タイトル:夢を見ていた 1/7
ファイル:夢を見ていた01.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:4791 レス数:0
初投稿日時:2006/06/21-03:28:29修正日時:2006/06/21-03:28:29
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 ○はじめに

 『 楽園 』及び『 青い部屋の中で 』の作者ですが

 旧感想掲示板に指摘が有りましたので、不快に思われる方はスルーを推奨します。

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『 ここはどこなんだ…。 』

自転車に跨りつつ、高台から街並みを眺めた。
一面の田畑に点在する住宅。
扇状地特有の傾斜と緑の山。
左眼下には少し大きな公園。
申し訳程度の小さな商店街。
特徴らしい特徴の無い景観に溜息をついてしまう。


俺は一ヶ月程前に退職して今はプータロー。
残業手当無しの超過勤務に嫌気が差したからだ。
その時は上司に辞表を叩きつけ、しばらくのんびりするつもりだった。
溜まった録画ビデオやテレビゲームを消化しようと。
だが、いざ仕事を辞めて遊ぼうすると、あまり面白く思えなかった。
ビデオを見てもゲームで遊んでもつまらない。
そこで俺は自転車で日本一周旅行を思いついた。
俺も今年で二十代後半に突入する。
最後に、身体を鍛えなおすという意味も兼ねて決めた。
奮発して少し高めのマウンテンバイク(MTB)を購入。
サイドにバックを取り付け、簡易寝袋その他荷物を積んだ。
日本一周と決めたが細かい計画は立てていない。
ただ大まかに東西南北の進路を決めただけだった。


そして10日目の今日。
俺は見知らぬ田舎町に辿り着いた。
探しているのは安い宿。
別に野宿でも構わないんだが、しばらく風呂に入ってないんで汗臭いし身体が痒い。
たまには奮発して宿を利用し熱い風呂に入って布団で寝ようと思った。
だから近くに泊まれる所は無いか、誰かに聞いてみる必要が有る。

『 ん…。 』

高台の傍にある芝生で何かが動いた。
子供…にしても身体が小さい、緑の服を着た小人。
実装石が1匹、傾斜になった芝生に座って眼下に広がった街並みを眺めている。
その後姿が見えた。

『 なんだ、実装石か。 』
「 デェ…? 」

俺が独り言を漏らすと、ソイツは俺の声に反応して振り向いた。
見るからに野良実装らしく、着ている服は汚い。
匂ってくるようで近寄りたくも無い。

『 ま、いいか………おい、お前。この辺に安いホテルか宿は無いか? 』
「 デス……デェス、デスデス。 」

ダメだ、何を言ってるかさっぱり分からん。
そもそも実装石が街の宿泊事情に詳しい筈が無い。
そんな事少し考えれば分かるのに……どうやら俺も疲れてるらしいな。

『 じゃあな。 』

何か言ってる実装石を後にして走り去った。
俺は今日の宿をどこにするか、今はそれで頭が一杯だ。



少し回ってみたが、生憎この街には宿泊施設が見当たらない。
ユースホステルなんて都合の良い所も無い。

『 ……また今日も野宿か。 』

俺は肩を落とすとMTBを手で押しながら歩いた。
時刻はそろそろ午後三時。
今から宿泊施設の有りそうな街まで間に合いそうに無い。
そもそも現在位置すら分かってない。


『 すみませ〜ん!この辺で泊まれるところって有りませんか? 』

農作業をしてた地元の人に声をかけてみる。

『 いいや、この辺に民宿とかは無いね〜。 』

予想通りの返事だった。
一応、何人か聞いて回ったが付近に宿らしい宿は無い。
半分諦め、今夜は寺の軒先を借りて野宿しようかと決めかけていた。


『 この街に宿は無いよ。 』

5人目に聞いた気の良さそうなおじさんも同じ返事だった。
農作業中、額から流れる汗を拭っている。

『 …そうだ、ウチに泊まってくかね? 』
『 え…? 』
『 息子達は都会に出ていって、部屋は余ってるんだ。 』
『 そんな、悪いですよ…。 』
『 はは……それじゃ、少し仕事を手伝ってくれんかね?
  その代わりに宿と飯を出そうじゃないか。 』

