タイトル:【虐】 最後は3日以内に投下予定2/3
ファイル:ニンゲンの偽石2.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:3071 レス数:0
初投稿日時:2006/07/03-02:31:38修正日時:2006/07/03-02:31:38
←戻る↓レスへ飛ぶ

【ニンゲンの偽石】

3

僕は預かった小冊子『くさむすかばね』に目を通した。
おじいさんの戦友、または上官の連絡先がどこかに掲載されていないかと考えたのだ。
あれば、片っ端から電話をかければいい。
しかし、その時々の訃報は掲載されていても、隊員名簿などはなかった。
自分の考えの甘さを呪いつつ、何か情報はないかと目を走らせる。

読み物の多くは、元兵士が思い出を綴ったものだった。
巻が新しくなるごとに、活字が写植になり、文字サイズも大きくなっていることに
時代の流れを感じたりもした。

文章の出来不出来はあれど、戦前・戦中を生きた者だけが証言できる内容は、
戦争を知らない世代にとって衝撃的だった。

小冊子の記述と、WEBサイトで調べたこと、
それに古書店で見つけた『戦史叢書』の情報をまとめてノートに書き出した。
仕事柄、情報の収集と整理は苦にならない。

それによると、おじいさんが所属していたのは第十三連隊であり、
同連隊が編成されたのは開戦翌年、昭和十七年の二月七日。
編成地は台北となっている。
当時、台湾は日本の領土であって、台北で部隊が編成されるのは自然なことだ。
第十三連隊も、半数は現地の人で構成されていた。
もっとも、当時は台湾の人も同じ「日本人」であり、連合国軍にあったような、
いわゆる植民地軍とは意味合いが異なるのだろう。

しばらくは台北で訓練に従事した後、昭和十八年、連合軍の侵攻に備えて
南方の島へ送られた。
今にして思えば意味のないことだが、敵を牽制するため、
島を南北に分断する山岳地帯へ送られ、ずいぶん苦労したようである。
退却命令がなかなか出ず、飢えと病気で多くの兵士が命を落とした。

とまあ、生半可な軍事知識だけは蓄積されていったが、
なかなか核心に迫る情報が見つからない。

小冊子も残すところあと数冊となったところで、僕はついに、
実装石の記述と出合った。
『身中の糞蟲』と書かれた、ある兵士の手記であった。



※ ※ ※ ※ ※ ※

『くさむすかばね』(第十三聯隊戦友会発行)より引用

「後方根拠地へ決死隊を送り、糧秣を運んでくるようにと、
中隊司令部から命令が下った。
しかし、山を下り、食糧を持って再び山を登ることができる兵士は、
今の我々の小隊にはいなかった。
誰もが飢え、病み、立っているのがやっとという状態である。

これに志願したのが、第三小隊であった。
同小隊は、あの糞蟲どもを愛玩動物のように可愛がり、
命令に反して屠殺処分していない。

私はその時、嫌な予感がしたのをはっきりと覚えている。
我々の小隊長それを拒んだが、彼らは実装石が教える草花などを食べていた。
彼らはあまりに糞蟲に近づき過ぎた。
それ故、実装石の本当の恐ろしさに盲目だったのだ。

嫌な予感は、最悪の形で現実のものとなった」

※ ※ ※ ※ ※ ※



「頼んだぞ、必ず無事で戻って来い」

小隊長の激励に、二人の兵士は敬礼で応えた。
一人は実装石の飼育担当である。
ただならぬ気配を察してか、実装石のパキラが兵士の足元にまとわり着く。

「行ってくるからな、いい子にして待っているんだぞ」
「デスッ、デスゥ!」

パキラは首を振り、ゲートルを抱えるようにする。
駄々をこねる子供のようだ。

「ハハハ、それじゃあ出発できないじゃないか」

兵士が実装石を離そうとすると、

「おい、一緒に連れて行ってやれ」

と小隊長。

「多少荷物にはなるがな、もともとが軽い。
それに、いざという時の食糧になるからな」

洒落にならない冗談を言う。
兵士は一礼をして、パキラを背嚢に入れて陣地を後にした。
振り返ると小隊の兵士と、他の親実装、そしてパキラの仔実装が見送っていた。
みんな元気な振りはしていたが、栄養失調でふらふらだった。

