隊が編成されたのは開戦翌年、昭和十七年の二月七日。 編成地は台北となっている。 当時、台湾は日本の領土であって、台北で部隊が編成されるのは自然なことだ。 第十三連隊も、半数は現地の人で構成されていた。 もっとも、当時は台湾の人も同じ「日本人」であり、連合国軍にあったような、 いわゆる植民地軍とは意味合いが異なるのだろう。 しばらくは台北で訓練に従事した後、昭和十八年、連合軍の侵攻に備えて 南方の島へ送られた。 今にして思えば意味のないことだが、敵を牽制するため、 島を南北に分断する山岳地帯へ送られ、ずいぶん苦労したようである。 退却命令がなかなか出ず、飢えと病気で多くの兵士が命を落とした。 とまあ、生半可な軍事知識だけは蓄積されていったが、 なかなか核心に迫る情報が見つからない。 小冊子も残すところあと数冊となったところで、僕はついに、 実装石の記述と出合った。 『身中の糞蟲』と書かれた、ある兵士の手記であった。 ※ ※ ※ ※ ※ ※ 『くさむすかばね』(第十三聯隊戦友会発行)より引用 「後方根拠地へ決死隊を送り、糧秣を運んでくるようにと、 中隊司令部から命令が下った。 しかし、山を下り、食糧を持って再び山を登ることができる兵士は、 今の我々の小隊にはいなかった。 誰もが飢え、病み、立っているのがやっとという状態である。 これに志願したのが、第三小隊であった。 同小隊は、あの糞蟲どもを愛玩動物のように可愛がり、 命令に反して屠殺処分していない。 私はその時、嫌な予感がしたのをはっきりと覚えている。 我々の小隊長それを拒んだが、彼らは実装石が教える草花などを食べていた。 彼らはあまりに糞蟲に近づき過ぎた。 それ故、実装石の本当の恐ろしさに盲目だったのだ。 嫌な予感は、最悪の形で現実のものとなった」 ※ ※ ※ ※ ※ ※ 「頼んだぞ、必ず無事で戻って来い」 小隊長の激励に、二人の兵士は敬礼で応えた。 一人は実装石の飼育担当である。 ただならぬ気配を察してか、実装石のパキラが兵士の足元にまとわり着く。 「行ってくるからな、いい子にして待っているんだぞ」 「デスッ、デスゥ!」 パキラは首を振り、ゲートルを抱えるようにする。 駄々をこねる子供のようだ。 「ハハハ、それじゃあ出発できないじゃないか」 兵士が実装石を離そうとすると、 「おい、一緒に連れて行ってやれ」 と小隊長。 「多少荷物にはなるがな、もともとが軽い。 それに、いざという時の食糧になるからな」 洒落にならない冗談を言う。 兵士は一礼をして、パキラを背嚢に入れて陣地を後にした。 振り返ると小隊の兵士と、他の親実装、そしてパキラの仔実装が見送っていた。 みんな元気な振りはしていたが、栄養失調でふらふらだった。 強行軍に次ぐ強行軍で山を下りる二人。 日が暮れてからの移動が困難になるため、日中のうちに できるだけ距離を稼いでおかなければならない。 刃のように鋭い草、道を遮る巨木、峻険な山道を、二人は黙々と踏破した。 「デギャア」 と突然、パキラが絶叫を上げた。 急いで背嚢を下ろす。 見ると、山ヒルがパキラの顔と腕に吸い付いていた。 見る間にぷくりとヒルが膨れる。 実装石は両手を振ってもがくが、ヒルは簡単には離れない。 「じっとしてろよ」 と兵士は言って、恩賜の煙草に火をつけ、ヒルに当てた。 ヒルはじゅっという音とともに縮み、そして実装石から離れた。 パキラの顔と腕の皮膚はヒルに食い破られ、血が出ていた。 パキラは背嚢から出ると、怒りに任せてヒルを石で潰した。 その姿を見て、二人の兵士は顔を見合わせてぷっと吹き出した。 煙草を回し、自然と小休止になった。 幸い、小さな川が近くにあり、喉を湿らせることもできた。 パキラはその小川で水遊びをしているようだ。 二人は、そんな実装石に温かい眼差しを向ける。 と、再び、パキラが叫ぶ。 身を乗り出す二人。 高く上げた右手に、沢蟹がぶら下がっていた──いや、沢蟹に挟まれたのだ。 兵士は蟹を外してやった。 するとパキラはまた川に戻り、石の間に手を入れる。 そして絶叫。 またしても、右手には蟹。 「おいおい、ヒルに血を吸われて頭がおかしくなったのか?」 「いや、違うよ。 俺たちの食糧を調達してくれたんだ」 右手から血を流しながら、パキラは満足そうに「そうデス」と頷いたのだった。 二日後、予定より少し早く二人は根拠地に着いた。 栄養失調の細い体に破れた軍服の二人は、さながら幽鬼のように見えたことだろう。 