タイトル:【電躾】 電子実装石
ファイル:電子実装石.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:3192 レス数:0
初投稿日時:2007/01/12-23:52:19修正日時:2007/01/12-23:52:19
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電子実装石




 実装石とは、この世界に実在しない「架空の生物」だ。

 インターネット上のごく一部で話題にされ、ネタにされている緑色の異形生物。
 なんでも元ネタはあるアニメーションのキャラクターらしいのだが、ほとんど原型を留めていないらしい。
 あまりにも原型を留めていなさすぎて、もはや限りなくオリジナルの存在に近くなっている。
 様々な設定が付け足されて現在に至るが、こんなものが現実世界に居たら間違いなく自然界のバランスは乱れ、人間
だけでなくあらゆる生物の生活圏が冒されて想像を絶する事態になるのは間違いない。
 …まあつまり、それくらい絶対に存在しえない生き物という事だ。
 だからこそ、ネタとして扱うのが面白いんだが。


 ところが、世の中には面白い人がいるもので。
 そんな実装石を、この現実世界で商品化してしまったのだ。

 商品化と言っても、別に実装石を本当に産み出したわけではない。
 電子玩具として作り出したのだ。
 もちろん、実装石をメインで話題にしている人達の意向は完全無視で。

 要するに、一時期あったような「版権元が明確でないネットキャラクターの版権を一方的に主張して云々」という、アレだ。
 ギ○とかはこれを免れたが、顔文字キャラはそのまま勝手に使用されてしまった。
 あれと同じような事をされたわけだ。
 当然、ネット上ではメーカーに対する反発が起こったが、ある時期からその反発もなりを潜め、逆に支援する人達が増え
始めてきた。

 どうしてだろうか?
 それは、この商品「みどりっち」が、とても高い完成度を誇っていたからだ。

 なぜ「じっそうっち」って名前じゃないのかって?
 これは、あくまで「実装石によく似ている」みどりっちというオリジナルキャラというこじつけになっているためだ。
 こういう所をわざとらしく避けているところが、いかにも企業っぽいじゃないか。
 ま、色々とあざとい。
 だから、このゲームに出てくるキャラクターの正式名称は「みどりっち」という名前なのだが、今や誰もそんな名前では
呼んでいない。


 というわけで。
 現実に実装石が居たら間違いなく虐待派になっていただろう俺も、ある理由からこれを買った。
 具体的な要因はよくわからないが、この商品はあっという間に大きな話題となって一般に知れ渡った。
 俺は、その要因をどうしても知りたかった。

 しかし、モノクロ液晶のチープな電子玩具一個に、8,000円…
 しかも、俺がオークションで落札した後も相場上がり続けてるし。
 高い、高すぎるよ!
 定価2,500円(税別)だぜこれ!



 「みどりっち」は、縦5センチ、横3センチ、厚み2.5センチほどの大きさで、縦長の六角形。
 これは「偽石」の形をおおまかに模したもののようだ。
 色は何種類かあるが、薄いグリーンのものが人気だそうだ。
 レアバージョンとして、ひび割れた模様がタンポ印刷された物もあるそうだが、俺は一度も見た事がなく、ほとんど都市
伝説になっている。

 ボディ中央には2センチ四方のモノクロ液晶モニターがあり、荒いドット絵で表現された実装石とアイコンが表示される。
 その真上には、もう一つ液晶モニターがある。
 これは縦5ミリ、幅2センチ程度の横長のもので、時刻表示や実装石のセリフが表示されるもの。
 多分、メインモニターに文字まで表示するゆとりがなかったんだろう。
 このダブルモニター方式がかなり斬新で、ちょっとだけチープトイの汚名を返上している。

 モニターの下にはボタンが3つあり、横一列に並んでいる。
 左から「選択」「キャンセル」「決定」ボタン。
 メインモニターに表示されるアイコンを「選択」で選び、「決定」を押して効果を促す理屈だ。
 だが、それとは別に本体右横…六角形の右辺にあたる位置に、完全独立した謎のボタンがある。
 なぜか、このボタンについてはマニュアルに説明がない。
 まるで「そんなものありませんよ」といわんがばかりに、不自然に触れていないのだ。

