タイトル:【馬】 便槽ネタにつき、スカ苦手な方はスルー願います
ファイル:便槽のヌシ.txt
作者:匿名 総投稿数:非公開 総ダウンロード数:3170 レス数:0
初投稿日時:2006/11/24-23:26:45修正日時:2006/11/24-23:26:45
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9月も下旬となった夜更け、俺は山頂近くの人造湖を訪れた。
別に妙な目的ではない、ごく普通に夜釣りを楽しむためだ。

ここは紅葉狩りに訪れる行楽客のために大きな駐車場を備え、
その一角に大きめの公衆便所が建てられているので何かと都合がいい。
いわゆる”ボットン便所”なのは残念だが。

こんな山の中の便所が汲取り式なのは当然なのだが、
ここのものは便器の穴から下の便槽の様子がうかがえる、昔ながらのボットン便所だ。
最近の汲取り便所は、個室内だけでも水洗の体裁を整えているものも多いというのに…

それでも、テトラポットの隙間や草むらに身を隠して用を足すよりは遥かにマシだと言える。
以前、海の夜釣りでテトラポットの隙間に落ちたときなどは死ぬかと思った。
同行していた友人に助けてもらわなかったら本当に死んでいたかもしれない。



「ふううーっ」

用を足し終えた俺は腰を上げながら、何気なく便器の穴から便槽を覗き込む。
怖いもの見たさという奴だ。

だが、これが幸いした。

ここの便器の穴は、子供なら下手をすれば中に落ちてしまいそうな程に大きく、
そのおかげで電灯の明かりが微かに便槽の中まで届く。

そして薄暗い明かりの中、糞尿に浮かぶ使用済みティッシュの間からのぞく、
黒くて四角いモノ…

慌ててズボンの後ろポケットに手をやる———

無い!財布が無い!あれは…俺の財布!?

まいった…身体中の力が抜けていくのがわかる。

水面、いや糞尿の面まで2m近くありそうだ。
随分と深い…行楽シーズンに合わせて大容量にしているのだろうか?
とても今夜持って来た手網では届きそうにない。

駐車場に他の車がなかった、今夜ここにいるのは俺だけだ。
誰かに知恵や手を借りることもすら出来ない。

この場をしのげる程度の現金は車に入っているが、
カード類の使用停止と再発行の申請、免許証の再交付、etc...
種々の手間を考えると頭が痛い。

今日はもう釣りをする気にもなれない…帰るとしよう…



肩を落として便所から出た俺が目にしたのは、
車の中を覗き込もうとしている実装石の親仔だった。

こんな夜更けに何故、とも思ったが、おそらく俺の車の音で目を覚ましたのだろう。

『ニンゲンさん、こんばんはデス』
『こんばんはテチ。何か食べるものを分けてもらえませんかテチ』
『お腹ぺこぺこテチ、お願いしテチ』

車で来ている人間=餌をくれる人間、と思っているようだ。
観光客の餌やりはあちこちで問題になっているし、
それについては俺たち釣り師も耳が痛い部分もある。

ただ、携帯電話のリンガル・アプリに表示された文字を見る限り、
こいつらは親も2匹の仔も善良な個体に思える。
夜中に起こしてしまった迷惑料ということで飴玉ぐらいはやるべきか…

いや、待てよ…こいつらを使えば…






「しっかり頼むぞ」

『怖いテチ……』
『気をつけるデス…』

釣り糸の先に縛り付けた仔実装をゆっくりと便槽の中に下ろして行く。
仔実装の頭には鉢巻のように発光チューブを巻きつけている上、
俺自身もヘッドランプを装着しているので中の様子がかなりよくわかる。

深いだけでなく広さも相当なもののようだ。
この便所は男子用の個室だけでも3つある。
女子用のものはそれ以上の数があるだろうから、この広さも当然か。

『ゆ、揺らさないでテチ!』
『気をつけるデス!』

心配した親実装が便器の穴を覗き込もうとする。
狭いんだから寄るなよ、手元が狂うだろ?

こいつらに前払いとして飴玉をやると、二つ返事で俺の申し出に応じてくれた。
もちろん成功報酬だってたっぷりと約束してある。
弁当、チョコにジュース、要するに車の中の食い物全部だ。
場合によっては町で報酬を買い足して来てやったっていい。

糞尿に浮かぶ使用済みティッシュの上に、仔実装を静かに着地させる。
ここからの作業は迅速かつ慎重に行う必要がある。
下手に揺らしたりしたら、財布が糞の中に沈んでしまいかねない。

「仔実装、お前の足元に黒くて四角いものが見えるな?」

『はいテチ、ニンゲンさん』

「それをしっかりと抱えるんだ。絶対に放すなよ?
  放したらHHKRだからな」

『HHKRって何テチ?』

「禿裸にして公園にリリース、ってこと」

『テチャ!?』

脅しが効いたのか、仔実装の手際は実に素晴らしかった。
素早く財布を掘り出し、しっかりと抱え込む。
これで、後は引き上げるだけだ。



ボットン!