中隊には米俵一俵と魚の干物、醤油などが配給されることとなった。 それが二人で運べる限界だったのだ。 気こそ張っていたものの、二日に及ぶ強行軍で二人は疲労の極に達していた。 それだけの物資を運ぶのは容易なことではない。 せめて一日、休養を取ることを勧める軍医に 「いえ、本隊が待っていますから」 と、二人は気丈に答えたのだった。 自分たちだけが食事を摂るわけにはいかない、皆腹を空かしているからと、 休息もそこそこに二人は出発した。 荷物が増えたぶん、歩みがゆっくりになるため、パキラも自分の足で歩いた。 魚の干物が入った、巾着袋を背負っている。 往路の下りに比べ、復路は上りであり、しかも重い荷物がある。 負担は、倍以上である。 山道では何度も足を滑らせ、崖から落ちそうにもなった。 米俵を持つ両手は血塗れで、既に何も感じなくなっていた。 パキラも体中を傷だらけにしながら、必死に二人について行く。 二人を見習い、たとえ転んでも、絶対に巾着袋を地につけることはなかった。 根拠地で水を飲んでから何も口に入れていなかったが、空腹を感じることはなかった。 この食糧が届けば皆の腹をくちくすることができる。 そう思うと胸が一杯になり、次の一歩が自然に踏み出せたのだった。 夜が訪れ、それ以上前進できなくなると、 二人と一匹はねじが切れたように倒れ込み、そのまま眠ってしまった。 翌朝、実装石の飼育担当は目覚めたが、もう一人の兵士は眠ったまま起きてこない。 額に汗の玉を浮かべ、息も絶え絶えで、うわ言を口にしている。 これ以上の行軍が無理だろうことは、一目瞭然だった。 干物と水を置いたが、兵士は弱々しく首を振った。 若い兵士は、それまで二人で運んでいた米俵を、力を振り絞って肩に担いだ。 ふらつく足を必死に制御する。 腰で、重量を支える。 振り向いて頷くと、兵士はもう目を閉じていた。 一人と一匹は、前を向き、最初の一歩を踏み出した。 ※ ※ ※ ※ ※ ※ (引用続き) 「斥候兵が、行き倒れた第三小隊の兵士を発見した。 根拠地から糧食を運んできた、決死隊の兵士だった。 斥候兵が近づくと、実装石が飛び出して行った。 その糞蟲が持つ袋からは、魚の干物がのぞいていた。 兵士は、既に事切れていた。 その話を聞いた時、実装石に詳しい私は、直ちに小隊長に注進した。 ついに実装石が糞蟲の本性を現した、と。 機会を見て皇軍兵士を命を奪い、貴重な食糧を奪ったのだ、と。 動ける兵士は、直ちに第三小隊陣地へ向かった。 我々の情報を確かめるべく、直ちに第三小隊の兵士が現地に向かう。 確かにそこに、兵士のご遺体があった。 そして実装石の姿はなかった。 事ここに至り、ようやく実装石の本性を理解してもらえたようだ。 彼らが陣地を後にしている間、私は手間を省いてやるため、実装石を処理した。 それに不満な兵士もいたようだが、食糧を奪って逃げたという事実の前に、 彼らは反論の余地を持たない。 惜しむらくは、私がもっと早く糞蟲の本性に気づき、 もっと強硬に処理方法を主張していれば、である。 そうすればあの若い兵士は命を落とさずに済んだかも知れない。 戦地にあって、実装石は非常食として以外の価値を持たない。 なまじ可愛がるとつけ上がるだけであり、軍の規律を乱す原因となる。 『身中の虫』ならぬ『身中の糞蟲』なのだ」 (お断り……文中、不適切と思われる箇所は伏字とした。編集部) ※ ※ ※ ※ ※ ※ 思えば、実装石が戦争に利用されるのは自然のことだった。 明治から大正にかけて、日本経済は織物の輸出で支えられた。 その織物は、蛆実装の繭で作られていたのである。 僕は彼女に電話をかけ、『身中の糞蟲』の要約を伝えた。 おじいさんの部隊は南方の島に派遣されて苦労したらしい。 そしてそこで、実装石を巡るトラブルがあったということを。 当時、実装石が食糧にされたということを伝えたものかどうか迷ったが、 終戦直後は犬だって食べられたのだ、隠しても仕方がないと思い、 思い切って事実を告げた。 電話の向こうで、彼女は言葉を詰まらせた。 「そう……、いろいろ調べてくれてありがとう」 沈黙を破ったのは彼女だった。 僕は、救われた気がした。 「いえ、好きでやっていることですし。 それに僕、これを書いた人に会ってみようと思うんです。 実装石嫌いみたいだから、辛いものがあるんですが、 おじいさんと実装石をつなぐ何かを知っているんじゃないかと」 「まだ、ご存命なんですか?」 