 そのすぐ上・右上辺部分には赤外線通信用ポートが設置されている。
 これを使って、他機種で育てた実装石同士を合わせる事ができるそうだ。


 本体に付いている絶縁体を抜いて通電させると、まずは時刻設定画面が表示される。
 これは、実装石の生活スケジュールを決定する重要なものなので、正しい時間を入力しておく必要がある。

 次に、名前の入力。
 六文字以内で名前を決定。ただしカナのみ。
 プレイヤーに求められる、もっとも難しい入力作業はここまで。
 すべて決定すると、画面中央にはドット絵で描かれた蛆実装が表示される。

 …5ミリくらいの大きさしかないから、表情見えねーけど…


 蛆実装の下には、5つのアイコンがある。
 それぞれ左から順に、「撫」「餌」「教」「叱」「流」と書かれている。
 「選択」ボタンでこれらアイコンを選択するわけだ。
 ただ、「流」の横にはもう一つ「?」というアイコンがある。
 これは表示されてはいるが、初期は使えないものらしい。

 それぞれのアイコンを選ぶと、さらに選択肢が出てきて色々と使えるのだが、それは後述しよう。

 とにかく、このアイコンを色々と駆使して、実装石を大きく育てていくという理屈だ。
 …モロにたま誤っちだな。



 名前は、スタンダードに「ミドリ」としてみた。
 設定を終え、表示された蛆実装「ミドリ」に「撫」を選ぶ。
 マニュアルによると、まずこれを行って眠りを覚まさせるんだそうな。

 すると…

『レフ? ニンゲンさんおはようレフー』

 と、サブモニターに表示され、ふるふると動き出したではないか。
 おお、と思わず声が漏れる。
 しかし、ここまでモロに蛆実装させといて、「蛆みどりっち」なんて名称を付けているんだから笑わせる。


『ニンゲンさん、プニプニして欲しいレフー♪』

 「♪」マークを飛ばしながら、ミドリがプニプニを求めてくる。
 「撫」のアイコンを再び選あぶと、今度はメインモニターが切り替わり、大きな字で書かれた別な選択肢が出て来た。


→プニプニ
 ナデナデ
 スリスリ


 再び「選択」で「プニプニ」を選び、「決定」を押す。
 すると…

『プニプニ〜♪ 気持ちいいレフ〜♪』

 と、返してくる。
 面白くなってきたので、別な選択肢を選んでみた。
 次は、「ナデナデ」。

『ニンゲンさん、蛆チャン頭ナデナデじゃなくてお腹プニプニがいいレフー』

 おお、不満を唱えた!
 では、「スリスリ」は?

『レ、レフ〜…く、苦しいレフ〜』

 えっ、なぜか苦しんでいるようだ。
 ああ、プニプニじゃなくて指で押されてすりすりされると、圧迫感で苦しむって何かで見たな。
 じゃあ、ぷにぷにし続ければいいのか。
 というわけで、要望に従って「プニプニ」を連続で選択する。

『プニプニ〜♪ 気持ちいいレフ〜♪』
『プニプニ〜♪ 気持ちいいレフ〜♪』
『プニプニ〜♪ 極楽レフ〜♪』

 三回やった時点で、ウンチマークが横に表示された。
 おお、マークがどんどん増えていく!
 液糞が飛び出しているって意味か、なかなか凝ってる。
 そして、四回目…

『プニプニ〜♪ レ、レピャ〜♪ レ、レ、レ、……』

『 プチュッ 』


 えっ?

 おかしな表示がサブモニターに出て、「ミドリ」が突然動かなくなった。
 しかも、よく見たら血糊みたいなドット絵が周囲に飛び散っているし。
 ま、まさか……プニプニやりすぎると死んじゃうのか?!
 な、なんてチリィんだ!


『おかわり、いきますか?』


 天使の輪のドット絵と共に、そんなメッセージが表示される。
 おかわり…ねえ。
 もちろん「はい」を選ぶ。
 名前はまた「ミドリ」だ。
 二代目、さあ行け!


