実装石の日常 威嚇と媚び ある野良の親実装石は自分を無敵だと思っていた。現に成体となってからは、一度も負けたことがない。 …今日もニンゲンを追い払ってやった。私が吼えると奴らは恐れをなして逃げていく。 親実装は勝手にダンボールハウスを離れて、人間に見つかった仔たちを救い出した。 「お前たち、勝手におうちから離れてはダメデス!ニンゲンに殺されてしまうデスよ!」 恐ろしかったのか、3匹の仔実装がテチュテチュ泣きながら親実装の服にしがみ付いて来る。 叱るもののやはりわが子はかわいい、頭を撫でながら 「悪いニンゲンはママが追い払ったデス、もう大丈夫デス、おうちに帰ってお昼にするデス」 「怖かった、怖かったテチー!」 「ママ、ごめんなさいテチィ!」 「ママー、ママー」 仔に頼られると、親としてまんざらでもない。 ビニール袋を持ち直し、まだ泣きじゃくる仔をつれて、親実装は我が家へ帰宅した。 大きなダンボールが3つ、雑草が生い茂る中ブロック塀に背を向けて並べられていた。 「ママテチュ!ママが帰って来たテチュー!」 「ママー、ママー!」 「お帰りなさいレチュ、ママー!」 3つのダンボールからわらわらと仔実装、親指実装があわせて20匹近く出てくる。 親実装はビニール袋を下ろすと中身を家族に見せた。 「今日は食パンがたくさんあったデス、ジャムとマーガリンもあるから、みんなでつけておいしく食べるデスー」 仔たちから歓声が沸いた。家族団らんのひとコマである。 「そんなにひどいのか?」 年明(としあき)は首をひねる。友人が言うには凶暴な野良実装が、裏の空き地に住み着いている。 近所の子供がたびたび襲われたらしい、怪我はしていないらしいが。 実装石の生態に詳しい年明、そんな実装石は聞いたことがない。相談を受けたときもそう答えたのだが、 友人の二場(ふたば)は納得せずどうしても一度来てくれと拝み倒した。 万一に備えて、バールのようなもの(ゴルフバックで運搬)と実装コロリスプレーを持ち出してきたものの、緊迫感はない。 むしろ 「この先だよ、凶暴な野良実装がいるのは」 「僕もこの間ものすごい声で吼えられたんだよ」 ギャラリーのご近所の小学生たちである。友人が親しくしている隣人の小学生とその友人たちが二人のことを聞きつけて、 後ろからおっかなびっくりついて来たのだ。怖い怖いと言いながらもついて来るのは好奇心の為せる技か。 …まぁこれも野外学習の一種だな 年明は少年たちの同行を断らなかった。野良実装とはいえ、野生との関わり方を勉強するのは悪くない。 いや、そうした機会は大人が与えるべきであると思ったのだ。 「あれだっ」 二場は緊張した声を、しかし小さく抑えながら出した。指先には空き地の隅にダンボールが3つ並んでいる。 うわさの野良は仔をどんどん生み、40近くに増やしたという話だ。 「まあ、うわさ半分と言うからな」 いくら繁殖力旺盛な実装でも短期間でそこまで増えるか疑問に思いながら、年明は近づいた。 わが子の昼寝する寝顔を見ながら、親実装は幸福をかみ締めていた。 彼女の生まれ故郷の公園は過酷な環境であった。生れ落ちた時には同属食いに襲われ、姉妹が2匹落命。 親は必死に食料を集めたが、その少なさから風雨でくたびれたダンボールハウスの片隅で2匹が餓死し、 その死骸をめぐる争いでさらに1匹が死ぬ。外を出歩けるようになると、人間の不注意で1匹が下半身を踏み潰され、 二日間苦しんだ挙句結局死んだ。 彼女がようやく成体となるころ、公園の実装石は200を越えた。 慢性化した食糧不足から毎日あちこちで共食いの犠牲者があげる悲鳴がこだました。 残った唯一の妹が空腹から母親を食い殺したとき、彼女は泣きながら公園を抜け出した。 生活圏そのものを変える『渡り』といわれる行動であるが、彼女に深い考えはない。 …このままでは死んでしまうデス… という深い恐怖から逃れるためであった。公園の外は危険が多い。 虐待派・自動車・猫・カラス・食料の確保の困難・水路などへの転落等。 5日間という(実装石にとっては)途方もない時間をかけて、今の空き地にたどり着いた。 近くに残飯を雑に出す飲食店があり、そこではいくらでも食料が確保できた。 