見ず知らずの人の所に泊まるのは流石に抵抗が有ったが、
労働の見返りとしてなら良いかもと思う。
俺はMTBを道端に置いて手伝いをすることにした。



『 ……ふぁ〜………よく寝た…。 』

久しぶりの布団での睡眠は極上だった。
あの後、俺は日が暮れるまで雑用をして、おじさんの家にやってきた。
元々地主だったらしく、家はとてつもなく広かった。
しかし住んでいたのはおじさんと、やはり気の良いおばさんだけ。
この初老の夫婦は久しぶりの来客が嬉しかったらしく、精一杯俺をもてなしてくれた。
溜まっていた洗濯物まで洗ってくれたのには感謝の言葉も無い。


『 すみません、朝食まで…。 』
『 構わん、構わん!さぁ、若いんだからどんどん食べんさい! 』
『 えぇ、お代わりは遠慮なく言ってくださいね。 』

夜が明けたら直ぐに出て行くつもりだったが引き止められた。
朝食までご馳走になっては、益々感謝し足りない。

『 それで急ぎの旅かね? 』
『 いえ、全然です。適当にのらりくらりとアテも無く、な感じです。 』
『 ならどうだね?しばらく此処に泊まっていったら? 』
『 これ以上、迷惑はかけられませんよ。 』
『 はは、今日も仕事を手伝ってもらおうと思ったが、残念だわい。 』

おじさんは朝から元気に笑いながら食事を進めた。

『 …そうだ、お兄さん。もし良かったら……時間が有ったらお仕事頼まれてくれない? 』

ふと、おばさんが味噌汁をすすっていた俺に話しかけてきた。

『 え……何をです? 』
『 近所の友達に頼まれたんだけどね……私じゃ、どうにもならなくて。
  あなたみたいに若い人の手を借りたいのよ。 』
『 その仕事って何です? 』

『 それがね…実装石には詳しかった? 』

『 実装石って……実装石ですよね?それがどうかしたんです? 』
『 私の友達がね、実装石を飼ってたんだけど……一昨日から居なくなっちゃったのよ。 』


おばさんが言うには、近所の友達が実装石を飼っていた。
親実装が1匹、仔実装が2匹。
その親実装はペットショップで買った高級品。
働いていた頃の月給の半分が吹き飛ぶような価格には驚かされる。
その親実装と産まれた仔実装の3匹が一昨日、突然居なくなった。
飼い主が留守をしていて、家に帰った時には姿が見えなかった。
それまで家出するような素振りは全く無かったという。


『 つまりね、その居なくなった実装石を探して欲しいの。 』
『 え……実装石を、ですか? 』
『 私もこの人も、今は手が空いて無くて……時間が有るなら頼まれてくれない? 』

正直なところ、俺は実装石に詳しくない。
犬や猫とは違って普通に飼えず、躾をするのが非常に難しいと聞いた。
なぜなら非情に利己的で欲望丸出し、しかも微妙に知能が高いために人間を馬鹿にしてるという。
以前、野良実装を何度か間近で見た。
だが臭いし汚いし餌をねだるで、二度と近寄るまいと心に決めた。
その実装石を探すとなると……。

『 実装石だから、そんなに遠くまで行けるとは思えないのよ。
  この街のどこかにいると思うから……どう? 』
『 ……俺、実装石の見分けなんてつきませんよ? 』
『 それなら大丈夫、その実装石達はね…服に刺繍をしてるの。見れば一目で分かるわ。 』
『 どうだい、兄ちゃん?家内の言うこと、頼まれてくれんか? 』

一宿一飯の恩義とも言うし、今のこの夫婦の頼みを断るのは気がひける。
こうして世話になったからには何かしらの形で返さないと。

『 …見つけるなんて約束できません……が、それで良ければ。 』

確かに旅を急いでなんかなかった。
小休止して、もう少しくらいこの街に滞在してもいいだろう。
このような事情で俺は実装石探しをする事に決めた。




『 はい、これが写真ね。 』

出かける時、おばさんから飼い実装3匹が写ってる写真を貰った。
なるほど、胸の真っ白な布地に目立つ刺繍が縫いこんである。
実装石という生き物は服を非常に大切にするらしく、
捨てたりしないから今も同じ服を着てるだろうと言われた。

『 実装リンガル…こんな物まで使わなくちゃいけないんですか? 』
『 飼い主もね、家に実装石がいないんじゃ持っていても仕方ないでしょ?
  それじゃ、今日の夕飯はご馳走用意させてもらうから。 』