『プニプニ〜♪ 気持ちいいレフ〜♪』


 起こしてから「プニプニ」してやると、さっきとまったく同じ反応を示してくる。
 後でわかったのだが、どうやら蛆実装の要求に応え続けてしまうと、すぐに死んでしまうらしい。
 だから、適度に放置してプニプニ圧死を防ぎつつ、我慢を覚えさせなければならないらしい。
 な、なるほど…
 ネットで攻略サイトを検索してみたら、そんな情報を見つけた。
 七代目ミドリよ、今度こそお前をしっかり育ててやるからな。
 って、三代目から六代目までは、ついついわざとプニまくってしまったのだが。


 「餌」のアイコンを選ぶと、また選択肢が出る。

→ミルク
 実装フードC
 実装フードB
 実装フードA
 すし
 ステーキ
 肉


 攻略サイトによると、最初の頃は推奨される選択肢が上の方に出て、最初から選択の矢印が移動しているそうな。
 という事は、ここはミルクが正解なのか。
 極端なネタバレは面白さを損なうので、今の時点に関連する項目だけを選んで確認する事にする。

 しかし…実装フードのABCとか、ステーキと肉が別にあるとか、意味不明だなあ。
 とりあえず「ミルク」を与えると、画面に牛乳瓶と、ミルクを入れた皿とおぼしき絵が出てくる。


『おいしいレフ〜♪ ニンゲンさんありがとうレフー☆』


 と、きちんとお礼を返し、ミドリは皿に近寄って身体を動かす。
 その様子に、ついこちらも笑顔になってしまう。

 お、またメッセージが出て来た。
 ご馳走様かな?


『ウンチ臭いレフ。ニンゲンさんながしてレフ』


 …なんかムカつく。

 ウンチ流しは「流」のアイコンで出来るようだ。
 またまた選択肢が出てくる。


 →ウンチ
  蛆ちゃん


 …………
 俺は、迷わず選択した。
 画面全体に、水が流れる絵が出てくる。


『レピャア〜!』


 うーん、ハードボイルドだなあ。
 って、何やってんだ俺?!



    ※     ※     ※




 二日目。

 昨日はひたすら「撫」と「餌」と「流」を繰り返すだけだったが、二日目まで行くと次の段階に成長する。
 次は「親指実装」だ。
 もちろん、正式名称は別にある。
 ——「こゆびみどりっち」…って、おい。

 さすがにこのゲームでは、粘膜除去の失敗による成長停止とかそういうややこしい概念はなくされており、単純に
蛆→親指→仔実装→成体実装、という四段階のプロセスを踏むだけらしい。


 テチーテチーテチー

 電子音か鳴る。
 これは、実装石側からこちらに何かを呼びかけている事を示す合図だ。
 もちろん消音する事も出来るが、慣れるまではこのまま行こう。

 覗いてみると、十一代目ミドリはどうやら無事に成長出来たようだ。
 モニターの中では、まだ表情の判別もつかない、ちっこい実装石のドット絵が蠢いている。
 つか、これを実装石だと判別するのはかなり厳しいものがあるぞ?!
 7ミリくらいしかないからなあ。
 大きくなると顔の判別も付くらしいが、好きな人に言わせると、だんだん表情が見えてくるようになる過程が楽しいらしい。
 そんなものかね。

『ニンゲンさん、お腹すいたレチュ。ご飯くださいレチュ』

 という事なので、早速「餌」のアイコンを選ぶ。
 

→実装フードC
 実装フードB
 実装フードA
 ミルク
 すし
 ステーキ
 肉


 おや、昨日はミルクが上だったのに、今度は実装フードCにカーソルが当たっている。
 これがオススメなんだよな?
 試してみよう。

『レチャッ! これおいしくないレチュ。もつとおいしいご飯ほしいレチュ』

 おおー、キタキタ。
 なんかやっと実装石っぽい態度を取り始めた。
 そうか、気に入らない餌にはそれなりの反応をするのか。
 すると、Bを選んだらどうなるかな?