30cmも引き上げないうちに、嫌な音がする。

いや、仔実装が財布を落としたわけではない。
完全に俺のミスだ、釣り糸の先から仔実装が抜け落ちてしまったのだ。
釣り師などと言いながら、この肝心なときに何というミスを…

それでも仔実装は財布を放していない。
太ももの辺りまで糞に埋まりながらも、財布はしっかりと抱えたままだ。

どうする?
2匹目を下ろして財布を受け取らせ、その後であいつを救出するしかないか…
面倒だが仕方がない。これだけ頑張ってくれた仔実装を便槽の中に
置き去りにするわけにもいくまい。

『テッ!?』「!?」

次の瞬間、糞尿の表面が大きく揺れ、仔実装の下半身がすっかり糞に埋まった。

慌てて便槽の様子を窺うと———

仔実装から1m半ほど先に、三角のヒレのようなものが突き出ている。
それがスーッと滑るように仔実装へと向かって行く。

…あれは…一体何だ?

いや、それどころじゃない!

「仔実装!」

『テエッ?』

「財布を放せ!」

あいつの狙いはおそらく仔実装だ。
このままでは俺の財布まで巻き添えになってしまうじゃないか!

『テ!? 禿は嫌テチ!裸は嫌テチ!』

しかし、仔実装は千切れんばかりに首を振り、
それが命綱であるかのように財布を強く抱きしめた。
マズイ、先ほどの脅しが効き過ぎている。

仔実装から20cmほどの距離まで近づいたヒレのようなものは、
まるで鮫みたいに仔実装の周りをグルグルと回りだした。

「頼む!財布を放せえええっ!!」

『テ…テチャー!!』

『に、逃げるデスー!!』

『テ

ガポッ、という音と共に仔実装の姿は糞尿の下に消えた。

そして次の瞬間、財布を抱えたままの仔実装が糞面から勢いよく突き上がる。

だが、その下半身は片耳のない実装石にすっかり呑み込まれていた。

『テチャ!助けてテチー!』
『デスー!ニンゲンさん、あの仔を助けて下さいデスゥー!』

仔実装の下半身をすっかり呑み込んだ、片耳しかない実装石…
でかい…頭だけしか見えないが、おそらく80cm以上ある。

悪さをした実装石が片耳を焼き潰され、この便槽に放り込まれたのだろうか?
それが、外敵のいない、餌の豊富なこの環境に適応してこれ程までに大きくなった、
そんなところか…こいつは…まさに、ここの”ヌシ”だ。

『止めろデス!ワタシの仔を喰うなデスー!』

親実装の叫びも空しく、ヌシはじわじわと仔実装を呑み込んでいく。

一気に食い千切らないのは、俺と親実装に見せ付けるためかと思ったのだが、
どうやら軟らかいものばかり食べているため、すっかりアゴも歯も退化しているようだ。

『助けてテチ!食べられちゃうテチー!』
ヌシの口が大きく開かれ、仔実装が胸まで呑み込まれる。

『痛いテチィ!ニンゲンさん、助けてテチ!助けてテチィイイ!』
再びヌシの口が開かれると、今度は首まで。

『死にたくないテチィイイイ!ママー!ママー!マ
三度目にヌシの口が開かれると、仔実装はその悲鳴ごと呑み込まれてしまった。
よりにもよって俺の財布を抱えたまま…

『デフフフフフフ』

ヌシは俺たちを馬鹿にしたように笑うと、悠然と糞尿の中へ姿を消した。






『…もったいないデスゥ』

大きな釣り針にかけられたショウガ焼きを物欲しそうに見つめながら
親実装がつぶやく。

「おまえの仔と交換してやろうか?
  生きた餌の方が食いつきも良さそうだし」

『デ…デデエエッ!』
『テ、テェエエーン』

意地悪く笑いながら仔実装を指差すと、親実装は慌てて仔を背にかばう。

本気にするなよ…
その気があれば問答無用で仔を取り上げてるってば。
まあ、生きた餌の方が良さそうってのは本音だが。


とにかく準備は整った。両手には防水性の革グローブをはめたし、
たぐった分の釣り糸をかけておくための仕掛けも用意した。
この限られたスペースでは釣竿もリールも使えないので仕方がない。


きつい匂いの充満した、暗い便槽の中でヤツが獲物を感知するには
振動を感じ取るより他にないはずだ。
音、というのも考えたのだが、先ほどの仔実装の悲鳴は
随分と反響していたように思える。やはり、振動が本命だろう。

垂らした糸を上下に揺らし、糞尿の表面を餌で叩き始める。
………これで駄目だったらホントに仔実装を使おうかなあ…

ガポッ…

杞憂だった。
数秒後、何の前触れも無しに餌が糞の中に引きずり込まれる。

コイツ、真下で待ってやがったのか!?
肉の味を覚えて?

