売れ残りの飼い仔実装の話 12月も末の頃。 繁華街から少し離れたペットショップでの話。 陳列ケースの下段の隅に入れられた仔実装は酷く怯えていた。 次々と上段の実装紅や実蒼石が引き取られてゆく中、仔実装はもう5ヶ月も売れ残っている。 店に来た人間達は陳列ケースの隅にいる仔実装を見ることも無く、最近流行の他実装種の仔を品定めする。 人間の足が自分のケースの前で止まるたびに 仔実装は必死になってケースの強化アクリル板を叩いて人間に自分の存在を認識させようと試みる。 だが、非力な仔実装の力で叩いても外まで音が届かない。 人間達も仔実装の存在には気付いているが、あえて相手にしようとする酔狂な人間はいない。 いるとしても子供か悪意満点の虐待派ぐらいのもの。 野良実装よりもほんの少しだけ賢い仔実装にはそのことが理解できない。 自分はあらゆる者に愛されている存在だと勘違いしているから。 そのため、来る日も来る日も手の先端が潰れるまでアクリル板を乱打して、 自分を見ようともしない愚かな人間たち(実装石の基準で)にアピールしようと試みる。 仔実装がいつもよりも必死なのには理由がある。 それは今日中に売れなかったら廃棄すると店員から言い渡されているから。 その際、店員は酷く楽しそうに仔実装を脅した。 「とりあえず今日で今年の営業はおしまいだ。 売れ残った仔実蒼や仔実装紅たちは俺が連れ帰って年始の営業まで世話をするが、お前は廃棄だ。 店長も何を考えてこんな生ゴミを入荷したのか分からん。 この時世に実装石をペットにする奴がいるのかい? なあ、売れ残り。」 項垂れる仔実装に容赦の無い罵声を浴びせる店員。 上級ペット実装を扱うこの店に相応しくない無作法な仔実装に店員は冷たい。 ・・・この仔実装は虐待師や実装ブリーダーに躾けられた正式なペット用仔実装ではなく、 素人の虐待派が副業で躾けた三流品。 本来なら通販や虐待派御用達の店に卸される物がここに入荷された理由は分からないが、 大方は店長が消耗品を安く買い叩いた際におまけで押し付けられたのかもしれない。 入荷の経緯はともかく虐待派ではないが実装石嫌いの店員にしてみれば、 陳列ケースの一つを5ヶ月も占拠して売れる気配のまったく無い穀潰しの仔実装は生ゴミ程度の価値しかない。 仔実装としての体格を維持するために成長阻害剤入りの餌を与えられているから 大きさは辛うじて売り物としての規格に収まってはいる。 だが、仔実装の顔は買い手である人間達に散々無視されたために悲哀で酷く歪んでいる。 愛玩動物として相応しくない相貌に成り果てた仔実装は店員の罵声を必死に耐える。 ワタチはえらばれた仔なんだ。 お前ごときには分からなくても、きっとワタチのすばらしい価値に気付くニンゲンが必ずやって来る。 そうすればこんなみすばらしい犬小屋とはおさらばだ。 お前みたいな低脳ニンゲンとも顔をあわさなくても済むようになる。 見ていろニンゲンめ・・・・。 きっと、きっとワタチは幸せになるんだ! 仔実装は店員の心無い罵声に耐えながら心の中で悪態を吐いていた・・・・。 こんな時、悲哀で歪んだ顔は役に立つ。 平時なら思っていることが全て現れる単純明快な顔も、 深刻な顔の歪みが人間に不快を与える表情を覆い隠してくれる。 仔実装は生き延びる為に必死に媚びた。 ただ、それを見てくれるギャラリーは居なかったが・・・。 仔実装の思惑とは裏腹に閉店3時間前になっても一向に仔実装のことを注目してくれる人間は現れない。 今日も沢山の人間がこの店を訪れて買い物をしていったが、誰一人として仔実装を品定めしようとはしなかった。 そんな様子を楽しげに観察しながら作業をする店員と目が合うたびに仔実装はいたたまれない気持ちになる。 どうして・・・・ニンゲン達はワタチを無視するんだ。 こんなにかわいいワタチが必死にアピールしているのにどうして他の出来損ないどもを選ぶんだ!! ・・・・・このままでは・・・ワタチはどうなってしまうんだ? あの低脳ニンゲンのオモチャにされて殺されるのか? 