強行軍に次ぐ強行軍で山を下りる二人。
日が暮れてからの移動が困難になるため、日中のうちに
できるだけ距離を稼いでおかなければならない。
刃のように鋭い草、道を遮る巨木、峻険な山道を、二人は黙々と踏破した。

「デギャア」

と突然、パキラが絶叫を上げた。
急いで背嚢を下ろす。
見ると、山ヒルがパキラの顔と腕に吸い付いていた。
見る間にぷくりとヒルが膨れる。
実装石は両手を振ってもがくが、ヒルは簡単には離れない。

「じっとしてろよ」

と兵士は言って、恩賜の煙草に火をつけ、ヒルに当てた。
ヒルはじゅっという音とともに縮み、そして実装石から離れた。
パキラの顔と腕の皮膚はヒルに食い破られ、血が出ていた。
パキラは背嚢から出ると、怒りに任せてヒルを石で潰した。

その姿を見て、二人の兵士は顔を見合わせてぷっと吹き出した。
煙草を回し、自然と小休止になった。
幸い、小さな川が近くにあり、喉を湿らせることもできた。
パキラはその小川で水遊びをしているようだ。
二人は、そんな実装石に温かい眼差しを向ける。

と、再び、パキラが叫ぶ。
身を乗り出す二人。
高く上げた右手に、沢蟹がぶら下がっていた──いや、沢蟹に挟まれたのだ。
兵士は蟹を外してやった。
するとパキラはまた川に戻り、石の間に手を入れる。
そして絶叫。
またしても、右手には蟹。

「おいおい、ヒルに血を吸われて頭がおかしくなったのか?」
「いや、違うよ。
俺たちの食糧を調達してくれたんだ」

右手から血を流しながら、パキラは満足そうに「そうデス」と頷いたのだった。

二日後、予定より少し早く二人は根拠地に着いた。
栄養失調の細い体に破れた軍服の二人は、さながら幽鬼のように見えたことだろう。

中隊には米俵一俵と魚の干物、醤油などが配給されることとなった。
それが二人で運べる限界だったのだ。
気こそ張っていたものの、二日に及ぶ強行軍で二人は疲労の極に達していた。
それだけの物資を運ぶのは容易なことではない。
せめて一日、休養を取ることを勧める軍医に

「いえ、本隊が待っていますから」

と、二人は気丈に答えたのだった。

自分たちだけが食事を摂るわけにはいかない、皆腹を空かしているからと、
休息もそこそこに二人は出発した。
荷物が増えたぶん、歩みがゆっくりになるため、パキラも自分の足で歩いた。
魚の干物が入った、巾着袋を背負っている。

往路の下りに比べ、復路は上りであり、しかも重い荷物がある。
負担は、倍以上である。
山道では何度も足を滑らせ、崖から落ちそうにもなった。
米俵を持つ両手は血塗れで、既に何も感じなくなっていた。
パキラも体中を傷だらけにしながら、必死に二人について行く。
二人を見習い、たとえ転んでも、絶対に巾着袋を地につけることはなかった。

根拠地で水を飲んでから何も口に入れていなかったが、空腹を感じることはなかった。
この食糧が届けば皆の腹をくちくすることができる。
そう思うと胸が一杯になり、次の一歩が自然に踏み出せたのだった。
夜が訪れ、それ以上前進できなくなると、
二人と一匹はねじが切れたように倒れ込み、そのまま眠ってしまった。

翌朝、実装石の飼育担当は目覚めたが、もう一人の兵士は眠ったまま起きてこない。
額に汗の玉を浮かべ、息も絶え絶えで、うわ言を口にしている。
これ以上の行軍が無理だろうことは、一目瞭然だった。

干物と水を置いたが、兵士は弱々しく首を振った。

若い兵士は、それまで二人で運んでいた米俵を、力を振り絞って肩に担いだ。
ふらつく足を必死に制御する。
腰で、重量を支える。
振り向いて頷くと、兵士はもう目を閉じていた。
一人と一匹は、前を向き、最初の一歩を踏み出した。