更に実装石相手ということで金平糖を貰った。
店で買うと高いから、という心遣いだ。
こうしてMTBに跨って外出……だが、どこに行けば良いのだろう?
何か当てがある訳でもなく、その飼い主の家から周辺を走り回る。
商店街から一つ道を逸れると人気は全く無い……が。

『 …あれだな。 』

ポリバケツの影へ隠れるように座り込んでいる緑色の物体。

『 ちょっといいか? 』
「 デェ? 」

俺を見上げる実装石の緑の服は所々汚れていて、お世辞にも清潔とは言い難い。
近寄ると、その実装石独特の臭いが鼻につく。
しかし野良実装にしてはまだマシな方なんだろう。
実装リンガルのスイッチを入れた。

『 最近、飼い実装を見なかったか? 』
「 デ……デェ……それより…何か食べ物欲しいデスゥ…。 」

腹が減って満足に話すこともできないらしい。

『 仕方ないな……これでどうだ? 』

俺は下げていた袋から金平糖を一つ取り出して見せた。

「 よ、よこせデス!なんでも聞きやがれデス! 」
『 だからな、飼い実装を見なかったか?親子連れの3匹だ。 』
「 か、飼い実装なんて見てないデス!それより、それより! 」
『 おらよ。 』

持っていた金平糖を実装石の足元へ投げ、すかさず喰らい付く。

『 また、ここに来るが、その時までに飼い実装を見かけたら教えてくれ。
  その時はお礼にもっと金平糖やるから。 』
「 デス!デス! 」

金平糖にしゃぶりついている実装を後にして、別の場所へ向かった。

他に何ヶ所か裏の路地を回って実装石を見つけ、飼い実装の聞き込みをした。
しかしどの実装も知らないと言い張り、にもかかわらず金平糖を催促してきやがった。
単なる迷子実装探しかと気楽に引き受けたが、この聞き込み作業は意外にストレスが溜まる。

「 あ〜、知ってるデス……あいつらの事デスね? 」
『 知ってるのか!? 』
「 教えてやらんことも無いデスが………何か忘れて無いデスゥ〜? 」

デププ、と醜い笑いをしながら露骨に見返りを要求してきた。
俺は世間で言う虐待派では無い。
だが、このあからさまな足元を見た態度にブチ切れそうになった。
今直ぐにでも目の前の糞虫に地獄を見せてやりたい。
しかし、俺は辛うじて理性を総動員すると糞虫に金平糖を一つ出して見せた。

『 渡す前に言っておく……嘘だったらどうなるか分かってんだろうな? 』
「 デッ…! 」
『 本当だったら金平糖はお礼だ、もっとやろう。だが嘘だったら……命は無いと思え。 』

それだけ言うと俺は、金平糖を糞虫の方へ差し出した。

「 デ……デッ… 」

俺の手の上の金平糖を取るか取るまいか、中途半端に手を伸ばしたまま糞蟲の動きが止まる。

『 どうした、教えてくれるんだろ〜?早く取ったらどうだ?
  ……まぁ、嘘だったらこの場で八つ裂きだけどな。 』
「 デ……デェ…ッ! 」

結局糞蟲は手を伸ばすのを止めると、膝をついてしゃがみこんだ。

『 いいか、よく聞け……今回だけは、お前を生かしておいてやる。
  だが次に会う時まで死に物狂いで飼い実装についての情報を手に入れて来い。
  …分かったな!? 』
「 デギャッ!! 」

金平糖を持っていた手を握って拳を作ると顔面に殴りつけた。
悲鳴を上げて転がるが、立ち上がると慌てて駆け出し去っていく。
俺は追わないし、それ以上の事をしようとも思わない。
どうせ今の糞蟲なんて次に見ても他の実装石と見分けがつかない。
だから別れる前にムカついた分、一発殴ってやっただけだ。

他にも態度がムカつく糞蟲が多数居たので殴る、蹴るの粛清をしてやった。
俺は自身を寛大な方だと思っている。
それでもある一定以上のムカつく糞蟲には容赦なく手を上げた。
殺さなかったのは、せめてもの情けだろうか。