さいわいライバルになる実装石はいない。空き地も彼女しかいないので安心して受粉、出産に漕ぎ着けた。 最初は体が弱っていたのか、親指実装ばかり生まれたが、出産を繰り返すと健康な仔実装を授かった。 とにかく食料が豊富なので生みまくった。道路に出てしまい、帰ってこなかったものが8匹いるものの、 それ以外の仔実装11匹、親指8匹の計19匹は無事育っている。自分の幼少期のようなつらい思いはさせたくない。 人間が近寄ってきたときが最大の危機だった。思い出すと彼女も冷や汗をかく。 だが、撃退できた。違う人間がダンボールのそばに来たときも同じ方法で撃退できた。幾度となく撃退するうちに …この術(すべ)に熟練してきたデス… と自信を深めた。もう自分は無敵だ、仔たちが一匹立ちするまで守り抜ける、という重いである。 そこへ年明たちニンゲンの一行がやってきた。 ダンボールに近づくにつれ、子供たちは年明と距離をとり始めた。 明らかにうわさの実装石を怖がっているが年明は気にもかけず接近しつづけた。 すると、成体の野良実装がダンボールから姿を現せた。堂々たる、と表現しかできない動きでニンゲンに対峙する。 その姿は百戦錬磨の剣客のようだ。余裕のある様子で、警告を発した。 「ここは私の家デス。それ以上近づくとひどい目にあうデスよ、ニンゲン」 リンガルがなくても、デスデスデス…という声には威厳があって、その意味は感じ取れただろう。子供はもう足を止め近寄ろうとしない。 「悪いが君たちを駆除しに来た」 年明はゴルフバッグをなぜか隣の友人に手渡すと、臆することなく無造作に接近し始めた、両者の距離は10mほど。 子供たちのなかから悲鳴のような声が聞こえた。野良実装は顔に深い皺を作り、威嚇の顔になった。 目を見開き、肉食獣を思わせる顔つき。 「…近寄ると、ひどい目に会うと言ったはずデスウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!!!」 ビリビリ、と年明の服が大音量で震えた。本物の悲鳴が子供たちの中から上がる。 「おい、年明!」 危険を感じたのか、二場が止めようと声をかけるが、年明の歩みはとまらない。 残り、5m。 「デスウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!!!!!!」 先ほどより声が数倍は大きくなり、子供たちの半分は涙目だ。この騒ぎに仔実装たちも起き始め、親の後ろに並んで侵入者を見つめる。 「また馬鹿ニンゲンが来たテチィ」 「すぐにママにやられて泣きながら逃げ出すテチ、コンペイトウ賭けても良いテス」 「長女姉ちゃん、それじゃ賭けにならないテチー」 笑みを浮かべて、親対年明の対決を見守る。過去の戦績から親の勝利にまったく疑いがないようだ。 野良実装は踏ん張る姿勢で、さらに大音声をあげる。 「デデデデデススススウウウウウウウウッッッッ!!!!!!!!!!!!!!」 全身全霊を傾けた一声。そのまま突き進む年明。残り3m。 「おい年明、やばいって!」 友人は年明を連れ出したことを後悔した。野生、とくに実装石に詳しい彼に頼ったのだが、まさか武器ももたずただ近づくだけとは! 「デデデデエエエエ…!!!!!」 野良の叫びが今までにない大きさに達したとき、両者の距離は0mとなった。 野良は空を舞った。年明の蹴り(安全靴)を顔面に食らい、口が裂け、歯が折れ、血のしずくを撒き散らしながら。 そしてブロック塀に激突すると、 ブギャ と間抜けな悲鳴をあげて跳ね返り、地面にぶつかった。 ギャラリーは人間も実装石も同じように声もない。 何があったのか、という空気の中、野良は立ち上がろうと デギャ そこへ容赦のない年明の蹴り。腹部を蹴られた実装石は血反吐を吐きながら、もう一度ブロック塀にぶつけられた。 ボールのように弾んで、年明の足元へ。 「デ、デ、デ…」 立ち上がろうとするが頭は歪み、手足は折れ曲がっている。 …おかしい!なんで!私が吼えれば弱くて愚かなニンゲンはあわてて逃げ出すのに!いつもやっつけてきたのに! 混乱しながら立ち向かう野良の顔面を、また年明の蹴り(安全靴)が襲う。半死半生の野良が地べたで痙攣していると、 ようやく余裕ができた二場が近づいてきた。 