やさしい群れ 前 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「デ!デシャァァァァァァ!!デスッ!デェーデェェェェッ!!オロロ〜ン…」 実装石達は屯しているが、人気だけは無い公園に実装石の声が響く。 雨風や人間を避けるために、草むらの低い植え込みの中に隠したダンボール箱…。 親実装がハイハイをしてようやく入れる高さしかない箱… そして、親と何匹かの仔実装たちがそのまま横になって寝てしまえば一杯いっぱいの空間。 何の加工もしていない500mlペットボトル飲料の空き箱… そこに掻き集めた古新聞や包装紙を中に敷き、外側に買い物袋を被せて石を置いて支えただけの物。 本当に雨風を凌いで寝られるという役割しかなく、それすら不自由な空間…。 それがささやかな彼女達一家の家であった。 ちゃんと寝ている間の雨を避け、篭っている間は風を少しは避けて寒さを和らげてくれた。 だが、それは今、1人の人間によって無残に引き摺られている。 親と数匹の仔は、服に腐食した様々なソースがこびりつき模様となった汚い身なりで、 今は、親仔ともども、髪を”1本”にまとめられ、人間の反対の手からぶら下げられている。 「テチャチャ!レチィィィィ!」 「レヒレヒッ!レヒャァァァァァァ」 箱の中からもまだ、声が聞こえている。 人間が引き摺る箱の中にも、まだ、小さな仔が何匹が居るのだ。 男が引き摺って行った先には、様々なダンボールが山となっていた。 山の傍にはもう1人の男が立っていた。 その山に男が、彼女達の家を投げ込む。 「レチァァァァー!!」 「レフゥゥゥゥゥ!!」 「デ!デスデスデスゥ!!」 彼女は、まだ、中に居る我が仔が心配で、思わず手を伸ばして叫ぶ。 だが、集められたダンボールの山からは、同じような小さな仔や親指や蛆実装の鳴き声が響いている。 そして、山の傍には、大量の体液と肉塊も転々と残っており、 破られた服の山と髪の毛の山もあり、3つの山それぞれに、 それを前に呆然と座り込む”禿裸実装”達が居た。 何匹かの禿裸は、ダンボールの山に取り付き、懸命に引っ張り出そうとしている。 すると男は、彼女達を手にしたまま、ツカツカと彼らに歩み寄り、 『フン!』と彼らを一蹴し、倒れた彼らを容赦なく踏み潰した。 もう1人の男も、そう言うものを見つけては同じ事をしている。 「「デ!デデェェェェェ」」 彼らは同様に安住の家を奪われ、ましてや生命線の服や髪をも奪われたのだろう。 小さすぎる仔や蛆などは、家の中から出られないように閉じ込められたままにされた。 そして、それでも反抗の意志があったり、家を取り戻そう、家の中の仔を助けようとすれば、 容赦なく肉塊に変えられるのだ。 そして、彼女達一家も、その運命が待っていた。 親から順に髪を乱雑に力任せに引き抜き、服を破りながら剥き、さらに目の前で細かく裂いてそれぞれの山に置く。 彼女の仔達は、それを右往左往しながら騒いでいると、男の表情が緩む。 彼女は、髪を失ったショックで漏らししがみ付いて泣く仔を抱きかかえて共に震える。 男の1人が、それぞれの山にアルミホイルの物体を髪の山に1つ、服の山に1つ、ダンボールの山に4つと埋め込んでいく。 そして、その後からゲル状の着火剤を派手にまいた男が、まず、髪に火をつける。 ボウ…激しく、一気に火が巨大になる。 その様子に慌てた何匹かの親仔が慌てて駆け寄る。 「デスゥゥゥゥゥ…デエッ!デギァァァァァァ」 「テッスゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…」 「ジベジァァァァァァァ!!」 