『 …やっぱり、ここかな。 』

街にあるペットショップ前で自転車を留めた。
実装石どころかペットなんて興味無いから一度も入ったことすら無い。
ただ、ムカつく実装相手ばかりの事情聴取ではストレスが溜まる一方なので、気分転換も兼ねて入ってみた。

『 いらっしゃいませ。 』

店内には若い女性の店員が1人、他に客はいなかった。

『 あ、お客じゃなくて……聞きたいことがあるんだけど。 』
『 …はい、何でしょう? 』

俺は3日前から行方不明になっている飼い実装の事を話した。
ひょっとしたら、ここに迷い込んでいないかと。
見ると、店内にはペット用の実装石がちらほら。
ケージから、こちらに向かって手を振ってアピールしてる。

『 …分からないですね。
  当店は専門の業者から入荷してますので、迷子の実装石が店頭に並ぶことは無いです。 』
『 そっか…親実装と仔実装2匹の合わせて3匹なんで。
  もし見かけたら、手間かもしれないけど連絡してもらえないかな? 』
『 はい、それは構わないですよ。それらしい子達を見たら連絡しますね。 』
『 すんません…それでは失礼。 』

客でもないのに丁寧に対応してくれた店員さんへ一礼すると、俺は店を後にした。



『 そういや、こっちにも生活してるって聞いたな。 』

向かったのは街の河原だった。
河川敷には実装石のコロニーが形成されていると前に聞く。
しかし堤防から野原を見下ろしていても、それらしいのは余り見えない。
予想に反して、川原に実装石の姿は見当たらなかった。

『 …あれだな。 』

暫くして河川敷の野原で仔実装2匹を遊ばせている親実装を発見。
平たい野原で、仔実装2匹が走り回っているのが見える。
もしかしたら俺が探してる飼い実装達かもしれない。
MTBで降りていくと、こちらに気付いて遊ぶのを止めた。

『 ちょっとお前ら…! 』
「 デ…デェ!み、みんな逃げるデス! 」
「「 テチー! 」」

親実装が声をかけると、一目散に俺から逃げ出した。

『 待てったら! 』

俺は自転車で逃げ道を塞いだ。
所詮は実装石の逃げ足、回り込むのは簡単だ。

『 安心しろ。大丈夫だ、何もしない。 』
「 デ……デェ…。 」

仔実装達を後ろに隠し、自ら盾になって守ろうとする親実装。
人間に対する警戒心と仔実装達に対する愛情から、それなりに賢い奴らのようだ。

『 最近、飼い実装が出歩いてるのを見たこと無いか? 』
「 ……か、飼い実装デス? 」
『 そうだ、親と子供2匹で合わせて3匹。見たこと無いか? 』

顔を見合わせる親実装と仔実装達……こちらを振り向くと、顔を横に振った。

『 …そうか、怖がらせて悪かったな。 』

この3匹は俺が探してる実装石では無さそうだ。
MTBから降りて、金平糖を一つづつ手渡す。
だが始めて見るためだろうか、仔実装達は食べ物か分からず不思議そうに見ている。

「 …本当に普通の金平糖デス? 」
『 疑い深いな……んぐっ。 』

袋から取り出した一つを摘み、口の中に入れて見せた。
それを見て、親実装も口の中へ……仔実装達も口の中へ入れた。

「 美味しいデス! 」
「 ママ、甘いテチュ! 」
「 こんな美味しいの始めてテチー! 」

緊張感が取れたのか、金平糖の甘さにすっかり騒いでいる。

『 なぁ、これなんだが…本当に見たこと無いか? 』

更に大家さんから渡された飼い実装の写真を見せた。

「 ……見たこと無いデス。お役に立てなくて申し訳ないデス…。 」
『 いや、知らないならいいんだ。……しかし、さっきはなぜ逃げたんだ? 』
「 それは…虐待派のニンゲンかと思ったからデス。 」

この街にも虐待派の人達がいて、時々同属達が殺されるらしい。
それでこの親子は、あまり同属がいない河川敷へやってきたと言った。

『 この辺は、あまり実装石はいないのか? 』
「 やっぱり公園が多いデス。食べ物を集めるのにも、子供を産むにも便利デス。 」

しかし、この親子は安全を求めて河川敷にたどり着いたらしい。
公園に比べて不便かもしれないが、子供達のため。
よく見れば、親実装も仔実装もなかなか服を清潔にしている。