「なんなんだよ、これ」 「威嚇、だけだったんだよ」 くだらない結果だった、と年明は続ける。 「この個体は威嚇の声で以前、人間かなにかを追い払ったんだろう。その経験則から、『威嚇で勝てる』と思い込んだ。 それからは威嚇自体も慣れて、でかい声で敵を追い払い続けたんだろう。それ以外、ほかの野良と変わらないよ。君」 と、さっき吼えられたことがある少年に聞く。 「君は吼えられたんだろうけど、それ以外はなにもなかったよね」 「そういえば、吼えられただけだったような…」 と照れくさそう。少年たちがどっと沸いた。ただの実装石と思えばどうということはない。 今は満身創痍で転がっている緑色のナマモノだ。 そのナマモノにウジャウジャと出てきた仔実装たちが群がった。 「ママ!しっかりしてテチ!」 「大丈夫レチュー!?」 体の自由が利かない野良実装はデ、デ、とか細く鳴くだけ。 「野良実装石の問題はそれよりも繁殖力だ」 年明は小学生たちに教え始めた。 「しばらく放置しておくだけで1匹が20匹近くになった。もうしばらくするとこの20匹が仔を生む。 そうしてしばらくすると、何匹かな?」 「え、と400匹」 答えた少年にうなづくと年明は「もう一度、しばらく置いておくと?」と重ねてきくと 「え、と…8000匹、え!」 少年たちは実装の繁殖力に驚いた。 「そうだ、人間が放置しておけば、人間の出すゴミで実装はすぐに増加する。 そして餌がなくなると君たちの家に侵入して荒らしたり、商店の食品を奪ったりする。 そうならないよう、大人は野良を駆除しているんだ」 「そういえば、うちのお父さんも実装コロリを庭にまいていたよ。庭でつくった苺を食べられたんだ」 そうだね、と年明。人間たちをヨソに、野良実装の仔たちは死にかけた親を囲んで血涙を流していた。 「マ、ママが負けちゃったレチュ!私たち皆殺しにされちゃうレチュー!!!!」 「イヤァァァァ、死ぬのはイヤテチャァァァァ!」 「は、早く逃げるテチ、逃げるテチ!」 「無理テチィ、ニンゲンは私たちよりずっと早いテチィ!」 恐怖と絶望に涙しながら、仔たちは泣き叫んだ。 「大丈夫テス!」 自信満々に(血涙しながらも)長女は妹たちを見渡す。テ?と幼い妹たちがすがる様な視線を向けた。 「落ち着いて、お姉ちゃんに任せるテス。みんな助かるテス」 年長の仔実装は、大好きなママに一瞬、視線を向けた。 …行って来ますテスママ 年明たちの前に仔実装が1匹、出てきた。叫ぶでもなく、両手を挙げて人間の注意をひこうとしている。 なにか話していた人間がみな見始めると、一呼吸してから、おもむろに長女は行動を起こした。 あげていた手を一度下ろすと、右手を口元に当てる。 …大丈夫テス、大丈夫テス 自分を励ましながら、長女は続ける。 そ…と小首をかしげる。 …ここで一気に勝負テス! 長女は気合を入れて、テチュ〜ン♪、と鳴いた。 人間たちは静まり返ったまま。 …やったテス!決まったテス! 会心の出来だった。 年明は長女をそっと持ち上げ、後ろの少年たちになにか言う。 …うまくいったテス!ニンゲンは私の魅力でめろめろテスー!家族を守ったテス! 絶望から一転、幸せ回路がフル回転となった。家族の危機を救っただけではない、 人間が彼女ら家族を全部飼うと言い出す。少年たちに妹たちがもらわれていく。 自分はこの青年にママと一緒に飼ってもらえる。野良の生活とはおさらばだ、 見たこともないおいしいゴハンを食べながら、ママと笑顔を見せ合う。 「長女のおかげでみんな幸せになったデス〜。お前のおかげデス〜」 「そんなことないテス〜」 次女の声が、冷たく聞こえた 「お姉ちゃん、しっかりするテチ」 震えるような声だった、気づくと長女は地面に降ろされていた。足元に散らばるのは髪と引きちぎられた服。髪と服。髪と 「テチャアアアアアアアァァァァァ!!!!」 親実装もびっくりの大声で泣いた。長女は年明に手早く禿裸にして放り出されたのだ。 総排泄孔からブルブリブリブリブリー!と派手にフンを出す。 「デギャアアアアア!デジャアアア!!!」 四つんばいになってあらん限りの悲鳴をあげる長女。その様子を少年たちに見せながら年明。 