『これはおいしいレチュ。ニンゲンさんこれからも頼むレチュ♪』

 おお、今度はおいしそうに食べ始めた。
 何か引っかかるセリフだが、反応が良さげだから、しばらくBを与え続けてみよう。


 テチーテチーテチー

 またすぐに電子音が鳴る。

『ニンゲンさん遊んでレチュ♪』

 おお、ちっこいのが中でピョンピョン跳ねている。
 なかなか芸コマな動きをするもんだ。
 マニュアルによると、この場合は「教」のアイコンを選び、さらに「遊び」を選択すればいいらしい。


→遊び
 洗濯
 風呂


 「教」というのは、どうやら知識や技術を伝えるアイコンのようだ。
 へー、洗濯や風呂なんてのもあるのか。
 だが今は、「遊び」を選んでみる。

 画面には丸い玉のようなものが表示され、親指ミドリがそれにじゃれ付いている。

『ボールコロコロ楽しいレチュ〜♪』

 画面の両端を行き来して遊ぶ親指ミドリ。
 なかなか可愛らしいが、もし、ここで別な「教」をしたらどうなるだろう?
 まずは「洗濯」だ。

『—まだ服は汚れてません—』

 こんな注意メッセージが表示され、キャンセルされた。
 うーむ、では「風呂」はどうだ?

『お風呂って何レチュ? 親指チャンお風呂知りたいレチュ』

 おい、待て。
 お前、本当は「こゆびみどりっち」じゃなかったのか?
 狙ってるのかよ!


→手伝う
 一人でやらせる


 二つのコマンドが表示された。
 ああ、こうやって教えるわけか、なるほど。
 甘やかしてはいけない、ここは最初から一人でこなせるようにしようではないか。
 「一人でやらせる」を選択してみる。
 画面には風呂桶のつもりらしい絵がずずっと出てきて、ミドリの絵と重なる。
 だが…

『レピャアァァ! お、溺れるレチュ〜!』

『ニンゲンさん助け…ゲボゴベバ』

 というセリフの後、しばらくの沈黙を経て、またまた天使マークと「おかわり」が表示された。
 どうやら、風呂桶に親指実装をそのまま放り込んだような扱いにされたらしい。
 カーソルがお奨めするコマンドを素直に選んでおけってか?!

 ぬ、ぬぬ…またやり直しか!




    ※     ※     ※




 三日目。

 その後、十二代目ミドリを親指まで育て、「風呂」を教え込んだ。
 風呂は親指にとってお気に入りらしく、一回入れただけでしょっちゅうせがむようになった。

『お風呂入りたいレチー!』

 今日はこれで五回目のリクエスト。
 そろそろ「叱」を試す時が来たようだ。
 ワガママを言った場合は、このアイコンを使うのだそうな。


→しつけ
 禁止
 やり直し
 花


 ん? なんだかよくわからないコマンドが出て来たぞ?
 「しつけ」はわかる。多分ワガママを諌めるためのものだ。
 だが「禁止」とは?
 「やり直し」というのも、よくわからん。
 どうやら選択肢キャンセルというのとは違うらしい。
 それに…「花」?

 これは、オススメ以外を試してみたい心境だ。
 いきなり「禁止」を選択してみる。


『レチャアァァ! お風呂禁止イヤイヤレチュ! ニンゲンさん許してレチュ!』

 という親指のセリフが。
 ああ、そうかわかった。
 これを選ぶと、実装石がその時やっていた事や要望に対して「もうやるな!」という命令を下せるわけか。
 という事は、今こいつは「風呂に入る事を禁止」された事になるのか。
 ふーん…でも、それじゃ可哀想だから、「やり直し」してあげよう。
 今回のは、あくまで実験だしな。

『…お風呂禁止イヤイヤレチュ。ニンゲンさん許してレチュ』

 ん? あれ?
 さっきと同じセリフを繰り返しているぞ?
 よくわからないので、もう一度「やり直し」を選択してみる。


『……お風呂禁止イヤイヤレチュ。ニンゲンさん許してレチュ』


 えーと、よくわからんな。
 もう一度だけ選択してみるか?


『………お風呂禁止はイヤレチュ。ニンゲンさん許してくださいレチュ』

 あれ? セリフが微妙に変わってる?
 意味がわからずしばらく考え込んだが、なんとなくわかってきた。
 この「やり直し」って、ひょっとしたら、今やった行動をもう一度行わせて正していくってものなのかな?
 だから、今回は言い回しを直したわけか。
 へーえ、なかなか細かいもんだなあ。

 じゃあ、次の「花」ってなんだ?