「 しかし飼い実装デスが…。 」
『 どうした? 』
「 多分、公園の方には居ないと思うデス。
  公園の実装達は飼い実装をとても嫌ってるデス…そんな所に行ったら、無事じゃ済まないデスよ。 」
『 なるほど…。 』

その辺の事情は知らなかったので、親実装の助言は有りがたい。

『 それじゃ、また来る。もし飼い実装を見かけたら後で教えてくれ。 』
「 分かったデス、後で教えるデスね。 」
『 教えてくれたら後で、もっと金平糖やるから。 』
「 分かったテチー。 」
「 テチュー。 」

俺は親子実装を後にMTBを走らせた。

その後、他の路地裏や河川敷を回り、何匹かの実装石達に話をすることはできた。
だが、どの実装石も飼い実装なんて知らないと言う。
所詮は実装石だから嘘も平気でつくのは分かってるが、金平糖で釣っても知らないと言い張る。
金平糖欲しさに嘘をつく実装石もいたが浅はかなため、少し問い詰めると簡単にボロを出した。
その時は容赦なく殴る蹴るを繰り返す。
そうしてるうちに、日が暮れてきた。


『 すみません、見つからなくて…。 』
『 いいわよ、そんなに簡単に見つかるとは思ってなかったし……はい、サービスしといたわよ。 』
家に帰ると、おばさんさんが揚げたてのトンカツを持ってきてくれた。
明日こそはと気合を入れてトンカツを頬張る。



だが、翌日も何の進展も無かった。
やはり路地裏や河川敷、空き地などを見て回ったが、飼い実装は居ない。
飼い実装を見たという実装石の情報も無い。
他に一つだけ、実装石の集まる場所が有ることは有るが…。

公園の事を思いつつも、俺は河川敷へ来た。

『 飼い実装は見たか? 』
「 ゴメンなさいデス…ここでは見かけなかったデス…。 」

親実装は俺の姿を見ても、逃げずに挨拶を返してくれた。
すると木陰のダンボールから仔実装が出てきた。

「 こんにちはテチー。 」
「 テチチー♪ 」

俺の足元に来て、手を振って挨拶をしてくれる。

『 そうだ、これは土産な。 』

リュックの中からパンの耳を一袋出すと親実装に手渡した。
ここへ来る前に商店街のパン屋で貰ってきた物だ。

「 えっ……!あ、ありがとうデス…! 」

親実装はパンの耳が詰まった袋を両手で抱えると、大喜びで頭を下げてお礼を言う。

『 あぁ、ここじゃ食べ物を探すの大変かと思ってな。 』
「 これで当分、食べ物には困らないデス! 」
「 テー♪ 」

食べ盛りの仔実装2匹を食べさせるのは大変なんだろうな。
しかしこの親実装、食べ物が多くても何日も分けて食べる事にしている。
小奇麗な服装といい、やはりそれなりに賢い個体らしい。

『 いつもは食べ物、どうしてんだ? 』
「 ここにある草や花を食べているデス。
  もしくは、ここから少し歩いた所にあるゴミ捨て場で探すデスよ。 」

周りの河川敷は草が生い茂っている。
しかし美味そうには見えない。

『 …それで今日はまた他に聞こうと思ってな。 』
「 デス…? 」

俺は近くにあった大きな石に腰掛けた。



『 なぁ、本当に飼い実装は公園に行かないか? 』
「 普通は行かないデス…。 」

隣に座っている親実装に、実装石の生態について教えてもらっていた。
そもそも俺は実装石について知識はほとんど無い。
だから、この親実装からのアドバイスは非常にありがたかった。
何しろ、実装石自身からの情報は人間経由よりある意味確実だ。
俺の事を危険な人間ではないと判断したのか、今は仔実装達も近くで安心して遊んでいる。

「 飼い主が一緒に居ればいいデスが、実装だけで公園に来るのは危ないデス。 」

河川敷実装も何度か見てきた。
公園に迷い込んだ飼い実装が、野良実装によってリンチを受け、犯され、喰われ、殺されるのを。
そんな危険な場所へ飼い実装だけで行くのは危険すぎる、と言う。