先生の言ってた「ギャクタイハ」とか言う悪魔たちがやるようなむごたらしい苛めをワタチが受けるのか・・・・。 そして・・・・何の楽しいこともしないで苦しんで死ななきゃならないのか・・・? 仔実装は調教師が躾の際に見せた虐待派のもてなしというビデオを思い出して震えた。 そのビデオは素人の投稿物を編集したもので、やってることは虐待師のもてなしに較べれば慈悲深い代物。 だが、物を知らない仔実装にとって同族が虐待されて死んでゆく光景は地獄そのものだった。 それが自分の身に降りかかると想像したしただけで震えが止まらなくなる。 ・・・・・・いよいよ閉店まで一時間に迫る。 店内は閑散としていて、昼間の喧騒が嘘のようだ。 店内にいる人間は仔実装が大嫌いな店員だけ。 その店員は何が楽しいのか、雑誌を見ながら口笛を吹いている。 アピールするにも肝心の人間が居なければ話にならない。 服はジットリと脂汗で湿り、震えが止まらない。 刻々と近づいてくる死神の足音に仔実装は悲鳴を上げたくなる。 だが、ここで取り乱したら死刑執行が早まるだけ・・・。 隣にいた格下(別の飼い仔実装)が待遇の不満を抗議しようとして、 狂ったように騒ぎ立てたら店員に連れて行かれて二度と帰ってこなかった。 体育座りでじっと固まり、ケースの外を凝視する仔実装。 恐怖と絶望でどうにかなってしまいそうな仔実装はただ座って大人しくしているほかなかった。 少しでも無意味に動き回ったら・・・・感情が堰を切ってしまうことを理解していたから。 閉店三十分前。 店員は作業スペースの方で後片付けを始めている。 この分だともうじき仔実装の短い一生が終わる。 カランカラン♪ 軽快な鐘の音と共にペットショップの入口が開いて客が入ってくる。 中年の身なりの良い男は閉店間際の閑散としたペットショップ内をグルリと見回すと展示ケースの方に向かう。 ・・・・・ニンゲンだ。 これが最後のチャンスなのか? このニンゲンになんとかカワイイワタチの素晴らしさをアピールして飼い実装になるんだ! 仔実装はありったけの気力を奮い起こして立ち上がり、悲哀に歪んだ顔を擦ってなんとか皺を取り除こうとする。 そして汗で顔に張り付いた髪を手入れして気合をいれる。 ・・・・・・客の男が仔実装のケースの方に徐々に近づいて行く。 ケース内に残っている仔実装紅や仔実蒼石を眺めながら、少しずつこちらにやってくる。 ・・・・ニンゲンが顔を見せたら、カワイイワタチの一番見栄えのいいポーズを見せよう。 これで駄目ならもう死ぬしかないんだ・・・・。 すべてを出し切って媚びてやる・・・・。 仔実装は立って男の来訪を待つ。 本当にこれが最後のチャンス。 この機を逃せば仔実装に待ち受けているのは、誰にも認められないまま死ぬ惨めな運命のみ。 客の男の足が一番隅の仔実装のケースの有る列にやって来た。 ・・・・お願い・・・ワタチを見て・・・。 仔実装は緊張のあまりパンコンしそうになっていた。 これで男が最下層のケースを見なければそれで仔実装の一生は終わる。 口から心臓を吐き出しそうなくらい動悸が激しくなり、呼吸をするのも困難になりつつある。 ・・・・・客の男が仔実装のケースを覗き込んだ。 「テッ・・・・テチュゥゥゥ〜〜〜ン♪♪♪」 仔実装は全身全霊を込めて、定番の媚ポーズを取った。 ありふれた・・・人間の殺意を掻き立てる行為だが、この仔実装のは少々違った。 定番では厭らしい笑みを浮かべている顔が梅干みたいに歪んだ愉快な泣き顔になっている。 仔実装はここに展示されてから幾度もこれを行って、子供にトラウマを、虐待派に笑いを提供してきた。 客の男は仔実装の痴態を表情を変えずに直視する。 そして何の反応もしないまま仔実装のケースから離れた。 ・・・・・・・終わった・・・。 仔実装は媚ポーズのまま立ち尽くしていた。 客の男は仔実装の展示されているケースから離れると、レジの前に待機している店員に声をかける。 