「このように、髪と服は実装石にとって存在意義に等しい。駆除する際、ただ処分するだけでなくて 、他の実装石に見せ付けることも大事だ。人間は圧倒的に強い存在だとね」 それに、媚びをするのは糞蟲と言われる最悪の性根の存在だから、容赦するな、と教える年明にうなづく少年たち。 青い顔色の次女が狂乱する姉を慰めようとしている。その次女がひょい、と年明に持ち上げられ、手袋をした二場に手渡される。 「実装石のしぶとさを知らないかも知れないから、二場に見せさせてもらう」 神妙な面持ちで次女の手足をつかむ二場。テヒャア、テヒャアと次女は首を左右に振ってイヤイヤをするがなす術もない。 長女を除く姉妹は震えながら何がされるのかと見上げている。二場は両手に力を込めた、雑巾を絞り上げるように。 「テチャアアアアアァァァッ!」 ボキボキと骨が砕け、肉が引きちぎられる。内臓がねじれ、体中の穴から体液を噴出させた。 ある程度絞ると、二場は持ち直してさらに絞る。そのたびに魂の迸りのような悲鳴があがり、妹たちはパンコンしながら見上げていた。 「こんなものでいいかな」 「上出来!」 本当に雑巾状にまで絞られた次女は、長女の近くに放り出された。相変わらず長女は髪と服の上で悲嘆にくれていた。 「デッ…、デッ…!」 「デシャアアァァァァァ!!」 「実装石は生命力が強い。これでもまだ死んでいないからね。だから、きっちりとどめを刺す必要がある」 おもむろに年明と二場は片足を持ち上げた。 目だけを動かして、親実装は長女と次女の方を見ていた。 …やめてぇ、やめて、やめてデスッ。私が悪かったデス、思い上がっていたデス!でも仔は悪くないデス! 長女は初めて仔実装で生めた仔デス、次女は賢くて妹の面倒をよく見る優しい仔デス、殺さないでデスゥ!!!」 グチャリと二匹まとめて踏み潰され、体液の飛沫が親実装の顔にかかった。 「こうやって最後はきっちりととどめを刺すこと。それと、死骸は片付けないと他の野良の餌になるから要注意だ」 はい、と少年たちは聞き分けがいい。年明の凶暴に思えた実装に立ち向かう雄姿と、手際の良さにすっかり感心していた。 「じゃあ後片付け、生きているのを含めて、任せて良いかな?」 「うん、大丈夫だよ!」 「僕たちがちいきのちあんを守るよ!」 そうか、じゃあ、と年明は二場とともに空き地を去っていった。 「助かったよ、年明。家に寄ってくれ、母ちゃんが晩飯出してくれるよ 「ああ、君のお母さんの食事はおいしいからね、ご馳走になるよ。それにしてもバールもコロリもわざわざ持ち出すこともなかったな」 「ママッ、マァマ!」 「助けてママテチィャァ!」 1匹は逆さにされて股を裂かれた。1匹は手足の関節を反対方向に折り曲げられた。 テチャァァ! テヒャアーーーーーーーーー! レチュアッ! デジャアアァァッァアァー! 逃げ惑う仔実装。追う少年たち。空き地は、駆除という名の殺戮の場と化した。 ほんの30分前まで、実装親子の暖かい生活の場であったのだが。 両目を潰された仔実装が助けを求めてよたよた歩く。 「何も見えないテチューーーー!ママー!助けてテチュー!」 親指は逃げる仔実装に踏み潰され内臓をまきちらしてレチ、レチと力なく泣いている。 ママ!助けてママ!あいつ等をやっつけて!私たちを助けて! この期に及んで、なおも彼女らは親に救いを求めた。いや、絶望的な状況だからこそ、親にすがるしかないのだ。 文字通り動けない親にしがみ付く仔実装は引き剥がされ、2人がかりで禿裸に剥かれてから両足を捻じ切られた。 親指は鶉(うずら)の卵のように、 …あっさりと… 頭を潰された。あまりにあっけないので実行した少年は拍子抜けした。死骸を親の上に放り出すと、逃げ惑う他の親指を捕まえる。 殺されたか、殺されかけの仔が親の上に積み重ねられる。 …やめて、止めて、ヤメテ!ニンゲン様ぁ!! 親実装は動けない右手を動かして、わが仔の命乞いをした。『媚び』の姿勢をとろうとして。 いくらか賢い仔実装は3匹の仔実装をつれ、1匹の親指をかかえいち早く逃げた。ただその先はわが家。 横倒ししたダンボールの中に泣きながら駆け込むと、ドア代わりの蓋を閉める。 「開けてテチ!私も入れてテチ!オネエチャアァァンン!!!」 