一向に構わない、その方が都合がいい。
こんな場所での根競べなど願い下げだ。

1、2、3…まだ早い…10!今だ!

ヌシが完全に針を呑み込むのを待って大きく糸をたぐると、
糞面がのたうつ様に大きく揺れ出した。
その下でヌシが暴れているのがはっきりとわかる。
狙い通りに釣り針がヌシの体内に引っかかったようだ。

『ふぃっしゅおんデスゥ!』

「邪魔だからこっち来んなってば!」

興奮して寄って来た親実装を個室の外に押し返す。

もっとも、こうなればこちらのもの。
実装石の力で丈夫な釣り糸が切れるはずもない、後は取り込むだけだ、
そう思った次の瞬間、釣り糸から手ごたえが消え失せた。

慎重に糸を手繰り上げると、釣り針の先にあるのはわずかな肉片のみであった。

考えが甘かった。

実装石の身体は脆い。こんな環境で生きているヌシの身体は尚更だろう、
たとえ胃壁に針がかかったところで、ヌシ自身の重さに耐え切れず、
針のかかった部分の肉が裂けてしまうのだ。

『駄目だったデス?』

「ああ…」

これでは釣り上げることは不可能だ。財布はあきらめるしかない…






俺は失意に打ちのめされながらも、車の中を漁っていた。
実装石親仔に食い物をやるためだ。

作戦は失敗だったが、あの親仔はよく協力してくれたし、家族も失った。
成功報酬は無しでも、慰謝料として幾らかの食い物はやりたい。

えーと、トランクの中に乾パンもあったような気がするんだが…
うわ、洗車道具積みっぱなしだよ。ホースの中に水残ってたりしないだろうな。

…ホース?

……これだ!これなら、いける!



『テェエーン、テェエーン』

緑の実装服を便槽の中へと下ろして行く。
今度は釣り糸ではなく、ホースの先で揺れている。

『…!…!』

ちなみに親実装はうるさいので、縛りつけた上に猿轡もかませてある。

『テェエエーン、テェエエーン』

糞尿の海が近づくにつれ、仔実装の泣き声が更に大きくなる。

『テェエエエーーン、テェエエーーン』

いよいよ糞尿の海に下ろされた。

ガポッ…

やはりヌシは今度も真下で待ち構えていた。

『テェエエエエーーーン、テェエエエエーーーン』

いよいよ実装服が完全に糞尿の中に引きずり込まれると、
仔実装の泣き声は最高潮に達した。
もう咽も裂けよとばかりに、あらん限りの力で泣いている。

俺のすぐ横で。

実装服の中身は仔実装ではない。

4リットルサイズのビニールバッグを丸めて詰め込んだものだ。
その口をホースにかぶせて針金で縛りつけ、
ホースのもう一方は洗面台の蛇口にはめてある。

化け物退治のお約束、”喰わせてドッカン”というヤツだ。
まあ、爆発させるわけじゃないが。


『デフフフフフフフフフ』

ヌシが完全にビニールバッグを呑み込んだのを確認して、水道の蛇口を捻る。
胃袋の中で膨らんだビニールバッグが釣り針の代わりになる。
そして、これなら釣り針と違って外れようがない。

ヌシが必死になって暴れているのがホース越しに感じられ、
糞尿の海も激しく波打っている。

だが無駄だ。洗車用の耐圧ホースは普通のホースより細いが、
その強度ははるかに上だ。
実装石ごときの力でどうこうできる代物ではない。

しばらくすると、ヌシの動く気配はすっかりなくなったが、
糸にはしっかりとその重さが感じられる。

慎重にヌシの巨体を引き上げる。
本来の重さよりも水4リットル分も重くなっていることもあり、結構キツイ。

ヌシの頭はどうにか便器の穴をくぐったが、膨らみきった胴体がつかえる。
もっとも、これは計算済みのこと。

『デフッ!』

背骨に絡めるように手カギを打ち込み、ペンチでホースをちょん切り、
徐々にヌシの身体が萎んでゆくのに合わせて、便器の穴から引き上げて行く。

俺は見事にヌシを釣り上げたのだ。






釣り上げたヌシは苦しそうにデスデスと呻いている。
すっかり便槽での生活に適応して、もう空気中では生きて行けないのだろうか?
実際、四肢は妙に長く平べったくなっていて、まるでボートのオールのようだ。
これでは自力で立つことすら出来まい。