「店員さん、一番隅の仔実装を貰いたいんですが。」 「・・・・・・はい。 ではお客様、実装石飼育免許の提示をお願いします。」 客の男は分厚い財布を懐から取り出すと実装石飼育免許を抜いて店員に渡す。 店員はレジのレコーダーに渡された実装石飼育免許を読み込ませると「○」の表示が画面に現れる。 「ありがとうございます。 お客様、こちらの仔実装で宜しいですか?」 「ええ、これを貰います。」 「では、少々お待ちください。」 店員は作業スペースの方に下がって、仔実装を取り出しに向かった。 仔実装は絶望に支配されていた・・・。 最後の希望だったニンゲンもワタチのすばらしさを理解しないで去ってしまった。 もう・・・惨めに死ぬしかない。 とっておきの決めポーズのまま間抜けに立ち尽くしている仔実装は静かに血涙を流した。 店員が仔実装のケースを開けても、仔実装は動かなかった。 こうなってしまったら・・・どんなに足掻いても助からない。 調教師の下で過ごした地獄の日々がそれを教えてくれたから・・・・。 先生は騒ぐバカな仔を喜んで苛め殺し、騒がず毅然としていた仔を殺さずにどこかに連れて行っていた。 だから・・・・、もしかしたら・・・無様に取り乱さなければ・・・・生き残れるかも・・。 そんな浅はかな打算を胸に仔実装は黙って立っていた。 立ち尽くしている仔実装を店員はビニール手袋を着けた手で掴んでケースから取り出す。 「よかったなぁ、売れ残り。 あのお大尽が惨めなお前に情けを掛けてくれた様だぞ。」 ・・・・・・・・仔実装の思考が止まる。 自分が人間に選ばれて購入されることは辛うじて理解できたが、現実味が湧かない。 まるで夢でも見ているかのように降って来た望ましい結果に唖然としている。 「テ、テェ・・・?」 「あまりのショックで足りないお頭が回っていない様だな。 まあこれで俺も余計な仕事をしなくて済むし、売り上げも伸びる。 お前も念願の飼い実装になれる訳だ。 みんな得してよかったねぇ♪」 意地の悪い店員は最後まで仔実装のことを嘲っていた。 涎や汗で汚れた服を剥かれ、ぬるま湯のシャワーで軽く汚れを落とされた後、 新しい服を着せられて、口に騒音防止用の猿轡を捻じ込まれる。 そして身動きの出来ない小箱の中に梱包されて客の男に手渡される。 「持ち運びの振動で騒ぎ立てない様に口に猿轡を咬ませていますが、窒息の問題はありません。 あと予防接種や登録は最寄の保健所で行ってください。」 「店員さん、他に在庫の仔実装はいませんか?」 「申し訳ありません・・・。 仔実装の在庫はこれが最後でして。」 「そうですか、では会計をお願いします。」 客の男は支払いを済ませると箱詰めの仔実装を連れて夜の街へと消えて行く。 「ありがとうございました〜♪」 店員はシャッターを閉めがてら外まで出て、今年最後の奇特な客を見送った。 時間は掛かったが、お頭の弱い仔実装にもようやく状況が飲み込めた。 自分は飼い実装になれたということを。 これからは苦しいことや悲しいこと、惨めな思いや絶望と無縁な暮らしが約束された・・・。 人間の都合に振り回されて、家族の温もりも楽しいことも奪われる地獄と決別できる。 仔実装ははちきれんばかりの希望を胸に新しい家に着くのを待つ。 今まで苦労した分、いっぱい幸せになろう。 やさしいご主人様に気に入ってもらって、いっぱい愛してもらうんだ。 学校でお勉強していたこの中で一番賢かったワタチならきっと幸せになれるはずだ。 ・・・・・あそこは地獄で、ワタチが売られていたところも酷いところだったが、これからは違う。 ワタチは一番だ♪ ご主人様のお気に入りなんだ♪ これからは毎日やさしくて見る目のあるご主人様にかまってもらっていっぱいいっぱい幸せになるんだ♪ はやくワタチの新しいお家に着かないかな? 何からしてもらおう? 美味しいご飯、あったかいお風呂、気持ちいい寝床・・・・どれも素敵で迷っちゃう♪ でもわがままをいったら嫌われるかも・・・。 