途端に何匹かが火達磨になって走り出す。 その中に彼女の仔も2匹程含まれている。 続いて、破られた服の山にも火が付くと、やはり何匹かがそれに駆け寄り火に包まれる。 「ジベベベベベベベベベ」 燃える着火剤に踏み込み、燃えながら走り回る仔がぶつかった彼女の仔にも火が移り、火達磨でのた打ち回る。 「デッヂャァァァァァァ!!」 「テチィ!テチャテチャテッチャー」 「デスゥ!!デスデスデス、デスゥー」 彼女は、他の仔と手を繋ぎながら、その仔を何とか助けようとするが、 燃える着火剤が付着した事による火は、仔が転がりまわっても簡単に消えるものではないし、近寄る事も出来ない。 無理に消そうとした違う仔も火が燃え移り大火傷を負った。 そうしている間に家にも火が付けられ、至るところであらゆる絶叫が起きた。 やがて火が消えると、後には灰と焼死体が点在していた。 生焼けの生き残りは呻きながら助けを求めて這い続けている。 飛び込まなかったものは、全てを失ったショックで「デー…デー…」と崩壊しているか、 あらゆる液をあらゆる穴から噴出させ、駄々をこねる様にジタバタするか、 同じ禿裸どうして抱き合って、これから待つ絶望に天を仰いでいた。 狂って訳のわからない歌を歌いながら踊りだすヤツもいれば、 生き残り根性丸出しで、焼けた死体を食いだすヤツもいる。 彼女の仔達も、勇敢にも燃える家から親指や蛆達を助けようと火に包まれ、 または、火が移って走り回る者達の混乱に巻き込まれて燃えるか踏み潰された。 『どれどれ…いい具合に燃えたが、どれが一番美味そうだ? まぁ、ダンボールのヤツが一番なのは判っているけど、その代替で実装石は使えるのかな?』 『ペッ…服はダメだな…とにかく枯葉と比べても燃えるのが早すぎて生焼けだ。 髪は…うーん、この臭いがしなけりゃぁ服よりマシ程度だな。 結局、実装石は焼き芋にすら使えないって事だなコリャ』 『身体を燃やすには一旦ぶっ殺して逃げないようにしないと火事騒ぎにもなりかねないしな… 結局、清掃で集めたダンボールが手間も掛からず一番美味いって結論になっちまうか… それでも、こうして突っ込んで燃えるやつも居るから監視する手間も掛かっちまう。 落ち葉集めしたほうが格段に楽というのも変わらないな…はははは』 灰を前に呆然と足を投げ出す彼女の元には、 踏まれて足が潰され、頭も陥没し脳味噌を飛び出させて息絶えた仔と、 焼けて彼女に向かって手を伸ばす焼死体が2つほど、 そして、彼女の足の上に抱えられた、まだ息はあるが、彼女の知能でも助からないのが判る火傷で呻く仔だけが残った。 男は、その混乱と絶望の光景を眺めて満足そうに笑うと、ホカホカの芋を手にその場を後にした。 季節は冬の気配も迫る秋の寒空… 家を失った禿裸実装には、つい数十分前まであったつつましい幸せも、思い描いていた薔薇色の未来図も無く、 何処にどう逃げて何をしても逃れる事の出来ない絶望の現実と、安楽な選択肢の存在しない未来だけが残された。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− どれだけ彼女はそうしていたのだろうか…。 足の上に仰向けに寝かされていた火傷の仔が「テチッ…」と何かを言おうとして事切れた。 既に周りに何匹か残っていた禿裸実装達は、精神崩壊して「デー…デー…」と定期的に鳴くだけになったものを除いて、 狂っているものも絶望したものも、それぞれ、この場を去っていた。 