※ ※ ※ ※ ※ ※

(引用続き)

「斥候兵が、行き倒れた第三小隊の兵士を発見した。
根拠地から糧食を運んできた、決死隊の兵士だった。
斥候兵が近づくと、実装石が飛び出して行った。
その糞蟲が持つ袋からは、魚の干物がのぞいていた。

兵士は、既に事切れていた。
その話を聞いた時、実装石に詳しい私は、直ちに小隊長に注進した。
ついに実装石が糞蟲の本性を現した、と。
機会を見て皇軍兵士を命を奪い、貴重な食糧を奪ったのだ、と。

動ける兵士は、直ちに第三小隊陣地へ向かった。
我々の情報を確かめるべく、直ちに第三小隊の兵士が現地に向かう。
確かにそこに、兵士のご遺体があった。
そして実装石の姿はなかった。

事ここに至り、ようやく実装石の本性を理解してもらえたようだ。
彼らが陣地を後にしている間、私は手間を省いてやるため、実装石を処理した。
それに不満な兵士もいたようだが、食糧を奪って逃げたという事実の前に、
彼らは反論の余地を持たない。

惜しむらくは、私がもっと早く糞蟲の本性に気づき、
もっと強硬に処理方法を主張していれば、である。
そうすればあの若い兵士は命を落とさずに済んだかも知れない。

戦地にあって、実装石は非常食として以外の価値を持たない。
なまじ可愛がるとつけ上がるだけであり、軍の規律を乱す原因となる。
『身中の虫』ならぬ『身中の糞蟲』なのだ」

(お断り……文中、不適切と思われる箇所は伏字とした。編集部)

※ ※ ※ ※ ※ ※



思えば、実装石が戦争に利用されるのは自然のことだった。
明治から大正にかけて、日本経済は織物の輸出で支えられた。
その織物は、蛆実装の繭で作られていたのである。

僕は彼女に電話をかけ、『身中の糞蟲』の要約を伝えた。
おじいさんの部隊は南方の島に派遣されて苦労したらしい。
そしてそこで、実装石を巡るトラブルがあったということを。
当時、実装石が食糧にされたということを伝えたものかどうか迷ったが、
終戦直後は犬だって食べられたのだ、隠しても仕方がないと思い、
思い切って事実を告げた。
電話の向こうで、彼女は言葉を詰まらせた。

「そう……、いろいろ調べてくれてありがとう」

沈黙を破ったのは彼女だった。
僕は、救われた気がした。

「いえ、好きでやっていることですし。
それに僕、これを書いた人に会ってみようと思うんです。
実装石嫌いみたいだから、辛いものがあるんですが、
おじいさんと実装石をつなぐ何かを知っているんじゃないかと」
「まだ、ご存命なんですか?」
「その辺は任せてください、調査済みです」

僕は、見えない相手に胸を張ってみせた。

「発行元に問い合わせて、確認してありますから。
取材の申し込み、ということで、住所も確認してあります」

僕は住所を述べた。
日帰りできないことはないが、じっくり話を聞くとなると、一泊しないといけない。
そうすると、チーをどこかに預ける必要がある。
いや、賢い彼女なら、一泊くらい我慢してくれるだろう。
そんなことを考えていると、彼女が思いがけないことを言った。

「その『取材』、私が行ったら駄目かなあ」
「えっ!?」
「ここからのほうが近いでしょ。
それにこれは私のおじいちゃんの話。
孫娘が行ったほうが、より詳しいことが聞けるかもしれないし」

それもそうだが、相手は大の実装石嫌いである。
果てして彼女に任せていいものかどうか。
しかし彼女の意志は強かった。



4

結論から言って、彼女のインタビューは成功を収めた。
多少荒っぽいやり方だが、僕がしたより多くの情報を引き出せたようだった。
だが、その分だけ彼女は確実に消耗していた。