「その辺は任せてください、調査済みです」 僕は、見えない相手に胸を張ってみせた。 「発行元に問い合わせて、確認してありますから。 取材の申し込み、ということで、住所も確認してあります」 僕は住所を述べた。 日帰りできないことはないが、じっくり話を聞くとなると、一泊しないといけない。 そうすると、チーをどこかに預ける必要がある。 いや、賢い彼女なら、一泊くらい我慢してくれるだろう。 そんなことを考えていると、彼女が思いがけないことを言った。 「その『取材』、私が行ったら駄目かなあ」 「えっ!?」 「ここからのほうが近いでしょ。 それにこれは私のおじいちゃんの話。 孫娘が行ったほうが、より詳しいことが聞けるかもしれないし」 それもそうだが、相手は大の実装石嫌いである。 果てして彼女に任せていいものかどうか。 しかし彼女の意志は強かった。 4 結論から言って、彼女のインタビューは成功を収めた。 多少荒っぽいやり方だが、僕がしたより多くの情報を引き出せたようだった。 だが、その分だけ彼女は確実に消耗していた。 電話をした次の日曜日にアポイントを取った彼女は、老人の自宅を訪問した。 ぐるりと塀で囲まれた、昔ながらの立派な日本家屋であった。 この重厚感はツーバイフォー住宅では絶対に感じることができない。 気圧されつつも用向きをインターフォンで伝え、中に入る。 門扉にはテレビ・コマーシャルで有名な警備会社のステッカー。 訪問者を撮影する防犯カメラも設置されていた。 年配の女性に案内され、居間へ通された。 居間からは広い庭が見え、庭には離れがあった。 お茶とお茶請けが出され、しばらく待っていると、一人の老人がづかづかと入ってきた。 この老人こそが、あの記事を書いた本人だった。 パソコンで作った即席の名刺を渡し、来訪の目的を告げる。 「私、フリーランスの記者をしておりまして、このほど、 戦争体験者の生の証言を集めております」 「ほう、お若いのに珍しい」 「こう言っては失礼ですが、戦争の語り部は年々少なくなっています。 私達の世代が、後世に残していく必要があるんです」 老人はうんうんと頷いた。 八十歳を過ぎている筈だが、見るからに矍鑠としている。 「あんたのおじいさんからは、戦争の話を聞かなかったのかね?」 「はい、祖父は復員して間もなく他界したと聞いています。 ですから、祖父からは戦争の話を聞くことができませんでした。 けれど……」 「けれど?」 「戦友会発行の小冊子を読んで、貴方と同じ連隊に所属していたことを知りました」 「ほほう」 老人は目を細めて楽しそうに応じた。 「連隊と言っても、千人からの部隊じゃからのう。 果たして、あんたのおじいさんのことを知っているかどうか。 この名字は聞き覚えはあるが、よくある名字だし」 名刺に顔を近づけてそう言った。 「せめて階級でもわかればのう」 「実装石……」 彼女は、単刀直入に切り出した。 僕だったら、もう少し時間をかけてから、 ストライク・ゾーンぎりぎりにボールを投げるところだ。 初級が危険球で即刻退場させられては話にならない。 案の定、老人の顔色は変わったという。 「祖父は、復員してから実装石を飼い始めたんです。 食糧難の時代に、それはあまりに不自然だと思います。 軍隊時代に、何かあったんじゃないでしょうか」 老人は口を横に結び、しばらく考え込んだ。 下を向いていた目が、じろりと彼女を睨んだ。 「それは……、それは食糧難だからじゃろう。 今でこそ、物好きにも愛玩動物として実装石を飼う者もいるが、 私の回想録を読んだのならあんたも知っておるじゃろう、 当時は実装石を非常食にしたんじゃ。 終戦直後は食糧の入手が困難じゃった、実装石を喰ってもおかしくはない」 「でも、その時からずっと、実装石を飼い続けているんですよ。 食用というのは、違うんじゃないかと思います」 「実装石を喰うほど、困らなかったということじゃろう。 あれは、そんなに美味いもんじゃない」 老人はお茶を飲んだ。 つられて彼女もお茶を飲む。 緊張で喉が渇いていた。 玉露の甘さに勇気づけられた。 「実装石を『処理』することに、躊躇いはありませんでしたか?」 自分の言葉でないとばかり、「処理」を区切って言う。 「なかったのう。 それは私だけじゃない、みんなそう思っていた筈じゃ。 相手は人間じゃない、動物なんじゃ。 