この場に留まる事は死を意味する。 騒ぎの後には、この公園で被害に会わなかった者が様子を見に来るからだ。 彼らに見つかれば、まず、奴隷扱いを受ける事は避けられない。 だが、何処に逃げようと、再生する事の無い髪と服を失った実装石に安住の地は無い。 しかし、死や苦痛と言うものを極端に嫌う彼らは、それを理解しているのか居ないのか、 とにかく、この場に留まる事を避けたのだ。 計算できない未知の未来と、結果の計算できる未来では、 命が掛かっている時に限り保守的な彼らも未知の未来のほうを選択する。 そして、彼女も、やがて、死んだ我が仔を地面に降ろし、他の我が仔だったモノをキョロキョロと見やると、 寒空の下、寒さに凍える身体を震わせ、トボトボと力なく歩き出し、 長く住み着いた公園を後に、行く当てもなく彷徨う事にした。 秋風の吹く街は実装石には厳しく、彼女にはより厳しかった。 肌に直接当たる寒い風は、容赦なく体温を奪い、 あるかどうかも疑わしい自律神経が自然と身体を震わせ、体温の低下を防ごうとする代償に体力を奪い、動作を鈍くする。 あんな、頼りない服でも格段に違うことを思い知った。 手入れも出来ない無駄に豊かな髪が、見た目だけでなく生き残りに大切なものである機能性を思い知った。 人波を避けて彼女は、建物の壁沿い、路地の裏などを通っては見るが、 禿裸は、人間の目にも目立ってしまう。 同情して優しくしてくれる人間と出会うなどという三流ドラマみたいなことは、彼女達の夢の中の出来事でしかない。 「デッチャチャ〜♪デスデスデス、デッスゥ〜ン♪デ!?デデ!!デバァ!デズッ!デチャー… デェェェ…デスッ!?デズァァァァァァ…(グチャ)」 「デェェェェェンデェェェェン、デスデッスゥ〜…デスッ♪デッススゥ〜♪デチャ!デェェェデェェェ!(ガコン!)」 先に公園から出た禿裸達が、盛んに人間に媚びてみたり、悲劇のヒロインを気取ってみたりしているが、 雑踏から蹴り出され逃げるうちに車道で轢かれるか、捕まえられ実装回収箱に投げ捨てられる。 『おい禿裸だぜ、キショー!』 『バカ、キショカワイイとかで飼ってるやつ居るぜ、おもしれー、ほらほら、何か芸しろよ』 『あれはちゃんと髪あって服も着てるけど、コレはないよなぁ、あははははは おれなら、犬か猫飼うぜ?』 「デス!デデ…デスゥゥゥゥゥ」 『逃げたぞ生意気な…』 『あははは、にっぶーい!本当にキショイなコレ!うわ、糞撒いて走ってるよ!』 『どこがいいんだコレ?キショカワイイじゃなく本当にキショイだけじゃん…クセーし』 『本当本当、撒き散らすなよオイ!』 ゲシ!「デッスァァァァ、ゲゴポァ!デスッ!デスッ!」 彼女も、小学生の悪戯で追い掛け回され、浅い側溝に突き落とされた。 幸い、側溝に流れる水は彼女の腰までしかなく溺れる心配は無かった。 『それ、そっちに行ったぞ!爆弾投下だ!』 ドポーン! 「デェェェ!デスッ!デスッ!デズゥゥゥゥゥ」 『ほら、超高速ミサイル連射だぁー!ドドドドドーン!』 チャポン、チャポン、ベチッ!ベチッ! 「デスデスデス…デギャ!デジァ!デエエエエエエ、デェェェェェン…」 そのまま、物を投げられ追い掛け回されるうちに、小学生達は飽きたのか居なくなり、 彼女は、そのまま一本道の側溝を彷徨って、何とか落ちているゴミを足場に側溝から脱出できた。 だが、濡れた事で寒さはより厳しくなった。 彼女は路地裏を彷徨い、途中、落ちているビニール袋を苦労して歯を使って加工して、 ただ身体に巻き付けただけの代物ではあるが、身体を覆う服や頭巾を作った。 