「 オニイサン、いっしょに遊んでテチー。 」

仔実装の一匹が近寄ってきた。
俺のズボンを裾を引っ張って誘っている。

『 悪いな、今はママとお話中だ…後で遊んでやるよ。 』
「 あっちで遊んでいるデス 」
「 テチー… 」

仔実装は残念そうに俯くと姉妹の方へとぼとぼと戻っていった。

「 …子供達がいるなら尚更デス。あんな危ない所へ飼い実装は行けないデスよ 」
『 ん…。 』

自分も何度か、公園に足を入れた事は有る。
そのたびに実装石達が群がってきて、大変なことになった覚えがある。
あんな場所へ、温室育ちの飼い実装が向かうとは思えない。
しかし他に居そうな場所は無いし……。
俺は立ち上がると、ポケットに手を突っ込んだ。

『 あんがとよ、子供達にも分けてやってくれ。 』

河川敷親実装の手に金平糖を一つまみ渡した。

「 こんな物まで……あ、ありがとデス! 」
『 いいさ、これからもまだまだ教えてもらいそうだからな。 』

渡したのはパンの耳一袋と金平糖一つまみ。
聞き込み一つに少し奮発しすぎかとも思ったが、この親実装は他と違って話がしやすい。
今までの糞蟲共の聞き込みの後なら、それくらいは惜しくないと思った。
それに飼い実装探しが続くなら心証良くして損は無いだろう。



『 ここか…。 』

公園の外にある駐輪場にMTBを止めてるだけで、実装石達の声が聞こえてくる。
声を聞くだけで気が重い。
俺は虐待派で無いが、愛護派でも無い。
公園の入り口を抜けると、早速何十匹も足元に群がってきた。

「 おいニンゲン、高貴な私を飼うデス! 」
「 なにか美味しい食べ物を寄越すデス! 」
「 今なら特別に私を飼わせてやるデス! 」

なんかもう、回れ右して帰りたくなってきた。
一瞬、探索を中止して、おばさんにどうやって謝るかを考えてた。

『 おら、どけどけー、近づくと危ないぞー。 』
「 ブギャ! 」

棒読みで警告だけすると蹴飛ばす。
別にサッカーボールを蹴るとまではいかないが、潰れない程度に蹴ってやった。

「 ギャ! 」
「 デギャ!! 」

地面を転がっていく実装石達。
辺りがデスデスと文句を言ってるらしいが、リンガルを見る気にもなれない。
少し歩いたところで、小奇麗なベンチに腰掛けた。

『 ふぅ…。 』

なんか疲れた。

「デッスーン♪」
「デェスデス!」

足元には、尚も何かを恵んでもらおうとする実装、子供を見せて可愛さをアピールしている実装。
周りを見れば、実装石だらけだ。
うんざりだが、今の状況は有る意味好都合かもしれない。

『 おい、お前ら〜、飼い実装を知らないか? 』
「「「 デスゥ? 」」」
『 仔を2匹連れた親仔だ。この中で知ってる奴はいないか〜? 』

ここで金平糖を出して餌で釣る気は毛頭無かった。
仮に出したとしたら、騒ぎで収集が付かなくなるのは目に見えている。

『 本当に誰も知らないか〜? 』

何回も聞いてると興味を無くしたのか、回りから実装石達は立ち去っていった。
結局残されたのはベンチに座る俺一人。
ここで少し考えてみる。
そもそもこの公園だけで、何百匹といるに違いない。
どうやったらこの中から3匹を見つけられるというんだろうか。
1匹1匹探す手間を考えるだけで嫌になってきた。



「 デギャアアアア! 」

帰ろうか俯いて考えてると、悲鳴を上げながら一匹の実装石が走ってくる。
後ろには4匹の、やはり実装石。

「 捕まえたデス! 」

逃亡実装は、丁度俺の目の前で服を掴まれて転んだ。

「 世話を焼かせるなデス! 」
「 デププ…馬鹿をいたぶるのは最高デス♪ 」

よってたかって、1匹の実装石に4匹の実装石が殴る、蹴るの暴行を始める。

「 ギャアアア!た、助けてデスゥゥゥゥ! 」

俺の存在に気付いてだろうか、それとも無意識だろうか。
地面で横たわって蹴られ続けながら、此方へ手を伸ばして助けを求めている。
別に助ける義理も理由も無いんだが…。