『今は選べません』

 という、機械側からの警告メッセージが出る。
 うーん、どういう意味なんだろう?
 まあいいや、使えないなら仕方ない。
 次行こう。


 真っ当に「しつけ」を選んだが、どうやらすでに「やり直し」という別な行動を取らせてしまったため、しつける意味が
なくなってしまったようだ。
 画面の中のミドリは、小首を傾げて「?」マークを出している。
 マニュアルによると、これはこちら側の要求を実装石が理解できなかったという意味らしい。
 そーか、という事は、何か問題を起こした直後に使わないとダメなコマンドって事なのか。


 しかし、ミドリはその後一度にも風呂を要求しなくなった。

 後でわかったのだが、これは先に選んだ「禁止」の効果だったらしい。
 こちらから風呂に入れようとしても、ミドリは拒絶するようになった。
 試しにこのタイミングで「叱」「しつけ」を行ってみたが、また小首を傾げて「?」の絵が出るだけだ。

 …なんか俺、ひょっとしてやっちゃいけない選択をしてしまった?




    ※     ※     ※




 四日目。

 親指実装になると、少しずつ食事を求める回数が増えてきた。
 呼び出される度に「餌」「実装フードB」を選び続けていたら、本日5回目にしてセリフが変わった。

『もっとおいしいご飯はないレチ? ニンゲンさんワタチのこともすこしは考えてほしいレチ!』

 と、怒りマーク(いわゆる漫符という奴)を飛ばしている。
 …えーと、おかしいな。
 確かBはお気に入りだった筈では?
 試しに、今度はCを選んでみた。

『ふざけるなレチ! もっとおいしいご飯といったレチ! まったくおバカなニンゲンさんレチ!』
 ——ムカッ

 思わず反射的に「叱」を選んでしまったが、ここで、やっとこのBやCの理屈が理解できた。
 多分このABCランクは、実装フードの「味」か「質」を示しているのだろう。
 つまり、Cはまずく、Bはちょっとマシ、Aは美味い、という感じなのかも。
 で、このミドリはBを与えすぎたため慣れてしまい、もっと良い餌を求めるようになって態度を増長させたのか。
 俺は、このシステムの完成度の高さに、益々関心を寄せる。
 さて、ならばここはどうしようか。
 

 しつけ
→禁止
 やり直し
 花


 これで禁止を選択したら、また嫌がるのかな?
 試しに選んでみると…

『こんなマズイものもういらないから、せいせいするレチ』

 という、あっさりしたご回答。
 うわ、そうか必ずしも「禁止」が有効とは限らないのか。
 この場合は、食事じゃなくて「食べた物」が禁止対象になると。
 うーむ、これはマズった。


 テチーテチーテチー
『とっととおいしい物を出すレチ!』

 今度は、電子音付きで要求してきやがった。
 「叱」→「しつけ」を選択してみると、画面にハエタタキみたいなものが出てきて、ミドリを叩いた。

 テチーテチー
『痛いレチ! 何するレチ!』

 おおー、反応してるよ。
 もう一度、同じのをやってみる。

 テチーテチー
『レチャーッ! 痛いレチ! もう許してレチ!』

 さらに、もう一セット!

 テチーテチー
『レチャーッ! レチーッ!』

 おもしれー!
 ちゃんと虐待要素もあるんじゃないか!
 なーるほど、これは売れる筈だよ珍念殿!

 よっしゃあ、これでラスト!

『チベッ!』

 あれ、動かなくなった。
 しかし、天使マークは出てこない。
 まるで画面がフリーズしてしまったようだが、ちゃんとアイコンセレクトは出来る。
 なんだろう? マニュアルを見てみよう。


【しつけが強すぎたり、何度も痛めつけられると、みどりっちは「仮死」することがあります】


 …やるなあ、そういう事か。

 ネットで調べたところ、ここは「撫」→「頭なで」を何度か選択すると、早く回復する事がわかった。
 実際に試してみたら、確かにすぐ復活した。
 仮死までプログラムされているとは、このシステム作った人間は相当詳しいな、実装石に。


 テチーテチーテチー
『ニンゲンさん遊んでレチー♪』

 さっきまでの過酷な体験は、もう忘れている事にされたらしい。
 幸せ回路まで゜搭載かよ!

 あ、突然動きが止まった。
 親指の絵が、ブルブル震え始めている。


 ぷりっ♪
 ウンチマーク、出現!