それでも、一旦濡れて風を浴び、冷え切った身体には風を通さないビニールは実装服以上の暖かさを与えてくれた。 飢えに耐え、寒さを堪え、ビルの隙間や、住宅の庭先の植え込み中や家の下の空間で睡眠をとりながら歩いた。 先に先住者が居て、禿裸の彼女は激しく追われることもあった。 カラスに追われることもあった。 それでも、彼女は目的地の何もなく歩き続けた。 街に餌が落ちているというのは、今の彼女には幻であった。 禿裸ではない頃の彼女の過去の話であった。 生ゴミやコンビニなどのゴミ箱は、服のあるものが占拠し、彼女が取り付く暇など無い。 路地の隅、冬眠し損ねてカラカラに乾いた蛙の死骸や、車に撥ねられた同族の死体の一部が口に入るのが贅沢だ。 それでも、彼女は彷徨い、人気も実装気も少ないところがあるはずと捜し求めた。 「デスゥゥゥゥゥン…デェェェェェン」 贅沢は言わない…今の自分でも、誰にも迫害される事なく生きて行ける小さな場所が欲しいと願った。 また、安心して仔を産んで仲良く生きて行けるたけでいい… それは小さな願いではあるが、同時に願う事自体が彼女には贅沢である。 そうして、人気を避けて何日も歩き続けるうちに、住宅も閑散とした郊外にたどり着いた。 とりあえず人気も少なく、それだけに人に寄りかかった生活をする実装石達の気配も少ない。 彼女は何日も怯え隠れる生活を続けた為か、それが判ってくると、 いつしか堂々とした態度で遠足気分になって歩き出していた。 寒さにもある程度馴れ、今日は朝、ゴミ捨て場の近くで、カラスが取り出して突付いた後か、林檎の芯を見つけた。 まるで、これから先にツキが回ってきて、良い事しか起こらないような気分になり、 時折、林檎の芯に残る果肉を歯でカリカリ擦り、芯をチュパチュパ吸ったり舐めたりしながら、 「デ〜デロッゲ〜♪デ〜デロッゲ〜♪」と上機嫌で歌すら口ずさんでいた。 今日1日、また、あの家の屋根(縁側)の下で休ませて貰おう… 明日は、もっと人の居ないところへ歩いて、そこで仔を生み育てるんだ。 そうして、ある家の庭に入り込んで堂々と歌いながら横断し、縁側に向かう。 機嫌が良くなりすぎて、ここは優しい人間が自分の為に提供してくれているのではないかと錯覚したのだ。 縁側の下でも十分だが、そこにある通風孔は業者が忘れたのか格子が外れていた。 ここに潜り込めば、立派な隠れ家として安心して寝られる…。 これも、錯覚を引き起こす要因であった。 『ずいぶんとご機嫌だな糞蟲が…』 「デスゥ!!」 彼女は突然後ろから声を掛けられ、ビクッと飛び跳ねる。 ゆっくりと振り向く彼女の目に、覆いかぶさる巨大な人間の影…。 人間が怒りに口の端をヒクヒクと震わせながら立っていた。 その様子に只ならぬ空気を感じながらも、まだ、隠れ家を人間に提供してもらったという思考が残っているのか、 彼女は、つい口元に手を当て「デッス♪」と媚を見せた。 彼女にとっては「場所を貸してくれてありがとう」の意味を含んでいた。 それがさらなる男の怒りを買った。 『この糞蟲がァ!てめぇは好き勝手してご機嫌だろうが、こっちはせっかくの誕生日が台無しなんだよ!! 家の下からのてめぇの糞の臭いと五月蝿い歯軋りで、ようやく彼女を家に誘ったのにムードぶち壊しだったんだよ!』 男の怒りが相当なものらしく、容易に捕まえられる実装石相手に大声で怒鳴りつけた。 「デッデ!デデッ!デッスゥー!!」 流石に危機を理解したのか、彼女は大慌てで林檎を投げ捨てて駆け出した。 目の前の縁側の下に入れば、大きい人間は入ってこれない…そう思った。 