『 ……仕方ねえなぁ。 』

立ち上がると、リンチ現場に近寄り声をかけた。

『 なぁ、その辺で止めとけ。 』
「 うるさいデス!馬鹿ニンゲンは黙ってろデス! 」

リンチにすっかりヒートアップして話を聞く耳は無い。

『 これでどうだ? 』

俺はポケットから金平糖を取り出した。

「「「デ…!」」」

途端に暴行の手が止まる。

『 一個づつだ。 』
「 も、もっと寄越すデス! 」
『 ならお前たちにはやらない。別の実装石にやるかな…。 』
「 く……それで手を打つデス! 」

実装石達は逃亡実装をこちらに蹴飛ばすと、金平糖を持って走り去っていった。

『 大丈夫か? 』

地面でボロ雑巾のように横たわっている逃亡実装が、よれよれになりながらも立ち上がる。

「 た……助かったデス…。 」

今のリンチも有るが、服は結構汚くて、色々な場所に染みが付いている。
それに下着も綺麗とは言い難い。
実装石にとっては大切な髪の毛も今はボサボサ。
小奇麗な河川敷親子実装と会った後では、かなり見劣りする。

「 ご主人さま、ありがとうデス。 」
『 …お前を飼うつもりは無い。 』
「 それは残念デス……けれど、助けてくれて本当にありがとうデス…。 」

逃亡実装は、埃だらけの身体を払うこともなく、ペコペコと何度も頭を下げてきた。

『 別に構わん、じゃあな…。 』
「 ま、待ってくださいデス!せめて何か、お礼させて欲しいデス! 」

ふむ、なかなか義理堅い実装石だな…と思ったら、その目が金平糖の入ったポケットへ向いてやがる。

『 ちゃっかりしてるな、お前は。 』
「 え?え?な、な、何の……こ、ことデスか…? 」

慌てて視線を逸らしてとぼけようとするが、目が泳いで更に墓穴を掘っている。
余りにもお人好しというか下心が見え見えで裏表が無さ過ぎた。
コイツは絶望的に嘘をつくのが下手だ。
実装石はもっと悪賢いと思ってたんだが…こうも馬鹿で哀れだと逆に怒りも湧いてこない。

『 ……ま、いい。一応聞いてみるが……最近、飼い実装を3匹見なかったか? 』
「 飼い実装デスか…?見たことないデス…。 」
『 3日前から、ここに来たとか、話を聞いたこともないか? 』
「 聞いたことも無いデス…。 」
『 そうか……そいつは、かなり頭の良い実装石らしいんだ。
  しかもかなり上品らしい。
  そんな、頭が良くて上品な実装石の噂も聞いたことないか? 』
「 それは知ってるデス! 」
『 なに、マジか!…で、その実装石はどこに!? 』
「 ここにいるデス! 」

逃亡実装は胸を張って自分を指差した。

『 ………。 』
「 突然頭をおさえて、どうしたんデス? 」

軽い頭痛と目眩に襲われた…その原因の存在に心配される。
もし俺が虐待派だったらコイツ、今の時点で死んでるぞ。

『 …じゃ、元気でな。 』
「 え!?何か変な事言ったデス? 」

言ったさ…だが、ここは敢えて言葉を飲み込んで話を続けた。

『 他に…そうだな、飼い実装が行きそうな場所が有ったら教えてくれ。 』
「 この公園の他では……実装石が集まる場所は知らないデスゥ 」
『 …だろうな。
  わざわざ人間様が探してんのに、どこで何をやってんだか…。 』

結局今日も何も成果は上がらず。
溜息と共に報告を待っているであろう、おばさんへの言い訳を考える。
前もって保障はできないと断っておいたものの、やはり見つからないと申し訳ない。
二日連続成果無しでは晩御飯に箸を伸ばし辛い。
豪勢な夕飯ほど、悲しい事に肩身が狭い。

「 帰れないのでは…デス? 」
『 あ、何だって? 』

まだ傍に居た逃亡実装が意味の分からない事を言い出した。

「 外に出て行って、家に帰れないのではないデスか? 」
『 なんで帰れないんだよ。 』
「 とっても怖いところにいるかもしれないデス 」
『 怖い所って何処だよ?どんな所だよ、ソレって…。 』

「 実装石が帰りたくても帰れないような……怖い場所デス 」


『 帰れないような怖い場所…? 』



「 そうデス、とっても怖い場所デス……まるで……悪い夢のような……… 」








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