入り損ねた仔実装が蓋をたたく。が、中の仔実装はきつく手で閉じたまま。そんな姉に中に入れた妹がたずねる。 「なんで入れてあげないのテチ!」 「いま開けたらみんな危ないテチ!お前も一緒に手伝うテチ!」 ドンドン、と仔実装が外からたたく。 「お願いテチーーーー!死んじゃうテチ!」 「隣テチ!お前は隣に行くテチ!」 「隣は、隣はもうニンゲンにッ…テチャァァァァ!」 絶望しきった悲鳴が外から聞こえる。親指は耳をふさいでしゃがみこんでいた。3匹の仔実装は全力で蓋を押さえ続けた。 外からは相変わらず姉妹の絶叫と助けを求める声と命乞いする悲鳴がこだまする。 「オネエチャンッ…」 血涙を流しながら蓋を押さえる妹は堪らなくなって姉を見ると、同じように血涙を流しながら震えている。 「しょうがないテチ!しょうがないテチ!」 仲のよかった家族だけに心が引き裂かれる思いだ。だが、そうしなければ自分たちまで殺されてしまう! 今外に出ても、私達もあっという間に捕まって…。 近くに人の足音と声が聞こえた。ダンボールを揺する音。 「テチャーーーーーー!」 「殺されるテチ!殺されるテチ!」 「この中にいれば安心テチ!がんばるテチ!」 妹2匹を励ます姉実装。彼女も怖くてしょうがないのだが。 この家族には二つの大きな概念があった。 1つ、ママは強い。 2つ、ダンボールの中は「安全」。 恐怖に震えながら4匹は2つ目を信じていた。 パカッ。 あっさり蓋は開かれた。 「「「「テチャアアアア!!!!」」」」 この世の終わりのような悲鳴。 少年が一瞬、引っかかるような感触を覚えながらもたやすくダンボールを開くと、けたたましい悲鳴を聞いた。 目を見開く野良が4匹、駆除すべき野良がいた。 その中へ、なにかが投げ込まれた。禿裸にされ、上半身だけの仔実装。 血涙、体液、汗、内臓、糞尿、そして恐怖を撒き散らしながら4匹の姉妹の元に落ちる。 泣く姉妹に、その上半身仔実装はしがみ付いた。その重態からは思えない力でしがみつく。 「なんで私を入れてくれなかったデチィィィィィィ!」 ママ、ママと助けを求めながらそのままの周囲で、仔は1匹残らず駆除された。 恐怖がこびり付いた表情のまま、親実装の上に死骸が重ねられた。血やらなんやらで親はずぶぬれだ。 それでも体は動かない。目だけを動かすと、1匹1匹が殺される光景が入ってくる。 夕方になると少年達は帰っていった。死骸を片付けるよう言われたものの、考えればビニール袋がない。 結局、明日も集まることとなった。 人間が去った空き地で親実装は仔の死骸に埋もれていた。いや、1匹だけ死んでいなかった。 死んでいないだけで、生きているとは言えない姿だが。目を潰され、右腕はもがれ、左腕はへし折られている。両足はつぶれていた。 「テ…チ。…マ…マ」 虫の息。親はなんとかこの仔だけでも救おうとしたが相変わらず身動きできない。できても手の施しようもないが。 結局、この仔も絶命した。絶望しきって。 親は声をかけることもできず、夜半最後の仔を看取った。親自身は翌日、ビニール袋に入れられる前にとどめをさされた。 「デジャ」 あとがき 初投稿で何かと至らない点もあるかと思いますが、よろしくお願いします。

| 1 Re: Name:匿名石 2016/11/16-02:47:16 No:00002805[申告] |
| 日常シリーズの原典初作品、投下された当時凄い作者が来たと感心したわ
今読んでも完成度クオリティ高いなと思う |
| 2 Re: Name:匿名石 2016/11/16-09:11:07 No:00002806[申告] |
| 観察系の最高峰、日常シリーズ
しかし終終盤はわりと投げっぱなしの残念な作品が多かった 当時、作者とギャラリーの意識の差があったんだろうなあと考えてしまう |
| 3 Re: Name:匿名石 2016/11/16-20:29:11 No:00002808[申告] |
| 意識の差とか感じなかったけどなあ
渡りの次に1話完結の小話なく渡り2だったとかその渡り2が未完とか残念に思った覚えはあるけど 意識他界作者と単純な話しか求めない読者とか逆とかそういう恨みがましいことは記憶にないな |