だが、縁側の下に入ったが、隠れ家への穴には、今朝まで穴の横に立て掛けてあった鉄の格子が嵌っていた。 「デデェェェェ!!デス!デス!デスゥゥゥ」 彼女はその格子を外そうと引いたり押したり、すがりつくようにして叩きもした。 『今朝から朝一番で、業者を呼んで中を掃除させ直させたんだよ! ノコノコ鼻歌歌いながら堂々のご帰宅とは、禿裸にされたクセにずいぶん図太い野郎だなぁ!?』 「デスゥ!?デッスゥゥゥゥゥン」 縁側の空間だけでは彼女に人間の手から逃れる術は無い。 『クソッ!よりによってこんな糞禿裸の所為で、俺の大切な誕生日が台無しとな!!』 「デギャァァァァデッギャァァァァァ」 引きずり出された彼女は、パニックで暴れ、糞をポタポタと下に落とし続けた。 男の顔に皺が寄り鬼の形相となる。 『このまま、握りつぶされるのがいいか?』 「デ!デギィィィィィ!」 彼女は首を横に振る。 そんな死に方は嫌だ。 『じゃあ、殺さないように延々と針筵の刑だな?』 「デェェェ!デギャッ!デギャッ!」 彼女は首を横に振る。 何か良くわからないが、人間になぶられるのは嫌だ。 『じゃあ、手を切って焼いてから解放してやる』 「デッギャァ!デスッ!デスッ!デスッ!」 彼女は首を横に振る。 そんな事をされたらゴハンもまともに食べられなくなってしまう。 『なら、何もしないけどお仲間の多いところに帰してやるよ』 「デスゥゥゥゥ!デッ!デッ!デッ!デッ!」 彼女は首を横に振る。 ナカマの居るところに放されたら、ワタシはウンコ奴隷か蛆ちゃん奴隷になってしまう。 『禿裸にされた糞蟲の癖に贅沢なヤツだ…なら、俺と一緒に昨日の寂しくなった俺の誕生日を祝え!』 「デッ!?」 彼女は考えた。 今までの中では一番まともな選択のようだった。 潰すとか殺すとか切るとか…怖い言葉が入っていない。 きっと、人間は私の姿に心変わりをしたのだ…これは飼ってもらうためのフラグ? 「デス!デス!デス♪デス♪デッスゥ〜ン♪」 そんな事を考えて首を縦に振った。 それを見た男の顔がニヤリと笑った。 彼女には、それが愛情の篭ったさわやかな白馬の王子様の笑顔に見えた。 男は、早くも媚びたり手に甘えるように触ってくる、醜いビニール袋巻きの禿裸実装を箱に降ろすと、 手を洗ってから、それを車に乗せて車を走らせる。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 車に揺られる時間は数分であった。 車が止まり箱が乱雑に下ろされると、中で跳ね回る彼女は抗議の声をあげた。 気分は、すっかり飼われている気分だ。 そして、箱が開けられ外に出されると…そこは広い荒野にゴミの山があるだけの場所だった。 郊外の産廃業者の敷地で、管理がずさんで不燃物ゴミや様々なゴミが違法に捨てられている場所だった。 この近辺に家が少ない理由の1つでもあった。 「デスゥー…」 見慣れない光景に唖然とする彼女に男が声を掛ける。 『さぁ、誕生日の祝い直しだ。 ブチ壊されてダウンした俺の気分を盛り上げてくれよ…まずは歌えよ…さっきのご機嫌な歌をよぉ』 彼女はそういわれて、気を取り直して歌いだした。 「デ〜デロッゲ〜♪デ〜デロッゲ〜♪デスデスデッスゥン♪デ〜ゲロッ♪」 彼女は男を楽しませて一気に虜にしようと張り切った。 歌を要求するという事は、自分の歌に聞惚れていると言う事だ。 絶対にメロメロに出来る。 彼女は、バタバタ、ガサガサと踊りもつけて張り切った。 男はそれを耳をかきながら目線を他所に向けていた。 『ぜんぜんダメ!