 おおー、トイレかあ。
 って、ちょっと待てよ?
 たま誤っちの場合はウンチしっ放しでも構わなかったが、実装石の場合それじゃいかんよなあ。 

『ウンチ出たレチー♪ 気持ちいいレチー。ちゃんとウンチできてワタチは天才レチー☆』

 「流」を選択しようとして、ふとある事を思い出す。
 そういえば、実装石関連各保管庫に上げられている実装スクを読むと、実装石にトイレの概念を躾るという内容のもの
が結構あった筈だ。
 このゲームを作った者が、俺の見込んだ「実装石マニア」だとしたら、こんな所で手を抜く筈がない。
 きっとどこかに、トイレの躾がある筈だ。
 試しに、ここで「叱」→「しつけ」を選択してみる。

 すると、画面端にオマルの絵が出て来た。
 次に、親指の傍に丸い何かが出て来た。
 ミドリが、その絵を手に取る。

『こんぺいとうレチー♪』

 金平糖?
 なんで、「しつけ」なのに金平糖?
 と思ったら、ミドリはその「金平糖らしき絵」を飲み込んでしまった。

 しばらくすると…


『レ、レレレ! ウンチ出るレチ! もうがまんできないレチ!』

 と言って、ピョンピョン飛び跳ね始めた。
 ご丁寧に、悲鳴を現すテチーテチーという電子音も連動して響く。
 そうか、あれは金平糖じゃなくて「ドドンパ」なのか。
 やっぱり、これを作った人間はよくわかっている。

 とりあえず、そのまま様子を見続けていると…
 ウンチマークが、画面いっぱいに表示され、ミドリの姿がその中に消えてしまった!
 テチーテチーテチーと、電子音が鳴り響く。
 さっきより音の感覚が短く、なんだか緊急警報のようにも聞こえる。 

『ウンチ…クルシ……レチ……』

 という断末魔のセリフと共に、またまた出て来た天使マーク。
 そして「おかわり」の表示。
 ミドリは、また、死んでしまった。

 って、オイ。
 なんなんだよ、この展開は?!
 ここまで来て、また育てなおしかよっ!!


 「しつけ」を選んだのに親指が死んでしまった事に納得の行かなかった俺は、例の攻略サイトでこの展開の理由を調べる
事にした。
 本来ならここは自力で究明するべきなんだろうが、色々あってそんな悠長な事は言っていられないのだ。
 攻略掲示板を見てみると、どうやら俺と同じように、ここでつっかえた人が大勢いた。
 同じ質問が何度も繰り返されており、その度に誰かが「テンプレかログ嫁」と連呼している。
 言われた通り、掲示板の最初のところを見てみると…


Q:トイレのしつけで実装石が必ず死んでしまうのはバグですか?

A:ここは初心者が初めてぶつかる壁で、バグではありません。
 ドドンパを食べた直後、さらにもう一度「叱」→「しつけ」を行い、オマルを使わせなくてはなりません。
 選択のゆとり時間はあまり長くないので、とちるとドドンパで出て来たウンチの中に埋もれて死んでしまいます。
 なお、このトイレのしつけの達成度は、隠しパラメータ「かしこさ」によって変化します。
 一度でトイレを覚えられた仔は、良蟲になれる可能性がすごく高いので、大切に育ててあげてください。


 ——と、書かれていた。
 なるほど、「しつけ」のコンボを組み込まなきゃならないわけか、納得した。
 なんともはや、無駄なところで懲りまくって。
 これ、実装石の基礎知識がない人間は絶対にクリア出来ねーんじゃねえの?

 しかし、隠しパラメータというのは初めて見たな。
 これは何なんだろう?
 マニュアルに何の説明もないので、本当の意味での隠し要素なのは確かだ。
 RPGや育成シミュレーションみたいに、ステイタスの確認をする方法があるのかな?
 俺は、攻略サイトの「パラメータについて」という項目を選択し、覗いてみることにした。
 どうか、致命的なネタバレがありませんように。


■パラメータ:
 「みどりっち」で育てる実装石には、実は隠しパラメータというものがあります。
 これは、成長や教育、しつけに大きく関わる大切なものですが、プレイヤーはこれを直接確認することはできません。
 ただし、赤外線通信ポートを経由して実装石のデータをパソコンに飛ばし、参照する事は可能です。
 以下のリンクから、にじあきさんが作成されたフリーソフト「実装解剖」がダウンロードできます。