先生もご主人様には最大の礼をもって尽くせっていってたし・・・・。 でも大丈夫♪ご主人様は先生みたいな悪魔じゃなさそうだし、とても良いニンゲンみたいだから。 輸送用の小さな箱の中で果てしない妄想を展開している仔実装。 起死回生で手にした幸せに酔いしれて飼い実装としての教えを忘れ始めている様だ・・・。 新しい住処に辿り着いた仔実装に待っていたのは美味しいご飯でも温かいお風呂でもない。 過酷な仕打ちだけだった。 男の家について早々、箱から出された仔実装は自分に相応しい待遇を要求した。 だが、返答として返ってきたのは仔実装が吹っ飛ぶほどのデコピン。 「テジュアッ!!!」 突然の痛みに仔実装は訳も分からず泣き出してしまう。 男は泣き叫ぶ仔実装のことなど構わずに仔実装の服を剥ぎ取る。 「テェェェェーーーーーーーン!!!テチャァァァーーーッ!!!」 大切な財産を奪われた仔実装は狂ったように泣き叫び、奪われた服を返せと喚き立てる。 すると男は仔実装の服を割り箸で摘まんで仔実装の頭上でブラブラさせ始める。 「テチュウァ!!テチュウ!!テジュイィ!!!ジジゥィィィ!!!」 仔実装は必死になって服を取り返そうとジャンプを繰り返す。 頭上の服は仔実装がギリギリ届かない場所を漂い、どんなに足掻いても奪い返すことは叶わない。 愚鈍な仔実装はいいように飼い主となった男に持て遊ばれる。 男が仔実装と戯れ始めてから20分。 精根尽き果てた仔実装が荒い息を吐きながら悶えている。 濡れ雑巾の様にぐっしょり汗を掻いて、息も絶え絶えに頭上の服を取り返そうと頑張る仔実装。 男は生あくびを吐きながら仔実装の痴態を眺めている。 何時まで経っても成果を出せない仔実装に男は飽き飽きしてきた。 そして、 「なあ、仔実装。 このみすぼらしい服がそんなに大切か?」 男は突然、仔実装に声を掛けた。 仔実装は初めて男から声を掛けられたことに驚きつつも自分の権利を主張する。 「テ・・・テジィ!!」 猛烈に頷いて答える仔実装。 疲労でプルプル震える両手を突き出して、服の返還を求める。 「そうか・・・・。 ではお前に問おう。 この服と飼い実装として生きること、どちらが大事?」 仔実装は固まる。 いきなり最終審判じみた選択肢を投げ付けられたのだから・・・・。 「早く答えろ。 どちらが大事?」 仔実装は青くなって震え始める。 何なんだ・・・このニンゲンは・・・。 「早く答えろ仔実装。」 男は凪の海の様に静かな声で仔実装に問いかける。 ただ淡々と何の感情も込めずに。 「テ・・・テェェ・・・。」 「どちらだ仔実装?」 今まで見てきた人間のどれとも違う男の行動に仔実装は恐慌状態になりつつあった。 ・・・・・10分が経つ。 「どちらだ仔実装?」 男は静かに淡々と仔実装に問い続けていた。 あまりの恐怖に仔実装は呻くことすら出来なくなっている。 調教師の様に怒るわけでも無く、ペットショップの店員の様に嘲笑うわけでも無い。 静かに仔実装の答えを待ち続ける男は仔実装にとって恐ろしい存在になっていた。 答えを出さなかったらご主人様は永遠にワタチに問い続けるだろう・・・。 何がしたいんだ・・・・このニンゲンは・・・。 どちらもワタチにとって大事に決まっているだろうが! 片方を選べなんてどうしてそんな無法を言うんだ!! 男の自分に対する態度に段々腹が立ってきた仔実装は立場を忘れて抗議を始める。 「テテジャァ!!テジュゥゥゥ!!!テッチィ!!テチュアテチィテテッチュア!!!」 「どちらだ仔実装?」 「テチャァァァーーーー!!!テチュウテチュウテチュゥゥゥゥゥーーーー!!!」 「どちらだ仔実装?」 「テェェェ・・・・テチャァ!テチュテテチュア!!・・・・・テチィ・・・テ・テエェェ・・・。」 自分の怒りに対してもまるで反応しない男に仔実装はどうしていいのか分からなくなってきた。 頭を抱えて丸まり、これが夢であって欲しいとすら思うようになっていた・・・。 