カス以下…そんなんじゃ、真っ暗闇に堕ちた俺の気分は陽の光を浴びないんだよ!』 「デェッ!」 懸命に乗り気でやって否定される事も、実装石にはショックが大きい。 『そう…暗闇には”火”の光が必要だ…それに誕生日はケーキに蝋燭を立てるんだよな…』 男はそういうと、喉を涸らし、踊り疲れ、さらに否定で追い討ちを受けた彼女を掴み上げる。 『お前は上機嫌だったよな…命に関わる髪と服を失っても、こうして服をこさえてのうのうと… 俺の希望を奪ってほくそえんでいたんだろう!!底辺カスの実装石の中でも生きる価値の無い禿裸のクセに!! ほらほら、先に俺からの誕生日プレゼント返しだ!!』 男は、彼女の身体に荷造り用のビニールの幅広バンドをぐるぐる巻きにする。 気をつけの姿勢で、その手の上から…。 瞬く間に、足の僅かな部分を残して手の自由を奪われた実装巻きが完成する。 そして、細い紐を胴体に括りつけると、地面に落ちている鉄の棒を地面に突き刺して立て、 鉄の棒で折り返して、頭に結びつける。 コレで彼女は、鉄の棒から身体に伸びる僅かな範囲しか動けなくなった。 足も僅かしか露出していないので、そもそもまともに歩けもしない。 そして、男は、彼女の背中に細い仏壇用の和蝋燭を一本バンドに挟み込んだ。 『テメェのその耳掻き程度の脳味噌とプライドなんか、蛆ちゃんに食わせちまえ…』 そこで、鈍い彼女にも何が行われるか理解が出来たのだ。 「デッギャァァァァァァ!!デスゥ!デスゥ!デスゥーン」 約束が違う…そう言う抗議だろうか絶叫を上げる。 『ハッピバースデー♪オーレー♪ ハッピバースデー♪オーレー♪』 男は歌いながら蝋燭に火を灯す。 「デギャッ!デギャッ!」 背中に感じる熱に泣き叫び慌てるが、足も自由ではなく紐もある。 だが、火はまだ上のほう、体からは遠い。 『ハッピバースデー♪ディア オーレー… ハッピバースデー♪オーレー…グスン…』 やがて蝋が溶け出し身体に垂れてくる。 「ジギャァァァァァ」 和蝋燭の熱い蝋が、ビニールを溶かし肌を焼きながら染み込む。 『お前にも俺の気分を味合わせてやるよ…真っ暗闇の無限地獄をなぁ…』 男が言うとおり、これは無限地獄の責めであった。 只でさえ実装石が格別恐れる火と熱をジワジワと味合わせる。 「ジャバァァァァァ!ジェェェェェェェ…」 短くなった蝋燭の火が頭のビニールを直接焼きだすと、ビニールが燃え広がり溶けて焼きつく。 そして、その火が頭に結んだ紐を焼き切ると、彼女はようやく、紐の制約からは解き放たれ、 パタパタと短くされた歩幅で走り…いや、歩き回る。 『楽しいよなぁ…もっと俺を祝ってくれよ…』 歩き回る程度の速さでは火は消えない。 さらに、パニックで無意識に転ばないように注意してしまう。 やがて、身体のビニールにも火が点いて、ようやく彼女は転んで、そのまま転がるという考えに至った。 だが、ビニールは非常に焼けていくのが早い。 「デチァァァァァ!デズッ!デッズゥ!デボッデボッデボッ…ジビャァァァァァ」 ビニールの焼け溶け、肌に癒着する痛みと、有害な煙にむせながら、ようやく足も自由になった彼女は、 半火達磨でせわしなく駆け回った。 そして、再び転んで転がっては起き上がり駆けて転ぶ。 涙を水鉄砲の様に撒き散らし、糞も漏らし放題、そしてその上を転がりまわる。 その努力で火が消えても、痛みで何度もその動作を繰り返している。 