軍隊で使役される動物なんじゃから、何かの役に立たないといかん。 牛や馬なら荷物を運べる。 実装石に何ができる? 食糧になるしかないじゃろう」 「だったらどうして、戦地に借り出されていったんですか」 「決まっておる、一億総特攻の時代じゃ。 全てをお国のために捧げた、実装石も例外じゃない」 それから彼女は、部隊の歴史に話題をシフトした。 当たり障りのない話は、右の耳から左の耳へ抜けていった。 話は老人の生い立ちから出征、台湾へと舞台を移し、いよいよ南方の島へ。 「今からすれば、部隊の山岳地帯への移動、 あれは無駄だと思われるのではないですか?」 「そうとも言えるし、そうでないとも言える。 私らは一兵卒じゃった、命令に従うのが仕事じゃ」 「実装石を食べたのも?」 「あんたもしつこいな」 老人は額に血管を浮かせた。 「食べる物が他になかったんだから、仕方がないだろう」 「でも、食べるのに反対していた部隊もあったんですよね」 「ああ、彼らは糞蟲の本性に気づかず、うまく操られとった。 もっと強く警告しておけば、無駄な犠牲は出さずに済んだ筈じゃ」 「実装石は──」 糞蟲、と言いかけて彼女は言葉を呑み込んだ。 「そんなに邪悪な存在なんでしょうか」 「何をわかり切ったことを」 老人は即座に彼女の言葉を否定した。 「事実、糞蟲のせいで中隊の規律は乱れた。 なまじ人間に似ているから、兵たちは望郷の念に駆られて士気を落とした。 それに奴らは、甘やかせたら甘やかせたぶんだけつけ上がる。 限度というものを知らない」 残っていたお茶を一気に飲み干すと、さらに言葉を続けた。 「それに最近はほら、あの、『地域実装』とか言って、 その辺の主婦が公園の実装石に餌をやる。 それがいかんのじゃ、つけ上がらせるだけじゃ。 親が目を離した隙に赤ん坊が公園で実装石に襲われるなんて、 痛ましい事件も実際に起きておるじゃないか!」 残念ながらそれは事実だった。 昔なら、野良犬が子供を襲うことがあった。 今なら躾のできていない飼い犬か、野良実装が子供の敵だった。 「あんたは、俗に言う愛護派かね?」 「いえ、どちらでもありません。 今は実装石を飼っていませんし」 「そうか、じゃあ良いものを見せてやろう。 駅からこの辺りにかけて、実装石を一匹も見かけなかったじゃろう?」 確かにそうだった。 駅前のコンビニエンス・ストアのゴミ箱によくいる、緑の隣人はいなかった。 公園にも、段ボール・ハウスはなかったように思う。 「その理由を教えてやろう」 老人は苦労して立ち上がると、裸足のまま庭へ向かった。 離れのあるほうへ。 彼女はその理由を知りたいとは思わなかった。 聞く前に予想がついたことが、悲しかった。 「あの」 彼女はできる限りの大きな声を出して老人を呼び止めた。 ゆっくりと振り向く老人。 「あなたの回想録で、実装石を食べなかった部隊に関する記述で伏字がありました。 あれは、何と書いてあったんですか」 老人は顔だけでなく、体も彼女のほうに向ける。 「台湾人、烏来族だ」 「烏来族……」 「……そうか、思い出したぞ」 そう言うと、老人は居間のほうに戻ってくる。 「あの小隊は、烏来族出身の兵士で編成された義勇隊じゃった。 小隊長は本土出身じゃったが……。 あんたのじいさんが、その小隊長じゃ」 「私の……おじいちゃん?」 彼女は束の間、放心した。 それがいけなかった。 老人は彼女との距離を一気に詰めると、八十過ぎとは思えない力で彼女の腕を取り、 離れへと引っ張っていった。 「ああいう非国民的な態度を取る奴がいるから、いかんのじゃ。 人間は実装石に舐められてしまうんじゃ。 実装石は人間が制御してやらねばならん。 放っておけば奴らは無尽蔵に増え、傷ついても再生し、 やがて地球は糞蟲に支配されてしまうぞ。 だから」 老人は離れの鉄扉を開いた。 「組織的に駆除し、恐怖で支配する必要があるんじゃ」 次の瞬間、彼女は老人を突き飛ばし、走り出していた。 どこをどう走って駅まで着いたのか、全く記憶がなかった。 離れの中を見ないように、目をつぶり、下を向いた。 しかし漏れ出る音だけはどうしようもなかった。 一縷の希望もない、ただ絶望の深淵に沈んでいく音が聞こえてきたのだった。 (続く) ────── ※文中の部隊名や戦友会発行の会誌はもちろん架空のものです。 ※既に元ネタにお気づきの方がいると思いますが、 その点については後書きをご参照ください。