折角飼い実装になれたのにどうして・・・・・。 服も飼い実装であることもどちらも大事だ・・・・。 どちらか片方選ぶなんて出来ない・・・・。 分からない・・・どう答えていいのか分からない・・・。 誰か教えて・・・・どう答えたらいいの・・・・・。 黙っていても事態は好転しない。 正座で座り、机の表面を凝視している脂汗まみれの仔実装はもうどこかに行きたい気分だった・・・・。 罰と称してお友達を苛め殺した悪魔の様な先生も、顔を合せる度に罵ってきた出来の悪い店員も このご主人様に較べれば分かりやすい連中だ・・・・。 あいつ等はワタチの様にカワイソウな仔を苛めるのが大好きな邪悪なニンゲン。 でもこのご主人様は違う・・・・・。 何がしたんだか分からない、ワタチにどうしろと言うんだ?! 仔実装は万策尽きて上を見上げる。 男は相変わらず無表情のまま仔実装を見下ろして問い続ける。 「どちらだ仔実装?」 「テェェェ・・・・・。」 仔実装は男に土下座をして許しを請おうとした。 ワタチに出来ることはもうこれしかない。 いっぱいいっぱい謝って、許してもらおう。 何が悪いんだかわからないが・・・・。 テチテチ啼きながら何度も頭を下げる仔実装を見ても男は態度を変えず、 今まで通りに淡々と問い続ける。 「どちらだ仔実装?」 「・・・・・・テ・・・テチャァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!」 追い詰められた仔実装は突然立ち上がると、奇声を発しながら机の上を走り出す。 男はパンコンしながら走る仔実装の右耳を器用に割り箸で摘まんで吊るし上げる。 「へギギギギギィィーーーー!!!チャブアアアアアアアアアァァーーーーーッ!!!」 「俺はお前に質問しているんだ。 服と飼い実装でいることのどちらが大切なのかとな。 簡単な質問だろう? 服を捨てるか、自分が捨てられるかを選べばいいのだから。」 「テギギギギギィィィ・・・・テジュブゥ!」 粗末な顔を痛みと苦悩で歪めて仔実装は悶える。 恐慌状態に陥って考えることすら侭ならない仔実装が声を上げるたびにモリモリとパンツは膨らむ。 男に買われるまでは飼い実装になれれば幸せになれると夢と希望が膨らんでいたのに、 現実は不安と恐怖で糞を洩らして無様にパンツを膨らませるだけだった・・・。 服か自分の未来、どちらかを選べと男は言う。 仔実装にしてみれば無茶な要求だ。 折角手に入れた夢への切符を捨てられないし、実装石の証である服も捨てられる物ではない。 どちらも仔実装にとっては切捨てられない大事なもの。 だがどちらかを切り捨てなけらば仔実装に未来はない。 さらに時間は経過する。 仔実装の顔色は極度のストレスで青黒く変色し、既に生者の顔色ではない。 男の質問は続いている。 多少知恵の回る者ならここは服を諦めて飼い実装になることを選ぶのだろうが、 この仔実装はそれほど要領も良くなければ頭も良くない。 手にした物は全て自分の物、それを諦めるなんてことは思いつけない性質なのだろう。 「どちらにするのかな、仔実装? 服を捨てて飼い実装として生きるのか? それとも服を取り戻して野良として生きるのか? どちらだと聞いているんだ。」 「テ・・・・・テチィ・・・・・・。」 「俺はお前の答えが聞きたいと言ってるだけ。 何も難しいことは言っていない。」 粗末な顔に深い苦悩の皺を刻みつけた仔実装は飼い主を睨みつける。 男は相変わらず感情の篭らない声で仔実装に問いかけている。 極度のストレスで偽石が自壊寸前の仔実装のことなど気にかけることも無く淡々と同じ質問を繰り返す。 仔実装が答えを出せばこの地獄から開放される。 仔実装にもそのことは分かっているがどちらを選んでも自分は損をすると思い込んでいるから選べない。 自分がまったく損をせずに利益だけを欲するから決断できない。 ・・・・・仔実装が答えを明示しない限りこの質疑応答は終わらないだろう。 