『バカな事をしたものだ…こんな事じゃ俺の心の闇は晴れはしない…』 男は、興味が失せたという風に、ピクピク糞の海に寝転がる彼女を放置して去っていった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 派手に火が点きこそしたが、ひどいのは背中や後頭部の直接火が点いたり、高温の蝋に晒された所が殆どである。 後は、身体の大部分が皮膚を焦がし、ビニールが溶けて癒着して収縮で締め付けられている。 それでも、表面だけなので実装石の生命に直接的な危機ではない。 ただし、痛みは癒える事無く延々と彼女を苦しめる。 皮膚下では再生能力が維持されるが、皮膚上は焼かれた事によって再生機能が発揮されないからだ。 「デッ…デッ…デジャァァァァァン…」 彼女は身動きもとれず天を仰いで、己の不幸を嘆き、 この不幸に不自由で苦しいだけの肉体とゆっくりと訪れる死の恐怖に泣いた。 風が当たってすらツンツンと突き刺さる痛みが襲う中、 「デー、デー、デー」と定期的に呻くだけとなった彼女。 寒さも増すが、身体を覆っていたビニールは、今や彼女の身体と同化して保温どころか苦しめる道具となった。 仰いだ天は既に暗く、郊外ではっきりと見える星々が、彼女を嘲笑っているように瞬いていた。 「デスゥ!?」 そんな精神崩壊が始まった彼女を覗き込む者が居た。 実装石…それも服も髪もある同族… 彼女は、己の更なる不幸を呪った。 何故こんなに苦しい死が待っているのか…自分が何をしたというのか… 家を奪われ、仔を奪われ、追われ恐怖し、甚振られ…挙句に同族にこんな無様な姿を見られ、 嘲り殺されるか、食われるかだなんて…。 「デェェェェェェェ…」 彼女は自分の不幸を弱々しく泣いて覚悟を決めようとした。 このまま死のう…諦めればこんな痛いのが終わるんだ。 だが、そう思えば思うほど、いわゆる偽石の崩壊からは遠ざかっていた。 崩壊は、突発的なショックにより生と死の極論に対し二律背反な精神状態が偽石を蝕んでオーバーロードさせていく現象だ。 通常、本能が目先の生に執着する実装石が、生きることに執着しながらも死の魅力に惹かれる状態が理想である。 極論の両方を得たいという、ある意味、実装石ならでは強欲さが自身の精神を殺す状態だ。 彼女は…熟慮した上で死を願っているので崩壊などしない。 自身の意志で割れているように見えるが、そんな権限は実装石の肉体のほうには存在しないのだ。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「大変デス!ニンゲンにやられたデス!?ヒドイ傷デス… 待っているデス!ナカマを呼んで来て助けてあげるデス」 その言葉に、彼女は目を丸くした。 本当は飛び上がって驚きたいところだが、身体の自由はもう無い。 こんな自分を、この実装石は助けると確かに言ったのだ。 「心配するなデス、ワタシ達はとても厳しい世界で助け合っているデス。 弱ったりしたナカマを見捨てはしないデス…ここのナカマはとてもやさしいデス。 ニンゲンにヒドイ目に遭わされたのなら、なおさら放っては置けないデスゥ。 ワタシ達には当たり前の事デスゥ…助けが来るまで気をしっかり持つデス!!」 彼女は半信半疑ではあったが、それでも心の奥底から湧き上がる感情を抑えられずに、 一旦は枯れ、流す気力を失った涙を盛大に流した。 彼女達こそ、私に用意された約束の世界…こんな姿になった自分に手を差し伸べてくれる… ここなら、あの彼女とナカマの元なら、また、失われたモノを取り戻せると…。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− やさしい群れ … つづく