それにしても…臭い。
もういい加減、このボットン便所の匂いにも慣れたつもりだったが、
こいつは相当に臭い。

『仔を返せデス!仔の服を返せデス!』

「ほら、急いでこいつの腹から出さないと、ホントに服が駄目になるぞ?」

『でも、でもデスゥ!』

「それに、最初の仔だってまだ生きているかもしれないんだから、
 邪魔せずにそっちで大人しくしてろ、な?」

汚れるのも構わずに、ヌシの身体をポカポカと殴りつける親実装を
なだめて引き剥がすのは一苦労だった…



ヌシの身体を洗い流し、いよいよ腹を切り開くと、
半分以上溶かされた仔実装の死体がゴロリと転がり出た。
しっかりと財布を抱えたままだ。死んでも財布を放さなかったのか…

膨らんだビニールバッグが財布をヌシの体外へ押し出してしまうのが
唯一の不安だったが、こいつのおかげで最悪の事態を免れたらしい。
だが残念なことに、彼女の執念にも関わらず、髪と服はほとんど溶け落ち、
原形をとどめていない。

ビニールバッグを膨らませると実装服が押し上げられるように
細工しておいたのだが、それでも2匹目の仔実装の服はボロボロになっていた。
ただ、実装服は所有者に合わせて成長するものらしいので、
仔実装のものならば成体になる頃には回復しているだろう。

うん、回復するといいなあ…

ざっと水洗いして財布の中身を確認したところ、カード類の数は揃っている。
紙幣も洗って乾かせばどうにかなるだろう。



『…テェ…テエッ…テヒッ、テヒッ…』

服をボロボロにされた仔実装は大きな板チョコに噛り付きながら
すすり泣いている。そりゃ、泣きたくもなるよなあ。

『……ニンゲンさん、ありがとうデス…』

拘束を解き、ありったけの食料をやると、親実装はペコリと俺にお辞儀をした。
この賢い親実装が俺の仕打ちを忘れるはずもない、
人間に逆らっても無駄だとわかっているのだろう。

仔実装たちには気の毒だが、何のかんの言ったとことろで
俺には無事に財布を回収できたことの喜びの方がデカイ。

そのはずなのに、この胸にわだかまるモヤモヤ感は何なのだろう?

まあ、いいさ。

違和感を打ち消すように首を振り、俺はボットン便所を後にした。












車のドアに手をかけたとき、モヤモヤが更に大きくなっていることに気づく。

やはり、何かが違う。

何かがおかしい。

何か間違っていないだろうか?

大きく深呼吸をして冷静に考えてみよう。

この違和感は何なのだろう…



しばらくして、自分が犯した大きな過ちにやっと気づいた。

あれは化け物ではなく”ヌシ”なのだ。

そして、数多の釣り漫画、小説、映画やドラマでも
ヌシとの死闘のラストは”リリース”と相場が決まっている。
もちろん、そうでない場合も少なくはない。
だが、俺は前者の方が断然好きだ。

急いでボットン便所へ引き返す。



『デ?ニンゲンさん、どうしたデス?』
『テヒッ、テヒッ…テェ…テヒッ?』

まだいたのか、お前ら…仔実装もまだ泣いてるし…

いや、こいつらの相手をしている暇はない。
返事もせずにヌシに駆け寄る。

だが、ヌシはピクリとも動く様子はなく、その双眸からは完全に色が失われていた。

死んでいる……

…仕方ない!

代用品で何とかしよう!

『デ?デデエエエエ!?』

『テヒッ、テヒッ…テェ…テェエエエ!?』

板チョコに噛り付いていた仔実装をつまみ上げ、
そのまま便槽の中に放り込む。

『テ…テ…テ、テ、テ?……テ…テ、テェエエエーン、テェエエエーーーン、テェエエエーーーン』

キョロキョロと周囲を見渡し、ようやく自分の置かれた状況を理解した仔実装が
大声で泣き出した。

「立派なヌシになれよっ!!」



『デジャアアアアアア!!』

便槽の新たなヌシとなった我が仔に必死で呼びかける親実装に背を向け、
今度こそ俺は清々しい気分でボットン便所を後にした。




(終)

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