仔実装が家についてから1時間半が経つ。 正座して男の顔を見つめる仔実装の視線は既に虚ろ。 体の震えも止まらなくなり既に瀕死なのは明白。 「さあ仔実装、いいかげんに答えを出さないと死ぬぞ。」 「・・・・・・・・・・・・・・ェ・・・・」 「何?」 仔実装は意を決して男に答えを明示しようとしたが・・・声が出ない。 口を魚みたいにパクパクさせながら胸を押さえ、窒息したみたいに苦しむ仔実装。 苦しむ仔実装を見ても男は一切顔色を変えず、手も出さない。 おねが・・・・い、くるしい・・たすけてぇ・・・・。 仔実装は血涙を流しながら飼い主である男に向かって手を突き出す。 どんなに訳の分からないご主人様でも苦しむ自分の飼い実装を見捨てるはず無いと思って。 だが、男はまるで動こうとしない。 無表情で苦しむ仔実装を見下ろしている・・・・・・・。 仔実装は啼きながら宙を掻き、自分を選んでくれた飼い主を求める。 生きたい、生きて幸せになりたいと思って。 ・・・・・段々仔実装の動きが緩慢になり、手を上げるどころか膝立ちをする力も抜けてしまう。 ペタッとへたり込んだ仔実装はなおも飼い主の救いの手を求める。 だが男の双眸は冷たい光をたたえて仔実装を見つめている。 ・・・・・・・ああ・・・・ワタチは・・・・・もうダメ・・・・なんだ・・・・・。 仔実装は悟ってしまった。 自分はもう助からないのだと。 どんなに泣いても、どんなに怒っても、どんなに駄々をこねても・・・もうどうにもならない。 机の上に這いつくばってピクピク痙攣する仔実装は最後の力を振り絞ってひっくり返り、飼い主の顔を見ようとした。 ・・なにをかんがえているのか・・・よくわからないニンゲンだったけど・・・・ ワタチをえらんでくれた・・・・いいニンゲンだった・・・・。 ぼやける視界に男の輪郭を確認した仔実装は何度か大きく痙攣して動かなくなる。 のけぞって大の字に転がっている仔実装の死骸を男は箸で突く。 腹や目玉、総排泄口に何度か割り箸をめり込ませて仔実装の死を確認する。 「・・・・期待はずれのクズが・・・・。 まあ、500円の叩き売りならしかたないか。」 男はストレス死した仔実装の死骸を箸で摘まんで便所に運ぶ。 洋式トイレの前で死んだ仔実装をバラバラし解体して便器の中に投げ捨てる。 その後、男は仔実装の浮かぶ便器に用を達して後始末をする。 男の小便と共に仔実装だったものは下水に消えていった。 男の虐待は二択を仔実装に提示してどちらかを必ず選択させるもの。 服、髪、声帯、味覚、嗅覚、視覚、自身の偽石と飼い実装として生かされることのどちらかを選ばせる。 男はこのゲームを潤滑に進ませる為に市販の飼い仔実装を使う。 飼い仔実装は人間に依存して生きることを前提に調教されているから後は簡単だ。 大抵の仔実装は自分が削られていくことを理解しながらも飼い実装として生かされる道を選ぶ。 必要最低限の餌と狭い特殊仕様の水槽を住処として与えられるがそれ以外は何も無い。 男は遊んでやるどころか選択の時以外は顔すら合わそうとしない。 苦難を乗り越えるための希望として思い描いていた華麗な生活とは一切無縁の禁欲的な生を強要される。 強制というのは語弊があるか・・・・仔実装自身が選んだ道なのだから。 男は仔実装たちのやせ我慢、満たされな事への悲しみや不条理に怒る様をマジックミラー越しに鑑賞して楽しむ。 反応が鈍くなったり、選択肢をすべて失った仔実装は握り潰されて便所に流される。 男は仔実装が握りつぶされる瞬間に見せる絶望に染まった顔を愛して止まない。 自分が選択した道も、自分が思い描いた生活と違う不条理を我慢したことも、 自分を買ってくれたニンゲンが良いニンゲンだと思い込んでいたことも全てが間違いだったと気付いた時の貌を。 男はそれを見るためだけに仔実装を虐げる。 実装石は面白い顔を見せてくれる楽しいオモチャ。 男に買われた飼い仔実装に待ってる運命は惨く苦い。