電話をした次の日曜日にアポイントを取った彼女は、老人の自宅を訪問した。
ぐるりと塀で囲まれた、昔ながらの立派な日本家屋であった。
この重厚感はツーバイフォー住宅では絶対に感じることができない。
気圧されつつも用向きをインターフォンで伝え、中に入る。
門扉にはテレビ・コマーシャルで有名な警備会社のステッカー。
訪問者を撮影する防犯カメラも設置されていた。

年配の女性に案内され、居間へ通された。
居間からは広い庭が見え、庭には離れがあった。
お茶とお茶請けが出され、しばらく待っていると、一人の老人がづかづかと入ってきた。
この老人こそが、あの記事を書いた本人だった。

パソコンで作った即席の名刺を渡し、来訪の目的を告げる。

「私、フリーランスの記者をしておりまして、このほど、
戦争体験者の生の証言を集めております」
「ほう、お若いのに珍しい」
「こう言っては失礼ですが、戦争の語り部は年々少なくなっています。
私達の世代が、後世に残していく必要があるんです」

老人はうんうんと頷いた。
八十歳を過ぎている筈だが、見るからに矍鑠としている。

「あんたのおじいさんからは、戦争の話を聞かなかったのかね?」
「はい、祖父は復員して間もなく他界したと聞いています。
ですから、祖父からは戦争の話を聞くことができませんでした。
けれど……」
「けれど?」
「戦友会発行の小冊子を読んで、貴方と同じ連隊に所属していたことを知りました」
「ほほう」

老人は目を細めて楽しそうに応じた。

「連隊と言っても、千人からの部隊じゃからのう。
果たして、あんたのおじいさんのことを知っているかどうか。
この名字は聞き覚えはあるが、よくある名字だし」

名刺に顔を近づけてそう言った。

「せめて階級でもわかればのう」
「実装石……」

彼女は、単刀直入に切り出した。
僕だったら、もう少し時間をかけてから、
ストライク・ゾーンぎりぎりにボールを投げるところだ。
初級が危険球で即刻退場させられては話にならない。
案の定、老人の顔色は変わったという。

「祖父は、復員してから実装石を飼い始めたんです。
食糧難の時代に、それはあまりに不自然だと思います。
軍隊時代に、何かあったんじゃないでしょうか」

老人は口を横に結び、しばらく考え込んだ。
下を向いていた目が、じろりと彼女を睨んだ。

「それは……、それは食糧難だからじゃろう。
今でこそ、物好きにも愛玩動物として実装石を飼う者もいるが、
私の回想録を読んだのならあんたも知っておるじゃろう、
当時は実装石を非常食にしたんじゃ。
終戦直後は食糧の入手が困難じゃった、実装石を喰ってもおかしくはない」
「でも、その時からずっと、実装石を飼い続けているんですよ。
食用というのは、違うんじゃないかと思います」
「実装石を喰うほど、困らなかったということじゃろう。
あれは、そんなに美味いもんじゃない」

老人はお茶を飲んだ。
つられて彼女もお茶を飲む。
緊張で喉が渇いていた。
玉露の甘さに勇気づけられた。

「実装石を『処理』することに、躊躇いはありませんでしたか?」

自分の言葉でないとばかり、「処理」を区切って言う。

「なかったのう。
それは私だけじゃない、みんなそう思っていた筈じゃ。
相手は人間じゃない、動物なんじゃ。
軍隊で使役される動物なんじゃから、何かの役に立たないといかん。
牛や馬なら荷物を運べる。
実装石に何ができる? 食糧になるしかないじゃろう」
「だったらどうして、戦地に借り出されていったんですか」
「決まっておる、一億総特攻の時代じゃ。
全てをお国のために捧げた、実装石も例外じゃない」

それから彼女は、部隊の歴史に話題をシフトした。
当たり障りのない話は、右の耳から左の耳へ抜けていった。
話は老人の生い立ちから出征、台湾へと舞台を移し、いよいよ南方の島へ。

「今からすれば、部隊の山岳地帯への移動、
あれは無駄だと思われるのではないですか?」
「そうとも言えるし、そうでないとも言える。
私らは一兵卒じゃった、命令に従うのが仕事じゃ」
「実装石を食べたのも?」
「あんたもしつこいな」