 隠しパラメータは、「つよさ」「かしこさ」「やさしさ」「くそむし」「うん」の5項目に分かれていて、スタート時や「おかわり」時
にランダムで数値が振り分けられます。
 1〜255の数値の大小で、実装石の賢さや可愛らしさが大きく変わります。
 でも、全部の数値を255にすればいいわけではなく、また全部1でもダメです。
 どこをどの数値にすればベストなのかという研究は各所で論議されていますが、詳しくは以下のにじあきさんのサイトを
ご覧ください。

 でも、このパラメータを最後まで確認しないでプレイする方が一番面白いようです。
 なお、このパラメータは生まれた子供にも引き継がれますが、ランダムでどこかの項目の数値のみ極端に低下、または
上昇します。
 「くそむし」が255で産まれて来た場合は大変な事になるようなので(笑)、間引きを行うつもりの方はくれぐれもご注意
ください。


 >にじあきさんのサイト「実装解剖」
              ‾‾‾‾‾



 何、この不必要なまでの凝り方?!
 つか、子供まで作れるのかよ!
 すげえな、こりゃたま誤っちより何倍も優れているぞ。
 開発した奴、マジ天才じゃねえか!

 とりあえず、だいたいの概要はつかめてきた。
 調子に乗って読み進めてみたら、本機設定時間をわざとずらす事で、短時間で成長させるという裏技がある事もわかった。
 よし、時間は出来るだけ短縮したいから、十三代目ミドリはこの方法でいきなり親指で行こう。
 


 その後十三代目ミドリは順調に育ち、八日目が過ぎる頃には「仔実装」に成長した。

『テチテチー♪ ニンゲンさん大好きテチー!』

 今度のミドリは、どうやら「やさしさ」や「かしこさ」が高くて「くそむし」が低めなようだ。
 「実装フードC」でも喜んで食べるし、何よりわがままがなく手がかからない。
 本当に良い仔なのだが、俺は、だんだんと別な疑問が浮かんできた。


 いまだに、本体横のスイッチが何かわからないのだ。
 プレイ中に使用を求められる事があるのかとも思ったが、全然そんな様子がない。
 なんだろう…とりあえず、押してみるか?
 ようやく顔が判別できるくらいに大きくなったミドリが、画面の中で嬉しそうにボール遊びをしている。
 その最中、横のボタンを押す。

 すると…

『テチ?』

 突然、ミドリがこちらを向いた。
 ん、何が起こったんだ?
 ミドリは、突然身体をブルブル震わせ始めた。
 なんだろう、泣いている事を示す涙のアイコンが上に表示されているぞ。

『ニンゲンさん、ワタチ、いいこにしてるテチ! 何もわるいことしてないテチ!』

 え? 何言ってんだこいつ?
 と、思って画面をよーく見てみたら、今まで空白だったアイコンの右側に、見た事もない新しいアイコンが出現していた。


 ——「虐」


 ……そうか、そうか、そういう事なのか。
 なんだかよくわからないが、心の奥底で深く納得する俺。
 早速、そのアイコンを選択してみた。
 当然ですよ、新右衛門さん!


 デコピン
 おる
 ちぎる
 きる
 さす
 はげはだか
 とりだす


 スクロールまでさせて、いきなり7つもコマンドが出て来ましたよ母上様!
 しかも、お奨め矢印出てないし♪
 これは楽しめそうだ。
 俺は、早速「とりだす」を選択した。
 手術に使うメスのような絵が出て来て、ミドリの絵に重なる。
 さっきまで遊んでいた筈のミドリは、ご丁寧に、四肢を固定された拘束状態に変わっていた。

『イタイイタイ、ヤメテテチ、ヤメテテチ!』

『テギャア———ッ!!』


→つける
 つぶす
 くわせる


 …ダメだ、このゲーム、別な意味で終わってる!
 俺は翌日、もう一体別なみどりっちを入手してくる事を誓った。
 こんな楽しいもの、一個だけで我慢できるものか!

 しかし、なるほどねえ。
 これは売れるわけだよ。
 心の底から、俺はそう確信した。 
 



(つづく……多分)

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