老人は額に血管を浮かせた。

「食べる物が他になかったんだから、仕方がないだろう」
「でも、食べるのに反対していた部隊もあったんですよね」
「ああ、彼らは糞蟲の本性に気づかず、うまく操られとった。
もっと強く警告しておけば、無駄な犠牲は出さずに済んだ筈じゃ」
「実装石は──」

糞蟲、と言いかけて彼女は言葉を呑み込んだ。

「そんなに邪悪な存在なんでしょうか」
「何をわかり切ったことを」

老人は即座に彼女の言葉を否定した。

「事実、糞蟲のせいで中隊の規律は乱れた。
なまじ人間に似ているから、兵たちは望郷の念に駆られて士気を落とした。
それに奴らは、甘やかせたら甘やかせたぶんだけつけ上がる。
限度というものを知らない」

残っていたお茶を一気に飲み干すと、さらに言葉を続けた。

「それに最近はほら、あの、『地域実装』とか言って、
その辺の主婦が公園の実装石に餌をやる。
それがいかんのじゃ、つけ上がらせるだけじゃ。
親が目を離した隙に赤ん坊が公園で実装石に襲われるなんて、
痛ましい事件も実際に起きておるじゃないか!」

残念ながらそれは事実だった。
昔なら、野良犬が子供を襲うことがあった。
今なら躾のできていない飼い犬か、野良実装が子供の敵だった。

「あんたは、俗に言う愛護派かね?」
「いえ、どちらでもありません。
今は実装石を飼っていませんし」
「そうか、じゃあ良いものを見せてやろう。
駅からこの辺りにかけて、実装石を一匹も見かけなかったじゃろう?」

確かにそうだった。
駅前のコンビニエンス・ストアのゴミ箱によくいる、緑の隣人はいなかった。
公園にも、段ボール・ハウスはなかったように思う。

「その理由を教えてやろう」

老人は苦労して立ち上がると、裸足のまま庭へ向かった。
離れのあるほうへ。
彼女はその理由を知りたいとは思わなかった。
聞く前に予想がついたことが、悲しかった。

「あの」

彼女はできる限りの大きな声を出して老人を呼び止めた。
ゆっくりと振り向く老人。

「あなたの回想録で、実装石を食べなかった部隊に関する記述で伏字がありました。
あれは、何と書いてあったんですか」

老人は顔だけでなく、体も彼女のほうに向ける。

「台湾人、烏来族だ」
「烏来族……」
「……そうか、思い出したぞ」

そう言うと、老人は居間のほうに戻ってくる。

「あの小隊は、烏来族出身の兵士で編成された義勇隊じゃった。
小隊長は本土出身じゃったが……。
あんたのじいさんが、その小隊長じゃ」
「私の……おじいちゃん?」

彼女は束の間、放心した。
それがいけなかった。
老人は彼女との距離を一気に詰めると、八十過ぎとは思えない力で彼女の腕を取り、
離れへと引っ張っていった。

「ああいう非国民的な態度を取る奴がいるから、いかんのじゃ。
人間は実装石に舐められてしまうんじゃ。
実装石は人間が制御してやらねばならん。
放っておけば奴らは無尽蔵に増え、傷ついても再生し、
やがて地球は糞蟲に支配されてしまうぞ。
だから」

老人は離れの鉄扉を開いた。

「組織的に駆除し、恐怖で支配する必要があるんじゃ」

次の瞬間、彼女は老人を突き飛ばし、走り出していた。
どこをどう走って駅まで着いたのか、全く記憶がなかった。
離れの中を見ないように、目をつぶり、下を向いた。
しかし漏れ出る音だけはどうしようもなかった。
一縷の希望もない、ただ絶望の深淵に沈んでいく音が聞こえてきたのだった。

(続く)

──────

※文中の部隊名や戦友会発行の会誌はもちろん架空のものです。

※既に元ネタにお気づきの方がいると思いますが、
 その点については後書きをご参照ください。

■感想(またはスクの続き)を投稿する
名前:
コメント:
画像ファイル:
削除キー:スクの続きを追加
スパムチェック:スパム防止のため798を入力してください
戻る